一方、日楯ら三人はアーリス山を下り、テルナの渓谷に着いた。三人は飢えと疲れから、谷に生える木茄子を見つけてむしり食べると、その場に熟睡してしまった。
この木茄子は、テルナの里人が、バラモン教の祭典に際して供物に捧げようと保存しておいたものであった。祭典にあわせて木茄子を取りに来た里人たちは、木茄子がひとつも残っておらず、巡礼姿の三人の男女が傍らで寝ているのを見て驚き、酋長を呼んだ。
里人は三人を起こして、神饌の木茄子を食べてしまったことを責め立てた。酋長がやってくると、バラモンの神に大罪を犯した者は、生贄にするのだと言い渡した。しかしユリコ姫に相好を崩し、自分の妻になれば命は助けてやる、と言い出した。
ユリコ姫の助命嘆願に、酋長は、日楯と月鉾が烈火をくぐり、剣を渡り、釘の足駄を履いて裸で茨の叢をくぐれば赦してやる、と言い渡した。
酋長と里人たちは、三人を促して祭典の場所に連れて行った。そして日楯と月鉾を燃え上がる火の中に投げ込んだ。二人は天の数歌を唱えると、猛火の中を少しも火傷をせずに巡って戻ってきた。二人の神力に、里人たちは肝をつぶした。
一方ユリコ姫は酋長の俄妻として美々しく飾り立てられて、酋長と並んで祭壇に立たされたが、どこからともなく一塊の火光が来て爆発し、酋長は空中に巻き上げられた。里人たちは驚いて逃げる者、腰を抜かす者など混乱している。
ユリコ姫は美々しい衣装を火中に投げ捨てると、日楯、月鉾とともに祭壇の前に立って、感謝祈願の祝詞を唱えると宣伝歌を歌い始めた。
祈り終わると、酋長は礼服を着飾って三人の前にひざまづき、生き神に対して数々の無礼を加えたことを陳謝した。そして大自在天の怒りの火光で中空に巻き上げられた後、国魂神・竜世姫の守りによって助かったことを明かした。
三人は酋長をはじめ里人たちに三五教の教理を説き諭し、数日後に送られてキールの港に着いた。