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第71巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 追僧軽迫
01 追劇
〔1790〕
02 生臭坊
〔1791〕
03 門外漢
〔1792〕
04 琴の綾
〔1793〕
05 転盗
〔1794〕
06 達引
〔1795〕
07 夢の道
〔1796〕
第2篇 迷想痴色
08 夢遊怪
〔1797〕
09 踏違ひ
〔1798〕
10 荒添
〔1799〕
11 異志仏
〔1800〕
12 泥壁
〔1801〕
13 詰腹
〔1802〕
14 障路
〔1803〕
15 紺霊
〔1804〕
第3篇 惨嫁僧目
16 妖魅返
〔1805〕
17 夢現神
〔1806〕
18 金妻
〔1807〕
19 角兵衛獅子
〔1808〕
20 困客
〔1809〕
余白歌
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第一章
追劇
(
ついげき
)
〔一七九〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
篇:
第1篇 追僧軽迫
よみ(新仮名遣い):
ついそうけいはく
章:
第1章 追劇
よみ(新仮名遣い):
ついげき
通し章番号:
1790
口述日:
1925(大正14)年11月07日(旧09月21日)
口述場所:
祥明館
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年2月1日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玄真坊は、シャカンナの元部下たちを引き連れて、バルギーといっしょに逃げたダリヤ姫を捜索していた。部下の一人、コブライとともに山中の立岩までやってきた。
コブライは玄真坊の待遇に文句を言いつつ、女に逃げられたことをからかっている。日が暮れてきたため、二人は立岩のくぼみで眠りについた。
そこへダリヤ姫を捜索している山賊の部下たちがやってくる。山賊たちは暗闇に怖気づいて、怖さを紛らわすために歌を歌いだした。
玄真坊とコブライはそれに気づいて目を覚ます。コブライは玄真坊をからかおうと、ダリヤ姫の声色を使い、玄真坊を茨の中へ飛び込ませようとする。
玄真坊はダリヤに近づこうとするが、落とし穴に落ち込んでしまう。その悲鳴に驚いたコブライも、いっしょに穴に落ちてしまう。山賊たちはてっきり化け物の仕業と思い、逃げてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2019-01-11 17:46:43
OBC :
rm7101
愛善世界社版:
7頁
八幡書店版:
第12輯 501頁
修補版:
校定版:
7頁
普及版:
2頁
初版:
ページ備考:
001
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
豊
(
ゆた
)
かなる
002
言霊
(
ことたま
)
開
(
ひら
)
く
天恩郷
(
てんおんきやう
)
003
其
(
その
)
頂上
(
ちやうじやう
)
に
聳
(
そび
)
え
立
(
た
)
つ
004
銀杏
(
いてふ
)
の
大木
(
おほき
)
は
天
(
てん
)
を
摩
(
ま
)
し
005
黄金
(
こがね
)
の
扇子
(
せんす
)
をかざしつつ
006
これの
聖場
(
せいぢやう
)
は
万寿苑
(
まんじゆゑん
)
007
五六七
(
みろく
)
の
御代
(
みよ
)
の
果
(
はて
)
迄
(
まで
)
も
008
変
(
かは
)
る
事
(
こと
)
なき
瑞祥閣
(
ずゐしやうかく
)
009
四方
(
よも
)
は
錦
(
にしき
)
の
山屏風
(
やまびやうぶ
)
010
引立
(
ひきた
)
てまはし
綾
(
あや
)
の
機
(
はた
)
011
経
(
たて
)
と
緯
(
よこ
)
とに
織
(
おり
)
なして
012
我
(
わが
)
日
(
ひ
)
の
本
(
もと
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
013
大地
(
だいち
)
のあらむ
果
(
はて
)
までも
014
神光
(
しんくわう
)
照
(
て
)
らす
光照殿
(
くわうせうでん
)
015
いよいよ
茲
(
ここ
)
に
落成
(
らくせい
)
を
016
告
(
つ
)
げし
菊月
(
きくづき
)
上八日
(
かみやうか
)
017
南桑田
(
みなみくはだ
)
の
平原
(
へいげん
)
を
018
一目
(
ひとめ
)
に
瞰下
(
みおろ
)
す
要害地
(
えうがいち
)
019
天正
(
てんしやう
)
二
(
に
)
年
(
ねん
)
の
其
(
その
)
昔
(
むかし
)
020
織田
(
おだ
)
の
右府
(
いうふ
)
に
仕
(
つか
)
へたる
021
土岐
(
どき
)
の
一族
(
いちぞく
)
光秀
(
みつひで
)
が
022
偉業
(
ゐげふ
)
の
跡
(
あと
)
を
偲
(
しの
)
びつつ
023
祥明館
(
しやうめいくわん
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
で
024
千年
(
ちとせ
)
を
因
(
ちな
)
む
松村
(
まつむら
)
氏
(
し
)
025
三五
(
さんご
)
の
光
(
ひかり
)
の
瑞月
(
ずゐげつ
)
が
026
暗
(
くら
)
き
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
照
(
てら
)
さむと
027
神
(
かみ
)
の
御言
(
みこと
)
を
蒙
(
かかぶ
)
りて
028
何時
(
いつ
)
もの
通
(
とほ
)
り
横
(
よこ
)
に
臥
(
ふ
)
し
029
褥
(
しとね
)
の
船
(
ふね
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ
030
畳
(
たたみ
)
の
波
(
なみ
)
に
浮
(
うか
)
びつつ
031
太平洋
(
たいへいやう
)
を
横断
(
わうだん
)
し
032
印度
(
いんど
)
の
海
(
うみ
)
を
乗越
(
のりこ
)
えて
033
往古
(
わうこ
)
文明
(
ぶんめい
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
034
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
の
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
035
タラハン
城
(
じやう
)
に
仕
(
つか
)
へたる
036
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
の
隠
(
かく
)
れ
処
(
が
)
に
037
スガの
港
(
みなと
)
のダリヤ
姫
(
ひめ
)
038
言葉
(
ことば
)
巧
(
たくみ
)
にそそのかし
039
をびき
出
(
だ
)
したる
天真坊
(
てんしんばう
)
040
悪鬼
(
あくき
)
羅刹
(
らせつ
)
に
憑依
(
ひようい
)
され
041
タニグク
谷
(
だに
)
の
山奥
(
やまおく
)
に
042
其
(
その
)
醜態
(
しうたい
)
をさらしたる
043
滑稽
(
こつけい
)
悲惨
(
ひさん
)
の
物語
(
ものがたり
)
044
千山
(
せんざん
)
万水
(
ばんすい
)
