万公はうら寂しく、寝付かれずに一行の寝息をうかがいながら夜明けを待っている。このさびしい森でぐっすり寝ている連れの三人の肝の太さに感心し、我が身を省みて、言霊を打ち出してみることにした。
そうするうちに、五三公は幽霊の夢に驚いて目を覚ました。五三公は不安そうに治国別はちゃんとここに寝ているだろうかと万公に尋ねた。五三公と万公は寝られずに話を続けている。
すると少し離れたところで何かひそひそと人声が聞こえてきた。万公と五三公は口をつぐんで耳を傾けた。これはバラモン教の斥候、アク、タク、テクであった。三人は昨晩、鬼娘におどかされた後に、三五教の宣伝歌で追い散らされて恐ろしい目にあったとびくついている。
万公と五三公は、鬼の夫婦の真似をして三人を驚かせた。アク、テク、タクは腰が抜けてその場から動けなくなってしまった。そこへ月の光が照らして、一同の顔は互いに明らかになった。
万公と五三公は竜公と起こそうとしたが、どうしたわけか治国別と竜公の姿が見えない(治国別と竜公はこっそり浮木の森へ向かった。第47巻第1章を見よ)。代わりに起きてきたのは松彦であった。二人は松彦に、腰が抜けて動けなくなっているバラモン軍の三人を見せた。
松彦はアク、テク、タクの三人を安堵させて、一緒に話をするようにと打ち解けた。万公と五三公も三人を受け入れることとし、五三公はこの場のなごやかな空気に思わず愉快気に笑い出した。
この笑い声はあたりの陰鬱を破り、一同はにわかに陽気となって敵味方声をそろえて高笑いをした。今まで我が物顔にこずえを飛び交っていた猿どもは一度に声を潜めてしまった。