霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 無痛(むつう)(はら)〔八〇七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻 篇:第2篇 暗黒の叫 よみ(新仮名遣い):あんこくのさけび
章:第7章 無痛の腹 よみ(新仮名遣い):むつうのはら 通し章番号:807
口述日:1922(大正11)年08月08日(旧06月16日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年8月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
泰安城はセールス姫一派の暴政により、国民の怨嗟の声は日増しに高まっていった。ついに、バラモン教のシャーカルタンとトロレンスが一派を率いて蜂起し、それぞれ呼応して泰安城に攻め寄せた。
この変事はたちまち台湾全島に伝わった。ここに真道彦らは重臣を集め、このたびの争乱にどう対処するかを協議することとなった。重臣たちはそろって、この機に乗じて泰安城に攻め寄せ、セールス姫一派も革命軍も退けて、三五教が泰安城の主権を取り戻そうと主張した。
中でも、セールス姫の間者ハールは、カールス王を退けて真道彦が台湾全島の主権を握るべきだ、と主張した。これに対して、あくまでカールス王を元の主君として泰安城を建て直すべきだという一派と、主権者は誰でもよくて台湾島が再び平和に治まればよいのだ、という一派が、互いに議論を争った。
真道彦は憤然として登壇し、自分は祖先来、教権を担当する家柄の者であり、カールス王に取って代わろうなどという野心は持っていない、重臣たちがそのような誤解をすることは心外であると訴えて、日楯・月鉾とともに退場した。
セールス姫の間者カントンはこれを受けて登壇し、真道彦は逆のことを言って謎をかけたのであり、真意はやはり台湾島の王となることなのだ、と真道彦の言を曲解する演説をなした。そして、ここにいる重臣たちは、真の英雄である真道彦が王に就くことに依存はないはずだ、と訴えかけた。
あくまでカールス王を元の主権者に立ち戻そうとする頑固派のエールは、カントンと論争になった。最後にエールは烈火のごとく怒り、カントンを殴り倒して逃げてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-11-20 18:42:09 OBC :rm2807
愛善世界社版:83頁 八幡書店版:第5輯 382頁 修補版: 校定版:85頁 普及版:38頁 初版: ページ備考:
001 泰安城(たいあんじやう)はセールス(ひめ)002サアルボース、003ホーロケース、004セウルスチン()横暴(わうばう)(きは)まる悪政(あくせい)に、005国民(こくみん)怨嗟(ゑんさ)(こゑ)は、006()(つき)(たか)まり(きた)り、007(やうや)革命(かくめい)機運(きうん)(じゆく)す。008シヤーカルタンの一派(いつぱ)とトロレンスの一派(いつぱ)は、009東西(とうざい)(あひ)呼応(こおう)して、010泰安城(たいあんじやう)()()せ、011(いま)やセールス(ひめ)以下(いか)身辺(しんぺん)は、012(もつと)危急(ききふ)()(せま)つて()た。013(この)(こと)早鐘(はやがね)(ごと)台湾(たいわん)全島(ぜんたう)(ひび)(わた)り、014玉藻山(たまもやま)聖地(せいち)には(ひと)しほ(はや)(ある)(もの)()より(その)真相(しんさう)報告(はうこく)されたり。
015 (ここ)にヤーチン(ひめ)016真道彦(まみちひこの)(みこと)部下(ぶか)(つか)へたる神司(かむづかさ)ホールサース、017マールエース、018テールスタン、019(その)()数多(あまた)幹部(かんぶ)(れん)八尋殿(やひろどの)(あつ)まつて、020(この)(たび)泰安城(たいあんじやう)()ける大革命(だいかくめい)(てき)騒擾(さうぜう)(たい)して、021如何(いか)なる処置(しよち)()るべきかを協議(けふぎ)したりけり。
