霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 (おも)はぬ(よろこび)〔六一〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻 篇:第3篇 真奈為ケ原 よみ(新仮名遣い):まないがはら
章:第20章 思はぬ歓 よみ(新仮名遣い):おもわぬよろこび 通し章番号:610
口述日:1922(大正11)年04月16日(旧03月20日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
落下した火団は大小無数の宝玉となると、悦子姫の体に吸収された。悦子姫は得も言われぬ神格と威厳を身につけた。そして、自分は日の出神の神霊を身に浴び、これより一人真名井ケ嶽に向かって進むと宣言して姿が見えなくなってしまった。
悦子姫に行かれてしまった一同は茫然とするが、鬼虎は仲間とおかしな掛け合いをしている。そのうちに夜が明けて、とにかく先へ進もうと一同は岩滝めがけて走り出した。
岩公は地理を知っているため、川から舟で先に回った。岩公の案内で、一行は日暮れ前に比治山の手前についた。
一行は近くの家に一夜の宿を乞いに行く。そこは去年、鬼虎たちが悪を働き、娘をさらっていった平助とお楢の家であった。平助爺は警戒して一行を泊めようとしない。
岩公は、鬼虎、鬼彦らの悪行のせいで断られるのだ、と非難する。そこへ、悦子姫が一人の娘を連れてやってきた。それはこの家のさらわれた娘・お節であった。平助とお楢は孫娘が帰ってきたのを見て喜んだ。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-02-10 17:31:48 OBC :rm1620
愛善世界社版:253頁 八幡書店版:第3輯 495頁 修補版: 校定版:258頁 普及版:115頁 初版: ページ備考:
001 竜灯松(りうとうまつ)(ふもと)落下(らくか)爆発(ばくはつ)したる大火光(だいくわくわう)(だん)大小(だいせう)無数(むすう)(たま)となり、002()()容積(ようせき)(げん)(つひ)には(ちひ)さき、003(きん)004(ぎん)005水晶(すゐしやう)006瑠璃(るり)007瑪瑙(めなう)008硨磲(しやこ)009翡翠(ひすい)(ごと)光玉(くわうぎよく)となり、010珠数繋(じゆずつな)ぎとなつて悦子姫(よしこひめ)全身(ぜんしん)囲繞(ゐぜう)(たちま)体内(たいない)吸収(きふしう)されし(ごと)(のこ)らず浸潤(しんじゆん)(をは)りける。011(その)刹那(せつな)悦子姫(よしこひめ)()()はれぬ神格(しんかく)(くは)はり(やさ)しき(うち)(をか)すべからざる威厳(ゐげん)(そな)へ、012言葉(ことば)さへ(とみ)荘重(さうちよう)()(くは)へて、013一見(いつけん)別人(べつじん)(ごと)(おも)はれ、014無限(むげん)霊光(れいくわう)全身(ぜんしん)より発射(はつしや)するに(いた)りぬ。015一同(いちどう)驚異(きやうい)(まなこ)見張(みは)(あたま)(かたむ)(くち)(きは)めて讃嘆(さんたん)する。016悦子姫(よしこひめ)儼然(げんぜん)として立上(たちあが)り、
017悦子姫『ハア一同(いちどう)方々(かたがた)018(わらは)()出神(でのかみ)神霊(しんれい)()()びました。019(これ)より真名井(まなゐ)(だけ)(むか)つて(すす)みませう。020前途(ぜんと)には大江山(おほえやま)魔神(まがみ)残党(ざんたう)021処々(ところどころ)散在(さんざい)()れば、022(いづ)れも十二分(じふにぶん)()注意(ちうい)あれ、023(わらは)(これ)より一足先(ひとあしさき)(まゐ)ります、024左様(さやう)なら』
025()ふより(はや)く、026()()(ごと)()()姿(すがた)(かく)したりける。
027 (あと)見送(みおく)つて一同(いちどう)は、028アーアーアーと歎息(たんそく)(いき)(もら)すのみなりき。
