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天祥地瑞
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第71巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 追僧軽迫
01 追劇
〔1790〕
02 生臭坊
〔1791〕
03 門外漢
〔1792〕
04 琴の綾
〔1793〕
05 転盗
〔1794〕
06 達引
〔1795〕
07 夢の道
〔1796〕
第2篇 迷想痴色
08 夢遊怪
〔1797〕
09 踏違ひ
〔1798〕
10 荒添
〔1799〕
11 異志仏
〔1800〕
12 泥壁
〔1801〕
13 詰腹
〔1802〕
14 障路
〔1803〕
15 紺霊
〔1804〕
第3篇 惨嫁僧目
16 妖魅返
〔1805〕
17 夢現神
〔1806〕
18 金妻
〔1807〕
19 角兵衛獅子
〔1808〕
20 困客
〔1809〕
余白歌
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第二章
生臭坊
(
なまぐさばう
)
〔一七九一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
篇:
第1篇 追僧軽迫
よみ(新仮名遣い):
ついそうけいはく
章:
第2章 生臭坊
よみ(新仮名遣い):
なまぐさぼう
通し章番号:
1791
口述日:
1925(大正14)年11月07日(旧09月21日)
口述場所:
不明
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年2月1日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玄真坊とコブライは穴から抜け出して、性懲りもなくダリヤ探索に日を費やしている。二人は秋の七草の効能について四方山の話をしながら山を下り、二、三十戸の小さな村に出た。
二、三人の小僧たちが小魚釣りをやっていたが、一人が玄真坊を見て、その禿げ頭をからかう。
小僧は、この神谷村の庄屋の息子、「神の子」と名乗る。「神の子」は、神谷村が代々三五教を奉じていると語る。神の子は、玄真坊の素性、ダリヤ姫を捜索していること、今七草の話をしながら村にやってきたことなどを当てて見せる。
また、自分の庄屋の家で、ダリヤをかくまっていることを明かす。
玄真坊は小僧からダリヤの隠し場所を聞こうとするが、「神の子」は玄真坊を馬鹿にする狂歌を歌い、白い煙となって姿を隠してしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7102
愛善世界社版:
24頁
八幡書店版:
第12輯 507頁
修補版:
校定版:
25頁
普及版:
10頁
初版:
ページ備考:
派生
[?]
この文献を底本として書かれたと思われる文献です。
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:
出口王仁三郎著作集 > 第三巻「愛と美といのち」 > [5] 自然といのち > [5-4] 心の病いと身の病い > [5-4-7] 病気と手当て(二) > [5-4-9] 七草の効用
001
オーラの
山
(
やま
)
に
立
(
たて
)
籠
(
こも
)
り
002
天来
(
てんらい
)
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
003
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
と
触
(
ふ
)
れこみて
004
女盗賊
(
をんなたうぞく
)
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
005
シーゴーの
二人
(
ふたり
)
と
共謀
(
きようぼう
)
し
006
三千
(
さんぜん
)
人
(
にん
)
の
賊徒
(
ぞくと
)
等
(
ら
)
を
007
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
に
間配
(
まくば
)
りて
008
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
の
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
009
占領
(
せんりやう
)
せむと
大陰謀
(
だいいんぼう
)
010
企
(
たく
)
らみゐたる
折
(
をり
)
もあれ
011
三五教
(
あななひけう
)
に
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
012
梅公
(
うめこう
)
さまに
踏
(
ふ
)
み
込
(
こ
)
まれ
013
常磐
(
ときは
)
堅磐
(
かきは
)
の
岩窟
(
いはやど
)
を
014
打
(
うち
)
破
(
やぶ
)
られて
降伏
(
かうふく
)
し
015
ヨリコの
姫
(
ひめ
)
やシーゴーは
016
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
帰順
(
きじゆん
)
して
017
天下
(
てんか
)
公共
(
こうきよう
)
の
其
(
その
)
為
(
ため
)
に
018
余生
(
よせい
)
を
捧
(
ささ
)
げ
奉
(
まつ
)
らむと
019
真心
(
まごころ
)
尽
(
つく
)
すに
引
(
ひ
)
き
換
(
か
)
へて
020
一旦
(
いつたん
)
帰順
(
きじゆん
)
を
粧
(
よそほ
)
ひし
021
売僧
(
まいす
)
坊主
(
ばうず
)
の
玄真
(
げんしん
)
は
022
ハルの
湖
(
みづうみ
)
横断
(
わうだん
)
し
023
スガの
港
(
みなと
)
の
富豪
(
ふうがう
)
と
024
世
(
よ
)
に
聞
(
きこ
)
えたる
薬屋
(
くすりや
)
の
025
娘
(
むすめ
)
ダリヤに
恋着
(
れんちやく
)
し
026
言葉
(
ことば
)
たくみに
誘惑
(
いうわく
)
し
027
タニグク
谷
(
だに
)
の
山奥
(
やまおく
)
に
028
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
のシヤカンナが
029
数多
(
あまた
)
の
手下
(
てした
)
を
従
(
したが
)
へて
030
籠
(
こも
)
りゐるよと