022 真道彦(まみちひこの)(みこと)(はじ)め、023日楯(ひたて)024月鉾(つきほこ)八尋殿(やひろどの)中央(ちうあう)なる高座(かうざ)(あら)はれて、025(この)会議(くわいぎ)監督(かんとく)する(こと)となりぬ。
026 ホールサースは、027()第一(だいいち)高座(かうざ)(のぼ)り、028一同(いちどう)(むか)つて開会(かいくわい)挨拶(あいさつ)()べ、029(おもむろ)降壇(かうだん)した。030(つい)でマールエースは、031今回(こんくわい)(あたか)議長格(ぎちやうかく)として意気(いき)揚々(やうやう)登壇(とうだん)し、032一同(いちどう)(むか)ひ、
033マールエース皆様(みなさま)034今日(こんにち)(この)八尋殿(やひろどの)炎暑(えんしよ)(かま)はず、035()集会(しふくわい)(くだ)さいましたのは、036吾々(われわれ)発起人(ほつきにん)として(じつ)感謝(かんしや)(いた)りに()へませぬ。037()きましては諸君(しよくん)()いても(ほぼ)()承知(しようち)(とほ)り、038セールス(ひめ)(その)()暴政(ばうせい)()つて、039国民(こくみん)塗炭(とたん)(くる)しみを()け、040(いま)(この)苦痛(くつう)()()ねて、041新進(しんしん)気鋭(きえい)国民(こくみん)団体(だんたい)は、042シヤーカルタン、043トロレンスの首領(しゆりやう)引率(いんそつ)され、044泰安城(たいあんじやう)()()せたりとの(こと)御座(ござ)います。045(うけたま)はればシヤーカルタン、046トロレンスはバラモン(けう)錚々(さうさう)たる神司(かむづかさ)との(こと)047(かれ)破竹(はちく)(いきほひ)(もつ)泰安城(たいあんじやう)()()り、048(また)もや、049バラモン(てき)暴政(ばうせい)()くに(おい)ては、050()益々(ますます)混乱(こんらん)(かさ)ね、051(つひ)には三五教(あななひけう)聖地(せいち)(まで)蹂躙(じうりん)され、052吾々(われわれ)(この)(しま)より放逐(はうちく)されねばならなくなるのは、053()()るよりも(あきら)かな事実(じじつ)御座(ござ)いませう。054これに(つい)(わたくし)(かんが)へます……(いち)(にち)(はや)三五教(あななひけう)信徒(しんと)(ひき)ゐ、055泰安城(たいあんじやう)(むか)つて言霊戦(ことたません)開始(かいし)し、056シヤーカルタン、057トロレンスの一派(いつぱ)言向(ことむ)(やは)し、058三五教(あななひけう)部下(ぶか)となし、059(その)()(じやう)じて全島(ぜんたう)支配権(しはいけん)(にぎ)らば、060三五教(あななひけう)万世(ばんせい)不易(ふえき)基礎(きそ)()ち、061(また)国民(こくみん)泰平(たいへい)恩恵(おんけい)(よく)する(こと)(かんが)へます。062……(みな)さまの()意見(いけん)如何(いかが)御座(ござ)いませう。063どうぞ(この)演壇(えんだん)(のぼ)りて、064()感想(かんさう)()べて(いただ)きたう御座(ござ)います』
065()つて、066(だん)(くだ)(わが)(せき)()いた。067(この)(とき)(かた)(ゆす)両手(りやうて)(こぶし)(にぎ)()め、068堂々(だうだう)として登壇(とうだん)したのはテールスタンであつた。069満場(まんぢやう)睥睨(へいげい)(なが)(こゑ)(はげ)まして()ふ。