(
山河
(
さんか
)
草木
(
さうもく
)
)
子
(
ね
)
(
戌
(
いぬ
)
)の
巻
(
まき
)
の
045
初頭
(
しよとう
)
にこまごま
記
(
しる
)
しゆく
046
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
047
御霊
(
みたま
)
幸
(
さちは
)
ひましませよ。
048
稀代
(
きたい
)
の
売僧
(
まいす
)
坊主
(
ばうず
)
奸侫
(
かんねい
)
邪智
(
じやち
)
の
曲者
(
くせもの
)
乍
(
なが
)
ら、
049
どこともなく
間
(
ま
)
のぬけた
面構
(
つらがまへ
)
、
050
頭
(
あたま
)
は
仔細
(
しさい
)
らしく
丸
(
まる
)
めてゐるが、
051
元来
(
ぐわんらい
)
毛
(
け
)
のうすい
性
(
たち
)
で、
052
別
(
べつ
)
にかみそりの
御
(
ご
)
節介
(
せつかい
)
に
預
(
あづか
)
らなくとも
済
(
す
)
む
筈
(
はず
)
のピカピカ
光
(
ひか
)
つた
調法
(
てうはふ
)
な
頭
(
あたま
)
の
持主
(
もちぬし
)
、
053
鼻
(
はな
)
の
先
(
さき
)
が
妙
(
めう
)
に
尖
(
とが
)
り、
054
目
(
め
)
は
少
(
すこ
)
し
許
(
ばか
)
り
釣
(
つり
)
上
(
あが
)
り、
055
前歯
(
まへば
)
が
二本
(
にほん
)
056
厚
(
あつ
)
い
唇
(
くちびる
)
からニユツとはみ
出
(
だ
)
し、
057
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
オチヨボ
口
(
ぐち
)
をしようとしても、
058
此
(
この
)
二
(
に
)
枚
(
まい
)
の
前歯
(
まへば
)
丈
(
だけ
)
は
雰囲気
(
ふんゐき
)
外
(
ぐわい
)
に
突出
(
とつしゆつ
)
して、
059
治外
(
ちぐわい
)
法権
(
はふけん
)
の
状態
(
じやうたい
)
である。
060
川瀬
(
かはせ
)
の
乱杭
(
らんぐひ
)
宜
(
よろ
)
しくといふ
歯並
(
はなみ
)
に、
061
茹損
(
ゆでぞこな
)
ひの
田螺
(
たにし
)
の
如
(
や
)
うな
歯
(
は
)
くそだらけの
歯
(
は
)
をむき
出
(
だ
)
し、
062
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
の
捜索
(
そうさく
)
に
両眼
(
りやうがん
)
を
血走
(
ちばし
)
らせ、
063
谷間
(
たにあひ
)
の
坂道
(
さかみち
)
を
息使
(
いきづか
)
ひ
荒
(
あら
)
く、
064
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
き
飛
(
と
)
ばし
乍
(
なが
)
ら、
065
数多
(
あまた
)
の
小盗児
(
せうとる
)
連
(
れん
)
を
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
に
間配
(
まくば
)
り、
066
自分
(
じぶん
)
はダリヤ
姫
(
ひめ
)
が
逃
(
に
)
げたらしいと
思
(
おも
)
はるる
山路
(
やまみち
)
を
選
(
えら
)
んで、
067
泥棒
(
どろばう
)
の
中
(
なか
)
でもチツと
許
(
ばか
)
り
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いたらしいコブライを
引
(
ひ
)
き
具
(
ぐ
)
し、
068
猪
(
しし
)
の
通
(
とほ
)
つた
跡
(
あと
)
を
洋犬
(
かめ
)
が
嗅
(
か
)
ぎつけるやうな
調子
(
てうし
)
で、
069
此
(
この
)
山中
(
さんちう
)
に
名高
(
なだか
)
い
立岩
(
たていは
)
の
麓
(
ふもと
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
た。
070
時々
(
ときどき
)
毒虫
(
どくむし
)
に
驚
(
おどろ
)
かされ、
071
猛獣
(
まうじう
)
に
肝
(
きも
)
をひしがれつつ、
072
夕陽
(
ゆふひ
)
のおつる
頃
(
ころ
)
、
073
足
(
あし
)
が
棒
(
ぼう
)
になつたと
呟
(
つぶや
)
き
乍
(
なが
)
ら、
074
根気
(
こんき
)
尽
(
つ
)
きて
路傍
(
ろばう
)
の
草
(
くさ
)
の
上
(
うへ
)
に、
075
座骨
(
ざこつ
)
の
突出
(
とつしゆつ
)
した
貧弱
(
ひんじやく
)
な
尻
(
しり
)
をドスンと
卸
(
おろ
)
した。
076
天真坊
(
てんしんばう
)
『オイ、
077
コブライ、
078
どうだ、
079
一寸
(
ちよつと
)
一服
(
いつぷく
)
やらうぢやないか、
080
交通
(
かうつう
)
機関
(
きくわん
)
にチツト
許
(
ばか
)
り
油
(
あぶら
)
をささなくちや
運転
(
うんてん
)
不能
(
ふのう
)
となりさうだ。
081
どうも
此
(
この
)
急坂
(
きふはん
)
を
夜昼
(
よるひる
)
なしに
踏破
(
たふは
)
したものだから、
082
膝坊主
(
ひざばうず
)
がチツと
許
(
ばか
)
り
抗議
(
かうぎ
)
を
申
(
まをし
)
出
(
い
)
でて、
083
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
休養
(
きうやう
)
を
命
(
めい
)
ずる
事
(
こと
)
にしたのだ。
084
エヽ
汝
(
きさま
)
は
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
にそこら
中
(
ぢう
)
を、
085
一寸
(
ちよつと
)
、
086
偵察
(
ていさつ
)
して
来
(
き
)
てくれないか、
087
あのダリヤだつて、
088
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
足
(
あし
)
が
速
(
はや
)
いと
云
(
い
)
つても
女
(
をんな
)
だ、
089
余
(
あま
)
り
遠
(
とほ
)
くは
行
(
ゆ
)
くまいからのう』
090
コブライ『
成程
(
なるほど
)
、
091
そりやさうかも
知
(
し
)
れませぬな、
092
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
吾々
(
われわれ
)
はもう
暮六
(
くれむ
)
つ
下
(
さが
)
つてをりますから、
093
目
(
め
)
の
角膜院
(
かくまくゐん
)
が
就寝
(
しうしん
)
の
喇叭
(
らつぱ
)
を
吹
(
ふ
)
きかけました。
094
夜分
(
やぶん
)
迄
(
まで
)
日当
(
につたう
)
は
貰
(
もら
)
つて
居
(
を
)
りませぬから、
095
コブライも
化身
(
けしん
)
さまと
一所
(
いつしよ
)
に
休養
(
きうやう
)
さして
貰
(
もら
)
ひませうかい、
096
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つてもタカが
人間
(
にんげん
)
です、
097
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
