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第67巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 美山梅光
01 梅の花香
〔1703〕
02 思想の波
〔1704〕
03 美人の腕
〔1705〕
04 笑の座
〔1706〕
05 浪の皷
〔1707〕
第2篇 春湖波紋
06 浮島の怪猫
〔1708〕
07 武力鞘
〔1709〕
08 糸の縺れ
〔1710〕
09 ダリヤの香
〔1711〕
10 スガの長者
〔1712〕
第3篇 多羅煩獄
11 暗狐苦
〔1713〕
12 太子微行
〔1714〕
13 山中の火光
〔1715〕
14 獣念気
〔1716〕
15 貂心暴
〔1717〕
16 酒艶の月
〔1718〕
17 晨の驚愕
〔1719〕
第4篇 山色連天
18 月下の露
〔1720〕
19 絵姿
〔1721〕
20 曲津の陋呵
〔1722〕
21 針灸思想
〔1723〕
22 憧憬の美
〔1724〕
余白歌
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第四章
笑
(
わらひ
)
の
座
(
ざ
)
〔一七〇六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
篇:
第1篇 美山梅光
よみ(新仮名遣い):
びざんばいこう
章:
第4章 笑の座
よみ(新仮名遣い):
わらいのざ
通し章番号:
1706
口述日:
1924(大正13)年12月27日(旧12月2日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年8月19日
概要:
舞台:
波切丸の船上
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2017-11-21 12:07:51
OBC :
rm6704
愛善世界社版:
41頁
八幡書店版:
第12輯 44頁
修補版:
校定版:
41頁
普及版:
68頁
初版:
ページ備考:
派生
[?]
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:
出口王仁三郎著作集 > 第二巻「変革と平和」 > 第三部 『霊界物語』の思想 > 笑の座
001
湖神
(
こしん
)
白馬
(
はくば
)
の
鬣
(
たてがみ
)
を
揮
(
ふる
)
つて、
002
激浪
(
げきらう
)
怒濤
(
どたう
)
を
起
(
おこ
)
し、
003
殆
(
ほとん
)
ど
天
(
てん
)
をも
呑
(
の
)
まむとする
勢
(
いきほひ
)
なりし
湖上
(
こじやう
)
の
荒
(
すさ
)
びも、
004
癲癇
(
てんかん
)
が
治
(
をさ
)
まつたやうに、
005
まるつきり
嘘
(
うそ
)
をついた
様
(
やう
)
にケロリと
静
(
しづ
)
まつて、
006
水面
(
すいめん
)
は
恰
(
あたか
)
も
畳
(
たたみ
)
の
目
(
め
)
の
如
(
ごと
)
く、
007
縮緬皺
(
ちりめんじわ
)
をよせてゐる。
008
島影
(
しまかげ
)
を
漕
(
こぎ
)
出
(
だ
)
した
波切丸
(
なみきりまる
)
は、
009
欵乃
(
ふなうた
)
豊
(
ゆた
)
かに
舳
(
へさき
)
を
南方
(
なんぱう
)
に
向
(
む
)
けていざり
出
(
だ
)
した。
010
此
(
この
)
地方
(
ちはう
)
の
風習
(
ふうしふ
)
として、
011
人々
(
ひとびと
)
何
(
いづ
)
れも
閑散
(
かんさん
)
な
時
(
とき
)
には
無聊
(
むれう
)
を
慰
(
なぐさ
)
むる
為
(
ため
)
に、
012
笑
(
わら
)
ひの
座
(
ざ
)
といふものが
催
(
もよほ
)
される
事
(
こと
)
がある。
013
笑
(
わら
)
ひの
座
(
ざ
)
に
参加
(
さんか
)
する
者
(
もの
)
は、
014
何
(
いづ
)
れも
黒
(
くろ
)
い
布
(
ぬの
)
で
面部
(
めんぶ
)
を
包
(
つつ
)
み、
015
何人
(
なにびと
)
か
分
(
わか
)
らぬやうにしておいて、
016
上
(
うへ
)
は
王公
(
わうこう
)
より
下
(
しも
)
は
下女
(
げぢよ
)
下男
(
げなん
)
の
噂
(
うはさ
)
や
017
国家
(
こくか
)
の
現状
(
げんじやう
)
や
人情
(
にんじやう
)
の
機微
(
きび
)
などを
話
(
はな
)
し、
018
面白
(
おもしろ
)
く
可笑
(
をか
)
しく、
019
罵詈
(
ばり
)
嘲笑
(
てうせう
)
を
逞
(
たくま
)
しうして、
020
笑
(
わら
)
ひこけ、
021
互
(
たがひ
)
に
修身
(
しうしん
)
斉家
(
せいか
)
の
羅針盤
(
らしんばん
)
とするのである。
022
流石
(
さすが
)
権力
(
けんりよく
)
旺盛
(
わうせい
)
なる
大黒主
(
おほくろぬし
)
と
雖
(
いへど
)
も、
023
此
(
この
)
笑
(
わら
)
ひの
座
(
ざ
)
のみには
一指
(
いつし
)
を
染
(
そ
)
むる
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
なかつた。
024
笑
(
わら
)
ひの
座
(
ざ
)
は
庶民
(
しよみん
)
が
国政
(
こくせい
)
に
参与
(
さんよ
)
する
事
(
こと
)
のない
代
(
かは
)
りに、
025
其
(
その
)
不平
(
ふへい
)
や
鬱憤
(
うつぷん
)
を
洩
(
も
)
らし、
026
或
(
あるひ
)
は
政治
(
せいぢ
)
の
善悪
(
ぜんあく
)
正邪
(
せいじや
)
や、
027
国家
(
こくか
)
の
利害
(
りがい
)
得失
(
とくしつ
)
迄
(
まで
)
も、
028
怯
(
お
)
めず
臆
(
おく
)
せず
何人
(
なにびと
)
の
前
(
まへ
)
にても
喋々
(
てふてふ
)
喃々
(
なんなん
)
と
吐露
(
とろ
)
することを、
029
不文律
(
ふぶんりつ
)
的
(
てき
)
に
許
(
ゆる
)
されてゐたのである。
030
日
(
ひ
)
は
麗
(
うらら
)
かに、
031
風
(
かぜ
)
暖
(
あたた
)
かく、
032
波
(
なみ
)
は
静
(
しづか
)
に、
033
舟
(
ふね
)
の
歩
(
あゆ
)
みもはかばかしからず、
034
遥
(
はるか
)
の
湖面
(
こめん
)
には
陽炎
(
かげろふ
)
が
日光
(
につくわう
)
に
瞬
(
またた
)
いてゐる。
035
其
(
その
)
有様
(
ありさま
)
は
恰
(
あたか
)
も
湖面
(
こめん
)
の
縮緬皺
(
ちりめんじわ
)
が
空中
(
くうちう
)
に
反映
(
はんえい
)
したかのやうに
思
(
おも
)
はれた。
036
さも
恐
(
おそ
)
ろしかりし
海賊
(
かいぞく
)
の
難
(
なん
)
や
暴風
(
ばうふう
)
怒濤
(
どたう
)
の
悩
(
なや
)
み、
037
殆
(
ほとん
)
ど
難破
(
なんぱ
)
に
瀕
(
ひん
)
したる
波切丸
(
なみきりまる
)
の
暗礁
(
あんせう
)
の
難
(
なん
)
を
免
(
まぬが
)
れたる
嬉
(
うれ
)
しさに、
038
何
(
いづ
)
れも
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
を
礼拝
(
らいはい
)
し、
039
感謝
(
かんしや
)
の
辞
(
じ
)
を
捧
(
ささ
)
ぐる
事
(
こと
)
