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霊界物語
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第6巻(巳の巻)
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第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
第12巻(亥の巻)
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第13巻(子の巻)
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第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第81巻(申の巻)
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第71巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 追僧軽迫
01 追劇
〔1790〕
02 生臭坊
〔1791〕
03 門外漢
〔1792〕
04 琴の綾
〔1793〕
05 転盗
〔1794〕
06 達引
〔1795〕
07 夢の道
〔1796〕
第2篇 迷想痴色
08 夢遊怪
〔1797〕
09 踏違ひ
〔1798〕
10 荒添
〔1799〕
11 異志仏
〔1800〕
12 泥壁
〔1801〕
13 詰腹
〔1802〕
14 障路
〔1803〕
15 紺霊
〔1804〕
第3篇 惨嫁僧目
16 妖魅返
〔1805〕
17 夢現神
〔1806〕
18 金妻
〔1807〕
19 角兵衛獅子
〔1808〕
20 困客
〔1809〕
余白歌
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> 第2篇 迷想痴色 > 第10章 荒添
<<< 踏違ひ
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第一〇章
荒添
(
あらそひ
)
〔一七九九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
篇:
第2篇 迷想痴色
よみ(新仮名遣い):
めいそうちしき
章:
第10章 荒添
よみ(新仮名遣い):
あらそい
通し章番号:
1799
口述日:
1926(大正15)年01月31日(旧12月18日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年2月1日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玄真坊、コブライ、コオロは捕り手を恐れて田んぼ道を逃げてゆく。
すると、道ばたの古井戸に、自分たちを捕り手に通報しようとしたリンジャンが落ちているのに気づいた。3人はリンジャンを助け出し、森の古堂に運んで介抱する。
しかしそれは、親切心ではなく、リンジャンの気を引いてものにしようという下心からであった。
リンジャンが息を吹き返すと、3人は互いに自慢話をしてリンジャンに気に入られようとするが、ことごとく難癖をつけられて言い負かされてしまう。
そうこうしているうちに捕り手が堂に迫って来て、3人の泥棒はたちまち逃げ失せた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7110
愛善世界社版:
132頁
八幡書店版:
第12輯 548頁
修補版:
校定版:
137頁
普及版:
63頁
初版:
ページ備考:
001
水草
(
みづぐさ
)
の
平
(
ひら
)
一面
(
いちめん
)
に
生
(
は
)
え
茂
(
しげ
)
つて
居
(
ゐ
)
る、
0011
ジクジク
原
(
ばら
)
の
足
(
あし
)
を
没
(
ぼつ
)
する
田圃道
(
たんぼみち
)
を、
002
玄真坊
(
げんしんばう
)
、
003
コブライ、
004
コオロの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
005
追手
(
おつて
)
の
危難
(
きなん
)
をおそれて
行歩
(
かうほ
)
に
艱
(
なや
)
み
乍
(
なが
)
ら、
006
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
走
(
はし
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
007
道
(
みち
)
の
両側
(
りやうがは
)
は、
008
あちらこちらに
浅
(
あさ
)
い
水
(
みづ
)
が
溜
(
たま
)
り、
009
静
(
しづか
)
に
月
(
つき
)
や
星
(
ほし
)
が
映
(
うつ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
010
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
三町
(
さんちやう
)
許
(
ばか
)
り、
011
路傍
(
ろばう
)
に
古井戸
(
ふるゐど
)
があつて
何者
(
なにもの
)
かが
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んだやうな
気配
(
けはい
)
である。
012
コブライは
怖々
(
こはごは
)
乍
(
なが
)
ら
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