ともあらう
聖者
(
せいじや
)
が、
098
根気
(
こんき
)
尽
(
つ
)
きて
行倒
(
ゆきだふ
)
れを
遊
(
あそ
)
ばすといふ
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
、
099
どうしてコンパスが
働
(
はたら
)
きませう。
100
そんな
事
(
こと
)
いはずに
休
(
やす
)
む
時
(
とき
)
にや
気良
(
きよ
)
う
休
(
やす
)
まして
下
(
くだ
)
はいな、
101
こん
丈
(
だけ
)
広
(
ひろ
)
い
山野
(
さんや
)
を
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
を
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
捜
(
さが
)
したつて、
102
さう
易々
(
やすやす
)
と
見付
(
みつ
)
かるものぢやありませぬワ。
103
斯
(
か
)
うして
一服
(
いつぷく
)
して
居
(
を
)
ると、
104
ダリヤさまが
後
(
あと
)
からバルギーと
一緒
(
いつしよ
)
に
意茶
(
いちや
)
つきもつて
通
(
とほ
)
るかも
知
(
し
)
れませぬ。
105
さうすりや、
106
居
(
ゐ
)
乍
(
なが
)
らにして、
107
目的
(
もくてき
)
の
瑞宝
(
ずゐほう
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れるも
同然
(
どうぜん
)
ですからなア』
108
天
(
てん
)
『エー、
109
泥棒
(
どろばう
)
の
癖
(
くせ
)
に
弱音
(
よわね
)
をふく
奴
(
やつ
)
だな。
110
エ、
111
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
人間
(
にんげん
)
万事
(
ばんじ
)
塞翁
(
さいをう
)
の
牛
(
うし
)
の
尻
(
けつ
)
といふから、
112
何
(
なに
)
が
都合
(
つがふ
)
になるとも
分
(
わか
)
らない。
113
今日
(
けふ
)
は
特別
(
とくべつ
)
の
恩典
(
おんてん
)
を
以
(
もつ
)
て
黙許
(
もくきよ
)
しておかうかい、
114
ウツフヽヽヽ』
115
コブ『
天真坊
(
てんしんばう
)
さま、
116
笑
(
わら
)
ひごつちやありませぬよ。
117
僕
(
ぼく
)
は、
118
私
(
わたくし
)
は
真剣
(
しんけん
)
に
弱
(
よわ
)
つてるのですからな。
119
エ、
120
併
(
しか
)
し
人間
(
にんげん
)
万事
(
ばんじ
)
塞翁
(
さいをう
)
の
牛
(
うし
)
の
尻
(
けつ
)
と
仰有
(
おつしや
)
いましたね、
121
塞翁
(
さいをう
)
の
馬
(
うま
)
の
糞
(
くそ
)
とは
違
(
ちが
)
ひますか』
122
天
(
てん
)
『
馬
(
うま
)
でも
牛
(
うし
)
でも
可
(
よ
)
いぢやないか、
123
俺
(
おれ
)
が
牛
(
うし
)
の
尻
(
けつ
)
といふたのは、
124
物識
(
ものしり
)
といふ
意味
(
いみ
)
だ』
125
コ『
成程
(
なるほど
)
、
126
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
さま
丈
(
だけ
)
あつて、
127
何
(
なん
)
でも
能
(
よ
)
く
物
(
もの
)
を
知
(
し
)
つて
御座
(
ござ
)
るといふ
謎
(
なぞ
)
ですな』
128
天
(
てん
)
『きまつた
事
(
こと
)
だ、
129
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
事
(
こと
)
なら、
130
宇宙
(
うちう
)
開闢
(
かいびやく
)
の
初
(
はじ
)
めから、
131
小
(
せう
)
は
微塵
(
みぢん
)
に
至
(
いた
)
る
迄
(
まで
)
、
132
漏
(
も
)
れなく
落
(
おち
)
なく、
133
鏡
(
かがみ
)
にかけたる
如
(
ごと
)
く
知
(
し
)
りぬいてゐる
名僧
(
めいそう
)
知識
(
ちしき
)
だ、
134
オツホン』
135
コ『エツヘヽヽ、
136
それ
程
(
ほど
)
何
(
なに
)
もかも
能
(
よ
)
く
分
(
わか
)
る
牛
(
うし
)
のケツ
先生
(
せんせい
)
が、
137
あれ
程
(
ほど
)
大
(
おほ
)
きいダリヤ
姫
(
ひめ
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
捜
(
さが
)
すのに、
138
シヤカンナ
頭目
(
とうもく
)
の
部下
(
ぶか
)
二百
(
にひやく
)
人
(
にん
)
迄
(
まで
)
借用
(
しやくよう
)
して、
139
捜索
(
そうさく
)
せにやならぬとはチツと
矛盾
(
むじゆん
)
ぢやありませぬか』
140
天
(
てん
)
『
馬鹿
(
ばか
)
をいふな、
141
恋
(
こひ
)
は
異
(
い
)
なもの
乙
(
おつ
)
なもの、
142
オツとどつこい、
143
恋
(
こひ
)
は
曲者
(
くせもの
)
といふぢやないか、
144
久米
(
くめ
)
の
仙人
(
せんにん
)
でさへも、
145
女
(
をんな
)
の
白
(
しろ
)
い
脛
(
はぎ
)
をみて
空中
(
くうちう
)
から
墜落
(
つゐらく
)
したといふ
話
(
はなし
)
がある。
146
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
でも、
147
女
(
をんな
)
に
迷
(
まよ
)
ふた
以上
(
いじやう
)
は
咫尺
(
しせき
)
暗澹
(
あんたん
)
、
148
全
(
まつた
)
く
常暗
(
とこやみ
)
となるのは
当然
(
たうぜん
)
の
理
(
り
)
だ』
149
コ『ヘーン、
150
さうですかいな、
151
妙
(
めう
)
ですな、
152
怪体
(
けつたい
)
な
事
(
こと
)
をいひますな、
153
不可思議
(
ふかしぎ
)
千万
(
せんばん
)
、
154
奇妙
(
きめう
)
頂礼
(
ちやうらい
)
、
155
古今
(
ここん
)
独歩
(
どつぽ
)
、
156
珍々
(
ちんちん
)
無類
(
むるゐ
)
、
157
石
(
いし
)
が
流
(
なが
)
れて
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
が
沈
(
しづ
)
んで、
158
天
(
てん
)
が
地
(
ち
)
となり、
159
地
(
ち
)
が
天
(
てん
)
となりさうな
塩梅
(
あんばい
)
式
(
しき
)
だ。
160
女
(
をんな
)
といふ
奴
(
やつ
)
ア、
161
之
(
これ
)
を
聞
(
き
)
くと
実
(
じつ
)
に
恐
(
おそ
)
ろしい
代物
(
しろもの
)
だワイ。
162
さうすると
天真坊
(
てんしんばう
)
さま、
163
お
前
(
まへ
)
さまを
盲
(
めくら
)
にする
丈
(
だけ
)
の
器量
(
きりやう
)
を
持
(
も
)
つてゐるダリヤ
姫
(
ひめ
)
は、
164
余
(
よ
)
つ
程
(
ぽど
)
偉
(
えら
)
い
者
(
もの
)
ですなア。
165
婦人
(
ふじん
)
は
孱弱
(
かよわ
