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第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第71巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 追僧軽迫
01 追劇
〔1790〕
02 生臭坊
〔1791〕
03 門外漢
〔1792〕
04 琴の綾
〔1793〕
05 転盗
〔1794〕
06 達引
〔1795〕
07 夢の道
〔1796〕
第2篇 迷想痴色
08 夢遊怪
〔1797〕
09 踏違ひ
〔1798〕
10 荒添
〔1799〕
11 異志仏
〔1800〕
12 泥壁
〔1801〕
13 詰腹
〔1802〕
14 障路
〔1803〕
15 紺霊
〔1804〕
第3篇 惨嫁僧目
16 妖魅返
〔1805〕
17 夢現神
〔1806〕
18 金妻
〔1807〕
19 角兵衛獅子
〔1808〕
20 困客
〔1809〕
余白歌
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第71巻
> 第2篇 迷想痴色 > 第15章 紺霊
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第一五章
紺霊
(
こんれい
)
〔一八〇四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
篇:
第2篇 迷想痴色
よみ(新仮名遣い):
めいそうちしき
章:
第15章 紺霊
よみ(新仮名遣い):
こんれい
通し章番号:
1804
口述日:
1926(大正15)年01月31日(旧12月18日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年2月1日
概要:
舞台:
中有界、タラハン河の河下
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玄真坊がぶちあたった立石は老婆の姿に変じ、玄真坊の元女房、小夜具染のお紺と名乗る。生前の恨みにより、玄真坊を食らうために待ち伏せていたのだと言う。
玄真坊は助けを求め、シャカンナが天の数歌を唱えると、お紺は消えうせてしまった。
一同は再び行進をはじめる。玄真坊の前に再び立石が立ちふさがるが、天の数歌によって消えうせる。
一同はようやく冥府の赤門にたどり着く。玄真坊、コブライ、コオロの3人は、赤門の守衛からまだ現界に命数が残っていると告げられ、門を締め出される。
やむを得ずとぼとぼと引き返し始めたところ、耳元で女の声が聞こえたかと思うと、3人はタラハン河の河下に救い上げられていた。
3人を介抱していたのは、千草の高姫であった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7115
愛善世界社版:
196頁
八幡書店版:
第12輯 572頁
修補版:
校定版:
204頁
普及版:
96頁
初版:
ページ備考:
001
シヤカンナ、
002
コブライ、
003
コオロの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
004
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
姿
(
すがた
)
を
見失
(
みうしな
)
はじと
行進歌
(
かうしんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
進
(
すす
)
んで
来
(
く
)
る。
005
コブライは
甲声
(
かんごゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
006
『
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
慌
(
あわ
)
て
者
(
もの
)
007
大野
(
おほの
)
ケ
原
(
はら
)
を
吹
(
ふ
)
く
風
(
かぜ
)
に
008
驚
(
おどろ
)
きをつたか
魂消
(
たまげ
)
たか
009
頭
(
あたま
)
を
先
(
さき
)
に
尻
(
しり
)
後
(
あと
)
に
010
突出
(
つきだ
)
し
乍
(
なが
)
ら
不細工
(
ぶさいく
)
な
011
スタイルさらして
行
(
ゆ
)
きよつた
012
彼奴
(
あいつ
)
のやうな
慌
(
あわ
)
て
者
(
もの
)
013
生
(
う
)
みよつた
親
(
おや
)
の
面
(
つら
)
が
見
(
み
)
たい
014
蛙
(
かはづ
)
のやうな
面
(
つら
)
をして
015
トンビのやうな
尖
(
とが
)
り
口
(
ぐち
)
016
物
(
もの
)
云
(
い
)
ふ
度
(
たび
)
に
目
(
め
)
と
鼻
(
はな
)
と
017
口
(
くち
)
とを
一
(
ひと
)
つによせる
奴
(
やつ
)
018
もしも
地獄
(
ぢごく
)
があつたなら
019
地獄
(
ぢごく
)
の
町
(
まち
)
の
見世物
(
みせもの
)
に
020
出
(
だ
)
したらよつくはやるだろ
021
あゝ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い
022
オーラの
山
(
やま
)
に
立籠
(
たてこも
)
り
023
ドエライ
山子
(
やまこ
)
を
企
(
たく
)
みよつて
024
目算
(
もくさん
)
ガラリと
相外
(
あひはづ
)
れ
025
ダリヤの
姫
(
ひめ
)
には
目尻
(
めじり
)
下
(
さ
)
げ
026
面
(
つら
)
を
草紙
(
さうし
)
に
使
(
つか
)
はれて
027
大
(
おほ
)
きな
恥
(
はぢ
)
をかき
乍
(
なが
)
ら
028
蛙
(
かへる
)
の
面
(
つら
)
に
水
(
みづ
)
かけた
029
やうな
彼奴
(
あいつ
)
の
無神経
(
むしんけい
)
030
呆
(
あき
)
れて
物
(
もの
)
が
云
(
い
)
はれない
031
又
(
また
)
もや
一
(
