霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 太子(たいし)微行(びかう)〔一七一四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻 篇:第3篇 多羅煩獄 よみ(新仮名遣い):たらはんごく
章:第12章 太子微行 よみ(新仮名遣い):たいしびこう 通し章番号:1714
口述日:1924(大正13)年12月28日(旧12月3日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年8月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
太子とアリナは、タラハン城の東北にある城山に分け入った。すばらしい光景を目にして太子は感慨無量の思いとなり、ますます宮中を捨てたくなった。
太子の希望により一行はさらに山を越え、奥山へと進み行くアリナは途方にくれたが、太子の意思は堅く、さらに北へ北へと歩を進めていく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm6712
愛善世界社版:157頁 八幡書店版:第12輯 88頁 修補版: 校定版:159頁 普及版:68頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]出口王仁三郎著作集 > 第三巻「愛と美といのち」 > [3] 美 > [3-1] 造化の芸術 > [3-1-3] 天然の美
001 スダルマン太子(たいし)左守(さもり)一子(いつし)アリナと(とも)002窮屈(きうくつ)殿内(でんない)生活(せいくわつ)(のが)れて(こころ)(こま)(すす)むまま膝栗毛(ひざくりげ)(むちう)003タラハン(じやう)東北(とうほく)(あた)樹木(じゆもく)鬱蒼(うつさう)たる城山(しろやま)目指(めざ)して(すす)()つた。004(いま)(まで)()(こと)も、005()いた(こと)もない(うる)はしき羽翼(うよく)(ひろ)げた百鳥(ひやくてう)006()()にチユンチユンと(さへづ)り、007デカタン高原(かうげん)名物(めいぶつ)(かぜ)今日(けふ)殊更(ことさら)(おだや)かに()(わた)自然(しぜん)音楽(おんがく)(そう)し、008山野(さんや)草木(くさき)惟神(かむながら)(てき)舞踏(ぶたふ)(えん)じ、009谷川(たにがは)(なが)れは激湍(げきたん)飛沫(ひまつ)絶景(ぜつけい)(げん)じ、010太子(たいし)()には(ひと)つとして()ならざるなく011(ちん)ならざるはなかつた。
012(たい)『オイ、013アリナ014(まへ)のお(かげ)(おれ)窮屈(きうくつ)殿内(でんない)をやつとの(こと)脱走(だつそう)し、015造化(ざうくわ)技巧(ぎかう)()らした天然(てんねん)風光(ふうくわう)(した)しく(せつ)016山野(さんや)草木(くさき)や、0161禽獣(きんじう)(とも)として017気楽(きらく)逍遥(せうえう)する心持(こころもち)()(うま)れてから(いま)(はじ)めてだ。018()れば()(ほど)019(かんが)へれば(かんが)へる(ほど)020天然(てんねん)()ふものはなんとした結構(けつこう)なものだらう。021人間(にんげん)(つく)つた美術(びじゆつ)絵画(くわいぐわ)とは(ちが)つて022()ふに()はれぬ風韻(ふうゐん)(こも)つて()るではないか。023()不幸(ふかう)にして王族(わうぞく)(うま)れ、024十八(じふはち)(ねん)今日(こんにち)(まで)狭苦(せまくる)しい殿中(でんちう)生活(せいくわつ)(くる)しめられ、025かかる広大(くわうだい)なる原野(げんや)天地(てんち)(とも)として、026悠然(いうぜん)として観光(くわんくわう)する余裕(よゆう)がなかつた。