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第67巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 美山梅光
01 梅の花香
〔1703〕
02 思想の波
〔1704〕
03 美人の腕
〔1705〕
04 笑の座
〔1706〕
05 浪の皷
〔1707〕
第2篇 春湖波紋
06 浮島の怪猫
〔1708〕
07 武力鞘
〔1709〕
08 糸の縺れ
〔1710〕
09 ダリヤの香
〔1711〕
10 スガの長者
〔1712〕
第3篇 多羅煩獄
11 暗狐苦
〔1713〕
12 太子微行
〔1714〕
13 山中の火光
〔1715〕
14 獣念気
〔1716〕
15 貂心暴
〔1717〕
16 酒艶の月
〔1718〕
17 晨の驚愕
〔1719〕
第4篇 山色連天
18 月下の露
〔1720〕
19 絵姿
〔1721〕
20 曲津の陋呵
〔1722〕
21 針灸思想
〔1723〕
22 憧憬の美
〔1724〕
余白歌
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第一五章
貂心暴
(
てんしんばう
)
〔一七一七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
篇:
第3篇 多羅煩獄
よみ(新仮名遣い):
たらはんごく
章:
第15章 貂心暴
よみ(新仮名遣い):
てんしんぼう
通し章番号:
1717
口述日:
1924(大正13)年12月28日(旧12月3日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年8月19日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
山賊たち親分シャカンナの妻の十年祭として宴会を始める。
シャカンナ、バルギー、コルトン、玄真坊も酒盛りを始める。
山賊たちは、玄真坊の連れの棚機姫に酒を注いでもらおうとする。
棚機姫は自分が玄真坊にだまされていたことを悟り、暇を告げようとするが、玄真坊に遮られて逃げ出すことができない。
棚機姫とは、実はダリヤのことであった。
玄真坊はダリヤの気を引いて自分の妻にしようという魂胆であったが、ダリヤに肘鉄を食わされる。
山賊たちはこの様を肴に酒盛りを続ける。
このままでは逃げられないと悟ったダリヤは、玄真坊にまめまめしく酌を始める。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-05-13 17:59:15
OBC :
rm6715
愛善世界社版:
191頁
八幡書店版:
第12輯 101頁
修補版:
校定版:
193頁
普及版:
68頁
初版:
ページ備考:
001
一方
(
いつぱう
)
バルギーは
沢山
(
たくさん
)
の
部下
(
ぶか
)
に
酒
(
さけ
)
肴
(
さかな
)
及
(
および
)
美食
(
びしよく
)
を
与
(
あた
)
へ
002
『
今日
(
けふ
)
は
奥様
(
おくさま
)
の
十年祭
(
じふねんさい
)
だから、
003
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく
呑
(
の
)
め
喰
(
く
)
へ』と
命令
(
めいれい
)
しおき、
004
コルトンと
共
(
とも
)
にシャカンナの
居間
(
ゐま
)
に
細長
(
ほそなが
)
い
干瓢頭
(
かんぺうあたま
)
をニユツと
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
した。
005
バルギー『エー
親方
(
おやかた
)
様
(
さま
)
、
006
室外
(
しつぐわい
)
にて
承
(
うけたま
)
はれば、
007
今晩
(
こんばん
)
は
最早
(
もはや
)
読経
(
どくきやう
)
は
御
(
お
)
廃
(
よ
)
しになるとの
事
(
こと
)
、
008
……
英雄
(
えいゆう
)
と
英雄
(
えいゆう
)
との
会合
(
くわいがふ
)
が
何
(
なに
)
よりの
御
(
ご
)
回向
(
ゑかう
)
になる……と
仰
(
おほ
)
せられたのを
承
(
うけたま
)
はり、
009
部下
(
ぶか
)
に
用意
(
ようい
)
の
酒
(
さけ
)
肴
(
さかな
)
を
与
(
あた
)
へておきました。
010
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
で
厶
(
ござ
)
いますな』
011
シャカンナ『ウーン、
012
今日
(
けふ
)
はどこ
共
(
とも
)
なく
天気
(
てんき
)
も
好
(
よ
)
し、
013
気分
(
きぶん
)
の
好
(
い
)
い
日
(
ひ
)
だ。
014
コルトン、
015
汝
(
きさま
)
の
骨折
(
ほねをり
)
で、
016
俺
(
おれ
)
の
片腕
(
かたうで
)
を
拾
(
ひろ
)
つて
来
(
き
)
てくれたやうなものだ。
017
ヤ、
018
感謝
(
かんしや
)
する。
019
マア
一杯
(
いつぱい
)
やれ』
020
コルトン『エー、
021
親方
(
おやかた
)
様
(
さま
)
、
022
合点
(
がつてん
)
のいかぬ
事
(
こと
)
仰有
(
おつしや
)
いますな。
023
何時
(
いつ
)
も
貴方
(
あなた
)
はコルトンは
右
(
みぎ
)
の
腕
(
うで
)
、
024
バルギーは
左
(
ひだり
)
の
腕
(
うで
)
と
仰有
(
おつしや
)
いましたが、
025
此
(
この
)
修験者
(
しゆげんじや
)
が
片腕
(
かたうで
)
とならば、
026
一体
(
いつたい
)
どうなるので
厶
(
ござ
)
います。
027
三本
(
さんぼん
)
の
腕
(
かひな
)
は
根
(
ね
)
つから
必要
(
ひつえう
)
ないやうに
考
(
かんが
)
へますがな』
028
シヤ『ウーン、
029
それで
可
(
い
)
いのだ。
030
コルトン、
031
バルギー
二人
(
ふたり
)
を
合
(
あは
)
して
左
(
ひだり
)
の
腕
(
うで
)
とする、
032
そして
此
(
この
)
天真坊
(
てんしんばう
)
殿
(
どの
)
を
右
(
みぎ
)
の
腕
(
うで
)
とするのだ。
033
之
(
これ
)
から、
034