ひと
)
つの
大望
(
たいまう
)
を
032
企
(
たく
)
むは
企
(
たく
)
んでみたものの
033
これ
又
(
また
)
ドエライ
失敗
(
しつぱい
)
で
034
火事場
(
くわじば
)
泥棒
(
どろぼう
)
のやり
損
(
そこ
)
ね
035
左守
(
さもり
)
の
館
(
やかた
)
で
捕
(
とら
)
へられ
036
冷
(
つめた
)
い
牢屋
(
らうや
)
へブチ
込
(
こ
)
まれ
037
右守
(
うもり
)
の
司
(
つかさ
)
の
訊問
(
じんもん
)
を
038
シヤーツクシヤーの
呑気相
(
のんきそ
)
に
039
煙
(
けむり
)
にまいて
答弁
(
たふべん
)
し
040
左守
(
さもり
)
の
館
(
やかた
)
に
引
(
ひ
)
き
出
(
だ
)
され
041
又
(
また
)
も
業託
(
ごふたく
)
相
(
あひ
)
並
(
なら
)
べ
042
お
庫
(
くら
)
の
金
(
かね
)
を
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
して
043
己
(
おの
)
がポツポへ
托
(
たく
)
し
込
(
こ
)
み
044
夜昼
(
よるひる
)
なしに
山路
(
やまみち
)
を
045
走
(
はし
)
つた
揚句
(
あげく
)
に
情
(
なさけ
)
なや
046
捕手
(
とりて
)
の
奴
(
やつ
)
に
見
(
み
)
つけられ
047
千尋
(
ちひろ
)
の
谷間
(
たにま
)
にザンブリと
048
俺
(
おい
)
等
(
ら
)
と
共
(
とも
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
049
命
(
いのち
)
死
(
し
)
せしと
思
(
おも
)
ひきや
050
こんな
所
(
ところ
)
へやつて
来
(
き
)
た
051
不思議
(
ふしぎ
)
も
不思議
(
ふしぎ
)
こんな
又
(
また
)
052
不思議
(
ふしぎ
)
が
世界
(
せかい
)
にあるものか
053
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
慌
(
あわ
)
て
者
(
もの
)
054
アレアレあこに
倒
(
たふ
)
れてる
055
野壺
(
のつぼ
)
のはたのクソ
蛙
(
がへる
)
056
掴
(
つか
)
んで
大地
(
だいち
)
にぶちつけた
057
やうなザマしてフン
伸
(
の
)
びて
058
ビリビリ
慄
(
ふる
)
ふてけつからア
059
何
(
なん
)
と
因果
(
いんぐわ
)
な
奴
(
やつ
)
だなア
060
此
(
この
)
有様
(
ありさま
)
を
眺
(
なが
)
むれば
061
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
でもあるやうだ
062
又々
(
またまた
)
小気味
(
こきみ
)
がよいやうだ
063
こんな
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
を
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
064
助
(
たす
)
けてみた
所
(
とこ
)
で
仕
(
し
)
よがない
065
とは
云
(
い
)
ふものの
俺
(
おれ
)
たちも
066
こんな
淋
(
さび
)
しい
街道
(
かいだう
)
を
067
行
(
ゆ
)
くのにや
人数
(
にんず
)
が
多
(
おほ
)
い
程
(
ほど
)
068
心
(
こころ
)
が
丈夫
(
ぢやうぶ
)
になるやうだ
069
厭
(
いや
)
でも
応
(
おう
)
でも
助
(
たす
)
けよか
070
コラ コラ コラ コラ
玄真坊
(
げんしんばう
)
071
早
(
はや
)
くしつかりせぬかい』と
072
胸
(
むね
)
と
頭
(
あたま
)
の
嫌
(
きら
)
ひなく
073
グチヤ グチヤ グチヤと
踏
(
ふ
)
み
込
(
こ
)
めば
074
ウンと
許
(
ばか
)
りに
呻
(
うめ
)
きつつ
075
息
(
いき
)
ふき
返
(
かへ
)
し
玄真坊
(
げんしんばう
)
076
『アイタタタツタ アイタタタ
077
俺
(
おれ
)
の
頭
(
あたま
)
を
踏
(
ふ
)
みやがつた
078
肋
(
あばら
)
の
骨
(
ほね
)
を
二三本
(
にさんぼん
)
079
どうやらコブライが
折
(
をり
)
よつた
080
元
(
もと
)
の
通
(
とほ
)
りにして
返
(
かへ
)
せ
081
親
(
おや
)
から
貰
(
もら
)
ふた
大切
(
たいせつ
)
な
082
一生
(
いつしやう
)
使
(
つか
)
ふ
宝
(
たから
)
だぞ
083
アイタタタツタ アイタツタ
084
コレコレシヤカンナ
左守
(
さもり
)
さま
085
私
(
わたし
)
の
仇
(
かたき
)
を
討
(
う
)
つとおくれ
086
どしても
虫
(
むし
)
がいえぬ
程
(
ほど
)
に
087
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
088
目玉
(
めだま
)
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し
相
(
さう
)
だわい』
089
などと
090
体
(
からだ
)
も
動
(
うご
)
かぬ
癖
(
くせ
)
に
腮
(
あごた
)
許
(
ばか
)
りを
叩
(
たた
)
いてゐる。
091
コブ『ハヽヽヽ、
092
オイ
玄真
(
げんしん
)
さま、
093
起
(
お
)
きたらどうだい。
094
体
(
からだ
)
も
動
(
うご
)
かぬくせに
毒
(
どく
)
つきやがつて
何
(
なん
)
のザマだ。
095
サア
起
(
お
)
きたり
起
(
お
)
きたり、
096
起
(
お
)
きな
起
(
お
)
きぬで
可
(
よ
)
いワ、
097
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