029音彦(おとひこ)折角(せつかく)此処迄(ここまで)同道(どうどう)(まを)して()たのに、030悦子姫(よしこひめ)さまは無限(むげん)神徳(しんとく)()()び、031吾々(われわれ)(あと)(のこ)して()出発(しゆつぱつ)になつた。032随分(ずゐぶん)拍子抜(へうしぬ)けのしたものだ。033万緑(ばんりよく)叢中(そうちう)紅一点(こういつてん)のナイス、034(はな)(あざむ)悦子姫(よしこひめ)さまに()つとけぼりを()はされて()(つら)(かは)だ、035(しち)(しやく)男子(だんし)(ほとん)顔色(がんしよく)なしで御座(ござ)(わい)
036岩公(いはこう)本当(ほんたう)にさうだなア、037せめて岩公(いはこう)だけなりともお(とも)につれて()つて(くだ)さりさうなものだのに、038(あま)水臭(みづくさ)いなア』
039音彦(おとひこ)『お(まへ)のやうな純朴(じゆんぼく)人間(にんげん)()()はないから、040()れて()つて(くだ)さらないワ、041音彦(おとひこ)でさへも、042置去(おきざ)りに()うたのだもの』
043岩公(いはこう)(うま)赤子(あかご)のやうな、044貴方(あなた)(おほせ)(とほ)純朴(じゆんぼく)吾々(われわれ)何故(なぜ)()れて()つて(くだ)さらないのだらうなア』
045鬼虎(おにとら)岩公(いはこう)046貴様(きさま)余程(よほど)目出度(めでた)(やつ)だ、047音彦(おとひこ)さまが純朴(じゆんぼく)仰有(おつしや)つたのは、048()()けた(ひと)()(こと)婉曲(ゑんきよく)善言(ぜんげん)美詞(びし)()(なほ)されたのだよ。049(つま)純朴(じゆんぼく)()ふのは社会(しやくわい)訓練(くんれん)()ない、050元始(げんし)(てき)犬猫(いぬねこ)同様(どうやう)人間(にんげん)()(こと)だよ』
051岩公(いはこう)馬鹿(ばか)()ふな、052音彦(おとひこ)さまは蹴爪(けづめ)()えた宣伝使(せんでんし)だ、053三五教(あななひけう)骨董品(こつとうひん)(てき)(こけ)()えた、054洗錬(せんれん)洗錬(せんれん)(くは)えた、055(おし)(おさ)れもせぬ宣伝使(せんでんし)(さま)ぢや。056滅多(めつた)(こと)仰有(おつしや)るものか、057オイ鬼虎(おにとら)058それはお(まへ)(ひが)根性(こんじやう)()ふものだよ。059この岩公(いはこう)()()えても、060何事(なにごと)善意(ぜんい)解釈(かいしやく)するのだ、061物事(ものごと)悪意(あくい)()れば(なに)(みな)(あく)になつて仕舞(しま)ふワ、062貴様(きさま)改心(かいしん)(さか)()えられぬと()えるワイ』
063鬼虎(おにとら)『それでも岩公(いはこう)064よく(かんが)へてみよ、065不思議(ふしぎ)千万(せんばん)(こと)(ばか)りぢやないか、066()(たま)(いく)つとも(かず)(かぎ)りなく分離(ぶんり)して、067(しまひ)(はて)には容貌(みめかたち)(うるは)しき悦子姫(よしこひめ)さまに、068(みな)染着(せんちやく)して仕舞(しま)つたぢやないか、069(かみ)(さま)御霊(みたま)でも矢張(やはり)吾々(われわれ)のやうな(かたち)(きたな)い、070(たま)(うつく)しい(やつ)よりも、071姿(すがた)綺麗(きれい)なナイスがお(すき)だと()える、072あゝコンナ(こと)ならなぜ(をんな)(うま)れて()なかつたらう、073エヽ天地(てんち)(かみ)(さま)(きこ)えませぬ(わい)074(とと)さま、075(かか)さま、076何故(なぜ)(わたくし)絶世(ぜつせい)のナイスに()みて(くだ)さらなかつたのです、077(うら)めしう御座(ござ)います、078オンオンオン』
079鬼彦(おにひこ)『アハヽヽヽ、080(なに)(ぬか)すのだい鬼虎(おにとら)(やつ)081(いは)幽霊(いうれい)(やう)(つら)をして、082(かみ)(さま)(まを)すに(およ)ばず、083大江山(おほえやま)のお(ばけ)だつて貴様(きさま)()面相(めんさう)()たら、084()(あし)(さん)(あし)もふむに(きま)つて()るワイ、085ソンナ謀反気(むほんぎ)()さずに、086神妙(しんめう)に、087醜面児(ひよつとこ)醜面児(ひよつとこ)らしくして()るのだよ』
