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第16巻(卯の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 神軍霊馬
01 天橋立
〔591〕
02 暗夜の邂逅
〔592〕
03 門番の夢
〔593〕
04 夢か現か
〔594〕
05 秋山館
〔595〕
06 石槍の雨
〔596〕
07 空籠
〔597〕
08 衣懸松
〔598〕
09 法螺の貝
〔599〕
10 白狐の出現
〔600〕
第2篇 深遠微妙
11 宝庫の鍵
〔601〕
12 捜索隊
〔602〕
13 神集の玉
〔603〕
14 鵜呑鷹
〔604〕
15 谷間の祈
〔605〕
16 神定の地
〔606〕
17 谷の水
〔607〕
第3篇 真奈為ケ原
18 遷宅婆
〔608〕
19 文珠如来
〔609〕
20 思はぬ歓
〔610〕
21 御礼参詣
〔611〕
跋
霊の礎(一)
霊の礎(二)
余白歌
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第七章
空籠
(
からかご
)
〔五九七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻
篇:
第1篇 神軍霊馬
よみ(新仮名遣い):
しんぐんれいば
章:
第7章 空籠
よみ(新仮名遣い):
からかご
通し章番号:
597
口述日:
1922(大正11)年04月14日(旧03月18日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年12月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
鬼彦らはすっかり改心して、神素盞嗚大神の前に感謝を述べた。しかし、亀彦が大江山本城に進むため、このまま囚人の駕籠に乗せて本城まで運ぶように頼むと、多勢に無勢を心配して、進軍を思い直すようにと忠告した。
そこへ、本城から鬼雲彦の手下らが迎え出てきた。すると不思議にもそれまで鬼彦らと話をしていた亀彦ら囚われの一行は、姿が消えてしまった。
しかし鬼彦は、迎えに来た鬼雲彦の手下らに対して、自分たちは三五教に改心したから、そう鬼雲彦に伝えるように、と述べて返してしまう。
そこへ、二人の男女が現れて、鬼彦を挑発すると、地下の洞窟に誘い入れた。しかし鬼武彦が現れて、洞窟の入口に岩で蓋をし、鬼彦一行と怪しい男女の出口をふさいでしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-01-27 17:05:22
OBC :
rm1607
愛善世界社版:
90頁
八幡書店版:
第3輯 433頁
修補版:
校定版:
94頁
普及版:
38頁
初版:
ページ備考:
愛世版・校定版・普及版ともに「籠」を使っている。
001
秋山彦
(
あきやまひこ
)
が
心
(
こころ
)
籠
(
こ
)
めたる
宣伝歌
(
せんでんか
)
に
鬼彦
(
おにひこ
)
、
002
鬼虎
(
おにとら
)
、
003
石熊
(
いしくま
)
、
004
熊鷹
(
くまたか
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
面々
(
めんめん
)
は
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
前非
(
ぜんぴ
)
を
悔
(
く
)
い、
005
一行
(
いつかう
)
の
前
(
まへ
)
に
鰭伏
(
ひれふ
)
して
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
006
覚束
(
おぼつか
)
なき
言霊
(
ことたま
)
の
息
(
いき
)
を
固
(
かた
)
めて
秋山彦
(
あきやまひこ
)
の
後
(
あと
)
につき
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
007
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
唱
(
とな
)
へ
帰順
(
きじゆん
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
したりけり。
008
鬼彦
(
おにひこ
)
『
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
め
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
の
方々
(
かたがた
)
に
御
(
お
)
礼
(
れい
)
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げます、
009
吾々
(
われわれ
)
の
如
(
ごと
)
き
悪魔
(
あくま
)
の
容器
(
いれもの
)
赦
(
ゆる
)
し
難
(
がた
)
き
罪人
(
ざいにん
)
の
危難
(
きなん
)
をお
救
(
すく
)
ひ
下
(
くだ
)
され、
010
其
(
その
)
上
(
うへ
)
にも
大慈
(
だいじ
)
大悲
(
だいひ
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
大御心
(
おほみこころ
)
を
以
(
もつ
)
て
身体
(
しんたい
)
不自由
(
ふじゆう
)
の
吾々
(
われわれ
