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第一八章 金妻(こんさい)〔一八〇七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻 篇:第3篇 惨嫁僧目 よみ(新仮名遣い):さんかそうもく
章:第18章 金妻 よみ(新仮名遣い):こんさい 通し章番号:1807
口述日:1926(大正15)年02月01日(旧12月19日) 口述場所:月光閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1929(昭和4)年2月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
一方、玄真坊は千草の高姫を妻にしようと口説くが、高姫は玄真坊の黄金だけが目当てで、返答をはぐらかしている。
二人はまず、スガの里に出て山子を企むことにし、高姫をたたえる宣伝歌を歌いながら歩いていく。
その途中、二人は入江村というハルの海のほとりの村で、宿を取ることとなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm7118
愛善世界社版:243頁 八幡書店版:第12輯 589頁 修補版: 校定版:254頁 普及版:119頁 初版: ページ備考:
001 大日山(だいにちざん)(ふもと)森林(しんりん)大日(だいにち)如来(によらい)(まつ)つた(ふる)ぼけた(ほこら)がある。002(その)(ほこら)(なか)には(がま)()(そこ)ねたやうな面構(つらがま)へをした玄真坊(げんしんばう)と、003(あま)乙女(をとめ)のやうな気高(けだか)姿(すがた)千草(ちぐさ)高姫(たかひめ)()美人(びじん)二人(ふたり)が、004無遠慮(ぶゑんりよ)()そべつて(たがひ)頬杖(ほほづゑ)をつき(なが)(ささや)いて()る。
005(げん)『オイ、006女房(にようばう)
007()(いや)ですよ、008女房(にようばう)なんて』
009(げん)『そんなら(つま)にしておこう。010オイ(つま)
011()(つま)なんてつまらぬぢやありませぬか。012もつと高尚(かうしやう)()()んで(くだ)さいな』
013(げん)『そんなら細君(さいくん)にしておこうか、014それが(いや)なら()内儀(ないぎ)にしておこうか』
015()妻君(さいくん)だの内儀(ないぎ)だのと女房扱(にようばうあつか)ひは真平(まつぴら)御免(ごめん)ですよ』
016(げん)『それや約束(やくそく)(ちが)ふ、017(まへ)(おれ)(かか)アになると()つたぢやないか』
018()『そりや()ひましたとも、019あの(とき)はあの(とき)場合(ばあひ)仕方(しかた)なしに()つたのですよ。020一生(いつしやう)女房(にようばう)になると約束(やくそく)()ませぬからなア。021仮令(たとへ)半時(はんとき)でも女房(にようばう)になつて()げたら光栄(くわうえい)でせう』
022(げん)『そいつは(たよ)りないなア、023一生(いつしやう)(おれ)女房(にようばう)になつてくれないか』
024()『そりやならない(こと)はありませぬが、025貴方(あなた)(こころ)(こころ)ですもの。026そんな水臭(みづくさ)いお(かた)一生(いつしやう)(まか)して(たま)りますか』
027(げん)今日(けふ)()つたばかりで水臭(みづくさ)いの028からいのとそんな(こと)(わか)るものか、029そりやお(まへ)邪推(じやすい)だらう』
030()『それだつて貴方(あなた)本当(ほんたう)水臭(みづくさ)いワ。031沢山(たくさん)黄金(わうごん)所持(しよぢ)(なが)ら、032女房(にようばう)(わたし)(まか)して(くだ)さらないのですもの。033女房(にようばう)(いへ)会計(くわいけい)万端(ばんたん)をやつて()かなければならぬぢやありませぬか、034金無(かねな)しに如何(どう)して会計(くわいけい)をやつて()(こと)出来(でき)ますか、035よう(かんが)へて御覧(ごらん)なさい』
