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第78巻(巳の巻)
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第36巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 天意か人意か
01 二教対立
〔989〕
02 川辺の館
〔990〕
03 反間苦肉
〔991〕
04 無法人
〔992〕
05 バリーの館
〔993〕
06 意外な答
〔994〕
07 蒙塵
〔995〕
08 悪現霊
〔996〕
第2篇 松浦の岩窟
09 濃霧の途
〔997〕
10 岩隠れ
〔998〕
11 泥酔
〔999〕
12 無住居士
〔1000〕
13 恵の花
〔1001〕
14 歎願
〔1002〕
第3篇 神地の暗雲
15 眩代思潮
〔1003〕
16 門雀
〔1004〕
17 一目翁
〔1005〕
18 心の天国
〔1006〕
19 紅蓮の舌
〔1007〕
第4篇 言霊神軍
20 岩窟の邂逅
〔1008〕
21 火の洗礼
〔1009〕
22 春の雪
〔1010〕
23 雪達磨
〔1011〕
24 三六合
〔1012〕
余白歌
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第三章
反間
(
はんかん
)
苦肉
(
くにく
)
〔九九一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第36巻 海洋万里 亥の巻
篇:
第1篇 天意か人意か
よみ(新仮名遣い):
てんいかじんいか
章:
第3章 反間苦肉
よみ(新仮名遣い):
はんかんくにく
通し章番号:
991
口述日:
1922(大正11)年09月21日(旧08月1日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月30日
概要:
舞台:
神地の城
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
サガレン王が神前の間で瞑想にふけっていると、ケールス姫は慌ただしく押し入ってきた。姫は両眼に涙をたたえて泣き伏した。
サガレン王が何事か問いただすと、ケールス姫はシルレングとユーズが王に反逆を企てて徒党を集め、今夜クーデターを行おうとしていると讒訴した。
王は、忠臣の二人がそのようなことをするはずがないと疑った。ケールス姫は自分がバラモン教に改心すると誓って王の歓心を買い、自害する振りをして、ユーズとシルレングの取り調べの権限の許可を王から得てしまった。
ケールス姫が去った後、今度はサガレン王の部下のゼムとエールがやってきて、竜雲に謀反の計画ありと王に伝えた。王は思案に暮れてしまった。
そこへケールス姫が戻ってきた。姫はゼムとエールが王の側にいるのを見ると、二人を反逆者呼ばわりして怒鳴りつけた。ゼムとエールも姫に反論して激しい言い争いになってしまう。
王は、この二人に限って決して不心得はないと毅然と言い放ち、姫に居間に帰るようにと厳然と指示した。ケールス姫はゼムとエールを睨み付けて言葉もなく居間に帰ってゆく。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-04 11:25:23
OBC :
rm3603
愛善世界社版:
23頁
八幡書店版:
第6輯 591頁
修補版:
校定版:
23頁
普及版:
11頁
初版:
ページ備考:
001
サガレン
王
(
わう
)
は
神前
(
しんぜん
)
の
間
(
ま
)
に
端坐
(
たんざ
)
して
冥想
(
めいさう
)
に
耽
(
ふけ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
002
其処
(
そこ
)
へ
慌
(
あわただ
)
しく
襖
(
ふすま
)
を
押開
(
おしあ
)
け
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
りしケールス
姫
(
ひめ
)
は、
003
両眼
(
りやうがん
)
に
涙
(
なみだ
)
を
湛
(
たた
)
へ
乍
(
なが
)
らワツとばかりに
泣
(
な
)
き
伏
(
ふ
)
したり。
004
サガレン
王
(
わう
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
005
サガレン王
『
消魂
(
けたた
)
ましき
汝
(
なんぢ
)
の
其
(
その
)
様子
(
やうす
)
、
006
何事
(
なにごと
)
なるぞ』
007
と
尋
(
たづ
)
ぬれば、
008
ケールス
姫
(
ひめ
)
は
漸
(
やうや
)
くにして
顔
(
かほ
)
をあげ、
009
涙
(
なみだ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ひ、
