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第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
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第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
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第13巻(子の巻)
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第25巻(子の巻)
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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第80巻(未の巻)
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第28巻(卯の巻)
序歌
総説歌
第1篇 高砂の島
01 カールス王
〔801〕
02 無理槍
〔802〕
03 玉藻山
〔803〕
04 淡渓の流
〔804〕
05 難有迷惑
〔805〕
06 麻の紊れ
〔806〕
第2篇 暗黒の叫
07 無痛の腹
〔807〕
08 混乱戦
〔808〕
09 当推量
〔809〕
10 縺れ髪
〔810〕
11 木茄子
〔811〕
12 サワラの都
〔812〕
第3篇 光明の魁
13 唖の対面
〔813〕
14 二男三女
〔814〕
15 願望成就
〔815〕
16 盲亀の浮木
〔816〕
17 誠の告白
〔817〕
18 天下泰平
〔818〕
第4篇 南米探険
19 高島丸
〔819〕
20 鉈理屈
〔820〕
21 喰へぬ女
〔821〕
22 高砂上陸
〔822〕
跋(暗闇)
余白歌
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<<< 麻の紊れ
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混乱戦 >>>
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第七章
無痛
(
むつう
)
の
腹
(
はら
)
〔八〇七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻
篇:
第2篇 暗黒の叫
よみ(新仮名遣い):
あんこくのさけび
章:
第7章 無痛の腹
よみ(新仮名遣い):
むつうのはら
通し章番号:
807
口述日:
1922(大正11)年08月08日(旧06月16日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年8月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
泰安城はセールス姫一派の暴政により、国民の怨嗟の声は日増しに高まっていった。ついに、バラモン教のシャーカルタンとトロレンスが一派を率いて蜂起し、それぞれ呼応して泰安城に攻め寄せた。
この変事はたちまち台湾全島に伝わった。ここに真道彦らは重臣を集め、このたびの争乱にどう対処するかを協議することとなった。重臣たちはそろって、この機に乗じて泰安城に攻め寄せ、セールス姫一派も革命軍も退けて、三五教が泰安城の主権を取り戻そうと主張した。
中でも、セールス姫の間者ハールは、カールス王を退けて真道彦が台湾全島の主権を握るべきだ、と主張した。これに対して、あくまでカールス王を元の主君として泰安城を建て直すべきだという一派と、主権者は誰でもよくて台湾島が再び平和に治まればよいのだ、という一派が、互いに議論を争った。
真道彦は憤然として登壇し、自分は祖先来、教権を担当する家柄の者であり、カールス王に取って代わろうなどという野心は持っていない、重臣たちがそのような誤解をすることは心外であると訴えて、日楯・月鉾とともに退場した。
セールス姫の間者カントンはこれを受けて登壇し、真道彦は逆のことを言って謎をかけたのであり、真意はやはり台湾島の王となることなのだ、と真道彦の言を曲解する演説をなした。そして、ここにいる重臣たちは、真の英雄である真道彦が王に就くことに依存はないはずだ、と訴えかけた。
あくまでカールス王を元の主権者に立ち戻そうとする頑固派のエールは、カントンと論争になった。最後にエールは烈火のごとく怒り、カントンを殴り倒して逃げてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-11-20 18:42:09
OBC :
rm2807
愛善世界社版:
83頁
八幡書店版:
第5輯 382頁
修補版:
校定版:
85頁
普及版:
38頁
初版:
ページ備考:
001
泰安城
(
たいあんじやう
)
はセールス
姫
(
ひめ
)
、
002
サアルボース、
003
ホーロケース、
004
セウルスチン
等
(
ら
)
の
横暴
(
わうばう
)
極
(
きは
)
まる
悪政
(
あくせい
)
に、
005
国民
(
こくみん
)
怨嗟
(
ゑんさ
)
の
声
(
こゑ
)
は、
006
日
(
ひ
)
に
月
(
つき
)
に
高
(
たか
)
まり
来
(
きた
)
り、
007
漸
(
やうや
)
く
革命
(
かくめい
)
の
機運
(
きうん
)
熟
(
じゆく
)
す。
008
シヤーカルタンの
一派
(
いつぱ
)
とトロレンスの
一派
(
いつぱ
)
は、
009
東西
(
とうざい
)
相
(
あひ
)
呼応
(
こおう
)
して、
010
泰安城
(
たいあんじやう
)
に
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せ、
011
今
(
いま
)
やセールス
姫
(
ひめ
)
以下
(
いか
)
の
身辺
(
しんぺん
)
は、
012
最
(
もつと
)
も
危急
(
ききふ
)
の
地
(
ち
)
に
迫
(
せま
)
つて
来
(
き
)
た。
013
此
(
この
)
事
(
こと
)
早鐘
(
はやがね
)
の
如
(
ごと
)
く
台湾
(
たいわん
)
全島
(
ぜんたう
)
に
響
(
ひび
)
き
渡
(
わた
)
り、
014
玉藻山
(
たまもやま
)
の
聖地
(
せいち
)
には
一
(
ひと
)
しほ
早
(
はや
)
く
或
(
ある
)
者
(
もの
)
の
手
(
て
)
より
其
(
その
)
真相
(
しんさう
)
を
報告
(
はうこく
)
されたり。
015
茲
(
ここ
)
にヤーチン
姫
(
ひめ
)
、
016
真道彦
(
まみちひこの
)
命
(
みこと
)
の
部下
(
ぶか
)
に
仕
(
つか
)
へたる
神司
(
かむづかさ
)
ホールサース、
017
マールエース、
018
テールスタン、
019
其
(
その
)
他
(
た
)
数多
(
あまた
)
の
幹部
(
かんぶ
)
連
(
れん
)
は
八尋殿
(
やひろどの
)
に
集
(
あつ
)
まつて、
020
此
(
この
)
度
(
たび
)
の
泰安城
(
たいあんじやう
)
に
於
(
お
)
ける
大革命
(
だいかくめい
)
的
(
てき
)
騒擾
(
さうぜう
)
に
対
(
たい
)
して、
021
如何
(
いか
)
なる
処置
(
しよち
)
を
取
(
と
)
るべきかを
協議
(
けふぎ
)
したりけり。
022
真道彦
(
まみちひこの
)
命
(
みこと
)
を
始
(
はじ
)
め、
023
日楯
(
ひたて
)
、
024
月鉾
(
つきほこ
)
は
八尋殿
(
やひろどの
)
の
中央
(