半時
(
はんとき
)
許
(
ばか
)
り、
040
其
(
その
)
あとは
三々
(
さんさん
)
伍々
(
ごご
)
デッキの
上
(
うへ
)
に
円
(
ゑん
)
を
描
(
ゑが
)
いて、
041
笑
(
わら
)
ひの
座
(
ざ
)
が
開
(
ひら
)
かれた。
042
甲
(
かふ
)
『
諸君
(
しよくん
)
、
043
何
(
ど
)
うです、
044
此
(
この
)
穏
(
おだや
)
かな
湖面
(
こめん
)
を
眺
(
なが
)
めて、
045
旅情
(
りよじやう
)
を
慰
(
なぐさ
)
むる
為
(
ため
)
に、
046
天下
(
てんか
)
御免
(
ごめん
)
の
笑
(
わら
)
ひの
座
(
ざ
)
を
催
(
もよほ
)
したら
何
(
ど
)
うでせう』
047
乙
(
おつ
)
『イヤそりや
面白
(
おもしろ
)
いでせう。
048
チツト
許
(
ばか
)
り、
049
言論
(
げんろん
)
機関
(
きくわん
)
たる
天
(
あま
)
の
瓊矛
(
ぬほこ
)
を
運用
(
うんよう
)
させても
宜
(
よろ
)
しからうかと
考
(
かんが
)
へてゐた
所
(
ところ
)
です。
050
何
(
なに
)
か
面白
(
おもしろ
)
い
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
きたいものですなア』
051
甲
(
かふ
)
『
皆
(
みな
)
さま、
052
黒布
(
くろぬの
)
をお
被
(
かぶ
)
りなさい。
053
之
(
これ
)
も
此
(
この
)
国
(
くに
)
の
神世
(
かみよ
)
から
定
(
き
)
まつた
不文律
(
ふぶんりつ
)
ですから。
054
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
にゐる
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
の
悪口
(
あくこう
)
雑言
(
ざふごん
)
を
云
(
い
)
ふかも
知
(
し
)
れませぬが……
笑
(
わら
)
ひの
座
(
ざ
)
の
規則
(
きそく
)
として
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
のなき
様
(
やう
)
に
予
(
あらかじ
)
め
願
(
ねが
)
つておきますよ、
055
アハヽヽヽ』
056
乙
(
おつ
)
『サアサア
自分
(
じぶん
)
の
顔
(
かほ
)
の
しみ
は
見
(
み
)
えないものだから、
057
俺
(
おれ
)
は
偉
(
えら
)
い
偉
(
えら
)
い、
058
世間
(
せけん
)
の
奴
(
やつ
)
は
馬鹿
(
ばか
)
だとか、
059
間抜
(
まぬけ
)
だとか、
060
腰抜
(
こしぬけ
)
だとか
思
(
おも
)
つてゐるものです。
061
自分
(
じぶん
)
が
自分
(
じぶん
)
を
理解
(
りかい
)
する
様
(
やう
)
になれば、
062
人間
(
にんげん
)
も
一人前
(
いちにんまへ
)
の
人格者
(
じんかくしや
)
ですが、
063
燈台
(
とうだい
)
下
(
もと
)
暗
(
くら
)
しとか
云
(
い
)
つて、
064
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
は
解
(
わか
)
らないものですからな。
065
どうか
忌憚
(
きたん
)
なく、
066
お
気付
(
きづき
)
になつた
事
(
こと
)
は
批評
(
ひひやう
)
して
下
(
くだ
)
さい。
067
それが
私
(
わたし
)
に
取
(
と
)
つて
処世
(
しよせい
)
上
(
じやう
)
の
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
力
(
ちから
)
となりますから』
068
甲
(
かふ
)
『
宜
(
よろ
)
しい、
069
倒徳利
(
こけどつくり
)
の
詰
(
つめ
)
が
取
(
と
)
れた
以上
(
いじやう
)
は、
070
味
(
あぢ
)
の
悪
(
わる
)
い
濁酒
(
どぶざけ
)
を
吐
(
はき
)
出
(
だ
)
して、
071
諸君
(
しよくん
)
を
酔生
(
すゐせい
)
夢死
(
むし
)
せしむる
様
(
やう
)
な
迷論
(
めいろん
)
濁説
(
だくせつ
)
が
際限
(
さいげん
)
もなく
迸出
(
へいしゆつ
)
するかも
知
(
し
)
れませぬよ』
072
乙
(
おつ
)
『サアサア
是非
(
ぜひ
)
願
(
ねが
)
ひませう。
073
自分
(
じぶん
)
の
頭
(
あたま
)
や
顔面
(
がんめん
)
が
見
(
み
)
え、
074
又
(
また
)
自分
(
じぶん
)
の
首
(
くび
)
や
背中
(
せなか
)
が
見
(
み
)
える
様
(
やう
)
な
人間
(
にんげん
)
ならば、
075
自己
(
じこ
)
の
欠点
(
けつてん
)
が
判然
(
はんぜん
)
と
解
(
わか
)
るでせうが、
076
不完全
(
ふくわんぜん
)
に
造
(
つく
)
られた
吾々
(
われわれ
)
人間
(
にんげん
)
は、
077
到底
(
たうてい
)
暗黒面
(
あんこくめん
)
のあるのは、
078
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ないです。
079
其
(
その
)
暗黒面
(
あんこくめん
)
を
親
(
した
)
しき
友
(
とも
)
から、
080
破羅
(
はら
)
剔抉
(
てきけつ
)
して
注意
(
ちうい
)
を
与
(
あた
)
へて
貰
(
もら
)
ふ
事
(
こと
)
は、
081
無上
(
むじやう
)
の
幸福
(
かうふく
)
でせう。
082
併
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
さまの
暗黒面
(
あんこくめん
)
も
素破
(
すつぱ
)
抜
(
ぬ
)
きますが、
083
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
でせうな』
084
甲
(
かふ
)
『それは
相身互
(
あひみたがひ
)
です。
085
そんなら
私
(
わたし
)
から
発火
(
はつくわ
)
しませう。
086
……エー、
087
貴方
(
あなた
)
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
から
大変
(
たいへん
)
な
偉
(
えら
)
い
職名
(
しよくめい
)
を
与
(
あた
)
へられたといふ
事
(
こと
)
だが
一体
(
いつたい
)
どんな
御
(
ご
)
気分
(
きぶん
)
がしますか、
088
竹寺官
(
ちくじくわん
)
と
云
(
い
)
へば
腰弁
(
こしべん
)
とは
違
(
ちが
)
つて、
089
役所
(
やくしよ
)
へ
通
(
かよ
)
ふのにも
馬
(
うま
)
とか
車
(
くるま
)
とか
相当
(
さうたう
)
な
準備
(
じゆんび
)
も
要
(
い
)
るでせう。
090
随分
(
ずいぶん
)
愉快
(
ゆくわい
)
でせうな』
091
乙
(
おつ
)
『
実
(
じつ
)
は
某役所
(
ぼうやくしよ
)
の
執事
(
しつじ
)
に
栄進
(
えいしん
)
したのです。
092
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
赤門
(
あかもん
)
を
出
(
で
)
てから
官海
(
くわんかい
)
に
遊泳
(
いうえい