をたよりに
古井戸
(
ふるゐど
)
を
覗
(
のぞ
)
いて
見
(
み
)
ると、
013
最前
(
さいぜん
)
カンコの
家
(
うち
)
で
見
(
み
)
た
美人
(
びじん
)
によく
似
(
に
)
たものが、
014
命
(
いのち
)
限
(
かぎ
)
りに
這上
(
はひあが
)
らうとして
井戸端
(
ゐどばた
)
の
水草
(
みづぐさ
)
を
掴
(
つか
)
んでは
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
み、
015
掴
(
つか
)
んでは
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
みして
居
(
ゐ
)
る。
016
泥棒稼
(
どろぼうかせぎ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も
人
(
ひと
)
の
危難
(
きなん
)
を
見
(
み
)
ては
見
(
み
)
のがしも
得
(
え
)
せず、
017
コブライは
自分
(
じぶん
)
の
帯
(
おび
)
を
解
(
と
)
いて
古井戸
(
ふるゐど
)
の
中
(
なか
)
に
吊
(
つ
)
り
下
(
おろ
)
した。
018
溺
(
おぼ
)
れむとするものは
毒蛇
(
どくだ
)
の
尻尾
(
しつぽ
)
も
掴
(
つか
)
まむとする
譬
(
たとへ
)
、
019
吾
(
わが
)
身
(
み
)
に
危害
(
きがい
)
を
加
(
くは
)
へむとする
泥棒
(
どろばう
)
の
群
(
むれ
)
とは
知
(
し
)
らず、
020
リンジヤンは
其
(
その
)
帯
(
おび
)
に
確
(
しつか
)
りとくらいついた。
021
コブライ、
022
コオロ、
023
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
汗
(
あせ
)
をたらたらたらし
乍
(
なが
)
ら、
024
漸
(
やうや
)
くの
事
(
こと
)
で
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げ、
025
よくよく
見
(
み
)
れば
玄真坊
(
げんしんばう
)
が
野心
(
やしん
)
を
起
(
おこ
)
した
掘出
(
ほりだ
)
しものの
美人
(
びじん
)
である。
026
美人
(
びじん
)
は
殆
(
ほと
)
んど
無我
(
むが
)
無中
(
むちう
)
になり、
027
何者
(
なにもの
)
に
救
(
すく
)
はれたかと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
さへも
知
(
し
)
らぬ
態
(
てい
)
であつた。
028
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
二人
(
ふたり
)
に
目配
(
めくば
)
せし
乍
(
なが
)
ら、
029
濡鼠
(
ぬれねずみ
)
の
如
(
や
)
うになつた
女
(
をんな
)
の
衣服
(
いふく
)
を
身
(
み
)
につけたまま、
030
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
と
圧搾
(
あつさく
)
し、
031
雫
(
しづく
)
をたらし、
032
かたみに
担
(
かつ
)
いで
脛
(
すね
)
まで
没
(
ぼつ
)
する
難路
(
なんろ
)
を
西
(
にし
)
へ
西
(
にし
)
へと
急
(
いそ
)
いで
行
(
ゆ
)
く。
033
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
殆
(
ほと
)
んど
一里半
(
いちりはん
)
ばかり、
034
月夜
(
つきよ
)
に
浮
(
う
)
いた
如
(
や
)
うに
こんもり
とした
森
(
もり
)
が
眼前
(
がんぜん
)
数町
(
すうちやう
)
の
処
(
ところ
)
に
横
(
よこ
)
たはつて
居
(
ゐ
)
る。
035
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
あの
森
(
もり
)
へ
行
(
い
)
つて
休息
(
きうそく
)
せむものと、
036
汗
(
あせ
)
をたらたら
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
らあへぎゆく。
037
やつと
森
(
もり
)
の
前
(
まへ
)
に
近
(
ちか
)
より
見
(
み
)
れば、
038
古
(
ふる
)
ぼけた
堂
(
だう
)
が
淋
(
さび
)
しげに
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
039
コブライ『あゝ
随分
(
ずいぶん
)
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
らしやがつた。
040
もし
玄真
(
げんしん
)
さま、
041
ここの
森
(
もり
)
で
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あか
)
しませうかい。
042
さうしてこの
美人
(
びじん
)
を
実意
(
じつい
)
丁寧
(
ていねい
)
親切
(
しんせつ
)
をもつて
介抱
(
かいはう
)
し、
043
人情
(
にんじやう
)
義理
(
ぎり
)
づくめでウンと
云
(
い
)
はせ、
044
お
前
(
まへ
)
さまの
一
(
いち
)
時
(
じ
)
のお