ちうあう
)
なる
高座
(
かうざ
)
に
現
(
あら
)
はれて、
025
此
(
この
)
会議
(
くわいぎ
)
を
監督
(
かんとく
)
する
事
(
こと
)
となりぬ。
026
ホールサースは、
027
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
高座
(
かうざ
)
に
登
(
のぼ
)
り、
028
一同
(
いちどう
)
に
向
(
むか
)
つて
開会
(
かいくわい
)
の
挨拶
(
あいさつ
)
を
述
(
の
)
べ、
029
徐
(
おもむろ
)
に
降壇
(
かうだん
)
した。
030
次
(
つい
)
でマールエースは、
031
今回
(
こんくわい
)
の
恰
(
あたか
)
も
議長格
(
ぎちやうかく
)
として
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
と
登壇
(
とうだん
)
し、
032
一同
(
いちどう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
033
マールエース
『
皆様
(
みなさま
)
、
034
今日
(
こんにち
)
此
(
この
)
八尋殿
(
やひろどの
)
に
炎暑
(
えんしよ
)
を
構
(
かま
)
はず、
035
御
(
ご
)
集会
(
しふくわい
)
下
(
くだ
)
さいましたのは、
036
吾々
(
われわれ
)
発起人
(
ほつきにん
)
として
実
(
じつ
)
に
感謝
(
かんしや
)
の
至
(
いた
)
りに
堪
(
た
)
へませぬ。
037
就
(
つ
)
きましては
諸君
(
しよくん
)
に
於
(
お
)
いても
略
(
ほぼ
)
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
の
通
(
とほ
)
り、
038
セールス
姫
(
ひめ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
暴政
(
ばうせい
)
に
依
(
よ
)
つて、
039
国民
(
こくみん
)
塗炭
(
とたん
)
の
苦
(
くる
)
しみを
受
(
う
)
け、
040
今
(
いま
)
や
此
(
この
)
苦痛
(
くつう
)
に
堪
(
た
)
へ
兼
(
か
)
ねて、
041
新進
(
しんしん
)
気鋭
(
きえい
)
の
国民
(
こくみん
)
の
団体
(
だんたい
)
は、
042
シヤーカルタン、
043
トロレンスの
首領
(
しゆりやう
)
に
引率
(
いんそつ
)
され、
044
泰安城
(
たいあんじやう
)
へ
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せたりとの
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
います。
045
承
(
うけたま
)
はればシヤーカルタン、
046
トロレンスはバラモン
教
(
けう
)
の
錚々
(
さうさう
)
たる
神司
(
かむづかさ
)
との
事
(
こと
)
、
047
彼
(
かれ
)
破竹
(
はちく
)
の
勢
(
いきほひ
)
を
以
(
もつ
)
て
泰安城
(
たいあんじやう
)
を
乗
(
の
)
り
取
(
と
)
り、
048
又
(
また
)
もや、
049
バラモン
的
(
てき
)
暴政
(
ばうせい
)
を
布
(
し
)
くに
於
(
おい
)
ては、
050
世
(
よ
)
は
益々
(
ますます
)
混乱
(
こんらん
)
を
重
(
かさ
)
ね、
051
遂
(
つひ
)
には
三五教
(
あななひけう
)
の
聖地
(
せいち
)
迄
(
まで
)
も
蹂躙
(
じうりん
)
され、
052
吾々
(
われわれ
)
は
此
(
この
)
島
(
しま
)
より
放逐
(
はうちく
)
されねばならなくなるのは、
053
火
(
ひ
)
を
睹
(
み
)
るよりも
明
(
あきら
)
かな
事実
(
じじつ
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
054
これに
就
(
つい
)
て
私
(
わたくし
)
は
考
(
かんが
)
へます……
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
三五教
(
あななひけう
)
の
信徒
(
しんと
)
を
率
(
ひき
)
ゐ、
055
泰安城
(
たいあんじやう
)
に
向
(
むか
)
つて
言霊戦
(
ことたません
)
を
開始
(
かいし
)
し、
056
シヤーカルタン、
057
トロレンスの
一派
(
いつぱ
)
を
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
し、
058
三五教
(
あななひけう
)
の
部下
(
ぶか
)
となし、
059
其
(
その
)
機
(
き
)
に
乗
(
じやう
)
じて
全島
(
ぜんたう
)
の
支配権
(
しはいけん
)
を
握
(
にぎ
)
らば、
060
三五教
(
あななひけう
)
は
万世
(
ばんせい
)
不易
(
ふえき
)
の
基礎
(
きそ
)
が
建
(
た
)
ち、
061
又
(
また
)
国民
(
こくみん
)
も
泰平
(
たいへい
)
の
恩恵
(
おんけい
)
に
浴
(
よく
)
する
事
(
こと
)
と
考
(
かんが
)
へます。
062
……
皆
(
みな
)
さまの
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
は
如何
(
いかが
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
063
どうぞ
此
(
この
)
演壇
(
えんだん
)
に
登
(
のぼ
)
りて、
064
御
(
ご
)
感想
(
かんさう
)
を
述
(
の
)
べて
頂
(
いただ
)
きたう
御座
(
ござ
)
います』
065
と
言
(
い
)
つて、
066
壇
(
だん
)
を
降
(
くだ
)
り
吾
(
わが
)
席
(
せき
)
に
着
(
つ
)
いた。
067
此
(
この
)
時
(
とき
)
肩
(
かた
)
を
揺
(
ゆす
)
り
両手
(
りやうて
)
の
拳
(
こぶし
)
を
握
(
にぎ
)
り
締
(
し
)
め、
068
堂々
(
だうだう
)
として
登壇
(
とうだん
)
したのはテールスタンであつた。
069
満場
(
まんぢやう
)
を
睥睨
(
へいげい
)
し
乍
(
なが
)
ら
声
(
こゑ
)
を
励
(
はげ
)
まして
言
(
い
)
ふ。
070
テールスタン『これの
聖地
(
せいち
)
は
遠
(
とほ
)
き
神代
(
かみよ
)
より、
071
真道彦
(
まみちひこの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
の
遠祖
(
ゑんそ
)
茲
(
ここ
)
に
鎮
(
しづ
)
まり
玉
(
たま
)
ひ、
072
至仁
(
しじん
)
至愛
(
しあい
)
の
三五教
(
あななひけう
)
を
樹立
(
じゆりつ
)
し、
073
無抵抗
(
むていかう
)
主義
(
しゆぎ
)
を
遵守
(
じゆんしゆ
)
して、
074
ここに
国魂神
(
くにたまがみ
)
の
神力
(
しんりき
)
を
以
(
もつ
)
て
数多
(
あまた
)
の
国民
(
こくみん
)
を
教
(
をし
)
へ
導
(
みちび
)
き
玉
(
たま
)
ひつつ、
075
多
(
おほ
)
く
年所
(
ねんしよ
)
を
経
(
へ
)
玉
(
