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特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
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第71巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 追僧軽迫
01 追劇
〔1790〕
02 生臭坊
〔1791〕
03 門外漢
〔1792〕
04 琴の綾
〔1793〕
05 転盗
〔1794〕
06 達引
〔1795〕
07 夢の道
〔1796〕
第2篇 迷想痴色
08 夢遊怪
〔1797〕
09 踏違ひ
〔1798〕
10 荒添
〔1799〕
11 異志仏
〔1800〕
12 泥壁
〔1801〕
13 詰腹
〔1802〕
14 障路
〔1803〕
15 紺霊
〔1804〕
第3篇 惨嫁僧目
16 妖魅返
〔1805〕
17 夢現神
〔1806〕
18 金妻
〔1807〕
19 角兵衛獅子
〔1808〕
20 困客
〔1809〕
余白歌
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第一六章
妖魅
(
よみ
)
返
(
がへり
)
〔一八〇五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
篇:
第3篇 惨嫁僧目
よみ(新仮名遣い):
さんかそうもく
章:
第16章 妖魅返
よみ(新仮名遣い):
よみがえり
通し章番号:
1805
口述日:
1926(大正15)年02月01日(旧12月19日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年2月1日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玄真坊、コブライ、コオロの3人は、淵に流れ着いたときに漁をしていた首陀たちに引き上げられ、弔われようとしていたのだった。
そこへやってきた千草の高姫が、3人を蘇生させて従者にしようと、ウラナイ教の神に一生懸命祈願をするが、何も起きない。最後に我を折って三五教の大神に祈願したところ、ようやく息を吹き返した。
高姫は玄真坊と偽の夫婦となって一仕事しようともちかける。玄真坊は幽冥界での戒めも忘れて、またもや色欲を出すが、高姫は相手にしない。
高姫は3人が一文無しと聞いて、愛想をつかして去ろうとするが、コブライ・コオロが黄金を掘り出す。
それを見て高姫は態度をがらっと変える。そして、コブライとコオロに、ダイヤモンドがあるからといって、さらに穴を掘らせる。
玄真坊と高姫は、いきなりコブライとコオロの上から土をかけて生き埋めにし、黄金を奪って行ってしまう。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7116
愛善世界社版:
213頁
八幡書店版:
第12輯 578頁
修補版:
校定版:
223頁
普及版:
104頁
初版:
ページ備考:
001
タラハン
城市
(
じやうし
)
を
西
(
にし
)
へ
距
(
さ
)
る
三十
(
さんじふ
)
里
(
り
)
許
(
ばか
)
りの
所
(
ところ
)
に
岩滝村
(
いはたきむら
)
と
云
(
い
)
ふ
小部落
(
せうぶらく
)
がある。
002
此所
(
ここ
)
には
魚ケ淵
(
うをがふち
)
と
云
(
い
)
つて、
003
蒼
(
あを
)
み
立
(
だ
)
つた
可
(
か
)
なり
広
(
ひろ
)
い
水溜
(
みづたまり
)
があり、
004
沢山
(
たくさん
)
な
魚
(
うを
)
が
四季
(
しき
)
共
(
とも
)
に
集中
(
しふちう
)
してゐる。
005
印度
(
いんど
)
の
国
(
くに
)
の
風習
(
ふうしふ
)
として
妄
(
みだり
)
に
生物
(
いきもの
)
を
食
(
く
)
はないので、
006
魚類
(
ぎよるゐ
)
は
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
に
繁殖
(
はんしよく
)
する
許
(
ばか
)
りであつた。
007
水
(
みづ
)
一升
(
いつしよう
)
魚
(
うを
)
一升
(
いつしよう
)
と
称
(
とな
)
へらるる
此
(
この
)
魚ケ淵
(
うをがふち
)
へ
時々
(
ときどき
)
漁
(
れう
)
に
行
(
ゆ
)
く
首陀
(
しゆだ
)
があつた。
008
浄行
(
じやうぎやう
)
や
刹帝利
(
せつていり
)
や
毘舎
(
びしや
)
等
(
など
)
は
決
(
けつ
)
して
魚
(
うを
)
を
漁
(
と
)
つたり、
009
殺生
(
せつしやう
)
等
(
など
)
はやらないが、
010
首陀
(
しゆだ
)
となると、
0101
身分
(
みぶん
)
が
低
(
ひく
)
い
為
(
ため
)
011
殆
(
ほと
)
んど
人間扱
(
にんげんあつかひ
)
をされてゐないので、
012
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
殺生
(
せつしやう
)
をしても
神仏
(
しんぶつ
)
の
咎
(
とがめ
)
は
無
(
な
)
いといふ
信念
(
しんねん
)
が
一般
(
いつぱん
)
に
伝
(
つた
)
はつてゐた。
013
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
浄行
(
じやうぎやう
)
、
014
刹帝利
(
せつていり
)
、
015
毘舎
(
びしや
)
と
雖
(
いへども
)
、
016
生
(
い
)
きた
者
(
もの
)
を
食
(
く
)
はない
許
(
ばか
)
りで
017
店舗
(
てんぽ
)
に
売
(
う
)
つてゐる
魚
(
うを
)
ならば
代価
(
だいか
)
を
払
(
はら
)
つて
買求
(
かひもと
)
め、
018
之
(
これ
)
を
食膳
(
しよくぜん
)
にのぼす
事
(
こと
)
は
別
(
べつ
)
に
殺生
(
せつしやう
)
とも
感
(
かん
)
じてゐないのである。
019
夏木
(
なつき
)
茂
(
しげ
)
れる
川縁
(
かはべり
)
の
木蔭
(
こかげ
)
に
腰
(
こし
)
打
(
うち
)
かけ
雑談
(
ざつだん
)
に
耽
(
ふけ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
020
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
首陀
(
しゆだ
)
が
魚漁
(
うをとり
)
の
用意
(
ようい
)
をやつてゐると、
021
淵
(
ふち
)
へ
舞込
(
まひこ
)
んで
来
(
き
)
た
三
(
みつ
)
つのコルブスがあつた。
022
首陀
(
しゆだ
)
は
先
(
ま
)
づ
岩上
(
がんじやう
)
から
此
(
この
)
コルブスに
向
(
むか
)
つて
網
(
あみ
)
を
打
(
う
)
ちかけ、
023
漸
(
やうや
)
くにして
道傍
(
みちばた
)
に
拾
(
ひろ
)
ひ
上
(
あ
)
げてみた
処
(
ところ
)
、
024
一人
(
ひとり
)
はどうしても
修験者
(
しゆげんじや
)
の
果
(
はて
)
らしく、
025
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
は
何処
(
どこ
)
共
(
とも
)
なしに
泥棒
(
どろばう
)
らしい
面相
(
めんさう
)
をしてゐるので、
026
古寺
(
ふるでら
)
の
坊主
(
ばうず
)
を
呼
(
よ
)
び
葬式
(
さうしき
)
をすることとなつた。
027
泥棒
(
どろばう
)
なんかは
其
(
その
)
死骸
(
しがい
)
を
虎狼
(
こらう
)
の
餌食
(
ゑじき
)
に
任
(
まか
)
して
省
(
かへり
)
みないが
028
修験者
(
しゆげんじや
)
となれば
何
(
ど
)
うしても
捨
(
す
)
てて
置
(
お
)
く
訳
(
わけ
)
には
行
(
い
)
かぬと
云
(
い
)
ふので、
029
珠露海
(
しゆろかい
)
といふ
吉凶
(
きつきよう
)
禍福
(
くわふく
)
や
卜筮
(
ぼくぜい
)
等
(
など
)
を
記
(
しる
)
した
経文
(
きやうもん
)
の
記事
(
きじ
)
を
案
(
あん
)
じて、
030
五行葬
(
ごぎやうさう
)
の
何
(
いづ
)
れに
為
(
な
)
さむかとやつてみた
処
(
ところ
)
031
此
(
この
)
修験者
(
しゆげんじや
)
は
何
(
ど
)
うしても
土葬
(
どさう
)
にせにやならぬ
032
と
云
(
い
)
ふ
占
(
うらなひ
)
が
出
(
で
)
たので、
033
村人
(
むらびと
)
が
寄
(
よ
)
つて
掛
(
かか
)
つて、
034
体
(
からだ
)
を
其
(
その
)
儘
(
まま
)
土
(
つち