聞
(
き
)
くよりも
031
又
(
また
)
も
一旗
(
ひとはた
)
あげむとて
032
さも
鷹揚
(
おうやう
)
な
面付
(
つらつき
)
で
033
ダリヤの
手
(
て
)
をば
携
(
たづさ
)
へつ
034
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あ
)
かし
振舞
(
ふるまひ
)
の
035
酒
(
さけ
)
に
舌
(
した
)
をばもつらせつ
036
グツと
寝入
(
ねい
)
つた
其
(
その
)
隙
(
すき
)
に
037
ダリヤの
姫
(
ひめ
)
は
泥棒
(
どろばう
)
の
038
バルギーと
共
(
とも
)
に
踪跡
(
そうせき
)
を
039
晦
(
くら
)
ましたるぞ
可笑
(
をか
)
しけれ
040
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
と
誤魔化
(
ごまくわ
)
せる
041
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
矢
(
や
)
も
楯
(
たて
)
も
042
堪
(
たま
)
りかねてかシヤカンナの
043
二百
(
にひやく
)
の
部下
(
ぶか
)
を
借用
(
しやくよう
)
し
044
姫
(
ひめ
)
の
後
(
あと
)
をば
尋
(
たづ
)
ねむと
045
小才
(
こさい
)
の
利
(
き
)
いたコブライを
046
引具
(
ひきぐ
)
し
谷道
(
たにみち
)
トントンと
047
喘
(
あへ
)
ぎ
喘
(
あへ
)
ぎて
立岩
(
たていは
)
の
048
麓
(
ふもと
)
にズツポリ
日
(
ひ
)
は
暮
(
く
)
れぬ
049
闇
(
やみ
)
の
陥穽
(
かんせい
)
におち
入
(
い
)
りて
050
淋
(
さび
)
しき
一夜
(
いちや
)
を
送
(
おく
)
りつつ
051
藤
(
ふぢ
)
の
蔓
(
つる
)
をば
辿
(
たど
)
りつつ
052
漸
(
やうや
)
く
虎口
(
ここう
)
を
免
(
まぬが
)
れて
053
草
(
くさ
)
茫々
(
ばうばう
)
と
生
(
は
)
え
茂
(
しげ
)
る
054
羊腸
(
やうちやう
)
の
小径
(
こみち
)
を
辿
(
たど
)
りつつ
055
交尾期
(
さかり
)
の
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た
犬猫
(
いぬねこ
)
が
056
牝
(
めす
)
のお
尻
(
しり
)
を
嗅
(
か
)
ぐやうに
057
夢路
(
ゆめぢ
)
を
辿
(
たど
)
る
憐
(
あは
)
れさよ
058
暗
(
やみ
)
の
扉
(
とびら
)
は
上
(
あ
)
げられて
059
東
(
あづま
)
の
空
(
そら
)
は
茜
(
あかね
)
刺
(
さ
)
し
060
草葉
(
くさば
)
の
露
(
つゆ
)
はキラキラと
061
七宝
(
しつぽう
)
の
光
(
ひかり
)
輝
(
かがや
)
ける
062
その
真中
(
まんなか
)
を
二人
(
ふたり
)
連
(
づ
)
れ
063
ダリヤダリヤと
一筋
(
ひとすぢ
)
に
064
岩
(
いは
)
の
根
(
ね
)
木
(
き
)
の
根
(
ね
)
踏
(
ふ
)
みさくみ
065
汗
(
あせ
)
をタラタラ
流
(
なが
)
しつつ
066
苦
(
くるし
)
き
坂
(
さか
)
を
苦
(
く
)
にもせず
067
心
(
こころ
)
を
先
(
さき
)
に
上
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
068
天真坊
(
てんしんばう
)
『オイ、
069
もう
余程
(
よほど
)
テクツて
来
(
き
)
たやうだから、
070
一
(
ひと
)
つ
此
(
この
)
見晴
(
みは
)
らしのよい
処
(
ところ
)
で
暫時
(
ざんじ
)
休養
(
きうやう
)
しようぢやないか。
071
この
山頂
(
さんちやう
)
から
四方
(
よも
)
の
連山
(
れんざん
)
を
見渡
(
みわた
)
す
景色
(
けしき
)
と
云
(
い
)
つたら、
072
まるで
夢
(
ゆめ
)
の
国
(
くに
)
を
辿
(
たど
)
つてゐるやうだのう』
073
コブライ『
本当
(
ほんたう
)
に
夢
(
ゆめ
)
見
(
み
)
たやうですな、
074
昨夜
(
さくや
)
だつて、
075
ダリヤさまの
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
て
深
(
ふか
)
い
陥穽
(
おとしあな
)
へなだれ
込
(
こ
)
んだ
時
(
とき
)
なんざ、
076
ホントに
生
(
い
)
きた
心地
(
ここち
)
もなく、
077
これが
夢
(
ゆめ
)
だつたらなアと、
078
このやうに
思
(
おも
)
ひましたよ。
079
あの
時
(
とき
)
ア、
080
ホントに、
081
どうなる
事
(
こと
)
やらと、
082
チツト
許
(
ばか
)
り
心配
(
しんぱい
)
致
(
いた
)
しましたワイ』
083
天
(
てん
)
『
夢
(
ゆめ
)
の
建築者
(
けんちくしや
)
は
皆
(
みな
)
人間
(
にんげん
)
だからな、
084
夢
(
ゆめ
)
がなければ
人生
(
じんせい
)
は
淋
(
さび
)
しいものだ。
085
人生
(
じんせい
)
の
虹
(
にじ
)
は
夢
(
ゆめ
)
だからな、
086
かうして
夢想郷
(
むさうきやう
)
に
遊
(
あそ
)
んでゐる
間
(
ま
)
が
人間
(
にんげん
)
は
花
(
はな
)
だ。
087
春
(
はる
)
の
若葉
(
わかば
)
に
銀風
(
ぎんぷう
)
のそよぐ
如
(
ごと
)
きダリヤ
姫
(
ひめ
)
の
風情
(
ふぜい
)
、
088
見
(
み
)
るもスガスガしい
思
(
おも
)
ひがするぢやないか。
089
その
艶
(
あで
)
な
姿
(
すがた
)
にあこがれてゐる
間
(
ま
)
が、
090
人生
(
じんせい
)
の
花
(
はな
)
だ、
091
夢
(
ゆめ
)
の
建築
(
けんちく
)
だ、
092
人生
(
じんせい
)
の
虹
(
にじ
)
だ』
093
コ『
成程
(
なるほど
)
、
094
さうすると、
095
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
もサツパリ