たま
)
ひました。
076
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
077
余
(
あま
)
り
極端
(
きよくたん
)
なる
無抵抗
(
むていかう
)
主義
(
しゆぎ
)
の
為
(
ため
)
に
追々
(
おひおひ
)
其
(
その
)
領域
(
りやうゐき
)
は
狭
(
せば
)
められ、
078
僅
(
わづか
)
に
日月潭
(
じつげつたん
)
の
附近
(
ふきん
)
にのみ
其
(
その
)
勢力
(
せいりよく
)
を
維持
(
ゐぢ
)
して
居
(
ゐ
)
られたのは、
079
諸君
(
しよくん
)
も
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
の
通
(
とほ
)
りで
御座
(
ござ
)
います。
080
然
(
しか
)
るに
泰安城
(
たいあんじやう
)
に
於
(
おい
)
てセールス
姫
(
ひめ
)
を
中心
(
ちうしん
)
とする
悪人輩
(
あくにんばら
)
の
日夜
(
にちや
)
の
行動
(
かうどう
)
に
慊
(
あ
)
きたらず、
081
吾々
(
われわれ
)
始
(
はじ
)
め
此
(
この
)
席
(
せき
)
に
列
(
れつ
)
し
玉
(
たま
)
ふ
幹部
(
かんぶ
)
の
方々
(
かたがた
)
は、
082
顕要
(
けんえう
)
の
地位
(
ちゐ
)
を
棄
(
す
)
てて、
083
現世
(
げんせい
)
的
(
てき
)
に
無勢力
(
むせいりよく
)
なる
此
(
この
)
聖地
(
せいち
)
に
集
(
あつ
)
まり、
084
信仰
(
しんかう
)
三昧
(
さんまい
)
に
入
(
い
)
り、
085
殆
(
ほとん
)
ど
政治欲
(
せいぢよく
)
を
絶
(
た
)
つて、
086
花鳥
(
くわてう
)
風月
(
ふうげつ
)
を
友
(
とも
)
となし、
087
其
(
その
)
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
り
来
(
きた
)
りしも、
088
決
(
けつ
)
して
無意味
(
むいみ
)
に
吾々
(
われわれ
)
は
光陰
(
くわういん
)
を
費
(
つひ
)
やして
居
(
ゐ
)
たのではありませぬ。
089
時
(
とき
)
来
(
きた
)
らば
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
全力
(
ぜんりよく
)
を
発揮
(
はつき
)
し、
090
カールス
王
(
わう
)
を
助
(
たす
)
けて、
091
元
(
もと
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
復
(
か
)
やし
奉
(
たてまつ
)
り、
092
完全
(
くわんぜん
)
無欠
(
むけつ
)
なる
神政
(
しんせい
)
を
布
(
し
)
き、
093
再
(
ふたた
)
び
元
(
もと
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
立
(
た
)
たむと
欲
(
ほつ
)
するの
念慮
(
ねんりよ
)
は
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
忘
(
わす
)
れた
事
(
こと
)
はありませぬ。
094
諸君
(
しよくん
)
に
於
(
おい
)
ても、
095
此
(
この
)
席
(
せき
)
に
列
(
れつ
)
せらるる
方々
(
かたがた
)
は、
096
十中
(
じつちう
)
の
八九
(
はつく
)
迄
(
まで
)
元
(
もと
)
は
泰安城
(
たいあんじやう
)
の
重要
(
ぢうえう
)
なる
地位
(
ちゐ
)
に
立
(
た
)
たせ
玉
(
たま
)
ひし
方々
(
かたがた
)
なれば、
097
吾々
(
われわれ
)
と
御
(
ご
)
同感
(
どうかん
)
なるべし。
098
吾々
(
われわれ
)
は
此
(
この
)
聖地
(
せいち
)
に
来
(
きた
)
りてより、
099
三五教
(
あななひけう
)
は
蘇生
(
そせい
)
せし
如
(
ごと
)
く、
100
日々
(
ひび
)
に
隆盛
(
りうせい
)
に
赴
(
おもむ
)
きたるも、
101
全
(
まつた
)
く
人物
(
じんぶつ
)
の
如何
(
いかん
)
に
依
(
よ
)
る
事
(
こと
)
と
考
(
かんが
)
へられます。
102
諸君
(
しよくん
)
は
瀕死
(
ひんし
)
の
境
(
さかひ
)
にありし
三五教
(
あななひけう
)
をして、
103
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
く
隆盛
(
りうせい
)
に
赴
(
おもむ
)
かしめたる
能力者
(
のうりよくしや
)
で
御座
(
ござ
)
いますれば、
104
キツと
此
(
この
)
腕前
(
うでまへ
)
を
活用
(
くわつよう
)
して
泰安城
(
たいあんじやう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
105
シヤーカルタン、
106
トロレンスの
向
(
むか
)
うを
張
(
は
)
つて、
107
此
(
この
)
際
(
さい
)
一戦
(
いつせん
)
を
試
(
こころ
)
み、
108
セールス
姫
(
ひめ
)
を
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
し、
109
且
(
かつ
)
又
(
また
)
シヤーカルタン、
110
トロレンスの
一派
(
いつぱ
)
を
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
帰順
(
きじゆん
)
せしめ、
111
全島
(
ぜんたう
)
の
政教
(
せいけう
)
両権
(
りやうけん
)
を
掌握
(
しやうあく
)
するは、
112
此
(
この
)
時
(
とき
)
を
措
(
お
)
いて
何時
(
いつ
)
の
日
(
ひ
)
か
来
(
きた
)
るべき。
113
曠日
(
くわうじつ
)
、
114
瀰久
(
びきう
)
徒
(
いたづら
)
に
逡巡
(
しゆんじゆん
)
して、
115
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
に
先
(
せん
)
を
越
(
こ
)
されなば、
116
吾々
(
われわれ
)
は
何時
(
いつ
)
の
日
(
ひ
)
か
頭
(
かしら
)
を
抬
(
もた
)
ぐるを
得
(
え
)
られませうか。
117
何卒
(
なにとぞ
)
皆様
(
みなさま
)
に
於
(
おい
)
ても
御
(
ご
)
熟慮
(
じゆくりよ
)
……
否
(
いな
)
御
(
ご
)
即考
(
そくかう
)
あつて、
118
速
(
すみや
)
かに
御
(
ご
)
賛成
(
さんせい
)
あらむ
事
(
こと
)
を
希望
(
きばう
)
致
(
いた
)
します』
119
と
云
(
い
)
ひ
終
(
をは
)
つて
悠々
(
いういう
)
と
壇
(
だん
)
を
降
(
くだ
)
る。
120
拍手
(
はくしゆ
)
の
声
(
こゑ
)
は
雨霰
(
あめあられ
)
の
如
(
ごと
)
く
場
(
ぢやう
)
の
内外
(
ないぐわい
)
に
響
(
ひび
)
き
渡
(
わた
)
つた。
121
此
(
この
)
時
(
とき
)
末席
(
まつせき
)
よりセールス
姫
(
ひめ
)
の
間者
(
かんじや
)
として