)
き
男子
(
だんし
)
なりといふ
熟語
(
じゆくご
)
は
聞
(
き
)
いてをりますが、
166
婦人
(
ふじん
)
は
最
(
もつとも
)
強
(
つよ
)
き
男子
(
だんし
)
なりと
云
(
い
)
ひたくなるぢやありませぬか』
167
天
(
てん
)
『そこらにゴロゴロしてゐる、
1671
コンマ
以下
(
いか
)
の
女
(
をんな
)
と
違
(
ちが
)
ひ、
168
何
(
なん
)
といつても
天
(
あま
)
の
河原
(
かはら
)
に
玉
(
たま
)
の
舟
(
ふね
)
を
浮
(
うか
)
べ、
169
天降
(
あまくだ
)
り
遊
(
あそ
)
ばした
棚機姫
(
たなばたひめ
)
の
化身
(
けしん
)
だもの、
170
そりや
当然
(
あたりまへ
)
だよ』
171
コ『
成程
(
なるほど
)
、
172
それぢや
一
(
ひと
)
つ
七夕
(
たなばた
)
さまをお
祈
(
いの
)
りしてダリヤ
姫
(
ひめ
)
の
在処
(
ありか
)
を
判然
(
はつきり
)
と
知
(
し
)
らして
頂
(
いただ
)
かうぢやありませぬか。
173
お
前
(
まへ
)
さまも
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
で、
174
七夕姫
(
たなばたひめ
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
ぢやと
仰有
(
おつしや
)
つた
事
(
こと
)
を
覚
(
おぼ
)
えてゐますが、
175
なんぼ
何
(
なん
)
でも
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
様
(
さま
)
が
女帝
(
によてい
)
の
行方
(
ゆくへ
)
が
分
(
わか
)
らないとは、
176
チツと
理窟
(
りくつ
)
に
合
(
あ
)
はないやうに
思
(
おも
)
ひますがな』
177
天
(
てん
)
『きまつた
事
(
こと
)
だい、
178
七夕姫
(
たなばたひめ
)
と
彦星
(
ひこぼし
)
の
俺
(
おれ
)
とは
昔
(
むかし
)
から
年
(
ねん
)
に
一度
(
いちど
)
より
会
(
あ
)
はれない
規則
(
きそく
)
だから、
179
分
(
わか
)
らぬのも
無理
(
むり
)
はない。
180
それを
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
会
(
あ
)
ふて
楽
(
たのし
)
まふといふのだから、
181
チツとはこちにも
無理
(
むり
)
があると
云
(
い
)
ふものだ。
182
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
一旦
(
いつたん
)
思
(
おも
)
ひ
込
(
こ
)
んだ
事
(
こと
)
はやり
通
(
とほ
)
さなくちや、
183
男子
(
だんし
)
の
意地
(
いぢ
)
が
立
(
た
)
たない、
184
否
(
いな
)
天真坊
(
てんしんばう
)
の
威厳
(
ゐげん
)
に
関
(
くわん
)
する
問題
(
もんだい
)
だ』
185
コ『
成程
(
なるほど
)
、
186
いかにも、
187
御尤
(
ごもつと
)
も
千万
(
せんばん
)
、
188
エ、
189
万々一
(
まんまんいち
)
、
190
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
が
肱鉄
(
ひぢてつ
)
をかました
時
(
とき
)
は
貴方
(
あなた
)
如何
(
どう
)
するお
考
(
かんが
)
へですか』
191
天
(
てん
)
『ヘン、
192
馬鹿
(
ばか
)
いふな、
193
そんな
事
(
こと
)
があつて
堪
(
たま
)
らうかい、
194
ダリヤはぞつこん
俺
(
おれ
)
にラブしてゐるよ』
195
コ『ウツフヽヽ、
196
それ
程
(
ほど
)
ラブしてゐる
者
(
もの
)
が、
197
なぜお
前
(
まへ
)
さまの
寝
(
ね
)
てゐる
間
(
ま
)
を
考
(
かんが
)
へ、
198
顔
(
かほ
)
に
落書
(
らくがき
)
までして
遁亡
(
とんばう
)
したのですか』
199
天
(
てん
)
『そりやお
前
(
まへ
)
の
解釈
(
かいしやく
)
が
違
(
ちが
)
ふ。
200
ダリヤも
余
(
あま
)
り
長
(
なが
)
い
山道
(
やまみち
)
を
歩
(
ある
)
いて
来
(
き
)
たものだから
大変
(
たいへん
)
にくたぶれてゐよつた。
201
そこへメツタ
矢鱈
(
やたら
)
に
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
ましたものだから、
202
グツタリと
寝込
(
ねこ
)
んで
了
(
しま
)
ひ、
203
目
(
め
)
がくらんで
人間違
(
ひとまちがひ
)
をしよつたのだ。
204
バルギーの
奴
(
やつ
)
、
205
酢
(
す
)
でも
菎蒻
(
こんにやく
)
でもゆかぬ
悪党
(
あくたう
)
だから、
206
ダリヤや
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
寝
(
ね
)
た
間
(
ま
)
に、
207
そつと
面
(
つら
)
に
落書
(
らくがき
)
を
致
(
いた
)
し、
208
一見
(
いつけん
)
俺
(
おれ
)
の
面
(
つら
)
とみえないやうにしておき、
209
其
(
その
)
間
(
ま
)
にダリヤをゆすり
起
(
おこ
)
し、
210
俺
(
おれ
)
の
声色
(
こはいろ
)
を
使
(
つか
)
ひ、
211
甘
(
うま
)
く
夜陰
(
やいん
)
に
紛
(
まぎ
)
れ、
212
をびき
出
(
だ
)
しよつたものと
察
(
さつ
)
する。
213
ダリヤは
今朝
(
けさ
)
あたり、
214
ハツキリ
人
(
ひと
)
の
面
(
つら
)
がみえるやうになつてから、
215
バルギーのしやつ
面
(
つら
)
を
眺
(
なが
)
めて、
216
さぞ
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
しびつくり
仰天
(
ぎやうてん
)
した
事
(
こと
)
だらうよ。
217
ダリヤに
限
(
かぎ
)
つて、
218
俺
(
おれ
)
を
見
(
み
)
すてるやうな
心
(
こころ
)
は、
2181
微塵
(
みぢん
)
毛頭
(
まうとう
)
も
持
(
も
)
つてゐやう
筈
(
はず
)
がない、
219
屹度
(
きつと
)
バルギーが
俺
(
おれ
)
に
化
(
ば
)
けて、
220
寝
(
ね
)
とぼけ
眼
(
まなこ
)
を
幸
(
さいはひ
)
、
221
ゴマかしよつたのだ。
222
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
223
世界
(
せかい
)
の
女
(
をんな
)
は、
224
一度
(
いちど
)
俺
(
おれ
)
の
面
(
つら
)
を
拝
(
をが
)
んだが
最後
(
さいご
)
、
225
決
(
けつ
)
して
忘
(
わす
)
れるものぢやない。
226
況
(
いはん
)
や
甘
(
あま
)
つたるい
言
(
こと
)
を
一口
(
ひとくち
)
でもかけて
貰
(
もら
)
つた
女
(
をんな
)
は、
227
何程
(
なにほど
)
蜂
(
はち
)
を
払
(
はら