夢
(
ゆめ
)
と
解
(
かい
)
すれば
可
(
い
)
いのですか』
096
天
(
てん
)
『
尤
(
もつと
)
もだ、
097
夢
(
ゆめ
)
の
浮世
(
うきよ
)
と
云
(
い
)
ふぢやないか、
098
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
夢
(
ゆめ
)
にも
忘
(
わす
)
れられないのは、
099
ヤツパリ、
100
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
だ。
101
夢
(
ゆめ
)
になりとも
会
(
あ
)
ひ
度
(
た
)
いものは
102
小判
(
こばん
)
千
(
せん
)
両
(
りやう
)
とダリヤ
姫
(
ひめ
)
103
だ、
104
アツハヽヽヽヽ』
105
コ『これ
丈
(
だ
)
け
四方
(
しはう
)
開展
(
かいてん
)
した
山
(
やま
)
の
上
(
うへ
)
で、
106
それ
丈
(
だ
)
けタツプリお
惚気
(
のろけ
)
を
拝聴
(
はいちやう
)
する
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は、
1061
実
(
じつ
)
に
光栄
(
くわうえい
)
でも
何
(
なん
)
でも、
107
ありませぬわい。
108
アツタ
109
ケツタ
糞
(
くそ
)
の
悪
(
わる
)
い
110
とも
何
(
なん
)
とも
申
(
まを
)
しませぬ、
111
さぞ
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
さま
等
(
たち
)
は
涎
(
よだれ
)
をくつて
貴方
(
あなた
)
の
清
(
きよ
)
いお
姿
(
すがた
)
を
拝顔
(
はいがん
)
してる
事
(
こと
)
でせう』
112
天
(
てん
)
『ウツフヽヽヽ
天下
(
てんか
)
の
幸福
(
かうふく
)
を
一身
(
いつしん
)
に
集
(
あつ
)
めて
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
、
113
天来
(
てんらい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
114
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
又
(
また
)
の
御
(
おん
)
名
(
な
)
天真坊
(
てんしんばう
)
様
(
さま
)
だもの、
115
泥棒
(
どろばう
)
仲間
(
なかま
)
の
貴様
(
きさま
)
とは、
116
チツト
許
(
ばか
)
りクラスが
違
(
ちが
)
ふのだからなア』
117
コ『ヘン、
118
ヒ、
119
ヒーンだ』
120
天
(
てん
)
『ヒ、
121
ヒーンとは
何
(
なん
)
だ、
122
まるで
馬
(
うま
)
のやうな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか』
123
コ『ヒ、
124
ヒーン、
125
ボトボト
馬
(
うま
)
の
糞
(
くそ
)
だ、
126
牛
(
うし
)
の
穴
(
けつ
)
の
天真坊
(
てんしんばう
)
さまとは、
127
いい
相棒
(
あいぼう
)
でせう、
128
イツヒヽヽヽヒ』
129
天
(
てん
)
『
何
(
なん
)
でもいいわ、
130
何処
(
どこ
)
かここらにダリヤの
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
いてゐさうなものだなア、
131
風
(
かぜ
)
が
持
(
も
)
てくるダリヤの
香気
(
かうき
)
が
鼻
(
はな
)
について、
132
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
床
(
ゆか
)
しみを
感
(
かん
)
ずるやうだ。
133
これから
先
(
さき
)
は、
134
ク
ダリヤ
阪
(
さか
)
だ、
135
足
(
あし
)
も
軽
(
かる
)
いだらうよ、
136
ウツフヽヽヽフ』
137
コ『モシモシ
電信棒
(
でんしんぼう
)
さま、
138
この
山道
(
やまみち
)
は
昔
(
むかし
)
から
有名
(
いうめい
)
な
腥草
(
なまぐさ
)
の
名所
(
めいしよ
)
で
139
秋
(
あき
)
になると
随分
(
ずいぶん
)
楽
(
たのし
)
い
旅
(
たび
)
が
出来
(
でき
)
ますよ。
140
泥棒稼
(
どろぼうかせ
)
ぎを
行
(
や
)
つて
居
(
ゐ
)
た
吾々
(
われわれ
)
同類
(
どうるゐ
)
も、
141
此
(
この
)
辺
(
へん
)
を
通過
(
つうくわ
)
する
時
(
とき
)
には
142
優美
(
いうび
)
なデリケートななま
臭
(
くさ
)
の
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふ
花
(
はな
)
を
見
(
み
)
て
143
悪徒
(
あくと
)
が
善人
(
ぜんにん
)
に
墜落
(
つゐらく
)
した
様
(
やう
)
な
心持
(
こころも
)
ちに
成
(
な
)
りましたよ』
144
玄
(
げん
)
『そりや
何
(
な
)
ンと
云
(
い
)
ふ
脱線振
(
だつせんぶり
)
だ。
145
俺
(
おれ
)
の
名
(
な
)
は
電信棒
(
でんしんぼう
)
ぢや
無
(
な
)
い、
146
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
天来
(
てんらい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
と
申
(
まを
)
すのだ。
147
天帝
(
てんてい
)
の
天
(
てん
)
の
一字
(
いちじ
)
と
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
真
(
しん
)
の
一字
(
いちじ
)
を
取
(
と
)
つて
天真坊
(
てんしんばう
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
148
そして
今
(
いま
)
お
前
(
まへ
)
は
腥臭
(
なまくさ
)
が
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふ
山道
(
やまみち
)
だと
云
(
い
)
つたが
149
夫
(
そ
)
れも
又
(
また
)
脱線
(
だつせん
)
だよ。
150
七草
(
ななくさ
)
と
云
(
い
)
ふて
151
秋
(
あき
)
の
日
(
ひ
)
の
景色
(
けしき
)
を
添
(
そ
)
へたり
種々
(
いろいろ
)
の
薬品
(
やくひん
)
になる
重宝
(
ちようはう
)
な
草花
(
くさばな
)
だ』
152
コ『
天真坊
(
てんしんばう
)
さま
153
コンナ
山道
(
やまみち
)
に
生
(
は
)
へる
草花
(
くさばな
)
が
薬
(
くすり
)
になると
仰有
(
おつしや
)
つたが、
154
一体
(
いつたい
)
全体
(
ぜんたい
)
何
(
なん
)
の
病
(
やまひ
)
に
利
(
き
)
きますかい。
155
惚
(
ほれ
)
薬
(
ぐすり
)
にでもなりませぬかな』
156
玄
(
げん
)
『
七草
(
ななくさ
)
と
云
(
い
)
へば
157
萩
(
はぎ
)
に
葛
(
くづ
)
に
尾花
(
をばな
)
に
撫子
(
なでしこ
)
に
女郎花
(
をみなへし
)
に
桔梗
(
ききやう
)
に
藤袴
(
ふぢばかま
)
、
158
これで
七種
(
なないろ
)
ある、
159
それ
故
(
ゆゑ
)
七草
(
ななくさ
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
160
秋
(
あき
)
の
山野
(
さんや
)
と
云
(
い
)
ふものは
極
(
きは
)
めて
詩的
(
してき
)
なもので、
161
懐
(
そぞ
)
ろに
哀愁
(
あいしう
)
の
念
(
ねん
)
を
感
(
かん
)
ずるものだ。
162
釣瓶落
(
つるべおと
)
しに
暮
(
く
)
れて
行
(
ゆ
)
く
夕日
(
ゆふひ
)
を
浴
(
あ
)
びた
路傍
(
ろばう
)
の
草花
(
くさばな
)
は
淋
(
さび
)
しき
秋
(
あき
)
の
名残
(
なご
)
りとし
163
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
を
傷
(
いた
)
ましめ
且
(
か
)
つ
慰
(
なぐさ
)
むるものだ。
164
薬用
(
やくよう
)
植物
(
しよくぶつ
)
としても
仲々
(
なかなか
)
の
効力
(
かうりよく
)
があるものだ』
165
コ『
萩
(
はぎ
)
は
何
(
なん
)
の
薬
(
くすり
)
になりますか』
166
玄
(
げん
)
『
萩
(
はぎ
)
は
秋
(
あき
)
の
七草
(
ななくさ
)
の
書出
(
かきだ
)
しで、
167
莢果
(
けふくわ
)
植物
(
しよくぶつ
)
亜属
(
あぞく
)
の
胡蝶
(
こてふ
)
花科
(
くわくわ
)
で、
168
一名
(
いちめい
)
荳科
(
とうくわ
)
植物
(
しよくぶつ
)
の
一種
(
いつしゆ
)
だ。
169
この
葉
(
は
)
を
摘
(
つ
)
んで
日光
(
につくわう
)
で
乾
(
かわ
)
かし
茶
(
ちや
)
の
代用品
(
だいようひん
)
とするのだ。
170
余
(
あま
)
り
興奮
(
こうふん
)
もせないので
小供
(
こども
)
や
老人
(
らうじん
)
の
飲料
(
いんれう
)
には
極
(
きは
)
めて
理想
(
りさう
)
的
(
てき
)
だ。
171
お
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
な
青春
(
せいしゆん
)
の
血
(
ち
)
に
燃
(
も
)
えて
居
(
ゐ
)
る
性悪
(
せいあく
)
男子
(
だんし
)
は、
172
平素
(
へいそ
)
情欲
(
じやうよく
)
鎮圧薬
(
ちんあつやく
)
として、
173
毎日
(
まいにち
)
服用
(
ふくよう
)
したが
可
(
よ
)
からうよ、
174
アハヽヽヽ』
175
コ『
天真
(
てんしん
)
さま、
176
貴方
(
あなた
)
チツト
服用
(
ふくよう
)
されたら
如何
(
どう
)
ですか。
177
眼
(
め
)
の
色
(
いろ
)
が
血走
(
ちばし
)
つて
居
(
ゐ
)
ますよ、
178
イヒヽヽヽ。
179
それから
葛
(
くづ
)
の
効能
(
かうのう
)
を
教
(
をし
)
へて
下
(
くだ
)
さいな』
180
天
(
てん
)
『
又
(
また
)
しても
葛々
(
くづくづ
)
と
訳
(
わけ
)
もない
質問
(
しつもん
)
を
発
(
はつ
)
する
奴
(
やつ
)
ぢやなア。
181
アタ
邪魔
(
じやま
)
臭
(
くさ
)
い、
182
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
とも
云
(
い
)
ふべき
天真坊
(
てんしんばう
)
さまが、
183
七草
(
ななくさ
)
位
(
ぐらゐ
)
の
説明
(
せつめい
)
が
出来
(
でき
)
ぬと
思
(
おも
)
はれちや、
184
神
(
かみ
)
の
威厳
(
ゐげん
)
にも
関
(
くわん
)
する
大問題
(
だいもんだい
)
だから、
185
チツト
許
(
ばか
)
り
解明
(
かいめい
)
の
労
(
らう
)
を
採
(
と
)
つてやらうかい、
186
アーン』
187
コ『
葛
(
くづ
)
の
解釈
(
かいしやく
)
ぐらゐにサウ
前置詞
(
ぜんちし
)
が
多
(
おほ
)
いのでは
実
(
じつ
)
に
閉口
(
へいこう
)
ですワイ。
188
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
後学
(
こうがく
)
の
為
(
ため
)
に
大切
(
たいせつ
)
な
耳
(
みみ
)
を
暫時
(
ざんじ
)
貸
(
か
)
しませうかい』
189
天
(
てん
)
『アハヽヽヽ
随分
(
ずいぶん
)
負惜
(
まけをし
)
みの
強
(
つよ
)
い
野郎
(
やらう
)
だなア。
190
抑
(
そもそも
)
葛
(
くづ
)
は
萩
(
はぎ
)
と
同
(
おな
)
じく
荳科
(
とうくわ
)
植物
(
しよくぶつ
)
の
一種
(
いつしゆ
)
で、
191
昔
(
むかし
)
から
葛根
(
くづね
)
と
云
(
い
)
つて
盛
(
さか
)
んに
漢方医
(
かんぱうい
)
の
山井
(
やまゐ
)
養仙
(
やうせん
)
などに
使用
(
しよう
)
されて
来
(
き
)
たものだ。
192