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
されし
御
(
おん
)
志
(
こころざし
)
何
(
なん
)
と
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げて
宜
(
よろ
)
しいやら、
011
今後
(
こんご
)
は
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めます、
012
サアサ
何卒
(
なにとぞ
)
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
御
(
お
)
立退
(
たちの
)
き
下
(
くだ
)
さいませ、
013
此
(
この
)
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
をズツト
奥
(
おく
)
へ
進
(
すす
)
みますれば
愈
(
いよいよ
)
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
岩窟
(
いはや
)
の
棲家
(
すみか
)
、
014
又
(
また
)
立派
(
りつぱ
)
なる
本城
(
ほんじやう
)
が
御座
(
ござ
)
いまする、
015
其処
(
そこ
)
へ
参
(
まゐ
)
れば
数多
(
あまた
)
の
邪人
(
まがびと
)
共
(
ども
)
手具脛
(
てぐすね
)
引
(
ひ
)
いて
待
(
ま
)
ち
構
(
かま
)
へ
居
(
を
)
れば、
016
如何
(
いか
)
に
勇猛
(
ゆうまう
)
なる
貴神
(
あなた
)
様
(
さま
)
も
多少
(
たせう
)
御
(
お
)
苦
(
くるし
)
みの
事
(
こと
)
と
存
(
ぞん
)
じますれば、
017
吾々
(
われわれ
)
の
言葉
(
ことば
)
をお
用
(
もち
)
ひ
下
(
くだ
)
さいまして、
018
何卒
(
なにとぞ
)
此
(
この
)
場
(
ば
)
より
御
(
お
)
逃
(
のが
)
れ
下
(
くだ
)
さいますよう』
019
と
真心
(
まごころ
)
を
面
(
おもて
)
に
表
(
あら
)
はして
忠告
(
ちゆうこく
)
する。
020
亀彦
(
かめひこ
)
は
揶揄
(
からかひ
)
半分
(
はんぶん
)
に、
021
亀彦
『ホー
鬼彦
(
おにひこ
)
の
大将
(
たいしやう
)
、
022
随分
(
ずゐぶん
)
智慧
(
ちゑ
)
が
能
(
よ
)
く
廻
(
まは
)
るぢやないか、
023
親切
(
しんせつ
)
ごかしに
吾々
(
われわれ
)
の
勇将
(
ゆうしやう
)
を
撃退
(
げきたい
)
し
暫時
(
ざんじ
)
の
猶予
(
いうよ
)
を
貪
(
むさぼ
)
らむとする
猾
(
ずる
)
い
計略
(
けいりやく
)
、
024
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
於
(
おい
)
て
吾
(
われ
)
ら
一行
(
いつかう
)
を
苦
(
くるし
)
めむとせし
処
(
ところ
)
、
025
天罰
(
てんばつ
)
立所
(
たちどころ
)
に
致
(
いた
)
り
過
(
あやま
)
つて
味方
(
みかた
)
の
石弾
(
いしだま
)
、
026
征矢
(
そや
)
に
中
(
あた
)
り
零敗
(
ゼロはい
)
の
大見当
(
おほあて
)
違
(
ちが
)
ひを
演
(
えん
)
じ
懲
(
こ
)
り
懲
(
こ
)
りしたと
見
(
み
)
えるワイ。
027
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
吾々
(
われわれ
)
は
決
(
けつ
)
して
婆羅門
(
ばらもん
)
教
(
けう
)
の
如
(
ごと
)
く、
028
否
(
いな
)
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
如
(
ごと
)
く
善
(
ぜん
)
の
仮面
(
かめん
)
を
被
(
かぶ
)
り
天下
(
てんか
)
を
攪乱
(
かくらん
)
せむとするものに
非
(
あら
)
ず、
029
之
(
これ
)
より
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
に
面会
(
めんくわい
)
し
彼
(
かれ
)
をして
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
の
如
(
ごと
)
く
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めしめねばならぬ、
030
今
(
いま
)
よりは
吾々
(
われわれ
)
一行
(
いつかう
)
を
旧
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
くに
高手
(
たかて
)
小手
(
こて
)
に
縛
(
いまし
)
め、
031
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
乍
(
なが
)
ら、
032
此
(
この
)
網代籠
(
あじろかご
)
に
乗
(
の
)
せて
担
(
かつ
)
いで
行
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れよ』
033
鬼彦
(
おにひこ
)
『イヤ
滅相
(
