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第71巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 追僧軽迫
01 追劇
〔1790〕
02 生臭坊
〔1791〕
03 門外漢
〔1792〕
04 琴の綾
〔1793〕
05 転盗
〔1794〕
06 達引
〔1795〕
07 夢の道
〔1796〕
第2篇 迷想痴色
08 夢遊怪
〔1797〕
09 踏違ひ
〔1798〕
10 荒添
〔1799〕
11 異志仏
〔1800〕
12 泥壁
〔1801〕
13 詰腹
〔1802〕
14 障路
〔1803〕
15 紺霊
〔1804〕
第3篇 惨嫁僧目
16 妖魅返
〔1805〕
17 夢現神
〔1806〕
18 金妻
〔1807〕
19 角兵衛獅子
〔1808〕
20 困客
〔1809〕
余白歌
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第一八章
金妻
(
こんさい
)
〔一八〇七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
篇:
第3篇 惨嫁僧目
よみ(新仮名遣い):
さんかそうもく
章:
第18章 金妻
よみ(新仮名遣い):
こんさい
通し章番号:
1807
口述日:
1926(大正15)年02月01日(旧12月19日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年2月1日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一方、玄真坊は千草の高姫を妻にしようと口説くが、高姫は玄真坊の黄金だけが目当てで、返答をはぐらかしている。
二人はまず、スガの里に出て山子を企むことにし、高姫をたたえる宣伝歌を歌いながら歩いていく。
その途中、二人は入江村というハルの海のほとりの村で、宿を取ることとなった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7118
愛善世界社版:
243頁
八幡書店版:
第12輯 589頁
修補版:
校定版:
254頁
普及版:
119頁
初版:
ページ備考:
001
大日山
(
だいにちざん
)
の
麓
(
ふもと
)
の
森林
(
しんりん
)
に
大日
(
だいにち
)
如来
(
によらい
)
を
祭
(
まつ
)
つた
古
(
ふる
)
ぼけた
祠
(
ほこら
)
がある。
002
其
(
その
)
祠
(
ほこら
)
の
中
(
なか
)
には
蟇
(
がま
)
の
鳴
(
な
)
き
損
(
そこ
)
ねたやうな
面構
(
つらがま
)
へをした
玄真坊
(
げんしんばう
)
と、
003
天
(
あま
)
つ
乙女
(
をとめ
)
のやうな
気高
(
けだか
)
い
姿
(
すがた
)
の
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
美人
(
びじん
)
の
二人
(
ふたり
)
が、
004
無遠慮
(
ぶゑんりよ
)
に
寝
(
ね
)
そべつて
互
(
たがひ
)
に
頬杖
(
ほほづゑ
)
をつき
乍
(
なが
)
ら
囁
(
ささや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
005
玄
(
げん
)
『オイ、
006
女房
(
にようばう
)
』
007
千
(
ち
)
『
厭
(
いや
)
ですよ、
008
女房
(
にようばう
)
なんて』
009
玄
(
げん
)
『そんなら
妻
(
つま
)
にしておこう。
010
オイ
妻
(
つま
)
』
011
千
(
ち
)
『
妻
(
つま
)
なんてつまらぬぢやありませぬか。
012
もつと
高尚
(
かうしやう
)
な
名
(
な
)
を
呼
(
よ
)
んで
下
(
くだ
)
さいな』
013
玄
(
げん
)
『そんなら
細君
(
さいくん
)
にしておこうか、
014
それが
嫌
(
いや
)
なら
御
(
ご
)
内儀
(
ないぎ
)
にしておこうか』
015
千
(
ち
)
『
妻君
(
さいくん
)
だの
内儀
(
ないぎ
)
だのと
女房扱
(
にようばうあつか
)
ひは
真平
(
まつぴら
)
御免
(
ごめん
)
ですよ』
016
玄
(
げん
)
『それや
約束
(
やくそく
)
が
違
(
ちが
)
ふ、
017
お
前
(
まへ
)
は
俺
(
おれ
)
の
嬶
(
かか
)
アになると
云
(
い
)
つたぢやないか』
018
千
(
ち
)
『そりや
云
(
い
)
ひましたとも、
019
あの
時
(
とき
)
はあの
時
(
とき
)
の
場合
(
ばあひ
)
で
仕方
(
しかた
)
なしに
云
(
い
)
つたのですよ。
020
一生
(
いつしやう
)
女房
(
にようばう
)
になると
約束
(
やくそく
)
は
為
(
し
)
ませぬからなア。
021
仮令
(
たとへ
)
半時
(
はんとき
)
でも
女房
(
にようばう
)
になつて
上
(
あ
)
げたら
光栄
(
くわうえい
)
でせう』
022
玄
(
げん
)
『そいつは
頼
(
たよ
)
りないなア、
023
一生
(
いつしやう
)
俺
(
おれ
)
の