088鬼虎(おにとら)『エヽ(ひと)()うては(ひと)かち()まれ、089(おれ)()になつて()()れてもよいぢやないか。090(となり)のお多福(かめ)には肱鉄砲(ひぢでつぱう)(くら)ひ、091(やつ)には(しり)をふられ、092(かかあ)にや()げられ、093(なん)とした因果(いんぐわ)(うま)(つき)だらう、094(おれ)三五教(あななひけう)信者(しんじや)になつたのもどうぞして(うつく)しい(をとこ)になり、095天下(てんか)のナイスをして、096(この)鬼虎(おにとら)視線(しせん)集注(しふちう)させようと(おも)ふばかりに入信(にふしん)したのだ。097アーアー、098(かみ)さまも(かほ)姿(すがた)ばかりは()うする(こと)出来(でき)ぬのかなア、099(なさけ)ない、100コンナ(こと)なら()ンだが(まし)だワイ』
101一同(いちどう)『アハヽヽヽ』
102鬼虎(おにとら)『ヤイヤイ、103(まへ)(たち)(なに)(わら)ふのだ、104(おれ)はこれでも真剣(しんけん)だぞ、105一生(いつしやう)懸命(けんめい)になつてるのだ、106(あんま)馬鹿(ばか)にして(もら)ふまいかい』
107鬼彦(おにひこ)憂愁(いうしう)煩悶(はんもん)権利(けんり)貴様(きさま)自由(じいう)だ、108(おれ)(たち)(べつ)圧迫(あつぱく)もせなければ干渉(かんせう)もせないよ、109(ちから)(いつ)ぱい愁歎場(しうたんば)(まく)(ひら)いて吾々(われわれ)一同(いちどう)に、110永当(えいたう)々々(えいたう)()観覧(くわんらん)(きよう)するのがよからうよ、111観覧(くわんらん)するのもせぬのも吾々(われわれ)の、112これ(また)自由(じいう)権利(けんり)だ、113アハヽヽヽ』
114音彦(おとひこ)『ヤア、115からりと()()けた、116サア日輪(にちりん)(さま)()()うて、117(また)テク継続(けいぞく)事業(じげふ)をやらうかなア』
118加米彦(かめひこ)『サア、119竜灯松(りうとうまつ)基点(きてん)として岩滝(いはたき)(まで)120マラソン競争(きやうそう)だ。121腹帯(はらおび)(しつか)()めて、122草鞋(わらぢ)(しつか)(むす)び、123中途(ちうと)落伍(らくご)しないやうに、124駆歩(かけあし)だ。125オイチ()(さん)
126 一同(いちどう)岩滝(いはたき)目蒐(めが)けて膝栗毛(ひざくりげ)鞭打(むちう)ち、127一目散(いちもくさん)(はし)()く。128岩公(いはこう)129後方(うしろ)より、
130岩公『オイオイ()つて()れ、131(おれ)一人(ひとり)(おと)して()くのか、132折角(せつかく)(かみ)(さま)がお(つく)(あそ)ばした大切(たいせつ)人間(にんげん)(さま)を、133粗末(そまつ)にして(みち)(はた)(こぼ)して()くと()(こと)があるものかい、134オイオイ人間(にんげん)一匹(いつぴき)(たもと)にでも()れて一緒(いつしよ)(はし)つて()れい、135(おれ)()うしたものか交通(かうつう)機関(きくわん)何処(どこ)かに損傷(そんしやう)(きた)したと()えて、136テクれない(わい)
137一同(?)『エイ(やかま)しい()ふな、138愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して()ると決勝点(けつしようてん)(ひと)してやられる(わい)
139一生(いつしやう)懸命(けんめい)(あと)をも()(くも)(かすみ)()()したり。
140岩公(いはこう)『アヽ、141馬鹿(ばか)ぢやなア、142()いでも()辛労(しんらう)をしよつて、143此処(ここ)から(ふね)()つて(あま)橋立(はしだて)()岩滝(いはたき)へお(さき)にご安着(あんちやく)だ。144(ひと)(みな)(やつ)威嚇(おどか)して度肝(どぎも)()いてやらうかな』
145()ひつつ岩公(いはこう)(まつ)(した)(つな)ぎある(ふね)(つな)(ほど)き、146()(あやつ)りながら岩滝(いはたき)()して悠々(いういう)(すべ)()く。147(ふね)(やうや)岩滝(いはたき)()きぬ。