めつさう
)
な、
034
貴神
(
あなた
)
等
(
がた
)
の
如
(
ごと
)
きお
方
(
かた
)
を
本城
(
ほんじやう
)
へ
迎
(
むか
)
へ
入
(
い
)
れるが
最後
(
さいご
)
、
035
天地
(
てんち
)
転動
(
てんどう
)
の
大騒動
(
おほさうどう
)
、
036
大江山
(
おほえやま
)
の
城内
(
じやうない
)
は
乱離
(
らんり
)
骨灰
(
こつぱい
)
、
037
落花
(
らくくわ
)
微塵
(
みぢん
)
の
惨状
(
さんじやう
)
を
演出
(
えんしゆつ
)
するは
明鏡
(
めいきやう
)
の
物
(
もの
)
を
照
(
てら
)
して
余蘊
(
ようん
)
なきが
如
(
ごと
)
しであります、
038
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
此
(
この
)
場
(
ば
)
をお
引
(
ひ
)
き
取
(
と
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
039
亀彦
(
かめひこ
)
『
貴様
(
きさま
)
は
矢
(
や
)
つ
張
(
ぱ
)
り
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
贔屓
(
ひいき
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
るな、
040
ヤア
感心
(
かんしん
)
々々
(
かんしん
)
、
041
一旦
(
いつたん
)
大将
(
たいしやう
)
と
恃
(
たの
)
みた
者
(
もの
)
に
対
(
たい
)
してそれ
丈
(
だ
)
けの
心遣
(
こころづか
)
ひを
致
(
いた
)
すは
人間
(
にんげん
)
の
真心
(
まごころ
)
の
発露
(
はつろ
)
である。
042
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此処迄
(
ここまで
)
思
(
おも
)
ひ
立
(
た
)
つたる
吾々
(
われわれ
)
の
心中
(
しんちゆう
)
、
043
中途
(
ちうと
)
に
駒
(
こま
)
の
頭
(
かしら
)
を
立
(
た
)
て
直
(
なほ
)
す
事
(
こと
)
は
男子
(
だんし
)
として
忍
(
しの
)
び
難
(
がた
)
き
処
(
ところ
)
だ、
044
如何
(
どう
)
しても
聞
(
き
)
かねば
吾々
(
われわれ
)
は
之
(
これ
)
より
強行
(
きやうかう
)
的
(
てき
)
行脚
(
あんぎや
)
を
続
(
つづ
)
け
大江山
(
おほえやま
)
の
本城
(
ほんじやう
)
に
立向
(
たちむか
)
ふであらう』
045
とそろそろ
歩
(
あゆ
)
み
初
(
はじ
)
めたれば、
046
鬼彦
(
おにひこ
)
は
泣声
(
なきごゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
047
鬼彦
『モシモシ、
048
タヽヽヽ
大変
(
たいへん
)
で
御座
(
ござ
)
います、
049
如何
(
いか
)
に
貴神
(
あなた
)
方
(
がた
)
が
英雄
(
えいゆう
)
なればとて
多勢
(
たぜい
)
に
対
(
たい
)
する
無勢
(
ぶぜい
)
、
050
御
(
ご
)
苦戦
(
くせん
)
の
程
(
ほど
)
お
察
(
さつ
)
し
申
(
まを
)
す』
051
と
真心
(
まごころ
)
より
止
(
と
)
める。
052
部下
(
ぶか
)
の
一同
(
いちどう
)
は
驚異
(
きやうい
)
の
面相
(
めんさう
)
を
陳列
(
ちんれつ
)
して
鬼彦
(
おにひこ
)
の
顔
(
かほ
)
をうち
衛
(
まも
)
り
居
(
ゐ
)
る。
053
亀彦
(
かめひこ
)
『
何
(
なん
)
だ、
054
女々
(
めめ
)
しい
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふな、
055
貴様
(
きさま
)
も
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
左守
(
さもり
)
と
迄
(
まで
)
言
(
い
)
はれた
男
(
をとこ
)
じやないか、
056
それに
何
(
なん
)
ぞや、
057
亡国
(
ばうこく
)
的
(
てき
)
哀音
(
あいおん
)
を
立
(
た
)
て
絶望
(
ぜつばう
)
的
(
てき
)
悲調
(
ひてう
)
の
涙
(
なみだ
)
を
湛
(
たた
)
へて
吾々
(
われわれ
)
を
止
(
とど
)
めむとするは
其
(
その
)
意
(
い
)
を
得
(
え
)
ない、
058
之
(
これ
)
には
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
き
謀計
(
ぼうけい
)
のある
事
(
こと
)
ならむ、
059
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一行
(
いつかう
)
は
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
山中
(
さんちゆう
)
徒歩
(
とほ
)
の
権利
(
けんり
)
を
有
(
いう
)
す、
060
サアサ