発汗剤
(
はつかんざい
)
、
193
下熱剤
(
げねつざい
)
として
使用
(
しよう
)
したり、
194
胃腸
(
ゐちやう
)
の
粘滑剤
(
ねんくわつざい
)
として
使用
(
しよう
)
し、
195
又
(
また
)
は
諸薬
(
しよやく
)
の
配剤
(
はいざい
)
として
調法
(
てうはふ
)
なものだ。
196
葛
(
くづ
)
は
葛根
(
くづね
)
より
搾取
(
さくしゆ
)
したもので
最上等
(
さいじやうとう
)
の
澱粉
(
でんぷん
)
だ。
197
色々
(
いろいろ
)
の
料理
(
れうり
)
や、
198
夏季
(
かき
)
に
於
(
お
)
ける
汗打粉
(
あせうちこ
)
としての
材料
(
ざいれう
)
となる。
199
それだから
美人
(
びじん
)
には
無
(
な
)
くてならない
好植物
(
かうしよくぶつ
)
だ』
200
コ『
又
(
また
)
しても
美人
(
びじん
)
が
曳
(
ひ
)
き
合
(
あ
)
ひに
出
(
で
)
ましたな。
201
一層
(
いつそう
)
のこと
葛
(
くづ
)
を
澱粉
(
でんぷん
)
に
製造
(
せいざう
)
して、
202
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
女帝
(
によてい
)
の
土産物
(
みやげもの
)
となし、
203
その
歓心
(
くわんしん
)
を
買
(
か
)
つたら
如何
(
どう
)
でせう。
204
これが
女帝
(
によてい
)
の
心
(
こころ
)
を
動
(
うご
)
かす
唯一
(
ゆゐいつ
)
無二
(
むに
)
の
秘策
(
ひさく
)
でせう、
205
エヘヽヽヽ』
206
天
(
てん
)
『クヅクヅ
云
(
い
)
ふな。
207
サア
是
(
これ
)
から
一
(
ひと
)
ツいやらしい
奴
(
やつ
)
を
説明
(
せつめい
)
してやらう。
208
幽霊
(
いうれい
)
に
因縁
(
いんねん
)
の
深
(
ふか
)
い
尾花
(
をばな
)
だ。
209
……
幽霊
(
いうれい
)
の
正体
(
しやうたい
)
見
(
み
)
たり
枯尾花
(
かれをばな
)
……と
云
(
い
)
つて
随分
(
ずいぶん
)
ゾツとする
代物
(
しろもの
)
だ。
210
直
(
ただ
)
ちに
石塔
(
せきたふ
)
の
裏
(
うら
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
す
奴
(
やつ
)
だ、
211
アハヽヽヽ』
212
コ『エヽ
天真
(
てんしん
)
さま、
213
モウ
止
(
や
)
めて
下
(
くだ
)
さい。
214
こんな
山道
(
やまみち
)
で
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
いぢやありませぬか。
215
ヒユードロドロと
化
(
ば
)
けて
出
(
で
)
られちや
堪
(
たま
)
りませぬわ。
216
モツト
真面目
(
まじめ
)
に
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
217
天
(
てん
)
『ヨシヨシ
俺
(
おれ
)
も
余
(
あま
)
り
心持
(
こころもち
)
が
良
(
よ
)
くないのだ。
218
尾花
(
をばな
)
は
禾本科
(
くわほんくわ
)
植物
(
しよくぶつ
)
で、
219
こいつの
穂
(
ほ
)
を
集
(
あつ
)
め、
220
日光
(
につくわう
)
で
乾燥
(
かんさう
)
すると
立派
(
りつぱ
)
な
綿
(
わた
)
の
様
(
やう
)
なものが
出来
(
でき
)
る。
221
この
綿
(
わた
)
は
軽
(
かる
)
い
擦過傷
(
さつくわしやう
)
や、
222
切傷
(
きりきず
)
の
口
(
くち
)
にふりかけると
血止
(
ちど
)
め
薬
(
ぐすり
)
になる。
223
夜具
(
やぐ
)
にでも
使用
(
しよう
)
すると
軽
(
かる
)
くて
暖
(
あたた
)
かくて
大変
(
たいへん
)
に
工合
(
ぐあひ
)
の
良
(
よ
)
いものだ』
224
コ『ダリヤ
姫
(
ひめ
)
さまとの
結婚式
(
けつこんしき
)
に
御
(
ご
)
使用
(
しよう
)
になるお
考
(
かんが
)
へですか、
225
エヘヽヽヽ』
226
天
(
てん
)
『エヽ
一
(
ひと
)
ツ
一
(
ひと
)
ツ
何
(
なん
)
とか
彼
(
か
)
とか
云
(
い
)
つてダリヤ
姫
(
ひめ
)
に
喰付
(
くつつ
)
けようと
致
(
いた
)
すのだなア』
227
コ『ヘンお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りませぬかな、
228
夫
(
そ
)
れよりもモツトモツト
優美
(
いうび
)
な
撫子
(
なでしこ
)
の
説明
(
せつめい
)
をして
下
(
くだ
)
はいな、
229
一寸
(
ちよつと
)
撫子
(
なでしこ
)
なんて
乙
(
おつ
)
な
名前
(
なまへ
)
でせう』
230
天
(
てん
)
『エヘン、
231
撫子
(
なでしこ
)
は
石竹科
(
せきちくくわ
)
の
一種
(
いつしゆ
)
で、
232
日光
(
につくわう
)
に
全草
(
ぜんさう
)
を
乾燥
(
かんさう
)
させ、
233
一
(
いち
)
日
(
にち
)
に
四五匁
(
しごもんめ
)
ばかりを
煎
(
せん
)
じて
利尿剤
(
りねうざい
)
となし、
234
第一
(
だいいち
)
腎臓病
(
じんざうびやう
)
、
235
脚気
(
かつけ
)
、
236
水腫
(
みづばれ
)
なぞの
他
(
ほか
)
の
難病
(
なんびやう
)
に
用
(
もち
)
ゆると
特効
(
とくかう
)
が
顕
(
あら
)
はれるものだ』
237
コ『いやはや
感心
(
かんしん
)
々々
(
かんしん
)
238
大
(
おほい
)
に
感心
(
かんしん
)
致
(
いた
)
しました。
239
今度
(
こんど
)
は
最
(
もつと
)
も
粋
(
すゐ
)
な
名
(
な
)
の
付
(
つ
)
いた
女郎花
(
をみなへし
)
の
効能
(
かうのう
)
の
説明
(
せつめい
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
240
天
(
てん
)
『
女郎花
(
をみなへし
)
は
茜草
(
せんさう
)
植物
(
しよくぶつ
)