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
み
居
(
ゐ
)
たるハールは
壇上
(
だんじやう
)
に
現
(
あら
)
はれ、
122
ハール『
皆
(
みな
)
さまに、
123
末席
(
まつせき
)
の
吾々
(
われわれ
)
恐
(
おそ
)
れげもなく、
124
此
(
この
)
高座
(
かうざ
)
に
登
(
のぼ
)
りて、
125
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
を
承
(
うけたま
)
はりたしと
斯
(
か
)
く
現
(
あら
)
はれました。
126
マールエース、
127
テールスタンの
幹部
(
かんぶ
)
方
(
がた
)
の
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
は、
128
末輩
(
まつぱい
)
の
私
(
わたし
)
に
於
(
おい
)
ても、
129
極
(
きは
)
めて
賛成
(
さんせい
)
を
致
(
いた
)
します。
130
就
(
つ
)
いては
三五教
(
あななひけう
)
の
信徒
(
しんと
)
を
以
(
もつ
)
て
言霊軍
(
ことたまぐん
)
を
組織
(
そしき
)
し、
131
泰安城
(
たいあんじやう
)
へ
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せ
玉
(
たま
)
ふ
目的
(
もくてき
)
は
此
(
この
)
度
(
たび
)
の
暴動
(
ばうどう
)
を
鎮定
(
ちんてい
)
し、
132
シヤーカルタン、
133
トロレンスの
一派
(
いつぱ
)
に
対
(
たい
)
して
痛棒
(
つうぼう
)
を
加
(
くは
)
ふるにあるか、
134
但
(
ただし
)
はセールス
姫
(
ひめ
)
を
中心
(
ちうしん
)
とする
泰安城
(
たいあんじやう
)
の
重役
(
ぢうやく
)
に
対
(
たい
)
して、
135
大痛棒
(
だいつうぼう
)
を
与
(
あた
)
ふるの
覚悟
(
かくご
)
で
御座
(
ござ
)
るか、
136
此
(
この
)
点
(
てん
)
を、
137
何卒
(
なにとぞ
)
明瞭
(
めいれう
)
に
御
(
お
)
示
(
しめ
)
し
頂
(
いただ
)
きたう
御座
(
ござ
)
います。
138
先
(
ま
)
づ
出陣
(
しゆつぢん
)
に
先立
(
さきだ
)
ち、
139
敵
(
てき
)
を
定
(
さだ
)
めておかねばなりますまい』
140
と
心
(
こころ
)
ありげに
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てた。
141
此
(
この
)
時
(
とき
)
ホールサースは
再
(
ふたた
)
び
壇上
(
だんじやう
)
に
現
(
あら
)
はれて
言
(
い
)
ふ。
142
ホールサース
『
天
(
てん
)
は
必
(
かなら
)
ず
善人
(
ぜんにん
)
に
組
(
くみ
)
す。
143
吾々
(
われわれ
)
は
正義
(
せいぎ
)
の
為
(
ため
)
に
戦
(
たたか
)
ふのである。
144
セールス
姫
(
ひめ
)
にして
悪
(
あく
)
ならば、
145
彼
(
かれ
)
を
懲
(
こら
)
し、
146
又
(
また
)
善
(
ぜん
)
ならば
彼
(
か
)
れを
輔
(
たす
)
けん。
147
シヤーカルタン、
148
トロレンスにして
其
(
その
)
目的
(
もくてき
)
、
149
国家
(
こくか
)
民人
(
みんじん
)
の
為
(
ため
)
ならば
吾
(
われ
)
は
彼
(
かれ
)
を
助
(
たす
)
けむ。
150
未
(
ま
)
だ
何
(
いづ
)
れを
善
(
ぜん
)
とも
悪
(
あく
)
とも
定
(
さだ
)
め
難
(
がた
)
し。
151
さり
乍
(
なが
)
ら、
152
カールス
王
(
わう
)
の
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
を
楯
(
たて
)
に、
153
淡渓
(
たんけい
)
の
畔
(
ほとり
)
に
小
(
ちい
)
さき
館
(
やかた
)
を
造
(
つく
)
り、
154
之
(
これ
)
に
幽閉
(
いうへい
)
し、
155
セウルスチンの
如
(
ごと
)
き
賤
(
いや
)
しきホーロケースの
伜
(
せがれ
)
を
重用
(
ぢうよう
)
して、
156
悪政
(
あくせい
)
を
布
(
し
)
くセールス
姫
(
ひめ
)
の
行動
(
かうどう
)
に
居
(
ゐ
)
たたまらず、
157
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一同
(
いちどう
)
は
此
(
この
)
聖地
(
せいち
)
に
逃
(
のが
)
れ
来
(
きた
)
りし
者
(
もの
)
なれば、
158
此
(
この
)
度
(
たび
)
の
大騒動
(
おほさうどう
)
も
其
(
その
)
原因
(
げんいん
)
は、
159
セールス
姫
(
ひめ
)
一派
(
いつぱ
)
の
暴政
(
ばうせい
)
に
依
(
よ
)
りて
勃発
(
ぼつぱつ
)
せしものたる
事
(
こと
)
は
察
(
さつ
)
するに
余
(
あま
)
りあり。
160
要
(
えう
)
するに
此
(
この
)
度
(
たび
)
の
神軍
(
しんぐん
)
はカールス
王
(
わう
)
を
御
(
お
)
助
(
たす
)
け
申上
(
まをしあ
)
げ、
161
再
(
ふたた
)
び
元
(
もと
)
の
泰安城
(
たいあんじやう
)
に
立
(
た
)
て
直
(
なほ
)
す
目的
(
もくてき
)
と
思
(
おも
)
へば
間違
(
まちがひ
)
なからうと
思
(
おも
)
ひます』
162
とキツパリ
言
(
い
)
つて
抜
(
ぬ
)
けた。
163
ハールは
再
(
ふたた
)
び
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
いて、
164
ハール
『
此
(
この
)
度
(
たび
)
の
神軍
(
しんぐん
)
幸
(
さいはひ
)
にして
勝利
(
しようり
)
を
得
(
え
)
、
165
カールス
王
(
わう
)
を
救
(
すく
)
ひ
出
(
い
)
だし、
166
再
(
ふたた
)
び
王位
(
わうゐ
)
に
立
(
た
)
たしめなば、
167
セールス
姫
(
ひめ
)
を
正妃
(
せいひ
)
となし
玉
(
たま
)
ふ
御
(
ご
)
所存
(
しよぞん
)
なるか。
168
但
(
ただし
)
はヤーチン
姫
(
ひめ
)
を
以
(
もつ
)
て
正妃
(
せいひ
)
と
定
(
さだ
)
め
玉
(
たま
)
ふ
考
(
かんが
)
へなりや
承
(
うけたま
)
はりたし』
169
と
呼
(
よば
)
はつた。
170
ホーレンスは
始
(
はじ
)
めて
登壇
(
とうだん
)
し、
171
ホーレンス
『
吾々
(
われわれ
)
の
考
(
かんがへ
)
ふる
所
(
ところ
)
は、
172
カールス
王
(
わう
)
を
救
(
すく
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
り、
173
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
を
正妃
(
せいひ
)
となさむ
事
(
こと
)
を
熱望
(
ねつばう
)
して
居
(
を
)
ります。
174
さうなればカールス
王
(
わう
)
