霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二二章 憧憬(どうけい)()〔一七二四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻 篇:第4篇 山色連天 よみ(新仮名遣い):さんしょくれんてん
章:第22章 憧憬の美 よみ(新仮名遣い):どうけいのび 通し章番号:1724
口述日:1924(大正13)年12月29日(旧12月4日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年8月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
太子は城に戻ってからは、スバール姫の絵姿を床の間にかけ、憧憬していた。
重臣のタルチンがやってきて、アリナの新思想を責め、遠ざけようと諫言する。
太子は、現重臣たちの考え方こそ国家滅亡の考えと断じる。また、重臣たちが権勢や富貴におもね、栄利栄達のみに心を砕いていることを指摘し、逆にタルチンを責める。
そこへ、謹慎を解かれたアリナがやってくる。アリナは、父の左守がついに考えを変え、太子とアリナの考え方に反対しないと誓った、と太子、タルチンに謹慎中の出来事を語った。
タルチンは、左守が考え方を変えたと聞いて、途端に太子への諫言を撤回する。
実は左守は考えを変えてはおらず、アリナがタルチンを試したのであった。
太子はスバール姫への恋心をアリナに打ち明け、相談する。アリナはスバール姫を城内に迎え入れる画策をする。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-05-24 00:17:31 OBC :rm6722
愛善世界社版:285頁 八幡書店版:第12輯 137頁 修補版: 校定版:288頁 普及版:68頁 初版: ページ備考:
001 太子(たいし)(わが)(やかた)(おく)(ふか)(ひそ)(なが)ら、002スバール(ひめ)画姿(ゑすがた)(とこ)()()け、003朝夕(あさゆふ)天真(てんしん)美貌(びばう)憧憬(どうけい)し、004(おも)ひを(とほ)朝倉谷(あさくらだに)(しづ)伏家(ふせや)(かよ)はせてゐた。005寵臣(ちようしん)のアリナは三十(さんじふ)(にち)監禁(かんきん)(めい)ぜられ、006話相手(はなしあひて)もなく、007(じつ)(さび)しき(おも)ひに(なや)んでゐたが、008スバール(ぢやう)画姿(ゑすがた)()ては、009煩悶(はんもん)苦悩(くなう)(ほのほ)()してゐた。
010スダルマン太子(しか)今日(けふ)最早(もはや)アリナが(ゆる)されて自由(じいう)()となる当日(たうじつ)だ。011(かれ)()ひたいだらう。012自分(じぶん)(はや)くアリナに()ひたいものだ』
013独語(ひとりごち)つつ、014憂愁(いうしう)(しづ)んでゐる。015そこへ重臣(ぢうしん)のハルチンは(おそ)(おそ)(まか)()で、
016ハル『太子(たいし)殿下(でんか)には相変(あひかは)らせられず、017()壮健(さうけん)なる神顔(しんがん)(はい)(たてまつ)り、018ハルチン()()恐悦(きようえつ)至極(しごく)(ぞん)じます』
019(たい)『ヤア、020其方(そなた)はハルチンか。021先日(せんじつ)殿内(でんない)(おい)大椿事(だいちんじ)突発(とつぱつ)(さい)022其方(そなた)危険(きけん)(をか)して左守(さもり)()きとめ、023右守(うもり)(なん)(すく)つたとか()(こと)024(じつ)神妙(しんめう)(いた)りだ。025(ちか)()つて(なに)面白(おもしろ)快活(くわいくわつ)(はなし)()かしてくれないか』
