霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二一章 針灸(しんきゆう)思想(しさう)〔一七二三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻 篇:第4篇 山色連天 よみ(新仮名遣い):さんしょくれんてん
章:第21章 針灸思想 よみ(新仮名遣い):しんきゅうしそう 通し章番号:1723
口述日:1924(大正13)年12月29日(旧12月4日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年8月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
今回の事件で、アリナは一ケ月の謹慎を命じられる。父のガンヂーも城内を騒がせた責任を感じ、自ら謹慎を守っていた。
ガンヂーは今回の騒ぎを引き起こした息子の不思慮を責める。
アリナは、城内を騒がせ驚かせたことについて自分の罪を認めるが、父が刃傷沙汰を起こした事を逆に責める。
ガンヂーは、刃傷沙汰は右守の不忠を誅せんとしたのであり、太子の思想を蝕むアリナの方が国家にとって脅威であると責める。
アリナは父の過去の所業を挙げ、現在のタラハン国衰退の原因としてガンヂーを責める。
ガンヂーは父の権威を嵩に着るが、アリナは自分が太子の寵臣であり、左守である父でさえも自由にすることはできないと反論する。
アリナは言論の自由、個人の人格をたてとし、個性を十分発達させることが天地の分霊としての働きを十二分に発揮させることである、と論を展開する。
ガンヂーはあくまで圧迫こそが政治・支配の鉄則であると主張する。国家を一つにまとめあげるためには、王家を中心にして国民を団結させる必要がある、と説くが、アリナはあくまで譲らない。
ガンヂーは息子の態度を嘆き、国家の滅亡を心配する。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm6721
愛善世界社版:275頁 八幡書店版:第12輯 133頁 修補版: 校定版:278頁 普及版:68頁 初版: ページ備考:
001 左守(さもり)(せがれ)アリナは、002評議(ひやうぎ)結果(けつくわ)(いつ)(げつ)謹慎(きんしん)(めい)ぜられ、003(ちち)(やかた)()()められて()た。004左守司(さもりつかさ)のガンヂーも(べつ)(わう)からの(とが)めはなけれども、005殿中(でんちう)(さわが)右守(うもり)刃傷(にんじやう)した(その)責任(せきにん)()ひ、006(みづか)(もん)()謹慎(きんしん)(まも)つて()た。
007ガンヂー『オイ(せがれ)008貴様(きさま)(なん)()不埒(ふらち)(こと)(いた)したのだ。009貴様(きさま)がいつも太子(たいし)(きみ)(おだ)()げ、010共産(きようさん)主義(しゆぎ)だとか、011人類(じんるい)愛善(あいぜん)だとか、012ハイカラ(てき)新思想(しんしさう)()()むものだから、013あんな()精神(せいしん)におなり(あそ)ばされ、014万代(ばんだい)不易(ふえき)王統(わうとう)()(こと)をお(きら)いなされ、015殿内(でんない)()()し、016(うへ)大王(だいわう)殿下(でんか)(はじ)(たてまつ)り、017(この)(ちち)老臣(らうしん)(ども)心配(しんぱい)をかけ018上下(じやうげ)(さわ)がした(その)(つみ)仲々(なかなか)(あさ)くはないぞ。019(これ)から(こころ)(あらた)むればよし、020(いま)(まで)量見(りやうけん)()るならば太子(たいし)のお側付(そばづき)(ゆる)されない。021さうして(わが)()にも()(こと)出来(でき)ない。022(ちつ)とは(おや)(こころ)にもなつて()()れ。023(わう)(さま)宸襟(しんきん)(なや)まし(たてまつ)り、024老臣(らうしん)(ども)心配(しんぱい)をさせ、025殿内(でんない)(さわ)がしたぢやないか』
