秋彦は聖地が近づき、元気旺盛になって副守護神の発動気分で歌い始めた。紫姫の従者の鹿として比沼真奈井に詣でる途中、バラモン教に囚われていたが、悦子姫一向に救われ、三五教徒として高城山の松姫を言向け和した過去を歌に歌った。
そして高姫一行が玉への執着から、自分と国依別の偽神懸りを信じて竹生島に行ってしまったことを宣り直すようにと祈って終わった。
歓呼に包まれて船は岸辺に安着した。言依別命を先頭に、迎えに来た信徒たちに代わる代わる神輿をかつがせて、しずしずと錦の宮に帰って行った。
腰の曲がった夏彦は、千鳥のように大道を左右に手を振り首振り、麻邇の玉が錦の宮に静まることになった経緯を、祝いの歌に歌いこんだ。
続いて常彦が夏彦の後を受けて祝歌を歌い、佐田彦がそれに続いた。佐田彦の歌には、高姫が隠された玉を求める様が歌いこまれていたが、その玉の隠し場所や経綸の詳細は伏せられていた。
佐田彦は高姫らの身の上を案じて、一刻も早く聖地に帰って来て精神を和めるようにと祈りを歌に歌った。
波留彦は続いて歌った。バラモン教の滝公として悪事をしていた自分も、常彦の情けによって改心し、玉能姫と初稚姫に従って三つの玉の神業に携わったことを歌った。そして、悪に溺れた滝公も神の光に照らされて波留彦となり、神業に携わったように、高姫・黒姫も聖地に戻って執着心の雲を晴らすようにと祈願を歌った。日ごろの述懐を歌い終わった波留彦は錦の宮の方に向かって拍手し、暗祈黙祷した。
五個の神宝を乗せた神輿は無事に錦の宮に到着し、言依別命を先頭に八尋殿に設けられた聖壇に安置された。信徒らは立錐の余地も無いほどに集まり、神威のあらたかなることに感謝の涙を流した。
九月九日の聖地の空には、金翼を並べて空中を飛ぶ八咫烏の雄姿が見られた。妙音菩薩の微妙な音楽は、三重の高殿に空高く響き渡った。