026ハル『ハイ(おそ)()(たてまつ)ります。027微臣(びしん)微臣(びしん)として(つく)すべき(みち)(つく)した(まで)(ござ)いますから、028()()めの言葉(ことば)(いただ)いては汗顔(かんがん)(いた)りに()へませぬ。029一度(いちど)(おん)(うかが)(まをし)()げたいと(ぞん)じましたが、030(あま)(おそ)(おほ)いと(ぞん)じまして、031今日(けふ)(まで)(ひか)えて()りました。032殿下(でんか)には左守(さもり)(せがれ)アリナを(こと)(ほか)()寵愛(ちようあい)(あそ)ばされ、033昼夜(ちうや)区別(くべつ)なく、034(そば)(はべ)らせ(たま)ひ、035(まこと)結構(けつこう)至極(しごく)(いた)りに(ござ)りますが、036(しか)(なが)一人(ひとり)家来(けらい)(ばか)りを()信用(しんよう)なさいますと、037大変(たいへん)(あやま)ちが出来(でき)まするから、038そこは賢明(けんめい)なる殿下(でんか)()聖慮(せいりよ)(もつ)て、039()臣下(しんか)をもどうか()(ちか)よせ(くだ)さいまする(やう)040()(ねが)(まをし)()げまする』
041(たい)『アハヽヽ、042沢山(たくさん)臣下(しんか)はウヨウヨとして()るが、043()()()人間(にんげん)らしい臣下(しんか)がないので、044()むを()ず、0441(さび)しい(なが)らも、045アリナを近付(ちかづ)けてゐるのだ。046(まへ)はアリナの人物(じんぶつ)(なん)(おも)うてゐるか。047忌憚(きたん)なく()(まへ)感想(かんさう)吐露(とろ)しろ』
048ハル『ハイ、049殿下(でんか)()寵臣(ちようしん)(かれ)()(まをし)()げまするは、050臣下(しんか)身分(みぶん)として恐懼(きようく)()へませぬ。051どうか(これ)(ばか)りは()(ゆる)(ねが)ひたいもので(ござ)います』
052(たい)『ナニ、053そんな躊躇(ちうちよ)()るものか。054(まへ)(おも)つてる(だけ)(こと)をいつてみてくれ。055()もアリナの行動(かうどう)(たい)し、056其方(そなた)意見(いけん)()いて、057不都合(ふつがふ)(みと)めた(とき)は、058今後(こんご)出入(でいり)(さし)とめる(つもり)だから』
059ハルチン『ハイ、060流石(さすが)()賢明(けんめい)なる太子(たいし)(さま)061それでこそタラハンの国家(こくか)万代(ばんだい)不易(ふえき)062微臣(びしん)(わたし)旱天(かんてん)(あめ)()たる(ごと)く、063(よろこ)びに()へませぬ。064(しか)らば(まをし)()げますが、065かれアリナは(ちち)にも似合(にあ)はぬ生意気(なまいき)(をとこ)で、066何事(なにごと)文化(ぶんくわ)々々(ぶんくわ)(まを)して(あたら)しがり、067国家(こくか)基礎(きそ)(あやふ)くならうが、068王家(わうけ)がどうならうがチツともかまはない不忠(ふちゆう)不義(ふぎ)悪魔(あくま)(ござ)います。069殿下(でんか)何時(いつ)(まで)(かれ)(ごと)(もの)(ちか)よせ、070()信用(しんよう)(あそ)ばしては、071王家(わうけ)(ため)072国家(こくか)(ため)073一大事(いちだいじ)突発(とつぱつ)せないとも(かぎ)りますまい。074どうか賢明(けんめい)なる聖慮(せいりよ)見直(みなほ)(くだ)さいまして、075(しん)言葉(ことば)(すこ)しは()採用(さいよう)(くだ)されませ。076王家(わうけ)(ため)077国家(こくか)(ため)078()むを()()(けつ)して、079(この)ハルチンは殿下(でんか)()(いか)りを(ぞん)(なが)直諫(ちよくかん)(まゐ)りました』
080(たい)『ウーム、081さうか、082アリナと()(やつ)083それ(ほど)(まへ)()から悪人(あくにん)()えるかのう。084時代(じだい)目醒(めざめ)(あたら)しき主義(しゆぎ)(とな)へる(もの)が、085王家(わうけ)国家(こくか)(ほろ)ぼすとは、086チツと受取(うけと)れぬではないか。087今日(こんにち)()(なか)は、0871(いま)(まで)(ごと)く、088強圧(きやうあつ)(てき)専制(せんせい)(てき)方法(はうはふ)(もつ)人民(じんみん)(をさ)めることは出来(でき)ないよ。089時代(じだい)順応(じゆんおう)して(それ)相当(さうたう)政治(せいぢ)(おこな)はねば、090(かへつ)国家(こくか)(あやふ)いだらう』
