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第44巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 神示の合離
01 笑の恵
〔1170〕
02 月の影
〔1171〕
03 守衛の囁
〔1172〕
04 滝の下
〔1173〕
05 不眠症
〔1174〕
06 山下り
〔1175〕
07 山口の森
〔1176〕
第2篇 月明清楓
08 光と熱
〔1177〕
09 怪光
〔1178〕
10 奇遇
〔1179〕
11 腰ぬけ
〔1180〕
12 大歓喜
〔1181〕
13 山口の別
〔1182〕
14 思ひ出の歌
〔1183〕
第3篇 珍聞万怪
15 変化
〔1184〕
16 怯風
〔1185〕
17 罵狸鬼
〔1186〕
18 一本橋
〔1187〕
19 婆口露
〔1188〕
20 脱線歌
〔1189〕
21 小北山
〔1190〕
余白歌
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第一七章
罵狸鬼
(
ばりき
)
〔一一八六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第44巻 舎身活躍 未の巻
篇:
第3篇 珍聞万怪
よみ(新仮名遣い):
ちんぶんばんかい
章:
第17章 罵狸鬼
よみ(新仮名遣い):
ばりき
通し章番号:
1186
口述日:
1922(大正11)年12月09日(旧10月21日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年8月18日
概要:
舞台:
野中の森
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
松彦が代理で宣伝使格となり、万公、五三公およびバラモン教のアク、タク、テクを含めた六人は、敵味方の壁を忘れて和気あいあいと笑いに興じだした。月はさえて森は昼のように明るくなってきた。
一同は打ち解けてしばらく滑稽な話に時間をついやした。すると闇の中から光のない薄青い火の玉がやってきた。松彦は火の玉に号令し、これは狸の火で、万公が狸狸とののしった言霊が現れたのだと言った。
万公は一生懸命鎮魂の姿勢を取ったが、火の玉から鬼女の顔が現れて、一同を大雲山に連れに来たのだと脅した。そのうちに怪物の姿は消えてしまい、あたりを見れば白い動物が一匹、森の中へ逃げて行く。
一同は化かされたことまた笑い興じた。これより、松彦は夜明けを待って五人をしたがえ、浮木の森を指して行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-02-15 18:55:45
OBC :
rm4417
愛善世界社版:
227頁
八幡書店版:
第8輯 219頁
修補版:
校定版:
238頁
普及版:
98頁
初版:
ページ備考:
001
松彦
(
まつひこ
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
格
(
かく
)
となり、
002
万公
(
まんこう
)
、
003
五三公
(
いそこう
)
、
004
及
(
および
)
バラモン
教
(
けう
)
のアク、
005
タク、
006
テクの
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
は、
007
敵味方
(
てきみかた
)
の
牆壁
(
しやうへき
)
を
忘
(
わす
)
れ、
008
和気
(
わき
)
靄々
(
あいあい
)
として
俄
(
にはか
)
に
笑
(
わら
)
ひ
興
(
きよう
)
じ
出
(
だ
)
した。
009
月
(
つき
)
はますます
冴
(
さ
)
えて
木立
(
こだち
)
のまばらな
此
(
この
)
森
(
もり
)
は
昼
(
ひる
)
の
如
(
ごと
)
く
明
(
あかる
)
くなつて
来
(
き
)
た。
010
万公
(
まんこう
)
は
俄
(
にはか
)
に
元気
(
げんき
)
づいて
喋
(
しやべ
)
り
出
(
だ
)
した。
011
万公
『
松彦
(
まつひこ
)
さま、
012
治国別
(
はるくにわけ
)
の
先生
(
せんせい
)
が
居
(
を
)
られなくなつた
以上
(
いじやう
)
は、
013
入信
(
にふしん
)
の
順序
(
じゆんじよ
)
として
先
(
ま
)
づ
万公
(
まんこう
)
が
宣伝使
(
せんでんし
)
代理
(
だいり
)
を
勤
(
つと
)
むべき
所
(
ところ
)
ですな。
014
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