010
ケールス姫
『
王
(
わう
)
様
(
さま
)
、
011
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ました。
012
御
(
ご
)
用心
(
ようじん
)
なさいませ』
013
サガレン王
『
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
とは
何
(
なん
)
だ』
014
ケールス姫
『
外
(
ほか
)
でも
御座
(
ござ
)
いませぬ。
015
シルレング、
016
ユーズの
輩
(
はい
)
、
017
私
(
ひそか
)
に
徒党
(
とたう
)
を
結
(
むす
)
び
反逆
(
はんぎやく
)
を
企
(
くはだ
)
て、
018
王
(
わう
)
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
め
妾
(
わらは
)
等
(
ら
)
を
今夜
(
こんや
)
の
中
(
うち
)
にベツトして、
019
クーデターを
行
(
おこな
)
ふ
陰謀
(
いんぼう
)
を
企
(
くはだ
)
てて
居
(
を
)
ります』
020
サガレン王
『
何
(
なに
)
、
021
シルレング、
022
ユーズが
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
企劃
(
きくわく
)
して
居
(
ゐ
)
ると
申
(
まを
)
すのか。
023
それは
大方
(
おほかた
)
何
(
なに
)
かの
間違
(
まちが
)
ひであらう』
024
ケールス姫
『イエイエ、
025
決
(
けつ
)
して
間違
(
まちが
)
ひでは
御座
(
ござ
)
いませぬ。
026
先日
(
せんじつ
)
より
両人
(
りやうにん
)
の
様子
(
やうす
)
如何
(
いか
)
にも
怪
(
あや
)
しと
存
(
ぞん
)
じ、
027
私
(
ひそか
)
にベールを
遣
(
つか
)
はして、
028
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
が
胸中
(
きようちう
)
を
探
(
さぐ
)
らせし
処
(
ところ
)
、
029
今夜
(
こんや
)
を
期
(
き
)
して
事
(
こと
)
を
挙
(
あ
)
ぐる
手筈
(
てはず
)
になつて
居
(
を
)
ります。
030
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
れば
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
一大事
(
いちだいじ
)
、
031
社稷
(
しやしよく
)
の
顛覆
(
てんぷく
)
は
風前
(
ふうぜん
)
の
灯火
(
ともしび
)
も
同様
(
どうやう
)
なれば、
032
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
一派
(
いつぱ
)
を
速
(
すみや
)
かに
獄
(
ごく
)
に
投
(
とう
)
じ、
033
而
(
しか
)
して
後
(
のち
)
ゆるゆるとお
調
(
しら
)
べにならば、
034
一切
(
いつさい
)
の
事実
(
じじつ
)
が
判然
(
はんぜん
)
する
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
035
万一
(
まんいち
)
ベールの
報告
(
はうこく
)
にして
誤
(
あやま
)
りなりとせば、
036
之
(
これ
)
に
越
(
こ
)
したる
喜
(
よろこ
)
びは
御座
(
ござ
)
いませぬ。
037
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
を
捕縛
(
ほばく
)
し、
038
一
(
いち
)
時
(
じ
)
投獄
(
とうごく
)
を
仰
(
あふ
)
せ
付
(
つ
)
けられるが
安全
(
あんぜん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
039
此
(
この
)
事
(
こと
)
をお
聞
(
き
)
き
下
(
くだ
)
さるならば、
040
妾
(
わらは
)
も
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
りウラル
教
(
けう
)
の
信仰
(
しんかう
)
を
捨
(
す
)
て、
041
バラモン
教
(
けう
)
に
入信
(
にふしん
)
し、
042
王
(
わう
)
と
共
(
とも
)
に
神政
(
しんせい
)
に
仕
(
つか
)
へ
奉
(
まつ
)
るで
御座
(
ござ
)
いませう。
043
王
(
わう
)
様
(
さま
)
!