女房
(
にようばう
)
になつてくれないか』
024
千
(
ち
)
『そりやならない
事
(
こと
)
はありませぬが、
025
貴方
(
あなた
)
の
心
(
こころ
)
が
心
(
こころ
)
ですもの。
026
そんな
水臭
(
みづくさ
)
いお
方
(
かた
)
に
一生
(
いつしやう
)
を
任
(
まか
)
して
堪
(
たま
)
りますか』
027
玄
(
げん
)
『
今日
(
けふ
)
会
(
あ
)
つたばかりで
水臭
(
みづくさ
)
いの
028
からい
のとそんな
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
るものか、
029
そりやお
前
(
まへ
)
の
邪推
(
じやすい
)
だらう』
030
千
(
ち
)
『それだつて
貴方
(
あなた
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
水臭
(
みづくさ
)
いワ。
031
沢山
(
たくさん
)
の
黄金
(
わうごん
)
を
所持
(
しよぢ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
032
女房
(
にようばう
)
の
私
(
わたし
)
に
任
(
まか
)
して
下
(
くだ
)
さらないのですもの。
033
女房
(
にようばう
)
は
家
(
いへ
)
の
会計
(
くわいけい
)
万端
(
ばんたん
)
をやつて
行
(
ゆ
)
かなければならぬぢやありませぬか、
034
金無
(
かねな
)
しに
如何
(
どう
)
して
会計
(
くわいけい
)
をやつて
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ますか、
035
よう
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい』
036
玄
(
げん
)
『そりやさうだ、
037
だがまだ
斯
(
か
)
うして
旅
(
たび
)
の
空
(
そら
)
ぢやないか、
038
こんな
重
(
おも
)
い
物
(
もの
)
を
女房
(
にようばう
)
のお
前
(
まへ
)
に
持
(
もた
)
しては
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だ。
039
家
(
いへ
)
を
持
(
も
)
つた
上
(
うへ
)
でお
前
(
まへ
)
に
支出
(
ししゆつ
)
万端
(
ばんたん
)
任
(
まか
)
すから、
040
まアまア
安心
(
あんしん
)
してくれ
給
(
たま
)
へ』
041
千
(
ち
)
『
貴方
(
あなた
)
はどこ
迄
(
まで
)
も
私
(
わたし
)
を
疑
(
うたが
)
つてゐらつしやるのですな。
042
私
(
わたし
)
だつて
人間
(
にんげん
)
ですもの、
043
金
(
かね
)
位
(
くらゐ
)
持
(
も
)
つたつて
途中
(
とちう
)
で
屁古垂
(
へこた
)
れるやうな
弱
(
よわ
)
い
女
(
をんな
)
ぢやありませぬよ。
044
さア
すつぱり
と
此方
(
こつち
)
へお
渡
(
わた
)
しなさい。
045
命
(
いのち
)
迄
(
まで
)
拾
(
ひろ
)
つて
上
(
あ
)
げた
私
(
わたし
)
ぢやありませぬか。
046
仮令
(
たとへ
)
夫婦
(
ふうふ
)
でなくても
命
(
いのち
)
を
拾
(
ひろ
)
つてあげた
恩人
(
おんじん
)
ぢやありませぬか』
047
玄
(
げん
)
『そりやさうだ、
048
お
前
(
まへ
)
のお
世話
(
せわ
)
になつた
事
(
こと
)
はよく
覚
(
おぼ
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
049
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
050
一夜
(
いちや
)
の
枕
(
まくら
)
も
交
(
かは
)
さぬ
中
(
うち
)
から
051
さう
気
(
き
)
ゆるしは
出来
(
でき
)
ないからなア』
052
千
(
ち
)
『
何
(
なん
)
とまア
下劣
(
げれつ
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますな。
053
それ
程
(
ほど
)
貴方
(
あなた
)
はお
金
(
かね
)
に
執着心
(
しふちやくしん
)
が
強
(
つよ
)
いのですか』
054
玄
(
げん
)
『
別
(
べつ
)
に
金
(
かね
)
に
執着
(
しふちやく
)
は
無
(
な
)
いが
055
お
金
(
かね
)
と
云
(
い
)
ふものは
物品
(
ぶつぴん
)
の
交換券
(
かうくわんけん
)
だから、
056
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
次
(
つ
)
いで
大切
(
たいせつ
)
にせなければならないものだ。
057
小判
(
こばん
)
の
百
(
ひやく
)
両
(
りやう
)
も
出
(
だ
)
せばどんな
美人
(
びじん
)
でも
自分
(
じぶん
)
の
女房
(