091ハル『殿下(でんか)()令旨(れいし)092御尤(ごもつと)もでは(ござ)いますが、093大王(だいわう)殿下(でんか)()心配(しんぱい)も、094重臣(ぢうしん)一同(いちどう)徹夜(てつや)煩悶(はんもん)も、095(もと)(ただ)せば、096()青二才(あをにさい)殿下(でんか)()びへつらひ、097尊貴(そんき)(おん)()をば、0971(おそ)(おほ)くも、098猛獣(まうじう)(たけ)山野(さんや)におびき()(たてまつ)り、099いろいろの苦労(くらう)をさせましたからで(ござ)います。100かかる不忠(ふちゆう)不義(ふぎ)逆臣(ぎやくしん)を、101()(そば)(ちか)くおよせなさつては、102(ため)になりますまい。103どうぞ(これ)(ばか)りは()(かんが)へを(ねが)ひたいもので、104(ござ)います』
105(たい)『アヽ父上(ちちうへ)といひ、106左守(さもり)107右守(うもり)()ひ、108(まへ)といひ、109()くもマア亡国(ばうこく)因虫(いんちう)がタラハン(じやう)にはびこつたものだのう。110イヤ()左様(さやう)言葉(ことば)()きたくない。111それよりもお(まへ)左守(さもり)112右守(うもり)頑迷(ぐわんめい)(れん)盲従(まうじゆう)して、113国家(こくか)滅亡(めつぼう)(ため)精々(せいぜい)(ちから)(つく)すがよからうぞ』
114ハル『これは(また)115殿下(でんか)のお言葉(ことば)とも(おぼ)えませぬ。116国家(こくか)滅亡(めつぼう)(ため)(ちから)(つく)せよとは、117臣下(しんか)心胸(しんきよう)をお(さつ)(くだ)さらぬのにも、118(ほど)があるぢや(ござ)りませぬか。119(わたし)殿下(でんか)のお言葉(ことば)(みみ)にしてお(うら)(まを)します』
120(たい)『ハヽヽ、121(うら)(まを)すのは相身互(あひみたがひ)だ。122()国家(こくか)泰山(たいざん)(やす)きにおき、123国民(こくみん)をして平和(へいわ)幸福(かうふく)生活(せいくわつ)(おく)らしめ、124地上(ちじやう)天国(てんごく)楽園(らくゑん)(うつ)さむが(ため)125昼夜(ちうや)肝胆(かんたん)(くだ)いてゐるのだ。126(いづ)れの臣下(しんか)権勢(けんせい)(おもね)り、127富貴(ふうき)()び、128自己(じこ)名利(めいり)栄達(えいたつ)のみに全心(ぜんしん)傾注(けいちう)し、129王家(わうけ)(ため)130国家(こくか)(ため)と、131表面(へうめん)立派(りつぱ)(とな)(なが)ら、132(その)内心(ないしん)をエッキス光線(くわうせん)(てら)してみれば、133(いづ)れも自己愛(じこあい)(ほか)何物(なにもの)もない。134(じつ)にかかる臣下(しんか)()つて、135政治(せいぢ)をとられてゐるタラハン国家(こくか)は、136(あやふ)(かな)である。137()(いち)(にん)知己(ちき)もなく、138師匠(ししやう)もない。139日夜(にちや)寂寥(せきれう)空気(くうき)身辺(しんぺん)(つつ)まれ、140失望(しつばう)落胆(らくたん)(ふち)(ただよ)うてゐるのだ。141(ことわざ)にも……(おぼ)()せむとする(もの)は、142一茎(いつけい)(わら)にも(すが)る……とかや、143(わが)心中(しんちう)洞察(どうさつ)した左守(さもり)一子(いつし)アリナのみを唯一(ゆゐいつ)(とも)となし、144(ちから)となして、145どうか国家(こくか)未倒(みたう)(すく)はむと、146昼夜(ちうや)焦慮(せうりよ)してゐるのだ。147アリナを排斥(はいせき)するのは(すなは)()排斥(はいせき)するも同然(どうぜん)だ。148()(くるし)めたく(おも)はば、149アリナを(なんぢ)()重役(ぢうやく)(ども)鳩首(きうしゆ)凝議(ぎようぎ)して、150如何(いか)なる圧迫(あつぱく)なりと、151排斥(はいせき)なりと(くは)へたが()からう』
