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第66巻(巳の巻)
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第40巻(卯の巻)
序文に代へて
緒言
総説
第1篇 恋雲魔風
01 大雲山
〔1085〕
02 出陣
〔1086〕
03 落橋
〔1087〕
04 珍客
〔1088〕
05 忍ぶ恋
〔1089〕
第2篇 寒梅照国
06 仁愛の真相
〔1090〕
07 文珠
〔1091〕
08 使者
〔1092〕
09 雁使
〔1093〕
第3篇 霊魂の遊行
10 衝突
〔1094〕
11 三途館
〔1095〕
12 心の反映
〔1096〕
13 試の果実
〔1097〕
14 空川
〔1098〕
第4篇 関風沼月
15 氷嚢
〔1099〕
16 春駒
〔1100〕
17 天幽窟
〔1101〕
18 沼の月
〔1102〕
19 月会
〔1103〕
20 入那の森
〔1104〕
余白歌
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第一五章
氷嚢
(
ひようなう
)
〔一〇九九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻
篇:
第4篇 関風沼月
よみ(新仮名遣い):
かんぷうしょうげつ
章:
第15章 氷嚢
よみ(新仮名遣い):
ひょうのう
通し章番号:
1099
口述日:
1922(大正11)年11月04日(旧09月16日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年5月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
照国別の主従一行は岩彦のありかを訪ねたが見いだせず、テームス山を登りつめて山頂の関所に着いた。ここは大黒主の命によって春公、雪公、紅葉ほか二人が名ばかりの関守をやっている。
大酒をあおって大地に倒れ、酔いざめの風邪をひいては熱をだしている。春公は熱を出しながらも、酔って一同馬鹿話に時を費やしていた。
そこへ照国別一行がやってきて、春公が病んでいることを知ると、関所の中へ入ってきて鎮魂を始めた。春公は咳をすると小さな百足が飛び出した。百足は見る間に五六尺の大百足となると、一目散に逃げて行った。
春公は熱が下がり、身体は元のとおりに治ってしまった。春公は命を救われたことに感謝し、心から悔い改めた。そして照国別に従い、案内役として月の国に供をすることになった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-12-03 11:18:58
OBC :
rm4015
愛善世界社版:
197頁
八幡書店版:
第7輯 490頁
修補版:
校定版:
203頁
普及版:
91頁
初版:
ページ備考:
001
照国別
(
てるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
002
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
003
教
(
をしへ
)
を
四方
(
よも
)
に
伝
(
つた
)
へつつ
004
月
(
つき
)
の
都
(
みやこ
)
にバラモンの
005
教
(
をしへ
)
を
開
(
ひら
)
き
世
(
よ
)
を
乱
(
みだ
)
す
006
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
神司
(
かむづかさ
)
を
007
三五教
(
あななひけう
)
の
御教
(
みをしへ
)
に
008
言向和
(
ことむけやは
)
し
照国
(
てるくに
)
の
009
尊
(
たふと
)
き
御代
(
みよ
)
と
立直
(
たてなほ
)
し
010
一切
(
いつさい
)
衆生
(
しゆじやう
)
の
身魂
(
みたま
)
をば
011
救
(
すく
)
はむものと
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
ち
012
険
(
けは
)
しき
山
(
やま
)
を
打渉
(
うちわた
)
り
013
荒野
(
あらの
)
ケ
原
(
はら
)
を
踏
(
ふ
)
み
越
(
こ
)
えて
014
岩彦
(
いはひこ
)
、
照公
(
てるこう
)
、
梅公
(
うめこう
)
の
015
三人
(
みたり
)
と
共
(
とも
)
にクルスの
森
(
もり
)
016
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
りて
疲
(
つか
)
れをば
017
休
(
やす
)
むる
折
(
をり
)
しも
向
(
むか
)
ふより
018
イソの
館
(
やかた
)
に
攻
(
せ
)
め
上
(
のぼ
)
る
019
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
一部隊
(
いちぶたい
)
020
片彦
(
かたひこ
)
、
久米彦
(
くめひこ
)
両将
(
りやうしやう
)
が
021
先頭
(
せんと
)
に
立
(
た
)
ちて
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る
022
此
(
こ
)
は
一大事
(
いちだいじ
)
と
一行
(
いつかう
)
は
023
森
(
もり
)
の
茂
(
しげ
)
みに
身
(
み
)
をかくし
024
敵
(
てき
)
の
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
へば
025
大胆
(
だいたん
)
不敵
(
ふてき
)
の
命令
(
めいれい
)
を
026
采配
(
さいはい
)
振
(
ふ
)
つて
号令
(
がうれい
)
する
027
それの
態度
(
たいど
)
の
忌々
(
ゆゆ
)
しさに
028
照国別
(
てるくにわけ
)
は
木影
(
こかげ
)
より
029
声
(
こゑ
)
張
(
は
)
りあげて
宣伝歌
(
せんでんか
)
030
涼
(
すず
)
しく
清
(
きよ
)
く
宣
(
の
)
りつれば
031
敵
(
てき
)
は
驚
(
おどろ
