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第36巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 天意か人意か
01 二教対立
〔989〕
02 川辺の館
〔990〕
03 反間苦肉
〔991〕
04 無法人
〔992〕
05 バリーの館
〔993〕
06 意外な答
〔994〕
07 蒙塵
〔995〕
08 悪現霊
〔996〕
第2篇 松浦の岩窟
09 濃霧の途
〔997〕
10 岩隠れ
〔998〕
11 泥酔
〔999〕
12 無住居士
〔1000〕
13 恵の花
〔1001〕
14 歎願
〔1002〕
第3篇 神地の暗雲
15 眩代思潮
〔1003〕
16 門雀
〔1004〕
17 一目翁
〔1005〕
18 心の天国
〔1006〕
19 紅蓮の舌
〔1007〕
第4篇 言霊神軍
20 岩窟の邂逅
〔1008〕
21 火の洗礼
〔1009〕
22 春の雪
〔1010〕
23 雪達磨
〔1011〕
24 三六合
〔1012〕
余白歌
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第一六章
門雀
(
もんじやく
)
〔一〇〇四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第36巻 海洋万里 亥の巻
篇:
第3篇 神地の暗雲
よみ(新仮名遣い):
こうじのあんうん
章:
第16章 門雀
よみ(新仮名遣い):
もんじゃく
通し章番号:
1004
口述日:
1922(大正11)年09月23日(旧08月3日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
門番のシールとベスは、酒を酌み交わしながら雑談にふけっていた。そして、ケールス姫が勇ましい戦支度のいでたちで血相変えて門前にやってきたが、こそこそとお館に戻って行ったことを話題にしていた。
ケールは、何か奥に危急の事態が起こっていたら大変だから、ベスに見に行ってくるようにと言いつけた。ベスは白鉢巻にたすき十字のいでたちを整えると、奥殿に進んでいった。
すると左守のケリヤが負傷しており、竜雲、ケールス姫、テールらが驚きに気もそぞろになっている様子が見えた。ベスは状況を見て、それほどたいしたことではないだろうと考え、門に戻ろうとした。
ケールス姫はベスの姿を目ざとく見つけ、門番が奥殿まで入ってきたことを怒鳴りつけた。ベスはただならぬ姫の様子に、何事か出来したかと様子を見に来ただけだと答えた。竜雲とケールス姫は、ここで見たことは決して口外するなとしてベスを追い出した。
これより城内には間断なく不可解なことが続出し、竜雲以下城内の者はみな、戦々恐々として心休まらず日々を暮らすことになった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-11 13:38:17
OBC :
rm3616
愛善世界社版:
168頁
八幡書店版:
第6輯 643頁
修補版:
校定版:
174頁
普及版:
74頁
初版:
ページ備考:
001
神地
(
かうぢ
)
の
城
(
しろ
)
の
表門
(
おもてもん
)
には、
002
門番
(
もんばん
)
のシール、
003
ベスの
両人
(
りやうにん
)
が、
004
あまりの
無聊
(
むれう
)
と
暑
(
あつ
)
さとを
忘
(
わす
)
れむため、
005
チビリチビリと
胡坐
(
あぐら
)
をかいて
酒
(
さけ
)
を
汲
(
く
)
み
交
(
かは
)
し
雑談
(
ざつだん
)
に
耽
(
ふけ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
006
シール
『オイ、
007
ベス、
008
ケールス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
血相
(
けつさう
)
変
(
か
)
へて
襷
(
たすき
)
十字
(
じふじ
)
に
綾取
(
あやど
)
り、
009
後鉢巻
(
うしろはちまき
)
を
凛
(
りん
)
と
締
(
し
)
め、
010
裾
(
すそ
)
もあらはに
大薙刀
(
おほなぎなた
)
を
小脇
(
こわき
)
に
抱込
(
かいこ
)
み、
011
此処迄
(
ここまで
)
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
012
手持
(
てもち
)
無沙汰
(
ぶさた
)
のお
面貌
(
かほつき
)
でコソコソと
再
(
ふたた
)
び
元
(
もと
)
のお
館
(
やかた
)
に
引
(
ひ
)
つ
返
(
かへ
)
されたのは
