霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 怪光(くわいくわう)〔一一七八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第44巻 舎身活躍 未の巻 篇:第2篇 月明清楓 よみ(新仮名遣い):げつめいせいふう
章:第9章 怪光 よみ(新仮名遣い):かいこう 通し章番号:1178
口述日:1922(大正11)年12月08日(旧10月20日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年8月18日
概要: 舞台:山口の森 あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
晴公は、自分の言霊に神力が現れず万公に罵倒されたことを気に病み、治国別の言霊解説歌の真意を早く悟って見返してやろうと一睡もせずに両手を組んで考え込んでいた。
あたりはシンとして声もなく、物寂しさが刻々に身に迫ってきた。しばらくすると、はるかかなたに光明が輝きだしたのが見えた。晴公は自分の言霊がようやく効果を表したと得意になっていたが、光が近づいてくると、それは頭にろうそくを立てて金槌、五寸釘を持った鬼女であった。
鬼女は人に見られたことを覚ると、治国別一行に襲い掛かろうとした。治国別は寝たまま霊縛をかけると、鬼女は剣を振り上げたまま固まってしまった。
治国別は震えおののいている晴公をからかっている。松彦は、女は鬼ではなく、お百度参りをしている娘であることを見抜いて、身の上話を聞いた。聞けば、バラモン教のランチ将軍に両親が捕えられ、殺されたと聞いたため、その恨みを晴らすために丑の刻参りをしていたのだという。
女は、元はアーメニヤの生まれであったが、アーメニヤがバラモン軍に襲われた混乱のときに兄と生き別れになり、年老いた両親とライオン川のほとりで暮らしていたところ、三五教の黄金姫に諭されて改宗したと身の上話を語った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-01-21 15:53:00 OBC :rm4409
愛善世界社版:118頁 八幡書店版:第8輯 180頁 修補版: 校定版:123頁 普及版:51頁 初版: ページ備考:
001 治国別(はるくにわけ)(ほか)()(にん)(ほこら)(あと)(みの)()端坐(たんざ)し、002天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)神言(かみごと)(とな)へ、003(やうや)(しん)()きぬ。004晴公(はるこう)万公(まんこう)(ちから)一杯(いつぱい)罵倒(ばたう)され()言霊(ことたま)神力(しんりき)(あら)はれざりしに(むね)(いた)め、005()(にん)(いびき)()(なが)(くび)左右(さいう)()治国別(はるくにわけ)言霊(ことたま)解説歌(かいせつか)(おも)()し、006万公(まんこう)よりも(はや)真意(しんい)諒解(りやうかい)しアツと()はせて()れむものと一睡(いつすゐ)もせず双手(もろて)()瞑目(めいもく)正座(せいざ)(かんが)()ンでゐる。007()はおひおひと()(わた)(ふゆ)(はじ)めの木枯(こがらし)(もり)老樹(らうじゆ)(えだ)(ゆす)り、008()(あつ)枯葉(かれは)はパラパラと(あめ)(ごと)くに()ちて()る。009四辺(あたり)はシンとして(こゑ)なく物淋(ものさび)しさは刻々(こくこく)()(せま)()たる。010(なん)とはなく身体(しんたい)(ふる)()恐怖(きようふ)(ねん)刻々(こくこく)(わが)()(おそ)ふ。011(しばら)くありて、012一道(いちだう)光明(くわうみやう)(はるか)彼方(かなた)より(かがや)()たる。013晴公(はるこう)(やや)得意(とくい)となつて独語(ひとりごと)
