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第71巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 追僧軽迫
01 追劇
〔1790〕
02 生臭坊
〔1791〕
03 門外漢
〔1792〕
04 琴の綾
〔1793〕
05 転盗
〔1794〕
06 達引
〔1795〕
07 夢の道
〔1796〕
第2篇 迷想痴色
08 夢遊怪
〔1797〕
09 踏違ひ
〔1798〕
10 荒添
〔1799〕
11 異志仏
〔1800〕
12 泥壁
〔1801〕
13 詰腹
〔1802〕
14 障路
〔1803〕
15 紺霊
〔1804〕
第3篇 惨嫁僧目
16 妖魅返
〔1805〕
17 夢現神
〔1806〕
18 金妻
〔1807〕
19 角兵衛獅子
〔1808〕
20 困客
〔1809〕
余白歌
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第一三章
詰腹
(
つめばら
)
〔一八〇二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
篇:
第2篇 迷想痴色
よみ(新仮名遣い):
めいそうちしき
章:
第13章 詰腹
よみ(新仮名遣い):
つめばら
通し章番号:
1802
口述日:
1926(大正15)年01月31日(旧12月18日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年2月1日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
アリナは、玄真坊が左守シャカンナを兄弟分と呼び、自分の罪を認めようとしないのに困って、シャカンナ本人に相談にやってきた。
シャカンナは、3人の泥棒を内々に自分ひとりで取り調べることとなった。
シャカンナは、かつて自分が山賊をしていたことが、今回のことで明らかになってしまうのではないかとひそかに思い悩む
昔、政変で城を追われたシャカンナは、国政再興を夢見て、山賊となって力を蓄えようとした。しかし彼の悲願であった国政再興は、武力ではなく、娘のスバールが開明的な太子に見初められ、また自分を追放した政敵の息子=アリナの協力を得たことによって実現したのであった(第六十七巻第三篇から第六十八巻参照)。
シャカンナの前に引き出された3人は昔のことを並べ立て、無理難題をふっかけてシャカンナをゆする。
シャカンナは、昔の部下の有様に責任を感じ、金を与えて放免する。しかしその後すぐに、自分は遺書を残し、神前で切腹して果てた。
昔の義理によってしたこととはいえ、罪人を自分の一存で放免することは国法違反であり、その責任を取っての詰め腹であった。アリナは王・王妃に、シャカンナの遺書とともに事の顛末を報告したのであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7113
愛善世界社版:
170頁
八幡書店版:
第12輯 562頁
修補版:
校定版:
178頁
普及版:
83頁
初版:
ページ備考:
001
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
の
館
(
やかた
)
の
離
(
はな
)
れ
座敷
(
ざしき
)
には、
002
戸障子
(
としやうじ
)
を
密閉
(
みつぺい
)
して
右守
(
うもり
)
、
003
左守
(
さもり
)
が
何事
(
なにごと
)
か
秘々
(
ひそびそ
)
密談
(
みつだん
)
に
耽
(
ふけ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
004
右
(
う
)
『
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
、
005
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
は
広小路
(
ひろこうぢ
)
の
大火
(
たいくわ
)
によりまして
大変
(
たいへん
)
にお
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
ましましたが
006
其
(
その
)
後
(
ご
)
何
(
なん
)
のお
変
(
かは
)
りもありませぬか。
007
あの
混雑
(
こんざつ
)
にまぎれ
込
(
こ
)
み、
008
賊
(
ぞく
)
がお
館
(
やかた
)
に
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
みなど
致
(
いた
)
しまして
大変
(
たいへん
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
で
御座
(
ござ
)
いませう』
009
左
(
さ
)
『イヤ
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
る。
010
ヤ、
011
もう
年
(
とし
)
は
取
(
と
)
り
度
(
たく
)
ないものだ。
012
かうして
床
(
とこ
)
の
間
(
ま
)
の
置物
(
おきもの
)
のやうに
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
となつて
居
(
ゐ
)
るが、
013
心
(
こころ
)
許
(
ばか
)
り
焦
(
あせ
)
るのみで
やくたい
も
無
(
な
)
い
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
る。
014
谷蟆山
(
たにぐくやま
)
の
谷間
(
たにま
)
に
居
(
を
)
つた
時
(
とき
)
は
015
何
(
なん
)
とかして
再
(
ふたた
)
び
元
(
もと
)
の
左守
(