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
だらう。
013
まるで
戦場
(
せんぢやう
)
に
於
(
お
)
ける
女武者
(
をんなむしや
)
のやうぢやないか。
014
俺
(
おれ
)
は
此処
(
ここ
)
に
門番
(
もんばん
)
を
酒
(
さけ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
神妙
(
しんめう
)
につとめて
居
(
ゐ
)
るから、
015
貴様
(
きさま
)
一寸
(
ちよつと
)
お
館
(
やかた
)
へ
入
(
い
)
つて
様子
(
やうす
)
を
探
(
さぐ
)
つて
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れ。
016
何
(
なん
)
だか
気
(
き
)
が
落
(
お
)
ち
付
(
つ
)
かないやうな
心持
(
こころもち
)
がして
来
(
き
)
たからなア』
017
ベス
『さうだなア。
018
合点
(
がてん
)
の
往
(
ゆ
)
かぬ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
、
019
之
(
これ
)
には
何
(
なに
)
か
訳
(
わけ
)
があるのであらう。
020
叱
(
しか
)
られるか
知
(
し
)
らないが
一寸
(
ちよつと
)
奥
(
おく
)
迄
(
まで
)
往
(
い
)
つて
来
(
く
)
る。
021
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
門番
(
もんばん
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として、
022
昇殿
(
しようでん
)
は
許
(
ゆる
)
されない
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
だが、
023
何
(
なん
)
でも
非常
(
ひじやう
)
の
事
(
こと
)
が
大奥
(
おほおく
)
には
突発
(
とつぱつ
)
して
居
(
ゐ
)
るに
違
(
ちが
)
ひない。
024
万々一
(
まんまんいち
)
竜雲
(
りううん
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に
一大事
(
いちだいじ
)
があつては、
025
吾々
(
われわれ
)
も
悠々
(
いういう
)
閑々
(
かんかん
)
として
居
(
ゐ
)
る
訳
(
わけ
)
には
往
(
ゆ
)
かない。
026
叱
(
しか
)
られても
構
(
かま
)
はぬ、
027
奥
(
おく
)
迄
(
まで
)
踏込
(
ふみこ
)
んで
来
(
く
)
る。
028
様子
(
やうす
)
は
後
(
あと
)
から
詳
(
くは
)
しく
分
(
わか
)
るであらう』
029
と
云
(
い
)
ひのこし、
030
ベスは
白鉢巻
(
しろはちまき
)
を
締
(
し
)
め
襷
(
たすき
)
十字
(
じふじ
)
に
綾取
(
あやど
)
りながら、
031
尻引
(
しりひ
)
つからげ
無雑作
(
むざふさ
)
に
奥殿
(
おくでん
)
さして
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り、
032
ケリヤの
負傷
(
ふしやう
)
や、
033
竜雲
(
りううん
)
、
034
ケールス
姫
(
ひめ
)
、
035
テールの
驚
(
おどろ
)
きの
場面
(
ばめん
)
を
一見
(
いつけん
)
し、
036
且
(
か
)
つ
大体
(
だいたい
)
の
様子
(
やうす
)
を
垣間
(
かいま
)
見
(
み
)
ながら、
037
此
(
この
)
分
(
ぶん
)
ならば
余
(
あま
)
り
大
(
たい
)
した
事
(
こと
)
はあるまい、
038
夢
(
ゆめ
)
の
騒動
(
さうだう
)
だと
呟
(
つぶや
)
きながらスタスタと
踵
(
きびす
)
を
返
(
かへ
)
さむとする
時
(
とき
)
、
039
目敏
(
めざと
)
くもケールス
姫
(
ひめ
)
はベスの
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
声
(
こゑ
)
を
尖
(
とが
)
らせ、
040
ケールス姫
『お
前
(
まへ
)
は
門番
(
もんばん
)
のベスではないか。
041
館
(
やかた
)
の
禁制
(
きんせい
)
を
破
(
やぶ
)
り、
042
斯
(
か
)
かる
大奥