014晴公(なん)とまア有難(ありがた)いものだナア。015先生(せんせい)(はじ)()(にん)連中(れんちう)(なん)にも()らず、016白河(しらかは)夜船(よぶね)()いでゐる()(この)晴公(はるこう)言霊(ことたま)理解(りかい)について研究(けんきう)した結果(けつくわ)017(この)暗黒(あんこく)(やみ)光明(くわうみやう)がさし()した。018(ひと)万公(まんこう)()せてやり()いものだな。019(なん)だか(さび)しくなつたと(おも)へば、020こンな光明(くわうみやう)(あら)はれる前提(ぜんてい)だつたのか。021さうするとウラル(けう)万更(まんざら)()てたものぢやないワ。022(やみ)(あと)には(つき)()ると()ふが本当(ほんたう)(おれ)言霊(ことたま)不思議(ふしぎ)だ。023(した)(はう)から月光(げつくわう)がさして()る。024(ひかり)()ふものは(そら)から()るものとばかり(いま)(やつ)(しん)じて()るが(おれ)言霊(ことたま)(えら)いものだワイ。025()(なか)から月光(げつくわう)(かがや)くのだから豪気(がうき)なものだ。026先生(せんせい)だつてこれ(だけ)神力(しんりき)滅多(めつた)にお()しなさつた(こと)はあるまい。027(ひと)(ゆす)(おこ)して御覧(ごらん)()れようかな。028追々(おひおひ)(ちか)くなつて()る。029やア(みづ)(みたま)()えて()つの(たま)(ひか)つて()るぞ。030ヒヨツとしたら三光(さんくわう)(かみ)がおいでになつたのかな。031(ひと)万公(まんこう)(ゆす)(おこ)して()せてやりたいものだナア』
032得意(とくい)になつてゐる。033治国別(はるくにわけ)熟睡(じゆくすゐ)(よそほ)晴公(はるこう)独語(ひとりごと)()き、034可笑(をか)しさに()へず(わら)ひを(おさ)へ、035体中(からだぢう)(ゆす)つて()から(なみだ)()気張(きば)つてゐる。036晴公(はるこう)得意気(とくいげ)に、
037晴公『やア近付(ちかづ)いた近付(ちかづ)いた』
038()(まる)うして()つめてゐると(かしら)三本(さんぼん)蝋燭(らふそく)()(むね)(かがみ)をつり、039(その)(うへ)(はさみ)(ふた)つばかり()つてゐる。040さうして(くち)(みみ)(まで)()()(かほ)真蒼(まつさを)(みぎ)()には金槌(かなづち)041(ひだり)()には五寸釘(ごすんくぎ)042(しろ)(ぬの)三間(さんげん)ばかり()らした異様(いやう)怪物(くわいぶつ)043(ある)拍子(ひやうし)(はさみ)(かがみ)(あた)()うて、044チヤンチヤンと(おと)()蝋燭(らふそく)()鏡面(きやうめん)(えい)晴公(はるこう)(おもて)(てら)した。045晴公(はるこう)(たちま)真蒼(まつさを)になり(くちびる)(ふる)はせ、
046晴公『セヽヽヽ先々々(せんせんせん)……先生(せんせい)
047()(なが)(からだ)をすくめて()(ふさ)ぐ。048怪物(くわいぶつ)(ろく)(にん)姿(すがた)()て、049(いや)らしき(ほそ)(こゑ)(しぼ)り、
050怪物『やア、051残念(ざんねん)至極(しごく)052口惜(くちをし)やな、053今日(けふ)三七(さんしち)(にち)満願(まんぐわん)()054(ひと)()つけられては願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)せぬと()く。055もうかうなる(うへ)死物狂(しにものぐる)ひだ』
056()(なが)懐剣(くわいけん)をスラリと()きぬき、057()晴公(はるこう)(むか)つて()びかからむとするにぞ、058晴公(はるこう)はキヤツと一声(ひとこゑ)059(その)()打倒(うちたふ)れた。060治国別(はるくにわけ)()たまま「ウン」と一声(ひとこゑ)鎮魂(ちんこん)をかけた。061怪物(くわいぶつ)土中(どちう)から()えた樹木(じゆもく)(ごと)懐剣(くわいけん)をふり()げたまま(かた)まつて(しま)つた。062晴公(はるこう)(さけ)(ごゑ)万公(まんこう)063五三公(いそこう)064松彦(まつひこ)065竜公(たつこう)()()まし形相(ぎやうさう)(すさま)じき怪物(くわいぶつ)姿(すがた)()(また)もやキヤツと(こゑ)()(ふる)(をのの)いて()る。066怪物(くわいぶつ)()きよろつかし(くち)をもがもがさせ、067(した)をペロペロ()(なが)依然(いぜん)として懐剣(くわいけん)をふり()げたまま(にら)みゐる。