亜属
(
あぞく
)
の
敗醤科
(
はいしやうくわ
)
の
一種
(
いつしゆ
)
で、
241
其
(
その
)
根
(
ね
)
を
秋季
(
しうき
)
に
採取
(
さいしゆ
)
し
水
(
みづ
)
に
能
(
よ
)
く
洗
(
あら
)
ひ、
242
日光
(
につくわう
)
に
乾
(
かわ
)
かして
貯
(
たくは
)
へておき、
243
用
(
よう
)
に
臨
(
のぞ
)
んで
一
(
いち
)
日
(
にち
)
に
四五匁
(
しごもんめ
)
許
(
ばか
)
りを
煎
(
せん
)
じて
服用
(
のむ
)
と、
244
婦人
(
ふじん
)
の
血
(
ち
)
の
道
(
みち
)
の
順血薬
(
じゆんけつやく
)
として
特効
(
とくかう
)
ありと
云
(
い
)
ふことだ。
245
婦人
(
ふじん
)
に
趣味
(
しゆみ
)
を
持
(
も
)
つ
男子
(
だんし
)
は
246
如何
(
どう
)
しても
女郎花
(
をみなへし
)
許
(
ばか
)
りは
気
(
き
)
をつけて
平素
(
へいそ
)
から
用意
(
ようい
)
しておく
可
(
べ
)
きものだ、
247
アハヽヽヽ』
248
コ『エヘヽヽヽ
流石
(
さすが
)
は
女殺
(
をんなごろ
)
しの
後家
(
ごけ
)
欺
(
だま
)
しの
天真坊
(
てんしんばう
)
さま、
249
何事
(
なにごと
)
にも
抜目
(
ぬけめ
)
はありませぬな。
250
益々
(
ますます
)
このコブライ
奴
(
め
)
感珍
(
かんちん
)
致
(
いた
)
しましたわい。
251
サア
是
(
これ
)
から
桔梗
(
ききやう
)
の
効能
(
かうのう
)
を
説明
(
せつめい
)
して
頂
(
いただ
)
きませう』
252
天
(
てん
)
『
桔梗
(
ききやう
)
は
桔梗科
(
ききやうくわ
)
の
植物
(
しよくぶつ
)
で、
253
その
根
(
ね
)
を
秋季
(
しうき
)
に
掘
(
ほ
)
り
日光
(
につくわう
)
に
乾燥
(
かんさう
)
したものを
桔梗根
(
ききやうね
)
と
云
(
い
)
ふ。
254
風邪
(
かぜ
)
の
時
(
とき
)
、
255
鎮咳
(
ちんがい
)
去痰薬
(
きよたんやく
)
として
用
(
もち
)
ゆると
効
(
かう
)
がある。
256
一
(
いち
)
日
(
にち
)
に
四五匁
(
しごもんめ
)
を
水
(
みづ
)
に
煎
(
せん
)
じて
飲
(
の
)
むと
良
(
よ
)
い、
257
エヘン。
258
血液
(
けつえき
)
を
溶解
(
ようかい
)
するサボニンが
含
(
ふく
)
まれて
居
(
ゐ
)
るのだ。
259
その
根
(
ね
)
から
近時
(
きんじ
)
フストールやヱバニンと
云
(
い
)
ふ
新薬
(
しんやく
)
が
製造
(
せいざう
)
されるのだ。
260
序
(
ついで
)
に
藤袴
(
ふぢばかま
)
も
説明
(
せつめい
)
しておくが、
261
是
(
これ
)
は
菊科
(
きくくわ
)
植物
(
しよくぶつ
)
の
一種
(
いつしゆ
)
で、
262
この
葉
(
は
)
を
日光
(
につくわう
)
に
乾燥
(
かんさう
)
して
煎
(
せん
)
じて
飲
(
の
)
めば、
263
撫子
(
なでしこ
)
と
同
(
おな
)
じく
利尿剤
(
りねうざい
)
として
効能
(
かうのう
)
があるのだ。
264
貴様
(
きさま
)
の
如
(
や
)
うな
痳病
(
りんびやう
)
の
問屋
(
とひや
)
さまは
秋
(
あき
)
が
来
(
きた
)
ら
忘
(
わす
)
れずに
採取
(
さいしゆ
)
しておくが
可
(
よ
)
からうよ、
265
アハヽヽヽ』
266
コ『ウフヽヽヽ、
267
小便
(
せうべん
)
のタンク
奴
(
め
)
破裂
(
はれつ
)
しさうだ。
268
天真
(
てんしん
)
さま、
269
御免
(
ごめん
)
下
(
くだ
)
さい』
270
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
271
オチコを
立
(
た
)
ててジヤアジヤアと
行
(
や
)
り
出
(
だ
)
した。
272
二人
(
ふたり
)
は
漸
(
やうや
)
く
下
(
くだ
)
り
阪
(
ざか
)
となつたので
足許
(
あしもと
)
も
速
(
はや
)
く、
273
やや
展開
(
てんかい
)
した
野村
(
のむら
)
へ
出
(
で
)
た。
274
此処
(
ここ
)
には
二三十
(
にさんじつ
)
戸
(
こ
)
の
百姓家
(
ひやくしやうや
)
が
淋
(
さび
)
しげに
立
(
た
)
つてゐる。
275
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
腕白
(
わんぱく
)
小僧
(
こぞう
)
が
小川
(
をがは
)
に
竿
(
さを
)
を
垂
(
た
)
れ
小魚
(
さな
)
を
釣
(
つ
)
り
乍
(
なが
)
ら
歌
(
うた
)
つてゐる。
276
『
水
(
みづ
)
はサラサラ
野
(
の
)
は
青
(
あを
)
い
277
長
(
なが
)
い
堤
(
つつみ
)
の
木
(
き
)
の
影
(
かげ
)
で
今日
(
けふ
)
は
朝
(
あさ
)
から
小魚
(
こうを
)
釣
(
つ
)
り
278
晴
(
は
)
れた
空
(
そら
)
には
何処
(
どこ
)
やらで
雲雀
(
ひばり
)
でも
鳴
(
な
)
いてゐるやうな
279
時
(
とき
)
折
(
をり
)
聞
(
きこ
)
える
眠
(
ねむ
)
さうな
牛
(
うし
)
の
呻
(
うめ
)
きも
午后
(
うまさがり
)
280
○
281
流
(
なが
)
れサラサラ
野
(
の
)
は
青
(
あを
)
い
282
つれない
竿
(
さを
)
を
投
(
な
)
げ
出
(
だ
)
して
283
眺
(
なが
)
めてゐれば
水
(
みづ
)
すまし
水
(
みづ
)
をすまして
舞
(
ま
)
ふばかり』
284
そこへ
天真坊
(
てんしんばう
)
が
頭
(
あたま
)
をテカテカ
日光
(
につくわう
)
に
輝
(
かがや
)
かし
乍
(
なが
)
らコブライを
従
(
したが
)
へやつて
来
(
く
)
ると、
285
腕白
(
わんぱく
)
小僧
(
こぞう
)
は
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく、
286
頭
(
あたま
)
の
光
(