放
(
ほ
)
つといて
行
(
ゆ
)
くからのう。
098
仇
(
かたき
)
討
(
う
)
つてくれの
何
(
なん
)
のつて、
099
馬鹿
(
ばか
)
にするない』
100
玄
(
げん
)
『オイ、
101
コブライ、
102
さう
怒
(
おこ
)
るものぢやないワイ、
103
とつくりと
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いてくれ。
104
仇
(
かたき
)
を
討
(
う
)
つてくれといふのは、
105
此
(
この
)
途端
(
みちばた
)
の
立石
(
たていし
)
を
叩
(
たた
)
き
毀
(
こは
)
してくれと
云
(
い
)
ふのだ。
106
此奴
(
こいつ
)
があつた
許
(
ばか
)
りに、
107
俺
(
おれ
)
がこんな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
ふたのだもの』
108
コ『ナール
程
(
ほど
)
、
109
此奴
(
こいつ
)
ア
怪体
(
けたい
)
な
石
(
いし
)
だな。
110
ヨーヨー ヨーヨー ヨーヨー、
111
目
(
め
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たぞ。
112
それ
鼻
(
はな
)
だ、
113
口
(
くち
)
だ、
114
耳
(
みみ
)
迄
(
まで
)
生
(
は
)
えて
来
(
き
)
たぞ。
115
此奴
(
こいつ
)
、
116
化立石
(
ばけたていし
)
だな』
117
立石
(
たていし
)
は
俄
(
にはか
)
に
白髪
(
しらが
)
の
姿
(
すがた
)
と
変
(
へん
)
じ、
118
『ギヤアハヽヽヽ、
119
コラ
耄碌
(
もうろく
)
共
(
ども
)
、
120
俺
(
おれ
)
を
誰
(
たれ
)
だと
心得
(
こころえ
)
て
居
(
を
)
るか、
121
俺
(
おれ
)
は
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
でも
名高
(
なだか
)
い
小夜具
(
さよぐ
)
染
(
ぞめ
)
のお
紺
(
こん
)
と
云
(
い
)
ふ
鬼婆
(
おにばば
)
だぞ』
122
コブ『ナニ、
123
小夜具
(
さよぐ
)
染
(
ぞめ
)
のお
紺
(
こん
)
?、
124
まるで
狐
(
きつね
)
みたいな
奴
(
やつ
)
だな。
125
小夜具
(
さよぐ
)
染
(
ぞめ
)
でも
椿染
(
つばきぞめ
)
でも
構
(
かま
)
ふものかい。
126
そんなヒヨロヒヨロした
婆
(
ばば
)
アの
態
(
ざま
)
をしやがつて、
127
偉
(
えら
)
相
(
さう
)
な
口
(
くち
)
を
叩
(
たた
)
くない。
128
俺
(
おれ
)
を
何方
(
どなた
)
と
心得
(
こころえ
)
てけつかるのかい』
129
お
紺
(
こん
)
『ギユーフツフヽヽ』
130
コ『コラ、
131
お
紺
(
こん
)
、
132
ソーラ
何
(
なに
)
吐
(
ぬか
)
してけつかるのだい。
133
ギユフヽヽヽとは
何
(
なん
)
だい。
134
それ
程
(
ほど
)
牛糞
(
ぎうふん
)
が
欲
(
ほ
)
しけら、
135
そこらの
街道
(
かいだう
)
を
歩
(
ある
)
いて
来
(
こ
)
い、
136
馬糞
(
ばふん
)
も
牛糞
(
ぎうふん
)
も
沢山
(
たくさん
)
落
(
お
)
ちてるワイ。
137
大方
(
おほかた
)
汝
(
きさま
)
ド
狐
(
ぎつね
)
の
化
(
ばけ
)
そこねだろ』
138
お
紺
(
こん
)
『グツグツ
吐
(
ぬか
)
すと、
139
わいら
も
一緒
(
いつしよ
)
に
食
(
く
)
つてやろか。
140
折角
(
せつかく
)
玄真
(
げんしん
)
の
野郎
(
やらう
)
を
食
(
く
)
つてやらうと
思
(
おも
)
へば
141
汝
(
きさま
)
達
(
たち
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
やがつて
邪魔
(
じやま
)
をさらすものだから、
142
聊
(
いささ
)
か
困
(
こま
)
つてゐるのだ。
143
エ、
144
グヅグヅさらさずに
早
(
はや
)
く
何処
(
どつか
)
へ
行
(
ゆ
)
け。
145
サアこれから
汝
(
きさま
)
等
(
ら
)
が
通
(
とほ
)
つた
後
(
あと
)
は、
146
此
(
この
)
お
紺
(
こん
)
が
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
体
(
からだ
)
を
叩
(
たた
)
きにして
団子
(
だんご
)
に
丸
(
まる
)
めて
食
(
く
)
つてやるのだ、
147
ギヨーホツホヽヽヽ、
148
何
(
なん
)
とはなしに
甘
(
うま
)
相
(
さう
)
な
臭
(
にほひ
)
がするワイ………のう』
149
玄
(
げん
)
『オイ、
150
コブライ、
151
シヤカンナの
兄貴
(
あにき
)
、
152
コオロの
乾児
(
こぶん
)
、
153
メツタに
俺
(
おれ
)
を
見捨
(
みす
)
てやせうまいの、
154
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
アを
平
(
たひ
)
らげてくれないか』
155
シヤ『ウーム、
156
どしたら
可
(
よ
)
かろかの。
157
コブライ、
158
お
前
(
まへ
)
は
如何
(
どう
)
する
考
(
かんが
)
へだ?』
159
コブ『……………』
160
お
紺
(
こん
)
『
喧
(
やか
)
ましいワイ、
161
泥棒
(
どろばう
)
許
(
ばか
)
りがよりやがつて、
162
何
(
なに
)
をゴテゴテ
云
(
い
)
ふのだ。
163
汝
(
きさま
)
の
成敗
(
せいばい
)
さるる
所
(
ところ
)
は
此
(
この