036(げん)『そりやさうだ、037だがまだ()うして(たび)(そら)ぢやないか、038こんな(おも)(もの)女房(にようばう)のお(まへ)(もた)しては()(どく)だ。039(いへ)()つた(うへ)でお(まへ)支出(ししゆつ)万端(ばんたん)(まか)すから、040まアまア安心(あんしん)してくれ(たま)へ』
041()貴方(あなた)はどこ(まで)(わたし)(うたが)つてゐらつしやるのですな。042(わたし)だつて人間(にんげん)ですもの、043(かね)(くらゐ)()つたつて途中(とちう)屁古垂(へこた)れるやうな(よわ)(をんな)ぢやありませぬよ。044さアすつぱり此方(こつち)へお(わた)しなさい。045(いのち)(まで)(ひろ)つて()げた(わたし)ぢやありませぬか。046仮令(たとへ)夫婦(ふうふ)でなくても(いのち)(ひろ)つてあげた恩人(おんじん)ぢやありませぬか』
047(げん)『そりやさうだ、048(まへ)のお世話(せわ)になつた(こと)はよく(おぼ)えて()る。049(しか)(なが)050一夜(いちや)(まくら)(かは)さぬ(うち)から051さう()ゆるしは出来(でき)ないからなア』
052()(なん)とまア下劣(げれつ)(こと)仰有(おつしや)いますな。053それ(ほど)貴方(あなた)はお(かね)執着心(しふちやくしん)(つよ)いのですか』
054(げん)(べつ)(かね)執着(しふちやく)()いが055(かね)()ふものは物品(ぶつぴん)交換券(かうくわんけん)だから、056(かみ)(さま)()いで大切(たいせつ)にせなければならないものだ。057小判(こばん)(ひやく)(りやう)()せばどんな美人(びじん)でも自分(じぶん)女房(にようばう)()(こと)出来(でき)るのだ。058これ(だけ)(かね)があれば、059何処(どこ)かの(みやこ)高歩貸(たかぶが)しをして()つても、0591一生(いつしやう)安楽(あんらく)(くら)(こと)出来(でき)るからな』
060()『ヘン061馬鹿(ばか)にして(もら)ひますまいかい、062遊女(いうぢよ)(ひと)つに()られては063第一(だいいち)霊国(れいごく)天人(てんにん)もつまりませぬワ。064そんな(わか)らぬお(まへ)さまなら065これで御免(ごめん)(かうむ)りませう。066(たれ)がこんなヒヨツトコ野郎(やらう)秋波(しうは)(おく)067女房(にようばう)だの(かかあ)だのと()はれて(たま)るものか、068左様(さやう)なら、069これ(まで)御縁(ごえん)だと(あきら)めて(くだ)さい』
070と、071ツと立上(たちあ)がり(かへ)らうとする。072玄真坊(げんしんばう)(あわ)てて千草姫(ちぐさひめ)(こし)をぐつと(かか)へ、
073(げん)ても(やはらか)(はだ)だなア。074これ さう短気(たんき)(おこ)すものぢやない。075魚心(うをごころ)あれば水心(みづごころ)あり、076(おれ)だつて木石(ぼくせき)ならぬ()(かよ)ふた人間(にんげん)だ。077そんなら三分(さんぶん)(いち)だけお(まへ)(わた)しておくから、078(しばら)くそれで辛抱(しんばう)してくれないか。079三分(さんぶん)(いち)だつてザツと一万(いちまん)(りやう)あるのだからなア、080(はじ)めから全部(ぜんぶ)ぼつたくらうとは(あま)(むし)がよすぎるぢやないか』
081 千草姫(ちぐさひめ)はペロリと(した)()(なが)ら、
082玄真(げんしん)さま083(ひと)見損(みそこな)ひして(くだ)さいますな。084(わたし)はお(かね)(ほれ)貴方(あなた)()いて()たのぢやありませぬよ。085エヽ(けが)らはしい。086(かね)(など)水臭(みづくさ)いワ、087(かね)(かたき)()(なか)()ひますからナ、088そこ(まで)(こころ)(わか)つた以上(いじやう)(かね)なんか()りませぬ。089貴方(あなた)()つて()(くだ)されば、090(わたし)()(とき)には()して(くだ)さるのだから、091そんな(おも)(もの)はよう()ちませぬワ』
092(げん)『なる(ほど)093(まへ)真心(まごころ)()(わか)つた。094そんな(こころ)なら全部(ぜんぶ)(まか)してもよい、095サア(おも)くて()まぬがお(まへ)(こし)につけてやらう』
096()(いや)ですよ、097そんな(おも)(もの)……。098(をとこ)()つものですよ。099(をんな)なんか(おも)たくて(たび)出来(でき)ませぬもの』