さもり
)
となり、
016
国政
(
こくせい
)
の
改革
(
かいかく
)
をかうもやつて
見
(
み
)
よう、
017
あゝもやつて
見
(
み
)
よう
018
と
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
の
間
(
あひだ
)
心胆
(
しんたん
)
を
砕
(
くだ
)
いてゐたが、
019
実地
(
じつち
)
に
当
(
あた
)
るとどうも
甘
(
うま
)
く
行
(
い
)
かぬものだ。
020
自分
(
じぶん
)
の
心
(
こころ
)
では
確
(
しつか
)
りして
居
(
ゐ
)
るやうに
思
(
おも
)
ふが、
021
何
(
なん
)
とはなしに
耄碌
(
もうろく
)
したと
見
(
み
)
えるわい』
022
右
(
う
)
『
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
、
023
何
(
なに
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますか、
024
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
名声
(
めいせい
)
は
大変
(
たいへん
)
な
人気
(
にんき
)
で
御座
(
ござ
)
いますよ。
025
この
右守
(
うもり
)
も
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
威光
(
ゐくわう
)
によつて
歪
(
ゆが
)
みながらも
御用
(
ごよう
)
を
勤
(
つと
)
めさして
頂
(
いただ
)
いて
居
(
を
)
りますが、
026
行
(
ゆ
)
き
届
(
とど
)
かぬ
事
(
こと
)
許
(
ばか
)
りで
027
さぞお
目
(
め
)
だるい
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
028
国王
(
こくわう
)
殿下
(
でんか
)
は
未
(
いま
)
だ
御
(
ご
)
若年
(
じやくねん
)
でもあり、
029
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
に
気張
(
きば
)
つて
貰
(
もら
)
はねば
到底
(
たうてい
)
タラハン
国
(
ごく
)
は
支
(
ささ
)
へられますまい』
030
左
(
さ
)
『
賢明
(
けんめい
)
なる
国王
(
こくわう
)
殿下
(
でんか
)
と
云
(
い
)
ひ、
031
聰明
(
そうめい
)
なる
其方
(
そなた
)
と
云
(
い
)
ひ、
032
タラハン
国
(
ごく
)
の
柱石
(
ちうせき
)
はもはや
ビク
とも
致
(
いた
)
すまい。
033
吾
(
われ
)
は
老年
(
らうねん
)
、
034
気
(
き
)
許
(
ばか
)
り
勝
(
か
)
つて
思
(
おも
)
ふやうに
体
(
からだ
)
が
動
(
うご
)
かない、
035
困
(
こま
)
つたものだ。
036
政務
(
せいむ
)
一切
(
いつさい
)
を
其方
(
そなた
)
に
打
(
う
)
ちまかして
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まないと
思
(
おも
)
ふが、
037
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
の
辛労
(
しんらう
)
は
買
(
か
)
ふてもせいと
云
(
い
)
ふから
038
どうか
一
(
ひと
)
つ
気張
(
きば
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
039
自分
(
じぶん
)
は
床
(
とこ
)
の
間
(
ま
)
の
置物
(
おきもの
)
で
居
(
ゐ
)
るのだ』
040
右
(
う
)
『
何
(
なに
)
を
仰有
(
おつしや
)
います。
041
青二才
(
あをにさい
)
の
吾々
(
われわれ
)
、
042
何
(
なに
)
が
出来
(
でき
)
ますものか、
043
皆
(
みな
)
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
のお
指揮
(
しき
)
によつて、
044
どうなりかうなり
御用
(
ごよう
)
が
勤
(
つと
)
まつて
居
(
ゐ
)
るので
御座
(
ござ
)
いますから。
045
時
(
とき
)
に
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
、
046
広小路
(
ひろこうぢ
)
の
大火災
(
だいくわさい
)
の
夜
(
よる
)
お
館
(
やかた
)
へ
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
んだ
泥棒
(
どろばう
)
について
昨日
(
さくじつ
)
取調
(
とりしら
)
べました
処
(
ところ
)
、
047
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まをし
)
ますので
048
取調
(
とりしらべ
)
を
中止
(
ちうし
)
し
牢獄
(
らうごく
)
につないでおきましたが、
049
又
(
また
)
しても
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
のお
名
(
な
)
を
引
(
ひ
)
き
合
(
あ
)
ひに
出
(
だ
)
しますので
050
陪臣
(
ばいしん
)
の
手前
(
てまへ
)
誠
(
まこと
)
に
困
(
こま
)
つて
居
(
を
)
ります。
051
如何
(
いかが
)
致
(
いた
)
せば