026アリナ『ハイ、027如何(いか)にも父上(ちちうへ)のお言葉(ことば)(とほ)り、028大王(だいわう)(さま)()心配(しんぱい)をかけ、029老臣(らうしん)(おどろ)かせ殿内(でんない)(さわ)がしましたのは事実(じじつ)(ござ)います。030(しか)(わたし)(おな)殿内(でんない)(さわ)がしても031父上(ちちうへ)のやうな、0311刃傷(にんじやう)などの乱暴(らんばう)(いた)しませぬ。032(とう)さま、033(わたし)()意見(いけん)(くだ)さるのならば、034()貴方(あなた)のお(しり)(ぬぐ)ひ、035自分(じぶん)(かほ)()まつた(はち)(はら)ひ、036真面目(まじめ)になつて()教訓(けうくん)(ねが)ひます。037(この)(おや)にして(この)()あり、038親子(おやこ)一致(いつち)して、039大王(だいわう)殿下(でんか)宸襟(しんきん)(なや)まし(たてまつ)殿内(でんない)(さわ)がしたのも、040(なに)かの因縁(いんねん)(ござ)いませうよ』
041ガン『エヽ、042ツベコベと(わけ)()らずに屁理窟(へりくつ)()ふな。043(まへ)(おれ)とは(おな)殿内(でんない)(さわ)がしたにしても(わけ)(ちが)ふのだ。044天地(てんち)霄壤(せうじやう)045黒白(こくびやく)046月鼈(げつべつ)差違(さゐ)()るのだ。047()右守(うもり)のサクレンス()048王家(わうけ)専制(せんせい)政治(せいぢ)(はい)し、049共和(きようわ)政治(せいぢ)()てようなどと、050(だい)それた国賊(こくぞく)(てき)機略(きりやく)(ろう)し、051殿下(でんか)宸襟(しんきん)(なや)ませ(たてまつ)つたによつて、052(おれ)(いのち)(まと)奸賊(かんぞく)誅伐(ちうばつ)せむと(かれ)右守(うもり)()りつけたのだ。053貴様(きさま)のやうに、054大切(たいせつ)太子(たいし)種々(いろいろ)のハイカラ(てき)思想(しさう)注入(ちうにふ)し、055太子(たいし)精神(せいしん)惑乱(わくらん)し、056(つひ)には国家(こくか)一大事(いちだいじ)惹起(じやくき)せむとするやうな悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)行為(かうゐ)とは(くら)べものにならぬのだ。057(しつか)りと性念(しやうねん)()ゑて(ちち)言葉(ことば)()いたらよからうぞ。058大王(だいわう)(さま)金枝(きんし)玉葉(ぎよくえふ)(おん)()をもつて、059(なんぢ)一人(ひとり)(ため)()るにあられぬ()苦心(くしん)(あそ)ばして(ござ)るのだ。060その(せがれ)(ちち)たるこのガンヂーが、061どうしてノメノメと(いき)()られやうか。062(まへ)がどうしても()(あらた)めて、063太子(たいし)御心(みこころ)(ひるがへ)さぬに(おい)ては、064もはや(この)(ちち)自害(じがい)して(まを)(わけ)()てねばならぬ羽目(はめ)となつて()るのだ。065不忠(ふちう)不義(ふぎ)極悪人(ごくあくにん)とは貴様(きさま)(こと)だ。066どうしてまアこんな極悪人(ごくあくにん)(おれ)(たね)から(うま)れたものだらうなア』
067アリ『アハヽヽヽ。068(とう)さま()自分(じぶん)(いま)(まで)行動(かうどう)(かへり)みて御覧(ごらん)なさい。069さう、070堂々(だうだう)(わたし)(むか)つて、071()意見(いけん)出来(でき)ますまい。072(とう)さまは(わたし)幼年(えうねん)(とき)(まで)は、073右守(うもり)(かみ)(つか)へてゐらつしやつたのでせう。074(その)(とき)忠誠(ちうせい)無比(むひ)のシャカンナと()左守(さもり)司様(かみさま)国政(こくせい)料理(れうり)して(ござ)つたでせう。