)
すること
殆
(
ほと
)
んど
十五
(
じふご
)
年
(
ねん
)
、
093
どうやらかうやら
執事
(
しつじ
)
まで
昇
(
のぼ
)
つたのです。
094
吾々
(
われわれ
)
の
学友
(
がくいう
)
は
大抵
(
たいてい
)
小名
(
せうみやう
)
から
大名
(
だいみやう
)
、
095
納言級
(
なごんきふ
)
に
昇
(
のぼ
)
つた
連中
(
れんちう
)
もありますが、
096
私
(
わたし
)
は
阿諛
(
あゆ
)
諂佞
(
てんねい
)
とか
追従
(
つゐしよう
)
とか
低頭
(
ていとう
)
平身
(
へいしん
)
などの
行為
(
かうゐ
)
が
嫌
(
きら
)
いなので、
097
相当
(
さうたう
)
の
実力
(
じつりよく
)
を
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら
漸
(
やうや
)
く
某役所
(
ぼうやくしよ
)
の
執事
(
しつじ
)
になつた
位
(
ぐらゐ
)
なものです。
098
本当
(
ほんたう
)
に
十五
(
じふご
)
年間
(
ねんかん
)
も
孜々
(
しし
)
兀々
(
こつこつ
)
として
役所
(
やくしよ
)
の
門
(
もん
)
を
潜
(
くぐ
)
り、
099
今
(
いま
)
に
借家
(
しやくや
)
住居
(
ずまゐ
)
をして
色々
(
いろいろ
)
の
雅号
(
ががう
)
を
頂
(
いただ
)
いた
所
(
ところ
)
で
一銭
(
いつせん
)
の
金
(
かね
)
が
月給
(
げつきふ
)
の
外
(
ほか
)
に
湧
(
わ
)
いて
来
(
く
)
るでもなし、
100
一握
(
ひとにぎり
)
の
米
(
こめ
)
が
生
(
うま
)
れるでもなし、
101
丸
(
まる
)
つきり
高等
(
かうとう
)
ルンペンの
様
(
やう
)
なものです。
102
それでも
公式
(
こうしき
)
の
場所
(
ばしよ
)
へは
他
(
た
)
の
連中
(
れんちう
)
が
嬉
(
うれ
)
しさうに
雅号
(
ががう
)
のついたレツテルをぶらさげて
行
(
ゆ
)
きよるものだから、
103
私
(
わたし
)
も
心
(
こころ
)
に
染
(
そ
)
まないけれど、
104
何
(
なん
)
だかひけを
取
(
と
)
るやうな
気分
(
きぶん
)
がするので、
105
嫌々
(
いやいや
)
乍
(
なが
)
らレツテルをはつて
行
(
ゆ
)
くのですよ。
106
アハヽヽヽヽ』
107
甲
(
かふ
)
『
嫌
(
いや
)
なものを
張
(
は
)
つて
行
(
ゆ
)
くとは
云
(
い
)
はれましたが、
108
然
(
しか
)
し
貴方
(
あなた
)
の
本心
(
ほんしん
)
としてはまつたく
嫌
(
いや
)
で
叶
(
かな
)
はないのぢやありますまい。
109
嫌
(
いや
)
な
嫌
(
いや
)
な
毛虫
(
けむし
)
が
胸
(
むね
)
にくつついてゐたら
誰
(
たれ
)
しも
之
(
これ
)
を
払
(
はら
)
ひ
落
(
おと
)
すでせう。
110
そこが
貴方
(
あなた
)
の
闇黒面
(
あんこくめん
)
で、
111
所謂
(
いはゆる
)
偽善
(
ぎぜん
)
と
云
(
い
)
ふものです。
112
爵位
(
しやくゐ
)
何物
(
なにもの
)
ぞ、
113
権勢
(
けんせい
)
何物
(
なにもの
)
ぞ、
114
富貴
(
ふうき
)
何
(
なに
)
ものぞ、
115
只
(
ただ
)
吾々
(
われわれ
)
は
天下
(
てんか
)
の
志士
(
しし
)
だと
人
(
ひと
)
に
思
(
おも
)
はせたい
為
(
ため
)
の
飾
(
かざ
)
り
言葉
(
ことば
)
でせう。
116
虚礼
(
きよれい
)
虚飾
(
きよしよく
)
を
以
(
も
)
つて
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
処生法
(
しよせいはふ
)
と
為
(
な
)
し、
117
交際
(
かうさい
)
上
(
じやう
)
の
武器
(
ぶき
)
と
信
(
しん
)
じてゐられるのでせう。
118
さういふお
方
(
かた
)
が
上流
(
じやうりう
)
に
浮游
(
ふいう
)
してゐる
間
(
あひだ
)
は、
119
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
も
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
でせう。
120
私
(
わたし
)
は
米搗
(
こめつき
)
ばつたといふものを
見
(
み
)
る
度
(
たび
)
に、
121
何
(
なん
)
となく
嫌忌
(
けんき
)
の
情
(
じやう
)
が
胸
(
むね
)
に
湧
(
わ
)
いて
来
(
く
)
るのです。
122
併
(
しか
)
し
過言
(
くわごん
)
は
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
つておきませう。
123
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
笑
(
わら
)
ひの
座
(
ざ
)
の
席
(
せき
)
での
言葉
(
ことば
)
で
厶
(
ござ
)
いますからな』
124
乙
(
おつ
)
『ヤ、
125
貴方
(
あなた
)
も
中々
(
なかなか
)
の
批評家
(
ひひやうか
)
ですね。
126
実
(
じつ
)
は
私
(
わたし
)
も
米搗
(
こめつき
)
ばつたにはなり
度
(
た
)
くないのです。
127
これを
辞
(
や
)
めれば
忽
(
たちま
)
ち
妻子
(
さいし
)
が
路頭
(
ろとう
)
に
迷
(
まよ
)
ひ、
128
生存難
(
せいぞんなん
)
におびやかされるから
長者
(
ちやうじや
)
に
膝
(
ひざ
)
を
屈
(
くつ
)
し
腰
(
こし
)
を
曲
(
ま
)
げ、
129
ばつたや
蓄音機
(
ちくおんき
)
の
悲境
(
ひきやう
)
に
沈淪
(
ちんりん
)
しながらも
陰忍
(
いんにん
)
自重
(
じちよう
)
して、
130
あたら
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
つてゐるのです。
131
今日
(
こんにち
)
の
米搗
(
こめつき
)
ぐらゐ
卑劣
(
ひれつ
)
な、
132
暗愚
(
あんぐ
)
な
狭量
(
けふりやう
)
な、
133
そして
高慢心
(
かうまんしん
)
の
強
(
つよ
)
い
代物
(
しろもの
)
はありませぬわ。
134
何
(
なに
)
か
可
(
よ
)
い
商売
(
しやうばい
)
でもあつたら、
135
男
(
をとこ
)
らしく
辞職
(
じしよく
)
をしてみたいのです。
136
そして
辞表
(
じへう
)
を
長官
(
ちやうくわん
)
の
面前
(
めんぜん
)
へ
投
(
な
)
げつけてやりたいと、
137
切歯
(
せつし
)
扼腕
(
やくわん
)
慷慨
(
かうがい
)
悲憤
(
ひふん
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれることは
幾度
(
いくたび
)
だか
知
(
し
)
れませぬよ。
138
卑劣
(
ひれつ
)
な、
139
暗愚
(
あんぐ
)
な、
140
おべつか
主義
(
しゆぎ
)
の
小人物
(
せうじんぶつ
)
はドシドシ
執事
(
しつじ
)
にもなり、
141
小名
(
せうみやう
)
にもなり、
142
大名
(
だいみやう
)
にもなつて、
143
時
(
とき
)
めき
渡