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
様
(
さま
)
、
061
進
(
すす
)
みて
参
(
まゐ
)
りませう。
062
仮令
(
たとへ
)
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
百万
(
ひやくまん
)
の
大軍
(
たいぐん
)
を
擁
(
よう
)
し
防
(
ふせ
)
ぎ
戦
(
たたか
)
うとも
此
(
この
)
亀彦
(
かめひこ
)
が
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
あれば
沢山
(
たくさん
)
なり。
063
強風
(
きやうふう
)
の
砂塵
(
さぢん
)
を
捲
(
ま
)
き
上
(
あ
)
ぐる
如
(
ごと
)
く、
064
吾
(
わが
)
一言
(
いちごん
)
の
息吹
(
いぶき
)
によつて
根底
(
こんてい
)
より
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めしめ、
065
悪魔
(
あくま
)
の
巣窟
(
さうくつ
)
をして
天国
(
てんごく
)
楽園
(
らくゑん
)
と
化
(
くわ
)
せしめむ。
066
ヤア
面白
(
おもしろ
)
し、
067
勇
(
いさ
)
ましし』
068
と
独語
(
ひとりご
)
ちつつ
肩
(
かた
)
を
怒
(
いか
)
らし
気焔
(
きえん
)
万丈
(
ばんぢやう
)
当
(
あた
)
るべからず、
069
足
(
あし
)
踏
(
ふ
)
み
鳴
(
な
)
らし
雄猛
(
をたけ
)
びする。
070
鬼彦
(
おにひこ
)
『
亀彦
(
かめひこ
)
様
(
さま
)
、
071
大変
(
たいへん
)
な
勢
(
いきほひ
)
でメートルをお
上
(
あ
)
げになつて
居
(
を
)
られますな』
072
亀彦
(
かめひこ
)
『オウさうだ、
073
敵
(
てき
)
の
敗亡
(
はいばう
)
目前
(
もくぜん
)
にメートルだ、
074
某
(
それがし
)
の
前進
(
ぜんしん
)
を
妨
(
さまた
)
げむとしてメートルの
事
(
こと
)
致
(
いた
)
すと
量見
(
りやうけん
)
ならぬぞ、
075
ジヤンジヤ、
076
ヒエールの
某
(
それがし
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
てるか』
077
鬼彦
(
おにひこ
)
『ジヤンジヤ、
078
ヒエールか、
079
ジヤンジヤ
馬
(
うま
)
か
存
(
ぞん
)
じませぬが
能
(
よ
)
う
貴下
(
あなた
)
はジヤンジヤを
捏
(
こ
)
ねるお
方
(
かた
)
ですな』
080
亀彦
(
かめひこ
)
『エーエ、
081
ジヤンジヤマ
臭
(
くさ
)
い、
082
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
ると
折角
(
せつかく
)
上
(
のぼ
)
つたメートルがヒエールだ、
083
サアサ
行
(
ゆ
)
かう』
084
と
又
(
また
)
もや
行
(
ゆ
)
かむとする。
085
鬼彦
(
おにひこ
)
『アヽア、
086
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さるなと
親切
(
しんせつ
)
に
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げても
貴下
(
あなた
)
は
何処
(
どこ
)
までも
行
(
ゆ
)
かむとする
御
(
おん
)
気色
(
けしき
)
、
087
モウ
斯
(
こ
)
うなつては
ゆかん
乍
(
なが
)
ら
ゆかん
ともする
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬ
哩
(
わい
)
』
088
亀彦
(
かめひこ
)
『エ、
089
洒落
(
しやれ
)
どころかい、
090
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
吐
(
ぬか
)
さずと
此
(
この
)
方
(
はう
)
を
縛
(
しば
)
り
上
(
あ
)
げて
本城
(
ほんじやう
)
へ
担
(
かつ
)
ぎ
込
(
こ
)
まぬか』
091
鬼彦
(
おにひこ
)
『ソヽヽヽそれが
大変
(
たいへん
)
で
御座
(
ござ
)
います、
092
今迄
(
いままで
)
の
私
(
わたくし
)
なれば
貴下
(
あなた
)
等
(
がた
)
が
何程
(
なにほど
)
行
(
ゆ
)
かむと
仰
(
おつ
)
しやつても
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
手柄
(
てがら
)
に
致
(
いた
)
しまするが、
093
最早
(
もはや
)
天地
(
てんち
)
の
因果
(
いんぐわ
)
を
悟
(
さと
)
り
悪
(
あく
)
を
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めた
上
(
うへ
)
は、
094
如何
(
どう
)
して
之
(
これ
)
が
黙
(
だま
)
つて
居
(
を
)
られませう、
095
人
(
ひと
)
の
性
(
せい
)
は
善
(
ぜん
)
で
御座
(
ござ
)
います、
096
決
(
けつ
)
して