さう
心得
(
こころえ
)
たが
可
(
よ
)
からうぞ』
035
コル『ハイ、
036
仕方
(
しかた
)
がありませぬ。
037
のうバルギー、
038
それで
辛抱
(
しんばう
)
せうかな』
039
バル『ウーン、
040
到頭
(
たうとう
)
二
(
ふた
)
つ
一
(
いち
)
だ。
041
随分
(
ずいぶん
)
相場
(
さうば
)
が
下落
(
げらく
)
したものぢやないか。
042
早晩
(
さうばん
)
こんな
事
(
こと
)
が
突発
(
とつぱつ
)
すると
思
(
おも
)
うてゐたのだ。
043
汝
(
きさま
)
が
仕様
(
しやう
)
もない
修験者
(
しゆげんじや
)
を
引張
(
ひつぱ
)
つてくるものだから、
044
こんな
破目
(
はめ
)
になつたのだ。
045
エー、
046
沢山
(
たくさん
)
の
乾児
(
こぶん
)
に
対
(
たい
)
し、
047
俺
(
おれ
)
は
今日
(
けふ
)
から
半人前
(
はんにんまへ
)
になつたなどと、
048
何
(
ど
)
うしていはれるものか。
049
狼
(
おほかみ
)
のやうな
連中
(
れんちう
)
を、
050
親分
(
おやぶん
)
の
片腕
(
かたうで
)
といひ、
051
威喝
(
ゐかつ
)
して、
052
漸
(
やうや
)
く
治
(
をさ
)
めて
来
(
き
)
たのだのに、
053
半片腕
(
はんかたうで
)
となつちや
部下
(
ぶか
)
の
統制
(
とうせい
)
も
出来
(
でき
)
まい。
054
あーあ
仕方
(
しかた
)
がないなア』
055
玄
(
げん
)
『ワツハヽヽヽヽ、
056
オイ、
057
コルトン、
058
バルギー、
059
何
(
なん
)
といふ
情
(
なさけ
)
ない
面
(
つら
)
をするんだいエヽン。
060
よく
考
(
かんが
)
へてみろ、
061
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
、
062
天来
(
てんらい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
と、
063
仮令
(
たとへ
)
半分
(
はんぶん
)
にもせよ、
064
肩
(
かた
)
を
並
(
なら
)
べるといふ
事
(
こと
)
は
汝
(
きさま
)
達
(
たち
)
にとつては、
065
無上
(
むじやう
)
の
光栄
(
くわうえい
)
ぢやないか。
066
何
(
なん
)
だ
其
(
その
)
不足
(
ふそく
)
相
(
さう
)
な
面
(
つら
)
は……
丸
(
まる
)
切
(
き
)
り
梟鳥
(
ふくろどり
)
が
夜食
(
やしよく
)
に
外
(
はづ
)
れたといはうか、
067
折角
(
せつかく
)
苦心
(
くしん
)
して
盗
(
ぬす
)
んで
来
(
き
)
た
松魚節
(
かつをぶし
)
を
犬
(
いぬ
)
に
取
(
と
)
られた
猫
(
ねこ
)
のやうに
068
つまらぬ
面付
(
つらつき
)
して
半泣
(
はんな
)
きになつてるぢやないか。
069
チツとしつかりせぬかい。
070
そんな
腰抜
(
こしぬけ
)
を
友達
(
ともだち
)
に
持
(
も
)
つたと
思
(
おも
)
へば、
071
俺
(
おれ
)
も
泣
(
な
)
きたくなつて
来
(
く
)
るワイ。
072
ウツフヽヽヽ、
073
情
(
なさけ
)
ない
顔
(
かほ
)
だのう。
074
それでも
元
(
もと
)
の
通
(
とほ
)
りになるだらうか。
075
耆婆
(
きば
)
扁鵲
(
へんじやく
)
でも
頼
(
たの
)
んで
来
(
こ
)
ねば、
076
快復
(
くわいふく
)
は
到底
(
たうてい
)
覚束
(
おぼつか
)
ないだらう。
077
俺
(
おれ
)
の
診察
(
しんさつ
)
する
所
(
ところ
)
に
依
(
よ
)
れば、
078
予後
(
よご
)
不良
(
ふりやう
)
だ。
079
瀕死
(
ひんし
)
の
重病
(
ぢうびやう
)
だ、
080
アハヽヽヽ』
081
シャ『オイ、
082
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
、
083
兄弟
(
きやうだい
)
喧嘩
(
げんくわ
)
はみつともないぞ。
084
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
俺
(
おれ
)
に
免
(
めん
)
じて
仲能
(
なかよ
)
うしてくれ。
085
少々
(
せうせう
)
の
不平
(
ふへい
)
や
不満
(
ふまん
)
は
隠忍
(
いんにん
)
するが、
086
俺
(
おれ
)
に
対
(
たい
)
する
忠義
(
ちうぎ
)
だ。
087
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
なら、
088
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
きますと、
089
いつも
云
(
い
)
つてるぢやないか。
090
自分
(
じぶん
)
の
都合
(
つがふ
)
の
好
(
よ
)
い
事
(
こと
)
は
二
(
ふた
)
つ
返詞
(
へんじ
)
で
早速
(
さつそく
)
聞
(
き
)
くなり、
091
チツと
許
(
ばか
)
り
面白
(
おもしろ
)
くないと
云
(
い
)
つて、
092
そんな
怪体
(
けたい
)
な
面
(
つら
)
をするものぢやない。
093
余
(
あま
)
り
肝玉
(
きもだま
)
が
小
(
ちひ
)
さうすぎるぢやないか。
094
それよりも
玄真殿
(
げんしんどの
)
のつらつて
来
(
き
)
た
棚機姫
(
たなばたひめ
)
様
(
さま
)
の
柔
(
やはら
)
かいお
手々
(
てて
)
でお
酌
(
しやく
)
でもして
貰
(
もら
)
つて、
095
機嫌
(
きげん
)
を
直
(
なほ
)
したら
可
(
よ
)
からう』
096
コル『エ、
097
何
(
なん
)
と
親方
(
おやかた
)
仰
(
おほ
)
せられます。
098
こんな
奇麗
(
きれい
)
なお
方
(
かた
)
に……
酒
(
さけ
)
をついで
貰
(
もら
)
つて
呑
(
の
)
め……と
仰有
(
おつしや
)
るのですか、
099
ヤ、
100