もヤーチン
姫
(
ひめ
)
も
日頃
(
ひごろ
)
の
思
(
おも
)
ひが
遂
(
と
)
げられて、
175
円満
(
ゑんまん
)
に
政事
(
せいじ
)
が
行
(
おこな
)
はれ、
176
国民
(
こくみん
)
の
父母
(
ふぼ
)
と
仰
(
あふ
)
がれ
玉
(
たま
)
ふ
瑞祥
(
ずゐしやう
)
の
来
(
きた
)
る
事
(
こと
)
と
信
(
しん
)
じて
居
(
を
)
ります』
177
ハール『ヤーチン
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
最早
(
もはや
)
昔
(
むかし
)
とは
御
(
お
)
心
(
こころ
)
が
変
(
かは
)
つて
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
はれます。
178
此
(
この
)
事
(
こと
)
は
第一
(
だいいち
)
教主
(
けうしゆ
)
の
真道彦
(
まみちひこ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
に
依
(
よ
)
らねばなりますまい。
179
一般
(
いつぱん
)
の
噂
(
うはさ
)
に
依
(
よ
)
れば、
180
内面
(
ないめん
)
的
(
てき
)
に
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
関係
(
くわんけい
)
が
結
(
むす
)
ばれ
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
、
181
むしろ
神軍
(
しんぐん
)
の
勝利
(
しようり
)
を
得
(
え
)
たる
暁
(
あかつき
)
は
真道彦
(
まみちひこ
)
様
(
さま
)
を
政教
(
せいけう
)
両面
(
りやうめん
)
の
主権者
(
しゆけんしや
)
となし、
182
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
を
其
(
その
)
妃
(
ひ
)
と
公然
(
こうぜん
)
遊
(
あそ
)
ばしたら
如何
(
いかが
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
183
それの
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
治
(
をさ
)
まりが
良
(
よ
)
き
様
(
やう
)
に
考
(
かんが
)
へられます』
184
テールスタン『
吾々
(
われわれ
)
は
要
(
えう
)
するに
泰安城
(
たいあんじやう
)
の
主権者
(
しゆけんしや
)
を
選
(
えら
)
み
其
(
その
)
幕下
(
ばくか
)
に
仕
(
つか
)
へて
元
(
もと
)
の
位地
(
ゐち
)
に
帰
(
かへ
)
りさへすれば
良
(
よ
)
いのである。
185
主権者
(
しゆけんしや
)
がカールス
王
(
わう
)
であらうと、
186
真道彦
(
まみちひこの
)
命
(
みこと
)
であらうと、
187
問
(
と
)
ふ
所
(
ところ
)
ではありませぬ。
188
吾々
(
われわれ
)
の
考
(
かんがへ
)
ふる
所
(
ところ
)
では、
189
真道彦
(
まみちひこの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
必
(
かなら
)
ず
心中
(
しんちう
)
に
泰安城
(
たいあんじやう
)
の
王
(
わう
)
たるべきことを
御
(
ご
)
期待
(
きたい
)
遊
(
あそ
)
ばされある
事
(
こと
)
と
確信
(
かくしん
)
致
(
いた
)
し、
190
泰安城
(
たいあんじやう
)
を
棄
(
す
)
てて
茲
(
ここ
)
に
集
(
あつ
)
まつて
来
(
き
)
た
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
います。
191
真道彦
(
まみちひこの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
にして、
192
只
(
ただ
)
単
(
たん
)
に
教法
(
けうはふ
)
上
(
じやう
)
の
主権者
(
しゆけんしや
)
を
以
(
もつ
)
て
甘
(
あま
)
んずるの
御
(
ご
)
意志
(
いし
)
ならば
吾々
(
われわれ
)
は
元
(
もと
)
より
斯様
(
かやう
)
な
所
(
ところ
)
へ
首
(
くび
)
を
突込
(
つつこ
)
む
者
(
もの
)
ではありませぬ。
193
諸君
(
しよくん
)
に
於
(
お
)
かせられても、
194
吾々
(
われわれ
)
と
同感
(
どうかん
)
ならむと
察
(
さつ
)
します』
195
一堂
(
いちだう
)
は
拍手
(
はくしゆ
)
の
声
(
こゑ
)
に
満
(
み
)
たされた。
196
真道彦
(
まみちひこ
)
は
憤然
(
ふんぜん
)
として
身
(
み
)
を
起
(
おこ
)
し、
197
壇
(
だん
)
の
中央
(
ちうあう
)
に
現
(
あら
)
はれ、
198
慨歎
(
がいたん
)
の
情
(
じやう
)
に
堪
(
た
)
へざるものの
如
(
ごと
)
く、
199
暫
(
しばら
)
くは
壇上
(
だんじやう
)
に
目
(
め
)
を
閉
(
ふさ
)
ぎ
悄然
(
せうぜん
)
として
立
(
た
)
つた
儘
(
まま
)
、
200
両眼
(
りやうがん
)
よりは
涙
(
なみだ
)
さへ
流
(
なが
)
して
居
(
ゐ
)
る。
201
漸
(
やうや
)
くにして
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
202
真道彦
(
まみちひこ
)
『
只今
(
ただいま
)
の
幹部
(
かんぶ
)
方
(
がた
)
の
御
(
お
)
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
き、
203
此
(
この
)
真道彦
(
まみちひこ
)
に
於
(
お
)
きましては、
204
実
(
じつ
)
に
青天
(
せいてん
)
の
霹靂
(
へきれき
)
と
申
(
まを
)
さうか、
205
寝耳
(
ねみみ
)
に
水
(
みづ
)
と
申
(
まを
)
さうか、
206
驚
(
おどろ
)
きと
慨歎
(
がいたん
)
とに
包
(
つつ
)
まれて
了
(
しま
)
ひました。
207
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
誤解
(
ごかい
)
位
(
くらゐ
)
恐
(
おそ
)
ろしきものは
有
(
あ
)
りませぬ。
208
各自
(
めいめい
)
の
心
(
こころ
)
を
以
(
もつ
)
て
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
を
推
(
お
)
し
量
(
はか
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
209
実
(
じつ
)
に
対者
(
たいしや
)
たるもの
恐
(
おそ
)
るべき
迷惑
(
めいわく
)
を
感
(
かん
)
じます。
210
吾々
(
われわれ
)
は
祖先
(
そせん
)
以来
(
いらい
)
、
211
国魂
(
くにたま
)
の
神
(
かみ
)
を
斎
(
まつ
)
り、
212
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
