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第七章 空籠(からかご)〔五九七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻 篇:第1篇 神軍霊馬 よみ(新仮名遣い):しんぐんれいば
章:第7章 空籠 よみ(新仮名遣い):からかご 通し章番号:597
口述日:1922(大正11)年04月14日(旧03月18日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
鬼彦らはすっかり改心して、神素盞嗚大神の前に感謝を述べた。しかし、亀彦が大江山本城に進むため、このまま囚人の駕籠に乗せて本城まで運ぶように頼むと、多勢に無勢を心配して、進軍を思い直すようにと忠告した。
そこへ、本城から鬼雲彦の手下らが迎え出てきた。すると不思議にもそれまで鬼彦らと話をしていた亀彦ら囚われの一行は、姿が消えてしまった。
しかし鬼彦は、迎えに来た鬼雲彦の手下らに対して、自分たちは三五教に改心したから、そう鬼雲彦に伝えるように、と述べて返してしまう。
そこへ、二人の男女が現れて、鬼彦を挑発すると、地下の洞窟に誘い入れた。しかし鬼武彦が現れて、洞窟の入口に岩で蓋をし、鬼彦一行と怪しい男女の出口をふさいでしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-27 17:05:22 OBC :rm1607
愛善世界社版:90頁 八幡書店版:第3輯 433頁 修補版: 校定版:94頁 普及版:38頁 初版: ページ備考:愛世版・校定版・普及版ともに「籠」を使っている。
001 秋山彦(あきやまひこ)(こころ)()めたる宣伝歌(せんでんか)鬼彦(おにひこ)002鬼虎(おにとら)003石熊(いしくま)004熊鷹(くまたか)(その)()面々(めんめん)(こころ)(そこ)より前非(ぜんぴ)()い、005一行(いつかう)(まへ)鰭伏(ひれふ)して両手(りやうて)(あは)せ、006覚束(おぼつか)なき言霊(ことたま)(いき)(かた)めて秋山彦(あきやまひこ)(あと)につき天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)し、007宣伝歌(せんでんか)(とな)帰順(きじゆん)()(へう)したりけり。
008鬼彦(おにひこ)素盞嗚(すさのをの)(みこと)(さま)(はじ)()一同(いちどう)方々(かたがた)()(れい)(まを)()げます、009吾々(われわれ)(ごと)悪魔(あくま)容器(いれもの)(ゆる)(がた)罪人(ざいにん)危難(きなん)をお(すく)(くだ)され、010(その)(うへ)にも大慈(だいじ)大悲(だいひ)大神(おほかみ)大御心(おほみこころ)(もつ)身体(しんたい)不自由(ふじゆう)吾々(われわれ)をお(たす)(くだ)されし(おん)(こころざし)(なん)()(れい)(まを)()げて(よろ)しいやら、011今後(こんご)(こころ)(そこ)より()(あらた)めます、012サアサ何卒(なにとぞ)一刻(いつこく)(はや)(この)()()立退(たちの)(くだ)さいませ、013(この)魔窟(まくつ)(はら)をズツト(おく)(すす)みますれば(いよいよ)鬼雲彦(おにくもひこ)岩窟(いはや)棲家(すみか)014(また)立派(りつぱ)なる本城(ほんじやう)御座(ござ)いまする、015其処(そこ)(まゐ)れば数多(あまた)邪人(まがびと)(ども)手具脛(てぐすね)()いて()(かま)()れば、016如何(いか)勇猛(ゆうまう)なる貴神(あなた)(さま)多少(たせう)()(くるし)みの(こと)(ぞん)じますれば、017吾々(われわれ)言葉(ことば)をお(もち)(くだ)さいまして、018何卒(なにとぞ)(この)()より()(のが)(くだ)さいますよう』
019真心(まごころ)(おもて)(あら)はして忠告(ちゆうこく)する。020亀彦(かめひこ)揶揄(からかひ)半分(はんぶん)に、