慰
(
なぐさ
)
みものとせうぢやありませぬか。
045
いやお
前
(
まへ
)
さま
許
(
ばか
)
りでなく
吾々
(
われわれ
)
が
拾
(
ひろ
)
ひ
上
(
あ
)
げて
担
(
かつ
)
いで
来
(
き
)
たのだから
046
共有物
(
きよういうぶつ
)
として
置
(
お
)
きませうかい。
047
仲々
(
なかなか
)
お
前
(
まへ
)
さまが
惚
(
ほ
)
れた
女
(
をんな
)
だから、
048
捨
(
す
)
てたものぢや
有
(
あ
)
りませぬワイ。
049
このコブライだつて、
050
聊
(
いささ
)
か
食指
(
しよくし
)
が
動
(
うご
)
かぬぢやありませぬ』
051
玄真坊
(
げんしんばう
)
『
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
052
角
(
かく
)
もあれ、
053
この
女
(
をんな
)
を
正気
(
しやうき
)
づかした
上
(
うへ
)
の
事
(
こと
)
でなくては、
054
斯
(
か
)
うして
置
(
お
)
いては
縡
(
ことき
)
れて
了
(
しま
)
ふではないか』
055
コ『いやそんな
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
には
及
(
およ
)
びませぬ。
056
些
(
ちつ
)
と
許
(
ばか
)
り
水
(
みづ
)
を
飲
(
の
)
んで
居
(
ゐ
)
ますが
命
(
いのち
)
には
別条
(
べつでう
)
はありませぬ。
057
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
に
共有物
(
きよういうぶつ
)
にするか、
058
但
(
ただ
)
しはコブライの
専有物
(
せんいうぶつ
)
にするか、
059
後
(
あと
)
でする
喧嘩
(
けんくわ
)
を
先
(
さき
)
にして
置
(
お
)
かなくちや、
060
この
美人
(
びじん
)
が
気
(
き
)
がついてから
061
こんな
相談
(
さうだん
)
を
聞
(
き
)
かれては
見
(
み
)
つとも
好
(
よ
)
くない。
062
玄真
(
げんしん
)
さま
063
私
(
わたし
)
の
専有物
(
せんいうぶつ
)
として
下
(
くだ
)
さるか……サアどうだ。
064
お
前
(
まへ
)
さまは
自分
(
じぶん
)
の
専有物
(
せんいうぶつ
)
としたさうだが、
065
さう
勝手
(
かつて
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬよ』
066
玄
(
げん
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
初
(
はじ
)
めて
懸想
(
けさう
)
したのは
俺
(
おれ
)
だ。
067
正
(
まさ
)
に
俺
(
おれ
)
の
霊
(
みたま
)
がこの
女
(
をんな
)
に
憑依
(
ひようい
)
して
居
(
ゐ
)
る。
068
又
(
また
)
この
女
(
をんな
)
とは
閨門
(
けいもん
)
関係
(
くわんけい
)
からすでにすでに
因縁
(
いんねん
)
が
結
(
むす
)
ばれて
居
(
ゐ
)
る。
069
いはば
此方
(
こちら
)
は
縁者
(
えんじや
)
、
070
お
前
(
まへ
)
は
赤
(
あか
)
の
他人
(
たにん
)
ぢやないか。
071
そんな
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
はなくても
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
る、
072
屹度
(
きつと
)
玄真
(
げんしん
)
さまのものだよ』
073
コ『
縁者
(
えんじや
)
か
074
閨門
(
けいもん
)
関係
(
くわんけい
)
が
有
(
あ
)
るか
075
そりや
知
(
し
)
りませぬが、
076
このコブライが
見
(
み
)
つけて
助
(
たす
)
けなんだら
077
此
(
この
)
女
(
をんな
)
は
已
(
すで
)
に
命
(
いのち
)
が
無
(
な
)
くなつて
居
(
を
)
るのだ。
078
さうすれば
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
はこのコブライさま、
079
ドツと
譲歩
(
じやうほ
)
した
処
(
ところ
)
で
拙者
(
せつしや
)
が
二晩
(
ふたばん
)
使
(
つか
)
へば
玄真
(
げんしん
)
さまは
一晩
(
ひとばん
)
お
使
(
つか
)
ひなさい。
080
権利
(
けんり
)
の
上
(
うへ
)
から
言
(
い
)
つても
其
(
そ
)
れが
至当
(
したう
)
だと
思
(
おも
)
ひますわい』
081
玄
(
げん
)
『ハヽヽヽヽ、
082
お
前
(
まへ
)
のシヤツ
面
(
つら
)
で
083
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
つたと
云
(
い
)
つてこの
美人
(
びじん
)
が
靡
(
なび
)
くと
思
(
おも
)
ふか、
084
自惚
(
うぬぼれ
)
もよい
加減
(
かげん
)
にしておけ。
085
何
(
なん
)
だ
蛙
(
かはづ
)
の
鳴
(
な
)
き
損
(
そこ
)
ねた
如
(
や
)
うな
面
(
つら
)
をして
086
こい
の
うす
いのとは
片腹痛
(
かたはらいた
)
い、
087
此
(
この
)
女