152ハル『殿下(でんか)には重臣(ぢうしん)(うち)(おい)て、153(いち)(にん)(しん)王家(わうけ)(おも)国家(こくか)(あい)する(もの)はなく、154(いづ)れも自己愛(じこあい)奴隷(どれい)のやうに(おほ)せられましたが、155それは(あま)殺生(せつしやう)(まを)すもの。156王家(わうけ)(おも)ひ、157国家(こくか)前途(ぜんと)(うれ)ふればこそ、158吾々(われわれ)臣下(しんか)(ども)は、159()()()ずに(こころ)(いた)めてゐるのでは(ござ)いませぬか。160(すこ)しは()推量(すいりやう)(ねが)はしく(ぞん)じます』
161(たい)『お(まへ)(たち)王家(わうけ)国家(こくか)(おも)ふといふのは、162(えう)するに自己(じこ)保護(ほご)(ため)だ。163何者(なにもの)かの外敵(ぐわいてき)(わが)(くに)(ほろ)ぼされ、164王家(わうけ)(とも)にスラブの(やう)(ほろ)んだ(とき)は、165(ただ)(いち)(にん)()身辺(しんぺん)保護(ほご)する(もの)はあるまい。166細々(こまごま)(なが)らも、167(くに)(あるぢ)168王族(わうぞく)として君臨(くんりん)してゐるのだから、169(まへ)(たち)王家(わうけ)利用(りよう)して種々(いろいろ)便宜(べんぎ)()(ため)だらう。170王家(わうけ)(ほろ)ぶのは(すなは)(なんぢ)()(ほろ)ぶのだ。171それだから、172王家(わうけ)だ、173国家(こくか)だと、174忠義面(ちうぎづら)して(さわ)いでゐるのだ。175アハヽヽヽ』
176 ()かる(ところ)へ、177アリナは三十(さんじふ)(にち)監禁(かんきん)(ゆる)され、178意気(いき)揚々(やうやう)として案内(あんない)もなく、179太子(たいし)居間(ゐま)這入(はい)つて()た。180太子(たいし)()るより、
181(たい)『ヤ、182アリナか、183よう()てくれた。184三十(さんじふ)(にち)監禁(かんきん)随分(ずいぶん)(こま)つただらうね』
185 アリナは両手(りやうて)をつき(なが)ら、
186アリ『殿下(でんか)には何時(いつ)(かは)らせられず、187()壮健(さうけん)なお(かほ)(はい)し、188歓喜(くわんき)にたへませぬ。189三十(さんじふ)(にち)(あひだ)監禁(かんきん)され、190(した)しく(ちち)意見(いけん)交換(かうくわん)をする便宜(べんぎ)()まして、191大変(たいへん)好都合(かうつがふ)(ござ)いました。192さすが頑迷(ぐわんめい)固陋(ころう)(ちち)前非(ぜんぴ)()い、193(やうや)時勢(じせい)()()め、194殿下(でんか)()心中(しんちう)(さつ)(まゐ)らせ、195今後(こんご)何事(なにごと)殿下(でんか)のなさる(こと)については、196容喙(ようかい)しないと(ちか)ひまして(ござ)います』
197(たい)『ハヽヽヽ、198さうか、199そりやお手柄(てがら)だつた。200マア結構(けつこう)々々(けつこう)201(いま)此処(ここ)一人(ひとり)頑迷屋(ぐわんめいや)がやつて()てな、202いろいろと(くだ)らぬ(こと)()つてくれるので、203(じつ)(こま)つてゐた(ところ)だ。204(しか)(なが)(この)ハルチンはお(まへ)(ちち)殿中(でんちう)(さわ)いだ(とき)205(うしろ)からだきとめて、206大事(だいじ)(ふせ)いだ殊勲者(しゆくんしや)だから、207(まへ)()めてやらねばなるまいぞ』