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
申
(
まを
)
しませぬ』
097
亀彦
(
かめひこ
)
『ヤア
仕方
(
しかた
)
のない
弱虫
(
よわむし
)
ばかりだナア、
098
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
もコンナ
連中
(
れんちう
)
を
養
(
やしな
)
つて
居
(
を
)
れば
並大抵
(
なみたいてい
)
の
事
(
こと
)
でもあるまい、
099
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
御
(
ご
)
心中
(
しんちう
)
お
可憐相
(
かはいさう
)
である
哩
(
わい
)
』
100
斯
(
か
)
かる
処
(
ところ
)
へ
二本
(
にほん
)
の
角
(
つの
)
をニユツと
生
(
はや
)
した
鬘
(
かづら
)
を
被
(
かぶ
)
つた
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
101
ノソリノソリと
手槍
(
てやり
)
を
提
(
ひつさ
)
げ、
102
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
103
男
(
をとこ
)
『ヤア、
104
鬼彦
(
おにひこ
)
の
大将
(
たいしやう
)
、
105
お
手柄
(
てがら
)
お
手柄
(
てがら
)
、
106
サア
之
(
これ
)
から
吾々
(
われわれ
)
が
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
申
(
まを
)
さう、
107
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
様子
(
やうす
)
如何
(
いか
)
にと
首
(
くび
)
を
長
(
なが
)
うしてお
待
(
ま
)
ちかね、
108
嘸
(
さぞ
)
お
骨折
(
ほねをり
)
で
御座
(
ござ
)
つたらう』
109
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
駕籠
(
かご
)
の
中
(
なか
)
を
一々
(
いちいち
)
覗
(
のぞ
)
きこみ、
110
男
(
をとこ
)
『ヤア
何
(
なん
)
だ、
111
空籠
(
からかご
)
じやないか、
112
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
其
(
その
)
他
(
た
)
は
如何
(
どう
)
なされた、
113
首尾
(
しゆび
)
克
(
よ
)
う
生擒
(
いけど
)
つたとの
御
(
ご
)
注進
(
ちうしん
)
ではなかつたか』
114
鬼虎
(
おにとら
)
、
115
熊鷹
(
くまたか
)
、
116
石熊
(
いしくま
)
、
117
鬼彦
(
おにひこ
)
は
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば
此
(
こ
)
は
如何
(
いか
)
に、
118
今迄
(
いままで
)
盛
(
さかん
)
にメートルを
上
(
あ
)
げて
居
(
ゐ
)
た
亀彦
(
かめひこ
)
の
姿
(
すがた
)
も
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
、
119
国武彦
(
くにたけひこ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
一行
(
いつかう
)
の
影
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
もなくなつて
居
(
ゐ
)
る。
120
鬼彦
(
おにひこ
)
『ヤア、
121
此奴
(
こいつ
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
だ、
122
今迄
(
いままで
)
此
(
この
)
網代籠
(
あじろかご
)
に
乗
(
の
)
せて
来
(
き
)
た
一同
(
いちどう
)
の
神人
(
しんじん
)
、
123
ではない
囚人
(
めしうど
)
何処
(
どこ
)
へ
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しよつたか、
124
合点
(
がてん
)
の
往
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
である
哩
(
わい
)
』
125
熊鷹
(
くまたか
)
『サア
此処
(
ここ
)
は
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふ
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
、
126
目
(
め
)
に
見
(
み
)
えない
悪魔
(
あくま
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
よつて
吾々
(
われわれ
)
が
知
(
し
)
らぬ
間
(
あひだ
)
に
喰
(
く
)
つて
仕舞
(
しま
)
つたのか、
127
但
(
ただし
)
は
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