100 千草姫(ちぐさひめ)(ある)地点(ちてん)(まで)(おも)たいものを玄真坊(げんしんばう)()たせ、101此処(ここ)()(ところ)睾丸(きんたま)()めて強奪(ぼつたく)らうと()(たくらみ)(もつ)()た。102(こひ)(のろ)けた玄真坊(げんしんばう)は、103千草姫(ちぐさひめ)(こころ)(おく)(たくらみ)()らず104茹蛸(ゆでだこ)のやうになつて、105(ひく)(はな)(とが)つた(くち)や、106ひんがら()一所(ひととこ)()(こゑ)(いろ)(まで)()へ、
107(げん)(さすが)千草姫(ちぐさひめ)だ。108(えら)(えら)109(おれ)もコツクリと感心(かんしん)した。110さアかう()まつた以上(いじやう)111(まへ)はどこ(まで)(わし)女房(にようばう)だなア』
112()『さうですとも、113今更(いまさら)そんな(こと)()ふだけ野暮(やぼ)ですワ。114(はじめ)から女房(にようばう)(きま)つとるぢやありませぬか』
115(げん)『それでも最前(さいぜん)のやうに(しばら)くの女房(にようばう)だの、116一生(いつしやう)女房(にようばう)にならうとは()()かつたのと()はれると(こま)る。117一生(いつしやう)なら一生(いつしやう)とハツキリ()ふてくれ、118(かね)のある(うち)だけの女房(にようばう)では(こま)るからのう』
119()『これ玄真(げんしん)さま、120そんな下劣(げれつ)(こと)()ふて(くだ)さいますな。121(ふた)()には金々(かねかね)仰有(おつしや)るが、122(かね)なんか人間(にんげん)()つものですよ。123(わたし)美貌(びばう)天職(てんしよく)(ほか)には御座(ござ)いますまい。124天下(てんか)(ただ)一人(ひとり)救世主(きうせいしゆ)()ひ、125美人(びじん)()126どうして金銭(きんせん)づくで()()りますか、127よく(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。128(わらは)(かね)()しけりやトルマン(ごく)王妃(わうひ)ですもの、129幾何(いくら)でも()つて()るのです。130(まへ)さまは泥棒(どろばう)親分(おやぶん)をやつて()たのだから、131(ひと)(かね)()(こと)(ばか)(かんが)へて()たのだから、132女房(にようばう)(かね)()るか()るかと133そんな(こと)(ばか)(かんが)へて()られるのだから134それが(わたし)残念(ざんねん)です。135(すこ)人格(じんかく)向上(かうじやう)して(もら)はなくては、136(おほ)ミロクの添柱(そへばしら)()(とこ)には()きませぬよ』
137(げん)『いやもう(おそ)()つた。138今後(こんご)一切(いつさい)(まへ)さまにお(まか)(まを)す。139いや女房(にようばう)一任(いちにん)する。140(しか)(なが)141何時(いつ)(まで)もこんな(ところ)二人(ふたり)がコソコソ(ばな)しをやつても()のふく時節(じせつ)がない。142何所(どこ)スガ(さと)へでも()()して立派(りつぱ)家屋(かをく)(かひ)(もと)め、143それを根拠(こんきよ)として天下(てんか)統一(とういつ)大業(たいげふ)計画(けいくわく)せうぢやないか』
144()『ホヽヽヽ、145(ちひ)さい(をとこ)にも()ず、146随分(ずいぶん)肝玉(きもだま)(ふと)(をとこ)だこと。147(あたい)それが第一(だいいち)()()つてよ。148さアこれからお(まへ)さまは言触(ことぶ)れとなつて、149そこら界隈(かいわい)(まは)つて(くだ)さい。150(わたし)救世主(きうせいしゆ)となつて、151この大日山(だいにちざん)(おく)(ふか)(やしろ)()て、152其処(そこ)(ひか)へて()りますから、153ドシドシと愚夫(ぐふ)愚婦(ぐふ)(あつ)めて()るのですよ』