には
依怙
(
えこ
)
贔屓
(
ひいき
)
はチツトも
無
(
な
)
いのだから、
015
神徳
(
しんとく
)
の
高
(
たか
)
きものが
一行
(
いつかう
)
を
統一
(
とういつ
)
するのが
当然
(
たうぜん
)
でせうなア』
016
五三公
『こりや
万公
(
まんこう
)
、
017
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
矛盾
(
むじゆん
)
した
事
(
こと
)
を
吐
(
ほざ
)
くのだ。
018
入信順
(
にふしんじゆん
)
から
云
(
い
)
へば
万公
(
まんこう
)
がなる
所
(
ところ
)
だと
云
(
い
)
ふかと
思
(
おも
)
へば、
019
神徳
(
しんとく
)
のあるものが
当
(
あた
)
るべきものとは
前後
(
ぜんご
)
矛盾
(
むじゆん
)
も
甚
(
はなはだ
)
しいではないか、
020
五三公
(
いそこう
)
には
合点
(
がてん
)
が
行
(
ゆ
)
かないワ』
021
万公
『ウン、
022
順序
(
じゆんじよ
)
から
云
(
い
)
へば
万公
(
まんこう
)
さまが
宣伝使
(
せんでんし
)
代理
(
だいり
)
を
勤
(
つと
)
むべき
処
(
ところ
)
だが、
023
松彦
(
まつひこ
)
さまは
後入信
(
あといり
)
でも、
024
バラモン
教
(
けう
)
で
素地
(
そち
)
が
作
(
つく
)
つてあるから
神徳
(
しんとく
)
が
高
(
たか
)
い、
025
それだから
松彦
(
まつひこ
)
さまが
宣伝使
(
せんでんし
)
代理
(
だいり
)
になられたが
宜
(
よ
)
からうと
云
(
い
)
つたのだよ。
026
宣伝使
(
せんでんし
)
の
弟
(
おとうと
)
だつて、
027
何
(
なん
)
にも
神徳
(
しんとく
)
のない
木偶
(
でく
)
の
坊
(
ぼう
)
だつたら、
028
吾々
(
われわれ
)
は
統率者
(
とうそつしや
)
と
仰
(
あふ
)
ぐ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないと
云
(
い
)
つた
迄
(
まで
)
だ。
029
それが
何処
(
どこ
)
に
矛盾
(
むじゆん
)
して
居
(
ゐ
)
るか。
030
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
根性
(
こんじやう
)
が
曲
(
まが
)
つてゐるから
怪体
(
けたい
)
の
処
(
ところ
)
へ
気
(
き
)
をまはすのだナ。
031
エー』
032
五三公
『
後
(
あと
)
の
烏
(
からす
)
が
先
(
さき
)
になるぞよと
云
(
い
)
ふことがあるからな。
033
何程
(
なにほど
)
万公
(
まんこう
)
さまが
先輩
(
せんぱい
)
でも
駄目
(
だめ
)
だよ。
034
昨夜
(
さくや
)
の
言霊戦
(
ことたません
)
には
先輩
(
せんぱい
)
が
濁
(
にご
)
つて
全敗
(
ぜんぱい
)
し、
035
今晩
(
こんばん
)
も
亦
(
また
)
哀
(
あは
)
れつぽい
泣声
(
なきごゑ
)
を
出
(
だ
)
して
全敗
(
ぜんぱい
)
したのだから、
036
頼
(
たよ
)
りのない
先輩
(
せんぱい
)
だよ』
037
万公
『コリヤ
五三公
(
いそこう
)
、
038
千輩
(
せんぱい
)
どころかい。
039
俺
(
おれ
)
は
万輩
(
まんぱい
)
だ。
040
それだから
俺
(
おれ
)
は
万公
(
まんこう
)
さまだよ。
041
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
東海道
(
とうかいだう
)
とは
違
(
ちが
)
ふわい』
042
五三公
『
東海道
(
とうかいだう
)
とは
何
(
なん
)
だ。
043
馬鹿
(
ばか
)
にするない』
044
万公
『それでも
五十三
(
ごじふさん
)
次
(
つぎ
)
の
五三公
(
いそこう
)
でないか。
045
破
(
やぶ
)
れた
着物
(
きもの
)
は
東海道
(
とうかいだう
)
と
云
(
い
)
ふぢやないか。
046
エー、
047
襤褸布
(
ぼろきれ
)
を
五千三
(
ごせんさん
)
次
(
つぎ
)
つぎ
合
(
あは
)
して
着
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
る
乞食
(
こじき
)
の
代名詞
(
だいめいし
)
だ。
048
さうだから
貴様
(