宜敷
(
よろし
)
う
御座
(
ござ
)
いますか』
052
左
(
さ
)
『
此
(
この
)
左守
(
さもり
)
を
引
(
ひ
)
き
合
(
あひ
)
に
出
(
だ
)
す
泥棒
(
どろばう
)
とは
一体
(
いつたい
)
何者
(
なにもの
)
で
御座
(
ござ
)
るかな』
053
右
(
う
)
『
何
(
なん
)
でも
天来
(
てんらい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
054
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
、
055
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
056
天真坊
(
てんしんばう
)
だとか
申
(
まを
)
して
居
(
を
)
ります。
057
そして
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
とは
兄弟分
(
きやうだいぶん
)
だと
主張
(
しゆちやう
)
しますので、
058
一応
(
いちおう
)
伺
(
うかが
)
ひました
上
(
うへ
)
取調
(
とりしらべ
)
をせうと
思
(
おも
)
ひまして、
059
態々
(
わざわざ
)
お
伺
(
うかが
)
ひ
致
(
いた
)
した
次第
(
しだい
)
で
御座
(
ござ
)
います』
060
左守
(
さもり
)
は
当惑
(
たうわく
)
さうな
顔
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
061
『
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
、
062
大方
(
おほかた
)
それは
発狂者
(
はつきやうしや
)
で
御座
(
ござ
)
らう。
063
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
拙者
(
せつしや
)
が
明日
(
みやうにち
)
取調
(
とりしら
)
べて
見
(
み
)
ませう。
064
どうか
誰
(
たれ
)
も
来
(
こ
)
ないやうにして
下
(
くだ
)
さい』
065
右
(
う
)
『ハイ
畏
(
かしこま
)
りまして
御座
(
ござ
)
います。
066
夫
(
それ
)
から
067
もう
二人
(
ふたり
)
の
泥棒
(
どろばう
)
も
天真坊
(
てんしんばう
)
と
同様
(
どうやう
)
に
左守
(
さもり
)
殿
(
どの
)
の
御
(
お
)
名
(
な
)
を
引
(
ひ
)
き
合
(
あひ
)
に
出
(
だ
)
し、
068
左守
(
さもり
)
の
親分
(
おやぶん
)
に
会
(
あは
)
せと
主張
(
しゆちやう
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります』
069
左
(
さ
)
『
其
(
その
)
二人
(
ふたり
)
の
泥棒
(
どろばう
)
の
名
(
な
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ひましたかな』
070
右
(
う
)
『ハイ、
071
一人
(
ひとり
)
はコブライと
云
(
い
)
ひ、
072
一人
(
ひとり
)
はコオロと
申
(
まをし
)
て
居
(
を
)
ります』
073
左
(
さ
)
『ハテナ、
074
谷蟆山
(
たにぐくやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に……』
075
と
云
(
い
)
ひかけて
俄
(
にはか
)
に
言葉
(
ことば
)
を
切
(
き
)
り、
076
左
(
さ
)
『
長
(
なが
)
らくの
間
(
あひだ
)
拙者
(
せつしや
)
も
谷蟆山
(
たにぐくやま
)
の
奥
(
おく
)
深
(
ふか
)
く
世
(
よ
)
を
忍
(
しの
)
んで
居
(
を
)
つたものだから
様子
(
やうす
)
も
分
(
わか
)
らず、
077
又
(
また
)
如何
(
いか
)
なるものが
自分
(
じぶん
)
の
顔
(
かほ
)
を
見知
(
みし
)
つて
吾
(
わが
)
名
(
な
)
を
騙
(
かた
)
つて
居
(
ゐ
)
るかも
知
(
し
)
れますまい。
078
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
泥棒
(
どろばう
)
を
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
、
079
そつと
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
へ
呼
(
よ
)
んで
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいますまいか、
080
内々
(
ないない
)
取調
(
とりしら
)
べたい
事
(
こと
)
が
御座
(
ござ
)
るによつて……』
081
右
(
う
)
『
左守
(
さもり
)
様
(
さま
)
の
仰
(
おほ
)
せとあらば、
082
仮令
(
たとへ
)
掟
(
おきて
)
に
背
(
そむ
)
いても
呼
(
よ
)
んで
参
(
まゐ
)
りませう』
083
左
(
さ
)
『いや
白洲
(
しらす
)
で
調
(
しら
)
べるのが
規則
(
きそく
)
であれど、
084
この
左守
(
さもり
)
は
知
(
し
)
らるる
通
(
とほ
)
りの
老体
(
らうたい
)
、
085
到底
(
たうてい
)
足
(
あし
)
が
続
(
つづ
)
かないから、
086
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