(
おほおく
)
迄
(
まで
)
何
(
なに
)
しに
来
(
き
)
たのだい』
043
と
呶鳴
(
どな
)
りつけられ、
044
ベスは
慄
(
ふる
)
ひながら
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
き、
045
ベス
『ハヽハイ、
046
マヽ
誠
(
まこと
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
が
御座
(
ござ
)
りませぬ。
047
実
(
じつ
)
はケールス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
唯
(
ただ
)
ならぬ
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
を
拝
(
をが
)
みまして、
048
此
(
この
)
大奥
(
おほおく
)
には
何事
(
なにごと
)
か
珍事
(
ちんじ
)
突発
(
とつぱつ
)
せしならむ、
049
如何
(
いか
)
に
卑
(
いや
)
しき
門番
(
もんばん
)
なりとて、
050
君
(
きみ
)
の
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
はずには
居
(
を
)
られない、
051
昇殿
(
しようでん
)
の
御
(
ご
)
禁制
(
きんせい
)
は
百
(
ひやく
)
も
千
(
せん
)
も
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しては
居
(
を
)
りますが、
052
斯
(
か
)
かる
非常時
(
ひじやうじ
)
にはそんな
事
(
こと
)
を
守
(
まも
)
つて
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない、
053
とも
角
(
かく
)
お
二方
(
ふたかた
)
を
助
(
たす
)
け
申
(
まを
)
さねばならないと、
054
シールと
申
(
まを
)
し
合
(
あは
)
せ、
055
不都合
(
ふつがふ
)
を
顧
(
かへり
)
みずここ
迄
(
まで
)
参
(
まゐ
)
りました。
056
どうぞ
御
(
ご
)
勘弁
(
かんべん
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
057
ケールス姫
『
許
(
ゆる
)
し
難
(
がた
)
き
汝
(
なんぢ
)
の
行動
(
かうどう
)
、
058
常
(
つね
)
ならば
此
(
この
)
儘
(
まま
)
に
差措
(
さしお
)
くべきではないが、
059
汝
(
なんぢ
)
の
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
思
(
おも
)
ふ
誠忠
(
せいちう
)
に
免
(
めん
)
じて
唯今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
忘
(
わす
)
れて
遣
(
つか
)
はす。
060
気
(
き
)
をつけて
厳重
(
げんぢゆう
)
に
門
(
もん
)
を
守
(
まも
)
れよ。
061
さうして
大奥
(
おほおく
)
の
此
(
この
)
有様
(
ありさま
)
を、
062
何人
(
なんぴと
)
にも
口外
(
こうぐわい
)
してはならないぞ。
063
堅
(
かた
)
く
口留
(
くちどめ
)
して
置
(
お
)
く』
064
ベス
『ハイ
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
065
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
首
(
くび
)
が
飛
(
と
)
んでも
申
(
まを
)
しませぬから
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
066
竜雲
(
りううん
)
は
声
(
こゑ
)
を
尖
(
とが
)
らせて、
067
竜雲
『ベス、
068
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
退却
(
たいきやく
)
致
(
いた
)
せ!』
069
「ハイ」と
答
(
こた
)
へてベスは
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立去
(
たちさ
)
る。
070
ケリヤは
姫
(
ひめ
)
に
足
(
あし
)
を
切
(
き
)
られて
苦悶
(