)
の
中
(
なか
)
へ
埋
(
い
)
け、
035
印
(
しるし
)
を
立
(
た
)
てる
代
(
かは
)
りに
耳
(
みみ
)
から
上
(
うへ
)
面
(
かほ
)
を
出
(
だ
)
して
置
(
お
)
いたのである。
036
五行葬
(
ごぎやうさう
)
の
中
(
なか
)
には
野葬
(
やさう
)
、
037
木葬
(
もくさう
)
、
038
火葬
(
くわさう
)
、
039
土葬
(
どさう
)
、
040
水葬
(
すいさう
)
と
云
(
い
)
ふ
五
(
いつ
)
つの
葬式法
(
さうしきはふ
)
がある。
041
そして
木葬
(
もくさう
)
と
云
(
い
)
ふのは、
042
コルブスを
木
(
き
)
の
上
(
うへ
)
に
掛
(
か
)
けて
置
(
お
)
き、
043
風
(
かぜ
)
に
晒
(
さら
)
す
葬式法
(
さうしきはふ
)
である。
044
此
(
この
)
珠露海
(
しゆろかい
)
の
卜筮
(
ぼくぜい
)
にかからない
者
(
もの
)
は
神
(
かみ
)
の
冥護
(
めいご
)
のない
者
(
もの
)
として
045
死屍
(
しかばね
)
を
路傍
(
ろばう
)
に
捨
(
す
)
てて
置
(
お
)
く
事
(
こと
)
になつてゐた。
046
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
四十
(
しじふ
)
前後
(
ぜんご
)
の
美人
(
びじん
)
が
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
近
(
ちか
)
より
来
(
きた
)
り、
047
路傍
(
ろばう
)
に
遺棄
(
ゐき
)
してある
二
(
ふた
)
つの
死骸
(
しがい
)
を
眺
(
なが
)
め
乍
(
なが
)
ら、
048
女
(
をんな
)
『あ、
049
何処
(
どこ
)
の
何人
(
なにびと
)
か
知
(
し
)
らぬが
可哀相
(
かあいさう
)
に、
050
コラ、
051
土佐衛門
(
どざゑもん
)
になつた
処
(
ところ
)
を
誰
(
たれ
)
かに
引
(
ひ
)
き
上
(
あ
)
げられたのだらう、
052
まだ
着物
(
きもの
)
はズクズクになつてゐる。
053
かふいふ
所
(
ところ
)
に
放
(
ほ
)
つて
置
(
お
)
けば、
0531
犬
(
いぬ
)
や
烏
(
からす
)
の
餌食
(
ゑじき
)
になるだらう。
054
何
(
なん
)
とかして
此奴
(
こいつ
)
を
助
(
たす
)
け
自分
(
じぶん
)
の
従者
(
じゆうしや
)
にしてやりたいものだなア、
055
ウラナイ
教
(
けう
)
の
大神
(
おほかみ
)
守
(
まも
)
り
玉
(
たま
)
へ
幸
(
さきは
)
ひ
玉
(
たま
)
へ』
056
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
057
白
(
しろ
)
い
細
(
ほそ
)
い
鼈甲
(
べつかふ
)
細工
(
ざいく
)
の
如
(
や
)
うな
手
(
て
)
を
両人
(
りやうにん
)
の
額
(
ひたひ
)
にあて、
058
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
祈願
(
きぐわん
)
し
始
(
はじ
)
めた。
059
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
ウラナイ
教
(
けう
)
の
大神
(
おほかみ
)
を
念
(
ねん
)
じても
効験
(
ききめ
)
が
無
(
な
)
いので、
060
今度
(
こんど
)
は
試
(
こころ
)
みに、
061
三五教
(
あななひけう
)
の
大神
(
おほかみ
)
と
神名
(
しんめい
)
を
変
(
か
)
へて
一心
(
いつしん
)
不乱
(
ふらん
)
に
念願
(
ねんぐわん
)
すると、
062
両人
(
りやうにん
)
の
体
(
からだ
)
に
追々
(
おひおひ
)
と
温
(
ぬく
)
みが
廻
(
まは
)
り、
063
半時
(
はんとき
)
許
(
ばか
)
りの
後
(
のち
)
にやうやう
息
(
いき
)
を
吹
(
ふ
)
き
返
(
かへ
)
し、
064
ムクムクと
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
つて、
065
救命主
(
きうめいしゆ
)
の
大恩
(
だいおん
)
を
謝
(
しや
)
し、
066
涙
(
なみだ
)
乍
(
なが
)
らに
感謝
(
かんしや
)
した。
067
此
(
この
)
女
(
をんな
)
はトルマン
城
(
じやう
)
を
脱出
(
だつしゆつ
)
した
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
である。
068
千草
(
ちぐさ
)
は
城内
(
じやうない
)
を
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
してから、
069
人通
(
ひとどほり
)
の
少
(
すく
)
な
相
(
さう
)
な
山野
(
さんや
)
を
選
(
えら
)
んで
此所
(
ここ
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
たが、
070
初
(
はじ
)
めて
二人
(
ふたり
)
の
死者
(
ししや
)
を
甦
(
よみがへ
)
らせ、
071
得意
(
とくい
)
の
頂点
(
ちやうてん
)
に
達
(
たつ
)
し、
072
『コレコレお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
何処
(
どこ
)
の
泥棒
(
どろばう
)
かは
知
(
し
)
らね
共
(
ども
)
、
073
此
(
この
)
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
が
此処
(
ここ
)
を
通
(
とほ
)
らなかつたならば、
074
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
の
命
(
いのち
)
は
既
(
すで
)
に
已
(
すで
)
に
十万
(
じふまん
)
億土
(
おくど
)
と
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
へ
行
(
い
)
つて
了
(
しま
)
つて、
075
二度
(
にど
)
と
再
(
ふたたび
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
へ
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないのだよ。
076
一体
(
いつたい
)
お
前
(
まへ
)
の
名
(
な
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
名
(
な
)
だい、
077
それを
聞
(
き
)
いて
置
(
お
)
かねば、
078
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が
大
(
おほ
)
ミロク
様
(
さま
)
へお
礼
(
れい
)
を
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げることが
出来
(
でき
)
ないからなア』
079
男
(
をとこ
)
『ハイ、
080
私
(
わたくし
)
はコブライと
申
(
まを
)
します。
081
モ
一人
(
ひとり
)
はコオロと
申
(
まをし
)
まして、
082
実
(
じつ
)
はタラハン
城
(
じやう
)
の
左守
(
さもり
)
の
司
(
つかさ
)
の
幕下
(
ばくか
)
で
御座
(
ござ
)
いましたが、
083
フトした
事
(
こと
)
から
勘当
(
かんだう
)
を
受
(
う
)
けまして
身
(
み
)
の
置
(
お
)
き
所
(
どころ
)
なく、
084
タラハン
河
(
がは
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げましたので
御座
(
ござ
)
います。
085
其所
(
そこ
)
を
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
にお
助
(
たすけ
)
を
願
(
ねが
)
ひ、
086
斯様
(
かやう
)
な
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ』
087
千草
(
ちぐさ
)
『ア、
088
さうかいナ、
089
そりやお
前
(
まへ
)
、
090
命
(
いのち
)
のよい
拾物
(
ひろひもの
)
だよ。
091
此
(
この
)
千草姫
(
ちぐさひめ
)
は
地上