021亀彦『ホー鬼彦(おにひこ)大将(たいしやう)022随分(ずゐぶん)智慧(ちゑ)()(まは)るぢやないか、023親切(しんせつ)ごかしに吾々(われわれ)勇将(ゆうしやう)撃退(げきたい)暫時(ざんじ)猶予(いうよ)(むさぼ)らむとする(ずる)計略(けいりやく)024(いま)此処(ここ)(おい)(われ)一行(いつかう)(くるし)めむとせし(ところ)025天罰(てんばつ)立所(たちどころ)(いた)(あやま)つて味方(みかた)石弾(いしだま)026征矢(そや)(あた)零敗(ゼロはい)大見当(おほあて)(ちが)ひを(えん)()()りしたと()えるワイ。027(しか)(なが)吾々(われわれ)(けつ)して婆羅門(ばらもん)(けう)(ごと)く、028(いな)鬼雲彦(おにくもひこ)(ごと)(ぜん)仮面(かめん)(かぶ)天下(てんか)攪乱(かくらん)せむとするものに(あら)ず、029(これ)より鬼雲彦(おにくもひこ)面会(めんくわい)(かれ)をして(なんぢ)()(ごと)(こころ)(そこ)より()(あらた)めしめねばならぬ、030(いま)よりは吾々(われわれ)一行(いつかう)(もと)(ごと)くに高手(たかて)小手(こて)(いまし)め、031()苦労(くらう)(なが)ら、032(この)網代籠(あじろかご)()せて(かつ)いで()つて()れよ』
033鬼彦(おにひこ)『イヤ滅相(めつさう)な、034貴神(あなた)(がた)(ごと)きお(かた)本城(ほんじやう)(むか)()れるが最後(さいご)035天地(てんち)転動(てんどう)大騒動(おほさうどう)036大江山(おほえやま)城内(じやうない)乱離(らんり)骨灰(こつぱい)037落花(らくくわ)微塵(みぢん)惨状(さんじやう)演出(えんしゆつ)するは明鏡(めいきやう)(もの)(てら)して余蘊(ようん)なきが(ごと)しであります、038何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)(この)()をお()()(くだ)さいませ』
039亀彦(かめひこ)貴様(きさま)()()鬼雲彦(おにくもひこ)贔屓(ひいき)(いた)して()るな、040ヤア感心(かんしん)々々(かんしん)041一旦(いつたん)大将(たいしやう)(たの)みた(もの)(たい)してそれ()けの心遣(こころづか)ひを(いた)すは人間(にんげん)真心(まごころ)発露(はつろ)である。042(しか)(なが)此処迄(ここまで)(おも)()つたる吾々(われわれ)心中(しんちゆう)043中途(ちうと)(こま)(かしら)()(なほ)(こと)男子(だんし)として(しの)(がた)(ところ)だ、044如何(どう)しても()かねば吾々(われわれ)(これ)より強行(きやうかう)(てき)行脚(あんぎや)(つづ)大江山(おほえやま)本城(ほんじやう)立向(たちむか)ふであらう』
045とそろそろ(あゆ)(はじ)めたれば、046鬼彦(おにひこ)泣声(なきごゑ)()し、
047鬼彦『モシモシ、048タヽヽヽ大変(たいへん)御座(ござ)います、049如何(いか)貴神(あなた)(がた)英雄(えいゆう)なればとて多勢(たぜい)(たい)する無勢(ぶぜい)050()苦戦(くせん)(ほど)(さつ)(まを)す』
051真心(まごころ)より()める。052部下(ぶか)一同(いちどう)驚異(きやうい)面相(めんさう)陳列(ちんれつ)して鬼彦(おにひこ)(かほ)をうち(まも)()る。
053亀彦(かめひこ)(なん)だ、054女々(めめ)しい(こと)()ふな、055貴様(きさま)鬼雲彦(おにくもひこ)左守(さもり)(まで)()はれた(をとこ)じやないか、056それに(なん)ぞや、057亡国(ばうこく)(てき)哀音(あいおん)()絶望(ぜつばう)(てき)悲調(ひてう)(なみだ)(たた)へて吾々(われわれ)(とど)めむとするは(その)()()ない、058(これ)には(なに)(ふか)謀計(ぼうけい)のある(こと)ならむ、059(われ)()一行(いつかう)自由(じいう)自在(じざい)山中(さんちゆう)徒歩(とほ)権利(けんり)(いう)す、060サアサ()一同(いちどう)(さま)061(すす)みて(まゐ)りませう。062仮令(たとへ)鬼雲彦(おにくもひこ)百万(ひやくまん)大軍(たいぐん)(よう)(ふせ)(たたか)うとも(この)亀彦(かめひこ)(ただ)一人(ひとり)あれば沢山(たくさん)なり。063強風(きやうふう)砂塵(さぢん)()()ぐる(ごと)く、064(わが)一言(いちごん)息吹(いぶき)によつて根底(こんてい)より()(あらた)めしめ、065悪魔(あくま)巣窟(さうくつ)をして天国(てんごく)楽園(らくゑん)(くわ)せしめむ。066ヤア面白(おもしろ)し、067(いさ)ましし』