027あゝ平民(へいみん)境遇(きやうぐう)(うらや)ましい。028人生(じんせい)貴族(きぞく)(うま)るる(ほど)不幸(ふかう)不運(ふうん)のものはないぢやないか。029()(なん)天罰(てんばつ)斯様(かやう)窮屈(きうくつ)()(うへ)(うま)れて()たのだらう。030そしてお(まへ)左守(さもり)(せがれ)で、031貴族(きぞく)(いへ)(うま)れたと()つても()(くら)ぶれば余程(よほど)自由(じいう)がある。032()王族(わうぞく)()牢獄(らうごく)(とう)ぜられ、033かかる無限(むげん)天地(てんち)恩恵(おんけい)(よく)することの出来(でき)ないのは(じつ)残念(ざんねん)だ。034(かは)れるものならお(まへ)(かは)つて(もら)ひたい、035あゝあゝ』
036溜息(ためいき)をつき感慨(かんがい)無量(むりやう)(てい)であつた。
037ア『若君(わかぎみ)(さま)038さう思召(おぼしめ)すのも御尤(ごもつと)もで(ござ)いませうが、039何程(なにほど)(くる)しくつても、040そこを辛抱(しんばう)して(いただ)かねばなりませぬ。041殿下(でんか)一国(いつこく)(おや)ともなり、042()ともなり、043(しゆ)ともお()(あそ)ばして国民(こくみん)愛撫(あいぶ)し、044指導(しだう)し、045監督(かんとく)なさらねばならない(てん)よりの()職掌(しよくしやう)(ござ)いますから、046()境遇(きやうぐう)には同情(どうじやう)(いた)しますが、047どうぞ左様(さやう)(こと)(おほ)せられずに、048父王(ちちわう)(さま)(あと)をお()(あそ)ばし天下(てんか)君臨(くんりん)して(いただ)かねばなりませぬ。049(わたし)はどこ(まで)殿下(でんか)(ため)には身命(しんめい)()して(はたら)きませう。050(また)(なる)()()窮屈(きうくつ)でないやうに取計(とりはから)ひますで(ござ)いませう』
051(たい)『ウン、052それもさうだな。053()残念(ざんねん)(おも)ふわい』
054ア『殿下(でんか)如何(いかが)(ござ)いませう、055(この)絶景(ぜつけい)殿下(でんか)妙筆(めうひつ)描写(べうしや)なさいましては。056殿中(でんちう)()られます(とき)とは、057余程(よほど)(かは)つた立派(りつぱ)なものが出来(でき)るでせう。058そしてお(こころ)(やす)まるで(ござ)いませうから』
059(たい)『いや、060()はもう絵筆(ゑふで)()てた。061殿中(でんちう)(ばか)りに()つて園内(ゑんない)景色(けしき)(いま)(まで)得意(とくい)になつて写生(しやせい)して()たが、062かう山野(さんや)()造化(ざうくわ)芸術(げいじゆつ)目撃(もくげき)しては、063もう(ふで)(ふる)()にはなれない。064何程(なにほど)丹精(たんせい)()らしても万分一(まんぶいち)真景(しんけい)をも描写(べうしや)することは出来(でき)ぬぢやないか。065これだけ雄大(ゆうだい)山川(さんせん)草木(さうもく)()(まへ)(よこ)たはつて()ては、066どこから(ふで)()ろしてよいやら、067(その)端緒(たんちよ)さへ(みと)むるに(くる)しむぢやないか。068(ただ)一本(いつぽん)樹木(じゆもく)描写(べうしや)するにも余程(よほど)丹精(たんせい)()らさねばならぬ。069際限(さいげん)もなき山野(さんや)草木(さうもく)070渺茫(べうばう)として(てん)(つづ)大高原(だいかうげん)071どうしてこれが人間(にんげん)(ふで)(ゑが)()されるものか。072王者(わうじや)だとか貴族(きぞく)だとか、073高位(かうゐ)高官(かうくわん)だとか、074国民(こくみん)(たい)威張(ゐば)つて()(ところ)で、075(かみ)(ちから)076自然(しぜん)風光(ふうくわう)(くら)ぶれば(ほと)んど(もの)(かず)でもない、077児戯(じぎ)(ひと)しいものだ。078天地(てんち)万有(ばんいう)079()(たい)しては唯一(ゆゐいつ)経文(きやうもん)無上(むじやう)(をしへ)だ。080これを()ても人間(にんげん)たるものの腑甲斐(ふがひ)なさに(あき)(かへ)らざるを()ぬではないか』