075()くなられた王妃(わうひ)(さま)悪魔(あくま)(みい)られ、076()()残虐性(ざんぎやくせい)(つの)り、077(つひ)には無辜(むこ)(たみ)(しひた)げ、078(あは)れなる妊婦(にんぷ)(はら)()いて胎児(たいじ)()ぐり()し、079丸煮(まるに)にして食膳(しよくぜん)()ぼせ舌皷(したつづみ)()つて(ござ)つたにも(かかは)らず、080()(けつ)して直諫(ちよくかん)(たてまつ)(こと)()らず、081(かへ)つて王妃(わうひ)()(へつら)ひ、082残忍性(ざんにんせい)をしてますます増長(ぞうちやう)せしめられたぢや(ござ)いませぬか。083国民(こくみん)怨嗟(ゑんさ)白羽(しらは)()王妃(わうひ)(かり)(あそ)びの(みぎり)084(てん)一方(いつぱう)より()(きた)つて王妃(わうひ)(ひたひ)()ぬき(その)()絶命(ぜつめい)し、085国民(こくみん)(これ)()いて(かへ)つて(よろこ)んで(ひそ)かに祝賀会(しゆくがくわい)(ひら)いた(こと)があるぢや(ござ)いませぬか。086それ(ほど)国民(こくみん)怨嗟(ゑんさ)(まと)となつて()王妃(わうひ)(そその)かした(うへ)087大王(だいわう)(さま)(まで)いろいろの(わる)智慧(ちゑ)()()み……天誅(てんちう)白羽(しらは)()左守(さもり)部下(ぶか)射放(いはな)つたものだ……などと無実(むじつ)(つみ)()せ、088大王(だいわう)()をかつて左守(さもり)(つま)ハリスタ(ひめ)()(ころ)し、089なほ()()らず左守(さもり)(いのち)()らむとして(はた)さず、090(つひ)自分(じぶん)()つて(かは)つて洒々(しやあしやあ)(ぜん)として左守(さもり)(しよく)につかれたぢやありませぬか。091(それ)さへあるに左守家(さもりけ)巨万(きよまん)財産(ざいさん)全部(ぜんぶ)没収(ぼつしう)し、092自分(じぶん)国民(こくみん)信用(しんよう)(つな)がんが(ため)(あたま)()めない、093(はら)(いた)まない、094(かれ)財産(ざいさん)国民(こくみん)(あた)へ、095(ぜん)仮面(かめん)(かぶ)り、096悪行(あくかう)遂行(すゐかう)した(ごく)重悪人(ぢうあくにん)ぢや(ござ)いませぬか。097(とう)さまの(ため)にシャカンナは可憐(かれん)(むすめ)(とも)天下(てんか)漂浪(へうらう)(たび)()で、098(いま)(その)行方(ゆくへ)さへ()れないと()ふぢやありませぬか。099貴方(あなた)(まへ)にては(たれ)(かれ)阿諛(あゆ)諂侫(てんねい)追従(つゐしよう)()らむ(かぎ)りを(つく)し、100(ひげ)(ちり)(はら)はむとする役人(やくにん)(ばか)りで(ござ)いますが、101(かれ)()面従(めんじう)腹背(ふくはい)102(かげ)では、103いづれも(うしろ)()いては(した)()104言葉(ことば)(きは)めてお(とう)さまの悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)(ののし)り、105()(にく)んで()りますよ。106タラハン(ごく)今日(こんにち)(ごと)(みだ)れかかつて()たのも(みな)107(とう)さまの責任(せきにん)ですよ。108圧制(あつせい)強圧(きやうあつ)専制(せんせい)便利(べんり)時代(じだい)不相応(ふさうおう)法律(はふりつ)(つく)り、109軍隊(ぐんたい)警察(けいさつ)監獄(かんごく)(ちから)で、110(いま)(まで)(とう)さまは国民(こくみん)(あたま)(おさ)へつけ、111思想(しさう)圧迫(あつぱく)し、112あらむ(かぎ)りの吾儘(わがまま)勝手(かつて)振舞(ふるま)つて()たぢやありませぬか。113(とう)さまの悪徳(あくとく)子供(こども)(むく)いて(つひ)(わづらい)王家(わうけ)(およ)ぼし、114今日(こんにち)悲惨(ひさん)有様(ありさま)になつたのぢや(ござ)いませぬか。115(とう)さまこそ(わたし)意見(いけん)()いて翻然(ほんぜん)()い、116忠誠(ちうせい)赤心(まごころ)愛善(あいぜん)(おこな)ひに()ちかへつて(もら)ひたいものです。117(わたし)はお(とう)さまの(くち)から()意見(いけん)()くのは、118恰度(ちやうど)地獄(ぢごく)(おに)擦鉦(すりがね)(たた)いて念仏(ねんぶつ)(とな)へて()るやうで滑稽(こつけい)(たま)りませぬわ。119いや(むし)抱腹(はうふく)絶倒(ぜつたう)(いた)りで(ござ)います、120アハヽヽヽ』