有難
(
ありがた
)
い。
101
流石
(
さすが
)
は
親分
(
おやぶん
)
だ。
102
気
(
き
)
が
利
(
き
)
いてる。
103
のうバルギー、
104
こんな
事
(
こと
)
があるから、
105
親分
(
おやぶん
)
には
放
(
はな
)
れられないといふのだ、
106
エヘヽヽヽ』
107
バル『オイ、
108
コルトン、
109
みつともないぞ。
110
何
(
なん
)
だ、
111
汝
(
きさま
)
の
口
(
くち
)
から
光
(
ひか
)
つた
糸
(
いと
)
のやうなものが、
112
下
(
さが
)
つてゐるぢやないか。
113
たぐれ たぐれ』
114
コル『ナアニ、
115
コリヤ
棚機姫
(
たなばたひめ
)
様
(
さま
)
が
錦
(
にしき
)
の
御機
(
みはた
)
をお
織
(
おり
)
遊
(
あそ
)
ばす
玉
(
たま
)
の
糸
(
いと
)
だ。
116
粘液性
(
ねんえきせい
)
に
富
(
と
)
み、
117
そして
光沢
(
くわうたく
)
が
鮮
(
あざや
)
かだらう、
118
イツヒヽヽヽ』
119
玄
(
げん
)
『オイ、
120
コルトン、
121
バルギー、
122
今日
(
けふ
)
から
俺
(
おれ
)
は
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
、
123
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
頭尾
(
とうび
)
を
取
(
と
)
つて、
124
天真坊
(
てんしんばう
)
と
改名
(
かいめい
)
したのだから、
125
今後
(
こんご
)
は
天真坊
(
てんしんばう
)
様
(
さま
)
と
呼
(
よ
)
んでくれよ。
126
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに、
127
天真
(
てんしん
)
爛漫
(
らんまん
)
たる
棚機姫
(
たなばたひめ
)
さまの
柔
(
やはら
)
かいお
手々
(
てて
)
で、
128
お
酒
(
さけ
)
のお
給仕
(
きふじ
)
を、
129
今日
(
けふ
)
一席
(
いつせき
)
に
限
(
かぎ
)
り、
1291
許
(
ゆる
)
してやらう。
130
どうぢや
有難
(
ありがた
)
いか』
131
コル『さう
恩
(
おん
)
にきせられると、
132
根
(
ね
)
つから
有難
(
ありがた
)
くもありませぬワ。
133
のうオイ、
134
バルギー、
135
余
(
あま
)
り
勿体
(
もつたい
)
なくて
目
(
め
)
が
潰
(
つぶ
)
れると
困
(
こま
)
るから、
136
男
(
をとこ
)
らしく
平
(
ひら
)
に
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
らうぢやないか』
137
バル『
俺
(
おれ
)
や、
138
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
有難
(
ありがた
)
いワ。
139
盃
(
さかづき
)
に
一滴
(
いつてき
)
でも
可
(
い
)
いから
注
(
つ
)
いで
貰
(
もら
)
ひたいな。
140
キツとこんな
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
に
酒
(
さけ
)
をついで
貰
(
もら
)
ふと、
141
其
(
その
)
徳
(
とく
)
にあやかつて
出世
(
しゆつせ
)
するよ。
142
そしてこんな
美
(
うつく
)
しい
女房
(
にようばう
)
が
持
(
も
)
てるかも
知
(
し
)
れないからな』
143
コル『ヘン
仰有
(
おつしや
)
います
哩
(
わい
)
。
144
反古
(
ほぐ
)
の
紙撚
(
かみより
)
で
編
(
あみ
)
あげた
羅漢
(
らかん
)
のやうな
面
(
つら
)
しやがつて、
145
美人
(
びじん
)
の
女房
(
にようばう
)
も
午蒡
(
ごばう
)
もあつたものかい。
146
チツと
汝
(
きさま
)
の
面
(
つら
)
と
相談
(
さうだん
)
したら
可
(
よ
)
からうぞ、
147
ウツフヽヽヽ』
148
女
(
をんな
)
(ダリヤ)
『もし、
149
天帝
(
てんてい
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
様
(
さま
)
、
150
貴方
(
あなた
)
は
妾
(
わたし
)
がスガの
山
(
やま
)
に
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
しました
時
(
とき
)
、
151
天
(
てん
)
から
降
(
くだ
)
つたと
仰有
(
おつしや
)
いまして、
152
……お
前
(
まへ
)
の
母
(
はは
)
は
決
(
けつ
)
して
死
(
し
)
んでゐない。
153
生
(
い
)
きて
居
(
を
)
るから
会
(
あ
)
はしてやらう……と
仰有
(
おつしや
)
つたぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
154
それを
誠
(
まこと
)
と
信
(
しん
)
じ、
155
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
お
伴
(
とも
)
をして
参
(
まゐ
)
りましたのに……
泥棒
(
どろばう
)
の
酒
(
さけ
)
の
酌
(
しやく
)
をせよ……とはお
情
(
なさけ
)
ないお
言葉
(
ことば
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬか。
156
そして
貴方
(
あなた
)
は
最前
(
さいぜん
)
から
聞
(
き
)
いてをれば、
157
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
許
(
いつは
)
る
悪魔
(
あくま
)
の
玄真坊
(
げんしんばう
)
さまとやら、
158
オーラ
山
(
さん
)
に
立籠
(
たてこも
)
り
数多
(
あまた
)
の
人間
(
にんげん
)
をゴマ
化
(
くわ
)
して
厶
(
ござ
)
つた
