霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 衝突(しやうとつ)〔一〇九四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻 篇:第3篇 霊魂の遊行 よみ(新仮名遣い):れいこんのゆうこう
章:第10章 衝突 よみ(新仮名遣い):しょうとつ 通し章番号:1094
口述日:1922(大正11)年11月02日(旧09月14日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
黄金姫と清照姫に同行していたレーブは、ハルナの都まで母娘の共をすることを懇願したが、黄金姫は宣伝使として共を連れて行くことは許されない、とレーブを諭した。
そうするうちに、バラモン教のランチ将軍の一軍が近づいてきた。彼らが斎苑館を攻撃するために進んでくると悟ったレーブは、自分が進軍を止めてみせると勇み立った。
黄金姫は、天則にしたがってあくまで言向け和すようにとレーブを諭した。軍勢の先頭に立ちはだかったレーブは、大音声で神素盞嗚大神の館への進軍を止めるようにと呼ばわった。
バラモン軍の小頭・カルは、レーブがバラモン教でありながら三五教の味方をしていることをとがめた。レーブは細く険しい山道にたちはだかり、岩つぶてを傍らに積み重ね、バラモン軍に狙いを定めている。
それでも進軍してくるバラモン軍に対し、レーブは岩つぶてを投げつけ、カルの首筋をつかんで谷底へ放り投げた。レーブは先頭の十人ばかりを相手に奮闘し、皆谷底へ放り投げたが、ついにバラモン軍によって自分も谷底に投げられてしまった。
黄金姫と清照姫はレーブが谷底に投げられてしまったのを見て、もはや天則違反もやむなしと打って出て、軍勢を相手に暴れまわった。矢を射かけるバラモン軍によって二人は谷底に転落した。武術の心得ある二人は柔らかい砂の上に無事に着地し、追ってくるバラモン軍を待ち受けていた。
バラモン軍は谷底へ降りてきて二人を取り囲み、矢を射掛けだした。その勢いに二人は最期を覚悟したが、どこからともなく狼の群れが現れて、ランチ将軍の軍勢に襲い掛かった。
ランチ将軍の軍勢は敗走し、斎苑館への近道である玉山峠を通ることをあきらめたようであった。黄金姫、清照姫の母娘は狼に送られて玉山峠を降り、無人の野を行くごとく進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-30 15:54:23 OBC :rm4010
愛善世界社版:121頁 八幡書店版:第7輯 462頁 修補版: 校定版:127頁 普及版:56頁 初版: ページ備考:
001レーブ『初秋(しよしう)(かぜ)はザワザワと
002(みね)尾上(をのへ)()きまくる
003玉山峠(たまやまたうげ)坂道(さかみち)
004黄金姫(わうごんひめ)(はじ)めとし
005清照姫(きよてるひめ)母娘(おやこ)()
006(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)
007御言(みこと)(かしこ)(つき)(くに)
008ハルナの(みやこ)(わだか)まる
009八岐(やまた)大蛇(をろち)()かれたる
010大黒主(おほくろぬし)枉神(まがかみ)
011言向和(ことむけやは)天地(あめつち)
012(たふと)(かみ)御光(みひかり)
013(すく)はむものと両人(りやうにん)
014(けは)しき山川(やまかは)打渡(うちわた)
015(あめ)にはそぼち荒風(あらかぜ)
016()かれながらもやうやうに
017此処迄(ここまで)(すす)(きた)りけり
018(けは)しき(さか)(かたはら)
019スツクと()てる千引岩(ちびきいは)
020これ(さいは)ひと立寄(たちよ)つて
021母娘(おやこ)二人(ふたり)(こし)をかけ
022(いき)(やす)むる(をり)もあれ
023()()(ごと)峻坂(しゆんぱん)
024地響(ぢひび)きさせつトントンと
025(くだ)(きた)れる(をとこ)あり
026よくよくすかし(なが)むれば
027玉山峠(たまやまたうげ)(のぼ)(ぐち)