をしへ
)
を
確
(
かた
)
く
遵守
(
じゆんしゆ
)
し、
213
少
(
すこ
)
しも
政治
(
せいぢ
)
に
心
(
こころ
)
を
傾
(
かたむ
)
けず、
214
万民
(
ばんみん
)
を
善道
(
ぜんだう
)
に
教化
(
けうくわ
)
するを
以
(
もつ
)
て
最善
(
さいぜん
)
の
任務
(
にんむ
)
と
衷心
(
ちうしん
)
より
確
(
かた
)
く
信
(
しん
)
じ、
215
且
(
か
)
つ
神慮
(
しんりよ
)
を
万民
(
ばんみん
)
に
伝
(
つた
)
ふるを
以
(
もつ
)
て、
216
無限
(
むげん
)
の
光栄
(
くわうえい
)
と
存
(
ぞん
)
じて
居
(
を
)
ります。
217
然
(
しか
)
るに
只今
(
ただいま
)
の
幹部
(
かんぶ
)
方
(
がた
)
の
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
を
承
(
うけたま
)
はり
見
(
み
)
れば、
218
私
(
わたくし
)
を
以
(
もつ
)
て
政治
(
せいぢ
)
的
(
てき
)
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
如
(
ごと
)
く
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
られるやうで
御座
(
ござ
)
います。
219
又
(
また
)
王族
(
わうぞく
)
たるヤーチン
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
と
私
(
わたくし
)
の
間
(
あひだ
)
に、
220
何
(
なん
)
だか
怪
(
あや
)
しき
関係
(
くわんけい
)
でも
結
(
むす
)
ばれある
様
(
やう
)
な
語気
(
ごき
)
を
洩
(
も
)
らされました。
221
私
(
わたくし
)
は
実
(
じつ
)
に
心外
(
しんぐわい
)
千万
(
せんばん
)
でなりませぬ。
222
どうぞ
三五教
(
あななひけう
)
の
精神
(
せいしん
)
と、
223
吾々
(
われわれ
)
の
誠意
(
せいい
)
を
能
(
よ
)
く
御
(
ご
)
諒解
(
りやうかい
)
下
(
くだ
)
さいまして、
224
大慈
(
だいじ
)
大悲
(
だいひ
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御旨
(
みむね
)
に
叶
(
かな
)
はせらるる
様
(
やう
)
、
225
神
(
かみ
)
かけて
祈
(
いの
)
り
奉
(
たてまつ
)
ります。
226
重
(
かさ
)
ねて
申
(
まを
)
して
置
(
お
)
きますが、
227
決
(
けつ
)
して
此
(
この
)
真道彦
(
まみちひこ
)
は
物質
(
ぶつしつ
)
的
(
てき
)
の
野心
(
やしん
)
も
無
(
な
)
ければ、
228
政治
(
せいぢ
)
的
(
てき
)
欲望
(
よくばう
)
は
毫末
(
がうまつ
)
も
有
(
あ
)
りませぬ。
229
又
(
また
)
皆様
(
みなさま
)
に
推
(
お
)
されて
政治
(
せいぢ
)
的
(
てき
)
権威
(
けんゐ
)
を
握
(
にぎ
)
らうとは、
230
夢寐
(
むび
)
にも
思
(
おも
)
ひませぬ。
231
此
(
この
)
事
(
こと
)
は
呉々
(
くれぐれ
)
も
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
をして
頂
(
いただ
)
きたう
御座
(
ござ
)
います』
232
と
云
(
い
)
ひ
終
(
をは
)
り、
233
憮然
(
ぶぜん
)
として、
234
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
235
真道彦
(
まみちひこ
)
の
退場
(
たいぢやう
)
に
連
(
つ
)
れて、
236
日楯
(
ひたて
)
、
237
月鉾
(
つきほこ
)
の
兄弟
(
きやうだい
)
も
亦
(
また
)
満場
(
まんぢやう
)
に
目礼
(
もくれい
)
し、
238
悄然
(
せうぜん
)
として
父
(
ちち
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ
此
(
この
)
議席
(
ぎせき
)
を
退場
(
たいぢやう
)
したり。
239
後
(
あと
)
には
気兼
(
きがね
)
なしの
大会場
(
だいくわいぢやう
)
は
口々
(
くちぐち
)
に
勝手
(
かつて
)
な
議論
(
ぎろん
)
が
沸騰
(
ふつとう
)
し
出
(
だ
)
した。
240
セールス
姫
(
ひめ
)
の
間者
(
かんじや
)
として
予
(
かね
)
てより
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
み
居
(
ゐ
)
たりしカントンと
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
、
241
忽
(
たちま
)
ち
壇上
(
だんじやう
)
に
現
(
あら
)
はれ
衆
(
しう
)
に
向
(
むか
)
つて
言
(
い
)
ふ。
242
カントン『
皆
(
みな
)
さま、
243
只今
(
ただいま
)
真道彦
(
まみちひこの
)
命
(
みこと
)
が
仰
(
あふ
)
せられた
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
244
何
(
なん
)
と
御
(
ご
)
観察
(
くわんさつ
)
なされますか。
245
吾々
(
われわれ
)
の
貧弱
(
ひんじやく
)
なる
智識
(
ちしき
)
を
以
(
もつ
)
て
教主
(
けうしゆ
)
の
御
(
ご
)
心中
(
しんちう
)
を
測量
(
そくりやう
)
致
(
いた
)
すは、
246
少
(
すこ
)
しく
烏呼
(
をこ
)
の
沙汰
(
さた
)
では
御座
(
ござ
)
いますが、
247
あの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
は、
248
吾々
(
われわれ
)
は
心
(
こころ
)
にも
無
(
な
)
き
嘘言
(
そらごと
)
を
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
られるのだと
思
(
おも
)
ひます。
249
政治
(
せいぢ
)
的
(
てき
)
に
野心
(
やしん
)
は
毛頭
(
まうとう
)
無
(
な
)
いと
仰
(
あふ
)
せられたのは、
250
要
(
えう
)
するに
大
(
おほい
)
に
有
(
あ
)
りといふ
謎
(
なぞ
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
251
注意
(
ちうい
)
周到
(
しうたう
)
なる
教主
(
けうしゆ
)
はセールス
姫
(
ひめ
)
の
間者
(
かんじや
)
、
252
もしや
信徒
(
しんと
)
に
化
(
ば
)
けて
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
り
居
(
を
)
るやも
知
(
し
)
れずと
心遣
(
こころづか
)
ひ、
253
……ヤアもう
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
の
心事
(
しんじ
)
は
容易
(
ようい
)
に
