騎馬隊は、バラモン軍の武将・片彦の一隊であった。照国別一行は、彼らがイソ館への進軍の先鋒隊だと聞いてなんとか追い返そうと思案をめぐらした。
照国別は声も涼しく宣伝歌を歌い始めた。その言霊に打たれて、早くも騎馬隊の四五人は馬首をめぐらし躊躇の色が見え始めた。片彦は味方に叱咤し、今こそ三五教の宣伝使を打ち倒す時だと活を入れた。
照国別に襲い来る騎馬武者たちを見かねて、岩彦は金剛杖を振り回して突撃し、馬の足を殴り倒した。二騎が落馬し、騎馬隊は一目散に逃げ散った。岩彦は敵の馬を奪い、騎馬隊を追いかけて行ってしまった。
照国別は泰然として宣伝歌を歌っていたが、照公、梅公とともに岩彦が打ち落とした敵の騎馬武者二名を介抱し始めた。二人はたちまち回復すると、照国別一行に命乞いを始めた。
照国別は、バラモン教の騎馬武者ケーリスとタークスを自分の弟子となし安堵させると、清春山への使いを頼み、その後はイソ館に行って修業をなすよう諭し、手紙を託して送り出した。
一方、片彦の一隊を追って行った岩彦は、バラモン教の援軍に攻められて身体一面に矢を受け、瀕死の重傷を負って地面に転落してしまった。片彦と釘彦が岩彦の首を取ろうとしたとき、どこからともなく唐獅子の大群が現れた。
巨大な獅子の背にまたがった大男の眉間から強烈な神光が発射され、その勢いにバラモン軍は散り散りに逃げてしまった。
岩彦が気が付いてその神人を見上げると、それは時置師神・杢助であった。岩彦は驚きかつ喜び、杢助にお礼を述べた。
杢助は笑って岩彦の乱暴をいさめると、一頭の大きな唐獅子を岩彦に託し、ライオン河を渡って黄金姫・清照姫の遭難を救うように命じて姿を隠してしまった。実は木花姫命が杢助の姿を借りて、岩彦を助けたのであった。
このときから岩彦の姿は透き通って鼈甲のようになっていた。岩彦は文殊菩薩となり、獅子の助けによって月の国の諸所に縦横無尽に変幻出没し、三五教の神軍を助けることになった。