で
取調
(
とりしら
)
べて
見
(
み
)
たいと
思
(
おも
)
ふのだ。
087
左守
(
さもり
)
は
一国
(
いつこく
)
の
宰相
(
さいしやう
)
、
088
吾
(
わが
)
家
(
や
)
で
調
(
しら
)
べやうと、
089
白洲
(
しらす
)
で
調
(
しら
)
べやうと
些
(
ち
)
つとも
差支
(
さしつか
)
へはない
筈
(
はず
)
だ。
090
かかる
例
(
ためし
)
は
先王
(
せんわう
)
の
時代
(
じだい
)
から
幾度
(
いくど
)
もあつた
事
(
こと
)
だから』
091
右
(
う
)
『これはえらい
失言
(
しつげん
)
を
致
(
いた
)
しました。
092
然
(
しか
)
らば
明日
(
みやうにち
)
はこれに
引
(
ひ
)
き
立
(
た
)
てて
参
(
まゐ
)
りますから、
093
篤
(
とつく
)
りお
調
(
しら
)
べを
願
(
ねが
)
ひます。
094
左様
(
さやう
)
なら』
095
と
慇懃
(
いんぎん
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
を
述
(
の
)
べ
己
(
おの
)
が
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
096
後
(
あと
)
に
左守
(
さもり
)
は
脇息
(
けふそく
)
にもたれ、
097
吐息
(
といき
)
をつきながら
独語
(
ひとりごと
)
。
098
『アヽ
人間
(
にんげん
)
の
行末
(
ゆくすゑ
)
位
(
ぐらゐ
)
果敢
(
はか
)
ないものはないなあ。
099
臥薪
(
ぐわしん
)
甞胆
(
しやうたん
)
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
の
艱苦
(
かんく
)
を
凌
(
しの
)
いでヤツと
目的
(
もくてき
)
を
達成
(
たつせい
)
し、
100
元
(
もと
)
の
左守
(
さもり
)
となつて
国政
(
こくせい
)
を
改革
(
かいかく
)
し、
101
新王
(
しんわう
)
殿下
(
でんか
)
の
政治
(
せいぢ
)
の
枢機
(
すうき
)
に
参与
(
さんよ
)
する
身分
(
みぶん
)
となつたと
思
(
おも
)
へば
寸善
(
すんぜん
)
尺魔
(
しやくま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
、
102
奸侫
(
かんねい
)
邪智
(
じやち
)
に
長
(
た
)
けたる
玄真坊
(
げんしんばう
)
が
泥棒
(
どろばう
)
となつて
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
み、
103
右守
(
うもり
)
に
迄
(
まで
)
も
吾
(
わが
)
古創
(
ふるきず
)
を
羅列
(
られつ
)
して
聞
(
き
)
かしたであらう。
104
アー
情
(
なさけ
)
ない。
105
どうして
今日
(
こんにち
)
の
地位
(
ちゐ
)
が
保
(
たも
)
たれやうか、
106
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
になつたものだ。
107
自分
(
じぶん
)
は
心
(
こころ
)
より
泥棒
(
どろばう
)
の
親分
(
おやぶん
)
となつては
居
(
ゐ
)
なかつたが、
108
タラハン
国
(
ごく
)
を
思
(
おも
)
ふ
余
(
あま
)
り
手段
(
しゆだん
)
を
選
(
えら
)
まなかつたのが
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
不覚
(
ふかく
)
だ。
109
そして
今度
(
こんど
)
の
国政
(
こくせい
)
の
改革
(
かいかく
)
について
二百
(
にひやく
)
の
部下
(
ぶか
)
は
妨
(
さまた
)
げにこそなれ、
110
力
(
ちから
)
になつた
奴
(
やつ
)
は
一人
(
ひとり
)
もない。
111
あゝ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
正義
(
せいぎ
)
公道
(
こうだう
)
を
踏
(
ふ
)
まねば
末
(
すゑ
)
の
遂
(
と
)
げられないものだなア』
112
左守
(
さもり
)
は
来
(
こ
)
し
方
(
かた
)
行末
(
ゆくすゑ
)
の
事
(
こと
)
など
思
(
おも
)
ひ
浮
(
うか
)
べて、
113
其
(
その
)
夜
(
よ
)
は
一目
(
ひとめ
)
も
得眠
(
えねむ
)
らず
夜
(
よ
)
を
明
(
あか
)
して
了
(
しま
)
つた。
114
烏
(
からす
)
は
塒
(
ねぐら
)
を
放
(
はな
)
れて
嬉
(
うれ
)
しげに
太平
(
たいへい
)
を
歌
(
うた
)
ひ、
115
雀
(
すずめ
)
はチユンチユンと
愉快気
(
ゆくわいげ
)
に
軒
(
のき
)
に
囀
(
さへづ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
116
左守
(
さもり
)
は
之
(
これ
)
を
眺
(
なが
)
めて
又
(
また
)
もや
独語
(
ひとりごと
)
、
117
『あゝ
私
(
わし
)
は
何故
(
なぜ
)
あの
烏
(
からす
)
に
生
(
うま
)
れて
来
(
こ
)
なかつたらう。
118
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
大空
(
たいくう
)
を
何
(
なん
)
の
憚
(
はばか
)
る
事
(
こと
)
もなく