)
ふやうにしたつて、
228
俺
(
おれ
)
にや
能
(
よ
)
う
放
(
はな
)
れないのだ、
229
エヘヽヽヽ』
230
と
口角
(
こうかく
)
よりツーツーとさがる
糸
(
いと
)
のやうな、
231
ねんばりしたものを、
232
手
(
て
)
の
甲
(
かふ
)
で
手繰
(
たぐ
)
つてゐる。
233
コ『イツヒヽヽヽ、
234
此奴
(
こいつ
)
ア
面白
(
おもしろ
)
い、
235
奇妙
(
きめう
)
奇天烈
(
きてれつ
)
、
236
珍々
(
ちんちん
)
無類
(
むるゐ
)
だ』
237
日
(
ひ
)
は
西山
(
せいざん
)
に
沈
(
しづ
)
んで
天
(
てん
)
から
暗
(
やみ
)
が
砕
(
くだ
)
けた
如
(
や
)
うにおちて
来
(
き
)
た。
238
闇
(
くら
)
がりはゴムをふくらしたやうに
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
へ
拡
(
ひろ
)
がつてゆく。
239
時鳥
(
ほととぎす
)
の
声
(
こゑ
)
は
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
より
競争
(
きやうさう
)
的
(
てき
)
に
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
240
二人
(
ふたり
)
は
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
241
立岩
(
たていは
)
の
凹
(
くぼ
)
みに
体
(
からだ
)
をもたせかけ
早
(
はや
)
くも
鼾
(
いびき
)
の
幕
(
まく
)
がおりた。
242
シヤカンナの
部下
(
ぶか
)
と
仕
(
つか
)
へてゐた
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
小盗児
(
せうとる
)
連
(
れん
)
は、
243
之
(
これ
)
もヤツパリ、
244
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
の
捜索
(
そうさく
)
を
頼
(
たの
)
まれて、
245
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
の
密林
(
みつりん
)
をかきわけ、
246
蜘蛛
(
くも
)
の
巣
(
す
)
だらけになつてやつて
来
(
き
)
たが、
247
背丈
(
せたけ
)
にのびた
道傍
(
みちばた
)
の
草
(
くさ
)
や、
248
深
(
ふか
)
い
木
(
こ
)
かげに
星
(
ほし
)
一
(
ひと
)
つ
見
(
み
)
えず、
249
進退
(
しんたい
)
谷
(
きは
)
まつて、
250
一同
(
いちどう
)
茲
(
ここ
)
に
枕
(
まくら
)
を
並
(
なら
)
べようと
横
(
よこ
)
になつた。
251
何
(
なん
)
だか
暗
(
くら
)
がりで
分
(
わか
)
らないがグヅグヅグヅと
雑炊
(
ざふすゐ
)
でもたいてゐる
如
(
や
)
うな
声
(
こゑ
)
がする。
252
甲
(
かふ
)
『オイ
何
(
なん
)
だか
妙
(
めう
)
な
音
(
おと
)
がするぢやないか。
253
ここは
立岩
(
たていは
)
といつて、
254
昔
(
むかし
)
から
化州
(
ばけしう
)
の
出
(
で
)
る
所
(
ところ
)
だ、
255
チツと
用心
(
ようじん
)
せななるまいよ』
256
乙
(
おつ
)
『
成程
(
なるほど
)
、
257
此奴
(
こいつ
)
ア
厭
(
いや
)
らしい。
258
併
(
しか
)
し
時鳥
(
ほととぎす
)
があれ
丈
(
だけ
)
ないてゐるから、
259
マア
一寸
(
ちよつと
)
其
(
その
)
方
(
はう
)
へ
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
けてグツグツを
聞
(
き
)
かないやうにすりや
可
(
い
)
いぢやないか、
260
俺
(
おれ
)
やモウ、
261
そこらが
寒
(
さむ
)
くなつて、
262
体
(
からだ
)
が
細
(
こま
)
かく
活動
(
くわつどう
)
し
出
(
だ
)
した。
263
寝
(
ね
)
ても
立
(
た
)
つても
居
(
ゐ
)
られない
様
(
やう
)
だ、
264
エーエー
265
モツと
時鳥
(
ほととぎす
)
が
啼
(
な
)
いてくれると
可
(
い
)
いのだけれどなア』
266
甲
(
かふ
)
『ヒヨツとしたら、
267
天真坊
(
てんしんばう
)
さまが
此
(
この
)
辺
(
へん
)
に
鼾
(
いびき
)
をかいて
寝
(
ね
)
てゐるのぢやあるまいかな。
268
さうでなけりや、
269
時鳥
(
ほととぎす
)
の
爺
(
おやぢ
)
イが
歯
(
は
)
がぬけて、
270
あんな
啼
(
なき
)
様
(
ざま
)
をしてゐやがるのだらう』
271
乙
(
おつ
)
『エー、
272
かふいふ
時
(
とき
)
にや
歌
(
うた
)
を
唄
(
うた
)
ふに
限
(
かぎ
)
る。
273
一
(
ひと
)
つ
肝
(
きも
)
をほり
出
(
だ
)
して、
274
土手
(
どて
)
切
(
き
)
り
唄
(
うた
)
つてみようぢやないか』
275
甲
(
かふ
)
『よからう、
276
それが
一番
(
いちばん
)
だ、
277
オイ
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
278
汝
(
きさま
)
も
唄
(
うた
)
はないかい』
279
丙
(
へい
)
『こんな
所
(
ところ
)
で
歌
(
うた
)
でも
唄
(
うた
)
ふてみよ、
280
立岩
(
たていは
)
の
前
(
まへ
)
に
人間
(
にんげん
)
ありと
化物
(
ばけもの
)
が
悟
(
さと
)
り、
281
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
から
一
(
ひと
)
つ
目
(
め
)
小僧
(
こぞう
)
や
三
(
み
)
つ
目
(
め
)
小僧
(
こぞう
)
が
押
(
おし
)
よせ
来
(
きた
)
らば、
282
汝
(
きさま
)
どうする
積
(
つもり
)
だ。
283
黙
(
だま
)
つて
寝
(
ね
)
ろよ、
284
のう
丁
(
てい
)
、
285
戊
(
ぼう
)
、
286
さうぢやないか』
287
丁
(
てい
)
と
戊
(
ぼう
)
とはウンともスンとも
言
(
い
)
はず、
288
小
(
ちひ
)
さくなつて
慄
(
ふる
)
うてゐる。
289
乙
(
おつ
)
は
憐
(
あは
)
れつぽいふるい
声
(
ごゑ
)
を
出
(
だ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
290
カラ
元気
(
げんき
)
をおつぽり
出
(
だ
)
し
唄
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
291
『
夕日
(
ゆふひ
)
はおちて
御空
(
みそら
)
から
292
暗
(
やみ
)
はくだけておつるとも
293
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
や
獅子
(
しし
)
熊
(
くま
)
や
294
如何
(
いか
)
なる