028(おも)はず出会(であ)うた神司(かむづかさ)
029レーブの姿(すがた)()るよりも
030母娘(おやこ)(こゑ)をはり()げて
031手招(てまね)きすれば立止(たちど)まり
032()(すご)したる坂道(さかみち)
033(ふたた)(のぼ)りて両人(りやうにん)
034(そば)近寄(ちかよ)りシトシトと
035(なが)るる(あせ)押拭(おしぬぐ)
036貴方(あなた)母娘(おやこ)神司(かむづかさ)
037(わたし)はレーブで(ござ)ります
038(たふと)(かみ)引合(ひきあ)はせ
039(おも)はぬ(とこ)()ひました
040貴方(あなた)(わか)れた(その)(とき)
041(むご)いお(かた)(こころ)にて
042きつく(うら)んで()りました
043一人(ひとり)(をとこ)森林(しんりん)
044姿(すがた)(かく)行衛(ゆくゑ)をば
045(たづ)ぬる(をり)しも(かは)(わた)
046(むか)ふへ()えた釘彦(くぎひこ)
047手下(てした)武士(つはもの)二騎(にき)三騎(さんき)
048(ふたた)(かは)打渡(うちわた)
049レーブの(まへ)(あら)はれて
050(いま)()母娘(おやこ)巡礼(じゆんれい)
051蜈蚣(むかで)(ひめ)小糸姫(こいとひめ)
052テツキリそれに(ちが)ひない
053(あと)()つかけて引捕(ひつとら)
054大黒主(おほくろぬし)(おん)(まへ)
055引連(ひきつ)()かむと呶鳴(どな)(ゆゑ)
056ハツと当惑(たうわく)しながらも
057早速(さそく)頓智(とんち)(この)レーブ
058そしらぬ(かほ)(とぼ)(づら)
059(うま)(くつわ)引掴(ひつつか)
060こりやこりや()つた、こりや()つた
061鬼熊別(おにくまわけ)(つか)へたる
062(わし)はレーブの(つかさ)ぞや
063(われ)(なれ)()同様(どうやう)
064母娘(おやこ)二人(ふたり)巡礼(じゆんれい)
065蜈蚣(むかで)(ひめ)母娘(おやこ)ぞと
066(うたが)ひながら近寄(ちかよ)つて
067よくよく(かほ)調(しら)ぶれば
068()ても()つかぬ(ゆき)(すみ)
069片目(かため)()さまの皺苦茶(しわくちや)
070痘痕(あばた)をあしらふ()面相(めんさう)
071(むすめ)如何(いか)にと(なが)むれば
072これ(また)(えら)いドテ南瓜(かぼちや)
073下賤(げせん)姿(すがた)母娘(おやこ)づれ
074(けつ)して(たづ)ぬる(ひと)でない
075くだらぬことに(ほね)()
076貴重(きちよう)光陰(くわういん)(つぶ)すより
077(いち)()(はや)くカルマタの
078(みやこ)(すす)抜群(ばつぐん)
079功名(こうみやう)手柄(てがら)をしたがよい
080(なん)ぢやかんぢやと(くち)(きは)
081(ののし)()らせば釘彦(くぎひこ)
082手下(てした)騎士(きし)首肯(うなづ)いて
083(ふたた)(かは)打渡(うちわた)
084(かへ)()くこそ(うれ)しけれ
085つらつら(おも)(まは)らせば
086貴女(あなた)(わたし)()てたのは
087(ふか)仕組(しぐみ)のありしこと
088前知(ぜんち)(めい)なき(この)レーブ
089今更(いまさら)(ごと)感嘆(かんたん)
090勢込(いきほひこ)んでスタスタと
091(あと)(した)玉山(たまやま)
092(たうげ)()えて(あと)()
093此処(ここ)目出度(めでた)面会(めんくわい)
094これほど(うれ)しい(こと)はない
095あゝ(ねが)はくば両人(りやうにん)
096レーブの(つかさ)(つき)(くに)
097ハルナの(みやこ)(ともな)ひて
098鬼熊別(おにくまわけ)(やかた)まで
099(すす)ませ(たま)惟神(かむながら)
100(かみ)(ちか)ひて()ぎまつる
101途中(とちう)如何(いか)なる枉神(まがかみ)
102(あら)はれ(きた)りて()やるとも
103(かみ)(まか)せし(この)レーブ
104(いのち)(まと)()()して
105無事(ぶじ)貴女(あなた)目的(もくてき)
106達成(たつせい)せしめにやおきませぬ
107何卒(なにとぞ)(とも)(ゆる)されよ
108あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
109(かみ)御前(みまへ)()ぎまつる』
110(うた)()へて所感(しよかん)()べ、111ハルナの(みやこ)まで随行(ずゐかう)(ゆる)されむ(こと)懇願(こんぐわん)した。112黄金姫(わうごんひめ)言葉(ことば)(おごそ)かに、
113黄金姫折角(せつかく)其方(そなた)親切(しんせつ)(ねがひ)なれど吾々(われわれ)母娘(おやこ)()出別(でわけ)(かみ)(さま)特命(とくめい)()け、114もとより(とも)(ゆる)されなかつたのだから、115(いま)になつて何程(なにほど)(まへ)(たの)んでも()れて()(こと)出来(でき)ない、116さうだと()つて貴方(あなた)排斥(はいせき)するのではない(ほど)に、117何卒(どうぞ)(わる)くとらぬ(やう)にしてお()れ』
118レーブ『さう(あふ)せらるれば、119たつてお(たの)(まを)すわけには(まゐ)りませぬ。120それなら(わたし)是非(ぜひ)御座(ござ)いませぬから単独(たんどく)行動(かうどう)をとり、121貴女(あなた)(がた)母娘(おやこ)前後(あとさき)(まも)つて(まゐ)りませう』
122清照(きよてる)何卒(どうぞ)吾々(われわれ)母娘(おやこ)()()えない範囲内(はんゐない)()つて(くだ)さいや。123もしもお(とも)をつれて()つたと()はれては吾々(われわれ)母娘(おやこ)申訳(まをしわけ)()ちませぬからな』
124レーブ『左様(さやう)なれば、125たつて無理(むり)にはお(ねがひ)(まを)しませぬ。126(わたし)(これ)より不離(ふり)不即(ふそく)態度(たいど)(たも)ち、127()(かく)もハルナの(みやこ)(まゐ)ります、128どうぞハルナの(みやこ)へおいでになつたら(わたし)一度(いちど)()引見(いんけん)(くだ)さる(やう)()(ねがひ)(いた)しておきます。129(わたし)貴女(あなた)(さま)二人(ふたり)所在(ありか)(たづ)ぬべく()主人(しゆじん)(さま)命令(めいれい)()けたもので(ござ)いますから、130貴方(あなた)(たち)所在(ありか)さへ(わか)れば、131それで()いので(ござ)います。132それなら(これ)から()(がく)れにお(とも)をしますから、133こればかりはお(ふく)みを(ねが)ひます』
134黄金(わうごん)『あゝ仕方(しかた)がない。135(まへ)勝手(かつて)にしたが()からう』
136レーブ『はい、137有難(ありがた)う』
138落涙(らくるい)(むせ)んでゐる。139(この)(とき)谷底(たにそこ)より(きこ)()法螺貝(ほらがひ)140陣太鼓(ぢんだいこ)141(かね)(おと)142矢叫(やさけ)びの(こゑ)143木谺(こだま)(おどろ)かして(ひび)()る。
144黄金姫、清照姫素破(すは)こそ一大事(いちだいじ)145バラモン(けう)大黒主(おほくろぬし)部下(ぶか)(もの)ならむ。146(かれ)(つか)まつては大変(たいへん)
147母娘(おやこ)(いは)(うしろ)()(かく)し、148一隊(いつたい)通過(つうくわ)()たむとした。149レーブは(いさ)()ち、
150レーブ『やあ、151(いよいよ)忠義(ちうぎ)(あら)はし(どき)152もしもし()両人(りやうにん)(さま)153貴女(あなた)(この)岩影(いはかげ)()(しの)びお()(くだ)さいませ。154(この)軍隊(ぐんたい)をイソの(やかた)(すす)ませてはなりませぬ。155これより(わたし)力限(ちからかぎ)(たたか)つて(てき)退却(たいきやく)させて()ませう』
156黄金(わうごん)(けつ)して(てき)(きず)つけてはなりませぬよ。157善言(ぜんげん)美詞(びし)言霊(ことたま)(もつ)てお(ふせ)ぎなさい。158(この)細谷道(ほそたにみち)159(しか)急坂(きふはん)160何程(なにほど)数多(あまた)(てき)()(のぼ)(きた)るとも、161一度(いちど)にドツとかかる(こと)出来(でき)まい。162片端(かたつぱし)から言向和(ことむけやは)すが神慮(しんりよ)(かな)うたやり(かた)163()其方(そなた)第一戦(だいいつせん)(こころ)みたが()からう。164とても(かな)はぬと()てとつた(とき)(この)黄金姫(わうごんひめ)()(かは)つて言霊戦(ことたません)(ひら)いて()ようから』