(
ちじやう
)
の
人間
(
にんげん
)
ぢやありませぬぞえ。
092
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
093
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
094
大
(
おほ
)
ミロクの
太柱
(
ふとばしら
)
、
095
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
と
申
(
まを
)
す
者
(
もの
)
だが、
096
衆生
(
しゆじやう
)
済度
(
さいど
)
の
為
(
ため
)
之
(
これ
)
から
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
を
巡歴
(
じゆんれき
)
する
積
(
つもり
)
だから、
097
お
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
は
此
(
この
)
千草
(
ちぐさ
)
の
両腕
(
りやううで
)
となつて、
098
天下
(
てんか
)
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
大々
(
だいだい
)
的
(
てき
)
活動
(
くわつどう
)
を
為
(
な
)
し、
099
天下
(
てんか
)
に
名
(
な
)
を
挙
(
あ
)
げる
気
(
き
)
はないかい。
100
そしてお
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
はどんな
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
をしたのだい。
101
主人
(
しゆじん
)
から
勘当
(
かんだう
)
を
受
(
う
)
けるといふ
事
(
こと
)
は、
102
よくよくの
事
(
こと
)
でなければ
無
(
な
)
い
筈
(
はず
)
だが』
103
コ『ハイ、
104
お
恥
(
はづか
)
しう
御座
(
ござ
)
いますが、
105
玄真坊
(
げんしんばう
)
と
云
(
い
)
ふ
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
と
称
(
しよう
)
する
修験者
(
しゆげんじや
)
の
泥棒
(
どろばう
)
様
(
さま
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に、
106
左守
(
さもり
)
の
司
(
つかさ
)
の
館
(
やかた
)
へ
忍
(
しのび
)
込
(
こ
)
み、
107
金庫
(
かねぐら
)
の
錠
(
ぢやう
)
を
捩折
(
ねぢを
)
つてる
所
(
ところ
)
を
捉
(
つかま
)
へられ、
108
牢獄
(
らうごく
)
へ
打込
(
ぶちこ
)
まれたので
御座
(
ござ
)
います』
109
千
(
ち
)
『
何
(
なん
)
とまア、
110
お
前
(
まへ
)
も、
111
面
(
つら
)
にも
似合
(
にあは
)
ぬ
悪党
(
あくたう
)
だな、
112
アハヽヽヽ。
113
善
(
ぜん
)
に
強
(
つよ
)
ければ
悪
(
あく
)
にも
強
(
つよ
)
いと
云
(
い
)
ふ
諺
(
ことわざ
)
もある、
114
その
方
(
はう
)
が
却
(
かへつ
)
て
頼
(
たの
)
もしい。
115
そして
其
(
その
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
と
云
(
い
)
ふ
修験者
(
しゆげんじや
)
は
如何
(
どう
)
なつたのかい』
116
コ『ハイ、
117
三
(
さん
)
人
(
にん
)
一緒
(
いつしよ
)
に
身投
(
みなげ
)
をしましたが、
118
其
(
その
)
後
(
ご
)
気絶
(
きぜつ
)
をしたものですから、
119
如何
(
どう
)
なつた
事
(
こと
)
か
斯
(
か
)
うなつた
事
(
こと
)
か、
120
チツとも
存
(
ぞん
)
じませぬ』
121
千
(
ち
)
『
如何
(
いか
)
にも、
122
そらさうだろ。
123
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此所
(
ここ
)
に
首
(
くび
)
丈
(
だけ
)
出
(
だ
)
して
埋
(
い
)
けられて
居
(
ゐ
)
るコルブスがあるが、
124
此
(
この
)
面
(
つら
)
にお
前
(
まへ
)
覚
(
おぼ
)
えはないかの』
125
と
三間
(
さんげん
)
許
(
ばか
)
りの
傍
(
かたはら
)
の
新墓
(
しんばか
)
を
指
(
さ
)
し
示
(
しめ
)
す。
126
コブライ、
127
コオロの
両人
(
りやうにん
)
は
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るより、
128
両人
(
りやうにん
)
『ア、
129
玄真
(
げんしん
)
さま……で
御座
(
ござ
)
います。
130
何
(
なん
)
とマア
偉
(
えら
)
い
事
(
こと
)
になつたものですな、
131
何卒
(
どうぞ
)
此奴
(
こいつ
)
も
助
(
たす
)
けてやつて
下
(
くだ
)
さいますまいか。
132
私
(
わたし
)
等
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
は
貴女
(
あなた
)
に
助
(
たす
)
けられたとは
聞
(
き
)
きますが、
133
死
(
し
)
んでゐたので
何
(
なに
)
も
分
(
わか
)
りませぬ。
134
本当
(
ほんたう
)
のこた、
135
お
前
(
まへ
)
さまの
神力
(
しんりき
)
で
助
(
たす
)
かつたか、
136
又
(
また
)
はハタの
人
(
ひと
)
に
助
(
たす
)
けられたか
分
(
わか
)
りませぬが、
137
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
で
此
(
この
)
玄真
(
げんしん
)
さまを
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さつたら
138
弥々
(
いよいよ
)
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
をお
前
(
まへ
)
さまが
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さつたといふ
証拠
(
しようこ
)
になりますからなア』
139
千
(
ち
)
『コーラ、
140
奴
(
やつこ
)
、
141
何
(
なん
)
といふ
口
(
くち
)
巾
(
はば
)
つたい
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
すのだい。
142
此
(
この
)
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
の
神力
(
しんりき
)
によつて
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けられ
乍
(
なが
)
ら、
143
左様
(
さやう
)
な
挨拶
(
あいさつ
)
があるものか。
144
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
無智
(
むち
)
蒙昧
(
もうまい
)
な
人外
(
にんぐわい
)
人足
(
にんそく
)
だから
何
(
なに
)
も
分
(
わか
)
ろまい、
145
議論
(
ぎろん
)
よりも
実地
(
じつち
)
だ。
146
それではお
前
(
まへ
)
の
疑
(
うたがひ
)
を
晴
(
は
)
らす
為
(
ため
)
に、
147
千草姫
(
ちぐさひめ
)
が
今
(
いま
)
神力
(
しんりき
)
を
見
(
み
)
せてやらうぞや。
148
此
(
この
)
修験者
(
しゆげんじや
)
が
助
(
たす
)
かつたが
最後
(
さいご
)
、
149
どこ
迄
(
まで
)
も
此
(
この
)
千草
(
ちぐさ
)
に
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
をするだらうナ』
150
コブ『そら、
151
さうですとも。
152
さうでなくても、
153
貴方
(
あなた
)
にどこ
迄
(
まで
)
も
従
(
したが
)
ひますと
約束
(
やくそく
)
をしたのですもの、
154
現当
(
げんたう
)
利益
(
りやく
)
を
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
へば
文句
(
もんく
)
はありませぬワ』
155
千
(
ち
)
『
之
(
これ
)
から