(
をんな
)
の
事
(
こと
)
は
一切
(
いつさい
)
玄真
(
げんしん
)
に
任
(
まか
)
すがよからう』
088
コ『いや、
089
そりやなりませぬ、
090
そんなら
此
(
この
)
ナイスに
自
(
みづか
)
ら
選
(
えら
)
ましたらどうでせう、
091
お
前
(
まへ
)
さまだつて
余
(
あんま
)
りバツとした
顔
(
かほ
)
ぢやありませぬよ、
092
屹度
(
きつと
)
女
(
をんな
)
に
選
(
えら
)
ましたら
拙者
(
せつしや
)
が
最高点
(
さいかうてん
)
を
得
(
え
)
て
月桂冠
(
げつけいくわん
)
を
頂
(
いただ
)
くは
火
(
ひ
)
を
見
(
み
)
るよりも
明白
(
めいはく
)
な
事実
(
じじつ
)
です、
093
エヘヽヽヽ』
094
コオ『コーラ
両人
(
りやうにん
)
。
095
俺
(
おれ
)
の
命令
(
めいれい
)
を
聞
(
き
)
け、
096
この
女
(
をんな
)
は
一旦
(
いつたん
)
カンコの
家
(
いへ
)
に
於
(
おい
)
てコブライの
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
て
肝
(
きも
)
をつぶし、
097
玄真
(
げんしん
)
さまの
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
て
愛想
(
あいそ
)
づかし
裏口
(
うらぐち
)
から
逃出
(
にげだ
)
した
代物
(
しろもの
)
ぢやないか、
098
さうすりや
已
(
すで
)
に
已
(
すで
)
に
両人
(
りやうにん
)
に
対
(
たい
)
する
恋愛
(
れんあい
)
の
脈
(
みやく
)
は
上
(
あが
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
099
さうすりや
黙
(
だま
)
つて
居
(
ゐ
)
てもこのコオロさまに
札
(
ふだ
)
がおちるのは
当然
(
たうぜん
)
だ。
100
そして
両人
(
りやうにん
)
に
対
(
たい
)
して
命令権
(
めいれいけん
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るこのコオロは
絶対
(
ぜつたい
)
に
二人
(
ふたり
)
には
与
(
あた
)
へない、
101
コオロの
宿
(
やど
)
の
妻
(
つま
)
としてこれから
先
(
さき
)
、
102
長
(
なが
)
い
行路
(
かうろ
)
の
伴侶
(
はんりよ
)
とする
積
(
つもり
)
だ、
103
エヘヽヽヽヽ』
104
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はこんな
掛合
(
かけあひ
)
に
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かして
居
(
を
)
る
間
(
あひだ
)
に、
105
リンジヤンは
元気
(
げんき
)
恢復
(
くわいふく
)
し、
106
あまりの
可笑
(
をか
)
しさにフヽヽヽヽと
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
した。
107
コ『ヤ、
1071
姫
(
ひめ
)
さま
108
気
(
き
)
がつきましたか、
109
ヤ、
110
まあ
目出度
(
めでた
)
い
目出度
(
めでた
)
い、
111
お
前
(
まへ
)
さま
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
ぢやいな、
112
古井戸
(
ふるゐど
)
の
中
(
なか
)
に
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んで
113
鮒
(
ふな
)
が
泥
(
どろ
)
に
酔
(
よ
)
つたやうにアツプアツプとやつて
御座
(
ござ
)
つた
処
(
ところ
)
、
114
縁
(
えにし
)
の
糸
(
いと
)
につながれたと
云
(
い
)
ふものか、
115
玄真
(
げんしん
)
やコオロの
後
(
あと
)
から
行
(
い
)
つた
私
(
わし
)
の
目
(
め
)
にお
前
(
まへ
)
さまの
姿
(
すがた
)
がうつつたのも
116
深
(
ふか
)
い
縁
(
えにし
)
が
結
(
むす
)
ばれて
居
(
ゐ
)
るのだから、
117
最早
(
もはや
)
ない
命
(
いのち
)
だと
思
(
おも
)
ふて
一生
(
いつしやう
)
を
此
(
こ
)
のコブライに
任
(
まか
)
して
下
(
くだ
)
さい。
118
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
のコブライですからなア』
119
リ『あゝさうで
御座
(
ござ
)
いましたか、
120
私
(
わたし
)
も
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
ひ
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
だと
思
(
おも
)
つたら、
121
あた
汚
(
けが
)
らはしい、
122
小泥棒
(
こどろぼう
)
に
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
つたとあつては、
123
先祖
(
せんぞ
)
の
面汚
(
つらよご
)
し、
124
あゝ
残念
(
ざんねん
)
の