)
先
(
さき
)
にある、
164
楽
(
たのし
)
んで
行
(
い
)
つたが
可
(
よ
)
からうぞ。
165
此
(
この
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
、
166
此
(
この
)
お
紺
(
こん
)
と
云
(
い
)
ふ
女房
(
にようばう
)
があるにも
拘
(
かかは
)
らず、
167
梅香
(
うめか
)
と
云
(
い
)
ふスベタ
女郎
(
ぢよらう
)
に
現
(
うつつ
)
をぬかし、
168
俺
(
おれ
)
に
空閨
(
くうけい
)
を
守
(
まも
)
らせた
無情
(
むじやう
)
冷酷
(
れいこく
)
なクソ
爺
(
おやぢ
)
だ。
169
其
(
その
)
恨
(
うらみ
)
が
重
(
かさ
)
なつて
道端
(
みちばた
)
の
立石
(
たていし
)
となり、
170
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
売僧
(
まいす
)
が、
171
通
(
とほ
)
りやあがつたら
通
(
とほ
)
りやあがつたらと、
172
寒
(
さむ
)
い
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれ
乍
(
なが
)
ら、
173
此所
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
つてをつたのだ。
174
サ、
175
モウ
斯
(
か
)
うなりや
最早
(
もはや
)
百年目
(
ひやくねんめ
)
、
176
ジタバタしても
叶
(
かな
)
ふまい。
177
小夜具
(
さよぐ
)
染
(
ぞめ
)
のお
紺
(
こん
)
の
面
(
つら
)
を
見覚
(
みおぼ
)
えて
居
(
を
)
るだろな』
178
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
179
カツカツと
喉
(
のど
)
を
鳴
(
な
)
らした
途端
(
とたん
)
に、
180
パツパツと
火
(
ひ
)
を
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
し、
181
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
禿頭
(
はげあたま
)
を、
182
紅蓮
(
ぐれん
)
の
舌
(
した
)
で
嘗
(
な
)
め
尽
(
つく
)
す。
183
其
(
その
)
熱
(
あつ
)
さ
苦
(
くるし
)
さに、
184
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
手足
(
てあし
)
をジタバタさせ
乍
(
なが
)
ら、
185
蚊
(
か
)
の
鳴
(
な
)
くやうな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
186
『オーイ、
187
シヤカンナ、
188
助
(
たす
)
けてくれ
助
(
たす
)
けてくれ』
189
といふ
声
(
こゑ
)
さへも
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
細
(
ほそ
)
つてゆく。
190
シヤカンナは
見
(
み
)
るに
見
(
み
)
かねて、
191
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に「
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
六
(
むゆ
)
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
」と
天数歌
(
あまのかずうた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
るや、
192
小夜具
(
さよぐ
)
染
(
ぞめ
)
のお
紺
(
こん
)
の
姿
(
すがた
)
は
煙草
(
たばこ
)
の
煙
(
けむり
)
の
如
(
ごと
)
くに
193
フワリフワリと
空中
(
くうちう
)
に
揺
(
ゆ
)
れ
乍
(
なが
)
ら
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
つた。
194
不思議
(
ふしぎ
)
にも
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
体
(
からだ
)
の
自由
(
じいう
)
が
利
(
き
)
き
出
(
だ
)
し、
195
又
(
また
)
もや
一行
(
いつかう
)
の
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
196
性
(
しやう
)
こりもなく、
197
頭
(
あたま
)
を
先
(
さき
)
に
尻
(
しり
)
を
後
(
うしろ
)
にポイポイと
蝗
(
いなご
)
の
蹴
(
け
)
り
足
(
あし
)
宜
(
よろ
)
しく
198
細
(
ほそ
)
い
脛
(
すね
)
をふん
張
(
ば
)
り
乍
(
なが
)
ら
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
199
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
又
(
また
)
もや
玄真坊
(
げんしんばう
)
に
瞬
(
またた
)
く
内
(
うち
)
に
二三町
(
にさんちやう
)
計
(
ばか
)
り
遅
(
おく
)
れて
了
(
しま
)
つた。
200
コ『モシ、
201
シヤカンナさま、
202
余程
(
よほど
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
罪
(
つみ
)
な
男
(
をとこ
)
と
見
(
み
)
えますな。
203
あのお
紺
(
こん
)
といふ
奴
(
やつ
)
、
204
一遍