私
(
わたし
)
が
此
(
この
)
修験者
(
しゆげんじや
)
を
甦
(
よみがへ
)
らして
見
(
み
)
せるから、
156
キツと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
名
(
な
)
を
覚
(
おぼ
)
えて
居
(
を
)
つて、
157
其
(
その
)
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
忘
(
わす
)
れないやうにするのだよ』
158
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
159
首
(
くび
)
から
上
(
うへ
)
へ
出
(
で
)
てゐるコルブスの
額
(
ひたひ
)
に
白
(
しろ
)
い
柔
(
やはら
)
かい
手
(
て
)
をあて、
160
「ウラナイ
教
(
けう
)
の
大神
(
おほかみ
)
救
(
すく
)
ひ
玉
(
たま
)
へ
助
(
たす
)
け
玉
(
たま
)
へ、
161
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
」と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
汗
(
あせ
)
をタラタラ
流
(
なが
)
し、
162
祈
(
いの
)
れど
祈
(
いの
)
れどビクともせぬ、
163
甦
(
よみがへ
)
り
相
(
さう
)
な
気配
(
けはい
)
もない。
164
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
は
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
で
大法螺
(
おほぼら
)
を
吹
(
ふ
)
いた
手前
(
てまへ
)
、
165
如何
(
どう
)
しても
此奴
(
こいつ
)
を
生
(
い
)
かさねばおかぬと
益々
(
ますます
)
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
になる。
166
殆
(
ほと
)
んど
半時
(
はんとき
)
許
(
ばか
)
り
祈
(
いの
)
れど
願
(
ねが
)
へど、
167
矢張
(
やつぱり
)
コルブスは
氷
(
こほり
)
の
如
(
ごと
)
く
冷
(
つめ
)
たい。
168
流石
(
さすが
)
の
千草
(
ちぐさ
)
も
我
(
が
)
を
折
(
を
)
り
169
「
三五教
(
あななひけう
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
守
(
まも
)
り
玉
(
たま
)
へ
許
(
ゆる
)
し
玉
(
たま
)
へ」と
宣直
(
のりなほ
)
した。
170
忽
(
たちま
)
ち
額
(
ひたひ
)
に
温
(
ぬく
)
みが
廻
(
まは
)
り、
171
青黒
(
あをぐろ
)
い
面
(
つら
)
は
鮮紅色
(
せんこうしよく
)
を
帯
(
お
)
びて
来
(
き
)
た。
172
千草
(
ちぐさ
)
は
此処
(
ここ
)
ぞと
173
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に「
三五
(
あななひ
)
の
大神
(
おほかみ
)
守
(
まも
)
り
玉
(
たま
)
へ
幸
(
さきは
)
ひ
玉
(
たま
)
へ」と
祈
(
いの
)
るにつれ、
174
大地
(
だいち
)
はビリビリと
震
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
し、
175
コルブスを
中心
(
ちうしん
)
として
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
に
地割
(
ぢわれ
)
がなし、
176
「ウン」と
一声
(
ひとこゑ
)
霊
(
れい
)
をかけるや
否
(
いな
)
や、
177
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
死体
(
したい
)
は
三間
(
さんげん
)
許
(
ばか
)
り
中天
(
ちうてん
)
に
飛
(
と
)
び
上
(
あが
)
り、
178
ドスンと
元
(
もと
)
の
所
(
ところ
)
へ
落
(
お
)
ちた
拍子
(
ひやうし
)
にパツと
気
(
き
)
がつき、
179
目鼻
(
めはな
)
を
一所
(
ひとところ
)
へよせて、
180
四辺
(
あたり
)
を
二三回
(
にさんくわい
)
見廻
(
みまは
)
し
乍
(
なが
)
ら、
181
玄
(
げん
)
『ヤ、
182
其処
(
そこ
)
に
居
(
ゐ
)
るのは、
183
コブライにコオロぢやないか。
184
あーア、
185
怖
(
こは
)
い
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たものだのう』
186
コブ『
若
(
も
)
し、
187
玄真坊
(
げんしんばう
)
さま、
188
夢
(
ゆめ
)
所
(
どころ
)
の
騒
(
さわぎ
)
ぢやありませぬよ。
189
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
追手
(
おつて
)
に
出会
(
であ
)
つて
進退
(
しんたい
)
谷
(
きは
)
まり、
190
谷川
(
たにがは
)
へ
投身
(
とうしん
)
して
已
(
すで
)
に
土佐衛門
(
どざゑもん
)
となつて
居
(
を
)
つた
所
(
ところ
)
、
191
村人
(
むらびと
)
に
死体
(
したい
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ
上
(
あ
)
げられ、
192
お
前
(
まへ
)
さまは
修験者
(
しゆげんじや
)
の
事
(
こと
)
とて、
193
首
(
くび
)
丈
(
だけ
)
出
(
だ
)
して、
1931
鄭重
(
ていちよう
)
に
葬
(
はうむ
)
られてあつたが、
194
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
は
地上
(
ちじやう
)
に
遺棄
(
ゐき
)
されてゐたのだ。
195
そこへ
此
(
この
)
お
姫
(
ひめ
)
さまが
通
(
とほ
)
りかかつて、
196
霊
(
れい
)
とか
何
(
なん
)
とかをかけて
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さつたのですよ。
197
現
(
げん
)
にお
前
(
まへ
)
さまを
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さつたのを
実地
(
じつち
)
目撃
(
もくげき
)
したのは
此
(
この
)
コブライ、
198
コオロ、
199
サアサア
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しなさい。
200
此
(
この
)
お
姫
(
ひめ
)
さまで
御座
(
ござ
)
いますワイ』
201
玄
(
げん
)
『あ、
202
これはこれは、
203
能
(
よ
)
くまアお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいました。
204
ても
偖
(
さて
)
も
御
(
ご
)
容貌
(
きれう
)
のよいお
姫
(
ひめ
)
さまで
御座
(
ござ
)
いますこと、
205
エヘヽヽヽ。
206
之
(
これ
)
といふのも
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
仕組
(
しぐみ
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
207
丸
(
まる
)
切
(
きり
)
暗
(
やみ
)
の
国
(
くに
)
から
日出国
(
ひのでのくに
)
へ
生
(
うま
)
れ
変
(
かは
)
つたやうな
気分
(
きぶん
)
が
致
(
いた
)
します。
208
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
のお
姫
(
ひめ
)
さま、
209
之
(
これ
)
から
如何
(
どん
)
な
事
(
こと
)
でも
貴女
(
あなた
)
の
御用
(
ごよう
)
なら
勤
(
つと
)
めますから、
210
何卒
(
どうぞ
)
可愛
(
かあい
)
がつて
使
(
つか
)
つて
下
(
くだ
)
さいませや』
211
千
(
ち
)
『ホヽヽヽ、
212
何
(
なん
)
とまア、
213
之
(
これ
)
丈
(
だけ
)
念入
(
ねんい
)
りに
不細工
(
ぶさいく
)
に
出来上
(
できあが
)
つた
面
(
つら
)
は