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました。
125
これ
どろ
さま、
126
その
刀
(
かたな
)
をかして
下
(
くだ
)
さい、
127
お
前
(
まへ
)
さま
方
(
がた
)
に
助
(
たす
)
けられたとあつては、
128
兄
(
あに
)
の
顔
(
かほ
)
も
立
(
た
)
ちませぬ。
129
此処
(
ここ
)
で
潔
(
いさぎよ
)
う
自害
(
じがい
)
をしてお
目
(
め
)
にかけませう』
130
コ『これこれお
女中
(
ぢよちう
)
、
131
悪
(
わる
)
い
了見
(
れうけん
)
だよ、
132
命
(
いのち
)
あつての
物種
(
ものだね
)
ぢやないか。
133
人間
(
にんげん
)
はこの
世
(
よ
)
に
生
(
いき
)
て
居
(
を
)
りやこそ
花
(
はな
)
も
実
(
み
)
もあり
愉快
(
ゆくわい
)
があるのだ。
134
死
(
し
)
んで
花実
(
はなみ
)
が
咲
(
さ
)
くと
思
(
おも
)
はつしやるか。
135
在来
(
ざいらい
)
の
宗教
(
しうけう
)
に
呆
(
とぼ
)
けて
居
(
ゐ
)
る
やくざ
人足
(
にんそく
)
は
未来
(
みらい
)
が
在
(
あ
)
ると
迷信
(
めいしん
)
して
居
(
を
)
るだらうが、
136
科学
(
くわがく
)
に
目覚
(
めざ
)
めた
現代人
(
げんだいじん
)
には
未来
(
みらい
)
が
在
(
あ
)
るなどど、
137
そんな
事
(
こと
)
は
通用
(
つうよう
)
しませぬからなア、
138
又
(
また
)
先祖
(
せんぞ
)
の
名折
(
なを
)
れになるとか、
139
兄
(
あに
)
の
名
(
な
)
が
汚
(
よご
)
れるとか、
140
泥棒
(
どろばう
)
に
助
(
たす
)
けられたとか、
141
不用
(
いら
)
ざる
体面論
(
たいめんろん
)
に
縛
(
しば
)
られて
142
掛替
(
かけがへ
)
のない
可惜
(
あたら
)
命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てようとは
時代
(
じだい
)
後
(
おく
)
れにも
程
(
ほど
)
がある。
143
兎角
(
とかく
)
人間
(
にんげん
)
は、
144
自分
(
じぶん
)
さへ
好
(
よ
)
かつたらよいのだ。
145
どうだい
146
一
(
ひと
)
つ
思案
(
しあん
)
をし
直
(
なほ
)
して
拙者
(
せつしや
)
の
女房
(
にようばう
)
になつては
下
(
くだ
)
さるまいか。
147
拙者
(
せつしや
)
だつて
生
(
うま
)
れついての
泥棒
(
どろばう
)
でもないし、
148
悪人
(
あくにん
)
でもありませぬ。
149
ほんの
其
(
その
)
日
(
ひ
)
稼業
(
かげふ
)
に
泥棒
(
どろばう
)
の
修業
(
しふげふ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
るのですよ』
150
リ『
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても、
151
泥棒
(
どろばう
)
の
名
(
な
)
のつく
人
(
ひと
)
には
絶対
(
ぜつたい
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
す
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ』
152
コ『ハテ、
1521
サテ
153
意地
(
いぢ
)
固
(
がた
)
い
女
(
をみな
)
だなア。
154
よう
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい、
155
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
有様
(
ありさま
)
を、
156
上
(
うへ
)
は
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
より
下
(
しも
)
小役人
(
こやくにん
)
に
至
(
いた
)
る
迄
(
まで
)
、
157
手
(
て
)
をかへ
品
(
しな
)
をかへて
泥棒
(
どろばう
)
しない
奴
(
やつ
)
がありますか。
158
砂利
(
じやり
)
を
噛
(
かじ
)
る
奴
(
やつ
)
、
159
印紙
(
いんし
)
を
食
(
くら
)
ふ
奴
(
やつ
)
、
160
仏
(
ほとけ
)
を
売
(
う
)
つて
食
(
くら
)
ふ
奴
(
やつ
)
。
161
神
(
かみ
)
の
足
(
あし
)
を
噛
(
かじ
)
る
奴
(
やつ
)
、
162
上
(
うへ
)
から
下
(
した
)
迄
(
まで
)
、
163
隅
(
すみ
)
から
隅
(
すみ
)
まで、
164
泥棒
(
どろばう
)
の
世界
(
せかい
)
だ。
165
泥棒
(
どろばう
)
が
嫌
(
いや
)
だから
男
(
をとこ
)
を
持
(
も
)
たぬなどとそんな
堅苦
(
かたくる
)
しい
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
やうものなら
166
終身
(
しうしん
)
清浄
(
しやうじやう
)
無垢
(
むく
)
の
男
(
をとこ
)
と
出遇
(
であ
)
ふ
事
(
こと
)
はありますまい。
167
そこはよくお
考
(
かんが
)