(
わた
)
ることが
出来
(
でき
)
ますが、
144
私
(
わたし
)
のやうな
硬骨漢
(
かうこつかん
)
になると、
145
上流
(
じやうりう
)
の
奴
(
やつ
)
、
146
彼奴
(
あいつ
)
ア
頑迷
(
ぐわんめい
)
だとか、
147
剛腹
(
がうふく
)
だとか、
148
融通
(
ゆうづう
)
が
利
(
き
)
かないとか、
149
野心家
(
やしんか
)
だとか、
150
過激
(
くわげき
)
主義
(
しゆぎ
)
だとか、
151
反抗
(
はんかう
)
主義
(
しゆぎ
)
だとか、
152
生意気
(
なまいき
)
だとか、
153
猪口才
(
ちよこざい
)
だとか、
154
何
(
なん
)
とかかんとか、
155
種々
(
しゆじゆ
)
の
称号
(
しやうがう
)
をつけて、
156
頭
(
あたま
)
を
抑
(
おさ
)
へるのみならず、
157
グヅグヅしてゐると
寒海
(
かんかい
)
から
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
されて
了
(
しま
)
ふのですから、
158
人生
(
じんせい
)
、
159
米搗虫
(
こめつきむし
)
位
(
ぐらゐ
)
惨
(
みじ
)
めな
者
(
もの
)
はありませぬよ。
160
実
(
じつ
)
に
悲哀
(
ひあい
)
極
(
きは
)
まる
者
(
もの
)
は
官吏
(
くわんり
)
生活
(
せいくわつ
)
ですよ。
161
ハヽヽヽ』
162
甲
(
かふ
)
『
全体
(
ぜんたい
)
、
163
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
の
人間
(
にんげん
)
は、
164
国
(
くに
)
は
大
(
おほ
)
きうても、
165
小人物
(
せうじんぶつ
)
許
(
ばか
)
りで、
166
到底
(
たうてい
)
世界
(
せかい
)
強国
(
きやうこく
)
の
班
(
はん
)
に
列
(
れつ
)
するの
光栄
(
くわうえい
)
を
永続
(
えいぞく
)
することは
不可能
(
ふかのう
)
でせう。
167
外交
(
ぐわいかう
)
はカラツキシなつてゐないし、
168
強国
(
きやうこく
)
の
鼻息
(
はないき
)
を
伺
(
うかが
)
ふこと
計
(
ばか
)
りに
汲々乎
(
きふきふこ
)
とし、
169
内政
(
ないせい
)
は
人民
(
じんみん
)
の
自由
(
じいう
)
意志
(
いし
)
を
圧迫
(
あつぱく
)
し、
170
少
(
すこ
)
しく
骨
(
ほね
)
のある
人間
(
にんげん
)
は、
171
何
(
なん
)
とかカンとかいつては、
172
牢獄
(
らうごく
)
へブチ
込
(
こ
)
み、
173
天人若
(
アマンジヤク
)
斗
(
ばか
)
りを
登用
(
とうよう
)
して
顕要
(
けんえう
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
就
(
つ
)
かしめ、
174
己
(
おの
)
れに
諛
(
こ
)
び
諂
(
へつ
)
らふ
者
(
もの
)
のみ
抜擢
(
ばつてき
)
して、
175
愚者
(
ぐしや
)
、
176
卑劣漢
(
ひれつかん
)
のみが
高
(
たか
)
いところに
蠢動
(
しゆんどう
)
してゐるのだから、
177
到底
(
たうてい
)
国家
(
こくか
)
の
存立
(
そんりつ
)
も
覚束
(
おぼつか
)
ないではありませぬか。
178
今
(
いま
)
の
時
(
とき
)
に
当
(
あた
)
つて、
179
本当
(
ほんたう
)
に
国家
(
こくか
)
を
思
(
おも
)
ふ
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
、
180
又
(
また
)
は
愛善
(
あいぜん
)
の
徳
(
とく
)
にみちた
大真人
(
だいしんじん
)
が
現
(
あら
)
はれなくちや
駄目
(
だめ
)
でせうよ』
181
乙
(
おつ
)
『さうですなア、
182
私
(
わたくし
)
の
考
(
かんが
)
へでは、
183
茲
(
ここ
)
二三
(
にさん
)
年
(
ねん
)
の
間
(
あひだ
)
には、
184
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
の
大国難
(
だいこくなん
)
が
襲来
(
しふらい
)
するだらうと
思
(
おも
)
ひます。
185
大番頭
(
おほばんとう
)
も、
186
其
(
その
)
他
(
た
)
の
納言
(
なごん
)
も、
187
どうも
怪
(
あや
)
しい
怪
(
あや
)
しいと
何時
(
いつ
)
も
芝生
(
しばふ
)
に
頭
(
あたま
)
を
鳩
(
あつ
)
めて、
188
青息
(
あをいき
)
吐息
(
といき
)
で
相談
(
さうだん
)
をやつてゐますが、
189
何
(
いづ
)
れも
策
(
さく
)
の
施
(
ほどこ
)
しやうがないと
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
ります。
190
何
(
なん
)
といつても
今
(
いま
)
の
世情
(
せじやう
)
は、
191
宗教
(
しうけう
)
を
邪魔物
(
じやまもの
)
扱
(
あつか
)
ひし、
192
物質
(
ぶつしつ
)
本能
(
ほんのう
)
主義
(
しゆぎ
)
を
極端
(
きよくたん
)
に
発揮
(
はつき
)
し、
193
何事
(
なにごと
)
も
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
黄金
(
わうごん
)
さへあれば
解決
(
かいけつ
)
がつく
様
(
やう
)
に
誤解
(
ごかい
)
してゐたものですから、
194
従
(
したが
)
つて
国民
(
こくみん
)
教育
(
けういく
)
も
全部
(
ぜんぶ
)
物質
(
ぶつしつ
)
主義
(
しゆぎ
)
に
傾
(
かたむ
)
き、
195
国民
(
こくみん
)
信仰
(
しんかう
)
の
基礎
(
きそ
)
がぐらついて、
196
殆
(
ほとん
)
ど
精神
(
せいしん
)
的
(
てき
)
破産
(
はさん
)
に
瀕
(
ひん
)
してゐるのですから、
197
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
頽勢
(
たいせい
)
を
挽回
(
ばんくわい
)
する
望
(
のぞ
)
みはありますまい。
198
今
(
いま
)
に
世界
(
せかい
)
は
七大
(
しちだい
)
強国
(
きやうこく
)
となり、
199
十数
(
じふすう
)
年
(
ねん
)
の
後
(
のち
)
には、
200
世界
(
せかい
)
は
二大
(
にだい
)
強国
(
きやうこく
)
に
分
(
わか
)
れると
云
(
い
)
ふ
趨勢
(
すうせい
)
ですが、
201
どうかして
印度
(
つき
)
の
国
(
くに
)
も、
202
二大
(
にだい
)
強国
(
きやうこく
)
の
一
(
ひとつ
)
に
入
(
い
)
りたいものですが、
203
今日
(
こんにち
)
の
頭株
(
あたまかぶ
)
の
施政
(
しせい
)
方針
(
はうしん
)
では、
204
亡国
(
ばうこく
)
より
道
(
みち
)
はありませぬ。
205
物価
(
ぶつか
)
は
高
(
たか
)
く、
206
官吏
(
くわんり
)
は
多
(
おほ
)
く、
207
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
人民
(
じんみん