)
き
照国
(
てるくに
)
の
032
別
(
わけ
)
の
命
(
みこと
)
に
四方
(
しはう
)
より
033
攻
(
せ
)
めかけ
来
(
きた
)
る
猪口才
(
ちよこざい
)
さ
034
無抵抗
(
むていかう
)
主義
(
しゆぎ
)
の
三五
(
あななひ
)
の
035
教
(
をしへ
)
を
伝
(
つた
)
ふる
神司
(
かむづかさ
)
036
善言
(
ぜんげん
)
美詞
(
びし
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
037
成
(
な
)
るべくならば
言向
(
ことむ
)
けて
038
悔悟
(
くわいご
)
させむと
思
(
おも
)
へども
039
暴逆
(
ばうぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
敵軍
(
てきぐん
)
は
040
何
(
なん
)
の
容赦
(
ようしや
)
も
荒風
(
あらかぜ
)
の
041
吹
(
ふ
)
きまくる
如
(
ごと
)
迫
(
せま
)
り
来
(
く
)
る
042
正当
(
せいたう
)
防衛
(
ばうゑい
)
と
云
(
い
)
ひながら
043
清春山
(
きよはるやま
)
より
現
(
あら
)
はれし
044
岩彦司
(
いはひこつかさ
)
は
杖
(
つゑ
)
を
振
(
ふ
)
り
045
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
敵軍
(
てきぐん
)
に
046
阿修羅
(
あしゆら
)
の
如
(
ごと
)
く
打込
(
うちこ
)
めば
047
負傷者
(
ふしやうしや
)
を
残
(
のこ
)
し
馬
(
うま
)
を
棄
(
す
)
て
048
皆
(
みな
)
散々
(
さんざん
)
に
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く
049
照国別
(
てるくにわけ
)
は
敵軍
(
てきぐん
)
の
050
手傷
(
てきず
)
を
負
(
お
)
ひて
倒
(
たふ
)
れたる
051
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
を
介抱
(
かいほう
)
し
052
信書
(
しんしよ
)
を
認
(
したた
)
め
清春
(
きよはる
)
の
053
醜
(
しこ
)
の
岩窟
(
いはや
)
を
守
(
まも
)
り
居
(
ゐ
)
る
054
ポーロ
司
(
つかさ
)
を
戒
(
いまし
)
めつ
055
イソの
館
(
やかた
)
に
三五
(
あななひ
)
の
056
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
を
学
(
まな
)
ぶべく
057
遣
(
つか
)
はしやりて
照
(
てる
)
、
梅
(
うめ
)
の
058
二人
(
ふたり
)
と
共
(
とも
)
に
駒
(
こま
)
に
乗
(
の
)
り
059
轡
(
くつわ
)
を
並
(
なら
)
べてシトシトと
060
テームス
山
(
ざん
)
にさしかかる
061
折
(
をり
)
から
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
凩
(
こがらし
)
の
062
風
(
かぜ
)
に
面
(
おもて
)
を
吹
(
ふ
)
かれつつ
063
これぞ
尊
(
たふと
)
き
神風
(
かみかぜ
)
と
064
勇気
(
ゆうき
)
日頃
(
ひごろ
)
に
百倍
(
ひやくばい
)
し
065
蹄
(
ひづめ
)
の
音
(
おと
)
も
戞々
(
かつかつ
)
と
066
険
(
けは
)
しき
坂
(
さか
)
を
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
067
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
068
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ。
069
照国別
(
てるくにわけ
)
は
岩彦
(
いはひこ
)
の
所在
(
ありか
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
070
彼
(
かれ
)
が
行衛
(
ゆくゑ
)
を
求
(
もと
)
めて、
071
森
(
もり
)
の
小蔭
(
こかげ
)
や
薄原
(
すすきばら
)
隈
(
くま
)
なく
探
(
さぐ
)
り、
072
一行
(
いつかう
)
は
漸
(
やうや
)
くにしてテームス
山
(
ざん
)
を
登
(
のぼ
)
りつめ、
073
頂上
(
ちやうじやう
)
の
関所
(
せきしよ
)
に
着
(
つ
)
いた。
074
ここには
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
命
(
めい
)
を
奉
(
ほう
)
じて
春公
(
はるこう
)
、
075
雪公
(
ゆきこう
)
、
076
紅葉
(
もみぢ
)
他
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
が
小
(
ちひ
)
さな
庵
(
いほり
)
を
構
(
かま
)
へて
名
(
な
)
ばかりの
関守
(
せきもり
)
をやつてゐる。
077
大酒
(
おほざけ
)
を
煽
(
あふ
)
つては
大地
(
だいち
)
に
倒
(
たふ
)
れ、
078
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれ
酔醒
(
よひざ
)
めの
風
(
かぜ
)
を
引
(
ひ
)
いては
熱
(
ねつ
)
を
出
(
だ
)
し、
079
手拭
(
てぬぐひ
)
で
鉢巻
(
はちまき
)
をしながら
狐
(
きつね
)
の
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
の
様
(
やう
)
な
百日咳
(
ひやくにちぜき
)
に
悩
(
なや
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