148岩公(いはこう)『アヽ智慧(ちゑ)()らぬ(やつ)可憐(かはい)さうなものだワイ、149この岩公(いはこう)(むかし)船頭(せんどう)をして()つたお(かげ)地理(ちり)(くは)しい。150(ゆみ)(つる)(ほど)(ちが)道程(みちのり)151何程(なにほど)(はし)つたつて()()きつこがあるものか、152マア(ゆつ)くりと成相山(なりあひざん)にでも(のぼ)つて股覗(またのぞ)きでもしてやらうかい』
153 ()かる(ところ)音彦(おとひこ)一行(いつかう)(いき)せき()つて(はし)(きた)り、
154音彦(おとひこ)『サアサア(みな)さま、155一寸(ちよつと)一服(いつぷく)(いた)しませう、156随分(ずゐぶん)(はし)りましたなア』
157鬼彦(おにひこ)随分(ずゐぶん)(あせ)()ましたよ、158それにつけても岩公(いはこう)(やつ)159今頃(いまごろ)途中(とちう)屁古垂(へこた)れてオイオイ(おれ)(こぼ)して()くのかなぞと怨言(うらみごと)(なら)べて()るぢやらう。160足弱(あしよわ)()れて()ると(かへ)つて迷惑(めいわく)だ、161彼奴(あいつ)性来(うまれつき)跛者(びつこ)だから、162マラソン競争(きやうそう)不適任(ふてきにん)だ』
163鬼彦(おにひこ)岩公(いはこう)(やつ)164片方(かたつぽ)(あし)(みじか)いものだから、165彼奴(あいつ)(はし)らすと(まる)(たこ)芋畑(いもばたけ)から()()すやうなスタイルだ、166随分(ずゐぶん)奇妙(きめう)奇天烈(きてれつ)なものだナア、167アハヽヽヽ』
168 岩公(いはこう)169()(しげ)みの(なか)より(あたま)ばかり()()して、
170岩公(いはこう)岩公(いはこう)(あし)片方(かたつぽ)(みじか)いのじやない、171片方(かたつぽ)(なが)いのじやぞ』
172鬼彦(おにひこ)『ヤ、173怪体(けたい)な、174岩公(いはこう)(こゑ)じやないか、175何時(いつ)()()よつたのだ、176化物(ばけもの)()たやうな(やつ)じやなア』
177岩公(いはこう)『ヘン、178馬鹿(ばか)にするない、179片方(かたはう)(あし)(なが)いのだけ、180それだけ貴様(きさま)()とは行進(かうしん)(はや)いのだ。181おまけに悦子姫(よしこひめ)さまがソツと(おれ)懐中(ふところ)(たま)()れて(くだ)さつたものだから、182(ちう)をたつやうに此処迄(ここまで)無事(ぶじ)()安着(あんちやく)だよ。183アハヽヽヽ』
184鬼彦(おにひこ)『ヤア岩公(いはこう)185(うそ)()ふな、186貴様(きさま)はマラソン競争(きやうそう)規則(きそく)(やぶ)つて(そつ)(ふね)()つて()よつたのだらう、187竜灯松(りうとうまつ)(した)(つな)いであつた(ふね)此処(ここ)()いて()るぢやないか、188条約(でうやく)違反(ゐはん)だ、189貴様(きさま)はこれから三五教(あななひけう)除名(ぢよめい)するからさう心得(こころえ)ろ、190ナアもし音彦(おとひこ)さま、191加米彦(かめひこ)宣伝使(せんでんし)さま、192吾々(われわれ)提案(ていあん)条理(でうり)整然(せいぜん)たるものでせう』
193音彦、加米彦『アハヽヽヽ、194オイ岩公司(いはこうつかさ)195アヽ結構(けつこう)々々(けつこう)196吾々(われわれ)智慧(ちゑ)文珠堂(もんじゆだう)(やす)みながら、197(その)智慧(ちゑ)使(つか)(わす)れた、198(まへ)(えら)いものだ、199アヽこれから、200文珠(もんじゆ)岩公司(いはこんす)()()(こと)にして()らう』
201 岩公(いはこう)(かた)(そび)やかしながら、
202岩公『ハイハイ有難(ありがた)御座(ござ)います、203オイ鬼彦(おにひこ)204鬼虎(おにとら)(その)()端武者(はむしや)(ども)205あの言葉(ことば)()いたか、206文珠(もんじゆ)智慧(ちゑ)文珠(もんじゆ)岩公司(いはこんす)だ、207(これ)から(なん)でも岩公司(いはこんす)智慧(ちゑ)()るのだぞ、208オホン』