へなさつたがよろしからう』
168
リ『そりやさうでせう、
169
泥棒
(
どろばう
)
せないものは
世界
(
せかい
)
に
一
(
いち
)
人
(
にん
)
もありますまいが、
170
併
(
しか
)
しその
泥棒
(
どろばう
)
の
仕様
(
しやう
)
にも
種々
(
いろいろ
)
の
手段
(
しゆだん
)
があつて、
171
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
から
智者
(
ちしや
)
よ
学者
(
がくしや
)
よ、
172
聖人
(
せいじん
)
君子
(
くんし
)
よ、
173
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
よと
崇
(
あが
)
められて
泥棒
(
どろばう
)
するやうでなくては
駄目
(
だめ
)
ですワ。
174
お
前
(
まへ
)
さまの
如
(
や
)
うに
正面
(
しやうめん
)
から
泥棒
(
どろばう
)
を
看板
(
かんばん
)
に
大刀
(
だんびら
)
担
(
かた
)
げて
来
(
く
)
るやうなものに
碌
(
ろく
)
なものはない。
175
それだから
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
りたいのですよ』
176
コ『もし
玄真
(
げんしん
)
さま、
177
此奴
(
こいつ
)
は
仲々
(
なかなか
)
手剛
(
てごは
)
い
奴
(
やつ
)
です。
178
どうかお
前
(
まへ
)
さまの
雄弁術
(
ゆうべんじゆつ
)
を
以
(
もつ
)
て
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
して
下
(
くだ
)
さい。
179
到底
(
たうてい
)
私
(
わたし
)
の
言霊
(
ことたま
)
では
望
(
のぞ
)
みがありませぬわ』
180
玄
(
げん
)
『ハヽヽヽヽ、
181
如何
(
いか
)
にも
御
(
お
)
説
(
せつ
)
御尤
(
ごもつと
)
も、
182
よい
処
(
ところ
)
で
諦
(
あきら
)
めて
下
(
くだ
)
さつた。
183
サアこれからが
玄真
(
げんしん
)
さまの
一人
(
ひとり
)
舞台
(
ぶたい
)
だ。
184
これこれお
女中
(
ぢよちう
)
、
185
其方
(
そなた
)
の
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
くとこの
玄真坊
(
げんしんばう
)
も
何処
(
どこ
)
ともなく
肉
(
にく
)
躍
(
をど
)
り
血
(
ち
)
湧
(
わ
)
き、
186
両腕
(
りやううで
)
が
鳴
(
な
)
るやうだ。
187
何
(
なん
)
とまあお
前
(
まへ
)
は
世界
(
せかい
)
無比
(
むひ
)
の
才媛
(
さいゑん
)
だなあ。
188
どうだ
智勇
(
ちゆう
)
兼備
(
けんび
)
の
良将
(
りやうしやう
)
と
聞
(
きこ
)
えたこの
玄真
(
げんしん
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ
189
王妃
(
わうひ
)
となつて
暮
(
くら
)
す
気
(
き
)
はないか、
190
未来
(
みらい
)
のタラハン
王
(
わう
)
はこの
玄真坊
(
げんしんばう
)
で
御座
(
ござ
)
るぞや。
191
人間
(
にんげん
)
の
欲望
(
よくばう
)
は
名位
(
めいゐ
)
寿宝
(
じゆほう
)
と
云
(
い
)
ふて
192
最
(
もつと
)
も
貴
(
たつと
)
いものは
名
(
な
)
を
万世
(
ばんせい
)
に
残
(
のこ
)
すことだ。
193
その
次
(
つぎ
)
は
位
(
くらゐ
)
といつて
人格
(
じんかく
)
の
向上
(
かうじやう
)
を
主
(
しゆ
)
とする
欲望
(
よくばう
)
だ。
194
所謂
(
いはゆる
)
後
(
のち
)
は
聖人
(
せいじん
)
だ、
195
君子
(
くんし
)
だ、
196
英雄
(
えいゆう
)
だ、
197
豪傑
(
がうけつ
)
だ、
198
有徳者
(
うとくしや
)
だ、
199
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
だと
万民
(
ばんみん
)
に
崇
(
あが
)
められ、
200
人格
(
じんかく
)
を
認
(
みと
)
めらるる
事
(
こと
)
だ。
201
その
次
(
つぎ
)
が
命
(
いのち
)
、
202
その
次
(
つぎ
)
が
金銭
(
きんせん
)
物品
(
ぶつぴん
)
だ。
203
どうだ、
204
斯
(
か
)
かる
片田舎
(
かたいなか
)
に
生
(
うま
)
れて、
205
タラハン
城
(
じやう
)
の
王妃
(
わうひ
)
となる
気
(
き
)
はないか。
206
世界
(
せかい
)
の
幸福
(
かうふく
)
を
一身
(
いつしん
)
に
集
(
あつ
)
めて、
207
この
神的
(
しんてき
)
英雄
(
えいゆう
)
の
玄真坊
(
げんしんばう
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
暮
(
くら
)
す
気
(
き
)
はないか。
208
よくよく
利害
(
りがい
)
得失
(
とくしつ
)
を
考
(
かんが
)
へたがよからうぞや』
209
リ『ハイ、
210
種々
(
いろいろ
)
と
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いますが、