にようばう
)
に
買
(
か
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るのだ。
058
これ
丈
(
だけ
)
の
金
(
かね
)
があれば、
059
何処
(
どこ
)
かの
都
(
みやこ
)
で
高歩貸
(
たかぶが
)
しをして
居
(
を
)
つても、
0591
一生
(
いつしやう
)
安楽
(
あんらく
)
に
暮
(
くら
)
す
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るからな』
060
千
(
ち
)
『ヘン
061
馬鹿
(
ばか
)
にして
貰
(
もら
)
ひますまいかい、
062
遊女
(
いうぢよ
)
と
一
(
ひと
)
つに
見
(
み
)
られては
063
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
もつまりませぬワ。
064
そんな
分
(
わか
)
らぬお
前
(
まへ
)
さまなら
065
これで
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
りませう。
066
誰
(
たれ
)
がこんなヒヨツトコ
野郎
(
やらう
)
に
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
り
067
女房
(
にようばう
)
だの
嬶
(
かかあ
)
だのと
云
(
い
)
はれて
耐
(
たま
)
るものか、
068
左様
(
さやう
)
なら、
069
これ
迄
(
まで
)
の
御縁
(
ごえん
)
だと
諦
(
あきら
)
めて
下
(
くだ
)
さい』
070
と、
071
ツと
立上
(
たちあ
)
がり
帰
(
かへ
)
らうとする。
072
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
慌
(
あわ
)
てて
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
腰
(
こし
)
をぐつと
抱
(
かか
)
へ、
073
玄
(
げん
)
『
ても
柔
(
やはらか
)
い
肌
(
はだ
)
だなア。
074
これ さう
短気
(
たんき
)
を
起
(
おこ
)
すものぢやない。
075
魚心
(
うをごころ
)
あれば
水心
(
みづごころ
)
あり、
076
俺
(
おれ
)
だつて
木石
(
ぼくせき
)
ならぬ
血
(
ち
)
の
通
(
かよ
)
ふた
人間
(
にんげん
)
だ。
077
そんなら
三分
(
さんぶん
)
の
一
(
いち
)
だけお
前
(
まへ
)
に
渡
(
わた
)
しておくから、
078
暫
(
しばら
)
くそれで
辛抱
(
しんばう
)
してくれないか。
079
三分
(
さんぶん
)
の
一
(
いち
)
だつてザツと
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
あるのだからなア、
080
初
(
はじ
)
めから
全部
(
ぜんぶ
)
ぼつたくらうとは
余
(
あま
)
り
虫
(
むし
)
がよすぎるぢやないか』
081
千草姫
(
ちぐさひめ
)
はペロリと
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
082
『
玄真
(
げんしん
)
さま
083
人
(
ひと
)
を
見損
(
みそこな
)
ひして
下
(
くだ
)
さいますな。
084
私
(
わたし
)
はお
金
(
かね
)
に
惚
(
ほれ
)
て
貴方
(
あなた
)
に
跟
(
つ
)
いて
来
(
き
)
たのぢやありませぬよ。
085
エヽ
汚
(
けが
)
らはしい。
086
金
(
かね
)
等
(
など
)
は
水臭
(
みづくさ
)
いワ、
087
金
(
かね
)
が
仇
(
かたき
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
と
云
(
い
)
ひますからナ、
088
そこ
迄
(
まで
)
お
心
(
こころ
)
が
分
(
わか
)
つた
以上
(
いじやう
)
は
金
(
かね
)
なんか
要
(
い
)
りませぬ。
089
貴方
(
あなた
)
が
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
されば、
090
私
(
わたし
)
の
要
(
い
)
る
時
(
とき
)
には
出
(
だ
)
して
下
(
くだ
)
さるのだから、
091
そんな
重
(
おも
)
い
物
(
もの
)
はよう
持
(
も
)
ちませぬワ』
092
玄
(
げん
)
『なる
程
(
ほど
)
093
お
前
(
まへ
)
の
真心
(
まごころ
)
は
能
(
よ
)
う
分
(
わか
)
つた。
094
そんな
心
(
こころ
)
なら
全部
(
ぜんぶ
)
任
(
まか
)
してもよい、
095
サア
重
(
おも
)
くて
済
(
す
)
まぬがお
前
(
まへ
)
の
腰
(
こし
)
につけてやらう』
096
千
(
ち
)
『
嫌
(
いや
)
ですよ、
097
そんな
重
(
おも
)
い
物
(
もの
)
……。
098
男