)
も
多
(
おほ
)
くして、
208
生存難
(
せいぞんなん
)
は
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
に
至
(
いた
)
り、
209
強盗
(
がうたう
)
殺人
(
さつじん
)
騒擾
(
さうぜう
)
なども、
210
無道
(
むだう
)
的
(
てき
)
行為
(
かうゐ
)
は
到
(
いた
)
る
処
(
ところ
)
に
瀕発
(
ひんぱつ
)
し、
211
仁義
(
じんぎ
)
道徳
(
だうとく
)
地
(
ち
)
に
堕
(
お
)
ち、
212
人心
(
じんしん
)
は
虎狼
(
こらう
)
の
如
(
ごと
)
く
相荒
(
あひすさ
)
び、
213
親子
(
おやこ
)
兄弟
(
きやうだい
)
の
間
(
あひだ
)
も
利害
(
りがい
)
のためには
仇敵
(
きうてき
)
も
只
(
ただ
)
ならざる
人情
(
にんじやう
)
、
214
教育
(
けういく
)
の
力
(
ちから
)
も
宗教
(
しうけう
)
の
力
(
ちから
)
も、
215
サツパリ
零
(
ぜろ
)
です。
216
否
(
いな
)
宗教
(
しうけう
)
は
益々
(
ますます
)
悪人
(
あくにん
)
を
養成
(
やうせい
)
し、
217
経済学
(
けいざいがく
)
は
国家
(
こくか
)
民人
(
みんじん
)
を
貧窮
(
ひんきう
)
に
陥
(
おとしい
)
れ、
218
法律
(
はふりつ
)
は
善人
(
ぜんにん
)
を
疎外
(
そぐわい
)
し、
219
智者
(
ちしや
)
を
採用
(
さいよう
)
し、
220
医学
(
いがく
)
は
人
(
ひと
)
の
生命
(
せいめい
)
を
縮
(
ちぢ
)
め、
221
道徳
(
だうとく
)
は
悪人
(
あくにん
)
が
虚偽
(
きよぎ
)
的
(
てき
)
生活
(
せいくわつ
)
の
要具
(
えうぐ
)
となり、
222
商業
(
しやうげふ
)
は
公然
(
こうぜん
)
の
詐偽師
(
さぎし
)
となり、
223
一
(
いつ
)
として
国家
(
こくか
)
を
維持
(
ゐぢ
)
し
国力
(
こくりよく
)
を
進展
(
しんてん
)
せしむるものは
見当
(
みあた
)
りませぬ。
224
それだから
私
(
わたし
)
も
一
(
ひと
)
つ
奮発
(
ふんぱつ
)
して、
225
国家
(
こくか
)
の
滅亡
(
めつぼう
)
を
未然
(
みぜん
)
に
防
(
ふせ
)
ぎ
度
(
た
)
いと
焦慮
(
せうりよ
)
して
居
(
を
)
りますが、
226
何分
(
なにぶん
)
衣食住
(
いしよくぢう
)
に
追
(
お
)
はれてゐるものですから
手
(
て
)
の
出
(
だ
)
し
様
(
やう
)
がありませぬ。
227
米搗虫
(
こめつきむし
)
の
地位
(
ちゐ
)
を
利用
(
りよう
)
して
賄賂
(
わいろ
)
でもどしどし
取
(
と
)
れば、
228
又
(
また
)
寒海
(
かんかい
)
を
辞
(
じ
)
した
時
(
とき
)
、
229
社会
(
しやくわい
)
に
活動
(
くわつどう
)
するの
余祐
(
よゆう
)
も
出来
(
でき
)
るでせうが、
230
それは
私
(
わたし
)
には
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ない
芸当
(
げいたう
)
です。
231
とやせむかくやせむと
国家
(
こくか
)
の
前途
(
ぜんと
)
を
思
(
おも
)
ひ、
232
日夜
(
にちや
)
肺肝
(
はいかん
)
を
砕
(
くだ
)
いてをりますが、
233
心
(
こころ
)
許
(
ばか
)
り
焦
(
あせ
)
つて、
234
其
(
その
)
実行
(
じつかう
)
の
緒
(
いとぐち
)
につく
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないのは
遺憾
(
ゐかん
)
千万
(
せんばん
)
で
厶
(
ござ
)
います』
235
甲
(
かふ
)
『
今
(
いま
)
貴方
(
あなた
)
は、
236
官
(
くわん
)
を
辞
(
じ
)
したら、
237
衣食住
(
いしよくぢう
)
に
忽
(
たちま
)
ち
困
(
こま
)
るから、
238
国家
(
こくか
)
の
大事
(
だいじ
)
を
前途
(
ぜんと
)
に
控
(
ひか
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
239
活動
(
くわつどう
)
することが
出来
(
でき
)
ないといはれましたが、
240
それは
貴方
(
あなた
)
の
薄志
(
はくし
)
弱行
(
じやくかう
)
といふものです。
241
徒
(
いたづ
)
らに
切歯
(
せつし
)
扼腕
(
やくわん
)
慷慨
(
かうがい
)
悲憤
(
ひふん
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれてゐた
所
(
ところ
)
で、
242
社会
(
しやくわい
)
に
対
(
たい
)
して
寸効
(
すんかう
)
も
上
(
あが
)
らないでせう。
243
納言
(
なごん
)
になる
丈
(
だけ
)
の
腕
(
うで
)
を
持
(
も
)
つた
貴方
(
あなた
)
なれば、
244
民間
(
みんかん
)
に
下
(
くだ
)
つて
何
(
なに
)
事業
(
じげふ
)
をせられても
屹度
(
きつと
)
相当
(
さうたう
)
の
収益
(
しうえき
)
もあり、
245
又
(
また
)
成功
(
せいこう
)
もするでせう。
246
人
(
ひと
)
は
断
(
だん
)
の
一字
(
いちじ
)
が
肝腎
(
かんじん
)
ですよ。
247
空中
(
くうちう
)
を
翔
(
かけ
)
る
鳥
(
とり
)
でさへも、
248
何
(
なん
)
の
貯
(
たくは
)
へもして
居
(
を
)
りませぬが、
249
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
は、
250
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
を
安全
(
あんぜん
)
に
養
(
やしな
)
つてゐるだありませぬか。
251
窮屈
(
きうくつ
)
な
不快
(
ふくわい
)
な
寒吏
(
かんり
)
生活
(
せいくわつ
)
を
罷
(
や
)
めて、
252
正々
(
せいせい
)
堂々
(
だうだう
)
と
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に、
253
何
(
なに
)
か
事業
(
じげふ
)
をおやりなさつたら
何
(
ど
)
うです。
254
活動
(
くわつどう
)
は
屹度
(
きつと
)
衣食住
(
いしよくぢう
)
を
生
(
う
)
み
出
(
だ
)
すものです。
255
何
(
なに
)
を
苦
(
くる
)
しんで
官費
(
くわんぴ
)
に
可惜
(
あたら
)
貴重
(
きちよう
)
な
生命
(
せいめい
)
を
固持
(
こじ
)
する
必要
(
ひつえう
)
がありますか』
256
乙
(
おつ
)
『お
説
(
せつ
)
は
一応
(
いちおう
)
御尤
(
ごもつと
)
もですが、
257
吾々
(
われわれ
)
は
悲
(
かな
)
しいことには
父母
(
ふぼ
)
の
膝
(
ひざ
)
をかぢつて、
258
小学
(
せうがく
)
、
259
中学
(
ちうがく
)
、
260
大学
(
だいがく
)
と
一通
(
ひととほ
)
りの
学問
(
がくもん
)
の
経路
(
けいろ