何卒
(
なにとぞ
)
一刻
(
いつこく
)
の
猶予
(
いうよ
)
もなりませぬから、
044
早
(
はや
)
く
御
(
ご
)
英断
(
えいだん
)
をお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
045
サガレン王
『そなたがバラモン
教
(
けう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
してくれるのは
有難
(
ありがた
)
い。
046
第一
(
だいいち
)
家内
(
かない
)
円満
(
ゑんまん
)
の
曙光
(
しよくわう
)
を
認
(
みと
)
めた
様
(
やう
)
なものだ。
047
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らシルレング、
048
ユーズに
限
(
かぎ
)
つて
左様
(
さやう
)
な
不都合
(
ふつがふ
)
な
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
すべき
道理
(
だうり
)
がない。
049
篤
(
とく
)
と
取調
(
とりしら
)
べた
上
(
うへ
)
、
050
改
(
あらた
)
めて
報告
(
はうこく
)
せよ。
051
吾
(
われ
)
も
亦
(
また
)
ゼム、
052
エール、
053
エームスに
命
(
めい
)
じて、
054
事
(
こと
)
の
実否
(
じつぴ
)
を
急々
(
きふきふ
)
探
(
さぐ
)
らせ
見
(
み
)
む。
055
先
(
ま
)
づ
心
(
こころ
)
を
落
(
お
)
ち
付
(
つ
)
けよ』
056
姫
(
ひめ
)
はワツとばかりに
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
し、
057
恨
(
うら
)
めしげに
王
(
わう
)
の
顔
(
かほ
)
を
見上
(
みあ
)
げながら、
058
ケールス姫
『お
情
(
なさけ
)
ない
其
(
その
)
お
言葉
(
ことば
)
、
059
妾
(
わらは
)
の
申上
(
まをしあ
)
げた
事
(
こと
)
を
貴方
(
あなた
)
は
信用
(
しんよう
)
して
下
(
くだ
)
さいませぬか。
060
ゼム、
061
エール、
062
エームスの
如
(
ごと
)
き
臣下
(
しんか
)
の
方
(
はう
)
を、
063
貴方
(
あなた
)
は
妾
(
わらは
)
よりも
幾層倍
(
いくそうばい
)
御
(
ご
)
信任
(
しんにん
)
なさるのでせう。
064
エーさうなれば
最早
(
もはや
)
妾
(
わらは
)
は
是非
(
ぜひ
)
に
及
(
およ
)
ばぬ。
065
居
(
ゐ
)
ながら
王
(
わう
)
の
危難
(
きなん
)
を
見
(
み
)
るに
忍
(
しの
)
びませぬ。
066
此処
(
ここ
)
にて
自害
(
じがい
)
を
致
(
いた
)
します』
067
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
068
隠
(
かく
)
し
持
(
も
)
つたる
懐剣
(
くわいけん
)
を
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
き、
069
アワヤ
咽
(
のんど
)
につき
立
(
た
)
てむとする
姫
(
ひめ
)
の
狂言
(
きやうげん
)
を
王
(
わう
)
は
誠
(
まこと
)
と
信
(
しん
)
じ、
070
驚
(
おどろ
)
いて
座
(
ざ
)
を
起
(
た
)
ち、
071
姫
(
ひめ
)
の
手
(
て
)
をシツカと
握
(
にぎ
)
り、
072
サガレン王
『ヤレ
待
(
ま
)
て! ケールス
姫
(
ひめ
)
、
073
早
(
はや
)
まるな』
074
ケールス姫
『イエイエ
妾
(
わらは
)
は
貴方
(
あなた
)
には
捨
(
す
)
てられ、
075
臣下
(
しんか
)
にはせめ
立
(
た
)
てられ、
076
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
生
(
い
)
きて
何
(
なん
)
の
望
(
のぞ
)
みもなく、
077
ムザムザと
臣下
(
しんか
)
の
手
(
て
)
にかかつて
死恥
(
しにはぢ
)
を
曬
(
さら
)
さむよりも、
078
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
前
(
まへ
)
にて
潔
(
いさぎよ
)
く
咽
(
のど
)
を
突
(
つ
)
き
切
(
き
)
り
自害
(
じがい
)
を
致
(
いた
)
します。
079
何卒
(
どうぞ
)
其
(
その
)
手
(
て
)
をお
放
(
はな
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
080
と
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
ぶ。
081
王
(
わう
)
は
黙念
(
もくねん
)
として
居
(
ゐ
)
たりしが、
082
暫
(
しばら
)
くあつて
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
083
サガレン王
『
然
(
しか
)
らば
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も、
084
シルレング、
085
ユーズの
件
(
けん
)
に
就
(
つい
)
ては
其方
(
そなた
)
に
一任
(
いちにん
)
する。
086
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
一切
(
いつさい
)
の
事情
(
じじやう
)