大将
(
たいしやう
)
の
威勢
(
ゐせい
)
に
恐
(
おそ
)
れて
自然
(
しぜん
)
消滅
(
せうめつ
)
致
(
いた
)
したか、
128
何
(
なん
)
に
付
(
つ
)
けても
合点
(
がてん
)
の
往
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
である
哩
(
わい
)
。
129
ヤア
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
方々
(
かたがた
)
、
130
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
本城
(
ほんじやう
)
へ
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
り
此
(
この
)
由
(
よし
)
早
(
はや
)
く
注進
(
ちうしん
)
致
(
いた
)
すな』
131
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
中
(
なか
)
の
一人
(
ひとり
)
、
132
目
(
め
)
を
円
(
まる
)
くし、
133
男
(
をとこ
)
『ヤア
何
(
なん
)
と
仰
(
あふ
)
せられます、
134
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
注進
(
ちうしん
)
致
(
いた
)
すなとは
合点
(
がてん
)
が
承知
(
しようち
)
仕
(
つかまつ
)
らぬ』
135
熊鷹
(
くまたか
)
『
俺
(
おれ
)
は
昨日
(
きのふ
)
迄
(
まで
)
の
熊鷹
(
くまたか
)
ではない、
136
今日
(
けふ
)
は
立派
(
りつぱ
)
な
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
であるぞ、
137
之
(
これ
)
より
本城
(
ほんじやう
)
へ
逆襲
(
ぎやくしふ
)
なし
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
が
素首
(
そつくび
)
捻切
(
ねぢき
)
り
引
(
ひ
)
き
ちぎ
り
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
の
身魂
(
みたま
)
を
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
より
言向和
(
ことむけやは
)
し、
138
勝鬨
(
かちどき
)
あげるは
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
だ、
139
汝
(
なんぢ
)
は
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
り
吾々
(
われわれ
)
が
寄
(
よ
)
せ
手
(
て
)
の
軍勢
(
いくさ
)
に
向
(
むか
)
つて
防戦
(
ばうせん
)
の
用意
(
ようい
)
オサオサ
怠
(
おこた
)
るな』
140
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
一度
(
いちど
)
にいぶかり
乍
(
なが
)
ら、
141
五人
『ソヽヽヽそれは
真実
(
しんじつ
)
で
御座
(
ござ
)
るか』
142
熊鷹
(
くまたか
)
『
真偽
(
しんぎ
)
は
今
(
いま
)
に
分
(
わか
)
るであらう、
143
汝
(
なんぢ
)
は
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
れ』
144
この
権幕
(
けんまく
)
に
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
見合
(
みあは
)
せて、
145
五人
『
何
(
なん
)
だ、
146
鬼彦
(
おにひこ
)
の
大将
(
たいしやう
)
と
言
(
い
)
ひ、
147
熊鷹
(
くまたか
)
の
阿兄
(
あにい
)
と
言
(
い
)
ひ、
148
其
(
その
)
他
(
た
)
一同
(
いちどう
)
の
顔
(
かほ
)
の
紐
(
ひも
)
は
薩張
(
さつぱり
)
解
(
ほど
)
けて
仕舞
(
しま
)
ひ、
149
今迄
(
いままで
)
の
鬼面
(
おにづら
)
は
忽
(
たちま
)
ち
変
(
へん
)
じて
光
(
ひかり
)
眩
(
まばゆ
)
き
女神
(
めがみ
)
の
様
(
やう
)
な
顔色
(
かほいろ
)
に
堕落
(
だらく
)
して
仕舞
(
しま
)
ひよつた、
150
ハテ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だワイ、
151
善
(
ぜん
)
の
道
(
みち
)
へ
堕落
(
だらく
)
するとコンナ
腰抜
(
こしぬ
)
けに
成
(
な
)
つて
仕舞
(
しま
)
ふものかなア』
152
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
踵
(
きびす
)
を
返
(
かへ
)
し
一目散
(
いちもくさん
)
に
彼方
(
かなた
)
を
指
(
さ
)
して
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