太
(
ふと
)
いお
方
(
かた
)
のやうです。
159
私
(
わたし
)
はモウ
愛想
(
あいさう
)
がつきましたからモウ
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
つて
独
(
ひと
)
りで
帰
(
かへ
)
ります。
160
どうぞこれ
迄
(
まで
)
の
御縁
(
ごえん
)
と
思
(
おも
)
ひ
諦
(
あきら
)
め
下
(
くだ
)
さいませ。
161
貴方
(
あなた
)
の
素性
(
すじやう
)
が
判
(
わか
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
162
半時
(
はんとき
)
だつて
側
(
そば
)
にをれませぬ。
163
そして
皆様
(
みなさま
)
に
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げておきますが、
164
只今
(
ただいま
)
、
165
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
に……これ
迄
(
まで
)
の
御縁
(
ごえん
)
と
思
(
おも
)
ひ
諦
(
あきら
)
めて
下
(
くだ
)
さい……と
云
(
い
)
つたのは、
166
決
(
けつ
)
して
怪
(
あや
)
しい
関係
(
くわんけい
)
のある
意味
(
いみ
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬ。
167
スガの
山
(
やま
)
から
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
連
(
つ
)
れて
来
(
こ
)
られた
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふので
厶
(
ござ
)
いますからね。
168
一樹
(
いちじゆ
)
の
影
(
かげ
)
の
雨宿
(
あまやど
)
り、
169
一河
(
いちが
)
の
流
(
なが
)
れを
汲
(
く
)
むさへも
他生
(
たしやう
)
の
縁
(
えん
)
170
といひませう。
171
どうか、
172
誤解
(
ごかい
)
のないやうに
御
(
ご
)
賢察
(
けんさつ
)
を
願
(
ねが
)
ひます、
173
ホヽヽヽヽ。
174
アタ
阿呆
(
あはう
)
らしい、
175
妾
(
わたし
)
は
何
(
なん
)
といふ
馬鹿
(
ばか
)
だらう。
176
こんな
売僧
(
まいす
)
坊主
(
ばうず
)
に
誘惑
(
いうわく
)
されて、
177
自分
(
じぶん
)
で
自分
(
じぶん
)
に
愛想
(
あいさう
)
がつきて
来
(
き
)
た。
178
左様
(
さやう
)
なら。
179
皆
(
みな
)
さま、
180
ゆつくり
御酒
(
ごしゆ
)
でもおあがりなさい』
181
とツツと
立
(
た
)
つて
帰
(
かへ
)
らうとする。
182
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
毛
(
け
)
だらけの
猿臂
(
ゑんぴ
)
を
伸
(
の
)
ばし、
183
グツと
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れて
女
(
をんな
)
の
首筋
(
くびすぢ
)
を
掴
(
つか
)
み、
184
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
捻伏
(
ねぢふ
)
せ
乍
(
なが
)
ら、
185
川瀬
(
かはせ
)
の
乱杭
(
らんぐひ
)
の
様
(
やう
)
な
歯
(
は
)
を
見
(
み
)
せ、
186
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
ひら
)
いて、
187
玄
(
げん
)
『アハヽヽヽ、
188
ても
扨
(
さて
)
も
可
(
い
)
い
頓馬
(
とんま
)
だなア。
189
此
(
この
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
の
舌
(
した
)
三寸
(
さんずん
)
に
操
(
あやつ
)
られ、
190
こんな
岩窟
(
いはや
)
までおびき
出
(
だ
)
されたのは、
191
其方
(
そち
)
の
不覚
(
ふかく
)
だ。
192
モウ
斯
(
か
)
うなる
以上
(
いじやう
)
は、
193
何程
(
なにほど
)
帰
(
かへ
)
らうと
云
(
い
)
つても
帰
(
かへ
)
すものか。
194
お
前
(
まへ
)
を
此処
(
ここ
)
へ
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
たのは
深
(
ふか
)
い
企
(
たく
)
みのある
事
(
こと
)
だ。
195
因果
(
いんぐわ
)
を
定
(
さだ
)
めて
服従
(
ふくじゆう
)
した
方
(
はう
)
が
其方
(
そち
)
の
身
(
み
)
の
為
(
ため
)
だらう。
196
ても
扨
(
さて
)
も
可愛
(
かあい
)
ものだなア』
197
女
(
をんな
)
(ダリヤ)
『エー、
198
汚
(
けが
)
らはしい、
199
悪魔
(
あくま
)
の
口
(
くち
)
から
可愛
(
かあい
)
い
者
(
もの
)
だなどと、
200
そんな
同情
(
どうじやう
)
的
(
てき
)
な
悪言
(
あくげん
)
はやめて
下
(
くだ
)
さい。
201
妾
(
わたし
)
は
憚
(
はばか
)
り
乍
(
なが
)
ら、
202
スガの
港
(
みなと
)
の
百万
(
ひやくまん
)
長者
(
ちやうじや
)
アリスの
娘
(
むすめ
)
、
203
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ。
204
吾
(
わが
)
家
(
や
)
へ
帰
(
かへ
)
れば
何
(
なに
)
不自由
(
ふじゆう
)
なく
安心
(
あんしん
)
にゆけるものを、
205
何
(
なに
)
を
苦
(
くるし
)
んでこんな
不便
(
ふべん
)
な
土地
(
とち
)
へ
参
(
まゐ
)
り、
206
イケ
好
(
す
)
かない
売僧
(
