神素盞嗚尊は厳然として立ち上がり、荘重な口調で歌った。
豊葦原の国中に邪神が現れてすさび、天下の民草を苦しめ悩ます惨状を見かねて、瑞御魂は神素盞嗚と現れて、八十猛の神司と八人乙女を四方に遣わし、三五の神の教えを宣べ伝えた。
ウブスナ山の斎苑館を後に残して出立し、自転倒島の中心地である綾の高天原の聖域に、国治立大神の化身である国武彦と一緒に世を忍んで隠れていた。
この世を救う厳御霊、瑞御霊と相並んで、天地の神に三五の教えを開き、天下の四方の木草に至るまで安息と生命を永遠に賜るために、朝夕心を配らせながら、三つの御玉の宝玉が鎮まり、また麻邇の玉が五の御玉として現れた。
埴安彦・埴安姫の神の御霊も、玉照彦・玉照姫と現れることとなった。
瑞の御霊と現れた三五教の神司・言依別命は、皇神の錦の機の経綸を心の底に秘め置いて、浮きつ沈みつ、世を忍んで深遠微妙の神策を永遠に建てよ。
神素盞嗚の我が身魂は、世界中にわだかまる八岐大蛇を言向け和して、高天原を納める天照大神の御許に復命をするまでは、井守蚯蚓と身を潜めて、木の葉の下をかいくぐって、松の世の尊い仕組みを成し遂げよう。
国武彦大神よ、汝もしばし深山の奥の時鳥のように姿を隠して、長年の憂き目を忍び、やがて来る松の神世の神政を心静かに待つことだ。
竜宮城から現れた五つの麻邇の玉は、綾の聖地に永久に鎮まりまして、桶伏山の蓮華台に天火水地が結んだ薫り高い梅の花であり、木花姫神の生御魂である。三十三相に身を表して、世人を救おうと流す涙は和知の川である。それが流れて由良の海となり、救いの船に帆を上げる。
秋山彦の真心や、言依別の犠牲の清き心を永久に五六七の神世の礎として、神の定めた厳御魂となる、実に尊さの限りの神宝である。
国治立大神の厳の御霊は、今しばし四尾山の奥深くに国武彦と現れて草の片葉に身を隠して、玉照彦・玉照姫を表に立て、言依別命を司とし、深遠微妙の神界の仕組みの業に仕えよ。
厳と瑞とのこの仕組みは、何が起ころうとも永久に変わらない。このことは初発の時から定まっている、万古不易の真理である。天地の神人を救うための我がなやみ、国治立神のお心も思いは同じと深く察し奉る。
大神は歌い終わると一同に微笑を与えて、奥の間に姿をかくさせ給うた。
国武彦命は神素盞嗚大神の御後姿を見送り、手を合わせて感謝の意を表し、一同の前に立ってやや非調を帯びた声音を張り上げて歌い給うた。
豊葦原の国祖として、国治立の厳御霊と高天原に現れ、神人たちが守るべき道を宣り伝え、神祭を布き広めた。
しかし天足彦・胞場姫の身魂より生まれた邪神の雲に包まれて、世は汚れてしまった。その結果、罪穢れを自らの身に負って天教山の火口に身を躍らせ、地の底根底の国を隈なく巡り、心身を尽くして造り固め、再び天教山の火口に再現した。
野立彦と名を変えて国中を駆け巡った。また豊国姫神の御霊はヒマラヤ山に野立姫と現れた。
再び来る松の世の礎を固めようと、自転倒島の中心地である綾の高天原の桶伏山の隣の四尾山に身を潜めた。この世を洗う瑞御霊に仕えて五つの御霊の経綸を行うために、国武彦となって神素盞嗚大神の御共の神と現れた。
現幽神を照り透す如意宝珠や、黄金の玉や、紫の玉といった宝はいち早く自転倒島に集まった。またここに、五つの麻邇の神玉が竜宮の一つ島から現れて、宣伝使たちの働きによって帰り降って来た。尊いことだ。
国武彦は永久に隠れてこの世を守って行く。甲子の九月八日、今日はいかなる吉日であろうか。天津御空の若宮に鎮まりいます日の神の大前に慎み畏み感謝し奉る。
千座の置戸を身に負ってこの世を救う生き神の瑞の御霊と現れた神素盞嗚大神の仁慈無限の御心を喜び敬い奉る。
言依別の神司よ、この行く先の神業にまたもや千座の置戸を負って、我が身魂と共に三柱揃って三つの身魂として、現世を洗い清める神業に仕え奉らせ。
神人たちの救いのために真心を千々に砕いて忍び忍びに神業を仕えまつり、松の世の五六七の神政を指折り数えて待ち暮らす我が三柱の神心を聞こし召せ。
国武彦神は歌い終わると一同に軽く黙礼し、そのまま御姿は白煙となってその場に消えてしまった。一同は直ちに拍手して天津祝詞を奏上した。そして御神慮の尊さを思い浮かべて、感涙に咽ぶのであった。