る。
153
鬼彦
(
おにひこ
)
は
衝立
(
つつた
)
ち
上
(
あが
)
り
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
り、
154
鬼彦
『サア
一同
(
いちどう
)
の
方々
(
かたがた
)
、
155
如何
(
いかが
)
で
御座
(
ござ
)
る、
156
何
(
なん
)
だか
拍子抜
(
へうしぬ
)
けがした
様
(
やう
)
には
御座
(
ござ
)
らぬか』
157
一同
(
いちどう
)
『
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
る、
158
折角
(
せつかく
)
張
(
は
)
り
詰
(
つ
)
めた
今迄
(
いままで
)
の
悪心
(
あくしん
)
は
水
(
みづ
)
の
中
(
なか
)
で
屁
(
へ
)
を
放
(
ひ
)
つた
様
(
やう
)
にブルブルと
泡
(
あわ
)
となつて
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せました、
159
誰
(
たれ
)
も
彼
(
かれ
)
もアルコールの
脱
(
ぬ
)
けた
甘酒
(
あまざけ
)
の
様
(
やう
)
になつて
仕舞
(
しま
)
つた、
160
亀彦
(
かめひこ
)
が
意見
(
いけん
)
をして
呉
(
く
)
れたが
之
(
これ
)
も
余
(
あま
)
り
拠
(
よ
)
り
所
(
どころ
)
が
無
(
な
)
い、
161
甘
(
うま
)
い
様
(
やう
)
な
辛
(
から
)
い
様
(
やう
)
な、
162
厳
(
きび
)
しい
様
(
やう
)
な
寛
(
ゆるや
)
かな
様
(
やう
)
な
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
言葉
(
ことば
)
であつた。
163
丁度
(
ちやうど
)
甘酒
(
あまざけ
)
に、
164
生姜
(
しやうが
)
の
汁
(
しる
)
を
入
(
い
)
れて
飲
(
の
)
む
様
(
やう
)
なものだ、
165
親爺
(
おやぢ
)
の
強意見
(
こわいけん
)
を
聞
(
き
)
き
乍
(
なが
)
らソツとお
金
(
かね
)
を
貰
(
もら
)
ふ
様
(
やう
)
な
心持
(
こころもち
)
だつた、
166
サアサ
之
(
これ
)
から
入信
(
にふしん
)
の
記念
(
きねん
)
として
大江山
(
おほえやま
)
の
本城
(
ほんじやう
)
に
駆
(
か
)
け
向
(
むか
)
ひ
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
素首
(
そつくび
)
、
167
オツト、
168
ドツコイ
悪神
(
あくがみ
)
の
魂
(
たま
)
を
抜
(
ぬ
)
いて
助
(
たす
)
けてやらねばなるまい』
169
一同
(
いちどう
)
拍手
(
はくしゆ
)
して
賛成
(
さんせい
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
し、
170
鬼彦
(
おにひこ
)
を
先頭
(
せんとう
)
に
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひつつ、
171
凩
(
こがらし
)
荒
(
すさ
)
ぶ
荒野原
(
あれのはら
)
や
谷川
(
たにがは
)
を
右
(
みぎ
)
に
左
(
ひだり
)
に
跳
(
と
)
び
越
(
こ
)
え
進
(
すす
)
む
折
(
をり
)
しも、
172
忽然
(
こつぜん
)
として
叢
(
くさむら
)
の
中
(
なか
)
より
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でたる
男女
(
だんぢよ
)
の
二人
(
ふたり
)
[
※
高姫と青彦
]
、
173
鬼彦
(
おにひこ
)
一行
(
いつかう
)
の
姿
(
すがた
)
を
目蒐
(
めが
)
けて
冷
(
ひや
)
やかに
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
174
男女二人(高姫、青彦)
『ヤア
貴方
(
あなた
)
は
大江山
(
おほえやま
)
の
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
御
(
おん
)
方
(
かた
)
、
175
然
(
しか
)
るに
今日
(
けふ
)
のお
姿
(
すがた
)
は
如何
(
どう
)
で
御座
(
ござ
)
る。
176
薩張
(
さつぱり
)
台
(
だい
)
なしでは
御座
(
ござ
)
らぬか、
177
玉
(
たま
)
の
落
(
お
)
ちたラムネの
様
(
やう
)
な
判然
(
はつきり
)
致
(
いた
)
さぬ
其
(
その
)
顔付
(
かほつき
)
、
178
狐
(
きつね
)
にでも
欺
(
だま
)
されなさつたか、
179
イヤ、
180
エ、
181
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
の
悪神
(
あくがみ
)
の
口車
(
くちぐるま
)
に
乗
(
の
)
せられて
胆
(
きも
)
をとられ
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かしたのではあるまいか、