080
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
もコンコンカンカンの
言霊
(
ことたま
)
の
競争
(
きやうそう
)
をやつて
居
(
ゐ
)
た。
081
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
を
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
すのは、
082
磐若湯
(
はんにやたう
)
に
限
(
かぎ
)
ると
云
(
い
)
ふので
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
をしながら、
083
酒
(
さけ
)
の
勢
(
いきほひ
)
で
昼夜
(
ひるよる
)
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
と
競争
(
きやうそう
)
をやり、
084
薬鑵
(
やくわん
)
から
熱
(
ねつ
)
を
出
(
だ
)
し
汗
(
あせ
)
をタラタラと
流
(
なが
)
しながら
格闘
(
かくとう
)
してゐる
真最中
(
まつさいちう
)
であつた。
085
春公
(
はるこう
)
『ウンウン、
086
痛
(
いた
)
い
痛
(
いた
)
い、
087
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
の
奴
(
やつ
)
、
088
暴威
(
ばうゐ
)
を
逞
(
たくま
)
しうしやがつて、
089
此
(
この
)
春
(
はる
)
さまの
頭蓋骨
(
づがいこつ
)
を
鉄鎚
(
かなづち
)
でカンカンと
殴
(
なぐ
)
りやがるやうな
痛
(
いた
)
さだ。
090
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
へは
狐
(
きつね
)
でも
這入
(
はい
)
りやがつたと
見
(
み
)
えて、
091
コンコンと
吐
(
ぬか
)
すなり、
092
テームス
山
(
ざん
)
の
関守
(
せきもり
)
も
中
(
なか
)
から
斯
(
か
)
う
咳
(
せき
)
が
出
(
で
)
ては
副守
(
ふくしゆ
)
の
奴
(
やつ
)
、
093
関守
(
せきもり
)
に
早変
(
はやがは
)
りしやがつたと
見
(
み
)
える。
094
本当
(
ほんたう
)
に
咳
(
せき
)
がチツとやソツとぢやない、
095
痰
(
たん
)
と
出
(
で
)
やがつた。
096
アハヽヽヽイヒヽヽヽ、
097
痛
(
いた
)
い
痛
(
いた
)
い、
098
こりや
雪公
(
ゆきこう
)
、
099
一
(
ひと
)
つ
天眼通
(
てんがんつう
)
で
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
の
正体
(
しやうたい
)
を
透視
(
とうし
)
してくれないか』
100
雪公
(
ゆきこう
)
『あまり
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
つて
寒風
(
かんぷう
)
にあたると
凍死
(
とうし
)
するものだ。
101
何卒
(
どうぞ
)
凍死
(
とうし
)
してくれと
云
(
い
)
つても、
102
俺
(
おれ
)
は
凍死
(
とうし
)
ばかりは
御免
(
ごめん
)
だ。
103
それよりも
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
生
(
いき
)
とほし
になりたいからなア』
104
春公
『こりや、
105
貴様
(
きさま
)
も
余程
(
よほど
)
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
唐変木
(
たうへんぼく
)
だな。
106
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
透視
(
とうし
)
と
云
(
い
)
ふのは、
107
そんな
怪体
(
けつたい
)
の
悪
(
わる
)
い
凍死
(
とうし
)
ぢやないわい。
108
腹
(
はら
)
の
底
(
そこ
)
まで
何
(
なに
)
が
憑
(
つ
)
いて
居
(
を
)
るか
透視
(
とうし
)
してくれと
云
(
い
)
ふのだ。
109
アイタヽヽヽオイ
早
(
はや
)
く
透視
(
とうし
)
せぬかい』
110
雪公
『おれは
雪
(
ゆき
)
さまだから、
111
あまり
雪
(
ゆき
)
さまばかりに
溺
(
おぼ
)
れて
居
(
を
)
ると
凍死
(
とうし
)
する
虞
(
おそれ
)
があるぞ。
112
貴様
(
きさま
)
の
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
を
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
ると
大変
(
たいへん
)
な
腹通
(
はらとほ
)
しだ。
113
上
(
あ
)
げる
下
(
くだ
)
す、
114
まるで
此
(
この
)
テームス
峠
(
たうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
の
関守
(
せきもり
)
には
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
いだ。
115
貴様
(
きさま
)
も
生命
(
いのち
)
の
大峠
(
おほたうげ
)
が
来
(
き
)
たのだから、
116
これ
迄
(
まで
)
の
因縁
(
いんねん
)
と
諦
(
あきら
)
めて
潔
(
いさぎよ
)
く
成仏
(
じやうぶつ
)
せい。
117
風声
(
ふうせい
)
鶴唳
(
かくれい
)
にもド
肝
(
ぎも
)
を
冷
(
ひや
)
し
微躯
(
びく
)
付
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
な
関守
(
せきもり
)
では
到底
(
たうてい
)
生存
(