070テールスタン『これの聖地(せいち)(とほ)神代(かみよ)より、071真道彦(まみちひこの)(みこと)(さま)遠祖(ゑんそ)(ここ)(しづ)まり(たま)ひ、072至仁(しじん)至愛(しあい)三五教(あななひけう)樹立(じゆりつ)し、073無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)遵守(じゆんしゆ)して、074ここに国魂神(くにたまがみ)神力(しんりき)(もつ)数多(あまた)国民(こくみん)(をし)(みちび)(たま)ひつつ、075(おほ)年所(ねんしよ)()(たま)ひました。076(しか)(なが)ら、077(あま)極端(きよくたん)なる無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)(ため)追々(おひおひ)(その)領域(りやうゐき)(せば)められ、078(わづか)日月潭(じつげつたん)附近(ふきん)にのみ(その)勢力(せいりよく)維持(ゐぢ)して()られたのは、079諸君(しよくん)()承知(しようち)(とほ)りで御座(ござ)います。080(しか)るに泰安城(たいあんじやう)(おい)てセールス(ひめ)中心(ちうしん)とする悪人輩(あくにんばら)日夜(にちや)行動(かうどう)()きたらず、081吾々(われわれ)(はじ)(この)(せき)(れつ)(たま)幹部(かんぶ)方々(かたがた)は、082顕要(けんえう)地位(ちゐ)()てて、083現世(げんせい)(てき)無勢力(むせいりよく)なる(この)聖地(せいち)(あつ)まり、084信仰(しんかう)三昧(さんまい)()り、085(ほとん)政治欲(せいぢよく)()つて、086花鳥(くわてう)風月(ふうげつ)(とも)となし、087(その)()(おく)(きた)りしも、088(けつ)して無意味(むいみ)吾々(われわれ)光陰(くわういん)(つひ)やして()たのではありませぬ。089(とき)(きた)らば国家(こくか)(ため)全力(ぜんりよく)発揮(はつき)し、090カールス(わう)(たす)けて、091(もと)地位(ちゐ)()やし(たてまつ)り、092完全(くわんぜん)無欠(むけつ)なる神政(しんせい)()き、093(ふたた)(もと)地位(ちゐ)()たむと(ほつ)するの念慮(ねんりよ)(いち)(にち)(わす)れた(こと)はありませぬ。094諸君(しよくん)(おい)ても、095(この)(せき)(れつ)せらるる方々(かたがた)は、096十中(じつちう)八九(はつく)(まで)(もと)泰安城(たいあんじやう)重要(ぢうえう)なる地位(ちゐ)()たせ(たま)ひし方々(かたがた)なれば、097吾々(われわれ)()同感(どうかん)なるべし。098吾々(われわれ)(この)聖地(せいち)(きた)りてより、099三五教(あななひけう)蘇生(そせい)せし(ごと)く、100日々(ひび)隆盛(りうせい)(おもむ)きたるも、101(まつた)人物(じんぶつ)如何(いかん)()(こと)(かんが)へられます。102諸君(しよくん)瀕死(ひんし)(さかひ)にありし三五教(あななひけう)をして、103(かく)(ごと)隆盛(りうせい)(おもむ)かしめたる能力者(のうりよくしや)御座(ござ)いますれば、104キツと(この)腕前(うでまへ)活用(くわつよう)して泰安城(たいあんじやう)(むか)ひ、105シヤーカルタン、106トロレンスの(むか)うを()つて、107(この)(さい)一戦(いつせん)(こころ)み、108セールス(ひめ)言向(ことむ)(やは)し、109(かつ)(また)シヤーカルタン、110トロレンスの一派(いつぱ)(われ)()言霊(ことたま)帰順(きじゆん)せしめ、111全島(ぜんたう)政教(せいけう)両権(りやうけん)掌握(しやうあく)するは、112(この)(とき)()いて何時(いつ)()(きた)るべき。113曠日(くわうじつ)114瀰久(びきう)(いたづら)逡巡(しゆんじゆん)して、115(かれ)()(せん)()されなば、116吾々(われわれ)何時(いつ)()(かしら)(もた)ぐるを()られませうか。117何卒(なにとぞ)皆様(みなさま)(おい)ても()熟慮(じゆくりよ)……(いな)()即考(そくかう)あつて、118(すみや)かに()賛成(さんせい)あらむ(こと)希望(きばう)(いた)します』