121ガン『これや(せがれ)122(なん)()口巾(くちはば)(ひろ)(こと)(まを)すか。123(かりそめ)にも()として(ちち)行為(かうゐ)云々(うんぬん)し、124くだらぬ意見口(いけんぐち)(たた)くと()(こと)は、125天地(てんち)転倒(てんだう)(はなは)だしいではないか。126(おや)主人(しゆじん)無理(むり)()ふものと(おも)へ」との格言(かくげん)(なん)心得(こころえ)()るか。127(なん)()ふても親父(おやぢ)ぢやないか。128善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)(かかは)らず、129(おや)反抗(はんかう)する(やつ)天下(てんか)不孝者(ふかうもの)だ。130貴様(きさま)最早(もはや)十八(じふはち)131(ちつ)とは孝行(かうかう)()(こと)()れ。132(いな)忠義(ちうぎ)(みち)(わきま)へねばなるまいぞ』
133アリ『お(とう)さま、134貴方(あなた)(おや)()()(もと)(わたし)圧迫(あつぱく)するのですか。135(わが)()になればどんな無理(むり)難題(なんだい)()きかけても、136それで道理(だうり)()つと(おも)ひますか。137そんな(ふる)道徳(だうとく)主義(しゆぎ)三百(さんびやく)(ねん)過去(くわこ)(こと)ですよ。138こんな流儀(りうぎ)国政(こくせい)(あた)られては、139数多(あまた)役人(やくにん)国民(こくみん)(ども)迷惑(めいわく)(おも)ひやられます。140(わたし)はお(とう)さまの所謂(いはゆる)141不孝者(ふかうもの)142不忠者(ふちうもの)になり()(ござ)います。143……大孝(だいかう)不孝(ふかう)()たり。144大忠(だいちう)大逆(だいぎやく)()たり。1441……と(いにしへ)聖人(せいじん)()つたぢや(ござ)いませぬか。145大義(たいぎ)(しん)(めつ)するとか()(ことわざ)(ござ)います。146(わたし)大義(たいぎ)明分(めいぶん)(ため)には(おや)()てます。147何時(いつ)(まで)(その)精神(せいしん)をお()(くだ)さらぬ以上(いじやう)は、148(おや)でも()ければ()でもありませぬ。149(わたし)(はう)から貴方(あなた)(むか)つて勘当(かんだう)(いた)しますよ』
150ガン『これ(せがれ)151()はしておけば何処(どこ)(まで)もつけ(あが)(おや)(おや)とも(おも)はぬ(その)暴言(ばうげん)152手打(てう)ちに(いた)して()れるぞ』
153アリ『お(とう)さま、154よいかげんに血迷(ちまよ)つておきなさいませ。155(なに)狼狽(らうばい)して()られるのです。156アリナの身体(からだ)最早(もはや)貴方(あなた)自由(じいう)にはなりませぬ。157(わたし)身体(からだ)太子(たいし)(さま)杖柱(つゑはしら)とお(たの)(あそ)ばす、158タラハン(じやう)()くてはならない国宝(こくほう)ですよ。159もしお手打(てうち)(あそ)ばす()所存(しよぞん)ならば、160大王(だいわう)殿下(でんか)(およ)太子(たいし)殿下(でんか)のお(ゆる)しを()(うへ)になさいませ。161太子(たいし)殿下(でんか)寵臣(ちようしん)を、162(なに)(ほど)左守(さもり)だつて自由(じいう)にする(こと)出来(でき)ますまい。163それこそ貴方(あなた)不忠(ふちゆう)不義(ふぎ)大逆賊(だいぎやくぞく)となるでせう』