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
はありませぬワ。
214
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
215
どこ
共
(
とも
)
なしにキユーバーさまに
似
(
に
)
た
所
(
ところ
)
がある
様
(
やう
)
だ、
216
之
(
これ
)
からお
前
(
まへ
)
さまも、
217
此
(
この
)
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
がおイドを
拭
(
ふ
)
けと
云
(
い
)
ふたら、
218
おイドでも
拭
(
ふ
)
くのですよ。
219
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
ふた
御
(
ご
)
恩返
(
おんがへ
)
しと
思
(
おも
)
ふて、
220
口答
(
くちごたへ
)
一
(
ひと
)
つしちや
可
(
い
)
けませぬぜ』
221
玄
(
げん
)
『ヤ、
222
如何
(
どん
)
な
事
(
こと
)
でも
承
(
うけたま
)
はりませうが、
223
お
尻
(
しり
)
を
拭
(
ふ
)
く
事
(
こと
)
丈
(
だけ
)
は、
224
私
(
わたし
)
の
人格
(
じんかく
)
に
免
(
めん
)
じて
許
(
ゆる
)
して
頂
(
いただ
)
きたいものです。
225
貴女
(
あなた
)
の
尻拭
(
しりふ
)
きする
位
(
くらゐ
)
なら、
226
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
はぬ
方
(
はう
)
が
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
幸福
(
かうふく
)
か
知
(
し
)
れませぬからなア』
227
千
(
ち
)
『ホヽヽ、
228
嘘
(
うそ
)
だよ
嘘
(
うそ
)
だよ、
229
お
前
(
まへ
)
さまの
面
(
つら
)
は
一寸
(
ちよつと
)
人並
(
ひとなみ
)
優
(
すぐ
)
れて
変
(
かは
)
つてゐるが、
230
どこ
共
(
とも
)
なしに
目
(
め
)
の
奥
(
おく
)
に
才気
(
さいき
)
が
満
(
み
)
ちてゐるやうだ。
231
お
前
(
まへ
)
さまを
何
(
なに
)
かの
玉
(
たま
)
に
使
(
つか
)
つて、
232
一
(
ひと
)
つ
仕事
(
しごと
)
をやつたら
面白
(
おもしろ
)
からう』
233
玄
(
げん
)
『ヤ、
234
そこ
迄
(
まで
)
私
(
わたし
)
の
器量
(
きりやう
)
を
認
(
みと
)
めて
頂
(
いただ
)
けば
満足
(
まんぞく
)
です。
235
私
(
わたし
)
も
今
(
いま
)
は
斯
(
か
)
うなつて、
236
みすぼらしい
風
(
ふう
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますが、
237
オーラ
山
(
さん
)
に
立籠
(
たてこも
)
り、
238
シーゴー、
239
依子姫
(
よりこひめ
)
などの
豪傑
(
がうけつ
)
を
幕下
(
ばくか
)
に
使
(
つか
)
ひ、
240
三千
(
さんぜん
)
の
部下
(
ぶか
)
を
従
(
したが
)
へ、
241
印度
(
いんど
)
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
を
吾
(
わが
)
手
(
て
)
に
握
(
にぎ
)
らむと
計画
(
けいくわく
)
してゐた
天晴
(
あつぱれ
)
な
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
ですよ』
242
千
(
ち
)
『あ、
243
お
前
(
まへ
)
さまが、
244
彼
(
あ
)
の
名高
(
なだか
)
いオーラ
山
(
さん
)
の
山子
(
やまこ
)
坊主
(
ばうず
)
だつたのか。
245
ヤ、
246
そら
可
(
よ
)
い
所
(
ところ
)
で
会
(
あ
)
ふた、
247
佳
(
よ
)
い
者
(
もの
)
が
見付
(
みつ
)
かつた、
248
可
(
よ
)
い
拾物
(
ひろいもの
)
をした。
249
さア、
250
之
(
これ
)
からお
前
(
まへ
)
さまと
夫婦
(
ふうふ
)
と
化
(
ばけ
)
込
(
こ
)
んで、
251
一
(
ひと
)
つ
仕事
(
しごと
)
をやらうぢやないか』
252
玄
(
げん
)
『
成程
(
なるほど
)
、
253
面白
(
おもしろ
)
からう、
254
夫婦
(
ふうふ
)
にならうと
云
(
い
)
ふたな、
255
其
(
その
)
舌
(
した
)
の
根
(
ね
)
の
乾
(
かわ
)
かぬ
内
(
うち
)
に
女房
(
にようばう
)
と
呼
(
よ
)
んで
置
(
お
)
く。
256
コラ
女房
(
にようばう
)
、
257
千草姫
(
ちぐさひめ
)
、
258
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
259
天来
(
てんらい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
260
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
、
261
天真坊
(
てんしんばう
)
の
宿
(
やど
)
の
妻
(
つま
)
、
262
ヨモヤ
不服
(
ふふく
)
はあるまいなア』
263
千
(
ち
)
『お
前
(
まへ
)
さまと
夫婦
(
ふうふ
)
になる
事
(
こと
)
丈
(
だけ
)
は
異議
(
いぎ
)
ありませぬ。
264
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
妾
(
わらは
)
こそ、
265
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
266
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
267
底津
(
そこつ
)
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
ミロクの
太柱
(
ふとばしら
)
、
268
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
269
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
だから、
270
神格
(
しんかく
)
の
上
(
うへ
)
から、
271
此
(
この
)
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
が
主
(
しゆ
)
であり、
272
お
前
(
まへ
)
さまは
従僕
(
じゆうぼく
)
となつて
貰
(
もら
)
はねばならぬ
霊
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
だよ。
273
肉体
(
にくたい
)
上
(
じやう
)
からはお
前
(
まへ
)
さまが
夫
(
をつと
)
で
千草
(
ちぐさ
)
が
妻
(
つま
)
と
定
(
き
)
めて
置
(
お
)
きませう。
274
お
前
(
まへ
)
さまの
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
は
自分
(
じぶん
)
が
拵
(
こしら
)
へたのだらう。
275
そんな
山子
(
やまこ
)
は
之
(
これ
)
からは
駄目
(
だめ
)
ですよ。
276
正真
(
しやうしん
)
正銘
(
しやうめい
)
の
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
でなけら、
277
肝腎
(
かんじん
)
の
場合
(
ばあひ
)
に
於
(
おい
)
て、
278
名実
(
めいじつ
)
ともなふ
活動
(
はたらき
)
が
出来
(
でき
)
ませぬからな。
279
こんな
所
(
ところ
)
へ
首
(
くび
)
丈
(
だけ
)
出
(
だ
)
して
埋
(
い
)
けられてるやうな
神力
(
しんりき
)
の
無
(
な
)
い
事
(
こと
)
で、
280
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
なんて
言
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
へますまい』
281
玄
(
げん
)
『イヤ、
282
モウ、
283
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
も、
284
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