208アリ『ヤ、209ハルチン(さま)210(ひさ)(ぶり)(ござ)います。211先日(せんじつ)(ちち)が、212大変(たいへん)()厄介(やつかい)になつた(さう)です。213(かげ)さまで、214大事(だいじ)未然(みぜん)(ふせ)ぎ、215右守(うもり)(つかさ)も、216(をし)(いのち)(すく)はれたといふもの、217右守(うもり)貴宅(きたく)()(れい)(あが)つたでせうな』
218(たい)()山野(さんや)(あそ)びから(かへ)つて()(とき)219右守(うもり)血相(けつさう)()へて、220表門(おもてもん)(とび)()(さい)221アリナにつき(あた)り、222階段(かいだん)から(ころ)()(すね)をくぢいて、223這々(ほうほう)(てい)(かへ)つた(とき)は、224随分(ずいぶん)()(どく)だつた。225一度(いちど)見舞(みまひ)(たれ)かを(つか)はしたいのだけれど、226()(あま)(こころ)(ふさ)いでゐたので、227つい手遅(ておく)れしたのだ。228オイ、229ハルチン、230(まへ)右守(うもり)(つかさ)()うたら、231()(よろ)しくいつてゐたと(つた)へてくれ』
232ハル『ハイ、233仁慈(じんじ)(こも)つた殿下(でんか)のお言葉(ことば)234右守(うもり)(つかさ)も、235さぞ(よろこ)ばれるで(ござ)いませう。236(とき)にアリナさま、237(いま)(うけたま)はれば、238父上(ちちうへ)殿下(でんか)御心(みこころ)(したが)ふ、239何事(なにごと)干渉(かんせう)はせないと仰有(おつしや)つた(やう)(ござ)いますが、240それは実際(じつさい)(ござ)いますか』
241アリ『実際(じつさい)実際(じつさい)242(ごく)真面目(まじめ)()つてゐましたよ。243(その)(かは)り、244三十(さんじふ)(にち)(あひだ)245(ぼく)随分(ずいぶん)(した)()がただれる(ところ)(まで)奮闘(ふんとう)しました。246流石(さすが)頑固爺(ぐわんこおやぢ)も、247たうとう(かぶと)()いで、248(すこ)(ばか)(みたま)(さび)()れ、249黎明(れいめい)曙光(しよくわう)(みと)めたやうです。250親爺(おやぢ)第一(だいいち)改心(かいしん)してくれないと、251タラハンの国家(こくか)()てないですからなア』
252ハル『ア、253左様(さやう)(ござ)いますか。254左守(さもり)(つかさ)(さま)がお(かんが)へは日月(じつげつ)光明(くわうみやう)同様(どうやう)(ござ)います。255(しか)らば(わたし)(これ)から殿下(でんか)()意志(いし)服従(ふくじゆう)(いた)しますれば、256何卒(なにとぞ)(いま)(まで)()無礼(ぶれい)をお(ゆる)(くだ)さいませ』
257権勢(けんせい)()びへつらひ、258自己(じこ)栄達(えいたつ)のみを(ねん)としてゐるハルチンは、259如才(じよさい)のない(こと)()つてゐる。
260(たい)『ハヽヽ(いま)(まで)()殿下(でんか)々々(でんか)尊敬(そんけい)してゐたが、261(いま)のハルチンの言葉(ことば)(はし)から(かんが)へてみると、262()(たい)しては絶対(ぜつたい)信用(しんよう)をおいてゐなかつたのだなア。263それがハルチンの(いつは)らざる告白(こくはく)だらう。264(いな)ハルチンのみならず、265一般(いつぱん)重臣(ぢうしん)(ども)(おな)(かんが)へを()つてゐたのだらう。266それだから()()()らなかつたのだ。267ハルチンも如才(じよさい)のない(をとこ)だのう。268()はアリナに相談(さうだん)があるから、269(また)今度(こんど)()はう、270(すみやか)(かへ)つてくれ』
271ハル『ハイ、272御意(ぎよい)(したが)(まか)(さが)るで(ござ)いませう。273何分(なにぶん)にも(よろ)しく()(ねがひ)(まを)します』
274米搗(こめつ)螽斯(ばつた)(よろ)しく、275(この)()()して(かへ)()く。