(
をとこ
)
が
持
(
も
)
つものですよ。
099
女
(
をんな
)
なんか
重
(
おも
)
たくて
旅
(
たび
)
も
出来
(
でき
)
ませぬもの』
100
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
或
(
ある
)
地点
(
ちてん
)
迄
(
まで
)
重
(
おも
)
たいものを
玄真坊
(
げんしんばう
)
に
持
(
も
)
たせ、
101
此処
(
ここ
)
と
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
で
睾丸
(
きんたま
)
を
締
(
し
)
めて
強奪
(
ぼつたく
)
らうと
云
(
い
)
ふ
企
(
たくらみ
)
を
以
(
もつ
)
て
居
(
ゐ
)
た。
102
恋
(
こひ
)
に
惚
(
のろ
)
けた
玄真坊
(
げんしんばう
)
は、
103
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
心
(
こころ
)
の
奥
(
おく
)
の
企
(
たくらみ
)
も
知
(
し
)
らず
104
茹蛸
(
ゆでだこ
)
のやうになつて、
105
低
(
ひく
)
い
鼻
(
はな
)
や
尖
(
とが
)
つた
口
(
くち
)
や、
106
ひんがら
目
(
め
)
を
一所
(
ひととこ
)
に
寄
(
よ
)
せ
声
(
こゑ
)
の
色
(
いろ
)
迄
(
まで
)
変
(
か
)
へ、
107
玄
(
げん
)
『
遉
(
さすが
)
は
千草姫
(
ちぐさひめ
)
だ。
108
偉
(
えら
)
い
偉
(
えら
)
い
109
俺
(
おれ
)
もコツクリと
感心
(
かんしん
)
した。
110
さアかう
定
(
き
)
まつた
以上
(
いじやう
)
は
111
お
前
(
まへ
)
はどこ
迄
(
まで
)
も
私
(
わし
)
の
女房
(
にようばう
)
だなア』
112
千
(
ち
)
『さうですとも、
113
今更
(
いまさら
)
そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
ふだけ
野暮
(
やぼ
)
ですワ。
114
初
(
はじめ
)
から
女房
(
にようばう
)
と
定
(
きま
)
つとるぢやありませぬか』
115
玄
(
げん
)
『それでも
最前
(
さいぜん
)
のやうに
暫
(
しばら
)
くの
女房
(
にようばう
)
だの、
116
一生
(
いつしやう
)
女房
(
にようばう
)
にならうとは
云
(
い
)
は
無
(
な
)
かつたのと
云
(
い
)
はれると
困
(
こま
)
る。
117
一生
(
いつしやう
)
なら
一生
(
いつしやう
)
とハツキリ
云
(
い
)
ふてくれ、
118
金
(
かね
)
のある
中
(
うち
)
だけの
女房
(
にようばう
)
では
困
(
こま
)
るからのう』
119
千
(
ち
)
『これ
玄真
(
げんしん
)
さま、
120
そんな
下劣
(
げれつ
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふて
下
(
くだ
)
さいますな。
121
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
には
金々
(
かねかね
)
と
仰有
(
おつしや
)
るが、
122
金
(
かね
)
なんか
人間
(
にんげん
)
の
持
(
も
)
つものですよ。
123
私
(
わたし
)
の
美貌
(
びばう
)
と
天職
(
てんしよく
)
は
他
(
ほか
)
には
御座
(
ござ
)
いますまい。
124
天下
(
てんか
)
に
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
と
云
(
い
)
ひ、
125
美人
(
びじん
)
と
云
(
い
)
ひ
126
どうして
金銭
(
きんせん
)
づくで
手
(
て
)
に
入
(
い
)
りますか、
127
よく
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
128
妾
(
わらは
)
は
金
(
かね
)
が
欲
(
ほ
)
しけりやトルマン
国
(
ごく
)
の
王妃
(
わうひ
)
ですもの、
129
幾何
(
いくら
)
でも
持
(
も
)
つて
来
(
く
)
るのです。
130
お
前
(
まへ
)
さまは
泥棒
(
どろばう
)
の
親分
(
おやぶん
)
をやつて
居
(
ゐ
)
たのだから、
131
人
(
ひと
)
の
金
(
かね
)
を
奪
(
と
)
る
事
(
こと
)
許
(
ばか
)
り
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
たのだから、
132
女房
(
にようばう
)
が
金
(
かね
)
を
奪
(
と
)
るか
奪
(
と
)
るかと
133
そんな
事
(
こと
)
許
(
ばか
)
り
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
られるのだから
134
それが
私
(
わたし
)
は
残念
(
ざんねん
)