悪魔
(
あくま
)
が
襲
(
おそ
)
ふ
共
(
とも
)
295
いかでか
恐
(
おそ
)
れむ
泥棒
(
どろばう
)
の
296
大頭目
(
だいとうもく
)
のシヤカンナが
297
乾児
(
こぶん
)
と
現
(
あ
)
れし
哥兄
(
にい
)
さまだ
298
幽霊
(
いうれい
)
なりと
何
(
なに
)
なりと
299
居
(
を
)
るなら
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
い
天真坊
(
てんしんばう
)
300
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
の
命令
(
めいれい
)
で
301
御用
(
ごよう
)
に
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た
俺
(
おれ
)
だぞよ
302
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
偉
(
えら
)
い
悪魔
(
あくま
)
でも
303
此
(
この
)
世
(
よ
)
をお
造
(
つく
)
り
遊
(
あそ
)
ばした
304
天帝
(
てんてい
)
さまには
叶
(
かな
)
ふまい
305
一
(
いち
)
の
乾児
(
こぶん
)
の
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
306
取
(
とり
)
も
直
(
なほ
)
さず
八百万
(
やほよろづ
)
307
神
(
かみ
)
の
中
(
うち
)
なる
一柱
(
ひとはしら
)
308
もしも
曲津
(
まがつ
)
が
居
(
を
)
るならば
309
十里
(
じふり
)
四方
(
しはう
)
へ
飛
(
とび
)
のけよ
310
マゴマゴ
致
(
いた
)
してゐよつたら
311
手足
(
てあし
)
をもぎ
取
(
と
)
り
骨
(
ほね
)
くだき
312
肉
(
にく
)
をだんごにつき
丸
(
まる
)
め
313
禿
(
はげ
)
わし
共
(
ども
)
に
喰
(
く
)
はすぞや
314
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
豪傑
(
がうけつ
)
が
315
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
中
(
うち
)
に
一人
(
ひとり
)
をる
316
恐
(
おそ
)
れよおそれ
曲津
(
まがつ
)
共
(
ども
)
317
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
318
神
(
かみ
)
の
真
(
まこと
)
の
太柱
(
ふとばしら
)
319
天真坊
(
てんしんばう
)
の
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
に
320
楯
(
たて
)
つく
悪魔
(
あくま
)
は
世
(
よ
)
にあらじ
321
さがれよさがれトツトとさがれ
322
暗
(
やみ
)
よ
去
(
さ
)
れ
去
(
さ
)
れ、
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
323
月
(
つき
)
は
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
い
星
(
ほし
)
も
出
(
で
)
よ
324
此
(
この
)
世
(
よ
)
は
神
(
かみ
)
のゐます
国
(
くに
)
325
悪魔
(
あくま
)
の
住
(
す
)
むべき
場所
(
ばしよ
)
でない
326
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
327
御霊
(
みたま
)
幸
(
さちは
)
ひましませよ』
328
と
蚊
(
か
)
のなくやうな
声
(
こゑ
)
で
囀
(
さへづ
)
つてゐる。
329
甲
(
かふ
)
はドラ
声
(
ごゑ
)
を
張上
(
はりあ
)
げ
乍
(
なが
)
ら、
330
焼糞
(
やけくそ
)
になり
唄
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
331
『どつこいしようどつこいしよう
332
天帝
(
てんてい
)
さまの
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
は
333
今
(
いま
)
や
何処
(
いづこ
)
にましますか
334
ここは
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふ
立岩
(
たていは
)
の
335
山中一
(
さんちういち
)
の
化物場
(
ばけものば
)
336
化物
(
ばけもの
)
退治
(
たいぢ
)
にやつて
来
(
き
)
た
337
俺
(
おれ
)
は
英雄
(
えいゆう
)
スカンナだ
338
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
スカンなら
339
早
(
はや
)
く
何処
(
どこ
)
なと
逃
(
に
)
げなされ
340
天真坊
(
てんしんばう
)
の
生神
(
いきがみ
)
が
341
やがて
此処
(
ここ
)
をば
通
(
とほ
)
るだろ
342
そしたら
悪魔
(
あくま
)
の
一族
(
いちぞく
)
は
343
旭
(
あさひ
)
に
露
(
つゆ
)
の
消
(
き
)
ゆる
如
(
ごと
)
344
浅
(
あさ
)
ましザマをさらすだろ
345
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが
此
(
この
)
場所
(
ばしよ
)
は
346
自然
(
しぜん
)
に
体
(
からだ
)
が
慄
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
し
347
小気味
(
こぎみ
)
の
悪
(
わる
)
い
暗
(
やみ
)
の
路
(
みち
)
348
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
349
御霊
(
みたま
)
幸
(
さちは
)
ひましまして
350
天帝
(
てんてい
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
が
351
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
御
(
ご
)
光来
(
くわうらい
)
352
遊
(
あそ
)
ばす
様
(
やう
)
に
願
(
ねが
)
ひます
353
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
354
叶
(
かな
)
はぬ
時
(
とき
)
の
神頼
(
かみだの
)
み』
355
天真坊
(
てんしんばう
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
にふつと
目
(
め
)
をさまし、
356
『ハハア
小泥棒
(
こどろぼう
)
の
奴
(
やつ
)
、
357
ここ
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
てヘコ
垂
(
た
)
れよつたとみえるワイ。
358
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