276(たい)『アハヽヽ、277到頭(たうとう)278偽善者(きぜんしや)(いち)(にん)279退却(たいきやく)しよつた。280サア(これ)から()とお(まへ)水入(みづい)らずだ。281(なに)面白(おもしろ)感想(かんさう)()いかな』
282アリ『ハイ、283(べつ)(かは)つた感想(かんさう)(うか)びませぬが、284あの頑固爺(ぐわんこおやぢ)()285(なん)()つても()()めないのです。286頑固党(ぐわんこたう)のハルチンが御前(ごぜん)(ひか)へて()りましたので、287ワザとにあんな(こと)()つて()()いてみたので(ござ)います。288中々(なかなか)()うして()うして289頑固爺(ぐわんこおやぢ)(あたま)駄目(だめ)(ござ)いますよ』
290(たい)『アハヽヽ、291(まへ)面白(おもしろ)芸当(げいたう)をうつ(をとこ)だな。292ハルチンが(てのひら)(かへ)した(やう)賛成(さんせい)した(とき)可笑(をか)しさ。293()(おほい)人情(にんじやう)機微(きび)()いて研究(けんきう)をしたよ。294(とき)にアリナ、295(この)画像(ぐわざう)()よ。296何時(いつ)(この)掛物(かけもの)から浮出(うきだ)して()()(もの)()ふやうだ。297(まへ)監禁中(かんきんちう)(この)画像(ぐわざう)唯一(ゆゐいつ)伴侶(はんりよ)として、298煩悶(はんもん)(ほのほ)()してゐたのだ。299(じつ)(うるは)しい(もの)ぢやないか』
300アリ『殿下(でんか)301それ(ほど)スバール(ぢやう)がお()()しましたか』
302(たい)『ウン、303ズツと()()つた。304()ても()めてもスバール(ぢやう)姿(すがた)(わが)()にちらつき、305(はづ)かし(なが)ら、306硬骨(かうこつ)無情(むじやう)()(こひ)といふ曲者(くせもの)(とら)はれたやうだ。307(なに)(ほど)画姿(ゑすがた)をみてゐても、308殿下(でんか)とも(なん)とも()つてくれない。309(なん)とかしてモ一度(いちど)実物(じつぶつ)()つてみたいものだが、310(この)(ごろ)厳重(げんぢう)警戒線(けいかいせん)は、3101到底(たうてい)(やぶ)(こと)出来(でき)まい。311(これ)(ばか)りが(じつ)煩悶(はんもん)(たね)だ。312(さつ)してくれ』
313アリ『殿下(でんか)314それ(ほど)(まで)思召(おぼしめ)しますなら、315(わたし)()れシャカンナを()()せ、316スバール(ひめ)をタラハン()(まで)317(むか)へて()ませうか』
318(たい)『さうして(もら)へば有難(ありがた)いが、319(しか)()うして殿中(でんちう)()れることが出来(でき)ようぞ』
320アリ『到底(たうてい)今日(こんにち)場合(ばあひ)321殿中(でんちう)へお()()せになる(こと)はチツと困難(こんなん)(ござ)いませうが、322日頃(ひごろ)殿中(でんちう)へお出入(でいり)(いた)す、323生花(いけばな)宗匠(そうしやう)タールチンを、324黄金(わうごん)(くつわ)をはめて買収(ばいしう)し、325(かれ)離室(はなれ)にスバール(ぢやう)(さま)をかくまわせ、326(すき)(うかが)つて殿中(でんちう)()(いだ)し、327時々(ときどき)()(あそ)ばして、328()(たのし)みなされては如何(いかが)(ござ)いませうか』
329(たい)『そんなら()きに取計(とりはから)つてくれ。330どうにも()うにも、331()()()れなくなつて()たのだ』
332アリ『キツと目的(もくてき)(たつ)して(かへ)ります。333どうか凱旋(がいせん)(とき)をお()(くだ)さいませ』
334大正一三・一二・四 新一二・二九 於祥雲閣 松村真澄録)
335(昭和一〇・六・二三 王仁校正)
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