の
判明
(
はんめい
)
する
迄
(
まで
)
は、
087
決
(
けつ
)
して
成敗
(
せいばい
)
する
事
(
こと
)
はならぬぞ』
088
姫
(
ひめ
)
は
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いて、
089
私
(
ひそ
)
かに
舌
(
した
)
を
剥
(
む
)
き
出
(
だ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
090
面
(
おもて
)
に
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
しつつ、
091
ケールス姫
『ハイ、
092
不束
(
ふつつか
)
な
妾
(
わらは
)
の
願
(
ねがひ
)
を
御
(
お
)
聞
(
き
)
き
届
(
とど
)
け
下
(
くだ
)
さいまして
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
093
然
(
しか
)
らばこれよりタールチンに
命
(
めい
)
じ、
094
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
を
獄
(
ごく
)
に
投
(
とう
)
じます。
095
就
(
つい
)
ては
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
の
罪状
(
ざいじやう
)
は
後
(
あと
)
で
篤
(
とつくり
)
と
取調
(
とりしら
)
べ、
096
御
(
ご
)
報告
(
はうこく
)
申上
(
まをしあ
)
げまする』
097
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
たむとするを、
098
サガレン
王
(
わう
)
は、
099
サガレン王
『ケールス
姫
(
ひめ
)
、
100
暫
(
しばら
)
く
待
(
ま
)
ちや』
101
と
声
(
こゑ
)
をかけた。
102
ケールス
姫
(
ひめ
)
は
後
(
あと
)
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り、
103
ケールス姫
『
待
(
ま
)
てと
仰有
(
おつしや
)
るのは、
104
御
(
お
)
心変
(
こころがは
)
りがしたのでは
御座
(
ござ
)
りませぬか』
105
サガレン王
『イヤ
別
(
べつ
)
に
心変
(
こころがは
)
りは
致
(
いた
)
さぬ。
106
其方
(
そなた
)
は
今
(
いま
)
ウラル
教
(
けう
)
を
捨
(
す
)
てて、
107
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
りバラモン
教
(
けう
)
になると
云
(
い
)
つたであらう。
108
それに
間違
(
まちが
)
ひはないか』
109
ケールス姫
『
仰
(
あふ
)
せ
迄
(
まで
)
もなく、
110
一旦
(
いつたん
)
申上
(
まをしあ
)
げた
事
(
こと
)
に
如何
(
どう
)
して
間違
(
まちが
)
ひが
御座
(
ござ
)
いませう』
111
サガレン王
『ウン、
112
それなら
宜
(
い
)
い。
113
其方
(
そなた
)
がウラル
教
(
けう
)
を
捨
(
す
)
てた
以上
(
いじやう
)
は、
114
最早
(
もはや
)
竜雲
(
りううん
)
は
本城
(
ほんじやう
)
に
必要
(
ひつえう
)
のない
男
(
をとこ
)
だ。
115
速
(
すみやか
)
に
退却
(
たいきやく
)
を
命
(
めい
)
ぜよ。
116
一刻
(
いつこく
)
も
置
(
お
)
く
事
(
こと
)
はならぬぞ』
117
ケールス姫
『それは
余
(
あんま
)
り
急
(
きふ
)
な
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
、
118
竜雲
(
りううん
)
にも
篤
(
とく
)
と
云
(
い
)
ひ
聞
(
き
)
かし、
119
得心
(
とくしん
)
をさせて
帰
(
かへ
)
さねばなりますまい。
120
仮令
(
たとへ
)
ウラル
教
(
けう
)
なればとて、
121
今
(
いま
)
の
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
師匠
(
ししやう
)
と
仰
(
あふ
)
いだ
竜雲
(
りううん
)
に
対
(
たい
)
し、
122
さう
素気
(
すげ
)
なくも
取扱
(
とりあつか
)
ふ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい』
123
サガレン王
『イヤ、
124
彼
(
かれ
)
こそ
吾
(
われ
)
に
対
(
たい
)
する
危険
(
きけん
)
人物
(
じんぶつ
)
の
張本人
(
ちやうほんにん
)
だ。
125
早
(
はや
)
く
退却
(
たいきやく
)
を
命
(
めい
)
ぜよ』
126
ケールス姫
『
一国
(
いつこく
)
の
王
(
わう
)
とならせ
給
(
たま
)
へる
御
(
おん
)
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
127
左様
(
さやう
)
な
無慈悲
(
むじひ
)
の
事
(
こと
)
を
仰
(
あふ
)
せられましては、
128
如何
(
どう
)
して
国民
(
こくみん
)
が
悦服
(
えつぷく
)
致
(
いた
)
しませうか。
129
そこは
円満
(
ゑんまん
)
に
因果
(
いんぐわ
)
を
含
(
ふく
)
めて
退却
(
たいきやく
)
を
命
(
めい
)
ずるが、
130
王
(
わう
)
の
為
(
ため
)
にも
最前
(
さいぜん
)
の