計
(
はか
)
り
知
(
し
)
れないもので
御座
(
ござ
)
います。
254
吾々
(
われわれ
)
はキツと
真道彦
(
まみちひこの
)
命
(
みこと
)
、
255
泰安城
(
たいあんじやう
)
に
現
(
あら
)
はれ、
256
自
(
みづか
)
ら
主権者
(
しゆけんしや
)
となり、
257
最愛
(
さいあい
)
のヤーチン
姫
(
ひめ
)
を
妃
(
きさき
)
として
君臨
(
くんりん
)
せむと
心中
(
しんちう
)
企画
(
きくわく
)
し
居
(
を
)
らるる
事
(
こと
)
は、
258
少
(
すこ
)
しも
疑
(
うたが
)
ふの
余地
(
よち
)
なき
事
(
こと
)
と
確
(
かた
)
く
信
(
しん
)
じます。
259
幹部
(
かんぶ
)
の
方々
(
かたがた
)
の
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
は
如何
(
いかが
)
で
御座
(
ござ
)
いまするか』
260
一同
(
いちどう
)
は『
賛成
(
さんせい
)
々々
(
さんせい
)
、
261
尤
(
もつと
)
も
尤
(
もつと
)
も』と
拍手
(
はくしゆ
)
して
迎
(
むか
)
へた。
262
カントンは
得意
(
とくい
)
の
鼻
(
はな
)
を
蠢
(
うごめ
)
かし
乍
(
なが
)
ら
両手
(
りやうて
)
を
鷹揚
(
おうよう
)
に
振
(
ふ
)
りつつ、
263
壇
(
だん
)
を
降
(
くだ
)
りて
自席
(
じせき
)
に
着
(
つ
)
く。
264
幹部
(
かんぶ
)
の
一人
(
ひとり
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
頑固派
(
ぐわんこは
)
の
頭領株
(
とうりやうかぶ
)
エールは、
265
慌
(
あわただ
)
しく
壇上
(
だんじやう
)
に
立上
(
たちあが
)
り、
266
エール
『
吾々
(
われわれ
)
は
素
(
もと
)
より
泰安城
(
たいあんじやう
)
の
重臣
(
ぢうしん
)
としてカールス
王
(
わう
)
に
仕
(
つか
)
へ、
267
殊恩
(
しゆおん
)
に
浴
(
よく
)
したる
者
(
もの
)
、
268
然
(
しか
)
るにサアルボース、
269
ホーロケース
一派
(
いつぱ
)
の
悪臣
(
あくしん
)
の
為
(
ため
)
に
大恩
(
だいおん
)
あるカールス
王
(
わう
)
を
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
を
楯
(
たて
)
に、
270
淡渓
(
たんけい
)
の
畔
(
ほとり
)
に
幽閉
(
いうへい
)
し
奉
(
たてまつ
)
り、
271
悪鬼
(
あくき
)
の
如
(
ごと
)
きセールス
姫
(
ひめ
)
、
272
権
(
けん
)
を
恣
(
ほしいまま
)
にし、
273
暴虐
(
ばうぎやく
)
日々
(
ひび
)
に
増長
(
ぞうちよう
)
し、
274
無念
(
むねん
)
の
涙
(
なみだ
)
やる
瀬
(
せ
)
なく、
275
如何
(
いか
)
にもしてカールス
王
(
わう
)
を
救
(
すく
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
り、
276
元
(
もと
)
の
泰安城
(
たいあんじやう
)
に
立直
(
たてなほ
)
さむと
肺肝
(
はいかん
)
を
砕
(
くだ
)
きつつあつた
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
います。
277
然
(
しか
)
るに
天
(
てん
)
の
時
(
とき
)
未
(
いま
)
だ
到
(
いた
)
らず、
278
涙
(
なみだ
)
を
呑
(
の
)
んで
時
(
とき
)
の
到
(
いた
)
るを
待
(
ま
)
つ
内
(
うち
)
、
279
此
(
この
)
玉藻山
(
たまもやま
)
の
聖地
(
せいち
)
に、
280
現幽
(
げんいう
)
二界
(
にかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
現
(
あら
)
はれたりと
聞
(
き
)
き、
281
城内
(
じやうない
)
を
脱出
(
だつしゆつ
)
して、
282
茲
(
ここ
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
信徒
(
しんと
)
となり、
283
幹部
(
かんぶ
)
に
列
(
れつ
)
せられ、
284
時
(
とき
)
を
得
(
え
)
てカールス
王
(
わう
)
の
為
(
ため
)
に
全力
(
ぜんりよく
)
を
尽
(
つく
)
し、
285
忠義
(
ちうぎ
)
を
立
(
た
)
てむと
決意
(
けつい
)
し、
286
顕要
(
けんえう
)
の
地位
(
ちゐ
)
を
棄
(
すて
)
て、
287
無抵抗
(
むていかう
)
主義
(
しゆぎ
)
の
三五教
(
あななひけう
)
に
身
(
み
)
を
寄
(
よ
)
せて
居
(
ゐ
)
たのであります。
288
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
吾々
(
われわれ
)
日夜
(
にちや
)
真道彦
(
まみちひこ
)
の
挙動
(
きよどう
)
を
偵察
(
ていさつ
)
するに、
289
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
くもヤーチン
姫
(
ひめ
)
と
怪
(
あや
)
しき
交際
(
かうさい
)
を
結
(
むす
)
ばれたる
如
(
ごと
)
く
感
(
かん
)
ぜられ、
290
憤怒
(
ふんぬ
)
の
情
(
じやう
)
に
堪
(
た
)
へませぬ。
291
又
(
また
)
一般
(
いつぱん
)
の
噂
(
うはさ
)
もヤハリ
教主
(
けうしゆ
)
とヤーチン
姫
(
ひめ
)
との
交際
(
かうさい
)
の
点
(
てん
)
に
就
(
つい
)
て、
292
ヒソビソと
怪
(
あや
)
しき
噂
(
うはさ
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
ります。
293
火
(
ひ
)
の
無
(
な
)
い
所
(
ところ
)
には
決
(
けつ
)
して
煙
(
けぶり
)
も
立
(
た
)
つものではありませぬ。
294
これに
付
(
つ
)
いて
吾々
(
われわれ
)
は
考
(
かんが
)
へまするに、
295
教主
(
けうしゆ
)
は
最早
(
もはや
)
ヤーチン
姫
(
ひめ
)
を
内縁
(
ないえん
)
の
妻
(
つま
)
となし
居
(
を
)
らるる
以上
(
いじやう
)
は、
296
仮令
(
たとへ
)
カールス
王
(
わう
)
を
救
(
すく
)
ひたりとて、
297
一旦
(
いつたん
)
汚
(
けが
)
されたるヤーチン
姫
(
ひめ
)
をして、
298
堂々
(
だうだう
)
と
王妃
(
わうひ
)
に
薦
(
すす
)
めまつる
事
(
こと
)
は、
299
吾々
(
われわれ
)
臣下
(
しんか
)
の
身
(
み
)
として
忍
(
しの
)
びざる
所
(
ところ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
300
又
(
また
)
教主
(
けうしゆ
)
はヤーチン
姫
(
ひめ
)
を
自己
(
じこ
)
薬籠中
(
やくろうちう
)
の
者
(
もの
)
となし、