)
を
越
(
こ
)
え、
261
学窓
(
がくさう
)
生活
(
せいくわつ
)
のみに
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
り
社会
(
しやくわい
)
一般
(
いつぱん
)
の
事情
(
じじやう
)
に
通
(
つう
)
ぜず、
262
又
(
また
)
苦労
(
くらう
)
をしたこともなし、
263
今
(
いま
)
となつては
乗馬
(
じやうめ
)
おろしの
様
(
やう
)
なもので、
264
寒海
(
かんかい
)
を
離
(
はな
)
れたならば、
265
何一
(
なにひと
)
つ
社会
(
しやくわい
)
に
立
(
た
)
つて
働
(
はたら
)
く
仕事
(
しごと
)
がありませぬ。
266
新聞
(
しんぶん
)
記者
(
きしや
)
にでもなるか、
267
或
(
あるひ
)
は
三百
(
さんびやく
)
代言
(
だいげん
)
の
毛
(
け
)
の
生
(
は
)
えた
如
(
や
)
うな
者
(
もの
)
になるより
行
(
や
)
り
場
(
ば
)
のない
厄介者
(
やくかいもの
)
ですからな』
268
甲
(
かふ
)
『
凡
(
すべ
)
て
人民
(
じんみん
)
の
風上
(
かざかみ
)
に
立
(
た
)
つ
役人
(
やくにん
)
たる
者
(
もの
)
は、
269
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
迄
(
まで
)
、
270
之
(
これ
)
が
一
(
ひと
)
つ
出来
(
でき
)
ないといふ
事
(
こと
)
のない
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
、
271
経験
(
けいけん
)
を
積
(
つ
)
まねばならず、
272
又
(
また
)
人情
(
にんじやう
)
にも
通
(
つう
)
じてゐなくてはならない
筈
(
はず
)
だのに、
273
今日
(
こんにち
)
の
官吏
(
くわんり
)
なる
者
(
もの
)
は、
274
凡
(
すべ
)
て
社会
(
しやくわい
)
と
没交渉
(
ぼつかうせふ
)
で、
275
何一
(
なにひと
)
つの
芸能
(
げいのう
)
もなく、
276
無味
(
むみ
)
乾燥
(
かんさう
)
な
法律学
(
はふりつがく
)
のみに
頭
(
あたま
)
を
固
(
かた
)
めてゐるのだから、
277
風流
(
ふうりう
)
とか
温雅
(
をんが
)
とか、
278
思
(
おも
)
いやりとかの
美徳
(
びとく
)
が
備
(
そなは
)
つてゐない。
279
そんな
連中
(
れんちう
)
が
世話
(
せわ
)
の
衝
(
しよう
)
に
当
(
あた
)
つてゐるのだから、
280
民衆
(
みんしう
)
が
号泣
(
がうきふ
)
の
声
(
こゑ
)
も
塗炭
(
とたん
)
の
苦
(
くる
)
しみも
目
(
め
)
に
入
(
い
)
らず
耳
(
みみ
)
に
聞
(
きこ
)
えず、
281
世
(
よ
)
は
益々
(
ますます
)
悪化
(
あくくわ
)
する
許
(
ばか
)
り、
282
之
(
これ
)
では
一
(
ひと
)
つ
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
の
大活動
(
だいくわつどう
)
を
待
(
ま
)
たねば、
283
到底
(
たうてい
)
暗黒
(
あんこく
)
社会
(
しやくわい
)
の
黎明
(
れいめい
)
を
期待
(
きたい
)
することは
難
(
むつか
)
しいでせう。
284
あゝ
困
(
こま
)
つた
世態
(
せたい
)
になつたものだなア』
285
乙
(
おつ
)
『
仮
(
かり
)
に
私
(
わたし
)
が
官
(
くわん
)
を
辞
(
じ
)
し、
286
民間
(
みんかん
)
に
降
(
くだ
)
るとすれば、
287
どうでせう、
288
何
(
なに
)
職業
(
しよくげふ
)
を
選
(
えら
)
むべきでせうか。
289
どうか
一
(
ひと
)
つ
智恵
(
ちゑ
)
を
貸
(
か
)
して
頂
(
いただ
)
きたいものですな』
290
甲
(
かふ
)
『
貴方
(
あなた
)
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
でせう。
291
人
(
ひと
)
に
智恵
(
ちゑ
)
を
借
(
か
)
つてやるよなことでは、
292
何
(
なに
)
事業
(
じげふ
)
だつて、
293
成功
(
せいこう
)
するものだありませぬよ。
294
自分
(
じぶん
)
が
自分
(
じぶん
)
を
了解
(
れうかい
)
してゐられないのだから、
295
……
先
(
ま
)
づ……
斯
(
か
)
ういふと
失礼
(
しつれい
)
だが……
貴方
(
あなた
)
の
適業
(
てきげふ
)
と
云
(
い
)
へば
山賊
(
さんぞく
)
でせう』
296
乙
(
おつ
)
『これは
怪
(
け
)
しからぬ。
297
私
(
わたし
)
がそれ
程
(
ほど
)
悪人
(
あくにん
)
に
見
(
み
)
えますか。
298
私
(
わたし
)
も
印度
(
いんど
)
男子
(
だんし
)
です。
299
腐
(
くさ
)
つても
鯛
(
たい
)
、
300
苟
(
いやしく
)
も
納言
(
なごん
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
登
(
のぼ
)
つた
紳士
(
しんし
)
の
身
(
み
)
であり
乍
(
なが
)
ら、
301
山賊
(
さんぞく
)
が
適任
(
てきにん
)
とは、
302
余
(
あま
)
り
御
(
ご
)
過言
(
くわごん
)
ではありますまいか』
303
甲
(
かふ
)
『ハヽヽ、
304
納言
(
なごん
)
となれば
何
(
いづ
)
れ
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
の
小泥棒
(
こどろぼう
)
を
監督
(
かんとく
)
してゐられたでせう。
305
さうすれば
貴方
(
あなた
)
は
今日
(
こんにち
)
迄
(
まで
)
、
306
立派
(
りつぱ
)
な
役人
(
やくにん
)
と
表面
(
へうめん
)
上
(
じやう
)
見
(
み
)
えて
居
(
を
)
つても、
3061
寒賊
(
かんぞく
)
の
親分
(
おやぶん
)
だ、
307
寒賊
(
かんぞく
)
が
山賊
(
さんぞく
)
になるのは、
308
適材
(
てきざい
)
を
適所
(
てきしよ
)
に
用
(
もち
)
ふるといふものです。
309
あのオーラ
山
(
さん
)
のヨリコ
姫
(
ひめ
)
、
310
シーゴー、
311
玄真坊
(
げんしんばう
)
などを
御覧
(
ごらん
)
なさい。
312
堂々
(
だうだう
)
と
山寨
(
さんさい
)
に
立籠
(
たてこも
)
り、
313
三千
(
さんぜん
)
の
部下
(
ぶか
)
を
指揮
(
しき
)
し、
314
王者然
(
わうじやぜん
)
と
控
(
ひか
)
へてゐたではありませぬか。
315
表面
(
へうめん
)
納言
(
なごん
)
などと、
316
こけ
威
(
おど
)
しの
看板
(
かんばん
)
を
掲
(
かか
)
げ、
317
レツテルを
吊
(
つ
)
らくつて
人民
(
じんみん
)
の
膏血
(
かうけつ
)
を
絞
(
しぼ
)
り、
318
賄賂
(
わいろ
)
をとり、
319
弱者
(
じやくしや
)
を
苦
(
くる
)
しめ、
320
強者
(
きやうしや
)
の
鼻息
(
はないき
)
を
窺
(
うかが