です。
135
も
少
(
すこ
)
し
人格
(
じんかく
)
を
向上
(
かうじやう
)
して
貰
(
もら
)
はなくては、
136
大
(
おほ
)
ミロクの
添柱
(
そへばしら
)
と
云
(
い
)
ふ
所
(
とこ
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬよ』
137
玄
(
げん
)
『いやもう
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つた。
138
今後
(
こんご
)
一切
(
いつさい
)
お
前
(
まへ
)
さまにお
任
(
まか
)
せ
申
(
まを
)
す。
139
いや
女房
(
にようばう
)
に
一任
(
いちにん
)
する。
140
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
141
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
もこんな
所
(
ところ
)
で
二人
(
ふたり
)
がコソコソ
話
(
ばな
)
しをやつても
芽
(
め
)
のふく
時節
(
じせつ
)
がない。
142
何所
(
どこ
)
か
スガ
の
里
(
さと
)
へでも
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
して
立派
(
りつぱ
)
な
家屋
(
かをく
)
を
買
(
かひ
)
求
(
もと
)
め、
143
それを
根拠
(
こんきよ
)
として
天下
(
てんか
)
統一
(
とういつ
)
の
大業
(
たいげふ
)
を
計画
(
けいくわく
)
せうぢやないか』
144
千
(
ち
)
『ホヽヽヽ、
145
小
(
ちひ
)
さい
男
(
をとこ
)
にも
似
(
に
)
ず、
146
随分
(
ずいぶん
)
肝玉
(
きもだま
)
の
太
(
ふと
)
い
男
(
をとこ
)
だこと。
147
妾
(
あたい
)
それが
第一
(
だいいち
)
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つてよ。
148
さアこれからお
前
(
まへ
)
さまは
言触
(
ことぶ
)
れとなつて、
149
そこら
界隈
(
かいわい
)
を
廻
(
まは
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
150
私
(
わたし
)
は
救世主
(
きうせいしゆ
)
となつて、
151
この
大日山
(
だいにちざん
)
の
奥
(
おく
)
深
(
ふか
)
く
社
(
やしろ
)
を
建
(
た
)
て、
152
其処
(
そこ
)
に
控
(
ひか
)
へて
居
(
を
)
りますから、
153
ドシドシと
愚夫
(
ぐふ
)
愚婦
(
ぐふ
)
を
集
(
あつ
)
めて
来
(
く
)
るのですよ』
154
玄
(
げん
)
『ヤアそれも
一策
(
いつさく
)
だが
155
俺
(
おれ
)
の
顔
(
かほ
)
は
大抵
(
たいてい
)
の
奴
(
やつ
)
がこの
界隈
(
かいわい
)
では
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
156
万一
(
まんいち
)
オーラ
山
(
さん
)
の
山子
(
やまこ
)
坊主
(
ばうず
)
だと
悟
(
さと
)
られては
157
折角
(
せつかく
)
の
計画
(
けいくわく
)
が
画餅
(
ぐわへい
)
に
帰
(
き
)
するから、
158
そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
はずに
スガ
の
里
(
さと
)
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
かうぢやないか。
159
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
この
風体
(
ふうてい
)
では
仕方
(
しかた
)
がない、
160
相当
(
さうたう
)
な
法服
(
ほふふく
)
を
誂
(
あつら
)
へ
身
(
み
)
につけて
行
(
ゆ
)
かねば
人
(
ひと
)
が
信用
(
しんよう
)
せぬからのう』
161
千
(
ち
)
『そんなら
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
、
162
夫殿
(
をつとどの
)
の
仰
(
おほ
)
せに
任
(
まか
)
せスガの
里
(
さと
)
迄
(
まで
)
参
(
まゐ
)
りませう』
163
弥々
(
いよいよ
)
これより
玄真坊
(
げんしんばう
)
、
164
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
は、
165
大日
(
だいにち
)
の
森
(
もり
)
を
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
で、
166
スガの
港
(
みなと
)
をさして
大陰謀
(
だいいんぼう
)
を
企
(
くはだ
)