301
カールス
王
(
わう
)
を
排斥
(
はいせき
)
して
自
(
みづか
)
ら
治権
(
ちけん
)
を
握
(
にぎ
)
る
野心
(
やしん
)
を
包蔵
(
はうざう
)
さるるは、
302
一点
(
いつてん
)
疑
(
うたが
)
ふの
余地
(
よち
)
は
無
(
な
)
からうかと
信
(
しん
)
じます』
303
と
憤然
(
ふんぜん
)
として
壇上
(
だんじやう
)
に
雄健
(
をたけ
)
びし、
304
足踏
(
あしふ
)
みならして
鼻息
(
はないき
)
荒
(
あら
)
く
降壇
(
かうだん
)
した。
305
カントンは
再
(
ふたた
)
び
壇上
(
だんじやう
)
に
上
(
あが
)
り、
306
カントン
『
吾々
(
われわれ
)
は
時節
(
じせつ
)
の
力
(
ちから
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
確
(
かた
)
く
信
(
しん
)
じて
居
(
ゐ
)
る
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
います。
307
泰安城
(
たいあんじやう
)
の
主権者
(
しゆけんしや
)
が、
308
カールス
王
(
わう
)
だらうが、
309
真道彦
(
まみちひこの
)
命
(
みこと
)
であらうが、
310
但
(
ただし
)
はセールス
姫
(
ひめ
)
であらうが、
311
国民
(
こくみん
)
の
歓迎
(
くわんげい
)
する
主権者
(
しゆけんしや
)
であらば
良
(
い
)
いので
御座
(
ござ
)
います。
312
天下
(
てんか
)
公共
(
こうきよう
)
の
為
(
ため
)
には
些々
(
ささ
)
たる
感情
(
かんじやう
)
の
為
(
ため
)
に
左右
(
さいう
)
されてはなりますまい。
313
只今
(
ただいま
)
エールさまの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
は
一応
(
いちおう
)
御尤
(
ごもつと
)
もでは
御座
(
ござ
)
いまするが、
314
それはエール
其
(
その
)
人
(
ひと
)
を
本位
(
ほんゐ
)
としての
議論
(
ぎろん
)
であつて、
315
天下
(
てんか
)
に
通用
(
つうよう
)
しにくい
御
(
お
)
話
(
はなし
)
だと
思
(
おも
)
ひます。
316
カールス
王
(
わう
)
に
殊恩
(
しゆおん
)
を
蒙
(
かうむ
)
つた
其
(
その
)
御恩
(
ごおん
)
に
酬
(
むく
)
いむ
為
(
ため
)
に
種々
(
いろいろ
)
と
肺肝
(
はいかん
)
を
砕
(
くだ
)
かせらるるは、
317
それは
主従
(
しゆじゆう
)
としての
関係
(
くわんけい
)
上
(
じやう
)
、
318
主恩
(
しゆおん
)
に
酬
(
むく
)
いむとする
真心
(
まごころ
)
より
出
(
い
)
でさせられたる
感情論
(
かんじやうろん
)
であつて、
319
言
(
い
)
はば
乾児
(
こぶん
)
が
親分
(
おやぶん
)
の
贔屓
(
ひいき
)
をする
様
(
やう
)
なものであります。
320
国民
(
こくみん
)
一般
(
いつぱん
)
より
見
(
み
)
れば
余
(
あま
)
り
問題
(
もんだい
)
とならない
議論
(
ぎろん
)
だと、
321
私
(
わたくし
)
は
思
(
おも
)
ふのであります。
322
吾々
(
われわれ
)
の
如
(
ごと
)
き
無冠
(
むかん
)
の
太夫
(
たいふ
)
は
別
(
べつ
)
にエール
様
(
さま
)
の
如
(
ごと
)
く、
323
特別
(
とくべつ
)
の
恩寵
(
おんちよう
)
を
被
(
かうむ
)
つた
覚
(
おぼ
)
えもなければ、
324
又
(
また
)
カールス
王
(
わう
)
に
対
(
たい
)
して
一片
(
いつぺん
)
の
恨
(
うら
)
みも
持
(
も
)
ちませぬ。
325
唯
(
ただ
)
此
(
この
)
際
(
さい
)
は
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
善良
(
ぜんりやう
)
なる
主権者
(
しゆけんしや
)
を
得
(
え
)
、
326
万民
(
ばんみん
)
鼓腹
(
こふく
)
撃壌
(
げきじやう
)
の
享楽
(
きやうらく
)
を
得
(
う
)
る
様
(
やう
)
に、
327
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
進
(
すす
)
みさへすれば、
328
それで
満足
(
まんぞく
)
であります。
329
諸君
(
しよくん
)
の
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へは
如何
(
いかが
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
330
小田原
(
をだはら
)
評定
(
へうぢやう
)
にあたら
光陰
(
くわういん
)
を
空費
(
くうひ
)
し、
331
時機
(
じき
)
を
失
(
しつ
)
するよりは、
332
手取早
(
てつとりばや
)
く
話
(
はなし
)
を
決
(
き
)
めて、
333
早
(
はや
)
く
救援
(
きうゑん
)
に
向
(
むか
)
はねば、
334
国家
(
こくか
)
は
益々
(
ますます
)
修羅
(
しゆら
)
の
巷
(
ちまた
)
の
惨状
(
さんじやう
)
を
極
(
きは
)
め、
335
国民
(
こくみん
)
の
苦
(
くる
)
しみは
日
(
ひ
)
を
逐
(
お
)
うて
烈
(
はげ
)
しくなるでせう。
336
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
337
出陣
(
しゆつぢん
)
か
非出陣
(
ひしゆつぢん
)
か、
338
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
諸君
(
しよくん
)
の
誠意
(
せいい
)
に
依
(
よ
)
つて
御
(
ご
)
決定
(
けつてい
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
339
と
言
(
い
)
ひ
終
(
をは
)
るや、
340
以前
(
いぜん
)
のエールは
烈火
(
れつくわ
)
の
如
(
ごと
)
く
憤
(
いきどほ
)
り、
341
忽
(
たちま
)
ち
壇上
(
だんじやう
)
に
駆上
(
かけあ
)
がり、
342
弁者
(
べんしや
)
の
面上
(
めんじやう
)
を
目
(
め
)
あてに
鉄拳
(
てつけん
)
を
乱打
(
らんだ
)
したるより、
343
満場
(
まんぢやう
)
総立
(
さうだ
)
ちとなりて、
344
(一同)
『ヤレ
乱暴者
(
らんばうもの
)
を
捉
(
とら
)
へよ』
345
とひしめき
立
(
た
)
ちぬ。
346
エールは
敏捷
(
びんせふ
)
にも
混乱
(
こんらん
)
の
隙
(
すき
)
を
窺
(
うかが
)
ひ、
347
何処
(
どこ
)
ともなく、
348
此
(
この
)
場
(
ば
)
より
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したりける。
349
(
大正一一・八・八
旧六・一六
松村真澄
録)
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