068独語(ひとりご)ちつつ(かた)(いか)らし気焔(きえん)万丈(ばんぢやう)(あた)るべからず、069(あし)()()らし雄猛(をたけ)びする。
070鬼彦(おにひこ)亀彦(かめひこ)(さま)071大変(たいへん)(いきほひ)でメートルをお()げになつて()られますな』
072亀彦(かめひこ)『オウさうだ、073(てき)敗亡(はいばう)目前(もくぜん)にメートルだ、074(それがし)前進(ぜんしん)(さまた)げむとしてメートルの(こと)(いた)すと量見(りやうけん)ならぬぞ、075ジヤンジヤ、076ヒエールの(それがし)(なん)心得(こころえ)てるか』
077鬼彦(おにひこ)『ジヤンジヤ、078ヒエールか、079ジヤンジヤ(うま)(ぞん)じませぬが()貴下(あなた)はジヤンジヤを()ねるお(かた)ですな』
080亀彦(かめひこ)『エーエ、081ジヤンジヤマ(くさ)い、082愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して()ると折角(せつかく)(のぼ)つたメートルがヒエールだ、083サアサ()かう』
084(また)もや()かむとする。
085鬼彦(おにひこ)『アヽア、086()つて(くだ)さるなと親切(しんせつ)(まを)()げても貴下(あなた)何処(どこ)までも()かむとする(おん)気色(けしき)087モウ()うなつてはゆかん(なが)ゆかんともする(こと)出来(でき)ませぬ(わい)
088亀彦(かめひこ)『エ、089洒落(しやれ)どころかい、090愚図(ぐづ)々々(ぐづ)(ぬか)さずと(この)(はう)(しば)()げて本城(ほんじやう)(かつ)()まぬか』
091鬼彦(おにひこ)『ソヽヽヽそれが大変(たいへん)御座(ござ)います、092今迄(いままで)(わたくし)なれば貴下(あなた)(がた)何程(なにほど)()かむと(おつ)しやつても()れて()つて手柄(てがら)(いた)しまするが、093最早(もはや)天地(てんち)因果(いんぐわ)(さと)(あく)()(あらた)めた(うへ)は、094如何(どう)して(これ)(だま)つて()られませう、095(ひと)(せい)(ぜん)御座(ござ)います、096(けつ)して(わる)(こと)(まを)しませぬ』
097亀彦(かめひこ)『ヤア仕方(しかた)のない弱虫(よわむし)ばかりだナア、098鬼雲彦(おにくもひこ)もコンナ連中(れんちう)(やしな)つて()れば並大抵(なみたいてい)(こと)でもあるまい、099(おも)へば(おも)へば鬼雲彦(おにくもひこ)()心中(しんちう)可憐相(かはいさう)である(わい)
100 ()かる(ところ)二本(にほん)(つの)をニユツと(はや)した(かづら)(かぶ)つた()(にん)(をとこ)101ノソリノソリと手槍(てやり)(ひつさ)げ、102(この)()(あら)はれ(きた)り、
103(をとこ)『ヤア、104鬼彦(おにひこ)大将(たいしやう)105手柄(てがら)手柄(てがら)106サア(これ)から吾々(われわれ)()案内(あんない)(まを)さう、107鬼雲彦(おにくもひこ)(おん)大将(たいしやう)様子(やうす)如何(いか)にと(くび)(なが)うしてお()ちかね、108(さぞ)骨折(ほねをり)御座(ござ)つたらう』
109()(なが)駕籠(かご)(なか)一々(いちいち)(のぞ)きこみ、
110(をとこ)『ヤア(なん)だ、111空籠(からかご)じやないか、112素盞嗚(すさのをの)(みこと)(その)()如何(どう)なされた、113首尾(しゆび)()生擒(いけど)つたとの()注進(ちうしん)ではなかつたか』
114 鬼虎(おにとら)115熊鷹(くまたか)116石熊(いしくま)117鬼彦(おにひこ)四辺(あたり)()れば()如何(いか)に、118今迄(いままで)(さかん)にメートルを()げて()亀彦(かめひこ)姿(すがた)素盞嗚(すさのをの)(みこと)119国武彦(くにたけひこ)(その)()一行(いつかう)(かげ)(かたち)もなくなつて()る。