(
いつぺん
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
と
結婚
(
けつこん
)
したに
違
(
ちがひ
)
ありませぬナ、
205
玄真坊
(
げんしんばう
)
ぢやなくつても、
206
あの
面
(
つら
)
では
私
(
わたし
)
だつて
厭
(
いや
)
になりますワ』
207
シヤ『サア
結婚
(
けつこん
)
か、
208
お
紺
(
こん
)
か、
209
み
紺
(
こん
)
か
知
(
し
)
らぬが
随分
(
ずいぶん
)
難
(
むつ
)
かしい
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
だつた。
210
斯様
(
かやう
)
な
妖怪
(
えうくわい
)
が
出没
(
しゆつぼつ
)
する
以上
(
いじやう
)
は、
211
ヤハリ
地獄
(
ぢごく
)
の
八丁目
(
はつちやうめ
)
に
違
(
ちがひ
)
なからうよ。
212
マアボツボツ
前進
(
ぜんしん
)
することにせうかい』
213
コ『
何
(
なん
)
だかそこら
中
(
ぢう
)
が
淋
(
さび
)
しくなつたぢやありませぬか、
214
丸切
(
まるきり
)
壺
(
つぼ
)
を
被
(
かぶ
)
つてるやうな
気分
(
きぶん
)
になりました。
215
コオロ、
216
お
前
(
まへ
)
は
如何
(
どう
)
だ』
217
コオ『
俺
(
おれ
)
だつて、
218
矢張
(
やつぱり
)
淋
(
さび
)
しいワイ。
219
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
紺
(
こん
)
でもお
半
(
はん
)
でもよいから、
220
チヨイチヨイ
出
(
で
)
てくれると
退屈
(
たいくつ
)
ざましになつて
可
(
い
)
いぢやないか。
221
玄真坊
(
げんしんばう
)
にやチツと
許
(
ばか
)
り
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だけれどのう』
222
コ『サ、
223
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
、
224
参
(
まゐ
)
りませう』
225
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
226
コ『
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
不思議
(
ふしぎ
)
なる
227
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
が
現
(
あら
)
はれて
228
怪態
(
けたい
)
な
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
せよつた
229
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
慌
(
あわ
)
て
者
(
もの
)
230
こんな
街道
(
かいだう
)
の
真中
(
まんなか
)
で
231
よい
恥
(
はぢ
)
さらしをやりよつた
232
彼奴
(
あいつ
)
もチツとは
良心
(
りやうしん
)
の
233
かがやき
亘
(
わた
)
ると
相見
(
あひみ
)
えて
234
俺
(
おい
)
等
(
ら
)
三人
(
みたり
)
を
後
(
あと
)
に
置
(
お
)
き
235
逃
(
にげ
)
るが
如
(
ごと
)
くに
行
(
ゆ
)
きよつた
236
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
可哀相
(
かあいさう
)
ぢやな
237
サアサア
之
(
これ
)
から
気
(
き
)
をつけて
238
行
(
ゆ
)
かねばどんな
妖怪
(
えうくわい
)
が
239
出現
(
しゆつげん
)
するかも
知
(
し
)
れないぞ
240
気
(
き
)
をつけめされよ
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
241
八衢
(
やちまた
)
街道
(
かいだう
)
の
不思議
(
ふしぎ
)
さは
242
到底
(
たうてい
)
現界
(
げんかい
)
ぢや
見
(
み
)
られない
243
あゝ
面白
(
おもしろ
)
い
怖
(
おそ
)
ろしい
244
恐
(
こは
)
い
悲
(
かな
)
しいジレツたい
245
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
情
(
なさけ
)
ない
246
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
247
目玉
(
めだま
)
が
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し
相
(
さう
)
だワイ』
248
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
進行歌
(
しんかうか
)
を
唄
(
うた
)
つてゐる。
249
『あゝ
恥
(
はづか
)
しや
恥
(
はづか
)
しや
250
昔
(
むかし
)
の
俺
(
おれ
)
の
女房
(
にようばう
)
が
251
執念深
(
しふねんぶか
)
くも
道端
(
みちばた
)
に
252
石
(
いし
)
の
柱
(
はしら
)
と
化
(
ば
)
けよつて
253
俺
(
おれ
)
の
通
(
とほ
)
るを
待伏
(
まちぶ
)
せて
254
どぎつい
憂目
(
うきめ
)
に
合
(
あは
)
せよつた
255
ホンに
女
(
をんな
)
といふ
奴
(
やつ
)
は
256
仕末
(
しまつ
)
に
了
(
を
)
へぬ
代物
(
しろもの
)
だ
257
優
(
やさ
)
しく
云
(
い
)
へばのし
上
(
あが
)
る
258
きつく
叱
(
しか
)
れば
吠
(
ほ
)
えくさる
259
殺
(
ころ