せいぞん
)
の
価値
(
かち
)
がない。
118
よい
加減
(
かげん
)
に
娑婆塞
(
しやばふさ
)
ぎは
冥土
(
めいど
)
参
(
まゐ
)
りした
方
(
はう
)
が
社会
(
しやくわい
)
の
為
(
ため
)
だからなア』
119
春公
『こりや
雪
(
ゆき
)
、
120
貴様
(
きさま
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
冷酷
(
れいこく
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
121
ド
頭
(
あたま
)
をポカンと
ハル
公
(
こう
)
にしてやるぞ』
122
雪公
『
雪
(
ゆき
)
と
云
(
い
)
ふものは
火
(
ひ
)
のやうに
温
(
あたた
)
かいものでも、
123
熱
(
あつ
)
いものでもない。
124
冷酷
(
れいこく
)
なのが
当
(
あた
)
り
前
(
まへ
)
だ。
125
冷然
(
れいぜん
)
として
人
(
ひと
)
の
病躯
(
びやうく
)
を
冷笑
(
れいせう
)
するのが
雪
(
ゆき
)
さまの
特性
(
とくせい
)
だ。
126
然
(
しか
)
しそれだけ
熱
(
ねつ
)
があつては
貴様
(
きさま
)
も
堪
(
たま
)
るまい。
127
氷嚢
(
ひようなう
)
の
代
(
かは
)
りに
此
(
この
)
雪公
(
ゆきこう
)
さまの
冷
(
つめ
)
たい
尻
(
けつ
)
を
貴様
(
きさま
)
の
薬鑵頭
(
やくわんあたま
)
に
載
(
の
)
せてやらうか。
128
さうすれば、
129
少
(
すこ
)
しは
熱
(
ねつ
)
が
減退
(
げんたい
)
するかも
知
(
し
)
れないぞ』
130
春公
『
斯
(
か
)
う
熱
(
ねつ
)
が
高
(
たか
)
うては
仕方
(
しかた
)
がない。
131
貴様
(
きさま
)
の
尻
(
けつ
)
で
俺
(
おれ
)
の
熱
(
ねつ
)
が
下
(
さが
)
る
事
(
こと
)
なら
臭
(
くさ
)
うても
幸抱
(
しんぼう
)
せうかい』
132
雪公
『よし、
133
時々
(
ときどき
)
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
くかも
知
(
し
)
れぬが、
134
前
(
まへ
)
以
(
もつ
)
てお
断
(
ことわ
)
りを
云
(
い
)
うておく』
135
と
云
(
い
)
ひながら
冷
(
つめ
)
たい
尻
(
しり
)
をまくつて
春公
(
はるこう
)
の
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
にドツカと
載
(
の
)
せた。
136
雪公
(
ゆきこう
)
『おい、
137
随分
(
ずゐぶん
)
冷
(
つめた
)
い
尻
(
けつ
)
だらう。
138
血
(
ち
)
も
涙
(
なみだ
)
もない
冷
(
れい
)
ケツ
動物
(
どうぶつ
)
だから……
熱病
(
ねつびやう
)
の
対症
(
たいしやう
)
療法
(
れうほふ
)
には
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
いだ。
139
実
(
じつ
)
に
ケツ
構
(
こう
)
な
療治法
(
れうぢほふ
)
だ、
140
アハヽヽヽ』
141
春公
(
はるこう
)
『こりや、
142
俺
(
おれ
)
の
鼻
(
はな
)
の
上
(
うへ
)
に
何
(
なん
)
だか
袋
(
ふくろ
)
を
載
(
の
)
せたぢやないか。
143
冷
(
ひ
)
いやりするが、
144
怪体
(
けつたい
)
な
香
(
にほひ
)
がするぞ』
145
雪公
『これは
豚
(
ぶた
)
の
氷嚢
(
ひようなう
)
代理
(
だいり
)
に
睾嚢
(
きんなう
)
を
張
(
は
)
り
込
(
こ
)
んでやつたのだ。
146
イヒヽヽヽ』
147
春公
『あゝ
苦
(
くる
)
しい、
148
重
(
おも
)
たいわい。
149
チツと
重量
(
ぢうりやう
)
を
軽減
(
けいげん
)
する
様
(
やう
)
に
中腰
(
ちうごし
)
になつてくれないか』
150
雪公
『
雪隠
(
せんち
)
の
またげ
穴
(
あな
)
をふん
張
(
ば
)
つたやうな
調子
(
てうし
)
で
中心
(
ちうしん
)
を
保
(
たも
)
つて
居
(
を
)
るのだから
重
(
おも
)
たい
筈
(
はず
)
はない。
151
熱病
(
ねつびやう
)
と
云
(
い
)
ふものは
頭
(
あたま
)
の
重
(
おも
)
いものだ。
152
おもひおもひにお
神徳
(
かげ
)
をとつたが
宜
(
よ
)
からうぞ。
153
(
義太夫
(
ぎだいふ
)
)あゝ
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
前
(
さき
)
の
世
(
よ
)
で
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
の
罪悪
(
ざいあく
)
を、
154
やつて
来
(
き
)
たのか
知
(
し
)
らねども、
155
そりや
人間
(
にんげん
)
の
知
(
し
)
らぬ
事
(
こと
)
、
156
現在
(
げんざい
)
テームス
山
(
ざん
)
の
関守
(
せきもり
)
を
仰
(
あふ
)
せ
付
(
つ
)
けられながら、
157
其
(
その
)
職責
(
しよくせき
)
を
完
(
まつた
)
うせず、
158
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
、
159
小糸姫
(
こいとひめ
)
を
知
(
し
)
つて
見逃
(
みのが
)
した
其
(
その
)
天罰
(
てんばつ
)
が
報
(
むく
)
い
来
(
きた
)
つて、
160
今
(
いま
)
ここに
臆病風
(
おくびやうかぜ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
襲
(
おそ
)
はれたるか、
161
いぢらしやア……