まいす
)
坊主
(
ばうず
)
のお
前
(
まへ
)
に
従
(
したが
)
ふやうな
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
は
致
(
いた
)
しませぬから、
207
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて、
208
男
(
をとこ
)
らしう
私
(
わたし
)
を
帰
(
かへ
)
らして
下
(
くだ
)
さい』
209
玄
(
げん
)
『さう
片意地
(
かたいぢ
)
を
張
(
は
)
るものぢやない。
210
人間
(
にんげん
)
は
浮
(
うき
)
沈
(
しづ
)
み
七度
(
ななたび
)
と
云
(
い
)
つて、
211
いろいろの
波風
(
なみかぜ
)
に
当
(
あた
)
らねば、
2111
人生
(
じんせい
)
の
真
(
しん
)
の
幸福
(
かうふく
)
は
味
(
あぢ
)
はへないものだ。
212
何程
(
なにほど
)
百万
(
ひやくまん
)
長者
(
ちやうじや
)
の
娘
(
むすめ
)
でも、
213
一
(
いち
)
日
(
にち
)
に
一斗
(
いつと
)
の
米
(
こめ
)
を
食
(
く
)
ふ
訳
(
わけ
)
にもいかず、
214
着物
(
きもの
)
の
十
(
じふ
)
枚
(
まい
)
も
二十
(
にじふ
)
枚
(
まい
)
も
着
(
き
)
る
訳
(
わけ
)
にはゆこうまい。
215
お
前
(
まへ
)
の
宅
(
うち
)
に
居
(
を
)
つても
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
つても、
216
食
(
く
)
ふ
丈
(
だけ
)
のことは
食
(
く
)
はしてやる。
217
決
(
けつ
)
して
不自由
(
ふじゆう
)
はさせぬ。
218
どうだ、
219
出家
(
しゆつけ
)
に
肌
(
はだ
)
を
触
(
ふ
)
るれば、
220
子孫
(
しそん
)
七代
(
しちだい
)
繁栄
(
はんえい
)
するといふぢやないか。
221
その
上
(
うへ
)
、
222
七代前
(
しちだいぜん
)
の
先祖
(
せんぞ
)
迄
(
まで
)
が
地獄
(
ぢごく
)
の
苦
(
く
)
を
逃
(
のが
)
れ
極楽
(
ごくらく
)
浄土
(
じやうど
)
へ
登
(
のぼ
)
ると
云
(
い
)
ふ
功徳
(
くどく
)
がある。
223
能
(
よ
)
く
祖先
(
そせん
)
や
子孫
(
しそん
)
の
幸福
(
かうふく
)
を
思
(
おも
)
つて、
224
俺
(
おれ
)
の
言
(
い
)
ひ
条
(
でう
)
につくが、
225
アリス
家
(
け
)
の
為
(
ため
)
だらうよ。
226
どうだ、
227
合点
(
がつてん
)
が
行
(
い
)
つたか。
228
目
(
め
)
から
鼻
(
はな
)
へ
突
(
つ
)
き
抜
(
ぬ
)
けるやうな
賢
(
かしこ
)
いお
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
だから、
229
キツと
俺
(
おれ
)
の
行
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
つただらうなア』
230
ダリヤ『エー
汚
(
けが
)
らはしい、
231
能
(
よ
)
うそんな
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますな。
232
貴方
(
あなた
)
は
山賊
(
さんぞく
)
の
親分
(
おやぶん
)
と
結託
(
けつたく
)
し、
233
オーラ
山
(
さん
)
の
焼直
(
やきなほ
)
しをやるお
考
(
かんが
)
へでせう。
234
そんな
危
(
あぶ
)
ない
事
(
こと
)
はおよしなさいませ。
235
今度
(
こんど
)
はお
命
(
いのち
)
が
亡
(
な
)
くなりますよ』
236
玄
(
げん
)
『アハヽヽヽ、
237
お
前
(
まへ
)
の
為
(
ため
)
に
命
(
いのち
)
の
亡
(
な
)
くなるのは
本望
(
ほんまう
)
だ。
238
一層
(
いつそ
)
の
事
(
こと
)
239
お
前
(
まへ
)
の
其
(
その
)
優
(
やさ
)
しい
手
(
て
)
で
殺
(
ころ
)
して
欲
(
ほ
)
しい。
240
コレ、
241
ダリヤ、
242
これだけ
思
(
おも
)
ひ
込
(
こ
)
んだ
男
(
をとこ
)
、
243
さう
無下
(
むげ
)
に
振
(
ふ
)
り
払
(
はら
)
ふものぢやない。
244
男冥加
(
をとこめうが
)
に
尽
(
つ
)
きるぞよ』
245
ダリ『エヽ
何
(
なん
)
なつと
仰有
(
おつしや
)
いませ、
246
私
(
わたし
)
は
知
(
し
)
りませぬ。
247
此
(
この
)
上
(
うへ
)
貴方
(
あなた
)
に
対
(
たい
)
し
言葉
(
ことば
)
をかはしませぬ』
248
玄
(
げん
)
『エ、
249
さてもさても
渋太
(
しぶと
)
い
女
(
あま
)
だなア』
250
コル『アハヽヽヽ、
251
天帝
(
てんてい
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
様
(
さま
)
も
女
(
をんな
)
にかけたら
脆
(
もろ
)
いものだな。
252
オイ、
253
バルギー、
254
こんなデレ
助
(
すけ
)
と
兄弟分
(
きやうだいぶん
)
になるとは、
255
余
(
あま
)
り
有難
(
ありがた
)
すぎるぢやないか。
256
親分
(
おやぶん
)
も
親分
(
おやぶん
)
だ。
257
どこに
見込
(
みこみ
)
があるのかな』
258
バル『
久米
(
くめ
)
の
仙人
(
せんにん
)
でさへも、
259
女
(
をんな
)
の
白
(
しろ
)
い
腿
(
もも
)
をみて
通力
(
つうりき
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
260
天
(
てん
)
からおちたと
云
(
い
)
ふぢやないか。
261
何程
(
なにほど
)
天帝
(
てんてい
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