068万公『セヽヽヽ先生(せんせい)069タヽヽヽ大変(たいへん)です。070()きて(くだ)さいな。071晴公(はるこう)がしようもない言霊(ことたま)()げるものですから地獄(ぢごく)から万公(まんこう)(むか)へに()ました。072ドヽヽヽ何卒(どうぞ)()ひやつて(くだ)さい。073あの……言霊(ことたま)で………』
074 治国別(はるくにわけ)(すこ)しも(さわ)がず、
075治国別『ハヽヽヽヽまア修行(しうぎやう)のためだ。076(ひと)つあの鬼娘(おにむすめ)さまと抱擁(はうよう)接吻(キツス)でもやつて()たらどうだい。077何程(なにほど)(こは)(かほ)だと()つてもヤツパリ(をんな)だからな』
078万公『メヽヽヽ滅相(めつさう)な、079何程(なにほど)(をんな)早魃(ひでり)()(なか)でも、080アタ(こは)い、081アタ(いや)らしい、082(たれ)があンな(やつ)にキヽヽヽキツスするバヽヽヽ馬鹿(ばか)がありますか、083万公(まんこ)とに(こは)化者(ばけもの)だ』
084治国別『ハヽヽヽヽおい晴公(はるこう)さま、085(まへ)言霊(ことたま)(たい)したものだナ。086到頭(たうとう)鬼娘(おにむすめ)()んで(しま)つたぢやないか。087言葉(ことば)(かみ)(なり)088(かみ)(すなは)言葉(ことば)(なり)089言葉(ことば)(かみ)(とも)にあり。090万物(ばんぶつ)(これ)によつて(つく)らる。091(じつ)大成功(だいせいこう)だ。092(しか)しお(まへ)のは言葉(ことば)鬼娘(おにむすめ)(なり)093鬼娘(おにむすめ)(すなは)言葉(ことば)(なり)094言葉(ことば)鬼娘(おにむすめ)(とも)にあり。095怪物(くわいぶつ)これに()つて(つく)らる、096()ふのだから天下(てんか)一品(いつぴん)だよ。097おい(なに)(ふる)つてゐるのだ。098(まへ)()ンだ鬼娘(おにむすめ)だから、099さアさアお(まへ)(かた)づけるのだよ』
100晴公南無(なむ)幽霊(いうれい)鬼女(きぢよ)大菩薩(だいぼさつ)頓生(とんしやう)菩提(ぼだい)101消滅(せうめつ)(たま)へ、102晴公(はるこう)言霊(ことたま)()()(たま)へ、103(かく)れさせ(たま)へ、104かなはぬからたまちはへませだ。105あゝア、106先生(せんせい)もう駄目(だめ)ですわ。107そンなにイチヤつかさずに(はや)く、108あのオヽヽヽ鬼娘(おにむすめ)退却(たいきやく)さして(くだ)さいな』
109治国別(わし)(とし)()つて言霊(ことたま)一度(いちど)奏上(そうじやう)すると熱湯(ねつたう)(やう)(あせ)()るから最前(さいぜん)言霊(ことたま)最早(もはや)原料(げんれう)欠乏(けつぼう)だ。110(まへ)百遍(ひやつぺん)111千遍(せんべん)112言霊(ことたま)発射(はつしや)しても(からだ)(よわ)らない、113(あせ)(ひと)つかかないと()つたぢやないか。114声量(せいりやう)タツプリ余裕(よゆう)綽々(しやくしやく)たる晴公(はるこう)(たの)まねば、115最早(もはや)治国別(はるくにわけ)言霊(ことたま)停電(ていでん)だよ』
116晴公『あゝア、117(こま)つた(こと)だな。118言霊(ことたま)貧乏(びんばふ)先生(せんせい)について(ある)いて()ると、119こンな(とき)には仕方(しかた)がないわい。120オイ、121こら松彦(まつひこ)122竜公(たつこう)123チツと()きぬかい。124千騎(せんき)一騎(いつき)場合(ばあひ)だ。125(なに)をグウスウ八兵衛(はちべゑ)()()るのだ。126味方(みかた)勇士(ゆうし)一団(いちだん)となつて只今(ただいま)(あら)はれた強敵(きやうてき)(むか)言霊(ことたま)発射(はつしや)しようぢやないか』
127竜公(おれ)やまだ三五教(あななひけう)入信(はい)つてから二日(ふつか)にもならぬのだから言霊(ことたま)持合(もちあは)せがないわい。128兄貴(あにき)129(まへ)がしやうもない(こと)()つて、130あンな(おに)()()したのだから、131(まへ)がすつ()めて()れねばどうも仕方(しかた)がないぢやないか。132こンな(こと)先生(せんせい)()苦労(くらう)をかけると()(こと)があるものか、133あゝ(いや)らしい。134首筋(くびすぢ)がゾクゾクして()た。135竜公(たつこう)さまの(かみ)()(はり)(やう)()つて来出(きだ)したワ』