119()(をは)つて悠々(いういう)(だん)(くだ)る。120拍手(はくしゆ)(こゑ)雨霰(あめあられ)(ごと)(ぢやう)内外(ないぐわい)(ひび)(わた)つた。
121 (この)(とき)末席(まつせき)よりセールス(ひめ)間者(かんじや)として()()()たるハールは壇上(だんじやう)(あら)はれ、
122ハール『(みな)さまに、123末席(まつせき)吾々(われわれ)(おそ)れげもなく、124(この)高座(かうざ)(のぼ)りて、125()意見(いけん)(うけたま)はりたしと()(あら)はれました。126マールエース、127テールスタンの幹部(かんぶ)(がた)()意見(いけん)は、128末輩(まつぱい)(わたし)(おい)ても、129(きは)めて賛成(さんせい)(いた)します。130()いては三五教(あななひけう)信徒(しんと)(もつ)言霊軍(ことたまぐん)組織(そしき)し、131泰安城(たいあんじやう)()()(たま)目的(もくてき)(この)(たび)暴動(ばうどう)鎮定(ちんてい)し、132シヤーカルタン、133トロレンスの一派(いつぱ)(たい)して痛棒(つうぼう)(くは)ふるにあるか、134(ただし)はセールス(ひめ)中心(ちうしん)とする泰安城(たいあんじやう)重役(ぢうやく)(たい)して、135大痛棒(だいつうぼう)(あた)ふるの覚悟(かくご)御座(ござ)るか、136(この)(てん)を、137何卒(なにとぞ)明瞭(めいれう)()(しめ)(いただ)きたう御座(ござ)います。138()出陣(しゆつぢん)先立(さきだ)ち、139(てき)(さだ)めておかねばなりますまい』
140(こころ)ありげに()()てた。141(この)(とき)ホールサースは(ふたた)壇上(だんじやう)(あら)はれて()ふ。
142ホールサース(てん)(かなら)善人(ぜんにん)(くみ)す。143吾々(われわれ)正義(せいぎ)(ため)(たたか)ふのである。144セールス(ひめ)にして(あく)ならば、145(かれ)(こら)し、146(また)(ぜん)ならば()れを(たす)けん。147シヤーカルタン、148トロレンスにして(その)目的(もくてき)149国家(こくか)民人(みんじん)(ため)ならば(われ)(かれ)(たす)けむ。150()(いづ)れを(ぜん)とも(あく)とも(さだ)(がた)し。151さり(なが)ら、152カールス(わう)()病気(びやうき)(たて)に、153淡渓(たんけい)(ほとり)(ちい)さき(やかた)(つく)り、154(これ)幽閉(いうへい)し、155セウルスチンの(ごと)(いや)しきホーロケースの(せがれ)重用(ぢうよう)して、156悪政(あくせい)()くセールス(ひめ)行動(かうどう)()たたまらず、157(われ)()一同(いちどう)(この)聖地(せいち)(のが)(きた)りし(もの)なれば、158(この)(たび)大騒動(おほさうどう)(その)原因(げんいん)は、159セールス(ひめ)一派(いつぱ)暴政(ばうせい)()りて勃発(ぼつぱつ)せしものたる(こと)(さつ)するに(あま)りあり。160(えう)するに(この)(たび)神軍(しんぐん)はカールス(わう)()(たす)申上(まをしあ)げ、161(ふたた)(もと)泰安城(たいあんじやう)()(なほ)目的(もくてき)(おも)へば間違(まちがひ)なからうと(おも)ひます』
162とキツパリ()つて()けた。163ハールは(ふたた)(くち)(ひら)いて、
164ハール(この)(たび)神軍(しんぐん)(さいはひ)にして勝利(しようり)()165カールス(わう)(すく)()だし、166(ふたた)王位(わうゐ)()たしめなば、167セールス(ひめ)正妃(せいひ)となし(たま)()所存(しよぞん)なるか。168(ただし)はヤーチン(ひめ)(もつ)正妃(せいひ)(さだ)(たま)(かんが)へなりや(うけたま)はりたし』
169(よば)はつた。170ホーレンスは(はじ)めて登壇(とうだん)し、