くもん
)
の
声
(
こゑ
)
を
放
(
はな
)
ち「ウン ウン」と
唸
(
うな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
071
テールは
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かした
儘
(
まま
)
、
072
目玉
(
めだま
)
計
(
ばか
)
りヂヤイロコンパスのやうに
急速度
(
きふそくど
)
をもつて
白黒
(
しろくろ
)
交替
(
かうたい
)
に
転回
(
てんくわい
)
させて
居
(
ゐ
)
る。
073
心
(
こころ
)
汚
(
きたな
)
き
竜雲
(
りううん
)
が
074
寵児
(
ちようじ
)
となりて
朝夕
(
あさゆふ
)
に
075
近
(
ちか
)
く
仕
(
つか
)
へし
青年
(
せいねん
)
テールは
076
一間
(
ひとま
)
に
入
(
い
)
りてウラル
教
(
けう
)
の
077
神
(
かみ
)
の
御文
(
みふみ
)
を
拝読
(
はいどく
)
し
078
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らずに
夢
(
ゆめ
)
に
入
(
い
)
り
079
前後
(
ぜんご
)
も
知
(
し
)
らぬ
其
(
その
)
隙
(
すき
)
を
080
心
(
こころ
)
に
潜
(
ひそ
)
む
曲鬼
(
まがおに
)
は
081
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
跳梁
(
てうりやう
)
し
082
夢路
(
ゆめぢ
)
をたどる
時
(
とき
)
もあれ
083
神地
(
かうぢ
)
の
城
(
しろ
)
の
表門
(
おもてもん
)
084
人馬
(
じんば
)
の
物音
(
ものおと
)
物
(
もの
)
凄
(
すご
)
く
085
攻
(
せ
)
め
来
(
く
)
る
敵
(
てき
)
の
鬨
(
とき
)
の
声
(
こゑ
)
086
訝
(
いぶ
)
かしさよと
飛
(
と
)
び
起
(
お
)
きて
087
館
(
やかた
)
の
勾欄
(
こうらん
)
かけ
登
(
のぼ
)
り
088
眼下
(
がんか
)
をきつと
見渡
(
みわた
)
せば
089
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
主
(
あるじ
)
と
頼
(
たの
)
みたる
090
サガレン
王
(
わう
)
は
勇
(
いさ
)
ましく
091
連銭
(
れんせん
)
葦毛
(
あしげ
)
の
馬
(
うま
)
に
乗
(
の
)
り
092
金覆輪
(
きんぷくりん
)
の
鞍
(
くら
)
置
(
お
)
いて
093
駒
(
こま
)
の
嘶
(
いなな
)
き
勇
(
いさ
)
ましく
094
采配
(
さいはい
)
振
(
ふ
)
つて
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
る
095
続
(
つづ
)
いて
青鹿毛
(
あをかげ
)
黒鹿毛
(
くろかげ
)
に
096
跨
(
また
)
がる
勇士
(
ゆうし
)
は
何人
(
なんびと
)
と
097
眼
(
まなこ
)
を
据
(
す
)
ゑて
眺
(
なが
)
むれば
098
テーリス、エームス
両勇士
(
りやうゆうし
)
099
黄金
(
こがね
)
の
采配
(
さいはい
)
打
(
う
)
ち
揮
(
ふる
)
ひ
100
厳
(
きび
)
しき
下知
(
げち
)
に
兵士
(
つはもの
)
は
101
潮
(
うしほ
)
の
如
(
ごと
)
く
打
(
う
)
ち
寄
(
よ
)
する
102
スワ
一大事
(
いちだいじ
)
とかけ
下
(
くだ
)
り
103
数十
(
すじふ
)
の
勇士
(
ゆうし
)
を
引率
(
いんそつ
)
し
104
敵
(
てき
)
に
向
(
むか
)
つて
斬
(
き
)
り
込
(
こ
)
めば
105
衆
(
しう
)
を
頼
(
たの
)
みて
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せし
106
遉
(
さすが
)
の
敵
(
てき
)
も
辟易
(
へきえき
)
し
107
寄
(
よ
)
せては
返
(
かへ
)
す
磯
(
いそ
)
の
浪
(
なみ
)
108
旗色
(
はたいろ
)
悪
(
わる
)
く
見
(
み
)
えけるが
109
膝下
(
しつか
)
に
響
(
ひび
)
く
鬨
(
とき
)
の
声
(
こゑ
)
110
雲霞
(
うんか
)
の
如
(
ごと
)
き
大軍
(
たいぐん
)