てむと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
となつた。
167
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
先
(
ま
)
づ
歌
(
うた
)
ふ。
168
『
出
(
で
)
た
出
(
で
)
た
出
(
で
)
た
出
(
で
)
た
現
(
あら
)
はれた
169
雲井
(
くもゐ
)
の
空
(
そら
)
から
現
(
あら
)
はれた
170
月日
(
つきひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
171
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
172
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ
生神
(
いきがみ
)
は
173
今
(
いま
)
現
(
あら
)
はれた
千草姫
(
ちぐさひめ
)
174
それに
付
(
つ
)
き
添
(
そ
)
ふ
天真坊
(
てんしんばう
)
175
この
二柱
(
ふたはしら
)
ある
限
(
かぎ
)
り
176
世
(
よ
)
は
常暗
(
とこやみ
)
と
下
(
くだ
)
るとも
177
案
(
あん
)
じも
要
(
い
)
らぬ
法
(
のり
)
の
船
(
ふね
)
178
ミロク
菩薩
(
ぼさつ
)
が
棹
(
さを
)
さして
179
浮瀬
(
うきせ
)
に
沈
(
しづ
)
む
人草
(
ひとぐさ
)
を
180
彼方
(
あなた
)
の
岸
(
きし
)
にやすやすと
181
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
けて
安国
(
やすくに
)
と
182
治
(
をさ
)
めたまはる
時
(
とき
)
は
来
(
き
)
ぬ
183
勇
(
いさ
)
めよ
勇
(
いさ
)
めよ
諸人
(
もろびと
)
よ
184
祝
(
いは
)
へよ
祝
(
いは
)
へよ
千草姫
(
ちぐさひめ
)
185
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
ある
限
(
かぎ
)
り
186
此
(
この
)
世
(
よ
)
は
末代
(
まつだい
)
潰
(
つぶ
)
りやせぬ
187
三五教
(
あななひけう
)
の
奴原
(
やつばら
)
は
188
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
189
誠
(
まこと
)
の
力
(
ちから
)
は
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ
190
等
(
など
)
と
業託
(
ごふたく
)
並
(
なら
)
べたて
191
世間
(
せけん
)
の
愚民
(
ぐみん
)
を
迷
(
まよ
)
はせる
192
口先
(
くちさき
)
計
(
ばか
)
りの
山子神
(
やまこがみ
)
193
こんな
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
が
何千
(
なんぜん
)
人
(
にん
)
194
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た
処
(
ところ
)
で
何
(
なに
)
になる
195
有害
(
いうがい
)
無益
(
むえき
)
の
厄介
(
やくかい
)
ものよ
196
倒
(
たふ
)
せよ
倒
(
たふ
)
せよ
三五
(
あななひ
)
の
197
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
198
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
を
根底
(
こんてい
)
から
199
デングリ
返
(
がへ
)
してやらなけりや
200
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
の
望
(
のぞ
)
みは
達
(
たつ
)
せない
201
ウラナイ
教
(
けう
)
の
大教主
(
だいけうしゆ
)
202
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
此所
(
ここ
)
に
在
(
あ
)
り
203
仰
(
あふ
)
げよ
仰
(
あふ
)
げよ
諸人
(
もろびと
)
よ
204
慕
(
した
)
ひまつれよ
国人
(
くにびと
)
よ
205
命
(
いのち
)
の
清水
(
しみづ
)
が
汲
(
く
)
みたくば
206
天真坊
(
てんしんばう
)
の
前
(
まへ
)
に
来
(
こ
)
よ
207
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
と
名
(
な
)
のりたる
208
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
天人
(
てんにん
)
の
209
内流
(
ないりう
)
うけたるこの
身霊
(
みたま
)
210
またと
世界
(
せかい
)
に
二人
(
ふたり
)
ない