御
(
お
)
道
(
みち
)
だと
考
(
かんが
)
へます。
131
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
謀反人
(
むほんにん
)
の
計画
(
けいくわく
)
は、
132
時々
(
じじ
)
刻々
(
こくこく
)
に
準備
(
じゆんび
)
が
整
(
ととの
)
ひますれば、
133
後
(
あと
)
に
至
(
いた
)
つて
臍
(
ほぞ
)
を
噛
(
か
)
むとも
及
(
およ
)
びませぬ。
134
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
タールチンを
呼
(
よ
)
び
出
(
だ
)
し、
135
シルレング、
136
ユーズの
両人
(
りやうにん
)
を
捕縛
(
ほばく
)
させませう』
137
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
欣々
(
いそいそ
)
として、
138
ベールを
伴
(
ともな
)
ひ
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
139
後
(
あと
)
に
王
(
わう
)
は
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
黙念
(
もくねん
)
として
差俯向
(
さしうつむ
)
き、
140
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
141
かかる
処
(
ところ
)
へゼム、
142
エールの
両人
(
りやうにん
)
は、
143
足音
(
あしおと
)
何
(
なん
)
となく
忙
(
いそが
)
しく
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
144
恭
(
うやうや
)
しく
両手
(
りやうて
)
をつき、
145
ゼム『
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら
王
(
わう
)
に
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げます。
146
竜雲
(
りううん
)
なるもの、
147
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
挙動
(
きよどう
)
何
(
なん
)
となく
怪
(
あや
)
しく、
148
一時
(
ひととき
)
も
早
(
はや
)
く
退却
(
たいきやく
)
を
命
(
めい
)
じ
給
(
たま
)
はずば、
149
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
を
仕出
(
しで
)
かすかも
分
(
わか
)
りませぬ
故
(
ゆゑ
)
、
150
何
(
なん
)
とか
御
(
ご
)
英断
(
えいだん
)
を
以
(
もつ
)
て
彼
(
かれ
)
を
放逐
(
はうちく
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
151
サガレン王
『ウン』
152
と
云
(
い
)
つたきり
又
(
また
)
俯向
(
うつむ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
153
エール『サア
早
(
はや
)
く
何
(
なん
)
とか
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
を
待
(
ま
)
ちまする。
154
彼
(
かれ
)
が
如
(
ごと
)
き
怪物
(
くわいぶつ
)
は
最早
(
もはや
)
一刻
(
いつこく
)
も
此
(
この
)
城内
(
じやうない
)
に
留
(
とど
)
め
置
(
お
)
かせられては
王
(
わう
)
の
為
(
ため
)
になりませぬ。
155
云
(
い
)
はば
暗剣殺
(
あんけんさつ
)
も
同様
(
どうやう
)
ですから、
156
吾々
(
われわれ
)
は
死
(
し
)
を
決
(
けつ
)
して
忠言
(
ちうげん
)
を
申上
(
まをしあ
)
げます』
157
王
(
わう
)
『
竜雲
(
りううん
)
は
何
(
なに
)
かよくない
事
(
こと
)
を
計画
(
けいくわく
)
して
居
(
ゐ
)
るか』
158
エール『ハイ
確
(
たしか
)
にレール、
159
キング、
160
ベツトの
計画
(
けいくわく
)
を
立
(
た
)
てて
居
(
を
)
りますれば、
161
何卒
(
なにとぞ
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
本城
(
ほんじやう
)
より
放逐
(
はうちく
)
あらむ
事
(
こと
)
を
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
162
王
(
わう
)
『
竜雲
(
りううん
)
が
左様
(
さやう
)
な
不覊
(
ふき
)
を
企
(
たく
)
み
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ
確
(
たしか
)
な
証拠
(
しようこ
)
がつかまつたのか』
163
エール『ハイ、
164
これと
云
(
い
)
ふ
証拠
(
しようこ
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬが、
165
吾々
(
われわれ
)
一同
(
いちどう
)
の
考
(
かんが
)
へには、
166
如何
(
どう
)
しても
彼
(
かれ
)
の
面上
(
めんじやう
)
に
殺気
(
さつき
)
が
現
(
あら
)
はれて
居
(
を
)
ります。
167
一刻
(
いつこく
)