165レーブ『承知(しようち)(いた)しました。166一卒(いつそつ)これに()れば万卒(ばんそつ)(すす)むべからずと()(この)難所(なんしよ)167(わたし)一人(ひとり)大丈夫(だいぢやうぶ)です』
168武者振(むしやぶる)ひして(いさ)()つた。
169 かかる(ところ)へブウブウと先登(せんとう)()つた武士(つはもの)法螺貝(ほらがひ)()陣容(ぢんよう)(ととの)(のぼ)()る。170旗指物(はたさしもの)171幾十(いくじふ)となく(かぜ)(ひるがへ)単縦陣(たんじうじん)(つく)りて(すす)(その)光景(くわうけい)172(あだか)絵巻物(ゑまきもの)()(ごと)くであつた。173レーブは千引(ちびき)(いは)(うへ)直立(ちよくりつ)し、174(この)光景(くわうけい)(なが)敵軍(てきぐん)(ちか)づくのを(いま)(おそ)しと()つてゐる。
175 先頭(せんとう)()つた武士(つはもの)急坂(きふはん)(のぼ)りつつ(いさ)ましく軍歌(ぐんか)(うた)つてゐる。
176東西南(とうざいなん)三方(さんぱう)
177青海(あをみ)(はら)(めぐ)らせる
178世界(せかい)(いち)(つき)(くに)
179(かみ)御稜威(みいづ)(あきら)かに
180()(かがや)きしバラモンの
181(をしへ)(はしら)(かしこ)くも
182大黒主(おほくろぬし)()れましぬ
183(この)(たび)イソの神館(かむやかた)
184(かむ)素盞嗚(すさのを)枉神(まがかみ)
185手下(てした)(もの)(ども)(あつ)まりて
186(あさ)(ゆふ)なに()()りつ
187一挙(いつきよ)(つき)()()せて
188バラモン(けう)本城(ほんじやう)
189(くつが)へさむと(たく)()
190(その)曲業(まがわざ)前知(ぜんち)して
191(われ)()(ほう)ずる神柱(かむばしら)
192大黒主(おほくろぬし)(かしこ)くも
193鬼春別(おにはるわけ)(しやう)となし
194ランチ将軍(しやうぐん)片彦(かたひこ)
195大武士(おほつはもの)()(たま)
196悪魔(あくま)征途(せいと)(のぼ)ります
197(その)神業(しんげふ)(つか)()
198(われ)()()こそ(たの)しけれ
199朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも
200(つき)()つとも()くるとも
201仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも
202三五教(あななひけう)本城(ほんじやう)
203(くつが)へさずにおくべきか
204常世(とこよ)(くに)自在天(じざいてん)
205大国彦(おほくにひこ)(おん)(まも)
206(いよいよ)(ふか)くましませば
207如何(いか)なる(まが)(たけ)ぶとも
208鬼神(きしん)(ひし)(ゆう)あるも
209などか(おそ)れむバラモンの
210(をしへ)(きた)へし(この)(からだ)
211刃向(はむか)(てき)はあらざらめ
212(すす)めよ(すす)め いざ(すす)
213(かむ)素盞嗚(すさのを)曲神(まがかみ)
214手下(てした)(のこ)らず(ほろ)ぶまで
215枉津(まがつ)(ぐん)()するまで』
216(うた)ひながら旗鼓(きこ)堂々(だうだう)(すす)(きた)物々(ものもの)しさ。
217 ランチ将軍(しやうぐん)部下(ぶか)(はや)くもレーブの()てる(いは)(ふもと)まで(すす)んで()た。218レーブは大音声(だいおんぜう)()()げながら、