だつて、
262
こんな
美
(
うつく
)
しいシャンの
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
りや、
263
堕落
(
だらく
)
するのは
当然
(
あたりまへ
)
だよ、
264
ウフヽヽヽ』
265
シャ『オイ、
266
コルトン、
267
バルギー、
268
酒
(
さけ
)
を
注
(
つ
)
いでくれ。
269
何
(
なん
)
だか
天真
(
てんしん
)
様
(
さま
)
のチンチン
喧嘩
(
げんくわ
)
で、
270
座
(
ざ
)
が
白
(
しら
)
けたやうだ。
271
一杯
(
いつぱい
)
呑
(
の
)
んで
大
(
おほい
)
に
踊
(
をど
)
つてくれないか』
272
コル『ハイ、
273
已
(
すで
)
に
已
(
すで
)
に
胸
(
むね
)
が
踊
(
をど
)
つて
居
(
を
)
ります。
274
そして
此
(
この
)
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
さまは、
275
棚機姫
(
たなばたひめ
)
さまに
余程
(
よほど
)
おどつて
居
(
を
)
りますね。
276
いな
劣
(
おと
)
つてゐるぢやありませぬか』
277
シャ『オイ、
278
いらぬ
事
(
こと
)
をいふな。
279
天真坊
(
てんしんぼう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そこ
)
ねちや
大変
(
たいへん
)
だぞ』
280
玄
(
げん
)
『オイ、
281
シャカンナ
殿
(
どの
)
、
282
こんな
小童
(
こわつぱ
)
武者
(
むしや
)
は
相手
(
あひて
)
にしなさるな。
283
男
(
をとこ
)
が
下
(
さが
)
るから……』
284
コル『ヘン
男
(
をとこ
)
が
下
(
さが
)
るのは
玄真
(
げんしん
)
さまぢやないか。
285
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
前
(
まへ
)
で、
286
タカが
女
(
をんな
)
の
一疋
(
いつぴき
)
や
半疋
(
はんびき
)
に
肱鉄
(
ひぢてつ
)
をかまされ、
287
赤恥
(
あかはぢ
)
をかかされ、
288
シヤアつく
洒蛙
(
しあ
)
々々
(
しあ
)
然
(
ぜん
)
として
蛙
(
かはづ
)
の
面
(
つら
)
に
水
(
みづ
)
、
289
馬耳
(
ばじ
)
東風
(
とうふう
)
宜
(
よろ
)
しくといふ、
290
鉄面皮
(
てつめんぴ
)
だからなア。
291
男
(
をとこ
)
のさがることも、
292
恥
(
はづ
)
かしい
事
(
こと
)
もお
判
(
わか
)
りならないのだらう』
293
バル『そらさうだとも、
294
恥
(
はぢ
)
といふ
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らぬ
者
(
もの
)
に
恥
(
はづ
)
かしいといふ
観念
(
くわんねん
)
が
有
(
あ
)
るものか、
295
人間
(
にんげん
)
もここ
迄
(
まで
)
徹底
(
てつてい
)
すれば、
296
結句
(
けつく
)
297
面白
(
おもしろ
)
いだらう、
298
ウツフヽヽヽ』
299
ダリヤは
因果
(
いんぐわ
)
を
定
(
さだ
)
めたか、
300
平然
(
へいぜん
)
として
機嫌
(
きげん
)
を
直
(
なほ
)
し、
301
シャカンナや
玄真坊
(
げんしんばう
)
に
愛嬌
(
あいけう
)
をふりまき
乍
(
なが
)
ら、
302
酌
(
しやく
)
をして
居
(
ゐ
)
る。
303
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
にて、
304
玄真坊
『ヤア
占
(
しめ
)
た、
305
ヤツパリ
俺
(
おれ
)
は
色男
(
いろをとこ
)
だ。
306
ダリヤの
奴
(
やつ
)
、
307
人中
(
ひとなか
)
だと
思
(
おも
)
つて、
308
ワザとにあんな
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬか
)
してゐやがつたのだな。
309
ウンよしよし、
310
ダリヤが
其
(
その
)
心
(
こころ
)
なら、
311
俺
(
おれ
)
も
之
(
これ
)
から
特別
(
とくべつ
)
大切
(
だいじ
)
にしてやらう。
312
愛
(
あい
)
はすべて
相対
(
さうたい
)
的
(
てき
)
だから、
313
何程
(
なにほど
)
此方
(
こつち
)
が
愛
(
あい
)
してやらうと
思
(
おも
)
つても、
314
先方
(
むかふ
)
が
其
(
その
)
愛
(
あい
)
を
受
(
う
)
けないと
何
(
ど
)
うする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ない。
315
ヤア
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
だ』
316
と
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
小声
(
こごゑ
)
で
口走
(
くちばし
)
つた。
317
ダリヤは
之
(
これ
)
を
聞
(
き
)
いて、
318
『ホヽヽヽ』と
小
(
ちひ
)
さく
笑
(
わら
)
ひ、
319
せつせと
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
に
酒注
(
さけつ
)
ぎをやつてゐる。
320
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
得意然
(
とくいぜん
)
として
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
321
玄
(
げん
)
『
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
322
酒
(
さけ
)
より
大事
(
だいじ
)
の
物
(
もの
)
はない
323
酒
(
さけ
)
より
大事
(
だいじ
)
の
物
(
もの
)
がある