きさま
)
は
破
(
やぶ
)
れ
宣伝使
(
せんでんし
)
と
云
(
い
)
ふのだよ』
049
五三公
『
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
050
此
(
この
)
五三公
(
いそこう
)
さまは
万敗
(
まんぱい
)
さまよりも
松彦
(
まつひこ
)
さまを
信用
(
しんよう
)
するワ。
051
松
(
まつ
)
は
千年
(
ちとせ
)
の
色深
(
いろふか
)
しと
云
(
い
)
つて
末代
(
まつだい
)
代物
(
しろもの
)
だからな』
052
万公
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
万公
(
まんこう
)
の
俺
(
おれ
)
には
人望
(
じんばう
)
がないのだから
仕方
(
しかた
)
がない。
053
そンなら、
054
さうとして
置
(
お
)
いて、
055
俺
(
おれ
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
神力
(
しんりき
)
だけは
認
(
みと
)
めるだらうな』
056
五三公
『ハヽヽヽヽ
笑
(
わら
)
はしやがるわい。
057
何
(
なに
)
が
言霊
(
ことたま
)
の
神力
(
しんりき
)
だ。
058
全敗
(
ぜんぱい
)
万敗
(
まんぱい
)
の
破
(
やぶ
)
れ
宣伝使
(
せんでんし
)
奴
(
め
)
が』
059
万公
『その
笑
(
わら
)
はせやがるのが
俺
(
おれ
)
ぢやないか。
060
率先
(
そつせん
)
して
笑
(
わら
)
つたのは
此
(
この
)
万公
(
まんこう
)
さまだぞ。
061
四辺
(
しへん
)
の
陰鬱
(
いんうつ
)
な
空気
(
くうき
)
を
拭
(
ふ
)
きとつた
様
(
やう
)
に
笑
(
わら
)
ひ
散
(
ち
)
らしたのだからな。
062
笑
(
わら
)
ふと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
即
(
すなは
)
ち
歓喜
(
くわんき
)
の
表徴
(
へうちよう
)
だ。
063
薄
(
すすき
)
の
穂
(
ほ
)
にも
怖
(
お
)
ぢ
恐
(
おそ
)
れビリついて
居
(
を
)
つた
貴様
(
きさま
)
等
(
たち
)
の
魂
(
たましひ
)
に
光明
(
くわうみやう
)
を
与
(
あた
)
へ、
064
力
(
ちから
)
を
与
(
あた
)
へたのも
万公
(
まんこう
)
さまが
笑
(
わら
)
ひの
言霊
(
ことたま
)
の
原料
(
げんれう
)
を
提供
(
ていきよう
)
したからだ。
065
ウーピーの
主人公
(
しゆじんこう
)
だよ。
066
凡
(
すべ
)
て
人
(
ひと
)
の
神霊
(
しんれい
)
と
云
(
い
)
ふものは
歓喜
(
くわんき
)
楽天
(
らくてん
)
に
存在
(
そんざい
)
するものだからな。
067
悲哀
(
ひあい
)
の
念
(
ねん
)
を
起
(
おこ
)
し
嘆声
(
たんせい
)
を
洩
(
も
)
らすと、
068
神霊
(
しんれい
)
忽
(
たちま
)
ち
萎縮
(
ゐしゆく
)
し、
069
遂
(
つひ
)
には
亡
(
ほろ
)
びて
了
(
しま
)
ふものだ。
070
抑
(
そもそ
)
も
人
(
ひと
)
の
神霊
(
しんれい
)
は
善
(
ぜん
)
をなせば
増
(
ま
)
し、
071
悪
(
あく
)
をなせば
減
(
げん
)
ず、
072
歓喜
(
くわんき
)
によつて
発達
(
はつたつ
)
し、
073
悲哀
(
ひあい
)
によつて
消滅
(
せうめつ
)
す。
074
かかる
真理
(
しんり
)
の
蘊奥
(
うんあう
)
を
理解
(
りかい
)
した
万公
(
まんこう
)
さまは
実
(
じつ
)
に
偉
(
えら
)
いものだらう。
075
五三公
(
いそこう
)
が
何程
(
なにほど
)
藻掻
(
もが
)
いた
処
(
ところ
)
で、
076
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
き
深遠
(
しんゑん
)
微妙
(
びめう
)
なる
宇宙
(
うちう
)
の
真理
(
しんり
)
は
分
(
わか
)
るまい。
077
エヘン』
078
五三公
『それ
丈
(
だ
)
けの
真理
(
しんり
)
が
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
ながら、
079
何故
(
なぜ
)
女々
(
めめ
)
しく