ひか
)
つてるのを
怪
(
あや
)
しみ
乍
(
なが
)
ら
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
287
『モシモシ
禿
(
はげ
)
よ
禿
(
はげ
)
さんよ
世界
(
せかい
)
の
中
(
うち
)
でお
前
(
まへ
)
ほど
288
光
(
ひかり
)
の
薄
(
うす
)
いものはない どうしてそんなに
暗
(
くら
)
いのか
289
○
290
ナーンと
仰有
(
おつしや
)
る
電気
(
でんき
)
さん そんならお
前
(
まへ
)
と
光
(
ひか
)
りつこ
291
向
(
むか
)
ふの
小山
(
こやま
)
に
太陽
(
ひ
)
が
出
(
で
)
たら どちらがよけいにピカつくか
292
○
293
どんなに
禿
(
はげ
)
をみがいても どうで
僕
(
ぼく
)
より
暗
(
くら
)
いだろ
294
ここらで
一寸
(
ちよつと
)
一休
(
ひとやす
)
み ブラブラブラブラ ブーラブラ
295
○
296
これはしまつた
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けた ピカピカピカピカ ピーカピカ
297
あんまり
暗
(
くら
)
い
電気
(
でんき
)
さん サツキの
自慢
(
じまん
)
はどうしたね』
298
天真坊
(
てんしんばう
)
は
此
(
この
)
歌
(
うた
)
を
聞
(
き
)
いて、
299
ヤヤ
悄気
(
しよげ
)
気味
(
ぎみ
)
になり、
300
錫杖
(
しやくぢやう
)
をガチヤン ガチヤンと、
301
ワザとに
手荒
(
てあら
)
くゆり
乍
(
なが
)
ら、
302
『コーラ、
303
我太郎
(
がたらう
)
、
304
今
(
いま
)
云
(
い
)
つたこと、
305
ま
一度
(
いちど
)
云
(
い
)
つて
見
(
み
)
い、
306
場合
(
ばあひ
)
によつては
承知
(
しようち
)
せないぞ。
307
餓鬼
(
がき
)
大将
(
だいしやう
)
奴
(
め
)
が』
308
小供
(
こども
)
『アツハヽヽヽ、
309
オイ
坊主
(
ばうず
)
、
310
此
(
この
)
村
(
むら
)
はなア、
311
昔
(
むかし
)
から
三五教
(
あななひけう
)
の
占有地
(
せんいうち
)
だ、
312
そんな
怪体
(
けつたい
)
な
風
(
ふう
)
をした
化物
(
ばけもの
)
は
一寸
(
ちよつと
)
も
入
(
い
)
れる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないのだよ。
313
どつかへ
早
(
はや
)
く
姿
(
すがた
)
をかくさないと
線香
(
せんかう
)
を
立
(
た
)
てるぞ』
314
天
(
てん
)
『チエ、
315
青大将
(
あをだいしやう
)
が
座敷
(
ざしき
)
へ
這入
(
はい
)
り
込
(
こ
)
んだやうな
事
(
こと
)
ぬかしやがる、
316
小供
(
こども
)
だつて
油断
(
ゆだん
)
のならぬものだ。
317
小供
(
こども
)
、
318
オイ、
319
坊主
(
ばうず
)
、
320
ここを
美
(
うつく
)
しい
女
(
をんな
)
が、
321
通
(
とほ
)
らなかつたかのう』
322
子供
(
こども
)
『
通
(
とほ
)
つたよ。
323
一人
(
ひとり
)
の
奴
(
やつこ
)
さんを
連
(
つ
)
れて、
324
互
(
たがひ
)
に
背中
(
せなか
)
を
叩
(
たた
)
いたり、
325
頬辺
(
ほほべた
)
をつめつたり、
326
イチヤつきもつて、
327
ツイ
今
(
いま
)
先
(
さ
)
き、
328
ここを
通
(
とほ
)
りよつた
筈
(
はず
)
だ。
329
俺
(
おれ
)
を
今
(
いま
)
、
330
坊主
(
ばうず
)
と
云
(
い
)
つたが
俺
(
おれ
)
ヤ
坊主
(
ばうず
)
ぢやないよ、
331
お
前
(
まへ
)
こそ
坊主
(
ばうず
)
ぢやないか。
332
俺
(
おれ
)
はなア
神谷村
(
かみたにむら
)
の
庄屋
(
しやうや
)
の
息子
(
むすこ
)
で、
333
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
と
云
(
い
)
ふ
神童
(
しんどう
)
だ。
334
世界
(
せかい
)
の
事
(
こと
)
なら
何
(
なん
)
でも
俺
(
おれ
)
に
聞
(
き
)
いて
見
(
み
)
よ。
335
何
(
なん
)
でも
彼
(
かん
)
でも
掌
(
たなごころ
)
を
指
(
さ
)
す
如
(
ごと
)
くに
知
(
し
)
らしてやるよ。
336
お
前
(
まへ
)
はオーラ
山
(
さん
)
に
立籠
(
たてこも
)
つて
大山子
(
おほやまこ
)
をやつてゐた
玄真坊
(
げんしんばう
)
のなれの
果
(
はて
)
だらうがな。
337
スガの
港
(
みなと
)
のダリヤ
姫
(
ひめ
)
に
恋着
(
れんちやく
)
し、
338
うまく
誤魔化
(
ごまくわ
)
してタニグク
山
(
やま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
につれ
込
(
こ
)
み、
339
寝
(
ね
)
てゐる
間
(
ま
)
に
顔
(
かほ
)
を
草紙
(
さうし
)
にされ、
340
トカゲ
面
(
づら
)
の
男
(
をとこ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
逃
(
に
)
げられて
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
き、
341
昨夜
(
さくや
)
は
立岩
(
たていは
)
の
側
(
そば
)
で
人造
(
じんざう
)
化物
(
ばけもの
)
に
誑
(
たぶらか
)
され、
342
深
(
ふか
)
い
陥穽
(
おとしあな
)
へおち
込
(
こ
)
んで
向
(
むかふ
)
脛
(
ずね
)
をすりむき
343
泣
(
な
)
き
泣
(
な
)
き
山上
(
さんじやう
)
迄
(
まで
)
辿
(
たど
)
りつき、
344
七草
(
ななくさ
)
の
講釈
(
かうしやく
)
を
豪
(
えら
)
相
(
さう
)
におつ
初
(
ぱじ
)
め、
345
それから、
346
ここ
迄
(
まで
)
ダリヤの
後
(
あと
)
をおつてやつて