081ア『左様(さやう)(ござ)いますな。082殿下(でんか)観察眼(くわんさつがん)非常(ひじやう)(すぐ)れて()られます。083(わたし)(さいは)小臣(せうしん)(せがれ)084自由(じいう)自在(じざい)山野(さんや)逍遥(せうえう)()るの便宜(べんぎ)(ござ)いますので、085時々(ときどき)自然(しぜん)風光(ふうくわう)(せつ)し、086日月(じつげつ)(ひかり)()びて、087自由(じいう)天地(てんち)(あそ)(こと)出来(でき)ます()めか、088造化(ざうくわ)芸術(げいじゆつ)見慣(みな)れて(しま)ひ、089()(まで)雄大(ゆうだい)だとも、090絶妙(ぜつめう)だとも(かんが)へませなんだ。091一木(いちぼく)一草(いつさう)(はし)(いた)(まで)(こころ)(とめ)(なが)めた(とき)には、092如何(いか)にも不可思議(ふかしぎ)千万(せんばん)現象(げんしやう)(ござ)います』
093(たい)『どうぢやアリナ、094(この)(やま)(むか)ふへ()えて(すこ)しく(めづ)らしい風景(ふうけい)眺望(てうばう)して()うぢやないか』
095ア『ハイ、096(とも)(いた)しませう。097(しか)(なが)(あま)遠方(ゑんぱう)へお()ましになると(かへ)りが(おそ)くなり、098頑迷(ぐわんめい)なる役人(やくにん)(ども)()つけられては、099警戒(けいかい)益々(ますます)(げん)になり、100殿下(でんか)とかう気楽(きらく)自由(じいう)散歩(さんぽ)する(こと)出来(でき)ないやうになるかも()れませぬ。101さうすればお(たがひ)迷惑(めいわく)(ござ)いますから、102今日(こんにち)殿下(でんか)(おほ)せの場所(ばしよ)(まで)(いそ)(あし)(まゐ)り、103(また)(いそ)いで殿中(でんちう)(かへ)りませう』
104(たい)『ヨシヨシ105(まへ)意見(いけん)にも(したが)はなくちやなるまい。106そんなら(いそ)いで城山(しろやま)(きた)()え、107観光(くわんくわう)(ほしいまま)にしようぢやないか。108サア()かう』
109(はや)くも太子(たいし)(さき)()つて()(すす)めた。110アリナは写生(しやせい)(えう)する一切(いつさい)道具(だうぐ)()()(なが)111()()(くぐ)つて(あま)(たか)からぬ城山(しろやま)頂上(ちやうじやう)にあえぎあえぎ(のぼ)つていつた。112太子(たいし)(やま)(いただき)()つて四方(よも)見渡(みわた)しながら、
113『オイ、114アリナ、115タラハンの市街(しがい)はタラハンの首府(しゆふ)といつて、116随分(ずいぶん)(ひろ)(ひろ)いと(たれ)()()めて()るが、117(わづ)三万(さんまん)人口(じんこう)118(また)広大(くわうだい)なる王城(わうじやう)も、119かう(やま)(うへ)から瞰下(みおろ)して()れば、120(じつ)宇宙(うちう)断片(だんぺん)()ぎないぢやないか。121かかる(ちひ)さい(もの)(かず)にも()らぬ王城(わうじやう)122()十八(じふはち)(ねん)窮屈(きうくつ)生活(せいくわつ)をやつて()(こと)(おも)()して、123(こころ)(はづ)かしくなつて()た。124(この)雄大(ゆうだい)なる(てん)(つづ)いた大広野(だいくわうや)(なか)にチラチラ()える人家(じんか)125まるでハルの湖水(こすい)(ふね)(うか)んで()るやうぢやないか。126山野(さんや)草木(さうもく)はソロソロ()ぐみ()し、127(みどり)128(くれなゐ)129()130(しろ)などの(はな)(いた)(ところ)()()ち、131白紙(はくし)()らしたやうに所々(ところどころ)(いけ)(ぬま)日光(につくわう)()つて()る。