164ガン『不忠(ふちゆう)不義(ふぎ)とは(なん)たる暴言(ぼうげん)ぞ。165貴様(きさま)こそ万代(ばんだい)不易(ふえき)王家(わうけ)(くつが)へさむとする悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)曲者(くせもの)だ。166不忠(ふちゆう)不義(ふぎ)逆賊(ぎやくぞく)だ。167共産(きやうさん)主義(しゆぎ)平民(へいみん)主義(しゆぎ)太子(たいし)殿下(でんか)日夜(にちや)()()んだ売国奴(ばいこくど)め、168黙言(だまり)おろう』
169アリ『お(とう)さま、170天帝(てんてい)より賦与(ふよ)された(わたし)言論(げんろん)機関(きくわん)行使(かうし)するのは171(わたし)自由(じいう)権利(けんり)(ござ)います。172今日(こんにち)不完全(ふくわんぜん)(きは)まる貴方(あなた)(つく)つた法律(はふりつ)でさへも173言論(げんろん)集会(しふくわい)自由(じいう)(みと)めて()るぢや(ござ)いませぬか。174左様(さやう)(わか)らぬ(こと)仰有(おつしや)いましては175耄碌爺(まうろくおやぢ)()はれても弁解(べんかい)()はありますまい。176矛盾(むじゆん)混沌(こんとん)177自家(じか)撞着(どうちやく)(ここ)(いた)つて(きは)まれりと()ふべしです。178貴方(あなた)一体(いつたい)個人(こじん)人格(じんかく)無視(むし)せむとして()られますが、179国民(こくみん)としても、180個人(こじん)としても(その)個性(こせい)十分(じふぶん)発達(はつたつ)させ、181天地(てんち)分霊(わけみたま)としての(はたら)きを十二分(じふにぶん)発揮(はつき)させ、182(その)自由(じいう)(けん)十分(じふぶん)行使(かうし)させねばならぬぢやありませぬか。183()れだのに、184貴方(あなた)圧迫(あつぱく)威喝(ゐかつ)をもつて(これ)(さまた)げむとするのは185時代(じだい)(うと)癲狂(てんきやう)痴呆者(ちはうしや)()はねばなりますまい』
186ガン『お(まへ)(とし)(わか)いから政治(せいぢ)枢機(すうき)参加(さんか)した(こと)()いから、187左様(さやう)小理窟(こりくつ)をこねるのだ。188(しか)(なが)理論(りろん)実際(じつさい)とは(おほい)(ちが)ふものだ。189(いま)(ごろ)政治家(せいぢか)()よ、190()にある(とき)(とき)政府(せいふ)施設(しせつ)(たい)し、191どうのかうのと極力(きよくりよく)反対(はんたい)(こころ)み、192民衆(みんしう)(おだ)()(つひ)政府(せいふ)()()り、193()国政(こくせい)()つて()ると俄然(がぜん)調子(てうし)(かは)つて()て、194()にあつて咆哮(はうかう)した主義(しゆぎ)主張(しゆちやう)もケロリと()て、195(いな)放擲(はうてき)せなくてはならぬやうになるものだ。196それだから()(なか)議論(ぎろん)実際(じつさい)とは(おほい)径庭(けいてい)のあるものだ。197(その)(かん)消息(せうそく)()らずに、1971青二才(あをにさい)分際(ぶんざい)として198小田(をだ)(かわづ)()くやうにゴタゴタ()ふても(をさ)まらないぞ。199(すべ)政治(せいぢ)秘訣(ひけつ)圧迫(あつぱく)(かぎ)るのだ』
200アリ『どこ(まで)もお(とう)さまは(わか)らないのですな。201理窟(りくつ)はどんなにでもつくものですよ。202専制(せんせい)圧迫(あつぱく)唯一(ゆゐいつ)武器(ぶき)として(をさ)めて()たスラブはどうです。203チヤイナはどうですか。204(すで)(すで)滅亡(めつぼう)したではありませぬか。205世界(せかい)各国(かくこく)(きそ)ふて共和(きようわ)主義(しゆぎ)をもつて治国(ちこく)主義(しゆぎ)となし、206(つぎ)から(つぎ)へと王政(わうせい)(ほろ)びてゆく趨勢(すうせい)()ても、207時代(じだい)潮流(てうりう)共和(きようわ)主義(しゆぎ)(むか)つて、208急速力(きふそくりよく)()つて(すす)んで()るぢやありませぬか、209個人(こじん)2091個人(こじん)無視(むし)するやうで、210どうして国家(こくか)(をさ)める(こと)出来(でき)ませうか。