136()(なが)(あたま)(かか)俯向(うつむ)いて(しま)つて()る。
137晴公『あゝア、138何奴(どいつ)此奴(こいつ)も、139()はいでもいい言霊(ことたま)自然(しぜん)発射(はつしや)(なが)肝腎(かんじん)(とき)になつて()はねばならぬ言霊(ことたま)発射(はつしや)する(やつ)は、140先生(せんせい)(はじ)一人(ひとり)半分(はんぶん)でもありやせぬわ。141えー晴公(はるこう)さまも、142もう仕方(しかた)がない。143これ、144鬼娘(おにむすめ)145どうなつと貴様(きさま)勝手(かつて)にしたがよいわ』
146捨鉢(すてばち)になり無性(むしやう)矢鱈(やたら)(しやべ)()てる。147松彦(まつひこ)はムツクと()(あが)りツカツカと鬼娘(おにむすめ)(まへ)(すす)()り、148念入(ねんい)りに(あたま)(うへ)から(あし)(した)(まで)(のぞ)()み、
149松彦『ハヽア、150(あたま)三徳(さんとく)(かむ)蝋燭(らふそく)三本(さんぼん)()てて()るな。151(なん)だ、152(かほ)(あを)いものや(あか)いものを()り、153(くち)(おほ)きく()せて役者(やくしや)(やう)(やつ)だ。154(なん)だい、155(ひか)つたものをブラブラとつりよつて、156(なが)()()()り、157金毛(きんまう)九尾(きうび)(きつね)枉鬼(まがおに)八岐(やまた)大蛇(をろち)と、158つきまぜた(やう)(すさま)じき形相(ぎやうさう)をやつてゐるな。159(なん)だい、160懐剣(くわいけん)()()げたまま金仏(かなぶつ)(やう)にカンカンになつてゐよる。161(えう)するに(おれ)(たち)勇士(ゆうし)面影(おもかげ)(はい)しビツクリして立往生(たちわうじやう)をしよつたのか。162エー(よわ)(おに)だな。163此奴(こいつ)アよく(ひと)()(うし)(とき)(まゐ)りかも()れぬぞ。164おい(むすめ)165(まへ)(をんな)()として(この)(いや)らしい人里(ひとざと)(はな)れた()(もり)へやつて()るのは、166(なに)(ふか)仔細(しさい)があるだらう。167もう()うなる以上(いじやう)有態(ありてい)白状(はくじやう)して(しま)へ。168(おれ)(ちから)(かな)(こと)なら(なん)でも()いてやる』
169 (をんな)強直(きやうちよく)したまま(くび)から(うへ)自由(じいう)になるを(さいは)ひ、170両眼(りやうがん)より(なみだ)をハラハラと(なが)し、
171女(楓)『ザヽヽヽ残念(ざんねん)(ござ)ります。172(わたし)両親(りやうしん)はバラモン(けう)のランチ将軍(しやうぐん)()悪人(あくにん)(とら)へられ(いま)浮木(うきき)(はら)陣営(ぢんえい)(なぶ)(ころし)にあつたと()ふことで(ござ)ります。173それ(ゆゑ)(さん)週間(しうかん)以前(いぜん)からこの()(もり)(うし)(とき)(まゐ)りをして(おや)(かたき)()たむと(おも)(もり)大杉(おほすぎ)(のろ)(くぎ)()ち、174ランチ将軍(しやうぐん)滅亡(めつぼう)(いの)つてゐるもので(ござ)ります。175どうやら貴方(あなた)三五教(あななひけう)のお(かた)()えますが何卒(どうぞ)(たす)(くだ)さいませ』
176とワツと()(さけ)ぶ。177治国別(はるくにわけ)は「ウン」と一声(ひとこゑ)霊縛(れいばく)()いた。178(をんな)(たちま)身体(しんたい)自由(じいう)となり、179治国別(はるくにわけ)(はう)(むか)つて合掌(がつしやう)感謝(かんしや)()(へう)したり。
180治国別『やア何処(どこ)のお女中(ぢよちう)()らぬが様子(やうす)()けば(じつ)()(どく)(はなし)だ。181まアここへ()(すわ)りなさい。182トツクリと(はなし)()かして(もら)はう。183都合(つがふ)によつたらお(まへ)(ちから)になつてやろまいものでもないから』