も
留
(
とど
)
めおかせらるべき
人物
(
じんぶつ
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬ』
168
王
(
わう
)
は『ウン』と
云
(
い
)
つたきり
又
(
また
)
もや
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
んで
俯向
(
うつむ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
169
そこへ
慌
(
あわただ
)
しく
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
るは
以前
(
いぜん
)
のケールス
姫
(
ひめ
)
、
170
ベールの
両人
(
りやうにん
)
である。
171
姫
(
ひめ
)
はゼム、
172
エールの
二人
(
ふたり
)
の
姿
(
すがた
)
が
王
(
わう
)
の
前
(
まへ
)
にあるを
見
(
み
)
て
大
(
おほい
)
に
怒
(
いか
)
り、
173
目
(
め
)
を
釣
(
つ
)
り
上
(
あ
)
げ
乍
(
なが
)
ら、
174
ケールス姫
『
汝
(
なんぢ
)
は
奸佞
(
かんねい
)
邪智
(
じやち
)
の
大悪人
(
だいあくにん
)
、
175
城内
(
じやうない
)
の
秩序
(
ちつじよ
)
を
攪乱
(
かくらん
)
致
(
いた
)
す
不忠者
(
ふちうもの
)
、
176
今宵
(
こよひ
)
の
中
(
うち
)
に
本城
(
ほんじやう
)
を
乗取
(
のりと
)
らむとする
憎
(
につく
)
き
曲者
(
くせもの
)
!』
177
と
呶鳴
(
どな
)
りつけられ、
178
ゼム、
179
エールの
二人
(
ふたり
)
は
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
の
姫
(
ひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
呆
(
あき
)
れ
返
(
かへ
)
り、
180
ゼム『これは
又
(
また
)
思
(
おも
)
ひも
寄
(
よ
)
らぬ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
181
何
(
なに
)
を
証拠
(
しようこ
)
に
左様
(
さやう
)
な
反逆者
(
はんぎやくしや
)
呼
(
よ
)
ばはりをなされますか』
182
エール『
仮令
(
たとへ
)
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
なりとて
証拠
(
しようこ
)
もなき
其
(
その
)
暴言
(
ばうげん
)
、
183
卑
(
いや
)
しき
臣下
(
しんか
)
なりとも
吾々
(
われわれ
)
は
聞
(
き
)
き
捨
(
ず
)
てはなりませぬ。
184
何
(
なに
)
を
証拠
(
しようこ
)
に
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
仰
(
あふ
)
せられますか』
185
姫
(
ひめ
)
『
黙
(
だま
)
れ!
悪人
(
あくにん
)
猛々
(
たけだけ
)
しとは
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
の
事
(
こと
)
、
186
汝
(
なんぢ
)
はシルレング、
187
ユーズと
私
(
ひそ
)
かに
諜
(
しめ
)
し
合
(
あは
)
せ、
188
レール、
189
キング、
190
ベツトの
計画
(
けいくわく
)
を
立
(
た
)
てて
居
(
を
)
つたであらう……
王
(
わう
)
様
(
さま
)
これも
一味
(
いちみ
)
の
奴原
(
やつばら
)
、
191
決
(
けつ
)
して
油断
(
ゆだん
)
はなりませぬ。
192
早
(
はや
)
く
投獄
(
とうごく
)
を
仰
(
あふ
)
せつけられます
様
(
やう
)
に……』
193
王
(
わう
)
は
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り、
194
稍
(
やや
)
不機嫌
(
ふきげん
)
な
面持
(
おももち
)
にて
言葉
(
ことば
)
鋭
(
するど
)
く
姫
(
ひめ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
195
サガレン王
『ゼム、
196
エールの
両人
(
りやうにん
)
は
予
(
よ
)
が
最
(
もつと
)
も
信任
(
しんにん
)
するもの、
197
両人
(
りやうにん
)
に
限
(
かぎ
)
つて
左様
(
さやう
)
な
不心得
(
ふこころえ
)
は
決
(
けつ
)
して
致
(
いた
)
すまい。
198
汝
(
なんぢ
)
は
居間
(
ゐま
)
に
帰
(
かへ
)
りて
休息
(
きうそく
)
致
(
いた
)
せよ』
199
と
儼然
(
げんぜん
)
として
宣示
(
せんじ
)
した。
200
流石
(
さすが
)
のケールス
姫
(
ひめ
)
も
王
(
わう
)
の
一言
(
いちごん
)
には
返
(
かへ
)
す
言葉
(
ことば
)
もなく、
201
両人
(
りやうにん
)
を
睨
(
ね
)
めつけ
後
(
あと
)
に
心
(
こころ
)
を
残
(
のこ
)
しつつ
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
さして
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
202
(
大正一一・九・二一
旧八・一
北村隆光
録)
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