209鬼彦(おにひこ)『これだから馬鹿者(ばかもの)には(こま)ると()ふのだ、210一寸(ちよつと)()めて(もら)へば(すぐ)興奮(こうふん)して、211華氏(くわし)百二十(ひやくにじふ)()以上(いじやう)逆上(のぼせ)よる、212(ひと)逆上(のぼせ)(さが)るやうに海水(かいすゐ)でも()ましてやらうか、213ア、214ドンブリコとやつて()らうか』
215岩公(いはこう)(おほ)きに(はばか)りさま、216(また)今度(こんど)世話(せわ)(あづか)ります、217サアサア音彦(おとひこ)宣伝使(せんでんし)(さま)218(これ)から(さき)勝手(かつて)()つたる道程(みちのり)だ、219(わたくし)猿田彦(さだひこ)御用(ごよう)(つと)めませう』
220音彦(おとひこ)『ヤアそれは調法(てうはふ)だ。221先頭(せんとう)岩公司(いはこんす)にお(ねが)(いた)さう』
222岩公(いはこう)『これはこれは不束(ふつつか)岩公司(いはこんす)(たい)格外(かくぐわい)抜擢(ばつてき)をして(くだ)さいました。223(この)(うへ)恩命(おんめい)(むく)ゆるため粉骨(ふんこつ)砕身(さいしん)(まで)()きますまいが、224可成(かなり)道案内(みちあんない)(たい)して可及(かきふ)(てき)のベストを(つく)します。225()うぞ()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
226鬼虎(おにとら)岩公司(いはこんす)()先頭(せんとう)か、227ねつから()から安心(あんしん)なものだ。228アハヽヽヽ』
229 岩公(いはこう)案内(あんない)につれ音彦(おとひこ)一行(いつかう)黄昏前(たそがれまへ)230比治山(ひぢやま)手前(てまへ)辿(たど)()きける。
231音彦(おとひこ)()うやら今日(けふ)(これ)でお(しま)ひらしい、232何処(どこ)かの(うち)(はい)つて一夜(いちや)宿(やど)(ねが)ひ、233明日(みやうにち)早朝(そうてう)真名井(まなゐ)(はら)豊国姫(とよくにひめ)(さま)()降臨地(かうりんち)(さが)しませう、234悦子姫(よしこひめ)さまも(さだ)めしお()ちかねでせうからねえ』
235岩公(いはこう)(すこ)手前(てまへ)(かす)かな()()えませう、236彼処(あすこ)()けば(おほ)きな藁葺(わらぶ)きの(いへ)御座(ござ)います。237()(たた)いて一夜(いちや)宿(やど)()して(もら)(こと)にしませう、238サアもう一息(ひといき)です』
239(さき)()(いさぎよ)()()し、240一同(いちどう)(やうや)くとある(ひと)()(まへ)()きたり。241岩公(いはこう)門口(かどぐち)()ち、
242岩公『もしもしお(ぢい)さま、243()アさま、244(わたくし)比沼(ひぬ)真名井(まなゐ)比治山(ひぢやま)(かみ)(さま)参詣(さんけい)する(もの)御座(ござ)います、245竜灯松(りうとうまつ)から此処迄(ここまで)テクつて()ましたが、246()はすつぽりと()れ、247膝坊主(ひざばうず)吾々(われわれ)命令(めいれい)(がへん)ぜなくなりました。248()うぞ(には)(すみ)でも宜敷(よろし)いから一夜(いちや)雨露(うろ)(しの)がせて(くだ)さいませ』
249(ぢい)『これお(なら)250(なん)だか門口(かどぐち)人声(ひとごゑ)がするやうだ、251(もん)()けて調(しら)べてお()で』
252(なら)(へい)サン、253(まへ)あれだけ(さけ)()みてもまだ()うて()いと()ふのかい、254かう(くら)くなつてから(わたし)だつて(たま)らないぢやないか、255去年(きよねん)のやうに大江山(おほえやま)鬼雲彦(おにくもひこ)家来(けらい)鬼虎(おにとら)にでも出遇(であ)つたら、256ドンナ()()ふか(わか)つたものぢやない、257(うち)(むすめ)もとうとう鬼虎(おにとら)(さら)はれて仕舞(しま)つたぢやないか、258オンオンオン』
259平助(へいすけ)『アヽ、260(とし)()つて(みみ)(きこ)えぬ(やつ)(こま)つたものだ。261アヽ仕方(しかた)がない、262(わし)()つて()けてやらうかな、263ドツコイシヨ、264アイタヽヽ、265(こし)(ほね)(こは)ばつていやもう(には)(ある)くのも大抵(たいてい)(こと)ぢやないワイ』