219レーブ『ヤアヤア、220(われ)こそはバラモン(けう)神司(かむづかさ)221鬼熊別(おにくまわけ)身内(みうち)(もの)222只今(ただいま)大自在天(だいじざいてん)のお()げにより(なんぢ)()一行(いつかう)此処(ここ)(きた)(こと)前知(ぜんち)し、223(いま)(おそ)しと()(かま)()たり。224(なんぢ)(また)バラモンの部下(ぶか)相違(さうゐ)はない。225()はば味方(みかた)同士(どうし)だ。226案内(あんない)するは本意(ほんい)なれども、227(なんぢ)()(いま)軍歌(ぐんか)によつて()けば仁慈(じんじ)無限(むげん)(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)(やかた)押寄(おしよ)するものと(きこ)えたり。228かう()(うへ)(すこ)しも猶予(いうよ)はならぬ。229片端(かたつぱし)から神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)言霊(ことたま)発射(はつしや)して一人(ひとり)(のこ)らず言向和(ことむけやは)()れむ。230(しばら)()て』
231()ばはつた。232先頭(せんとう)()つた武士(つはもの)はカルと()一寸(ちよつと)()()いた小頭(こがしら)である。233カルはレーブの(この)(こゑ)()くより()(とど)まり、
234カル『ハテ、235心得(こころえ)(なんぢ)言葉(ことば)236(なんぢ)バラモン(けう)神司(かむづかさ)でありながら、237(なに)血迷(ちまよ)うて左様(さやう)(こと)(まを)すか。238大方(おほかた)発狂(はつきやう)(いた)したのであらう。239そこ退()け、240邪魔(じやま)になるわい』
241(すす)まむとするをレーブは(はや)くも(とが)つた(いし)何時(いつ)()にか(いは)(うへ)幾十(いくじふ)となく()(かさ)ね、242一歩(いつぽ)たりとも前進(ぜんしん)せば、243(この)(いは)(もつ)脳天(なうてん)より打挫(うちくじ)かむと右手(めて)(いは)をささげて()めつけてゐる。244カルは()(いか)らし、
245カル『こりや、246こりやレーブ、247左様(さやう)(いし)(ささ)げて如何(どう)(いた)心算(つもり)だ。248チツと危険(きけん)ではないか』
249レーブ『ハヽヽヽチツとも、250やつとも危険(きけん)だ。251何程(なにほど)(なんぢ)味方(みかた)沢山(たくさん)押寄(おしよ)(きた)るとも(この)一条(いちでう)難路(なんろ)252一人(ひとり)(のこ)らず討滅(うちほろぼ)すに(なん)手間暇(てまひま)()るものか。253(いち)()(はや)くここを()(かへ)せよ』
254 カルはレーブの(かほ)()めつけ、255(たがひ)無言(むごん)のまま(にら)みあつて()ると、256(うしろ)(はう)より、
257(すす)(すす)め』
258(のぼ)()(その)(いきほひ)にカルもやむなく(あと)より()されて前進(ぜんしん)せむとする(とき)259レーブは無法(むはふ)にも(その)(いは)をとつて(ひと)(おど)かし()れむと、260(てき)(あた)らぬ(やう)にと(ねら)ひを(さだ)めて()げつくれば、261(いは)はカツカツと(おと)をたてて谷底(たにそこ)転落(てんらく)して(しま)つた。
262カル『こりやこりや(あぶ)ないわい。263(なに)(いた)すか』
264レーブ『(なに)(いた)さない。265其方(そのはう)()片端(かたつぱし)から殲殺(みなごろ)しに(いた)さねば(おれ)(こころ)得心(とくしん)せぬのだ』
266()ひながら今度(こんど)両手(りやうて)(ふた)つの(いし)引掴(ひつつか)み、267(また)もや(のぼ)()(てき)(むか)つて()げつけむとする気色(けしき)(しめ)した。268ランチ将軍(しやうぐん)(やや)(うしろ)(はう)より、
269(すす)(すす)め』
270下知(げち)をする。271()むを()ずしてカルは前進(ぜんしん)せむとするを、272レーブは(みち)真中(まんなか)()ちはだかり、273第一着(だいいちちやく)にカルの首筋(くびすぢ)(つか)んで谷底(たにそこ)()がけて()げつけた。274(また)()(やつ)引掴(ひつつか)(じふ)(にん)ばかりも谷川(たにがは)目蒐(めが)けて()げつくる。275かかる(ところ)(はる)(した)(はう)より数多(あまた)軍卒(ぐんそつ)()()けて(のぼ)()(だい)(をとこ)276(たちま)ちレーブの(まへ)(あら)はれ、