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
翺翔
(
かうしやう
)
する
様
(
さま
)
はまるで
天人
(
てんにん
)
のやうだ。
119
雀
(
すずめ
)
は
無心
(
むしん
)
の
声
(
こゑ
)
を
放
(
はな
)
つて
千代
(
ちよ
)
々々
(
ちよ
)
とないてゐる。
120
それにも
拘
(
かかは
)
らず、
121
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
と
生
(
うま
)
れた
人間
(
にんげん
)
の
吾
(
わが
)
身
(
み
)
、
122
何故
(
なぜ
)
まアこれだけ
苦
(
くる
)
しみの
深
(
ふか
)
い
事
(
こと
)
だらう』
123
と
吐息
(
といき
)
を
漏
(
も
)
らして
居
(
ゐ
)
る
処
(
ところ
)
へ、
124
玄真坊
(
げんしんばう
)
、
125
コブライ、
126
コオロの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
獄吏
(
ごくり
)
に
護
(
まも
)
られ
大手
(
おほで
)
を
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら
127
裏門
(
うらもん
)
を
潜
(
くぐ
)
つて
左守
(
さもり
)
の
居間
(
ゐま
)
の
庭先
(
にはさき
)
へやつて
来
(
き
)
た。
128
左守
(
さもり
)
は
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るよりアツと
許
(
ばか
)
りに
打
(
う
)
ち
驚
(
おどろ
)
き
卒倒
(
そつたう
)
せむとしたが、
129
吾
(
われ
)
と
吾
(
わが
)
手
(
て
)
に
気
(
き
)
を
取
(
と
)
り
直
(
なほ
)
し、
130
『やア
獄卒
(
ごくそつ
)
共
(
ども
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
であつた。
131
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
者
(
もの
)
はこの
左守
(
さもり
)
が
預
(
あづ
)
かつておく。
132
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つて
呉
(
く
)
れ』
133
獄卒
(
ごくそつ
)
『ハーイ』
134
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
獄卒
(
ごくそつ
)
は
逸早
(
いちはや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
つた。
135
傍
(
かたはら
)
に
人
(
ひと
)
なきを
見
(
み
)
済
(
すま
)
した
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
136
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなくツカツカと
座敷
(
ざしき
)
に
飛
(
と
)
び
上
(
あが
)
り、
137
左守
(
さもり
)
の
前
(
まへ
)
に
胡座
(
あぐら
)
をかき
黙然
(
もくぜん
)
として
左守
(
さもり
)
の
顔
(
かほ
)
を
睨
(
ね
)
めつけて
居
(
ゐ
)
る。
138
コブライ、
139
コオロの
両人
(
りやうにん
)
も
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
左右
(
さいう
)
に
胡座
(
あぐら
)
をかき、
140
無雑作
(
むざふさ
)
に
控
(
ひか
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
141
左守
(
さもり
)
『ヤアお
前
(
まへ
)
は
玄真坊
(
げんしんばう
)
ぢやないか、
142
何処
(
どこ
)
を
迂路
(
うろ
)
ついて
居
(
ゐ
)
たのだ。
143
さうしてダリヤ
姫
(
ひめ
)
は
手
(
て
)
に
入
(
い
)
つたのか、
144
其
(
その
)
後
(
ご
)
の
経過
(
けいくわ
)
を
話
(
はな
)
して
呉
(
く
)
れ』
145
玄真坊
(
げんしんばう
)
『ハヽヽヽヽ、
146
ダリヤはどうでもよいが
147
オイ
兄貴
(
あにき
)
、
148
随分
(
ずいぶん
)
山
(
やま
)
カンが
当
(
あた
)
つたものだのう。
149
綺麗
(
きれい
)
な
娘
(
むすめ
)
を
持
(
も
)
つたおかげで、
150
一国
(
いつこく
)
の
宰相
(
さいしやう
)
と
迄
(
まで
)
なり
上
(
あが
)
つたのだから、
151
些
(
ち
)
つとはおごつて
貰
(
もら
)
つても
好
(
よ
)
かりさうなものだ。
152
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
もタラハン
市
(
し
)
の
火事
(
くわじ
)
と
聞
(
き
)
くより
兄貴
(
あにき
)
の
家
(
いへ
)
が
険呑
(
けんのん
)
と
思
(
おも
)
ひ、
153
この
両人
(
りやうにん
)
と
共
(
とも
)
に
救援
(
きうゑん
)
に
向
(
むか
)
つたところ、
154
訳
(
わけ
)
のわからぬ
雑兵
(
ざふひやう
)
どもが
泥棒
(
どろばう
)
と
間違
(
まちが
)
へ
牢獄
(
らうごく
)
にぶち
込
(
こ
)
みよつたのだ。
155
お
前
(