266(かたはら)(つゑ)()りエチエチと(おもて)()()をガラリと()け、
267平助『この(くら)いのにお(まへ)さま(たち)何用(なによう)あつて御座(ござ)つた』
268音彦(おとひこ)『ハイ、269吾々(われわれ)比治山(ひぢやま)(かみ)(さま)参詣(さんけい)(いた)すもので御座(ござ)います、270御覧(ごらん)(とほ)()()れました、271()うぞ(には)(すみ)つこでも宜敷(よろし)いから一夜(いちや)だけおとめ(くだ)さい、272弁当(べんたう)持参(ぢさん)(いた)して()ります、273(ただ)とめてさへ(もら)へばそれで宜敷(よろし)い』
274平助(へいすけ)()れば随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)同勢(どうぜい)だが野中(のなか)(ひと)()だと(おも)つて()()みて()たのだな、275とめる(こと)金輪際(こんりんざい)出来(でき)ませぬ(わい)276サアサアとつと(かへ)つて(くだ)さい、277(おやぢ)(ばば)二人(ふたり)(ぐら)しの(いへ)ぢや、278不都合(ふつがふ)だらけ(ひら)にお(ことわ)(まをし)ます』
279音彦(おとひこ)左様(さやう)御座(ござ)いませうが、280折入(をりい)つてお(たの)(まを)す、281吾々(われわれ)(けつ)して(あや)しいものでは御座(ござ)いませぬ』
282平助(へいすけ)去年(きよねん)(この)(ごろ)だつた、283(まへ)のやうな()()れてから(うち)門口(かどぐち)()ち、284(には)(すみ)でもよいからとめてくれと()うて二人(ふたり)旅人(たびびと)()てきよつた、285其奴(そいつ)(また)どえらい悪魔(あくま)大江山(おほえやま)鬼雲彦(おにくもひこ)家来(けらい)とやらで(なん)でも鬼彦(おにひこ)286鬼虎(おにとら)()ふそれはそれは(わる)(やつ)ぢや、287其奴(そいつ)めが(ぢい)(ばば)とが(つめ)()(とも)して()めた沢山(たくさん)のお(かね)掠奪(ふんだく)り、288(てん)にも()にも()()へのない一人(ひとり)(むすめ)掻攫(かつさら)うて、289(いま)行方(ゆくへ)(わか)らぬのだ、290(まへ)さまも大方(おほかた)ソンナ連中(れんちう)だらう、291(しわ)()つた(おやぢ)(ばば)とが(ほそ)(けぶり)()(くら)して()るのだが、292(ばば)(ぢい)(たよ)(ぢい)(ばば)(たよ)りだ、293(ばば)とは()ひながら矢張(やつぱり)(をんな)だ、294(むかし)別嬪(べつぴん)だ。295もし(ばば)でも(よさ)()掻攫(かつさら)へられて仕舞(しま)ふものなら、296この(おやぢ)(かに)手足(てあし)もがれたやうなものだ、297エヽ気分(きぶん)(わる)い、298(かへ)りて(くだ)され』
299とピシヤツと()()める。
300音彦(おとひこ)『アヽ(こま)つたなア、301()うしたら()からうか、302今晩(こんばん)野宿(のじゆく)でもして一夜(いちや)()かさねば仕方(しかた)があるまい』
303岩公(いはこう)『もしもし音彦(おとひこ)さま、304千本桜(せんぼんざくら)鮓屋(すしや)(だん)ぢやないが、305愛想(あいさう)のないが愛想(あいさう)となると()(こと)がありますが、306此処(ここ)(おやぢ)さまは一旦(いつたん)(この)鬼彦(おにひこ)307鬼虎(おにとら)(えら)()()つたものだから、308(ひと)さへ()れば(こわ)(こわ)いと(おも)うて()るのですよ、309()(くれ)宿(やど)(たの)(やつ)人奪(ひとと)りだと()先入(せんにふ)思想(しさう)左右(さいう)されて()るものぢやから、310アンナ(こと)()ふのでせう、311(まこと)(ちから)()(すく)ふと()ふから、312(ひと)(たの)みて()ませう』
313(また)もや()(たた)き、
314岩公(いはこう)『もしもし、315(ぢい)さま、316吾々(われわれ)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)のお(とも)して()(まこと)(ひと)つの人間(にんげん)御座(ござ)います。317何卒(どうぞ)一晩(ひとばん)だけとめて(くだ)さいな』