171ホーレンス吾々(われわれ)(かんがへ)ふる(ところ)は、172カールス(わう)(すく)(たてまつ)り、173ヤーチン(ひめ)正妃(せいひ)となさむ(こと)熱望(ねつばう)して()ります。174さうなればカールス(わう)もヤーチン(ひめ)日頃(ひごろ)(おも)ひが()げられて、175円満(ゑんまん)政事(せいじ)(おこな)はれ、176国民(こくみん)父母(ふぼ)(あふ)がれ(たま)瑞祥(ずゐしやう)(きた)(こと)(しん)じて()ります』
177ハール『ヤーチン(ひめ)(さま)最早(もはや)(むかし)とは()(こころ)(かは)つて()(やう)(おも)はれます。178(この)(こと)第一(だいいち)教主(けうしゆ)真道彦(まみちひこ)(さま)()意見(いけん)()らねばなりますまい。179一般(いつぱん)(うはさ)()れば、180内面(ないめん)(てき)()夫婦(ふうふ)関係(くわんけい)(むす)ばれ()ると()(こと)181むしろ神軍(しんぐん)勝利(しようり)()たる(あかつき)真道彦(まみちひこ)(さま)政教(せいけう)両面(りやうめん)主権者(しゆけんしや)となし、182ヤーチン(ひめ)(さま)(その)()公然(こうぜん)(あそ)ばしたら如何(いかが)御座(ござ)いませう。183それの(はう)余程(よほど)(をさ)まりが()(やう)(かんが)へられます』
184テールスタン『吾々(われわれ)(えう)するに泰安城(たいあんじやう)主権者(しゆけんしや)(えら)(その)幕下(ばくか)(つか)へて(もと)位地(ゐち)(かへ)りさへすれば()いのである。185主権者(しゆけんしや)がカールス(わう)であらうと、186真道彦(まみちひこの)(みこと)であらうと、187()(ところ)ではありませぬ。188吾々(われわれ)(かんがへ)ふる(ところ)では、189真道彦(まみちひこの)(みこと)(さま)(かなら)心中(しんちう)泰安城(たいあんじやう)(わう)たるべきことを()期待(きたい)(あそ)ばされある(こと)確信(かくしん)(いた)し、190泰安城(たいあんじやう)()てて(ここ)(あつ)まつて()(もの)御座(ござ)います。191真道彦(まみちひこの)(みこと)(さま)にして、192(ただ)(たん)教法(けうはふ)(じやう)主権者(しゆけんしや)(もつ)(あま)んずるの()意志(いし)ならば吾々(われわれ)(もと)より斯様(かやう)(ところ)(くび)突込(つつこ)(もの)ではありませぬ。193諸君(しよくん)()かせられても、194吾々(われわれ)同感(どうかん)ならむと(さつ)します』
195 一堂(いちだう)拍手(はくしゆ)(こゑ)()たされた。
196 真道彦(まみちひこ)憤然(ふんぜん)として()(おこ)し、197(だん)中央(ちうあう)(あら)はれ、198慨歎(がいたん)(じやう)()へざるものの(ごと)く、199(しばら)くは壇上(だんじやう)()(ふさ)悄然(せうぜん)として()つた(まま)200両眼(りやうがん)よりは(なみだ)さへ(なが)して()る。201(やうや)くにして(くち)(ひら)き、
202真道彦(まみちひこ)只今(ただいま)幹部(かんぶ)(がた)()(はなし)()き、203(この)真道彦(まみちひこ)()きましては、204(じつ)青天(せいてん)霹靂(へきれき)(まを)さうか、205寝耳(ねみみ)(みづ)(まを)さうか、206(おどろ)きと慨歎(がいたん)とに(つつ)まれて(しま)ひました。207()(なか)誤解(ごかい)(くらゐ)(おそ)ろしきものは()りませぬ。208各自(めいめい)(こころ)(もつ)(ひと)(こころ)()(はか)ると()(こと)は、209(じつ)対者(たいしや)たるもの(おそ)るべき迷惑(めいわく)(かん)じます。