も
285
お
株
(
かぶ
)
を、
2851
女房
(
にようばう
)
のお
前
(
まへ
)
に
譲
(
ゆづ
)
らう、
286
お
前
(
まへ
)
を
女房
(
にようばう
)
にさへすりや、
287
俺
(
おれ
)
やモウ
満足
(
まんぞく
)
だからのう』
288
千
(
ち
)
『
厭
(
いや
)
ですよ、
289
譲
(
ゆづ
)
つて
貰
(
もら
)
はなくても、
290
元
(
もと
)
から
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
天人
(
てんにん
)
、
291
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
292
大
(
おほ
)
ミロクの
太柱
(
ふとばしら
)
、
293
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
294
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
ですもの』
295
玄
(
げん
)
『あ、
296
何
(
なん
)
と
上
(
うへ
)
には
上
(
うへ
)
のあるものだな。
297
これ
丈
(
だけ
)
の
美貌
(
びばう
)
と
弁舌
(
べんぜつ
)
とでやられたら、
298
大抵
(
たいてい
)
の
男
(
をとこ
)
は
参
(
まゐ
)
つて
了
(
しま
)
ふだろ』
299
千
(
ち
)
『そら、
300
さうです
共
(
とも
)
、
301
トルマン
国
(
ごく
)
の
王妃
(
わうひ
)
を
棒
(
ぼう
)
に
振
(
ふ
)
つて、
302
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
猛獣
(
まうじう
)
の
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ
原野
(
げんや
)
をやつて
来
(
く
)
るといふ
豪
(
がう
)
の
女
(
をんな
)
ですもの、
303
そんなこた、
304
云
(
い
)
ふ
丈
(
だけ
)
野暮
(
やぼ
)
ですワ、
305
ホヽヽヽ』
306
コオ『
何
(
なん
)
とマア、
307
偉
(
えら
)
い
方
(
かた
)
許
(
ばか
)
り
寄
(
よ
)
られたものですな。
308
のうコブライ、
309
丸
(
まる
)
切
(
き
)
り
狐
(
きつね
)
に
魅
(
つま
)
まれたやうぢやないか』
310
コ『
俺
(
おれ
)
ヤ、
311
モウ
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
がすぼまらぬワイ』
312
千
(
ち
)
『コレコレ
其処
(
そこ
)
の
奴
(
やつこ
)
さま、
313
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
無礼
(
ぶれい
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
314
ミロクの
太柱
(
ふとばしら
)
が
現
(
あら
)
はれてゐるのに、
315
狐
(
きつね
)
に
魅
(
つま
)
まれたやうだとは
何
(
なん
)
ぢやいな。
316
之
(
これ
)
から
狐
(
きつね
)
のキの
字
(
じ
)
も
云
(
い
)
つては
可
(
い
)
けませぬよ』
317
コオ『ハイ
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りまして
御座
(
ござ
)
います、
318
玉藻前
(
たまものまへ
)
の
芝居
(
しばゐ
)
に
出
(
で
)
る
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
さまの
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
に
余
(
あま
)
りによく
似
(
に
)
てるものだから、
319
つい
狐
(
きつね
)
のやうだと
申
(
まを
)
して、
320
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そこ
)
ねましたのは
平
(
ひら
)
に
御
(
お
)
託
(
わび
)
を
致
(
いた
)
します』
321
玄
(
げん
)
『あ、
322
何
(
ど
)
うやら
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れ
相
(
さう
)
だ。
323
どつかへ
324
宿
(
やど
)
を
求
(
もと
)
めて、
325
今晩
(
こんばん
)
はゆつくりと
語
(
かた
)
り
明
(
あか
)
さうぢやありませぬか、
326
………ナニ
違
(
ちが
)
ふ
違
(
ちが
)
ふ。
327
オイ
女房
(
にようばう
)
千草
(
ちぐさ
)
、
328
どつかで、
329
宿
(
やど
)
を
求
(
もと
)
めて
緩
(
ゆつ
)
くり
休
(
やす
)
まうかい、
330
ヨモヤ
厭
(
いや
)
とは
申
(
まを
)
すまいのう』
331
千
(
ち
)
『ホツホヽヽ、
332
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
が
出来
(
でき
)
たものだ、
333
之
(
これ
)
でもひだるい
時
(
とき
)
に
不味
(
まづい
)
ものなしだから……ホヽヽヽヽ』
334
と
小声
(
こごゑ
)
で
笑
(
わら
)
ふ。
335
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
半分
(
はんぶん
)
許
(
ばか
)
り
聞
(
きき
)
かじり、
336
『コラ
女房
(
にようばう
)
、
337
さう
心配
(
しんぱい
)
するものぢやない、
338
決
(
けつ
)
して
不味物
(
まづいもの
)
は
食
(
く
)
はさないよ。
339
ひだるい
目
(
め
)
もささないから、
340
俺
(
おれ
)
に
任
(
まか
)
しておけ。
341
お
金
(
かね
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
342
胴巻
(
どうまき
)
に
一杯
(
いつぱい
)
つめてあるからのう』
343
といひ
乍
(
なが
)
ら、
344
腰
(
こし
)
の
辺
(
あたり
)
に
手
(
て
)
をやつてみてビツクリ、
345
『ヤ、
346
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
所持金
(
しよぢきん
)
が
無
(
な
)
くなつてゐる。
347
コラ、
348
コブライ、
349
汝
(
きさま
)
が
奪
(
と
)
つたのぢやないか』
350
コ『そんな
殺生
(
せつしやう
)
な
事
(
こと
)
云
(
い
)
ひなさるな、
351
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
泥棒
(
どろばう
)
でもお
前
(
まへ
)
さまの
金
(
かね
)
まで
奪
(
と
)
りませぬよ。
352
私
(
わたし
)
共
(
ども
)
も
川
(
かは
)
へ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ
時
(
とき
)
、
353
皆
(
みな
)
川底
(
かはぞこ
)
へ
落
(
おと
)
して
了
(
しま
)
つたのです。
354
此
(
この
)
通
(
とほり
)
無一文
(
むいちもん
)
です。
355
コオロだつて
其
(
その
)
通
(
とほ
)
り、
356
一文
(
いちもん
)
だつて
持
(
も
)
つてゐやしませぬで』
357
玄
(
げん
)
『あゝ、
358
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だの、
359
それぢや、
360
今晩
(
こんばん
)
宿屋
(
やどや
)
に
泊
(
とま
)
る
訳
(
わけ
)
にはゆかず、
361
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
はあるまいかのう』
362
千
(
ち
)
『ホヽヽヽ、
363
何
(
なん
)
とまア、
364
スカン
貧
(
ぴん
)
の
寄合
(
よりあひ
)
だこと、
365
金
(
かね
)
でも
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
り
相
(
さう
)
なと
思
(
おも
)
ひ、
366
こんな
茶瓶頭
(
ちやびんあたま
)
の
蜥蜴面
(
とかげづら
)
に
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