132この風光(ふうくわう)(じつ)天国(てんごく)浄土(じやうど)移写(いしや)のやうだ。133()()らぬ(めづ)らしい(とり)はこの(とほ)前後(ぜんご)左右(さいう)()()134微妙(びめう)(こゑ)(はな)つて天下(てんか)(はる)(うた)つて()る。135()人間(にんげん)(うま)れて(こころ)ゆくまで天然(てんねん)恩恵(おんけい)(よく)したく(おも)ふ。136(かご)(とり)境遇(きやうぐう)にある()()つては、137(この)天地(てんち)(じつ)唯一(ゆゐいつ)慰安所(ゐあんしよ)だ。138(いのち)洗濯場(せんたくば)だ。139あゝ何時(いつ)(まで)此所(ここ)にかうして(あそ)んで()たいやうだ。140仮令(たとへ)老臣(らうしん)(なん)小言(こごと)()はうとも(かま)はぬぢやないか。141グヅグヅいつたら太子(たいし)(くらゐ)()142(やま)()杣人(そまびと)となつて143(まへ)二人(ふたり)簡易(かんい)生活(せいくわつ)をやつてもよいぢやないか。144()(ふたた)以前(いぜん)のやうな貴族(きぞく)生活(せいくわつ)はやり()くない』
145ア『(なが)らく窮屈(きうくつ)生活(せいくわつ)(くる)しみ(あそ)ばした殿下(でんか)としては、146()無理(むり)(ござ)いませぬ。147(しか)(なが)()(なか)満足(まんぞく)()(こと)到底(たうてい)()いもので(ござ)いますから、148どうぞ(こころ)()(なほ)して一先(ひとま)殿中(でんちう)にお(かへ)(くだ)さいませ。149(あま)(おそ)くなると(また)老臣(らうしん)(ども)(さわ)()てますから』
150(たい)『お(まへ)()()(こと)なら(いのち)(まで)()てますと(つね)(ちか)つて()るぢやないか。151老臣(らうしん)(ども)小言(こごと)がそれ(ほど)(まへ)(おそ)ろしいのか。152矢張(やつぱ)人間並(にんげんなみ)(ちひ)さい私欲(しよく)()(くら)んで()るのだらう。153(かへ)(たく)ばお(まへ)勝手(かつて)(かへ)つたがよい。154()はこの山頂(さんちやう)において今夜(こんや)(つき)(しやう)し、155宝石(はうせき)(ごと)(かがや)(ほし)(そら)(こころ)ゆく(まで)(なが)めて(かへ)るつもりだ。156十八(じふはち)(ねん)今日(こんにち)(まで)()一回(いつくわい)()(こと)もない満天(まんてん)星光(せいくわう)157円満(ゑんまん)具足(ぐそく)なる三五(さんご)(つき)158(その)(つき)(たま)より(したた)白露(しらつゆ)()()びて、159人間(にんげん)真味(しんみ)(あぢ)はつて()たいのだ。160(なんぢ)(これ)より(いそ)殿中(でんちう)(かへ)つて()れ。161()はもう(ひと)(むか)ふの(やま)踏査(たふさ)して()(つも)りだ。162左様(さやう)なら』
163()(なが)らスタスタと尾上(をのへ)(つた)ふて(きた)(きた)へと(すす)()かむとす。164アリナは途方(とはう)()(なが)(かへ)らねばならず、165それだといつて太子(たいし)(やま)(のこ)して(かへ)るのは(なほ)(わる)し、166仕方(しかた)なく太子(たいし)足跡(あしあと)()んで(きた)(きた)へと(すす)()(こと)となりける。
167大正一三・一二・三 新一二・二八 於祥雲閣 加藤明子録)
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10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
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