)
してやつたら
化
(
ば
)
けて
出
(
で
)
る
260
之
(
これ
)
は
天下
(
てんか
)
の
通弊
(
つうへい
)
だ
261
お
紺
(
こん
)
の
奴
(
やつ
)
は
俺
(
おれ
)
の
手
(
て
)
で
262
殺
(
ころ
)
した
覚
(
おぼえ
)
はなけれ
共
(
ども
)
263
悋気
(
りんき
)
の
深
(
ふか
)
い
奴
(
やつ
)
と
見
(
み
)
え
264
執念深
(
しふねんぶか
)
くも
化
(
ば
)
けて
出
(
で
)
て
265
俺
(
おれ
)
を
食
(
く
)
はふと
云
(
い
)
ひよつた
266
ても
怖
(
おそ
)
ろしい
婆
(
ばば
)
アだな
267
あんな
女
(
をんな
)
にかかつたら
268
黐桶
(
とりもちをけ
)
へ
両足
(
りやうあし
)
を
269
突込
(
つつこ
)
んだよりもまだ
辛
(
つら
)
い
270
苦
(
くる
)
しい
思
(
おも
)
ひをせにやならぬ
271
金
(
かね
)
と
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
272
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼす
仇敵
(
きうてき
)
と
273
今
(
いま
)
や
漸
(
やうや
)
く
悟
(
さと
)
りけり
274
とは
云
(
い
)
ふものの
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
275
金
(
かね
)
と
女
(
をんな
)
は
捨
(
す
)
てられぬ
276
人
(
ひと
)
と
生
(
うま
)
れた
上
(
うへ
)
からは
277
どしても
女
(
をんな
)
と
黄金
(
わうごん
)
が
278
無
(
な
)
ければ
此
(
この
)
世
(
よ
)
が
渡
(
わた
)
れない
279
善悪
(
ぜんあく
)
互
(
たがひ
)
に
相混
(
あひこん
)
じ
280
美醜
(
びしう
)
互
(
たがひ
)
に
交
(
まじ
)
はつて
281
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
総
(
すべて
)
が
出来
(
でき
)
るのだ
282
之
(
これ
)
を
思
(
おも
)
へば
地獄
(
ぢごく
)
だと
283
云
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で
何
(
なに
)
怖
(
こは
)
い
284
地獄
(
ぢごく
)
の
中
(
なか
)
にも
極楽
(
ごくらく
)
が
285
キツと
設
(
まう
)
けてあるだらう
286
それを
思
(
おも
)
へば
幽冥
(
いうめい
)
の
287
旅路
(
たびぢ
)
も
結局
(
けつきよく
)
面白
(
おもしろ
)
い
288
ドツコイドツコイ ドツコイシヨ
289
アイタヽヽヽタツタ アイタタツタ
290
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが
足許
(
あしもと
)
に
291
喰
(
くひ
)
つきよつたに
違
(
ちがひ
)
ない
292
皆
(
みんな
)
の
奴
(
やつ
)
は
何
(
なに
)
してる
293
さつてもさてもコンパスの
294
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
は
仕様
(
しやう
)
がない
295
俺
(
おれ
)
はテクシーの
自動車
(
じどうしや
)
で
296
一瀉
(
いつしや
)
千里
(
せんり
)
の
勢
(
いきほひ
)
で
297
こんな
所
(
とこ
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
た
298
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
三人
(
みたり
)
の
姿
(
すがた
)
さへ
299
吾
(
わが
)
目
(
め
)
に
入
(
い
)
らぬ
遅緩
(
もどか
)
しさ
300
一筋道
(
ひとすぢみち
)
の
此
(
この
)
街道
(
かいだう
)
301
外
(
ほか
)
へは
迷
(
まよ
)
ふ
筈
(
はず
)
がない
302
あゝ
待
(
まち
)
どうや じれつたや
303
アイタヽヽヽ アイタタツタ
304
又
(
また
)
もやこんな
街道
(
かいだう
)
の
305
どう
真中
(
まんなか
)
に
立石
(
たていし
)
が
306
出
(
で
)
しやばりやがつて
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
307
頭
(
あたま
)
をコンとやりよつた
308
今度
(
こんど
)
はさうは
行
(
ゆ
)
かないぞ
309
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
つ
六
(
む
)
つ
310
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
つ
十
(
たり
)
百
(
もも
)
千
(
ち
)
311
唱
(
とな
)
へてやつたら
滅茶
(
めちや
)
々々
(
めちや
)
に
312
烟
(
けむり
)
となつて
消
(
き
)
えるだろ
313
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
つ
六
(
む
)
つ
314
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
つ
十
(
たり
)
百
(
もも
)
千
(
ち
)
315
万
(
よろづ
)
の
神
(
かみ
)
の
御
(
ご
)
降臨
(
かうりん
)
316
偏
(
ひとへ
)
に
仰
(
あふ
)
ぎ
奉
(
たてまつ
)
る
317
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