211
それに
加
(
くは
)
へて
此
(
この
)
度
(
たび
)
は
212
天
(
てん
)
より
下
(
くだ
)
りし
千草姫
(
ちぐさひめ
)
213
凡
(
すべ
)
ての
権利
(
けんり
)
を
手
(
て
)
に
握
(
にぎ
)
り
214
天降
(
あまくだ
)
りたる
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
215
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
に
開
(
ひら
)
かむと
216
宣
(
のら
)
せ
給
(
たま
)
ひし
尊
(
たふと
)
さよ
217
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
218
恩頼
(
みたまのふゆ
)
がうけたくば
219
天真坊
(
てんしんばう
)
の
前
(
まへ
)
に
来
(
こ
)
よ
220
天真坊
(
てんしんばう
)
が
取
(
と
)
り
次
(
つ
)
いで
221
千草
(
ちぐさ
)
の
姫
(
ひめ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
222
事
(
こと
)
も
委曲
(
つぶさ
)
に
奏上
(
そうじやう
)
し
223
如何
(
いか
)
なる
罪
(
つみ
)
をも
穢
(
けがれ
)
をも
224
早川
(
はやかは
)
の
瀬
(
せ
)
に
流
(
なが
)
し
捨
(
す
)
て
225
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
の
楽
(
たのし
)
みを
226
此
(
この
)
世
(
よ
)
ながらに
授
(
さづ
)
くべし
227
下
(
した
)
つ
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
ミロク
228
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
太柱
(
ふとばしら
)
229
弥々
(
いよいよ
)
現
(
あら
)
はれました
上
(
うへ
)
は
230
四方
(
よも
)
の
民草
(
たみぐさ
)
一
(
いち
)
人
(
にん
)
も
231
ツツボに
墜
(
お
)
とさぬ
御
(
おん
)
誓
(
ちかひ
)
232
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
めよ
国人
(
くにびと
)
よ
233
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
234
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
倍
(
はへ
)
ましませよ』
235
玄
(
げん
)
『もし
千草姫
(
ちぐさひめ
)
、
236
いや
女房殿
(
にようばうどの
)
、
237
この
宣伝歌
(
せんでんか
)
はお
気
(
き
)
に
召
(
め
)
しましたかなア』
238
千
(
ち
)
『ホヽヽヽヽ、
239
遉
(
さすが
)
は
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
だけあつて、
240
甘
(
うま
)
く
即席
(
そくせき
)
によい
文句
(
もんく
)
が
出
(
で
)
ますこと、
241
私
(
わたし
)
も
大
(
おほい
)
に
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
りましたよ。
242
どうかこの
調子
(
てうし
)
で
町
(
まち
)
へ
出
(
で
)
たら
力
(
ちから
)
一
(
いつ
)
ぱい
歌
(
うた
)
つて
下
(
くだ
)
されや』
243
玄
(
げん
)
『よしよし、
244
歌
(
うた
)
つてやらう、
245
其
(
その
)
代
(
かは
)
りお
前
(
まへ
)
も
俺
(
おれ
)
の
女房
(
にようばう
)
だから、
246
俺
(
おれ
)
の
歌
(
うた
)
も
作
(
つく
)
つて
歌
(
うた
)
つてくれるだらうなア』
247
千
(
ち
)
『そりや、
248
玄真
(
げんしん
)
さま、
249
天地
(
てんち
)
顛倒
(
てんたう
)
も
甚
(
はなは
)
だしいぢやありませぬか、
250
神界
(
しんかい
)
の
御用
(
ごよう
)
と
現界
(
げんかい
)
の
御用
(
ごよう
)
と
混同
(
こんどう
)
してはいけませぬよ。
251
神界
(
しんかい
)
となればこの
千草姫
(
ちぐさひめ
)
が
大
(
おほ
)
ミロクの
太柱
(
ふとばしら
)
、
252
玄真
(
げんしん
)
さまは
眷族
(
けんぞく
)
も
同様
(
どうやう
)
ですよ。
253
肉体
(
にくたい
)
上
(
じやう
)
からこそ
夫
(
をつと
)
よ
妻
(
つま
)
よと
云
(
い
)
ふて
居
(
を
)
りますが、
254
神界
(
しんかい
)
の
事
(
こと
)
となつたら
此
(
こ
)
の