277若芽の春造何者(なにもの)ならばわが行軍(かうぐん)妨害(ばうがい)(いた)すか。278(われ)こそはランチ将軍(しやうぐん)懐刀(ふところがたな)(きこ)えたる若芽(わかめ)春造(はるざう)だ』
279()ひながらレーブの素首(そつくび)引掴(ひつつか)み、280谷川(たにがは)()がけてドスンとばかり()()んで(しま)つた。281(この)(てい)(うかが)()たる黄金姫(わうごんひめ)282清照姫(きよてるひめ)は、
283黄金姫、清照姫(いま)最早(もはや)(これ)までなり、284天則(てんそく)違反(ゐはん)かは()らね(ども)285(なん)とかして(てき)()ひちらし、286(ただ)一人(ひとり)(この)(たうげ)()えさせじ』
287(うで)(より)をかけ金剛杖(こんがうづゑ)前後(ぜんご)左右(さいう)打振(うちふ)打振(うちふ)り、288単縦陣(たんじうぢん)()つて(のぼ)()(てき)(むか)つて打込(うちこ)めば、289素破(すは)一大事(いちだいじ)とランチ将軍(しやうぐん)(ゆみ)()をつがえ、290二人(ふたり)()がけて発矢(はつし)()かけた。291(つづ)いて数多(あまた)軍勢(ぐんぜい)(ゆみ)()より(おろ)(あめ)(ごと)二人(ふたり)(むか)つて()かける。292(その)(あひだ)(つゑ)(もつ)()けながら獅子(しし)奮迅(ふんじん)(いきほひ)(もつ)前後(ぜんご)左右(さいう)母娘(おやこ)()れまはる。293二人(ふたり)(つひ)坂道(さかみち)より(あし)()(はづ)し、294谷底(たにそこ)にヅデンドウと母娘(おやこ)(いち)()転落(てんらく)した。295流石(さすが)黄金姫(わうごんひめ)296清照姫(きよてるひめ)武術(ぶじゆつ)心得(こころえ)あれば(すこ)しも(からだ)負傷(ふしやう)をなさず、297谷底(たにそこ)真砂(まさご)(うへ)にヒラリと(たい)(おろ)敵軍(てきぐん)(きた)れと()(つばき)して()つてゐる。298ランチ将軍(しやうぐん)母娘(おやこ)両人(りやうにん)(にが)すなと下知(げち)すれば、299数多(あまた)軍卒(ぐんそつ)都合(つがふ)よき谷川(たにがは)()(ぐち)(さが)(もと)めて、300雲霞(うんか)(ごと)二人(ふたり)取囲(とりかこ)(ゆみ)(しき)りに()かけ()した。301二人(ふたり)進退(しんたい)(これ)(きは)まつて最早(もはや)運命(うんめい)()きたりと覚悟(かくご)(ほぞ)をかたむる(をり)しもあれ、302谷底(たにそこ)よりウーウーと(おほかみ)呻声(うなりごゑ)(きこ)ゆると(とも)に、303幾百(いくひやく)とも()れぬ狼軍(らうぐん)はランチ将軍(しやうぐん)(むか)つて(きば)()()(いか)らして(あば)()る。304(その)(いきほひ)辟易(へきえき)し、305ランチ将軍(しやうぐん)(はじ)一同(いちどう)玉山峠(たまやまたうげ)雪崩(なだれ)(ごと)くバラバラバツと()げて()く。
306 黄金姫(わうごんひめ)307清照姫(きよてるひめ)前後(ぜんご)(こころ)(くば)りながら、308数十(すうじふ)(おほかみ)(おく)られて玉山峠(たまやまたうげ)宣伝歌(せんでんか)(うた)ひながら悠々(いういう)として(くだ)()く。309谷口(たにぐち)(いた)()れば、310ランチ将軍(しやうぐん)部下(ぶか)如何(いかが)なりしか、311(かげ)だにも()えずなつて()た。312これは玉山峠(たまやまたうげ)(のぼ)れば余程(よほど)近道(ちかみち)なれども、313危険(きけん)(おそ)れて(みち)(ひがし)(むか)ひて進軍(しんぐん)したものと()える。314黄金姫(わうごんひめ)315清照姫(きよてるひめ)無人(むじん)()()心地(ここち)して悠々(いういう)(すす)()くのであつた。
316大正一一・一一・二 旧九・一四 北村隆光録)
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