318平助(へいすけ)『ナニツ、319三五教(あななひけう)だと、320ソンナ(をしへ)()()いた(こと)もないワ、321(あな)()うて彼岸過(ひがんすぎ)(へび)のやうに(さが)して(ある)いとるのか、322ソンナ(ひと)には尚更(なほさら)宿(やど)つて(もら)(こと)はお(ことわ)りぢや、323一人(ひとり)よりないお(なら)掻攫(かつさら)つて()なれては(たま)らぬからなア、324ゴテゴテ()はずにお(かへ)りなさい』
325岩公(いはこう)『アヽ、326仕方(しかた)がない、327これ(ほど)(こと)をわけてお(たの)みするのに()いて(くだ)さらぬ、328世界(せかい)(おに)はある。329(おに)悪魔(あくま)()(なか)だ、330慈悲(じひ)(なさけ)()らぬ(やつ)(ばか)りだ。331オイ鬼彦(おにひこ)332鬼虎(おにとら)両人(りやうにん)333(えら)沈黙(ちんもく)して()よるな、334貴様(きさま)古疵(ふるきず)(もの)()うて今晩(こんばん)難儀(なんぎ)だ、335貴様(きさま)(ひと)謝罪(あやま)らぬかい』
336鬼彦(おにひこ)『もしもし音彦(おとひこ)(さま)337一晩(ひとばん)(くらゐ)()なかつたつて()いぢやありませぬか、338これも修業(しうげふ)だと(おも)つて野宿(のじゆく)(いた)しませうかい』
339鬼虎(おにとら)『アヽさうだ、340一晩(ひとばん)二晩(ふたばん)野宿(のじゆく)して(くた)ばるやうな(こと)では三五教(あななひけう)信仰(しんかう)出来(でき)ない、341ねえ宣伝使(せんでんし)(さま)342如何(どう)御座(ござ)いませう』
343音彦(おとひこ)『ソンナラマアさうするかなア』
344岩公(いはこう)『ヘン(うま)(こと)()つて()やがらア、345爺婆(ぢいばば)()はす(かほ)があるまい、346旧悪(きうあく)露見(ろけん)(おそ)れがあるから、347貴様(きさま)としては無理(むり)もないが、348綺麗(きれい)薩張(さつぱり)爺様(ぢいさん)婆様(ばさん)にお(ことわ)りを(まをし)たら()うだ、349何時迄(いつまで)(あく)(つつ)みて()ると(つみ)()れぬぞ、350(つみ)()(こと)(つつ)みと()(こと)だ、351何卒(どうぞ)改心(かいしん)証拠(しようこ)(ぢい)さまに(ひと)つお(わび)をして(おも)ふざま十能(じふのう)(あたま)(たた)いて(もら)つたら、352ちつとは(つみ)(ほろ)びるだらうよ』
353 鬼彦(おにひこ)354鬼虎(おにとら)355両手(りやうて)()(くび)(かたむ)け、356(おほ)きな(いき)()らし()る。357(この)(とき)前方(ぜんぱう)より二人(ふたり)(をんな)(はし)()るあり。358一同(いちどう)()(まる)くし、359よくよく()れば、360悦子姫(よしこひめ)一人(ひとり)(むすめ)なりけり。
361(むすめ)『これはこれはお(ひめ)(さま)362いかいお世話(せわ)になりました、363これが(わたし)のお祖父(ぢい)さま、364祖母(ばあ)さまの(うち)御座(ござ)います、365サア何卒(どうぞ)(はい)(くだ)さいませ、366(さぞ)祖父(そふ)祖母(そぼ)(よろこ)(こと)御座(ござ)いませう』
367悦子姫(よしこひめ)『ヤア(わたし)此処迄(ここまで)(おく)(とど)けたならばこれで安心(あんしん)してお(いとま)(いた)しませう』
368(むすめ)何卒(どうぞ)さう仰有(おつしや)らぬと見苦(みぐる)しい破家(あばらや)なれど、369渋茶(しぶちや)なりと()げたう御座(ござ)います、370一寸(ちよつと)でも宜敷(よろし)いからお(はい)(くだ)さいませいナ』
371 (やみ)(なか)より、
372男(音彦)『ヤア貴女(あなた)悦子姫(よしこひめ)(さま)では御座(ござ)いませぬか』
373悦子姫(よしこひめ)『さう()ふお(こゑ)音彦(おとひこ)さま。374この(くら)がりに(なに)をして()らつしやるの』
375音彦(おとひこ)(あま)(くら)くなりましたので一夜(いちや)宿(やど)をお強請(ねだ)りして()るのですが、376(ぢい)さま仲々(なかなか)(ゆる)して()れないのですよ』