154(げん)『ヤアそれも一策(いつさく)だが155(おれ)(かほ)大抵(たいてい)(やつ)がこの界隈(かいわい)では()つて()る。156万一(まんいち)オーラ(さん)山子(やまこ)坊主(ばうず)だと(さと)られては157折角(せつかく)計画(けいくわく)画餅(ぐわへい)()するから、158そんな(こと)()はずにスガ(さと)(まで)()かうぢやないか。159()(かく)この風体(ふうてい)では仕方(しかた)がない、160相当(さうたう)法服(ほふふく)(あつら)()につけて()かねば(ひと)信用(しんよう)せぬからのう』
161()『そんなら()(かく)162夫殿(をつとどの)(おほ)せに(まか)せスガの(さと)(まで)(まゐ)りませう』
163 弥々(いよいよ)これより玄真坊(げんしんばう)164千草(ちぐさ)高姫(たかひめ)は、165大日(だいにち)(もり)()()で、166スガの(みなと)をさして大陰謀(だいいんぼう)(くはだ)てむと(すす)()(こと)となつた。167玄真坊(げんしんばう)()(うた)ふ。
168()()()()(あら)はれた
169雲井(くもゐ)(そら)から(あら)はれた
170月日(つきひ)()るとも(くも)るとも
171仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも
172(この)()(すく)生神(いきがみ)
173(いま)(あら)はれた千草姫(ちぐさひめ)
174それに()()天真坊(てんしんばう)
175この二柱(ふたはしら)ある(かぎ)
176()常暗(とこやみ)(くだ)るとも
177(あん)じも()らぬ(のり)(ふね)
178ミロク菩薩(ぼさつ)(さを)さして
179浮瀬(うきせ)(しづ)人草(ひとぐさ)
180彼方(あなた)(きし)にやすやすと
181(すく)(たす)けて安国(やすくに)
182(をさ)めたまはる(とき)()
183(いさ)めよ(いさ)めよ諸人(もろびと)
184(いは)へよ(いは)へよ千草姫(ちぐさひめ)
185千草(ちぐさ)高姫(たかひめ)ある(かぎ)
186(この)()末代(まつだい)(つぶ)りやせぬ
187三五教(あななひけう)奴原(やつばら)
188仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも
189(まこと)(ちから)()(すく)
190(など)業託(ごふたく)(なら)べたて
191世間(せけん)愚民(ぐみん)(まよ)はせる
192口先(くちさき)(ばか)りの山子神(やまこがみ)
193こんな(やつ)()何千(なんぜん)(にん)
194()()(ところ)(なに)になる
195有害(いうがい)無益(むえき)厄介(やくかい)ものよ
196(たふ)せよ(たふ)せよ三五(あななひ)
197(かみ)(をしへ)宣伝使(せんでんし)
198斎苑(いそ)(やかた)根底(こんてい)から
199デングリ(がへ)してやらなけりや
200(われ)()(のぞ)みは(たつ)せない
201ウラナイ(けう)大教主(だいけうしゆ)
202千草(ちぐさ)高姫(たかひめ)此所(ここ)()
203(あふ)げよ(あふ)げよ諸人(もろびと)
204(した)ひまつれよ国人(くにびと)
205(いのち)清水(しみづ)()みたくば
206天真坊(てんしんばう)(まへ)()
207天帝(てんてい)化身(けしん)()のりたる
208第一(だいいち)霊国(れいごく)天人(てんにん)
209内流(ないりう)うけたるこの身霊(みたま)
210またと世界(せかい)二人(ふたり)ない
211それに(くは)へて(この)(たび)
212(てん)より(くだ)りし千草姫(ちぐさひめ)
213(すべ)ての権利(けんり)()(にぎ)
214天降(あまくだ)りたる(つき)(くに)
215天国(てんごく)浄土(じやうど)(ひら)かむと
216(のら)(たま)ひし(たふと)さよ
217アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
218恩頼(みたまのふゆ)がうけたくば
219天真坊(てんしんばう)(まへ)()
220天真坊(てんしんばう)()()いで
221千草(ちぐさ)(ひめ)(おん)(まへ)
222(こと)委曲(つぶさ)奏上(そうじやう)
223如何(いか)なる(つみ)をも(けがれ)をも
224早川(はやかは)()(なが)()
225天国(てんごく)浄土(じやうど)(たのし)みを
226(この)()ながらに(さづ)くべし
227(した)岩根(いはね)(おほ)ミロク