)
ひ、
321
且
(
か
)
つ
上長
(
じやうちやう
)
の
機嫌
(
きげん
)
を
取
(
と
)
り、
322
女性
(
ぢよせい
)
的
(
てき
)
卑劣
(
ひれつ
)
極
(
きは
)
まる
偽善
(
ぎぜん
)
的
(
てき
)
泥棒
(
どろぼう
)
を
行
(
や
)
つて
居
(
ゐ
)
るよりも、
323
シーゴーの
様
(
やう
)
に
堂々
(
だうだう
)
と
泥棒
(
どろばう
)
の
看板
(
かんばん
)
を
掲
(
かか
)
げてやつてる
方
(
はう
)
が、
324
余程
(
よほど
)
男
(
をとこ
)
らしいだありませぬか。
325
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
上
(
うへ
)
から
下
(
した
)
迄
(
まで
)
泥棒
(
どろばう
)
斗
(
ばか
)
りです。
326
況
(
ま
)
して
泥棒
(
どろばう
)
をせない
官吏
(
くわんり
)
は
一人
(
ひとり
)
もないでせう。
327
人権
(
じんけん
)
蹂躙
(
じうりん
)
の
張本
(
ちやうほん
)
、
328
圧迫
(
あつぱく
)
の
権化
(
ごんげ
)
、
329
鬼
(
おに
)
の
再来
(
さいらい
)
、
330
幽霊
(
いうれい
)
の
再生
(
さいせい
)
、
331
骸骨
(
がいこつ
)
の
躍動
(
やくどう
)
、
332
女房
(
にようばう
)
の
機嫌
(
きげん
)
取
(
と
)
り、
333
寒商
(
かんしやう
)
の
番頭
(
ばんとう
)
などをやつてゐるよりも、
334
幾数倍
(
いくすうばい
)
か
山賊
(
さんぞく
)
の
方
(
はう
)
が
男性
(
だんせい
)
的
(
てき
)
でせう、
335
ハヽヽヽヽ。
336
イヤ
失礼
(
しつれい
)
、
337
天性
(
てんせい
)
の
皮肉屋
(
ひにくや
)
、
338
悪口屋
(
あくこうや
)
ですから、
339
何
(
ど
)
うぞ
大目
(
おほめ
)
にみて
下
(
くだ
)
さい……イヤ
大耳
(
おほみみ
)
に
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さい』
340
シーゴーは
二人
(
ふたり
)
の
話
(
はなし
)
を、
341
背
(
せ
)
をそむけ
乍
(
なが
)
ら、
342
耳
(
みみ
)
をすまして
聞
(
き
)
いてゐた。
343
そして
時々
(
ときどき
)
微笑
(
びせう
)
したり、
344
溜息
(
ためいき
)
をついたり、
345
或
(
ある
)
時
(
とき
)
は
肩
(
かた
)
をそびやかしたり、
346
平手
(
ひらて
)
で
額口
(
ひたひぐち
)
を
打
(
う
)
つたり、
347
両方
(
りやうはう
)
の
手
(
て
)
で
顔
(
かほ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ふたり、
348
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
いたりしてゐた。
349
そして
彼
(
かれ
)
シーゴーは
自分
(
じぶん
)
が
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
、
350
オーラ
山
(
さん
)
でヨリコ
姫
(
ひめ
)
を
謀師
(
ぼうし
)
とし、
351
山賊
(
さんぞく
)
の
大頭目
(
だいとうもく
)
として
豺狼
(
さいらう
)
の
如
(
ごと
)
き
悪人輩
(
あくにんばら
)
を
使役
(
しえき
)
してゐたのは、
352
余
(
あま
)
り
良心
(
りやうしん
)
に
恥
(
は
)
づる
行動
(
かうどう
)
でもなかつた、
353
印度
(
いんど
)
男子
(
だんし
)
の
典型
(
てんけい
)
は
俺
(
おれ
)
だ、
354
如何
(
いか
)
にも
寒狸
(
かんり
)
といふ
奴
(
やつ
)
、
355
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
な
小泥棒
(
こどろぼう
)
だ、
356
到底
(
たうてい
)
俺
(
おれ
)
の
敵
(
てき
)
ではない。
357
ヤツパリ
俺
(
おれ
)
は
偉
(
えら
)
いワイ、
358
三五教
(
あななひけう
)
の
梅公
(
うめこう
)
さまの
威徳
(
ゐとく
)
に
打
(
うた
)
れて、
359
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
に
改悛
(
かいしゆん
)
帰順
(
きじゆん
)
を
表
(
へう
)
したものの、
360
今
(
いま
)
となつて
考
(
かんが
)
へてみれば
実
(
じつ
)
に
惜
(
を
)
しいことをした。
361
最早
(
もはや
)
六日
(
むゆか
)
の
菖蒲
(
あやめ
)
十日
(
とをか
)
の
菊
(
きく
)
だ。
362
併
(
しかし
)
乍
(
なが
)
ら
俺
(
おれ
)
が
偉
(
えら
)
いのではない、
363
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
女帝
(
によてい
)
の
縦横
(
じうわう
)
の
智略
(
ちりやく
)
、
364
権謀
(
けんぼう
)
術数
(
じゆつすう
)
的
(
てき
)
妙案
(
めうあん
)
奇策
(
きさく
)
が
与
(
あづか
)
つて
力
(
ちから
)
あつたのだ。
365
ヨリコさま
女帝
(
によてい
)
も
此
(
この
)
話
(
はなし
)
は
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
つただろ、
366
どうか
自分
(
じぶん
)
と
同様
(
どうやう
)
に
心
(
こころ
)
を
翻
(
ひるが
)
へして
呉
(
く
)
れないか
知
(
し
)
らん。
367
大黒主
(
おほくろぬし
)
だつて
大泥棒
(
おほどろばう
)
だ、
368
勝
(
か
)
てば
善神
(
ぜんしん
)
、
369
負
(
ま
)
くれば
悪神
(
あくがみ
)
だ。
370
善悪
(
ぜんあく
)
正邪
(
せいじや
)
は
要
(
えう
)
するに
優勝
(
いうしよう
)
劣敗
(
れつぱい
)
の
称号
(
しやうがう
)
だ。
371
なまじひ、
372
菩提心
(
ぼだいしん
)
を
起
(
おこ
)
し、
373
宗教
(
しうけう
)
なんかに
溺没
(
できぼつ
)
したのは
一生
(
いつしやう
)
の
不覚
(
ふかく
)
だつた。
374
今
(
いま
)
の
話
(
はなし
)
で
聞
(
き
)
くと、
375
宗教家
(
しうけうか
)
だつてヤツパリ
一種
(
いつしゆ
)
の
泥棒
(
どろばう
)
だ。
376
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
顔
(
かほ
)
だとか、
377
恥
(
はぢ
)
だとかいつて
気
(
き
)
にかけてるよな
小人物
(
せうじんぶつ
)
では、
378
生存
(
せいぞん
)
競争
(
きやうそう
)
の
激烈
(
げきれつ
)
なる
現代
(
げんだい
)
に
立
(
た
)
つて、
379
生存
(
せいぞん
)
するこた
出来
(
でき
)
ない。
380
あゝ
何
(
ど
)
うしたら
可
(
よ
)
からうかな。
381
一旦
(
いつたん
)
男
(
をとこ
)
の
口
(
くち
)
から
神仏
(
しんぶつ
)
に
誓
(
ちか
)
つて
