高姫と黒姫は、高山彦の諭しの歌に神の社を伏し拝むと、赤面しながら舟をつないでいる磯端にやってきた。見れば、東の空は茜色に染まり、波にひらめく美しい様を表していた。
湖水には、竜神の為せる業か、ここかしこに水茎文字が現れている。三人は舟に飛び乗って艪櫂をこぐと、湖水は二つに分かれ、黄金の鱗の大きな竜が雲を起こして大空に立ち上る凄まじい様を目の当たりにした。
辺りには涼しい風が響き、深遠微妙の音楽が聞こえてきた。四辺は芳香に包まれ、蓮の花弁が雪のように三人の舟に降り積もった。蓮の花はいつのまにか、美しい平和の女神に姿を変えていた。
三人は合掌して首を垂れた。女神は三人に神勅を伝えた。女神は木花姫神と名乗ると、三人のこれまでの執着心から出た玉探しを戒め、魂を磨いて五六七の神業に尽くせ、と諭した。
木花姫神は、三つの宝珠は神の仕組で隠されているので、今は探索をあきらめよと告げると、また偽神懸りによって三人がここに来たのは、けっして国依別や秋彦に懸った天狗のせいではなくて、三人に改心を促す皇神の尊い仕組であるから、悔改めて証を為せ、と諭した。
しかし高姫はこれを聞いて、日の出神に比べたら、木花姫など何が偉い、とそろそろ慢心をし始めた。そして、黒姫と高山彦にもいかに自分に懸かる日の出神が偉大な神であるかを説いて聞かせ、心を翻してはならない、と説教しつつ、舟は岸辺に着いた。
高山彦の従者として琵琶湖の岸辺で帰りを待っていたアールとエースは、三人が玉を首尾よく手に入れたと思い、早く玉を聖地に持ち帰ろうと嬉しがり、三人を伏し拝む。
高姫はそのいじらしさに黙然としてうつむいている。黒姫は、神の仕組はお前たちの知るところではない、何も言わずに着いて来い、と出立を促した。
竹生島の神素盞嗚大神の仮館を守る英子姫と亀彦は、弁天の社に礼拝すると、聖地に向かうために舟に乗って漕ぎ出した。天空を照らして降る火光はたちまち二人の舟に下ると、美しい神となって言霊を述べた。すると荒れた湖水の波はたちまち鎮まった。
これは真の日の出神であった。日の出神は舟が大津に着くと、たちまち姿を消してしまった。英子姫と亀彦は伏し拝むと、長い道のりを旅して越えて、綾の聖地に到着した。