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
とは
しり
ながら、
162
しり
のつぼめが
合
(
あ
)
はぬよな、
163
しり
滅裂
(
めつれつ
)
の
報告
(
はうこく
)
が、
164
如何
(
どう
)
してハルナの
神館
(
かむやかた
)
に、
165
鎮
(
しづ
)
まりゐます
大黒主
(
おほくろぬし
)
に、
166
致
(
いた
)
されうか……
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
されバラモン
天王
(
てんわう
)
様
(
さま
)
、
167
お
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
すと
計
(
ばか
)
りにて、
168
コンコンコンとせき
上
(
あ
)
げて、
169
苦
(
くる
)
し
涙
(
なみだ
)
にくれにける。
170
シヤシヤ シヤン シヤン シヤン』
171
春公
『ウンウンウン、
172
こら
雪公
(
ゆきこう
)
、
173
そんな
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
どこかい。
174
俺
(
おれ
)
や、
175
もう
生命
(
いのち
)
の
ゆき
つまりだ。
176
もちとシツカリ
尻
(
しり
)
をあててくれぬかい』
177
雪公
『(
義太夫
(
ぎだいふ
)
)「
ゆき
つ、
178
戻
(
もど
)
りつ、
179
とつおいつ、
180
又
(
また
)
もや
咳
(
せき
)
の
声
(
こゑ
)
すれば、
181
これがお
声
(
こゑ
)
の
聞
(
き
)
きをさめと……
思
(
おも
)
へば
弱
(
よわ
)
る
後
(
うしろ
)
が……み……
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
も
近
(
ちか
)
づきて、
182
無情
(
むじやう
)
の
風
(
かぜ
)
は
非時
(
ときじく
)
に、
183
吹
(
ふ
)
き
荒
(
すさ
)
ぶこそ
哀
(
あは
)
れなり、
184
トテチン トテチン トツトツチン、
185
テンテン」いやもう
瀕死
(
ひんし
)
の
病人
(
びやうにん
)
に
対
(
たい
)
し
応急
(
おうきふ
)
療法
(
れうほふ
)
も
最早
(
もはや
)
駄目
(
だめ
)
だ。
186
お
前
(
まへ
)
の
一生
(
いつしやう
)
も
最早
(
もはや
)
けつ
末
(
まつ
)
がついた。
187
けつ
して
決
(
けつ
)
して
娑婆
(
しやば
)
に
執着心
(
しふちやくしん
)
を
残
(
のこ
)
し、
188
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
うて
来
(
き
)
てはならぬぞ。
189
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
目
(
め
)
が
届
(
とど
)
かぬと
思
(
おも
)
うて
慢心
(
まんしん
)
を
致
(
いた
)
し、
190
神
(
かみ
)
を
尻敷
(
しりし
)
きにした
天罰
(
てんばつ
)
で、
191
此
(
この
)
清明
(
せいめい
)
無垢
(
むく
)
の
雪
(
ゆき
)
のやうな
身魂
(
みたま
)
の
雪
(
ゆき
)
さまに
尻敷
(
しりし
)
きにしられるのだ。
192
因果
(
いんぐわ
)
応報
(
おうはう
)
、
193
罰
(
ばつ
)
は
覿面
(
てきめん
)
、
194
憐
(
あは
)
れなりける
次第
(
しだい
)
なり。
195
エヘヽヽヽ』
196
紅葉
(
もみぢ
)
『こりや
雪
(
ゆき
)
、
197
貴様
(
きさま
)
は
俺
(
おれ
)
が
最前
(
さいぜん
)
から
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば、
198
春公
(
はるこう
)
さまに
対
(
たい
)
し
親切
(
しんせつ
)
にして
居
(
を
)
るのか、
199
不親切
(
ふしんせつ
)
にして
居
(
を
)
るのか、
200
或
(
あるひ
)
は
介抱
(
かいほう
)
するのか、
201
虐待
(
ぎやくたい
)
するのか、
202
テンと
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬぢやないか』
203
雪公
(
ゆきこう
)
『かう
ゆき
つまつた
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
、
204
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬのはあたり
前
(
まへ
)
だ。
205
俺
(
おれ
)
は
ゆき
つまつた
社会
(
しやくわい
)
の
反映
(
はんえい
)
だから、
206
これで
普通
(
ふつう
)
だよ。
207
親切
(
しんせつ
)
さうに
見
(
み
)
せて
不親切
(
ふしんせつ
)
の
奴
(
やつ
)
もあり、
208
善
(
ぜん
)
の
仮面
(
かめん
)
を
被
(
かぶ
)
つて
悪
(
あく
)
を
行
(
おこな
)
ふ
奴
(
やつ
)
もあり、
209
人
(
ひと
)
を
助
(
たす
)
けてやらうと
云
(
い
)
つて
甘
(
うま
)
くチヨロまかし、
210
其
(
その
)
実
(
じつ
)
人
(
ひと
)
は
死
(
し
)
なうが
倒
(
たふ
)
れやうが
吾
(
われ
)
不関
(
かんせず
)
焉
(
えん
)
だ。
211
自分
(
じぶん
)
さへ
甘
(
うま
)
い
汁
(
しる
)
を
鱈腹
(
たらふく
)
吸
(
す
)
うて
自分
(
じぶん
)
が
助
(
たす
)
からうとする
奴
(
やつ
)
ばかりだ。
212
こんな
悪魔
(
あくま
)
横行
(
わうかう
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
如何
(
どう
)
して
真面目
(
まじめ