211賢明(けんめい)なる太子(たいし)殿下(でんか)(はや)くも(この)(てん)気付(きづ)かれ、212王位(わうゐ)()つて庶民(しよみん)となり、213個人(こじん)として214人間(にんげん)らしい生活(せいくわつ)をやつて見度(みた)いと(のぞ)んでゐらつしやるのですよ。215もうお(とう)さま、216貴方(あなた)()加減(かげん)骸骨(がいこつ)をお()ひなさい。217貴方(あなた)(いち)(にち)国政(こくせい)料理(れうり)さるればさるるだけ、218それだけ国家(こくか)滅亡(めつぼう)(むか)ふのです。219国民(こくみん)(おほ)くは……頑迷(ぐわんめい)固陋(ころう)左守(さもり)220(いち)(にち)(はや)く、2201(この)()()れば221(いち)(にち)(だけ)国家(こくか)利益(りえき)だ……と()ふて()りますよ』
222ガン『お(まへ)個人(こじん)々々(こじん)()ふて(さかん)個人(こじん)主義(しゆぎ)をまくし()てるが、223個人(こじん)主義(しゆぎ)発達(はつたつ)すればする(ほど)専制(せんせい)政治(せいぢ)必要(ひつえう)ぢやないか。224完全(くわんぜん)なる個人(こじん)主義(しゆぎ)発達(はつたつ)し、225生活(せいくわつ)()(ちから)出来(でき)(ところ)で、226ほんの(ちい)つぽけな(すな)のやうなものだ。227二十万(にじふまん)国民(こくみん)が、228二十万(にじふまん)(つぶ)(すな)になつたやうなものだ。229個々(ここ)別々(べつべつ)になつた(すな)(なに)(ほど)堅固(けんご)でも団結力(だんけつりよく)()るまい。230個人(こじん)としてはよからうが、231国家(こくか)(および)団体(だんたい)としては(じつ)につまらぬものぢや。232そこで、233カラピン王家(わうけ)()(おほ)きな革袋(かはぶくろ)必要(ひつえう)なのだ。234この革袋(かはぶくろ)二十万(にじふまん)(りう)(すな)()(ふくろ)(くち)(かた)(しば)235横槌(よこづち)などで(つよ)(たた)きつけてこそ(はじ)めて(ひと)つの国家(こくか)団体(だんたい)(かた)まるのぢやないか。236革包(かはづつみ)(やぶ)れた(ふくろ)所謂(いはゆる)支離(しり)滅裂(めつれつ)(なん)(ちから)もない。237それを貴様(きさま)(やぶ)らうとする(ごく)重悪人(ぢうあくにん)だ。238賢明(けんめい)なる殿下(でんか)のそれ(くらゐ)道理(だうり)のお(わか)りにならない(はず)()いのだが、239貴様(きさま)(つね)(わる)思想(しさう)()()むものだから、240あのやうな(わる)精神(せいしん)におなりなされたのだ。241()はば貴様(きさま)はタラハン(ごく)(くつが)へす悪魔(あくま)張本(ちやうほん)だ。242あゝもう仕方(しかた)がない。243()ぬにも()なれず、244(せがれ)(なに)(ほど)()()かしても頑迷(ぐわんめい)不霊(ふれい)にして時代(じだい)(かい)せず、245政治(せいぢ)()らず、246(なん)とした(くる)しい立場(たちば)であらう』
247アリ『お(とう)(さま)248煩悶(はんもん)苦悩(くなう)今日(こんにち)境遇(きやうぐう)249(わたし)同情(どうじやう)(いた)しますが、250(しか)(なが)(こころ)()ちやう(ひと)つで(ござ)いますよ。251(ちつ)郊外(かうぐわい)散歩(さんぽ)でもして、252天地(てんち)芸術(げいじゆつ)御覧(ごらん)なさいませ、253さうすれば(ちつ)とは(むね)(ひら)けて(あたら)しい思想(しさう)(うま)れて()るでせう』
254 左守(さもり)青息(あをいき)吐息(といき)しながら、
255『あゝあゝ()やせむ(かく)線香(せんかう)(けむり)となつて、256タラハンの国家(こくか)(ほろ)ぶのかなア』
257大正一三・一二・四 新一二・二九 於祥雲閣 加藤明子録)
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