悲哀
(
ひあい
)
の
語調
(
ごてう
)
を
並
(
なら
)
べて
慄
(
ふる
)
うて
居
(
ゐ
)
たのだ』
080
万公
『それは
臨機
(
りんき
)
応変
(
おうへん
)
の
処置
(
しよち
)
だ。
081
婦人
(
ふじん
)
小児
(
せうに
)
の
敢
(
あへ
)
て
知
(
し
)
る
所
(
ところ
)
でない』
082
五三公
『アハヽヽヽヽ
婦人
(
ふじん
)
小児
(
せうに
)
は
何処
(
どこ
)
に
居
(
ゐ
)
るのだ。
083
俺
(
おれ
)
は
決
(
けつ
)
して
婦人
(
ふじん
)
でも
小児
(
せうに
)
でもないぞ』
084
万公
『
居
(
ゐ
)
ないから
云
(
い
)
つたのだ。
085
そこが
臨機
(
りんき
)
応変
(
おうへん
)
だよ。
086
時
(
とき
)
にバラモンの
御
(
ご
)
三体
(
さんたい
)
さまを
如何
(
どう
)
処置
(
しよち
)
する
積
(
つも
)
りだ。
087
鱠
(
なます
)
にする
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
088
吸物
(
すゐもの
)
にし
様
(
やう
)
と
思
(
おも
)
つても
骨
(
ほね
)
は
硬
(
かた
)
いなり、
089
ナイフはあつても
之
(
これ
)
は
人斬
(
ひとき
)
り
包丁
(
はうちやう
)
なり、
090
四足
(
よつあし
)
を
料理
(
れうり
)
する
出刃
(
でば
)
の
持合
(
もちあはせ
)
はなし、
091
何
(
ど
)
うしたら
宜
(
よ
)
からうかな』
092
五三公
『
貴様
(
きさま
)
、
093
出歯
(
でつぱ
)
を
持
(
も
)
つてるぢやないか。
094
山桜
(
やまざくら
)
の
万公
(
まんこう
)
と
云
(
い
)
つて
花
(
はな
)
(
鼻
(
はな
)
)より
葉
(
は
)
(
歯
(
は
)
)が
先
(
さき
)
に
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
るだらう。
095
餅
(
もち
)
の
見
(
み
)
せられぬ
代物
(
しろもの
)
だよ』
096
万公
『
何故
(
なぜ
)
この
万公
(
まんこう
)
さまに
餅
(
もち
)
が
見
(
み
)
せられぬのだイ』
097
五三公
『それでも
出歯
(
でつぱ
)
に
餅見
(
もちみ
)
せなと
云
(
い
)
ふぢやないか。
098
アハヽヽヽヽ』
099
松彦
(
まつひこ
)
は
声
(
こゑ
)
を
強
(
つよ
)
めて、
100
松彦
『おい
両人
(
りやうにん
)
、
101
いゝ
加減
(
かげん
)
に
揶揄
(
からか
)
つて
置
(
お
)
かぬか。
102
アク、
103
タク、
104
テクさまが
笑
(
わら
)
ふて
厶
(
ござ
)
るぞ。
105
三五教
(
あななひけう
)
にもあンな
没分暁漢
(
わからずや
)
が
居
(
ゐ
)
るかと
思
(
おも
)
はれちや、
106
神
(
かみ
)
さまの
面汚
(
つらよご
)
しだからのう』
107
アクは、
108
にじり
寄
(
よ
)
り、
109
アク
『ヤア
松彦
(
まつひこ
)
の
先生
(
せんせい
)
、
110
どうせ
人
(
ひと
)
に
使
(
つか
)
はれて
歩
(
ある
)
く
様
(
やう
)
な
連中
(
れんちう
)
に
碌
(
ろく
)
な
者
(
もの
)
はありませぬわ。
111
よう
似
(
に
)
て
居
(
ゐ
)
ますわ、
112
私
(
わたし
)
のつれてゐる
此
(
この
)
両人
(
りやうにん
)
も
矢張
(
やつぱ
)
り
担
(
にの
)
うたら
棒
(
ぼう
)
の
折
(
を
)
れる
代物
(
しろもの
)
ですよ。
113
それは
万々々
(
まんまんまん
)
、
114
話
(
はなし
)
にも
杭
(
くひ
)
にもかからぬ
五三
(
ござ
)
々々
(
ござ
)
した
奴
(
やつ
)
ですわ。
115
アハヽヽヽヽ』
116
万公
『こりやアク、
117
貴様
(
きさま
)
の
口
(
くち
)
をアク
所
(
ところ
)
ぢやないぞ。
118
万々々
(
まんまんまん
)
て、
119
何
(
なん
)
だい。
120
俺
(
おれ
)
の
事
(
こと
)
を
諷
(
ふう
)
して
居
(
ゐ
)
よるのだな』
121
アク
『
万更
(
まんざら
)
さうでもありますまい。
122
然
(
しか
)
し
まん
と
云
(
い
)
ふ
名
(
な
)
のついたものに、
123
あまり
宜
(
よ
)
い