つて
見
(
み
)
たのだけれど、
367
文無
(
もんな
)
しと
聞
(
き
)
いちや、
368
愛想
(
あいさう
)
もコソも
尽
(
つ
)
き
果
(
は
)
てて
了
(
しま
)
つた。
369
エーエ
穢
(
けが
)
らはしい、
370
何所
(
どこ
)
なつとお
前
(
まへ
)
さま
勝手
(
かつて
)
に
行
(
ゆ
)
きなさい、
371
此
(
この
)
千草
(
ちぐさ
)
は
一文
(
いちもん
)
の
金
(
かね
)
は
無
(
な
)
くても
此
(
この
)
美貌
(
びばう
)
を
種
(
たね
)
に、
372
如何
(
どん
)
な
宿屋
(
やどや
)
にでも
贅沢
(
ぜいたく
)
三昧
(
ざんまい
)
をして
泊
(
とま
)
つて
見
(
み
)
せませう。
373
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
前
(
まへ
)
さまのやうなガラクタが
従
(
つ
)
いてると、
374
女盗賊
(
をんなたうぞく
)
と
間違
(
まちが
)
へられるから
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
りませう、
375
左様
(
さやう
)
なら』
376
と
立
(
たち
)
上
(
あが
)
らうとする。
377
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
足
(
あし
)
にくらひつき、
378
『コラ
女房
(
にようばう
)
、
379
一夜
(
いちや
)
の
枕
(
まくら
)
もかはさずに、
380
家
(
うち
)
を
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
すと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるか、
381
せめて
今宵
(
こよひ
)
一夜
(
いちや
)
は
待
(
ま
)
つてくれ』
382
千
(
ち
)
『
野
(
の
)
つ
原
(
ぱら
)
の
中
(
なか
)
で、
383
家
(
うち
)
を
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
す
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
さぬもあるかい、
384
宿無
(
やどな
)
し
者
(
もの
)
奴
(
め
)
、
385
死損
(
しにぞこな
)
ひの
蛸坊主
(
たこばうず
)
、
386
おイドが
呆
(
あき
)
れて
雪隠
(
せんち
)
が
踊
(
をど
)
り
出
(
だ
)
すワイ』
387
とふり
切
(
き
)
り
逃
(
に
)
げ
様
(
やう
)
ともがく。
388
玄
(
げん
)
『オイ、
389
コブライ、
390
コオロの
両人
(
りやうにん
)
、
391
女房
(
にようばう
)
を
確
(
しつか
)
り
掴
(
つかま
)
へてくれ。
392
俺
(
おれ
)
一人
(
ひとり
)
ではどうやら
取放
(
とりはな
)
しさうだ』
393
コブライ、
394
コオロ
両手
(
りやうて
)
を
拡
(
ひろ
)
げて、
395
前
(
まへ
)
に
突立
(
つつた
)
ち、
396
『コレコレ
奥
(
おく
)
さま、
397
さう
短気
(
たんき
)
を
起
(
おこ
)
しちや
可
(
い
)
けませぬ、
398
余
(
あんま
)
り
水臭
(
みづくさ
)
いぢやありませぬか。
399
小判
(
こばん
)
は
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
動
(
うご
)
けぬ
程
(
ほど
)
腰
(
こし
)
へ
捲
(
ま
)
いて
来
(
き
)
て、
400
淵
(
ふち
)
へ
落
(
おと
)
したのですから、
401
御
(
ご
)
入用
(
にふよう
)
とあれば
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
川底
(
かはそこ
)
から
拾
(
ひろ
)
うて
見
(
み
)
せます、
402
どうか
短気
(
たんき
)
を
起
(
おこ
)
さぬ
様
(
やう
)
にして
下
(
くだ
)
さいませ』
403
千
(
ち
)
『ホヽヽヽ、
404
一寸
(
ちよつと
)
、
405
余
(
あま
)
り
好
(
すき
)
な
玄真
(
げんしん
)
さまだから、
406
愛
(
あい
)
の
程度
(
ていど
)
を
試
(
ため
)
す
為
(
ため
)
に
嘲弄
(
からか
)
つてみたのですよ。
407
どこ
迄
(
まで
)
も
玄真
(
げんしん
)
さまは
此
(
この
)
千草姫
(
ちぐさひめ
)
を
愛
(
あい
)
して
下
(
くだ
)
さると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が、
408
只今
(
ただいま
)
の
行動
(
かうどう
)
に
仍
(
よ
)
つて
証明
(
しようめい
)
されました。
409
一遍
(
いつぺん
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
黄金
(
わうごん
)
の
必用
(
ひつよう
)
も
無
(
な
)
いけれど、
410
此
(
この
)
千草
(
ちぐさ
)
が
命令
(
めいれい
)
する
毎
(
ごと
)
に、
411
お
前
(
まへ
)
さまは
此
(
この
)
淵
(
ふち
)
へ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで、
412
其
(
その
)
金
(
かね
)
を
拾
(
ひろ
)
つて
来
(
く
)
るでせうなア』
413
コブ『ヘー、
414
仰
(
おほ
)
せ
迄
(
まで
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬ、
415
私
(
わたし
)
だつて
416
可惜
(
あたら
)
宝
(
たから
)
を
水底
(
みなそこ
)
に
捨
(
す
)
てて
置
(
お
)
くのは
勿体
(
もつたい
)
なう
御座
(
ござ
)
います。
417
のうコオロ
418
さうぢやないか』
419
コオ『ウンさう
共
(
とも
)
さう
共
(
とも
)
、
420
俺
(
おれ
)
と
汝
(
きさま
)
の
宝
(
たから
)
はキーツと
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだあの
淵
(
ふち
)
に
納
(
をさ
)
まつてるに
違
(
ちがひ
)
ない。
421
併
(
しか
)
し
玄真
(
げんしん
)
さまのお
宝
(
たから
)
は、
422
滅多
(
めつた
)
に
川
(
かは
)
へ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んでも
体
(
からだ
)
を
離
(
はな
)
れる
理由
(
りいう
)
がない。
423
あれ
丈
(
だけ
)
しつかりと
胴巻
(
どうまき
)
に
括
(
くく
)
りつけてあつたのだもの。
424
ヒヨツとしたら、
425
此
(
この
)
墓
(
はか
)
を
掘
(
ほ
)
つて
見
(
み
)
よ。
426
此
(
この
)
底
(
そこ
)
にあるかも
知
(
し
)
れぬ。
427
モシ
玄真坊
(
げんしんばう
)
さま、
428
一寸
(
ちよつと
)
天帝
(
てんてい
)
さまに
伺
(
うかが
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
429
玄
(
げん
)
『ウン、
430
確
(
たしか
)
にある、
431
掘
(
ほ
)
つてみてくれ』
432
コ『ヤ、
433
貴方
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
とあらア
間違
(
まちがひ
)
御座
(
ござ
)
いますまい、
434
サ
掘
(
ほ
)
らう』
435
と
二人
(
ふたり
)
は
爪
(
つめ
)
が
坊主
(
ばうず
)
になる
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
土
(
つち
)
を
掻
(
か
)
き
分
(
わ
)
けて
底
(
そこ
)
へ
底
(
そこ
)
へと
掘
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んだ。
436
五
(
ご
)
尺
(
しやく
)
許
(
ばか
)
り
掘
(
ほ
)
つた
所
(
ところ
)
に
胴巻
(
どうまき
)
ぐるめ、
437
ドスンと
重
(
おも
)
たい
程
(
ほど
)
黄金
(
わうごん
)
が
目
(
め
)
をむいてゐた。
438
コブライは
飛
(
と
)
び
立
(
た
)
つ
許
(
ばか
)
り
喜