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ようか。
213
俺
(
おれ
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
だつてその
通
(
とほ
)
りだ。
214
当
(
あた
)
る
時
(
とき
)
もあれば
外
(
はづ
)
れる
事
(
こと
)
もある。
215
社会
(
しやくわい
)
の
利益
(
りえき
)
になる
事
(
こと
)
もあれば
社会
(
しやくわい
)
の
害毒
(
がいどく
)
になる
事
(
こと
)
もある。
216
それだから
善悪
(
ぜんあく
)
不二
(
ふじ
)
、
217
正邪
(
せいじや
)
一如
(
いちによ
)
と
云
(
い
)
ふのだわい。
218
オツホン』
219
紅葉
『
人
(
ひと
)
の
難儀
(
なんぎ
)
を
見
(
み
)
て
貴様
(
きさま
)
は
平気
(
へいき
)
で
居
(
ゐ
)
やがるが、
220
本当
(
ほんたう
)
に
怪
(
け
)
しからぬ
奴
(
やつ
)
ぢやないか』
221
雪公
『
貴様
(
きさま
)
何
(
なん
)
だい、
222
袖手
(
しうしゆ
)
傍観
(
ばうくわん
)
してるぢやないか。
223
貴様
(
きさま
)
こそ
本当
(
ほんたう
)
に
友人
(
いうじん
)
に
対
(
たい
)
し
冷酷
(
れいこく
)
な
代物
(
しろもの
)
だ。
224
大方
(
おほかた
)
触
(
さは
)
らぬ
神
(
かみ
)
に
祟
(
たたり
)
なしと
云
(
い
)
ふ
猾
(
づる
)
い
考
(
かんが
)
へを
持
(
も
)
つて
俺
(
おれ
)
ばつかりに
介抱
(
かいほう
)
させ、
225
さうして
善
(
ぜん
)
だの
悪
(
あく
)
だの
親切
(
しんせつ
)
だの
不親切
(
ふしんせつ
)
だのと
小言
(
こごと
)
を
垂
(
た
)
れやがるのだな。
226
尻
(
けつ
)
でも
喰
(
くら
)
つたがよいわい。
227
屁
(
へ
)
なつと
吸
(
す
)
へ』
228
紅葉
『
俺
(
おれ
)
は
貴様
(
きさま
)
等
(
たち
)
の
二人
(
ふたり
)
の
手
(
て
)
が
塞
(
ふさ
)
がつてゐるなり、
229
あと
二匹
(
にひき
)
の
奴
(
やつ
)
はズブ
六
(
ろく
)
に
酔
(
よ
)
ひやがつて
役
(
やく
)
に
立
(
た
)
たぬなり、
230
仕方
(
しかた
)
がないから
貴様
(
きさま
)
の
代
(
かは
)
りに
関守
(
せきもり
)
を
勤
(
つと
)
めて
居
(
を
)
るのだ。
231
もしも
斯
(
こ
)
んな
処
(
ところ
)
へ
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
堂々
(
だうだう
)
とやつて
来
(
き
)
よつたら
如何
(
どう
)
するのだ』
232
雪公
『そりや、
233
その
時
(
とき
)
のまた
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
くわい。
234
春公
(
はるこう
)
の
風邪
(
かぜ
)
ぢやないがコンコンと
懇談
(
こんだん
)
して
関守
(
せきもり
)
としてのベストを
尽
(
つく
)
すだけのものだ。
235
これだけ
熱
(
ねつ
)
が
多
(
おほ
)
いと
此
(
この
)
春公
(
はるこう
)
も
黒死病
(
ペスト
)
になりやせぬか
知
(
し
)
らぬて、
236
困
(
こま
)
つたものだ。
237
俺
(
おれ
)
の
尻
(
しり
)
がソロソロ
焼
(
や
)
けて
来
(
き
)
だしたぞ。
238
大変
(
たいへん
)
な
熱
(
ねつ
)
だ』
239
紅葉
『おい、
240
あんまり
貴様
(
きさま
)
が
大
(
おほ
)
きな
尻
(
しり
)
で
志士
(
しし
)
仁人
(
じんじん
)
たる
春公
(
はるこう
)
を
圧迫
(
あつぱく
)
するものだから、
241
如何
(
どう
)
やら
息
(
いき
)
が
絶
(
き
)
れたと
見
(
み
)
え、
242
呼吸
(
こきふ
)
が
止
(
と
)
まつたぢやないか』
243
雪公
『
俺
(
おれ
)
は
智慧
(
ちゑ
)
の
文珠
(
もんじゆ
)
師利
(
しり
)
菩薩
(
ぼさつ
)
だ。
244
今朝
(
けさ
)
も
文珠
(
もんじゆ
)
師利
(
しり
)
菩薩
(
ぼさつ
)
が
獅子
(
しし
)
に
乗
(
の
)
つて、
245
此処
(
ここ
)
を
大変
(
たいへん
)
な
勢
(
いきほひ
)
で
通
(
とほ
)
つたぢやないか。
246
それだから
俺
(
おれ
)
も
春公
(
はるこう
)
の
頭
(
あたま
)
に
腰掛
(
こしか
)
け、
247
尻
(
しり
)
からプン
珠利
(
しゆり
)
菩薩
(
ぼさつ
)
となつて、
248
あらゆる
最善
(
さいぜん
)
の
知識
(
ちしき
)
を
傾
(
かたむ
)
けて
治療
(
ちれう
)
に
従事
(
じうじ
)
してるのだ。
249
此
(
この
)
辛
(
から
)
い
時節
(
じせつ
)
に
薬礼
(
やくれい
)
も
貰
(
もら
)
はず、
250
これだけ
親切
(
しんせつ
)
に
介抱
(
かいほう
)
するものが
何処
(
どこ
)
にあるかい』
251
かく
話
(
はな
)
す
処
(
ところ
)
へ
関所
(
せきしよ
)
の
押戸
(
おしど
)
をポンポンと
叩
(
たた
)
くものがある。
252
紅葉
(
もみぢ
)
は
慌
(
あわ
)
てて
戸外
(
こぐわい
)
に
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し
仰
(
あふ
)
ぎ
見
(
み
)
れば
照国別
(
てるくにわけ
)
一行
(
いつかう
)
であつた。
253
照国
(
てるくに
)
『
此処
(
ここ
)
はテームス
山
(
ざん
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
関所
(
せきしよ
)
だと