120鬼彦(おにひこ)『ヤア、121此奴(こいつ)不思議(ふしぎ)だ、122今迄(いままで)(この)網代籠(あじろかご)()せて()一同(いちどう)神人(しんじん)123ではない囚人(めしうど)何処(どこ)姿(すがた)(かく)しよつたか、124合点(がてん)()かぬ(こと)である(わい)
125熊鷹(くまたか)『サア此処(ここ)()()魔窟(まくつ)(はら)126()()えない悪魔(あくま)()()よつて吾々(われわれ)()らぬ(あひだ)()つて仕舞(しま)つたのか、127(ただし)鬼雲彦(おにくもひこ)大将(たいしやう)威勢(ゐせい)(おそ)れて自然(しぜん)消滅(せうめつ)(いた)したか、128(なん)()けても合点(がてん)()かぬ(こと)である(わい)129ヤア()(にん)方々(かたがた)130(いち)()(はや)本城(ほんじやう)()(かへ)(この)(よし)(はや)注進(ちうしん)(いた)すな』
131 ()(にん)(なか)一人(ひとり)132()(まる)くし、
133(をとこ)『ヤア(なん)(あふ)せられます、134(いち)()(はや)注進(ちうしん)(いた)すなとは合点(がてん)承知(しようち)(つかまつ)らぬ』
135熊鷹(くまたか)(おれ)昨日(きのふ)(まで)熊鷹(くまたか)ではない、136今日(けふ)立派(りつぱ)三五教(あななひけう)信者(しんじや)であるぞ、137(これ)より本城(ほんじやう)逆襲(ぎやくしふ)なし鬼雲彦(おにくもひこ)素首(そつくび)捻切(ねぢき)()ちぎ八岐(やまた)大蛇(をろち)身魂(みたま)(かた)(ぱし)より言向和(ことむけやは)し、138勝鬨(かちどき)あげるは(またた)(うち)だ、139(なんぢ)一刻(いつこく)(はや)(この)()()()吾々(われわれ)()()軍勢(いくさ)(むか)つて防戦(ばうせん)用意(ようい)オサオサ(おこた)るな』
140 ()(にん)一度(いちど)にいぶかり(なが)ら、
141五人『ソヽヽヽそれは真実(しんじつ)御座(ござ)るか』
142熊鷹(くまたか)真偽(しんぎ)(いま)(わか)るであらう、143(なんぢ)(はや)(この)()()()れ』
144 この権幕(けんまく)()(にん)(たがひ)(かほ)見合(みあは)せて、
145五人(なん)だ、146鬼彦(おにひこ)大将(たいしやう)()ひ、147熊鷹(くまたか)阿兄(あにい)()ひ、148(その)()一同(いちどう)(かほ)(ひも)薩張(さつぱり)(ほど)けて仕舞(しま)ひ、149今迄(いままで)鬼面(おにづら)(たちま)(へん)じて(ひかり)(まばゆ)女神(めがみ)(やう)顔色(かほいろ)堕落(だらく)して仕舞(しま)ひよつた、150ハテ(こま)つた(こと)だワイ、151(ぜん)(みち)堕落(だらく)するとコンナ腰抜(こしぬ)けに()つて仕舞(しま)ふものかなア』
152 ()(にん)(きびす)(かへ)一目散(いちもくさん)彼方(かなた)()して()(かへ)る。153鬼彦(おにひこ)衝立(つつた)(あが)三五教(あななひけう)宣伝歌(せんでんか)(うた)(をは)り、
154鬼彦『サア一同(いちどう)方々(かたがた)155如何(いかが)御座(ござ)る、156(なん)だか拍子抜(へうしぬ)けがした(やう)には御座(ござ)らぬか』
157一同(いちどう)左様(さやう)御座(ござ)る、158折角(せつかく)()()めた今迄(いままで)悪心(あくしん)(みづ)(なか)()()つた(やう)にブルブルと(あわ)となつて()()せました、159(たれ)(かれ)もアルコールの()けた甘酒(あまざけ)(やう)になつて仕舞(しま)つた、160亀彦(かめひこ)意見(いけん)をして()れたが(これ)(あま)()(どころ)()い、161(うま)(やう)(から)(やう)な、162(きび)しい(やう)(ゆるや)かな(やう)(わけ)(わか)らぬ言葉(ことば)であつた。163丁度(ちやうど)甘酒(あまざけ)に、164生姜(しやうが)(しる)()れて()(やう)なものだ、165親爺(おやぢ)強意見(こわいけん)()(なが)らソツとお(かね)(もら)(やう)心持(こころもち)だつた、166サアサ(これ)から入信(にふしん)記念(きねん)として大江山(おほえやま)本城(ほんじやう)()(むか)鬼雲彦(おにくもひこ)素首(そつくび)167オツト、168ドツコイ悪神(あくがみ)(たま)()いて(たす)けてやらねばなるまい』