210吾々(われわれ)祖先(そせん)以来(いらい)211国魂(くにたま)(かみ)(まつ)り、212三五教(あななひけう)(をしへ)(かた)遵守(じゆんしゆ)し、213(すこ)しも政治(せいぢ)(こころ)(かたむ)けず、214万民(ばんみん)善道(ぜんだう)教化(けうくわ)するを(もつ)最善(さいぜん)任務(にんむ)衷心(ちうしん)より(かた)(しん)じ、215()神慮(しんりよ)万民(ばんみん)(つた)ふるを(もつ)て、216無限(むげん)光栄(くわうえい)(ぞん)じて()ります。217(しか)るに只今(ただいま)幹部(かんぶ)(がた)()意見(いけん)(うけたま)はり()れば、218(わたくし)(もつ)政治(せいぢ)(てき)救世主(きうせいしゆ)(ごと)(おも)つて()られるやうで御座(ござ)います。219(また)王族(わうぞく)たるヤーチン(ひめ)(さま)(わたくし)(あひだ)に、220(なん)だか(あや)しき関係(くわんけい)でも(むす)ばれある(やう)語気(ごき)()らされました。221(わたくし)(じつ)心外(しんぐわい)千万(せんばん)でなりませぬ。222どうぞ三五教(あななひけう)精神(せいしん)と、223吾々(われわれ)誠意(せいい)()()諒解(りやうかい)(くだ)さいまして、224大慈(だいじ)大悲(だいひ)大神(おほかみ)(さま)御旨(みむね)(かな)はせらるる(やう)225(かみ)かけて(いの)(たてまつ)ります。226(かさ)ねて(まを)して()きますが、227(けつ)して(この)真道彦(まみちひこ)物質(ぶつしつ)(てき)野心(やしん)()ければ、228政治(せいぢ)(てき)欲望(よくばう)毫末(がうまつ)()りませぬ。229(また)皆様(みなさま)()されて政治(せいぢ)(てき)権威(けんゐ)(にぎ)らうとは、230夢寐(むび)にも(おも)ひませぬ。231(この)(こと)呉々(くれぐれ)()承知(しようち)をして(いただ)きたう御座(ござ)います』
232()(をは)り、233憮然(ぶぜん)として、234(わが)居間(ゐま)姿(すがた)(かく)した。235真道彦(まみちひこ)退場(たいぢやう)()れて、236日楯(ひたて)237月鉾(つきほこ)兄弟(きやうだい)(また)満場(まんぢやう)目礼(もくれい)し、238悄然(せうぜん)として(ちち)(あと)(したが)(この)議席(ぎせき)退場(たいぢやう)したり。
239 (あと)には気兼(きがね)なしの大会場(だいくわいぢやう)口々(くちぐち)勝手(かつて)議論(ぎろん)沸騰(ふつとう)()した。240セールス(ひめ)間者(かんじや)として(かね)てより()()()たりしカントンと()(をとこ)241(たちま)壇上(だんじやう)(あら)はれ(しう)(むか)つて()ふ。
242カントン『(みな)さま、243只今(ただいま)真道彦(まみちひこの)(みこと)(あふ)せられた()言葉(ことば)244(なん)()観察(くわんさつ)なされますか。245吾々(われわれ)貧弱(ひんじやく)なる智識(ちしき)(もつ)教主(けうしゆ)()心中(しんちう)測量(そくりやう)(いた)すは、246(すこ)しく烏呼(をこ)沙汰(さた)では御座(ござ)いますが、247あの()言葉(ことば)は、248吾々(われわれ)(こころ)にも()嘘言(そらごと)()つて()られるのだと(おも)ひます。249政治(せいぢ)(てき)野心(やしん)毛頭(まうとう)()いと(あふ)せられたのは、250(えう)するに(おほい)()りといふ(なぞ)御座(ござ)いませう。251注意(ちうい)周到(しうたう)なる教主(けうしゆ)はセールス(ひめ)間者(かんじや)252もしや信徒(しんと)()けて(しの)()()るやも()れずと心遣(こころづか)ひ、253……ヤアもう英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)心事(しんじ)容易(ようい)(はか)()れないもので御座(ござ)います。254吾々(われわれ)はキツと真道彦(まみちひこの)(みこと)255泰安城(たいあんじやう)(あら)はれ、256(みづか)主権者(しゆけんしや)となり、257最愛(さいあい)のヤーチン(ひめ)(きさき)として君臨(くんりん)せむと心中(しんちう)企画(きくわく)()らるる(こと)は、258(すこ)しも(うたが)ふの余地(よち)なき(こと)(かた)(しん)じます。259幹部(かんぶ)方々(かたがた)()意見(いけん)如何(いかが)御座(ござ)いまするか』