324
それは
何
(
なに
)
よと
尋
(
たづ
)
ぬれば
325
花
(
はな
)
の
顔容
(
かんばせ
)
月
(
つき
)
の
眉
(
まゆ
)
326
天女
(
てんによ
)
のやうなダリヤ
姫
(
ひめ
)
327
天
(
あま
)
の
矛鉾
(
ぬほこ
)
を
回転
(
くわいてん
)
し
328
ウマンマ
之
(
こ
)
れの
山奥
(
やまおく
)
に
329
おびき
出
(
だ
)
したる
吾
(
わが
)
手柄
(
てがら
)
330
鬼神
(
きじん
)
もさぞや
驚
(
おどろ
)
かむ
331
呑
(
の
)
めよ
騒
(
さわ
)
げよ
一寸先
(
いつすんさき
)
や
暗
(
やみ
)
よ
332
暗
(
やみ
)
の
後
(
あと
)
には
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
る
333
月
(
つき
)
より
花
(
はな
)
より
雪
(
ゆき
)
よりも
334
一層
(
いつそう
)
綺麗
(
きれい
)
な
此
(
この
)
シャンは
335
玄真
(
げんしん
)
さまの
宿
(
やど
)
の
妻
(
つま
)
336
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
有難
(
ありがた
)
い
337
之
(
これ
)
を
思
(
おも
)
へば
人間
(
にんげん
)
は
338
完全
(
くわんぜん
)
無欠
(
むけつ
)
の
大知識
(
だいちしき
)
339
甘
(
うま
)
く
活用
(
くわつよう
)
せにやならぬ
340
智慧
(
ちゑ
)
と
言葉
(
ことば
)
の
余徳
(
よとく
)
にて
341
棚機姫
(
たなばたひめ
)
にもまがふなる
342
姿
(
すがた
)
の
優
(
やさ
)
しいダリヤさま
343
タニグク
山
(
やま
)
の
山麓
(
さんろく
)
に
344
岩窟
(
いはや
)
を
構
(
かま
)
へしシャカンナの
345
珍
(
うづ
)
の
御殿
(
ごてん
)
に
現
(
あら
)
はれて
346
鈴
(
すず
)
のやうなる
声
(
こゑ
)
絞
(
しぼ
)
り
347
愛嬌
(
あいけう
)
たつぷりふり
蒔
(
ま
)
いて
348
お
酌
(
しやく
)
をなさる
手際
(
てぎは
)
よさ
349
姫
(
ひめ
)
のたたむき
眺
(
なが
)
むれば
350
象牙
(
ざうげ
)
細工
(
ざいく
)
のやうな
艶
(
つや
)
351
爪
(
つめ
)
の
色
(
いろ
)
をば
調
(
しら
)
ぶれば
352
瑪瑙
(
めなう
)
のやうな
光
(
ひか
)
り
方
(
かた
)
353
こんな
美人
(
びじん
)
が
又
(
また
)
と
世
(
よ
)
に
354
二人
(
ふたり
)
とあらうかあらうまい
355
ホンに
吾
(
わが
)
身
(
み
)
は
何
(
なん
)
として
356
こんな
幸福
(
かうふく
)
が
見舞
(
みま
)
ふのか
357
昔
(
むかし
)
の
昔
(
むかし
)
の
神代
(
かみよ
)
から
358
善
(
ぜん
)
をば
助
(
たす
)
け
悪人
(
あくにん
)
を
359
戒
(
いまし
)
め
来
(
きた
)
りし
余徳
(
よとく
)
だらう
360
こんなナイスと
添
(
そ
)
ふからは
361
ヤツパリ
俺
(
おれ
)
の
魂
(
たましひ
)
も
362
万更
(
まんざら
)
すてたものでない
363
昔
(
むかし
)
の
神代
(
かみよ
)
は
天国
(
てんごく
)
の
364
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
身魂
(
みたま
)
365
澆季
(
げうき
)
末法
(
まつぽふ
)
の
世
(
よ
)
を
憂
(
うれ
)
ひ
366
神
(
かみ
)
の
命令
(
みこと
)
を
畏
(
かしこ
)
みて
367
此
(
この
)
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
に
降臨
(
かうりん
)
し
368
衆生
(
しゆじやう
)
済度
(
さいど
)
を
励
(
はげ
)
むべく
369
命
(
めい
)
をうけたる
御魂
(
みたま
)
だらう
370
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
371
吾
(
わ
)
れは
神
(
かみ
)
なり
彼
(
か
)
れも
神
(
かみ
)
372
神
(
かみ
)
と
神
(
かみ
)
との
睦
(
むつ
)
び
合
(
あひ
)
373
よき
日
(
ひ
)
よき
時
(
とき
)
相
(
あひ
)
えらび
374
シャカンナさまの
仲介
(
なかうど
)
で
375
天
(
あめ
)
の
御柱
(
みはしら
)
めぐり
合
(
あ
)
ひ
376
山川
(
さんせん
)
草木
(
さうもく
)
生
(
う
)
み
並
(
なら
)
べ
377
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
大空
(
おほぞら
)
の
378
星
(
ほし
)
の
数
(
かず
)
程
(
ほど
)
産
(
う
)
みおとし
379
いよいよ
誠
(
まこと
)
の
救
(
すく
)
ひ
主
(
ぬし
)
380
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
とあがめられ
381
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
永久
(
とは
)
の
命
(
いのち
)
をば
382
保
(
たも
)
ちて
世人
(
よびと
)
を
救
(
すく
)
ひ
行
(
ゆ
)
く
383
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
となつてみよう
384
シャカンナさまの
企
(
くはだ
)
てを
385
之
(
これ
)
から
夫婦
(
ふうふ
)
が
相助
(
あひたす
)
け
386
悪人輩
(
あくにんばら
)
を
平
(
たひら
)
げて
387
タラハン
国
(
ごく
)
の
災
(
わざはひ
)
を
388
科戸
(
しなど
)
の
風
(
かぜ
)
に
吹払
(
ふきはら
)
ひ
389
天晴
(
あつぱれ
)
真
(
まこと
)