169 一同(いちどう)拍手(はくしゆ)して賛成(さんせい)()(へう)し、170鬼彦(おにひこ)先頭(せんとう)宣伝歌(せんでんか)(うた)ひつつ、171(こがらし)(すさ)荒野原(あれのはら)谷川(たにがは)(みぎ)(ひだり)()()(すす)(をり)しも、172忽然(こつぜん)として(くさむら)(なか)より(あら)はれ()でたる男女(だんぢよ)二人(ふたり)高姫と青彦173鬼彦(おにひこ)一行(いつかう)姿(すがた)目蒐(めが)けて(ひや)やかに(わら)(なが)ら、
174男女二人(高姫、青彦)『ヤア貴方(あなた)大江山(おほえやま)英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)(きこ)えたる(おん)(かた)175(しか)るに今日(けふ)のお姿(すがた)如何(どう)御座(ござ)る。176薩張(さつぱり)(だい)なしでは御座(ござ)らぬか、177(たま)()ちたラムネの(やう)判然(はつきり)(いた)さぬ(その)顔付(かほつき)178(きつね)にでも(だま)されなさつたか、179イヤ、180エ、181素盞嗚(すさのをの)(みこと)悪神(あくがみ)口車(くちぐるま)()せられて(きも)をとられ(こし)()かしたのではあるまいか、182(いづ)れにしても合点(がてん)()かぬ耄碌姿(まうろくすがた)183耄碌魂(まうろくだましひ)184(もろ)くも(てき)翻弄(ほんろう)されてノソノソと(かへ)()るとは()甲斐(がひ)なき鬼彦(おにひこ)一同(いちどう)面々(めんめん)185鬼雲彦(おにくもひこ)大将(たいしやう)()かせられても嘸々(さぞさぞ)(よろこ)(あそ)ばす(こと)であらう、186()つべきものは家来(けらい)なりけりと団栗(どんぐり)(やう)(なみだ)(なが)してお(よろこ)びになるであらう、187アハヽヽヽ、188オホヽヽヽ』
189(わら)()ける。190鬼彦(おにひこ)はムツト(がほ)にて、
191鬼彦『エー、192何処(どこ)何奴(どやつ)()らぬが吾々(われわれ)吾々(われわれ)としての自由(じいう)権利(けんり)実行(じつかう)したのだ、193(なんぢ)()(ごと)きものの容喙(ようかい)すべき(ところ)でない、194愚図(ぐづ)々々(ぐづ)(ぬか)すと言霊(ことたま)発射(はつしや)(いた)してやらうか。195蠑螺(さざえ)(ごと)鉄拳(てつけん)196(いな)牡丹餅(ぼたもち)貴様(きさま)頬辺(ほつぺた)(なぐ)つてやらうか』
197男女二人(高姫、青彦)『アハヽヽヽ、198オホヽヽヽ、199ヤア(みな)方々(かたがた)200此方(こちら)御座(ござ)れ、201サアサ(はや)く』
202(いは)をクレツと(めく)れば、203(なか)には階段(かいだん)がついて()る。
204鬼彦(おにひこ)『ヤア何時(いつ)吾々(われわれ)のお(とほ)(みち)だがコンナ(ところ)(あな)があるとは今迄(いままで)()らなかつた。205こいつは(めう)だ、206ヤイ鬼虎(おにとら)207熊鷹(くまたか)208石熊(いしくま)(その)()面々(めんめん)一同(いちどう)209見学(けんがく)()めに岩窟(がんくつ)探険(たんけん)出掛(でかけ)ようではないか』
210 鬼虎(おにとら)は、
211鬼虎面白(おもしろ)からう』
212(さき)()つて(くだ)()く。213数百(すうひやく)(にん)荒男(あらをとこ)(のこ)らず好奇心(かうきしん)()られて岩窟(がんくつ)(なか)にガラガラツと田螺(たにし)(から)(やま)(うへ)から()ちあけた(やう)(いきほひ)一人(ひとり)(のこ)らず(ころ)()むだ。214忽然(こつぜん)として(あら)はれたる鬼武彦(おにたけひこ)岩石(いはいし)(ふた)をピタリと()(その)(うへ)千引(ちびき)(いは)をドスンと()せ、
215鬼武彦『アハヽヽヽ、216マア(これ)(しばら)くは安心(あんしん)だワイ』
217大正一一・四・一四 旧三・一八 北村隆光録)
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