260 一同(いちどう)は『賛成(さんせい)々々(さんせい)261(もつと)(もつと)も』と拍手(はくしゆ)して(むか)へた。262カントンは得意(とくい)(はな)(うごめ)かし(なが)両手(りやうて)鷹揚(おうよう)()りつつ、263(だん)(くだ)りて自席(じせき)()く。
264 幹部(かんぶ)一人(ひとり)(きこ)えたる頑固派(ぐわんこは)頭領株(とうりやうかぶ)エールは、265(あわただ)しく壇上(だんじやう)立上(たちあが)り、
266エール吾々(われわれ)(もと)より泰安城(たいあんじやう)重臣(ぢうしん)としてカールス(わう)(つか)へ、267殊恩(しゆおん)(よく)したる(もの)268(しか)るにサアルボース、269ホーロケース一派(いつぱ)悪臣(あくしん)(ため)大恩(だいおん)あるカールス(わう)()病気(びやうき)(たて)に、270淡渓(たんけい)(ほとり)幽閉(いうへい)(たてまつ)り、271悪鬼(あくき)(ごと)きセールス(ひめ)272(けん)(ほしいまま)にし、273暴虐(ばうぎやく)日々(ひび)増長(ぞうちよう)し、274無念(むねん)(なみだ)やる()なく、275如何(いか)にもしてカールス(わう)(すく)(たてまつ)り、276(もと)泰安城(たいあんじやう)立直(たてなほ)さむと肺肝(はいかん)(くだ)きつつあつた(もの)御座(ござ)います。277(しか)るに(てん)(とき)(いま)(いた)らず、278(なみだ)()んで(とき)(いた)るを()(うち)279(この)玉藻山(たまもやま)聖地(せいち)に、280現幽(げんいう)二界(にかい)救世主(きうせいしゆ)(あら)はれたりと()き、281城内(じやうない)脱出(だつしゆつ)して、282(ここ)三五教(あななひけう)信徒(しんと)となり、283幹部(かんぶ)(れつ)せられ、284(とき)()てカールス(わう)(ため)全力(ぜんりよく)(つく)し、285忠義(ちうぎ)()てむと決意(けつい)し、286顕要(けんえう)地位(ちゐ)(すて)て、287無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)三五教(あななひけう)()()せて()たのであります。288(しか)(なが)吾々(われわれ)日夜(にちや)真道彦(まみちひこ)挙動(きよどう)偵察(ていさつ)するに、289(おそ)(おほ)くもヤーチン(ひめ)(あや)しき交際(かうさい)(むす)ばれたる(ごと)(かん)ぜられ、290憤怒(ふんぬ)(じやう)()へませぬ。291(また)一般(いつぱん)(うはさ)もヤハリ教主(けうしゆ)とヤーチン(ひめ)との交際(かうさい)(てん)(つい)て、292ヒソビソと(あや)しき(うはさ)()つて()ります。293()()(ところ)には(けつ)して(けぶり)()つものではありませぬ。294これに()いて吾々(われわれ)(かんが)へまするに、295教主(けうしゆ)最早(もはや)ヤーチン(ひめ)内縁(ないえん)(つま)となし()らるる以上(いじやう)は、296仮令(たとへ)カールス(わう)(すく)ひたりとて、297一旦(いつたん)(けが)されたるヤーチン(ひめ)をして、298堂々(だうだう)王妃(わうひ)(すす)めまつる(こと)は、299吾々(われわれ)臣下(しんか)()として(しの)びざる(ところ)御座(ござ)います。300(また)教主(けうしゆ)はヤーチン(ひめ)自己(じこ)薬籠中(やくろうちう)(もの)となし、301カールス(わう)排斥(はいせき)して(みづか)治権(ちけん)(にぎ)野心(やしん)包蔵(はうざう)さるるは、302一点(いつてん)(うたが)ふの余地(よち)()からうかと(しん)じます』