まへ
)
も
俺
(
おれ
)
の
危難
(
きなん
)
を
聞
(
き
)
かんでも
無
(
な
)
からうに、
156
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
とはあまり
虫
(
むし
)
がよすぎるぢやないか。
157
そしてあの
右守
(
うもり
)
の
青二才
(
あをにさい
)
奴
(
め
)
、
158
俺
(
おれ
)
に
対
(
たい
)
して
無礼
(
ぶれい
)
の
言
(
こと
)
をほざきよつた。
159
どうだ
兄貴
(
あにき
)
、
160
兄弟
(
きやうだい
)
の
誼
(
よしみ
)
で
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いて
呉
(
く
)
れないか』
161
左
(
さ
)
『
一体
(
いつたい
)
どうせいと
云
(
い
)
ふのだ』
162
玄
(
げん
)
『
外
(
ほか
)
でもない、
163
あの
右守
(
うもり
)
を
免職
(
めんしよく
)
さしてその
後釜
(
あとがま
)
にこの
玄真坊
(
げんしんばう
)
を
直
(
なほ
)
すか、
164
それも
叶
(
かな
)
はずば、
165
兄貴
(
あにき
)
が
右守
(
うもり
)
となり、
166
俺
(
おれ
)
を
左守
(
さもり
)
に
推薦
(
すいせん
)
するか、
167
二
(
ふた
)
つに
一
(
ひと
)
つの
頼
(
たの
)
みを
聞
(
き
)
いて
貰
(
もら
)
ひてえのだ』
168
左
(
さ
)
『
外
(
ほか
)
の
事
(
こと
)
なら
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
いてやるが、
169
オーラ
山
(
さん
)
で
泥棒
(
どろばう
)
をやつて
居
(
を
)
つたお
前
(
まへ
)
を、
170
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
に
推薦
(
すいせん
)
する
事
(
こと
)
は
到底
(
たうてい
)
叶
(
かな
)
ふまい。
171
殿下
(
でんか
)
のお
許
(
ゆる
)
しが
無
(
な
)
いに
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
るからのう』
172
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
大口
(
おほぐち
)
あけて
高笑
(
たかわら
)
ひ、
173
玄
(
げん
)
『ハヽヽヽヽ、
174
オイ
兄貴
(
あにき
)
、
175
そりや
何
(
なに
)
をいふのだ。
176
俺
(
おれ
)
はオーラ
山
(
さん
)
に
於
(
おい
)
て
三千
(
さんぜん
)
人
(
にん
)
の
泥棒
(
どろばう
)
の
大親分
(
おほおやぶん
)
だぞ、
177
兄貴
(
あにき
)
は
僅
(
わづ
)
かに
二百
(
にひやく
)
人
(
にん
)
の
小泥棒
(
こどろばう
)
の
親分
(
おやぶん
)
ぢやないか、
178
二百
(
にひやく
)
人
(
にん
)
の
親分
(
おやぶん
)
が
左守
(
さもり
)
となつて、
179
三千
(
さんぜん
)
人
(
にん
)
の
大親分
(
おほおやぶん
)
が
左守
(
さもり
)
になれないと
云
(
い
)
ふわけがあるか。
180
それはチと
勝手
(
かつて
)
な
理窟
(
りくつ
)
ぢやないか』
181
左守
(
さもり
)
は「ウン」と
云
(
い
)
つたきり、
182
黙念
(
もくねん
)
として
頸垂
(
うなだれ
)
る。
183
コブライは
膝
(
ひざ
)
をにじりよせ、
184
『もし
親分
(
おやぶん
)
、
185
貴方
(
あなた
)
は
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
したらお
前
(
まへ
)
を
重臣
(
ぢうしん
)
に
使
(
つか
)
つてやらうと
仰有
(
おつしや
)
つたな。
186
なア コオロお
前
(
まへ
)
だつてさうだらう。
187
毎日
(
まいにち
)
々々
(
まいにち
)
日課
(
につくわ
)
のやうに
聞
(
き
)
かされて
居
(
を
)
つたのだからのう。
188
俺
(
おれ
)
だつて
泥棒
(
どろばう
)
をして
居
(
ゐ
)
たい
事
(
こと
)
はないが、
189
何分
(
なにぶん
)
親分
(
おやぶん
)
の
命令
(
めいれい
)
を
忠実
(
ちうじつ
)
に
守
(
まも
)
つてやつて
来
(
き
)
たのだから、
190
親分
(
おやぶん
)
が
出世
(
しゆつせ
)
すりや
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
出世
(
しゆつせ
)
するが
当然
(
あたりまへ
)
ぢやないか』
191
コオ『ウン、
192
そりやその
通
(
とほ
)
りだ。
193
もし
親分
(
おやぶん
)
、
194
いや
左守
(
さもり
)
さま、
195
この
瘠
(
やせ
)
つ
節
(
ぷし
)
を
買
(
か
)
つて
下
(
くだ
)
さるでせうなア』
196
左守
(
さもり
)
『そりや
確
(
たしか
)
にお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
にも
其
(
そ
)
の
約束
(
やくそく
)
はしておいた
筈
(
はず
)
だ。
197
併
(
しか
)
し
今日
(
こんにち
)
ではその
約束
(
やくそく
)
を
実行
(
じつかう
)
出来
(
でき
)
ないのを
遺憾
(
ゐかん
)
とする。
198
仮令
(
たとへ
)