184親切(しんせつ)(さう)()ふ。185万公(まんこう)は、
186万公『アヽもしもし先生(せんせい)187ナヽヽヽ(なん)()(こと)仰有(おつしや)います。188あンな鬼娘(おにむすめ)(そば)へやつて()(たま)りますか。189(はや)()()らして(くだ)さいな』
190治国別『アハヽヽヽ(なん)(つよ)(をとこ)ばつかり()つたものだな。191まるで幽霊(いうれい)(やう)代物(しろもの)ばつかりだワイ』
192万公『おい、193晴公(はるこう)194五三公(いそこう)195竜公(たつこう)196貴様(きさま)もチツと(しつか)りして、197(なん)とか彼奴(あいつ)()(まく)つて()れ、198万公(まんこう)一生(いつしやう)のお(ねがひ)だ』
199晴公(なに)200こンな(とき)には先生(せんせい)(まか)しておけばよいのだ。201先生(せんせい)がよい(やう)にして(くだ)さるわ。202なア五三公(いそこう)203竜公(たつこう)204さうぢやないか』
205五三公(なん)()つても、206先生(せんせい)先生(せんせい)だ。207松彦(まつひこ)さまもヤツパリ()兄弟(きやうだい)だけあつて(きも)(ふと)いわい、208五三公(いそこう)さまも感心(かんしん)(つかまつ)つたよ』
209竜公(なん)(をんな)()ふものは(おそ)ろしいものだのう、210(おれ)やもう(これ)()ると一生(いつしやう)女房(にようばう)()たうとは(おも)はぬわ。211睾玉(きんたま)(なに)何処(どこ)洋行(やうかう)して(しま)つたワ。212もう立上(たちあが)勇気(ゆうき)もなし、213(こし)(へん)になる、214最早(もはや)人力(じんりよく)如何(いかん)ともする(ところ)でない。215あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)216御霊(みたま)(さち)はひましませよ。217朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも、218(つき)()つとも()くるとも、219竜公(たつこう)さまに()つてこンな(おそ)ろしい(こと)(また)三千(さんぜん)世界(せかい)にあるものか。220おゝゝゝ(おそ)ろしい……もゝゝゝ(もり)だな』
221松彦『これ、222(むすめ)さま、223そンな(かほ)して()つては(みな)連中(れんちう)(きも)(つぶ)して(こま)るから(ひと)(かほ)(あら)(かみ)()()げ、224もとの人間(にんげん)還元(くわんげん)して、225それから(くは)しい物語(ものがたり)をこの松彦(まつひこ)()かしたらどうだい。226(この)(わき)清水(しみづ)()いてゐる。227さアここで(ひと)蝋燭(らふそく)()があるのを(さいは)(かほ)(あら)身繕(みつくろ)ひを(あらた)めなさい』
228女(楓)『ハイ、229有難(ありがた)(ござ)ります。230えらい失礼(しつれい)(いた)しました』
231()(なが)ら、232(をんな)(かたはら)水溜(みづたま)りで念入(ねんい)りに(ゑど)つた(かほ)をスツカリ(あら)(おと)し、233(むね)にかけた(かがみ)(はさみ)(その)()()て、234(かみ)()()白衣(びやくい)()()てた。235()れば十七八(じふしちはつ)(さい)(おぼ)しき妙齢(めうれい)美人(びじん)である。
236松彦『やア、237()かけによらぬ立派(りつぱ)なナイスだ。238おい竜公(たつこう)239松彦(まつひこ)がきいて()れば、240貴様(きさま)(いま)一生(いつしやう)女房(にようばう)()たぬと()つたが、241これなら随分(ずゐぶん)()()るだらう、242アハヽヽヽ』
243竜公(をんな)化物(ばけもの)()(こと)()いて()たが本当(ほんたう)(おそ)ろしいものだな。244いやもうどンなナイスでも竜公(たつこう)さまは(をんな)()ちや一生(いつしやう)御免(ごめん)だ。245(ひと)(ちが)へばあれだからなア。246(おれ)やもう一目(ひとめ)()るなり(ひやく)(ねん)(ほど)寿命(じゆみやう)(ちぢ)めて(しま)つたよ』