303憤然(ふんぜん)として壇上(だんじやう)雄健(をたけ)びし、304足踏(あしふ)みならして鼻息(はないき)(あら)降壇(かうだん)した。
305 カントンは(ふたた)壇上(だんじやう)(あが)り、
306カントン吾々(われわれ)時節(じせつ)(ちから)()(こと)(かた)(しん)じて()(もの)御座(ござ)います。307泰安城(たいあんじやう)主権者(しゆけんしや)が、308カールス(わう)だらうが、309真道彦(まみちひこの)(みこと)であらうが、310(ただし)はセールス(ひめ)であらうが、311国民(こくみん)歓迎(くわんげい)する主権者(しゆけんしや)であらば()いので御座(ござ)います。312天下(てんか)公共(こうきよう)(ため)には些々(ささ)たる感情(かんじやう)(ため)左右(さいう)されてはなりますまい。313只今(ただいま)エールさまの()言葉(ことば)一応(いちおう)御尤(ごもつと)もでは御座(ござ)いまするが、314それはエール(その)(ひと)本位(ほんゐ)としての議論(ぎろん)であつて、315天下(てんか)通用(つうよう)しにくい()(はなし)だと(おも)ひます。316カールス(わう)殊恩(しゆおん)(かうむ)つた(その)御恩(ごおん)(むく)いむ(ため)種々(いろいろ)肺肝(はいかん)(くだ)かせらるるは、317それは主従(しゆじゆう)としての関係(くわんけい)(じやう)318主恩(しゆおん)(むく)いむとする真心(まごころ)より()でさせられたる感情論(かんじやうろん)であつて、319()はば乾児(こぶん)親分(おやぶん)贔屓(ひいき)をする(やう)なものであります。320国民(こくみん)一般(いつぱん)より()れば(あま)問題(もんだい)とならない議論(ぎろん)だと、321(わたくし)(おも)ふのであります。322吾々(われわれ)(ごと)無冠(むかん)太夫(たいふ)(べつ)にエール(さま)(ごと)く、323特別(とくべつ)恩寵(おんちよう)(かうむ)つた(おぼ)えもなければ、324(また)カールス(わう)(たい)して一片(いつぺん)(うら)みも()ちませぬ。325(ただ)(この)(さい)国家(こくか)(ため)善良(ぜんりやう)なる主権者(しゆけんしや)()326万民(ばんみん)鼓腹(こふく)撃壌(げきじやう)享楽(きやうらく)()(やう)に、327()(なか)(すす)みさへすれば、328それで満足(まんぞく)であります。329諸君(しよくん)()(かんが)へは如何(いかが)御座(ござ)いますか。330小田原(をだはら)評定(へうぢやう)にあたら光陰(くわういん)空費(くうひ)し、331時機(じき)(しつ)するよりは、332手取早(てつとりばや)(はなし)()めて、333(はや)救援(きうゑん)(むか)はねば、334国家(こくか)益々(ますます)修羅(しゆら)(ちまた)惨状(さんじやう)(きは)め、335国民(こくみん)(くる)しみは()()うて(はげ)しくなるでせう。336(なに)()もあれ、337出陣(しゆつぢん)非出陣(ひしゆつぢん)か、338(いち)()(はや)諸君(しよくん)誠意(せいい)()つて()決定(けつてい)(ねが)ひます』
339()(をは)るや、340以前(いぜん)のエールは烈火(れつくわ)(ごと)(いきどほ)り、341(たちま)壇上(だんじやう)駆上(かけあ)がり、342弁者(べんしや)面上(めんじやう)()あてに鉄拳(てつけん)乱打(らんだ)したるより、343満場(まんぢやう)総立(さうだ)ちとなりて、
344(一同)『ヤレ乱暴者(らんばうもの)(とら)へよ』
345とひしめき()ちぬ。346エールは敏捷(びんせふ)にも混乱(こんらん)(すき)(うかが)ひ、347何処(どこ)ともなく、348(この)()より姿(すがた)(かく)したりける。
349大正一一・八・八 旧六・一六 松村真澄録)
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