仕方
(
しかた
)
のない
奴
(
やつ
)
だな、
359
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らダリヤを
甘
(
うま
)
く
掴
(
つかま
)
へてくれよつたかな』
360
と
息
(
いき
)
をこらして
考
(
かんが
)
へてゐる。
361
コブライも
亦
(
また
)
目
(
め
)
をさまし、
362
天真坊
(
てんしんばう
)
が
身
(
み
)
を
起
(
おこ
)
して
何事
(
なにごと
)
か
考
(
かんが
)
へてゐる
様子
(
やうす
)
なので、
363
暗
(
やみ
)
を
幸
(
さいは
)
ひ、
364
自分
(
じぶん
)
は
三間
(
さんげん
)
許
(
ばか
)
り
立岩
(
たていは
)
のうしろへ
廻
(
まは
)
り、
365
優
(
やさ
)
しい
女
(
をんな
)
の
声色
(
こわいろ
)
を
使
(
つか
)
ひ、
366
『
天真坊
(
てんしんばう
)
さま、
367
待
(
まち
)
兼
(
か
)
ねました。
368
バルギーの
悪人
(
あくにん
)
にたばかられ、
369
貴方
(
あなた
)
と
間違
(
まちが
)
ひ、
370
夜
(
よる
)
の
路
(
みち
)
、
371
来
(
き
)
てみれば、
372
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
の
蛙面
(
かはづづら
)
、
373
こら
如何
(
どう
)
せうかと
思案
(
しあん
)
の
余
(
あま
)
り、
374
バルギーの
睾丸
(
きんたま
)
をしめつけ、
375
途中
(
とちう
)
に
倒
(
たふ
)
し、
376
此
(
この
)
立岩
(
たていは
)
のうしろに
隠
(
かく
)
れて
一夜
(
ひとよ
)
を
明
(
あか
)
さむと
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
りました。
377
恋
(
こひ
)
しい
師
(
し
)
の
君様
(
きみさま
)
、
378
どうぞ
此処
(
ここ
)
までお
出
(
い
)
で
遊
(
あそ
)
ばし、
379
妾
(
あたい
)
の
手
(
て
)
を
引張
(
ひつぱ
)
つて
下
(
くだ
)
さいな。
380
ジヤツケツいばらに
体
(
からだ
)
を
取
(
と
)
りまかれ、
381
身動
(
みうご
)
きが
出来
(
でき
)
ませぬワ』
382
天真坊
(
てんしんばう
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
いて
小躍
(
こをど
)
りし
乍
(
なが
)
ら、
383
稍
(
やや
)
少時
(
しばし
)
考
(
かんが
)
へ
込
(
こ
)
んでゐる。
384
スカンナ
外
(
ほか
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
も
亦
(
また
)
息
(
いき
)
をこらして
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へてゐたが、
385
此
(
この
)
連中
(
れんぢう
)
はテツキリ
化物
(
ばけもの
)
と
早合点
(
はやがつてん
)
し、
386
面
(
かほ
)
をグツスリとタオルで
包
(
つつ
)
んで
了
(
しま
)
ひ、
387
俯
(
うつむ
)
いて
慄
(
ふる
)
ふてゐる。
388
コブライ『モシ
天真坊
(
てんしんばう
)
さま、
389
ダリヤで
御座
(
ござ
)
います、
390
どうぞ
早
(
はや
)
く
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいな。
391
エー
好
(
す
)
かぬたらしい、
392
お
前
(
まへ
)
さまはコブライさまぢやないか、
393
貴方
(
あなた
)
に
用
(
よう
)
はありませぬよ、
394
お
前
(
まへ
)
さまに
助
(
たす
)
けてくれとはいひませぬ、
395
天真坊
(
てんしんばう
)
さまに
助
(
たす
)
けて
欲
(
ほ
)
しいのだもの』
396
コブライは
今度
(
こんど
)
は
自分
(
じぶん
)
の
地声
(
ぢごゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
397
『コレ、
398
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
399
私
(
わたし
)
は
決
(
けつ
)
してお
前
(
まへ
)
さまに
野心
(
やしん
)
を
有
(
も
)
つては
居
(
を
)
りませぬ。
400
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
さまは、
401
勿体
(
もつたい
)
ない、
402
自
(
みづか
)
ら、
403
かやうな
茨室
(
いばらむろ
)
へお
越
(
こ
)
しになる
訳
(
わけ
)
に
行
(
ゆ
)
きませぬから、
404
私
(
わたし
)
がチツとは
茨掻
(
いばらがき
)
をしても
構
(
かま
)
はぬ、
405
犠牲
(
ぎせい
)
となつてお
救
(
すく
)
ひに
来
(
き
)
たのだ。
406
エーエーさうすつ
込
(
こ
)
んでは、
407
余計
(
よけい
)
に
茨
(
いばら
)
が
引
(
ひつ
)
かかるぢやありませぬか……、
408
(
女声
(
をんなごゑ
)
で)イエイエ
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
私
(
わたし
)
は
天真坊
(
てんしんばう
)
さまに
来
(
き
)
てほしいのですワ、
409
チツと
許
(
ばか
)
り、
410
怪我
(
けが
)
をなさつたつて
何
(
なん
)
ですか。
411
真
(
しん
)
に
妾
(
あたい
)
を
愛
(
あい
)
して
下
(
くだ
)
さるなら、
412
仮令
(
たとへ
)
火
(
ひ
)
の
中
(
なか
)
水
(
みづ
)
の
底
(
そこ
)
、
413
茨室
(
いばらむろ
)
、
414
どこだつてかまはないと、
415
仰有
(
おつしや
)
つた
事
(
こと
)
があるのですもの、
416
今
(
いま
)
こそ
誠意
(
せいい
)
のためし
時
(
どき
)
、
417
此
(
この
)
茨室
(
いばらむろ
)
へ
暗
(
くら
)
がりに
飛込
(
とびこ
)
んで
救
(
すく
)
ふてくれないやうな
誠意
(
せいい
)
のない
天真坊
(
てんしんばう
)
様
(
さま
)
なら、
418
妾
(
あたい
)
の
方
(
はう
)
からキツパリとお
断
(
ことわ
)
り
申
(
まを
)
しますわ。
419
ねえ
天真坊
(
てんしんばう
)
さま、
420
キツと
妾
(
あたい
)
を
愛
(
あい
)
して
下
(
くだ
)
さるでせう。
421
アイタヽヽ、
422
面
(
つら
)
も
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
も
茨
(
いばら
)
がきだらけよ、
423
早
(
はや
)
く
助
(
たす
)
けて
欲
(
ほ
)
しいものだワ、
424
ねえ……。
425
(
今度
(
こんど
)
はコブライの
地声
(
ぢごゑ
)
で)さてさて
合点
(
がてん
)
の
悪
(
わる
)
い
姫
(
ひめ
)
さまだ。
426
では