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
るが、
254
関守
(
せきもり
)
の
頭
(
かしら
)
に
一寸
(
ちよつと
)
お
目
(
め
)
にかかりたい』
255
紅葉
(
もみぢ
)
『ハイ、
256
関守
(
せきもり
)
の
大将
(
たいしやう
)
は、
257
……
実
(
じつ
)
は……
今年
(
ことし
)
の
今月
(
こんげつ
)
の
始
(
はじ
)
めから……
今日
(
こんにち
)
今夜
(
こんや
)
に
至
(
いた
)
るまで
臆病風
(
おくびやうかぜ
)
を
引
(
ひ
)
きましてコンコンと
せき
をやつて
居
(
ゐ
)
ますので、
258
生憎
(
あひにく
)
こん
回
(
くわい
)
はお
目
(
め
)
にかかる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい』
259
照国別
『それは
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
事
(
こと
)
だ。
260
斯様
(
かやう
)
な
峠
(
たうげ
)
の
吹
(
ふ
)
きはなしでは
風
(
かぜ
)
も
引
(
ひ
)
きませう。
261
吾々
(
われわれ
)
が
一
(
ひと
)
つ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
して
鎮魂
(
ちんこん
)
をやつて
上
(
あ
)
げませうかな』
262
紅葉
『エー
滅相
(
めつさう
)
もない。
263
貴方
(
あなた
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
264
左様
(
さやう
)
なお
方
(
かた
)
に
鎮魂
(
ちんこん
)
とやらをやられましては、
265
サツパリ
コン
と
駄目
(
だめ
)
になつて
了
(
しま
)
ひます。
266
何卒
(
どうぞ
)
こん
度
(
ど
)
に
限
(
かぎ
)
つてお
断
(
こと
)
わりを
申
(
まを
)
します。
267
サアお
通
(
とほ
)
りなさい』
268
照国別
『
決
(
けつ
)
して
吾々
(
われわれ
)
は
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
がバラモン
教
(
けう
)
の
関守
(
せきもり
)
だからと
云
(
い
)
つて、
269
悪
(
わる
)
くするのではない。
270
よくして
上
(
あ
)
げたいと
思
(
おも
)
ふからだ』
271
紅葉
『
何程
(
なにほど
)
御
(
ご
)
こん
切
(
せつ
)
に
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さつても、
272
三五教
(
あななひけう
)
のお
方
(
かた
)
にお
世話
(
せわ
)
になるのは
一寸
(
ちよつと
)
こん
難
(
なん
)
で
厶
(
ござ
)
います』
273
照国別
『お
前
(
まへ
)
は
同僚
(
どうれう
)
が
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
場合
(
ばあひ
)
を
助
(
たす
)
けたい
事
(
こと
)
はないのか』
274
紅葉
『
晨
(
あした
)
の
紅顔
(
こうがん
)
、
275
夕
(
ゆふ
)
べの
白骨
(
はくこつ
)
、
276
どうで
一度
(
いちど
)
は
死
(
し
)
なねばならぬ
人生
(
じんせい
)
の
行路
(
かうろ
)
、
277
夢
(
ゆめ
)
の
浮世
(
うきよ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
278
春公
(
はるこう
)
も
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
ここで
死
(
し
)
んだ
方
(
はう
)
が、
279
彼
(
かれ
)
の
為
(
た
)
めには
好都合
(
かうつがふ
)
かも
知
(
し
)
れませぬ。
280
親切
(
しんせつ
)
が
却
(
かへ
)
つて
無
(
む
)
になりますから、
281
何卒
(
どうぞ
)
鎮魂
(
ちんこん
)
ばかりは
平
(
ひら
)
に
御
(
ご
)
容赦
(
ようしや
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
282
照国別
『
何
(
なん
)
とバラモン
教
(
けう
)
は
友人
(
いうじん
)
に
対
(
たい
)
してさへも
随分
(
ずゐぶん
)
冷淡
(
れいたん
)
なやり
方
(
かた
)
ですなア。
283
一切
(
いつさい
)
衆生
(
しゆじやう
)
に
対
(
たい
)
しては
尚更
(
なほさら
)
冷酷
(
れいこく
)
なと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
此
(
この
)
一事
(
いちじ
)
にても
看取
(
かんしゆ
)
される、
284
かう
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くと
如何
(
どう
)
してもバラモン
教
(
けう
)
を
改造
(
かいざう
)
してやらねばなるまい』
285
紅葉
『
実
(
じつ
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
関守
(
せきもり
)
が
四
(
よ
)
人
(
にん
)
まで
手抜
(
てぬ
)
きが
出来
(
でき
)
ませぬので、
286
困
(
こま
)
つて
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
287
何卒
(
どうぞ
)
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り
取
(
と
)
り
込
(
こ
)
んで
居
(
を
)
りますから、
288
御用
(
ごよう
)
があれば
又
(
また
)
明日
(
あす
)
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