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
へ
応援
(
おうゑん
)
に
来
(
き
)
てくれたにもせよ、
199
護衛兵
(
ごゑいへい
)
の
目
(
め
)
を
忍
(
しの
)
び
裏門
(
うらもん
)
から
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
み、
200
宝庫
(
ほうこ
)
の
錠前
(
ぢやうまへ
)
を
捻切
(
ねぢき
)
らうとして
居
(
ゐ
)
たのだから
201
誰
(
たれ
)
の
目
(
め
)
から
見
(
み
)
ても
泥棒
(
どろばう
)
としか
認
(
みと
)
められない。
202
今日
(
こんにち
)
は
最早
(
もはや
)
お
前方
(
まへがた
)
を
罪人
(
ざいにん
)
と
認
(
みと
)
める。
203
心易
(
こころやす
)
いは
常
(
つね
)
の
事
(
こと
)
、
204
タラハン
国
(
ごく
)
の
掟
(
おきて
)
は
枉
(
ま
)
げる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
205
三
(
さん
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
死罪
(
しざい
)
に
処
(
しよ
)
すべきが
掟
(
をきて
)
なれ
共
(
ども
)
、
206
兄弟分
(
きやうだいぶん
)
や
主従
(
しゆじゆう
)
の
誼
(
よしみ
)
で
俺
(
おれ
)
が
見逃
(
みのが
)
してやらう。
207
サア
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
裏門
(
うらもん
)
から
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したらよからう。
208
此
(
この
)
上
(
うへ
)
タラハン
城
(
じやう
)
に
迂路
(
うろ
)
つけば
再
(
ふたた
)
び
捕縛
(
ほばく
)
せらるるであらう、
209
さうすりやもう
俺
(
おれ
)
の
手
(
て
)
には
及
(
およ
)
ばない』
210
玄
(
げん
)
『エヽ
仕方
(
しかた
)
がない、
211
今日
(
けふ
)
はおとなしく
帰
(
かへ
)
つてやらう、
212
併
(
しか
)
し
左守
(
さもり
)
213
随分
(
ずいぶん
)
金
(
かね
)
が
溜
(
たま
)
つたらう、
214
ちと
土産
(
みやげ
)
にくれないか、
215
金
(
かね
)
なしには
何所
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
くわけにも
行
(
ゆ
)
かないからな』
216
左
(
さ
)
『そんなら
仕方
(
しかた
)
がない、
217
お
前
(
まへ
)
が
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
もうとしたあの
庫
(
くら
)
の
中
(
なか
)
の
有金
(
ありがね
)
をすつかりやるから、
218
それを
持
(
も
)
つて
早
(
はや
)
く
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
してくれ。
219
後
(
あと
)
は
私
(
わし
)
が
何
(
なん
)
とか
始末
(
しまつ
)
を
付
(
つ
)
けて
置
(
お
)
くから』
220
玄
(
げん
)
『ヤ、
221
実
(
じつ
)
の
処
(
ところ
)
はお
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り
其
(
その
)
金
(
かね
)
が
欲
(
ほ
)
しかつたのだ。
222
遉
(
さすが
)
は
兄貴
(
あにき
)
だ』
223
コ『ヤア
遉
(
さすが
)
は
親方
(
おやかた
)
……
金
(
かね
)
さへあれば
名
(
な
)
も
位
(
くらゐ
)
も
何
(
なに
)
も
要
(
いら
)
ぬぢやないか』
224
コオ『
親分
(
おやぶん
)
有難
(
ありがた
)
う、
225
そんなら
遠慮
(
ゑんりよ
)
なしに
三
(
さん
)
人
(
にん
)
分配
(
ぶんぱい
)
して
帰
(
かへ
)
ります』
226
これより
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
山吹色
(
やまぶきいろ
)
の
小判
(
こばん
)
を
しこたま
身
(
み
)
につけ
227
裏門
(
うらもん
)
より
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
茂
(
しげ
)
れる
密林
(
みつりん
)
を
縫
(
ぬ
)
ふて、
2271
何処
(
いづこ
)
ともなく
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
228
後
(
あと
)
に
左守
(
さもり
)
は
料紙
(
れうし
)
を
取
(
と
)
りよせ、
229
筆
(
ふで
)
の
跡
(
あと
)
も
麗々
(
れいれい
)
しく
230
国王
(
こくわう
)
、
231
王妃
(
わうひ
)
両殿下
(
りやうでんか
)
を
初
(
はじ
)
め
右守
(
うもり
)
に
当
(
あ
)
てたる
書置
(
かきおき
)
を
残
(
のこ
)
し、
232
自分
(
じぶん
)
は
白装束
(
しらしやうぞく
)
となつて、
233
三五
(
あななひ
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
祭
(
まつ
)
りある
神前
(
しんぜん
)
にて
腹
(
はら
)
掻
(
か
)
き