377悦子姫(よしこひめ)『ヤア、378委細(ゐさい)様子(やうす)(この)(むすめ)さまから()きました、379()みた(こと)()ふぢやないが、380随分(ずゐぶん)鬼彦(おにひこ)さまも鬼虎(おにとら)さまも(つみ)(こと)をなさつたものぢやナア、381(ぢい)さまが()めて()れないのも無理(むり)はありませぬ、382(わたし)がこれからお(ぢい)さまに(この)(むすめ)(わた)し、383(ねが)つて()ませう』
384(むすめ)『お祖父(ぢい)さま、385祖母(ばあ)さま、386(せつ)御座(ござ)います、387(かみ)(さま)(たす)けられ無事(ぶじ)(かへ)つて()ました。388何卒(どうぞ)()けて(くだ)さいませ』
389 平助(へいすけ)(この)(こゑ)(おどろ)き、
390平助『ヤア(なに)391(せつ)(かへ)つた。392オイオイお(なら)393(せつ)(かへ)つたといなア』
394(なら)(おやぢ)さま(みみ)(しつか)(きこ)えぬが、395(せつ)(かへ)つたと()うたのか、396ハテ合点(がてん)()かぬ(こと)だ、397大方(おほかた)大江山(おほえやま)悪神(あくがみ)眷族(けんぞく)()(せつ)(つく)(ごゑ)をして(この)()()()み、398(ひと)()(さいは)ひに(われ)()夫婦(ふうふ)(もの)()()つて()計略(けいりやく)かも()れぬ、399迂闊(うつか)()けなさるなや』
400 門口(かどぐち)より、401(せつ)()さしひ(こゑ)で、
402お節『お祖父(ぢい)さま、403祖母(ばあ)さま、404何卒(どうぞ)()けて(くだ)さい、405(せつ)御座(ござ)います』
406平助(へいすけ)(なに)(ぬか)しよるのだ、407(その)()()はぬぞ、408(つく)(ごゑ)をしよつて、409祖父(ぢい)さま、410祖母(ばあ)さま、411(せつ)御座(ござ)います……ナアーンテ大江山(おほえやま)(とら)へられて(おに)餌食(ゑじき)になつた(むすめ)(もど)つて()(たま)るかい、412これやこれや門口(かどぐち)(やつ)(ども)413ソンナ計略(けいりやく)()平助(へいすけ)ぢやないぞ、414(はい)れるなら(はい)つて()よ、415陥穽(おとしあな)(こしら)へて(くぎ)一面(いちめん)()ゑてあるから、416(いのち)(をし)()ければ無理(むり)(はい)つて()い』
417 (むすめ)無理(むり)()()(やぶ)()()みたるを、418(ぢい)は、419これを()て、
420平助『ヤア(まが)(かた)なき(むすめ)のお(せつ)421()うまア(かへ)つて()れた。422オイ、423ぢつとしてぢつとして、424(うご)くと(あぶ)ないぞ、425(ひと)()(はづ)せば陥穽(おとしあな)(はま)る、426大江山(おほえやま)(おに)()(とき)用意(ようい)陥穽(おとしあな)(こしら)へてあるのぢや、427(いま)祖父(ぢい)指揮(さしづ)をしてやるから、428(その)(ほか)(ある)(こと)はならぬぞや』
429()ひながら(つゑ)をもつて(には)(すぢ)引張(ひつぱ)つた。430(せつ)(すぢ)(うへ)(ある)いて、431(ぢい)居間(ゐま)(すす)()る。
432(なら)『ヤア、433(まへ)はお(せつ)434()(かへ)つて(くだ)さつたナア』
435(うれ)()きに()()しぬ。436平助(へいすけ)もお(せつ)(からだ)獅噛(しが)みつき、
437平助『ヤア(もど)つたか、438どうして()つた』
439(せつ)『お祖父(ぢい)さま、440祖母(ばあ)さま、441()ひたかつた(わい)な』
442(さん)(にん)一度(いちど)(こゑ)(はな)つて()(くづ)れける。
443大正一一・四・一六 旧三・二〇 加藤明子録)
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10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
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