(
よろこ
)
んで、
439
『モシモシ
玄真
(
げんしん
)
さま、
440
有
(
あ
)
りました
有
(
あ
)
りました、
441
喜
(
よろこ
)
んで
下
(
くだ
)
さい』
442
玄
(
げん
)
『そらさうだろ、
443
汝
(
きさま
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
黄金
(
わうごん
)
は
身
(
み
)
についてゐないのだ、
444
俺
(
おれ
)
は
身
(
み
)
についた
金
(
かね
)
だから
此
(
この
)
通
(
とほり
)
残
(
のこ
)
つてるのだ。
445
サ、
446
両人
(
りやうにん
)
早
(
はや
)
く
持
(
も
)
ち
上
(
あ
)
げてくれ。
447
コレコレ
女房
(
にようばう
)
、
448
どうだ、
449
一寸
(
ちよつと
)
此
(
この
)
金
(
かね
)
を
見
(
み
)
ろ、
450
之
(
これ
)
は
皆
(
みな
)
俺
(
おれ
)
の
金
(
かね
)
だ。
451
これ
丈
(
だけ
)
ありや
452
お
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
とが
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
や
五
(
ご
)
年
(
ねん
)
呑
(
のみ
)
つづけても
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だよ』
453
千
(
ち
)
『
何
(
なん
)
と
貴方
(
あなた
)
は
偉
(
えら
)
いお
方
(
かた
)
ですな、
454
私
(
わたし
)
の
夫
(
をつと
)
として
恥
(
はづか
)
しからぬ
人格者
(
じんかくしや
)
ですワ、
455
ホヽヽヽヽ。
456
コレコレ コブライ、
457
コオロの
両人
(
りやうにん
)
、
458
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だつたが、
459
まだ
此
(
この
)
底
(
そこ
)
を
三尺
(
さんじやく
)
か
二
(
に
)
尺
(
しやく
)
掘
(
ほ
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
460
ダイヤモンドがありますよ。
461
私
(
わたし
)
の
神勅
(
しんちよく
)
によつて
黄金
(
わうごん
)
以上
(
いじやう
)
の
物
(
もの
)
があるといふ
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
つたから……』
462
コ『エ、
463
承知
(
しようち
)
しました、
464
貴女
(
あなた
)
の
仰
(
おほ
)
せなら
地
(
ち
)
の
底
(
そこ
)
迄
(
まで
)
も
掘
(
ほ
)
りますよ』
465
とコオロと
両人
(
りやうにん
)
が
汗
(
あせ
)
みどろになつて、
466
土
(
つち
)
を
掘
(
ほ
)
り
上
(
あ
)
げてゐる。
467
玄真坊
(
げんしんばう
)
468
千草
(
ちぐさ
)
の
二人
(
ふたり
)
は
舌
(
した
)
をペロリと
出
(
だ
)
し、
469
手早
(
てばや
)
く
二人
(
ふたり
)
を
生埋
(
いきう
)
めにせむと、
470
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
土
(
つち
)
を
上
(
うへ
)
から
投
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
み、
471
側
(
そば
)
にあつた
立石
(
たていし
)
をドスンと
載
(
の
)
せ、
472
立石
(
たていし
)
の
上
(
うへ
)
に
腰
(
こし
)
うちかけ
乍
(
なが
)
ら、
473
モウ
之
(
これ
)
で
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
と
云
(
い
)
ふやうな
面構
(
つらがまへ
)
で、
474
スパリスパリと
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
煙草
(
たばこ
)
を
引
(
ひつ
)
たくつて
吸
(
す
)
うてゐる。
475
千
(
ち
)
『
何
(
なん
)
とマア
厄介者
(
やくかいもの
)
が
二人
(
ふたり
)
ゐやがる、
476
如何
(
どう
)
したら
可
(
よ
)
からうと
心配
(
しんぱい
)
でならなかつたが、
477
矢張
(
やはり
)
以心
(
いしん
)
伝心
(
でんしん
)
、
478
お
前
(
まへ
)
さまの
心
(
こころ
)
と
私
(
わたし
)
の
心
(
こころ
)
はピツタリ
合
(
あ
)
ふてゐたとみえて、
479
一言
(
ひとこと
)
も
云
(
い
)
はずにこんな
放
(
はな
)
れ
業
(
わざ
)
をやつたのだから
妙
(
めう
)
ですなア』
480
玄
(
げん
)
『
本当
(
ほんたう
)
にさうだ、
481
実
(
じつ
)
ア
俺
(
おれ
)
は
此奴
(
こいつ
)
を
埋込
(
うめこ
)
んでやろと
思
(
おも
)
つたが、
482
お
前
(
まへ
)
もさうだつたか、
483
こんな
奴
(
やつ
)
がウロツキやがると
二人
(
ふたり
)
の
恋
(
こひ
)
の
邪魔
(
じやま
)
になるし
484
将来
(
しやうらい
)
の
手足
(
てあし
)
纏
(
まとひ
)
になるが、
485
之
(
これ
)
から
二人
(
ふたり
)
でどつか
宿
(
やど
)
へ
泊
(
とま
)
るか、
486
見晴
(
みはらし
)
のよい
山
(
やま
)
へ
上
(
あが
)
つて
神秘
(
しんぴ
)
の
扉
(
とびら
)
を
開
(
ひら
)
くか、
487
或
(
あるひ
)
は
神楽舞
(
かぐらまひ
)
でもやつて、
488
今日
(
こんにち
)
の
結婚
(
けつこん
)
の
内祝
(
うちいはひ
)
でもせうぢやないか』
489
千
(
ち
)
『そら
面白
(
おもしろ
)
いでせう。
490
宿屋
(
やどや
)
に
居
(
を
)
つても
怪
(
あや
)
しまれると
一寸
(
ちよつと
)
具合
(
ぐあひ
)
が
悪
(
わる
)
いから、
491
そんなら
今夜
(
こんや
)
は
月夜
(
つきよ
)
を
幸
(
さいはひ
)
、
492
あのコンモリした
森
(
もり
)
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
きませう。
493
あの
森
(
もり
)
にはキツと
古堂
(
ふるだう
)
位
(
ぐらゐ
)
は
建
(
た
)
つてゐるでせうからね』
494
玄
(
げん
)
『オイ、
495
モウ
少時
(
しばらく
)
此
(
この
)
上
(
うへ
)
で
頑張
(
ぐわんば
)
つて
居
(
を
)
らねば、
496
彼奴
(
あいつ
)
が
生返
(
いきかへ
)
つて
後
(
あと
)
追
(
おつ
)
かけて
来
(
きた
)
ら
大変
(
たいへん
)
だぞ』
497
千
(
ち
)
『ナーニそんな
心配
(
しんぱい
)
が
要
(
い
)
りますものか、
498
此
(
この
)
千草姫
(
ちぐさひめ
)
の
神力
(
しんりき
)
で
霊縛
(
れいばく
)
をかけておきましたから、
499
穴
(
あな
)
の
底
(
そこ
)
で
石
(
いし
)
の
如
(
や
)
うに
固
(
かた
)
まつてゐますよ。
500
サ、
501
参
(
まゐ
)
りませう、
502
コレ
玄真
(
げんしん
)
さま、
503
みつともない、
504
涎
(
よだれ
)
を
拭
(
ふ
)
きなさいナ』
505
玄真
(
げんしん
)
は
慌
(
あわて
)
て
両
(
りやう
)
の
手
(
て
)
で
涎
(
よだれ
)
を
手繰
(
たぐ
)
り、
506
膝
(
ひざ
)
のあたりに
両手
(
りやうて
)
をこすりつけてゐる。
507
千
(
ち
)
『マアマア
厭
(
いや
)
なこと、
508
玄真
(
げんしん
)
さま
509
涎
(
よだれ
)
の
手
(
て
)
を
膝
(
ひざ
)
で
拭
(
ふ
)
いたり、
510
丸
(
まる
)
で
着物
(
きもの
)
と
雑巾
(
ざふきん
)
と
一
(
ひと
)
つだワ、
511
ホヽヽ』
512
之
(
これ
)
より
両人
(
りやうにん
)
は
月夜
(
つきよ
)
の
路
(
みち
)
を
南
(
みなみ
)
へ
取
(
と
)
り、
513
コンモリとした
山
(
やま
)
を
目当
(
めあて
)
に
走
(
はし
)
りゆく。
514
(
大正一五・二・一
旧一四・一二・一九
於月光閣
松村真澄
録)
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