の
生神
(
いきがみ
)
と
390
天地
(
てんち
)
と
共
(
とも
)
に
芳名
(
はうめい
)
を
391
千代
(
ちよ
)
万代
(
よろづよ
)
に
照
(
てら
)
すべし
392
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
393
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
になつて
来
(
き
)
た
394
之
(
これ
)
も
梵天
(
ぼんてん
)
自在天
(
じざいてん
)
395
ウラルの
神
(
かみ
)
や
八百万
(
やほよろづ
)
396
神々
(
かみがみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
恵
(
めぐ
)
み
397
ホンに
嬉
(
うれ
)
しい
頼
(
たの
)
もしい
398
ダリヤの
姫
(
ひめ
)
の
玉
(
たま
)
の
手
(
て
)
に
399
首
(
くび
)
をまかれてスヤスヤと
400
白川
(
しらかは
)
夜舟
(
よぶね
)
の
旅
(
たび
)
をなし
401
忽
(
たちま
)
ち
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
の
空
(
そら
)
へ
402
一夜
(
いちや
)
の
中
(
うち
)
に
参
(
まゐ
)
りませう
403
コルトン、バルギー
両人
(
りやうにん
)
よ
404
こんな
所
(
ところ
)
を
見
(
み
)
せられて
405
さぞやさぞさぞお
心
(
こころ
)
が
406
もめるであらうが
辛抱
(
しんばう
)
せよ
407
やがてお
前
(
まへ
)
も
時
(
とき
)
来
(
く
)
れば
408
目鼻
(
めはな
)
のついた
女房
(
にようばう
)
を
409
俺
(
おれ
)
が
世話
(
せわ
)
してやる
程
(
ほど
)
に
410
末
(
すゑ
)
の
末
(
すゑ
)
をば
楽
(
たのし
)
んで
411
キツと
悋気
(
りんき
)
をしてくれな
412
ダリヤは
俺
(
おれ
)
の
女房
(
にようばう
)
だ
413
夢
(
ゆめ
)
にも
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
るなよ
414
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
415
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
416
天真坊
(
てんしんばう
)
が
真心
(
まごころ
)
を
417
捧
(
ささ
)
げまつつて
両人
(
りやうにん
)
が
418
ダリヤの
色香
(
いろか
)
に
迷
(
まよ
)
はぬやう
419
御
(
お
)
守
(
まも
)
り
下
(
くだ
)
さる
其
(
その
)
由
(
よし
)
を
420
偏
(
ひとへ
)
に
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
る
421
偏
(
ひとへ
)
に
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
る』
422
シャ『アハヽヽヽ、
423
イヤもう
偉
(
えら
)
い
所
(
ところ
)
をみせつけられ、
424
此
(
この
)
爺
(
ぢい
)
も
二十
(
にじふ
)
年
(
ねん
)
計
(
ばか
)
り
気
(
き
)
が
若
(
わか
)
くなつて
来
(
き
)
た。
425
天真坊
(
てんしんばう
)
殿
(
どの
)
の
御
(
お
)
得意
(
とくい
)
426
思
(
おも
)
ふべしだな、
427
アハヽヽヽ』
428
玄
(
げん
)
『エヘヽヽヽ、
429
なア、
430
ダリヤ、
431
イヒヽヽヽ』
432
ダリ『……………』
433
コル『ヘン、
434
馬鹿
(
ばか
)
にしてゐやがる。
435
俺
(
おれ
)
だつて、
436
さう
軽蔑
(
けいべつ
)
したものぢやないワ。
437
おつつけ、
438
立派
(
りつぱ
)
な
女房
(
にようばう
)
をどつかで
掠奪
(
りやくだつ
)
して
来
(
き
)
て、
439
天真坊
(
てんしんぼう
)
さまの
御
(
おん
)
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
にブラつかして
見
(
み
)
せてやるワイ。
440
のうバルギー、
441
さうなとしなくちや、
442
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
面
(
つら
)
が
丸潰
(
まるつぶ
)
れだからな』
443
バル『フン、
444
フン』
445
ダリ『ハルの
湖
(
うみ
)
酒
(
さけ
)
の
嵐
(
あらし
)
の
吹
(
ふ
)
きあれて
446
醜
(
しこ
)
の
荒波
(
あらなみ
)
立
(
たち
)
さわぐかな』
447
シャ『うるはしきダリヤの
花
(
はな
)
は
山風
(
やまかぜ
)
に
448
吹
(
ふ
)
かれて
遂
(
つひ
)
に
打
(
うち
)
靡
(
なび
)
きける』
449
玄
(
げん
)
『
月
(
つき
)
も
日
(
ひ
)
もよりて
仕
(
つか
)
ふる
吾
(
わ
)
れなれば
450
ダリヤの
姫
(
ひめ
)
の
慕
(
した
)
ふも
宜
(
むべ
)
よ。エヘヽヽヽ』
451
(
大正一三・一二・三
新一二・二八
於祥雲閣
松村真澄
録)
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【霊界物語ネット】
『
王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)
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飯塚弘明著『
PTC2 出口王仁三郎の霊界物語で透見する世界現象 T之巻
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霊界物語ネットに出口王仁三郎の
第六歌集『霧の海』
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