211
私
(
わたし
)
はお
三
(
さん
)
人
(
にん
)
さまの
中
(
うち
)
に
於
(
おい
)
て
最
(
もつと
)
も
権威
(
けんゐ
)
ある
方
(
かた
)
と
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
が
願
(
ねが
)
ひたう
御座
(
ござ
)
います』
212
玄
(
げん
)
『ハヽヽヽヽ、
213
そりやさうだらう。
214
如何
(
いか
)
にも
御尤
(
ごもつと
)
も、
215
この
中
(
うち
)
で
最
(
もつと
)
も
権威
(
けんゐ
)
あるものとは
取
(
とり
)
も
直
(
なほ
)
さずこの
玄真坊
(
げんしんばう
)
だよ』
216
と
鼻
(
はな
)
を
蠢
(
うごめ
)
かす。
217
リンジヤンは
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
にふり、
218
『イヤイヤそれは
違
(
ちが
)
ひませう、
219
命令権
(
めいれいけん
)
を
持
(
も
)
つて
御座
(
ござ
)
るコオロさまとやら、
220
この
方
(
かた
)
が
一番
(
いちばん
)
の
権威者
(
けんゐしや
)
と
認
(
みと
)
めます。
221
このコオロさまとお
話
(
はなし
)
したう
御座
(
ござ
)
いますから、
222
お
二人
(
ふたり
)
さまは
森
(
もり
)
の
奥
(
おく
)
で
控
(
ひか
)
へて
居
(
ゐ
)
てもらひたう
御座
(
ござ
)
いますが』
223
コオ『エヘヽヽヽヽ、
224
こりやこりや
玄真坊
(
げんしんばう
)
、
225
コブライの
両人
(
りやうにん
)
、
226
三町
(
さんちやう
)
許
(
ばか
)
り
此
(
この
)
場
(
ば
)
より
立退
(
たちの
)
きを
命
(
めい
)
ずる。
227
ハヽヽヽヽ、
228
これお
姫
(
ひめ
)
さま
229
拙者
(
せつしや
)
の
権威
(
けんゐ
)
はこの
通
(
とほ
)
りで
御座
(
ござ
)
る。
230
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
を
頤
(
あご
)
で
使
(
つか
)
ふ
権威者
(
けんゐしや
)
で
御座
(
ござ
)
るから、
231
よもや
232
男
(
をとこ
)
に
持
(
も
)
つてお
前
(
まへ
)
さまも
不足
(
ふそく
)
は
御座
(
ござ
)
るまい、
233
エヘヽヽヽヽ』
234
玄
(
げん
)
『こりやコオロの
奴
(
やつ
)
、
235
なにふざけた
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふか、
236
すつこんでおれ。
237
貴様
(
きさま
)
の
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
す
幕
(
まく
)
ぢやないワ、
238
しやうもない
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふと
主従
(
しゆじゆう
)
の
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
らうか』
239
コオ『
然
(
しか
)
らばあの
夢
(
ゆめ
)
をお
前
(
まへ
)
さまに
売
(
う
)
つたのは
元々
(
もともと
)
へ
取
(
と
)
り
返
(
かへ
)
しますぞ。
240
お
前
(
まへ
)
さまは
大外
(
だいそ
)
れたタラハン
城
(
じやう
)
を
占領
(
せんりやう
)
し
241
国王
(
こくわう
)
にならうと
云
(
い
)
ふ
陰謀
(
いんぼう
)
を
春山峠
(
はるやまたうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
に
於
(
おい
)
て
企
(
たくら
)
んで
以来
(
いらい
)
、
242
依然
(
いぜん
)
としてその
計画
(
けいくわく
)
をやめないでせう。
243
その
夢
(
ゆめ
)
の
計画
(
けいくわく
)
をやめない
上
(
うへ
)
はお
前
(
まへ
)
さまの
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
は
風前
(
ふうぜん
)
の
燈火
(
ともしび
)
だ。
244
サア
夢
(
ゆめ
)
をかへして
貰
(
もら
)
つた
上
(
うへ
)
は
245
その
夢
(
ゆめ
)
の
次第
(
しだい
)
を
逐一
(
ちくいつ
)
タラハン
城
(
じやう
)
に
訴
(
うつた
)
へ
出
(
で
)
る
積
(
つも
)
りだ。
246
これでも
違背
(
ゐはい
)
があるか。
247
サア
玄真
(
げんしん
)
さま
248
キツパリと
返事
(
へんじ
)
を
承
(
うけたま
)
はりませうかい。
249
お
前
(
まへ
)
さまの
睾丸
(
きんたま
)
を
握
(
にぎ
)
つたこのコオロは
決
(
けつ
)
して
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たのぢやありませぬよ。
250
睡
(
ねむ
)
つた
真似
(
まね
)
をしてお
前
(
まへ
)
さまの
計画
(
けいくわく
)
を
皆
(
みな
)
聞
(
き
)
いたのですよ。
251
夢
(
ゆめ
)
を
返
(
かへ
)
して
貰
(
もら
)
つた
以上
(
いじやう
)
は
如何
(
どう
)