切
(
き
)
り
立派
(
りつぱ
)
な
最後
(
さいご
)
を
遂
(
と
)
げた。
234
かかる
事
(
こと
)
とは
夢露
(
ゆめつゆ
)
知
(
し
)
らぬ
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
は、
235
様子
(
やうす
)
如何
(
いか
)
にと
再
(
ふたた
)
び
左守
(
さもり
)
の
館
(
やかた
)
を
訪
(
と
)
ひ、
236
案内
(
あんない
)
もなく
離棟
(
はなれ
)
の
座敷
(
ざしき
)
に
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
れば
237
左守
(
さもり
)
は
紅
(
あけ
)
に
染
(
そま
)
つて
縡
(
ことき
)
れて
居
(
ゐ
)
た。
238
そして
其処
(
そこ
)
に
三通
(
さんつう
)
の
遺書
(
ゐしよ
)
が
認
(
したた
)
めてあつた。
239
アリナは
取
(
と
)
るものも
取
(
と
)
りあへず
240
自分
(
じぶん
)
宛
(
あて
)
のを
封
(
ふう
)
押
(
お
)
し
切
(
き
)
つて
読
(
よ
)
み
下
(
くだ
)
せば
左
(
さ
)
の
通
(
とほ
)
りであつた。
241
一、
242
拙者
(
せつしや
)
事
(
こと
)
、
243
国王
(
こくわう
)
殿下
(
でんか
)
のお
見出
(
みだ
)
しに
預
(
あづか
)
り
日頃
(
ひごろ
)
の
願望
(
ぐわんまう
)
を
達
(
たつ
)
し、
244
国政
(
こくせい
)
に
参与
(
さんよ
)
の
栄
(
えい
)
を
担
(
にな
)
ひ
居
(
を
)
り
候
(
さふらふ
)
処
(
ところ
)
、
245
今日
(
こんにち
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
、
246
コブライ、
247
コオロの
無頼漢
(
ぶらいかん
)
、
248
左守
(
さもり
)
たる
拙者
(
せつしや
)
に
向
(
むか
)
ひ
無礼
(
ぶれい
)
の
言
(
げん
)
を
吐
(
は
)
き
候
(
さふらふ
)
も、
249
これを
咎
(
とが
)
むるの
権威
(
けんゐ
)
なく、
250
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
金銭
(
きんせん
)
を
与
(
あた
)
へて
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
らし
申
(
まをし
)
候
(
さふらふ
)
。
251
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
左守
(
さもり
)
の
処置
(
しよち
)
は
国王
(
こくわう
)
殿下
(
でんか
)
の
発布
(
はつぷ
)
されたる
法律
(
はふりつ
)
を
無視
(
むし
)
し、
252
且
(
かつ
)
蹂躙
(
じうりん
)
せる
大罪
(
だいざい
)
にして、
253
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
儘
(
まま
)
職
(
しよく
)
に
留
(
とど
)
まるべき
資格
(
しかく
)
なく、
254
国家
(
こくか
)
の
大罪人
(
だいざいにん
)
なれば、
255
両殿下
(
りやうでんか
)
を
初
(
はじ
)
め、
256
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
其
(
その
)
他
(
た
)
国民
(
こくみん
)
一般
(
いつぱん
)
に
対
(
たい
)
し
謝罪
(
しやざい
)
のため、
257
皺腹
(
しわばら
)
切
(
き
)
つて
相果
(
あひは
)
て
申
(
まをし
)
候
(
さふらふ
)
。
258
今後
(
こんご
)
は
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
殿下
(
でんか
)
を
輔
(
たす
)
け
奉
(
まつ
)
り、
259
タラハン
国
(
ごく
)
の
基礎
(
きそ
)
を
益々
(
ますます
)
鞏固
(
きようこ
)
ならしむべく、
260
奮励
(
ふんれい
)
努力
(
どりよく
)
あらむ
事
(
こと
)
を
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まをし
)
候
(
さふらふ
)
261
国家
(
こくか
)
の
大罪人
(
だいざいにん
)
シヤカンナより
262
右守
(
うもり
)
殿
(
どの
)
参
(
まゐ
)
る
263
と
認
(
したた
)
めてあつた。
264
アリナは
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
るより
驚
(
おどろ
)
き
乍
(
なが
)
らもわざと
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
265
城中
(
じやうちう
)
に
参内
(
さんだい
)
して
両殿下
(
りやうでんか
)
に
事
(
こと
)
の
顛末
(
てんまつ
)
を
詳細
(
つぶさ
)
に
言上
(
ごんじやう
)
し、
266
二通
(
につう
)
の
遺書
(
ゐしよ
)
を
捧呈
(
ほうてい
)
した。
267
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
268
(
大正一五・一・三一
旧一四・一二・一八
於月光閣
加藤明子
録)
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