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
は
一歩
(
いつぽ
)
も
譲
(
ゆづ
)
りませぬからなア』
255
玄
(
げん
)
『
大変
(
たいへん
)
な
権幕
(
けんまく
)
だなア。
256
恰
(
まる
)
で
大日山
(
だいにちざん
)
の
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
見
(
み
)
たやうだワイ』
257
千
(
ち
)
『そりやさうですとも、
258
大日山
(
だいにちざん
)
の
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
は
私
(
わたし
)
ですよ。
259
それだから
嬶天下
(
かかてんか
)
の
女房
(
にようばう
)
を
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
と
云
(
い
)
ひませうがな』
260
玄
(
げん
)
『なる
程
(
ほど
)
、
261
お
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り
俺
(
おれ
)
の
聞
(
き
)
く
通
(
とほ
)
りだ、
262
フヽヽヽヽ』
263
千
(
ち
)
『
玄真
(
げんしん
)
さま、
264
も
一遍
(
いつぺん
)
今
(
いま
)
の
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
つて
頂戴
(
ちやうだい
)
な』
265
玄
(
げん
)
『よしよし、
266
歌
(
うた
)
はぬ
事
(
こと
)
はないが、
267
何
(
なん
)
だか
女房
(
にようばう
)
の
讃美歌
(
さんびか
)
を
歌
(
うた
)
ふのは
些
(
ち
)
つと
計
(
ばか
)
り
てれ
臭
(
くさ
)
いやうな
気
(
き
)
がして
困
(
こま
)
るがなア』
268
千
(
ち
)
『エヽ
頭
(
あたま
)
の
悪
(
わる
)
い、
269
女房
(
にようばう
)
の
讃美歌
(
さんびか
)
ぢやありませぬよ。
270
下
(
した
)
つ
津
(
つ
)
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
ミロクさまの
讃美歌
(
さんびか
)
を
歌
(
うた
)
つて
下
(
くだ
)
さいと
云
(
い
)
ふのですがな』
271
玄
(
げん
)
『ウンウンそりや
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
る。
272
よしよし
273
そんなら
慎
(
つつし
)
んで
歌
(
うた
)
はして
頂
(
いただ
)
きませう。
274
オイ
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
275
スガ
の
里
(
さと
)
迄
(
まで
)
はもう
十五六
(
じふごろく
)
里
(
り
)
あるから
到底
(
たうてい
)
足
(
あし
)
が
続
(
つづ
)
かない。
276
この
向
(
むかひ
)
に
入江村
(
いりえむら
)
と
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
がある。
277
其所
(
そこ
)
はハルの
海
(
うみ
)
がズツと
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
むで
居
(
を
)
る
処
(
ところ
)
で、
278
大変
(
たいへん
)
景色
(
けしき
)
も
佳
(
よ
)
い。
279
其所
(
そこ
)
の
宿
(
やど
)
で
今晩
(
こんばん
)
は
宿
(
とま
)
つたら
如何
(
どう
)
だらうかなア』
280
千
(
ち
)
『
里程
(
りてい
)
は
其所
(
そこ
)
迄
(
まで
)
幾何
(
いくら
)
程
(
ほど
)
ありませうかな』
281
玄
(
げん
)
『
三里半
(
さんりはん
)
計
(
ばか
)
りある。
282
そこ
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つておけば
明日
(
あす
)
は
船
(
ふね
)
で
楽
(
らく
)
に
行
(
ゆ
)
けるからなア』
283
千
(
ち
)
『
成程
(
なるほど
)
284
そりやよい
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひ
付
(
つ
)
いて
下
(
くだ
)
さつた。
285
さア、
286
之
(
これ
)
から
入江
(
いりえ
)
の
里
(
さと
)
迄
(
まで
)
急
(
いそ
)
ぎませう』
287
と
両人
(
りやうにん
)
は
足
(
あし
)
に
撚
(
より
)
をかけ、
288
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
したり。
289
(
大正一五・二・一
旧一四・一二・一九
於月光閣
加藤明子
録)
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