しようと、
252
コオロの
自由
(
じいう
)
権利
(
けんり
)
だ』
253
と
早
(
はや
)
くも
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
さむとする。
254
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
慌
(
あわて
)
てコオロに
喰
(
くら
)
ひつき、
255
玄
(
げん
)
『マヽヽマア
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた、
256
さう
短気
(
たんき
)
を
起
(
おこ
)
すものぢやない。
257
お
前
(
まへ
)
のやうに
一寸
(
ちよつと
)
俺
(
おれ
)
が
てんご
を
云
(
い
)
ふても
本気
(
ほんき
)
になつては
耐
(
たま
)
つたものぢやない。
258
そんならお
前
(
まへ
)
の
望
(
のぞ
)
みに
任
(
まか
)
せ、
259
この
美人
(
びじん
)
を
譲
(
ゆづ
)
つてやらう』
260
コオ『ヘン
譲
(
ゆづ
)
つて
遣
(
や
)
らうなんて
僣越
(
せんゑつ
)
にも
程
(
ほど
)
がある。
261
お
前
(
まへ
)
さまの
女房
(
にようばう
)
でもなければ
娘
(
むすめ
)
でもない
筈
(
はず
)
だ。
262
このコオロは
直接
(
ちよくせつ
)
談判
(
だんぱん
)
をする
積
(
つも
)
りだから、
263
吾
(
わが
)
命令
(
めいれい
)
を
遵奉
(
じゆんぽう
)
して
二三町
(
にさんちやう
)
ばかり
暫
(
しば
)
しの
間
(
あひだ
)
退却
(
たいきやく
)
を
願
(
ねが
)
ひたい』
264
玄
(
げん
)
『オイ、
265
コブライどうせうかナ』
266
コブ『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つてもお
前
(
まへ
)
さまが
睾丸
(
きんたま
)
を
握
(
にぎ
)
られて
居
(
を
)
るのだから、
267
コオロの
命令
(
めいれい
)
に
従
(
したが
)
はねばなりますまい』
268
玄
(
げん
)
『そんならコオロ、
269
夢
(
ゆめ
)
は
依然
(
いぜん
)
として
此
(
この
)
方
(
はう
)
が
買
(
か
)
ふた。
270
そのかはり
命令権
(
めいれいけん
)
はお
前
(
まへ
)
に
渡
(
わた
)
す
271
必
(
かなら
)
ず
変替
(
へんがへ
)
せないやうにしてくれ』
272
コオ『
拙者
(
せつしや
)
の
命令
(
めいれい
)
さへ
神妙
(
しんめう
)
に
遵奉
(
じゆんぽう
)
する
間
(
あひだ
)
、
273
決
(
けつ
)
して
変替
(
へんがへ
)
はしない。
274
サアこれからが
俺
(
おれ
)
の
一人
(
ひとり
)
舞台
(
ぶたい
)
だ。
275
これこれリンジヤンさま、
276
拙者
(
せつしや
)
の
妻
(
つま
)
となる
件
(
けん
)
に
就
(
つ
)
いては、
277
よもや
御
(
ご
)
異存
(
いぞん
)
は
御座
(
ござ
)
いますまいなア』
278
『ホヽヽヽヽ、
279
あのまあコオロさまとやら
虫
(
むし
)
のよい
事
(
こと
)
、
280
人
(
ひと
)
の
睾丸
(
きんたま
)
を
握
(
にぎ
)
つて、
2801
否応
(
いやおう
)
言
(
い
)
はさず
自分
(
じぶん
)
の
権利
(
けんり
)
を
主張
(
しゆちやう
)
するやうな
方
(
かた
)
は
私
(
わたし
)
は
嫌
(
いや
)
です。
281
本当
(
ほんたう
)
に
惟神
(
かむながら
)
的
(
てき
)
に
権威
(
けんゐ
)
があり
徳望
(
とくばう
)
のある
人
(
ひと
)
は、
282
そのやうに
権謀
(
けんぼう
)
術数
(
じゆつすう
)
を
弄
(
ろう
)
しないでも
世界
(
せかい
)
から
尊敬
(
そんけい
)
致
(
いた
)
します。
283
そんな
安
(
やす
)
つぽい
女
(
をんな
)
と
見
(
み
)
くびられては、
284
このリンジヤンも
迷惑
(
めいわく
)
いたしますワ。
285
ねエ
泥棒
(
どろばう
)
さま』
286
かかる
所
(
ところ
)
へ
提灯
(
ちやうちん
)
松明
(
たいまつ
)
振
(
ふ
)
りかざし
287
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
足音
(
あしおと
)
がザクリザクリと
水草
(
みづぐさ
)
の
原野
(
げんや
)
を
踏
(
ふ
)
んで
押
(
おし
)
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
る。
288
玄真坊
(
げんしんばう
)
、
289
コブライ、
290
コオロの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
周章
(
しうしやう
)
狼狽
(
らうばい
)
なす
所
(
ところ
)
を
知
(
し
)
らず
291
思
(
おも
)
ひ
思
(
おも
)
ひに
草
(
くさ
)
の
茂
(
しげ
)
みに
隠
(
かく
)
れて
何処
(
いづく
)
ともなく
消
(
き
)
えて
仕舞
(
しま
)
つた。
292
(
大正一五・一・三一
旧一四・一二・一八
於月光閣
加藤明子
録)
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