は
111
単梯陣
(
たんていぢん
)
を
張
(
は
)
りながら
112
少数
(
せうすう
)
の
味方
(
みかた
)
と
侮
(
あなど
)
つて
113
阿修羅
(
あしゆら
)
王
(
わう
)
の
如
(
ごと
)
攻
(
せ
)
め
来
(
きた
)
る
114
味方
(
みかた
)
は
慄悍
(
へうかん
)
決死
(
けつし
)
の
士
(
し
)
115
鬼神
(
きしん
)
も
挫
(
ひし
)
ぐ
豪傑
(
がうけつ
)
が
116
如何
(
いかが
)
はしけむバタバタと
117
鋭
(
するど
)
き
刃
(
やいば
)
に
貫
(
つらぬ
)
かれ
118
苦
(
く
)
もなく
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
倒
(
たふ
)
れたり
119
テールは
驚
(
おどろ
)
き
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
120
門内
(
もんない
)
深
(
ふか
)
く
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
り
121
門
(
もん
)
を
鎖
(
とざ
)
してスタスタと
122
ケールス
姫
(
ひめ
)
や
竜雲
(
りううん
)
の
123
居間
(
ゐま
)
をばさして
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り
124
敵
(
てき
)
は
間近
(
まぢか
)
く
迫
(
せま
)
つたり
125
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
早
(
はや
)
く
遁走
(
とんそう
)
し
126
後日
(
ごじつ
)
の
備
(
そな
)
へをなしませと
127
誠
(
まこと
)
しやかに
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
つる
128
昼寝
(
ひるね
)
の
夢
(
ゆめ
)
の
物語
(
ものがたり
)
129
誠
(
まこと
)
となして
竜雲
(
りううん
)
は
130
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
までサツと
変
(
か
)
へ
131
忽
(
たちま
)
ち
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
腰抜
(
こしぬ
)
かし
132
慄
(
ふる
)
ひ
戦
(
をのの
)
くをかしさよ
133
まさかの
時
(
とき
)
に
強
(
つよ
)
いのは
134
女心
(
をんなごころ
)
の
一心
(
いつしん
)
ぞ
135
ケールス
姫
(
ひめ
)
は
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り
136
長押
(
なげし
)
の
薙刀
(
なぎなた
)
おつ
取
(
と
)
つて
137
表
(
おもて
)
をさして
駆出
(
かけいだ
)
し
138
寄
(
よ
)
せ
来
(
く
)
る
敵
(
てき
)
を
一騎
(
いつき
)
だも
139
余
(
あま
)
す
事
(
こと
)
なくなぎ
払
(
はら
)
ひ
140
女
(
をんな
)
の
武勇
(
ぶゆう
)
を
現
(
あら
)
はすは
141
今
(
いま
)
此
(
この
)
時
(
とき
)
と
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
ち
142
立出
(
たちい
)
でなむとするところ
143
左守
(
さもり
)
のケリヤは
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り
144
平穏
(
へいおん
)
無事
(
ぶじ
)
の
此
(
この
)
城
(
しろ
)
に
145
何
(
なに
)
をもつてか
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
146
仰々
(
ぎやうぎやう
)
しくも
其
(
その
)
姿
(
すがた
)
147
止
(
とど
)
まり
給
(
たま
)
へと
云
(
い
)
ひければ
148
姫
(
ひめ
)
は
怒
(
いか
)
つて
忽
(
たちま
)
ちに
149
ケリヤの
足
(
あし
)
を
薙
(
な
)
ぎ
払
(
はら
)
ふ
150
ウンと
一声
(
ひとこゑ
)
叫
(
さけ
)
びつつ
151
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