318
恩頼
(
みたまのふゆ
)
を
垂
(
た
)
れ
玉
(
たま
)
へ』
319
不思議
(
ふしぎ
)
や
立石
(
たていし
)
は
煙
(
けむり
)
の
如
(
ごと
)
く
中空
(
ちうくう
)
に
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せて
了
(
しま
)
つた。
320
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
何
(
なん
)
だか
前進
(
ぜんしん
)
するのが
俄
(
にはか
)
に
恐
(
おそ
)
ろしいやうな
気
(
き
)
がし
出
(
だ
)
したので、
321
少時
(
しばらく
)
路傍
(
みちばた
)
に
佇
(
たたず
)
んで
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
落伍組
(
らくごぐみ
)
を
待
(
ま
)
つてゐると、
322
一行
(
いつかう
)
はヤツとの
事
(
こと
)
で
此
(
この
)
場
(
ば
)
へ
追
(
お
)
つ
付
(
つ
)
き
来
(
きた
)
り、
323
シヤ『ヤ、
324
迚
(
とて
)
も
早
(
はや
)
いコンパスだのう、
325
又
(
また
)
お
紺
(
こん
)
に
出会
(
であ
)
つたのだろ』
326
玄
(
げん
)
『お
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り、
327
お
紺
(
こん
)
か
何
(
なに
)
か
知
(
し
)
らぬが、
328
又
(
また
)
もや
石柱
(
いしばしら
)
が
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
しやがつて、
329
頭
(
あたま
)
をおコンと
打
(
う
)
たしやがつた。
330
けれ
共
(
ども
)
な、
331
お
前
(
まへ
)
の
数歌
(
かずうた
)
の
受売
(
うけうり
)
をやつた
所
(
ところ
)
、
332
烟
(
けむり
)
となつて、
333
コツクリコと
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
つたのだ。
334
ても
偖
(
さて
)
も
数歌
(
かずうた
)
の
威力
(
ゐりよく
)
といふものは
偉
(
えら
)
いものだワイ………と
335
此
(
この
)
様
(
やう
)
に
今
(
いま
)
感
(
かん
)
じた
処
(
ところ
)
だ』
336
シヤ『オイ
玄真
(
げんしん
)
、
337
向方
(
むかふ
)
に
厳
(
いかめ
)
しい
赤門
(
あかもん
)
が
見
(
み
)
えるぢやないか』
338
玄
(
げん
)
『ウンさうだ、
339
いよいよ
赤門
(
あかもん
)
だ。
340
何
(
なん
)
だか
小気味
(
こぎみ
)
が
悪
(
わる
)
いので、
341
実
(
じつ
)
アお
前
(
まへ
)
の
追付
(
おひつ
)
くのを
待
(
ま
)
つてゐたのだ』
342
シヤ『ハヽヽヽ、
343
ヤツパリ
偉
(
えら
)
相
(
さう
)
に
云
(
い
)
つても、
344
心
(
こころ
)
の
大根
(
おほね
)
は
弱
(
よわ
)
い
所
(
ところ
)
があると
見
(
み
)
えるワイ。
345
サ、
346
俺
(
おれ
)
が
先頭
(
せんとう
)
に
立
(
た
)
つから、
347
お
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
従
(
つ
)
いて
来
(
こ
)
い』
348
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
349
シヤカンナは
一行
(
いつかう
)
の
前
(
まへ
)
に
立
(
た
)
ち
悠々
(
いういう
)
と
赤門
(
あかもん
)
に
近
(
ちか
)
づいた。
350
冥府
(
めいふ
)
の
規則
(
きそく
)
として
白赤
(
しろあか
)
の
守衛
(
しゆゑい
)
が
二人
(
ふたり
)
厳然
(
げんぜん
)
と
控
(
ひか
)
へてゐる。
351
赤
(
あか
)
『コリヤコリヤ
352
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
何者
(
なにもの
)
だ』
353
シヤ『ハイ、
354
私
(
わたくし
)
はタラハン
城
(
じやう
)
の
左守
(
さもり
)
の
司
(
つかさ
)
シヤカンナと
申
(
まを
)
す
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
います』
355
赤
(
あか
)
は
横
(
よこ
)
に
細長
(
ほそなが
)
い
帳面
(
ちやうめん
)
を
繰
(
くり
)
乍
(
なが
)
ら、
356
赤
(
あか
)
『
成程
(
なるほど
)
、
357
お
前
(
まへ
)
さまの
命数
(
めいすう
)
は
尽
(
つ
)
きてゐる。
358
直様
(
すぐさま
)
天国
(
てんごく
)
へやつてやりたいは
山々
(
やまやま
)
だが、
359
チツと
許
(
ばか
)
り
八衢
(
やちまた
)
に
修業
(
しうげふ
)
をして
貰
(
もら
)
はねばならぬかも
知
(
し
)
れぬ、
360
何事
(
なにごと
)
も
伊吹戸主
(
いぶきどぬし
)
の
御
(
ご
)
裁断
(
さいだん
)
を
仰
(
あふ
)
いだ
上
(
うへ
)
のことだ。
361
サ、
362
お
通
(
とほ
)
りなさい』
363
とシヤカンナの
尻
(
しり
)
を
叩
(
たた
)
けば、
364
シヤカンナは
風
(
かぜ
)
に
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
散
(
ち
)
る
如
(
ごと
)
く、
365
フワフワフワと
門内
(
もんない
)
に
翔
(
た
)
つやうにして
這入
(