物
(
もの
)
はありませぬな。
124
慢心
(
まんしん
)
に
自慢
(
じまん
)
、
125
高慢
(
かうまん
)
、
126
我慢
(
がまん
)
、
127
驕慢
(
けうまん
)
、
128
万引
(
まんびき
)
に
満鉄
(
まんてつ
)
、
129
それから
病気
(
びやうき
)
には
脹満
(
ちやうまん
)
、
130
と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
なものですな。
131
も
一
(
ひと
)
つ
悪
(
わる
)
いのは
三面
(
さんめん
)
記者
(
きしや
)
の
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
る
万年筆
(
まんねんひつ
)
、
132
それから
慢性
(
まんせい
)
の
痴呆性
(
ちほうせい
)
位
(
ぐらゐ
)
のものですワイ。
133
アハヽヽヽヽ』
134
五三公
『
賛成
(
さんせい
)
々々
(
さんせい
)
、
135
仲々
(
なかなか
)
バラモンにも
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
奴
(
やつ
)
がある。
136
やア、
137
もうずつと
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つた。
138
おいアクさま、
139
それほどお
前
(
まへ
)
は
物
(
もの
)
の
道理
(
だうり
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
り
乍
(
なが
)
ら、
140
何故
(
なぜ
)
人間
(
にんげん
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
四足
(
よつあし
)
の
真似
(
まね
)
をして
来
(
き
)
たのだ、
141
その
理由
(
りいう
)
をこの
五三公
(
いそこう
)
さまに
聞
(
き
)
かして
呉
(
く
)
れぬか』
142
アク
『
別
(
べつ
)
に
四足
(
よつあし
)
の
真似
(
まね
)
はし
度
(
た
)
くなかつたのですが、
143
友達
(
ともだち
)
が
先
(
さき
)
へ
来
(
き
)
て
待
(
ま
)
つてゐるものですからナ』
144
五三公
『その
友達
(
ともだち
)
と
云
(
い
)
ふのは
誰
(
たれ
)
の
事
(
こと
)
だい』
145
アク
『そこに
鎮座
(
ちんざ
)
まします
出歯彦
(
でばひこの
)
命
(
みこと
)
さまの
事
(
こと
)
ですよ。
146
万公
(
まんこう
)
さまと
云
(
い
)
ふぢやありませぬか。
147
アクは
又
(
また
)
早聞
(
はやぎ
)
きをして
馬公
(
うまこう
)
さまと
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
りました。
148
大分
(
だいぶん
)
馬鹿
(
うましか
)
の
様
(
やう
)
なお
顔付
(
かほつき
)
だからな』
149
五三公
『
五三公
(
いそこう
)
が
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば、
150
山口
(
やまぐち
)
の
森
(
もり
)
でも、
151
馬
(
うま
)
と
鹿
(
しか
)
と
鼬
(
いたち
)
の
変化
(
へんげ
)
した
狸
(
たぬき
)
が
現
(
あら
)
はれたぢやないか』
152
アク
『アハヽヽヽヽそりや
テンゴ
(
冗談
(
じようだん
)
)ですよ。
153
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
互
(
たがひ
)
に
罵
(
ののし
)
り
合
(
あ
)
つて
居
(
を
)
つたのです。
154
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
155
正真
(
しやうしん
)
正銘
(
しやうめい
)
の
人間
(
にんげん
)
ばかりだから、
156
あまり
見
(
み
)
くびつて
貰
(
もら
)
ひますまいかい、
157
アク
性
(
しやう
)
な』
158
万公
『そンなら
此
(
この
)
万公
(
まんこう
)
さまも
矢張
(
やつぱ
)
り
人間
(
にんげん
)
だ。
159
あまり
失敬
(
しつけい
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つちやいけないよ』
160