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めますと
云
(
い
)
つた
以上
(
いじやう
)
、
382
此
(
この
)
宣誓
(
せんせい
)
を
撤回
(
てつくわい
)
する
訳
(
わけ
)
にもいかない。
383
それでは
男子
(
だんし
)
たるの
資格
(
しかく
)
はゼロになつて
了
(
しま
)
ふ……と
吐息
(
といき
)
をついてゐる。
384
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
は
微笑
(
びせう
)
を
泛
(
うか
)
べ
乍
(
なが
)
ら、
385
シーゴーの
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
り、
386
『
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
に
雲
(
くも
)
立
(
た
)
ちて
387
月日
(
つきひ
)
は
暗
(
やみ
)
に
包
(
つつ
)
まれにける。
388
右
(
みぎ
)
やせむ
左
(
ひだり
)
やせむとシーゴーが
389
動
(
うご
)
く
心
(
こころ
)
の
浅
(
あさ
)
ましきかな。
390
男子
(
をのこ
)
てふものの
心
(
こころ
)
の
弱
(
よわ
)
きをば
391
今
(
いま
)
目
(
ま
)
のあたり
見
(
み
)
るぞうたてき。
392
惟神
(
かむながら
)
神
(
かみ
)
のまにまに
進
(
すす
)
みゆけ
393
救
(
すく
)
ひの
舟
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
りし
身
(
み
)
なれば』
394
シーゴー『
煩悩
(
ぼんなう
)
の
犬
(
いぬ
)
に
追
(
お
)
はれて
吾
(
われ
)
は
今
(
いま
)
395
あはや
地獄
(
ぢごく
)
に
堕
(
お
)
ちなむとせり。
396
うるはしき
汝
(
なれ
)
が
言霊
(
ことたま
)
聞
(
き
)
くにつけ
397
胸
(
むね
)
の
雲霧
(
くもきり
)
晴
(
は
)
れわたりける』
398
ヨリコ『み
救
(
すく
)
ひの
神船
(
みふね
)
に
乗
(
の
)
りし
吾々
(
われわれ
)
は
399
神
(
かみ
)
のまにまに
世
(
よ
)
を
渡
(
わた
)
りなむ』
400
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
はシーゴーの
手
(
て
)
を
執
(
と
)
り、
401
船舷
(
ふなばた
)
に
立
(
た
)
ち、
402
東方
(
とうはう
)
に
向
(
むか
)
つて
折柄
(
をりから
)
昇
(
のぼ
)
る
旭
(
あさひ
)
を
拝
(
はい
)
し、
403
梅公
(
うめこう
)
に
導
(
みちび
)
かれて
宣伝
(
せんでん
)
の
旅
(
たび
)
に
着
(
つ
)
きたる
事
(
こと
)
を
感謝
(
かんしや
)
し、
404
且
(
かつ
)
天地
(
てんち
)
に
向
(
むか
)
つて
次
(
つぎ
)
の
如
(
ごと
)
き
誓
(
ちか
)
ひを
立
(
た
)
てた。
405
『
一
(
いち
)
、
406
愛善
(
あいぜん
)
の
徳
(
とく
)
と
信真
(
しんしん
)
の
光
(
ひかり
)
に
充
(
み
)
ち
智慧
(
ちゑ
)
証覚
(
しようかく
)
の
源泉
(
げんせん
)
に
坐
(
ま
)
す
407
天地
(
てんち
)
の
太祖
(
たいそ
)
大国常立
(
おほくにとこたちの
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
ご
)
神格
(
しんかく
)
に
帰依
(
きえ
)
し
奉
(
まつ
)
り、
408
天下
(
てんか
)
の
蒼生
(
さうせい
)
と
共
(
とも
)
に
無上
(
むじやう
)
惟神
(
かむながら
)
の
大道
(
だいだう
)
を
歩
(
あゆ
)
まむことを
祈願
(
きぐわん
)
し
奉
(
たてまつ
)
る。
409
二
(
に
)
、
410
大祖神
(
だいそしん
)
の
宣示
(
せんじ
)
し
給
(
たま
)
ひし
惟神
(
かむながら
)
の
大道
(
だいだう
)
を
遵奉
(
じゆんぽう
)
し、
411
愛善
(
あいぜん
)
信真
(
しんしん
)
の
諸光徳
(
しよくわうとく
)
に
住
(
ぢう
)
し、
412
大海
(
だいかい
)
の
如
(
ごと
)
き
智慧
(
ちゑ
)
証覚
(
しようかく
)
の
内流
(
ないりう
)
を
拝
(
はい
)
し、
413
天下
(
てんか
)
の
蒼生
(
さうせい
)
と
共
(
とも
)
に
斯
(
こ
)
の
大道
(
だいだう
)
を
遵奉
(
じゆんぽう
)
し、
414
三界
(
さんかい
)
を
通
(
つう
)
じて
神子
(
しんし
)
たるの
本分
(
ほんぶん
)
を
完全
(
くわんぜん
)
に
保持
(
ほぢ
)
し、
415
神
(
かみ
)
の
任
(
よ
)
さしの
神業
(
かむわざ
)
に
奉仕
(
ほうし
)
せむ
事
(
こと
)
を
祈願
(
きぐわん
)
し
奉
(
たてまつ
)
る。
416
三
(
さん
)
、
417
天下
(
てんか
)
の
蒼生
(
さうせい
)
を
愛撫
(
あいぶ
)
し、
418
神業
(
しんげふ
)
を
完成
(
くわんせい
)
し、
419
厳瑞
(
げんずゐ
)
二霊
(
にれい
)
の
大神格
(
だいしんかく
)
を
一身
(
いつしん
)
に
蒐
(
あつ
)
め、
420
神世
(
しんせい
)
復古
(
ふくこ
)
万有愛
(
ばんいうあい
)
の
実行
(
じつかう
)
に
就
(
つ
)
かせ
給
(
たま
)
ふ
伊都能売
(
いづのめの
)
神柱
(
かむばしら
)
の
神格
(
しんかく
)
に
帰依
(
きえ
)
し、
421
絶対
(
ぜつたい
)
的
(
てき
)
服従
(
ふくじゆう
)
の
至誠
(
しせい
)
を
以
(
もつ
)
て
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
し、
422
大神
(
おほかみ
)
の
聖慮
(
せいりよ
)
に
叶
(
かな
)
ひ
奉
(
まつ
)
り、
423
一切
(
いつさい
)
無碍
(
むげ
)
の
神教
(
しんけう
)
を
普
(
あまね
)
く
四海
(
しかい
)
に
宣伝
(
せんでん
)
し、
424
斯道
(
しだう
)
の
大本
(
たいほん
)
を
以
(
もつ
)
て
暗黒
(
あんこく
)
無明
(
むみやう
)
の
現代
(
げんだい
)
を
照暉
(
せうき
)
し、
425
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
たるの
本分
(
ほんぶん
)
を
竭
(
つく
)
し
奉
(
まつ
)
らむ
事
(
こと
)
を
誓
(
ちか
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
り、
426
罪悪
(
ざいあく
)
の
身
(
み
)
を
清
(
きよ
)
め
免
(
ゆ
)
るし
給
(
たま
)
ひて、
427
神業
(
しんげふ
)
の
一端
(
いつたん
)
に
使役
(
しえき
)
されむことを
祈願
(
きぐわん
)
し
奉
(
たてまつ
)
る』
428
(
大正一三・一二・二
新一二・二七
於祥雲閣
松村真澄
録)
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