来
(
き
)
たのだらう。
347
どうだ
違
(
ちが
)
ふかな』
348
天
(
てん
)
『ウンー、
349
いかにも、
350
お
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
351
俺
(
おれ
)
の
聞
(
き
)
く
通
(
とほ
)
り、
352
森
(
もり
)
で
烏
(
からす
)
の
鳴
(
な
)
く
通
(
とほ
)
り、
353
受取
(
うけとり
)
は
右
(
みぎ
)
の
通
(
とほ
)
り、
354
その
通
(
とほ
)
りだ、
355
アツハヽヽヽ』
356
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
『オイ、
357
禿
(
はげ
)
チヤン、
358
もう
諦
(
あきら
)
めたがよからうぞ。
359
ダリヤ
姫
(
ひめ
)
なんて、
360
お
前
(
まへ
)
の
性
(
しやう
)
に
適
(
あ
)
はないや。
361
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
に
改心
(
かいしん
)
して
俺
(
おれ
)
の
尻拭
(
しりふき
)
になれ、
362
さうすりや
又
(
また
)
浮
(
うか
)
ぶ
瀬
(
せ
)
もあらうぞ。
363
いつ
迄
(
まで
)
も
悪業
(
あくごふ
)
をつづけてゐると
364
八万
(
はちまん
)
地獄
(
ぢごく
)
の
釜
(
かま
)
の
焦
(
こげ
)
おこしに
落
(
おと
)
されて
了
(
しま
)
ふぞ』
365
天
(
てん
)
『オイ
子供
(
こども
)
、
366
そのダリヤ
姫
(
ひめ
)
は、
367
お
前
(
まへ
)
の
家
(
うち
)
にかくしてあるのと
違
(
ちが
)
ふか』
368
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
『ウン、
369
隠
(
かく
)
してある、
370
確
(
たしか
)
に、
371
かくまつてあるのだ』
372
天
(
てん
)
『そりや、
373
どこに
隠
(
かく
)
してあるのだ。
374
一寸
(
ちよつと
)
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
へまいかな』
375
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
『バカを
云
(
い
)
ふない、
376
かくしたものを
云
(
い
)
ふ
阿呆
(
あはう
)
があるかい。
377
隠
(
かく
)
した
以上
(
いじやう
)
は、
378
どこ
迄
(
まで
)
もかくすのが
本当
(
ほんたう
)
だ』
379
コブライ『もしもし
天真坊
(
てんしんばう
)
さま、
380
この
子供
(
こども
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
見
(
み
)
たやうな
子供
(
こども
)
ですな。
381
貴方
(
あなた
)
ももういい
加減
(
かげん
)
に
兜
(
かぶと
)
を
脱
(
ぬ
)
いだらどうですか。
382
ダリヤさまを
諦
(
あきら
)
めては
如何
(
どう
)
ですか。
383
貴方
(
あなた
)
の
額
(
ひたひ
)
には
悪相
(
あくさう
)
が
現
(
あら
)
はれてゐますがな、
384
改心
(
かいしん
)
するのは
今
(
いま
)
の
時
(
とき
)
ですよ。
385
私
(
わたし
)
はここ
迄
(
まで
)
ついて
来
(
き
)
ましたが、
386
貴方
(
あなた
)
が
改心
(
かいしん
)
するとせないとに
拘
(
かかは
)
らず、
387
もう
此処
(
ここ
)
でお
暇
(
ひま
)
を
貰
(
もら
)
つて
此
(
こ
)
の
神
(
かみ
)
さまのやうな
子供
(
こども
)
にお
尻拭
(
しりふき
)
にでも
使
(
つか
)
つて
貰
(
もら
)
ひますよ』
388
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
『
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
は
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
ふる
清
(
きよ
)
きもの
389
誰
(
たれ
)
が
泥棒
(
どろばう
)
に
尻
(
しり
)
を
拭
(
ふ
)
かすか』
390
コブライ『これはしたり
失礼
(
しつれい
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひました
391
泥棒
(
どろばう
)
の
身
(
み
)
をも
弁
(
わきま
)
へずして』
392
天
(
てん
)
『
小賢
(
こざか
)
しく
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
らしく
申
(
まを
)
すとも
393
天真坊
(
てんしんばう
)
にはトテも
敵
(
かな
)
ふまい。
394
それよりもダリヤの
姫
(
ひめ
)
の
在所
(
ありか
)
をば
395
早
(
はや
)
く
知
(
し
)
らせよお
銭
(
かね
)
やるから』
396
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
『
尻
(
けつ
)
喰
(
くら
)
へ
観音
(
くわんおん
)
さまの
化身
(
けしん
)
ぞや
397
嘘
(
うそ
)
をこくなよ
玄真
(
げんしん
)
の
枉
(
まが
)
』
398
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
399
プスツと
象
(
ざう
)
が
屁
(
へ
)
をこいたやうな
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
て
白
(
しろ
)
い
煙
(
けむり
)
となつて
了
(
しま
)
つた。
400
つれの
子供
(
こども
)
も
影
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
もなくなつて
了
(
しま
)
つた。
401
(
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