182
何
(
いづ
)
れにしても
合点
(
がてん
)
の
往
(
ゆ
)
かぬ
耄碌姿
(
まうろくすがた
)
、
183
耄碌魂
(
まうろくだましひ
)
、
184
脆
(
もろ
)
くも
敵
(
てき
)
に
翻弄
(
ほんろう
)
されてノソノソと
帰
(
かへ
)
り
来
(
く
)
るとは
言
(
い
)
ひ
甲斐
(
がひ
)
なき
鬼彦
(
おにひこ
)
一同
(
いちどう
)
の
面々
(
めんめん
)
、
185
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
大将
(
たいしやう
)
に
於
(
お
)
かせられても
嘸々
(
さぞさぞ
)
お
喜
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばす
事
(
こと
)
であらう、
186
持
(
も
)
つべきものは
家来
(
けらい
)
なりけりと
団栗
(
どんぐり
)
の
様
(
やう
)
な
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
してお
喜
(
よろこ
)
びになるであらう、
187
アハヽヽヽ、
188
オホヽヽヽ』
189
と
笑
(
わら
)
ひ
転
(
こ
)
ける。
190
鬼彦
(
おにひこ
)
はムツト
顔
(
がほ
)
にて、
191
鬼彦
『エー、
192
何処
(
どこ
)
の
何奴
(
どやつ
)
か
知
(
し
)
らぬが
吾々
(
われわれ
)
は
吾々
(
われわれ
)
としての
自由
(
じいう
)
の
権利
(
けんり
)
を
実行
(
じつかう
)
したのだ、
193
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
の
如
(
ごと
)
きものの
容喙
(
ようかい
)
すべき
処
(
ところ
)
でない、
194
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
吐
(
ぬか
)
すと
言霊
(
ことたま
)
の
発射
(
はつしや
)
を
致
(
いた
)
してやらうか。
195
蠑螺
(
さざえ
)
の
如
(
ごと
)
き
鉄拳
(
てつけん
)
、
196
否
(
いな
)
牡丹餅
(
ぼたもち
)
で
貴様
(
きさま
)
の
頬辺
(
ほつぺた
)
を
殴
(
なぐ
)
つてやらうか』
197
男女二人(高姫、青彦)
『アハヽヽヽ、
198
オホヽヽヽ、
199
ヤア
皆
(
みな
)
の
方々
(
かたがた
)
、
200
此方
(
こちら
)
へ
御座
(
ござ
)
れ、
201
サアサ
早
(
はや
)
く』
202
と
岩
(
いは
)
をクレツと
剥
(
めく
)
れば、
203
中
(
なか
)
には
階段
(
かいだん
)
がついて
居
(
ゐ
)
る。
204
鬼彦
(
おにひこ
)
『ヤア
何時
(
いつ
)
も
吾々
(
われわれ
)
のお
通
(
とほ
)
り
路
(
みち
)
だがコンナ
処
(
ところ
)
に
穴
(
あな
)
があるとは
今迄
(
いままで
)
知
(
し
)
らなかつた。
205
こいつは
妙
(
めう
)
だ、
206
ヤイ
鬼虎
(
おにとら
)
、
207
熊鷹
(
くまたか
)
、
208
石熊
(
いしくま
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
面々
(
めんめん
)
一同
(
いちどう
)
、
209
見学
(
けんがく
)
の
為
(
た
)
めに
岩窟
(
がんくつ
)
の
探険
(
たんけん
)
と
出掛
(
でかけ
)
ようではないか』
210
鬼虎
(
おにとら
)
は、
211
鬼虎
『
面白
(
おもしろ
)
からう』
212
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
213
数百
(
すうひやく
)
人
(
にん
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
は
残
(
のこ
)
らず
好奇心
(
かうきしん
)
に
駆
(
か
)
られて
岩窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
にガラガラツと
田螺
(
たにし
)
の
殻
(
から
)
を
山
(
やま
)
の
上
(
うへ
)
から
打
(
ぶ
)
ちあけた
様
(
やう
)
な
勢
(
いきほひ
)
で
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
転
(
ころ
)
げ
込
(
こ
)
むだ。
214
忽然
(
こつぜん
)
として
現
(
あら
)
はれたる
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
は
岩石
(
いはいし
)
の
蓋
(
ふた
)
をピタリと
閉
(
し
)
め
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
千引
(
ちびき
)
の
岩
(
いは
)
をドスンと
載
(
の
)
せ、
215
鬼武彦
『アハヽヽヽ、
216
マア
之
(
これ
)
で
暫
(
しばら
)
くは
安心
(
あんしん
)
だワイ』
217
(
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