はい
)
つて
了
(
しま
)
つた。
366
赤
(
あか
)
は
玄真坊
(
げんしんばう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
367
『オイ
汝
(
きさま
)
は
玄真坊
(
げんしんばう
)
と
云
(
い
)
ふ
悪僧
(
あくそう
)
だらうがな。
368
汝
(
きさま
)
はどうしても
地獄
(
ぢごく
)
代物
(
しろもの
)
だ、
369
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
未
(
ま
)
だ
命数
(
めいすう
)
が
残
(
のこ
)
つてゐる。
370
現界
(
げんかい
)
に
未
(
ま
)
だ
籍
(
せき
)
のある
奴
(
やつ
)
ア、
371
此処
(
ここ
)
の
管轄
(
くわんかつ
)
区域
(
くゐき
)
ぢやない、
372
サ、
373
トツとと
帰
(
かへ
)
れツ』
374
玄
(
げん
)
『
成程
(
なるほど
)
、
375
随分
(
ずいぶん
)
私
(
わたくし
)
は
悪僧
(
あくそう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
376
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
一
(
ひと
)
つも
成功
(
せいこう
)
した
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ。
377
何
(
いづ
)
れも
未遂犯
(
みすゐはん
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
378
どうぞ
大目
(
おほめ
)
に
見
(
み
)
て
下
(
くだ
)
さい』
379
赤
(
あか
)
『エー、
380
ゴテゴテ
云
(
い
)
ふな、
381
帰
(
かへ
)
れといつたら
帰
(
かへ
)
らぬか』
382
と
二銭
(
にせん
)
胴貨
(
どうくわ
)
のやうな
目玉
(
めだま
)
を
剥出
(
むきだ
)
せば、
383
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
慄
(
ふる
)
ひ
戦
(
をのの
)
き
縮
(
ちぢ
)
こまつて
了
(
しま
)
ふ。
384
赤
(
あか
)
『オイ、
385
そこなる
両人
(
りやうにん
)
、
386
其
(
その
)
方
(
はう
)
も
矢張
(
やつぱり
)
泥棒稼
(
どろぼうかせぎ
)
をやつてゐる
奴
(
やつ
)
だろ、
387
コブライにコオロと
云
(
い
)
ふだろ』
388
コ『お
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
りで
御座
(
ござ
)
います』
389
コオ『
其
(
その
)
通
(
とほ
)
りで
御座
(
ござ
)
います』
390
赤
(
あか
)
『
汝
(
きさま
)
も
仲々
(
なかなか
)
罪
(
つみ
)
の
重
(
おも
)
い
奴
(
やつ
)
だが、
391
未
(
ま
)
だ
現界
(
げんかい
)
に
籍
(
せき
)
が
残
(
のこ
)
つてゐる。
392
サア、
393
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
れツ』
394
と
赤門
(
あかもん
)
をピシヤツと
閉
(
し
)
め、
395
白
(
しろ
)
の
守衛
(
しゆゑい
)
と
共
(
とも
)
に
門内
(
もんない
)
に
姿
(
すがた
)
をかくした。
396
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
已
(
やむ
)
を
得
(
え
)
ずトボトボと
元来
(
もとき
)
し
道
(
みち
)
を
七八丁
(
しちはつちやう
)
許
(
ばか
)
り
引
(
ひ
)
き
返
(
かへ
)
したと
思
(
おも
)
へば、
397
自分
(
じぶん
)
の
耳元
(
みみもと
)
にやさしい
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
が、
398
電話
(
でんわ
)
がかかつて
来
(
き
)
たやうな
程度
(
ていど
)
で
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
399
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
揃
(
そろ
)
ひも
揃
(
そろ
)
ふて
一度
(
いちど
)
にパツと
気
(
き
)
がつき
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば、
400
自分
(
じぶん
)
はタラハン
河
(
がは
)
の
河下
(
かはしも
)
に
何人
(
なにびと
)
かに
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げられ、
401
沢山
(
たくさん
)
の
見物
(
けんぶつ
)
に
取
(
とり
)
まかれ、
402
一人
(
ひとり
)
の
綺麗
(
きれい
)
な
女
(
をんな
)
に
介抱
(
かいはう
)
されてゐた。
403
此
(
この
)
女
(
をんな
)
はトルマン
国
(
ごく
)
を
抜
(
ぬけ
)
出
(
だ
)
した
妖婦
(
えうふ
)
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
であつた。
404
以上
(
いじやう
)
は
甦
(
よみがへ
)
つた
玄真坊
(
げんしんばう
)
以下
(
いか
)
の
幽界
(
いうかい
)
想念
(
さうねん
)
の
幕
(
まく
)
である。
405
(
大正一五・一・三一
旧一四・一二・一八
於月光閣
松村真澄
録)
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