倒
(
たふ
)
れし
憐
(
あは
)
れさよ
152
死物狂
(
しにものぐるひ
)
のケールス
姫
(
ひめ
)
は
153
後鉢巻
(
うしろはちまき
)
凛
(
りん
)
としめ
154
襷
(
たすき
)
十字
(
じふじ
)
に
綾取
(
あやど
)
りて
155
強敵
(
きやうてき
)
こそは
御参
(
ござん
)
なれ
156
唯今
(
ただいま
)
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
らせむと
157
猛虎
(
まうこ
)
の
如
(
ごと
)
く
駆出
(
かけだ
)
せば
158
こは
抑
(
そも
)
如何
(
いか
)
に
門前
(
もんぜん
)
は
159
ソヨ
吹
(
ふ
)
く
風
(
かぜ
)
の
音
(
おと
)
も
無
(
な
)
く
160
天地
(
てんち
)
静
(
しづか
)
に
寝
(
い
)
ぬるごと
161
閑寂
(
かんじやく
)
の
気
(
き
)
は
漂
(
ただよ
)
ひぬ
162
姫
(
ひめ
)
は
不審
(
ふしん
)
に
堪
(
た
)
へずして
163
再
(
ふたた
)
び
館
(
やかた
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
へ
164
手持
(
てもち
)
無沙汰
(
ぶさた
)
に
帰
(
かへ
)
り
来
(
く
)
る
165
とくと
様子
(
やうす
)
を
調
(
しら
)
ぶれば
166
テールが
夢
(
ゆめ
)
の
空騒
(
からさわ
)
ぎ
167
張
(
は
)
りつめ
居
(
ゐ
)
たる
魂
(
たましひ
)
も
168
グタリと
緩
(
ゆる
)
みケールス
姫
(
ひめ
)
は
169
テールの
司
(
つかさ
)
に
打
(
う
)
ち
向
(
むか
)
ひ
170
その
不都合
(
ふつがふ
)
を
責
(
せ
)
めかくる
171
夢
(
ゆめ
)
に
夢見
(
ゆめみ
)
た
慌
(
あは
)
て
者
(
もの
)
172
テールは
頭
(
あたま
)
掻
(
か
)
きながら
173
やつと
許
(
ゆる
)
され
虎口
(
ここう
)
をば
174
逃
(
のが
)
れし
如
(
ごと
)
き
心地
(
ここち
)
して
175
胸
(
むね
)
なで
下
(
おろ
)
すぞをかしけれ
176
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
鬼
(
おに
)
はなけれども
177
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
作
(
つく
)
りし
村肝
(
むらきも
)
の
178
心
(
こころ
)
の
鬼
(
おに
)
に
責
(
せ
)
められて
179
苦
(
くる
)
しみなやむはテールのみか
180
ケールス
姫
(
ひめ
)
も
竜雲
(
りううん
)
も
181
同
(
おな
)
じく
心
(
こころ
)
を
痛
(
いた
)
めつつ
182
挙措
(
きよそ
)
其
(
その
)
度
(
ど
)
をば
失
(
うしな
)
ひて
183
慄
(
ふる
)
ひ
居
(
ゐ
)
たるぞおそろしき。
184
幸
(
さいはひ
)
にケリヤの
薙刀
(
なぎなた
)
の
創
(
きず
)
は
思
(
おも
)
つたよりは
浅
(
あさ
)
く、
185
切口
(
きりくち
)
に
粘土
(
ねんど
)
をつけ
繃帯
(
はうたい
)
を
施
(
ほどこ
)
したれば、
186
数日
(
すうじつ
)
の
後
(
のち
)
には
殿中
(
でんちう
)
歩行
(
ほかう
)
の
自由
(
じいう
)
を
僅
(
わづか
)
に
得
(
う
)
る
処
(
ところ
)
迄
(
まで
)
回復
(
くわいふく
)
したりける。
187
是
(
これ
)
より
城内
(
じやうない
)
は
間断
(
かんだん
)
なく
不可解
(
ふかかい
)
なる
事
(
こと
)
のみ
続出
(
ぞくしゆつ
)
し、
188
竜雲
(
りううん
)
を
初
(
はじ
)
め
上下
(
じやうげ
)
の
司
(
つかさ
)
達
(
たち
)
は
戦々
(
せんせん
)
兢々
(
きやうきやう
)
として
安
(
やす
)
き
心
(
こころ
)
もなく、
189
淋
(
さび
)
しげに
其
(
その
)
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
りつつありしといふ。
190
(
大正一一・九・二三
旧八・三
加藤明子
録)
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