僕
(
ぼく
)
は
貴方
(
あなた
)
のお
世話
(
せわ
)
は
能
(
よ
)
う
致
(
いた
)
しませぬ。
427
モシモシ
天真坊
(
てんしんばう
)
さま、
428
お
手
(
て
)
づから
親切
(
しんせつ
)
を
尽
(
つく
)
して
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいな』
429
天
(
てん
)
『いかにもダリヤ
姫
(
ひめ
)
の
声
(
こゑ
)
には
似
(
に
)
てゐるが、
430
どこともなしに
怪
(
あや
)
しい
点
(
てん
)
がある。
431
コリヤ
化物
(
ばけもの
)
ではあるまいかのう』
432
コ(
女声
(
をんなごゑ
)
で)『エーエー
辛気臭
(
しんきくさ
)
い、
433
天真坊
(
てんしんばう
)
さまとした
事
(
こと
)
が、
434
妾
(
わらは
)
は
遠
(
とほ
)
い
山坂
(
やまさか
)
をかけ
巡
(
まは
)
りお
腹
(
なか
)
がすき、
435
声
(
こゑ
)
はかれ、
436
疲
(
つか
)
れはててをりますから、
437
本当
(
ほんたう
)
のダリヤの
声
(
こゑ
)
は
出
(
で
)
ませぬよ。
438
どうか
御
(
ご
)
推量
(
すいりやう
)
して
下
(
くだ
)
さいませ、
439
決
(
けつ
)
して
化物
(
ばけもの
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬから』
440
天真坊
(
てんしんばう
)
は
声
(
こゑ
)
のする
方
(
はう
)
に
向
(
むか
)
つて、
441
二足
(
ふたあし
)
三足
(
みあし
)
進
(
すす
)
む
折
(
をり
)
しも
岩
(
いは
)
をふみ
外
(
はづ
)
し、
442
三間
(
さんげん
)
許
(
ばか
)
りの
草
(
くさ
)
茫々
(
ばうばう
)
と
生
(
は
)
え
茂
(
しげ
)
る
真黒
(
まつくろ
)
の
穴
(
あな
)
へ、
443
キヤツと
云
(
い
)
つたぎり
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
444
スカンナ
外
(
ほか
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
はいよいよ
化物
(
ばけもの
)
と
早合点
(
はやがつてん
)
し、
445
四
(
よつ
)
這
(
ばひ
)
となつて
坂路
(
さかみち
)
をのたりのたりと
命
(
いのち
)
からがらころげゆく。
446
コブライも
天真坊
(
てんしんばう
)
の
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
声
(
こゑ
)
する
方
(
はう
)
を
目当
(
めあて
)
に
歩
(
あゆ
)
み
出
(
だ
)
す
途端
(
とたん
)
、
447
又
(
また
)
もや
踏
(
ふ
)
み
外
(
はづ
)
し、
448
天真坊
(
てんしんばう
)
の
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んだ
穴
(
あな
)
へと
一蓮
(
いちれん
)
托生
(
たくしやう
)
、
449
辷
(
すべ
)
りこんだ
途端
(
とたん
)
に
柔
(
やは
)
らかいぬくい
物
(
もの
)
が
体
(
からだ
)
にさはつたので、
450
ギヨツとし
乍
(
なが
)
ら、
451
『イヤア
助
(
たす
)
けてくれ
助
(
たす
)
けてくれ』
452
と
大声
(
おほごゑ
)
に
叫
(
さけ
)
ぶ。
453
天真坊
(
てんしんばう
)
は
落
(
お
)
ちた
途端
(
とたん
)
に
気絶
(
きぜつ
)
してゐたので、
454
コブライの
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んだのは
少
(
すこ
)
しも
知
(
し
)
らなかつた。
455
少時
(
しばらく
)
あつて
天真坊
(
てんしんばう
)
は
息
(
いき
)
ふき
返
(
かへ
)
した。
456
天真坊
(
てんしんばう
)
『
誰
(
たれ
)
だ
誰
(
たれ
)
だ、
457
俺
(
おれ
)
をこんな
所
(
ところ
)
へつきはめやがつて』
458
コブライ『モシ
天真坊
(
てんしんばう
)
さま、
459
しつかりして
下
(
くだ
)
さい。
460
暗
(
やみ
)
の
陥穽
(
おとしあな
)
へ、
461
貴方
(
あなた
)
も
私
(
わたし
)
も
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んだのですよ、
462
モウ
斯
(
か
)
うなりや
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
ける
迄
(
まで
)
、
463
ここに
逗留
(
とうりう
)
するより
途
(
みち
)
がありませぬワ』
464
天
(
てん
)
『いかにも、
465
さう
聞
(
き
)
けば
確
(
たしか
)
にそんな
感
(
かん
)
じもする、
466
併
(
しか
)
しあの
時
(
とき
)
、
467
確
(
たしか
)
にダリヤ
姫
(
ひめ
)
の
声
(
こゑ
)
がしてゐたやうだが、
468
惜
(
をし
)
い
事
(
こと
)
をしたでないか』
469
コ『
本当
(
ほんたう
)
に
惜
(
をし
)
い
事
(
こと
)
をしましたね、
470
確
(
たしか
)
にダリヤさまに
間違
(
まちがひ
)
ありませなんだ。
471
大変
(
たいへん
)
にあの
方
(
かた
)
は
貞操
(
ていさう
)
の
固
(
かた
)
い
方
(
かた
)
ですなア、
472
私
(
わたし
)
が
助
(
たす
)
けようとしても、
473
指
(
ゆび
)
一本
(
いつぽん
)
さえさせないんですもの』
474
天
(
てん
)
『エヘヽヽ、
475
そらさうだらうよ、
476
併
(
しか
)
しダリヤは
心配
(
しんぱい
)
してゐるだらうよ。
477
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
ける
迄
(
まで
)
仕方
(
しかた
)
がないな、
478
あれ
位
(
くらゐ
)
親切
(
しんせつ
)
な
女
(
をんな
)
だから、
479
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
ける
迄
(
まで
)
、
480
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
安否
(
あんぴ
)
を
考
(
かんが
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
481
立岩
(
たていは
)
のはたに
待
(
ま
)
つてるに
違
(
ちが
)
ひないワ、
482
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸
(
ちは
)
ひませ』
483
(
大正一四・一一・七
旧九・二一
於祥明館
松村真澄
録)
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【01 追劇|第71巻(戌の巻)|霊界物語/rm7101】
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