され』
289
照国別
『アハヽヽヽ、
290
まるで
吾々
(
われわれ
)
を
乞食
(
こじき
)
扱
(
あつか
)
ひにして
居
(
ゐ
)
よるわい。
291
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
仮令
(
たとへ
)
バラモン
教
(
けう
)
にもせよ、
292
人
(
ひと
)
の
困難
(
こんなん
)
を
見
(
み
)
て
之
(
これ
)
を
救
(
すく
)
はずに
素通
(
すどほ
)
りする
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
293
照公
(
てるこう
)
さま、
294
梅公
(
うめこう
)
さま、
295
お
前
(
まへ
)
は
奥
(
おく
)
へ
這入
(
はい
)
つて
此処
(
ここ
)
に
屁垂
(
へた
)
つてゐる
病人
(
びやうにん
)
を
鎮魂
(
ちんこん
)
してやつて
下
(
くだ
)
さい』
296
紅葉
『メヽヽ
滅相
(
めつさう
)
な、
297
病人
(
びやうにん
)
は
春公
(
はるこう
)
一人
(
ひとり
)
で
厶
(
ござ
)
います。
298
外
(
ほか
)
の
奴
(
やつ
)
は
風
(
かぜ
)
を
引
(
ひ
)
いたといつてもホンの
鼻腔
(
びこう
)
加答児
(
カタル
)
をやつただけ、
299
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
をおつ
払
(
ぱら
)
ふとてスヤスヤと
寝
(
やす
)
んで
居
(
を
)
るのですから、
300
何卒
(
どうぞ
)
お
構
(
かま
)
ひ
下
(
くだ
)
さるな』
301
照公
(
てるこう
)
、
302
梅公
(
うめこう
)
は
委細
(
ゐさい
)
構
(
かま
)
はず
奥
(
おく
)
に
入
(
い
)
り、
303
両方
(
りやうはう
)
より
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
歌
(
うた
)
ひあげた。
304
雪公
(
ゆきこう
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
春公
(
はるこう
)
の
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
にのせて
居
(
ゐ
)
た
尻
(
しり
)
をあげ、
305
番小屋
(
ばんごや
)
の
小隅
(
こすみ
)
に
蹲
(
しやが
)
んで
震
(
ふる
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
306
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
二三回
(
にさんくわい
)
唱
(
とな
)
へた
時
(
とき
)
、
307
春公
(
はるこう
)
はカツカツと
大
(
おほ
)
きな
咳
(
せき
)
を
二
(
ふた
)
つした。
308
その
途端
(
とたん
)
に
小
(
ちひ
)
さい
百足虫
(
むかで
)
が
二匹
(
にひき
)
飛
(
と
)
んで
出
(
で
)
た。
309
見
(
み
)
る
間
(
ま
)
に
五六
(
ごろく
)
尺
(
しやく
)
の
大
(
おほ
)
百足虫
(
むかで
)
となり
一目散
(
いちもくさん
)
にテームス
峠
(
たうげ
)
を
矢
(
や
)
の
如
(
ごと
)
くに
逃
(
に
)
げ
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
310
春公
(
はるこう
)
は
初
(
はじ
)
めて
熱
(
ねつ
)
もさめ、
311
身体
(
しんたい
)
元
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
くなり
汗
(
あせ
)
を
拭
(
ふ
)
きながら、
312
春公
『
何
(
いづ
)
れのお
方
(
かた
)
か
知
(
し
)
りませぬが
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
313
よくまあ
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいまして、
314
誠
(
まこと
)
に
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
いました』
315
と
感謝
(
かんしや
)
の
声
(
こゑ
)
と
共
(
とも
)
に
不図
(
ふと
)
見
(
み
)
あぐれば、
316
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
照国別
(
てるくにわけ
)
一行
(
いつかう
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
であつた。
317
春公
(
はるこう
)
は
生命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
と
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
み、
318
これより
四
(
よ
)
人
(
にん
)
を
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
し
照国別
(
てるくにわけ
)
に
従
(
したが
)
つて
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
め、
319
案内役
(
あんないやく
)
として
月
(
つき
)
の
御国
(
みくに
)
へ
従
(
したが
)
ひ
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
となつた。
320
(
大正一一・一一・四
旧九・一六
北村隆光
録)
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