247松彦『アハヽヽヽ()(よわ)(をとこ)だな』
248松彦(まつひこ)()()(わら)ふ。
249 (をんな)はチヤンと身繕(みつくろ)ひをし(なが)治国別(はるくにわけ)(そば)(おそ)(おそ)(すす)()り、250土下坐(どげざ)(なが)(やさ)しき(こゑ)にて、
251女(楓)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(さま)252(まこと)にお(やす)(ちう)(おどろ)かせまして申訳(まをしわけ)(ござ)りませぬ。253(わたし)はライオン(がは)(ほとり)()首陀(しゆだ)(むすめ)(ござ)ります。254(わたし)両親(りやうしん)はライオン(がは)釣魚(つり)をする(とき)255ランチ将軍(しやうぐん)部下(ぶか)がやつて()まして「(その)(はう)三五教(あななひけう)間諜者(まわしもの)だらう」と()つて高手(たかて)小手(こて)(いま)しめ陣屋(ぢんや)()(かへ)嬲殺(なぶりごろし)にしたと()(こと)(ござ)ります。256もとはアーメニヤの(うま)れで(ござ)りますが大騒動(おほさうどう)以来(いらい)257(あに)行衛(ゆくゑ)(わか)らなくなり、258(とし)()いたる両親(りやうしん)(わたし)は、259そこら(ぢう)乞食(こじき)巡礼(じゆんれい)となつて経巡(へめぐ)り、260(やうや)くライオン(がは)片辺(かたほとり)(ちひ)さき(いほり)(むす)親子(おやこ)(さん)(にん)(やま)()つて果実(このみ)()(その)()(おく)つてゐました(ところ)261黄金姫(わうごんひめ)(さま)とか()立派(りつぱ)なお(かた)がお(とほ)りになり、262一寸(ちよつと)(やす)ンで(くだ)さいまして「お(まへ)はこンな(かは)べりに一軒家(いつけんや)()てて(なに)をして()るか」と仰有(おつしや)いましたので(わたし)両親(りやうしん)はいろいろと来歴(らいれき)申上(まをしあ)げた(ところ)263その黄金姫(わうごんひめ)(さま)仰有(おつしや)るには「お(まへ)はこれから三五教(あななひけう)(かみ)(さま)信仰(しんかう)せよ。264さうすれば()(なか)(なに)(おそ)るべきものはない」と仰有(おつしや)つて(くだ)さいました。265それ(ゆゑ)朝晩(あさばん)三五教(あななひけう)祝詞(のりと)(おぼ)えて祈念(きねん)(いた)して()りました。266さうするとランチ将軍(しやうぐん)手下(てした)(もの)がドカドカと五六(ごろく)(にん)()()(きた)り「(その)(はう)(いま)三五教(あななひけう)祝詞(のりと)(とな)へて()つた()しからぬ(やつ)だ。267大方(おほかた)(てき)間諜(まわしもの)だらう」と()つて両親(りやうしん)(とら)(かへ)つて(しま)ひました。268(わたし)(さいは)(かはや)這入(はい)つて()りましたので(いのち)だけは(たす)かりました。269それからテームス(たうげ)をソツと(わた)斎苑(いそ)(やかた)参拝(さんぱい)せむと()()れば、270河鹿(かじか)(たうげ)(なか)(ほど)にバラモン(けう)軍勢(ぐんぜい)()つて()ると()(こと)なので(たうげ)()ゆる(わけ)にも()かず(この)(もり)片隅(かたすみ)洞穴(ほらあな)のあるのを(さいは)ひ、271そこに()(しの)夜中(よなか)丑満(うしみつ)(こく)(かんが)へ、272どうぞして両親(りやうしん)(かたき)()(こひ)しい一人(ひとり)(あに)()はして(くだ)さいと、273今日(けふ)二十一(にじふいち)(にち)(あひだ)(まゐ)りを(いた)しました。274(じつ)不仕合(ふしあは)せな(をんな)(ござ)ります。275何卒(どうぞ)(あは)れみ(くだ)さいませ』
276とワツとばかりに大地(だいち)()()()てて()(さけ)(その)いぢらしさ。277治国別(はるくにわけ)(はじ)一同(いちどう)は、278(むすめ)物語(ものがたり)()いて悲嘆(ひたん)(なみだ)にくれゐたりける。
279大正一一・一二・八 旧一〇・二〇 北村隆光録)
280(昭和九・一二・二七 王仁校正)
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