228(かみ)(をしへ)太柱(ふとばしら)
229弥々(いよいよ)(あら)はれました(うへ)
230四方(よも)民草(たみぐさ)(いち)(にん)
231ツツボに()とさぬ(おん)(ちかひ)
232(よろこ)(いさ)めよ国人(くにびと)
233アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
234御霊(みたま)(さち)(はへ)ましませよ』
235(げん)『もし千草姫(ちぐさひめ)236いや女房殿(にようばうどの)237この宣伝歌(せんでんか)はお()()しましたかなア』
238()『ホヽヽヽヽ、239(さすが)玄真坊(げんしんばう)(さま)だけあつて、240(うま)即席(そくせき)によい文句(もんく)()ますこと、241(わたし)(おほい)(かん)()りましたよ。242どうかこの調子(てうし)(まち)()たら(ちから)(いつ)ぱい(うた)つて(くだ)されや』
243(げん)『よしよし、244(うた)つてやらう、245(その)(かは)りお(まへ)(おれ)女房(にようばう)だから、246(おれ)(うた)(つく)つて(うた)つてくれるだらうなア』
247()『そりや、248玄真(げんしん)さま、249天地(てんち)顛倒(てんたう)(はなは)だしいぢやありませぬか、250神界(しんかい)御用(ごよう)現界(げんかい)御用(ごよう)混同(こんどう)してはいけませぬよ。251神界(しんかい)となればこの千草姫(ちぐさひめ)(おほ)ミロクの太柱(ふとばしら)252玄真(げんしん)さまは眷族(けんぞく)同様(どうやう)ですよ。253肉体(にくたい)(じやう)からこそ(をつと)(つま)よと()ふて()りますが、254神界(しんかい)(こと)となつたら()千草(ちぐさ)高姫(たかひめ)一歩(いつぽ)(ゆづ)りませぬからなア』
255(げん)大変(たいへん)権幕(けんまく)だなア。256(まる)大日山(だいにちざん)(やま)(かみ)(さま)()たやうだワイ』
257()『そりやさうですとも、258大日山(だいにちざん)(やま)(かみ)(わたし)ですよ。259それだから嬶天下(かかてんか)女房(にようばう)(やま)(かみ)()ひませうがな』
260(げん)『なる(ほど)261(まへ)()(とほ)(おれ)()(とほ)りだ、262フヽヽヽヽ』
263()玄真(げんしん)さま、264一遍(いつぺん)(いま)(うた)(うた)つて頂戴(ちやうだい)な』
265(げん)『よしよし、266(うた)はぬ(こと)はないが、267(なん)だか女房(にようばう)讃美歌(さんびか)(うた)ふのは()つと(ばか)てれ(くさ)いやうな()がして(こま)るがなア』
268()『エヽ(あたま)(わる)い、269女房(にようばう)讃美歌(さんびか)ぢやありませぬよ。270(した)()岩根(いはね)(おほ)ミロクさまの讃美歌(さんびか)(うた)つて(くだ)さいと()ふのですがな』
271(げん)『ウンウンそりや(わか)つて()る。272よしよし273そんなら(つつし)んで(うた)はして(いただ)きませう。274オイ(しか)(なが)275スガ(さと)(まで)はもう十五六(じふごろく)()あるから到底(たうてい)(あし)(つづ)かない。276この(むかひ)入江村(いりえむら)()(ところ)がある。277其所(そこ)はハルの(うみ)がズツと()()むで()(ところ)で、278大変(たいへん)景色(けしき)()い。279其所(そこ)宿(やど)今晩(こんばん)宿(とま)つたら如何(どう)だらうかなア』
280()里程(りてい)其所(そこ)(まで)幾何(いくら)(ほど)ありませうかな』
281(げん)三里半(さんりはん)(ばか)りある。282そこ(まで)()つておけば明日(あす)(ふね)(らく)()けるからなア』
283()成程(なるほど)284そりやよい(こと)(おも)()いて(くだ)さつた。285さア、286(これ)から入江(いりえ)(さと)(まで)(いそ)ぎませう』
287両人(りやうにん)(あし)(より)をかけ、288一生(いつしやう)懸命(けんめい)()()したり。
289大正一五・二・一 旧一四・一二・一九 於月光閣 加藤明子録)
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