アク
『
此
(
この
)
万公
(
まんこう
)
さまは
常世姫
(
とこよひめの
)
命
(
みこと
)
の
分霊
(
ぶんれい
)
山竹姫
(
やまたけひめ
)
の
口
(
くち
)
から
生
(
うま
)
れた
子
(
こ
)
でせう』
161
五三公
(
いそこう
)
は
訝
(
いぶ
)
かり
乍
(
なが
)
ら、
162
五三公
『
何
(
なに
)
、
163
そンな
事
(
こと
)
があるものか。
164
何故
(
なぜ
)
又
(
また
)
そンな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだ』
165
アク
『
常世姫
(
とこよひめの
)
命
(
みこと
)
さまがエルサレムの
都
(
みやこ
)
で
思
(
おも
)
ふ
様
(
やう
)
にゆかないので、
166
自分
(
じぶん
)
の
霊
(
れい
)
を
分
(
わ
)
けて
山竹姫
(
やまたけひめ
)
と
現
(
あら
)
はれ、
167
何
(
なん
)
とかして
人間
(
にんげん
)
の
生宮
(
いきみや
)
を
生
(
う
)
まうと
天
(
てん
)
に
祈
(
いの
)
り、
168
口
(
くち
)
から
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
した
玉
(
たま
)
が、
169
俄
(
にはか
)
に
膨脹
(
ばうちやう
)
して
大
(
おほ
)
きな
四足
(
よつあし
)
の
子
(
こ
)
となつた。
170
そこで
山竹姫
(
やまたけひめ
)
が
吃驚
(
びつくり
)
して
目
(
め
)
を
円
(
まる
)
うし、
171
口
(
くち
)
を
尖
(
とが
)
らし
両手
(
りやうて
)
を
拡
(
ひろ
)
げ、
172
体
(
からだ
)
まで
反
(
そ
)
りかへつて「
まん
まん
うま
あ」と
仰有
(
おつしや
)
つた。
173
それから
馬
(
うま
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
174
馬
(
うま
)
も
万
(
まん
)
も
矢張
(
やつぱ
)
り
山竹姫
(
やまたけひめ
)
さまの
口
(
くち
)
から
出
(
で
)
たのだから、
175
馬
(
うま
)
の
先祖
(
せんぞ
)
かと
思
(
おも
)
ひましたよ。
176
随分
(
ずゐぶん
)
長
(
なが
)
い
顔
(
かほ
)
ですな』
177
五三公
(
いそこう
)
は
手
(
て
)
を
打
(
う
)
つて、
178
五三公
『アハヽヽヽ
此奴
(
こいつ
)
あ
面白
(
おもしろ
)
い。
179
話
(
はな
)
せるわい』
180
万公
『ヘン、
181
あまり
馬鹿
(
うましか
)
にして
貰
(
もら
)
ふまいかい。
182
そンならアクと
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
の
因縁
(
いんねん
)
を
聞
(
き
)
かしてやらうか』
183
アク
『そンな
事
(
こと
)
ア
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はなくとも、
184
とつくに
御存
(
ごぞん
)
じだ。
185
抑
(
そもそ
)
もアクのアは
天
(
あま
)
のアだ。
186
クは
国
(
くに
)
のクだ。
187
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
、
188
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
の
御水火
(
みいき
)
によつて
生
(
うま
)
れ
給
(
たま
)
うた
天勝
(
あまかつ
)
国勝
(
くにかつ
)
の
名
(
な
)
をかねたる
大神人
(
だいしんじん
)
だが、
189
一寸
(
ちよつと
)
下界
(
げかい
)
の
様子
(
やうす
)
を
探
(
さぐ
)
るため、
190
アク
せくと
人間界
(
にんげんかい
)
にまはつて
隅々
(
すみずみ
)
迄
(
まで
)
歩
(
ある
)
いて
居
(
ゐ
)
る
艮
(
うしとらの
)
金神
(
こんじん
)
さまだよ。
191
悪
(
あく
)
に
見
(
み
)
せて
善
(
ぜん
)
を
働
(
はたら
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だから、
192
暗夜
(
あんや
)
を
照
(
て
)
らすとは、
193
アーク
灯
(
とう
)
と
云
(
い
)
ふぢやないか。
194
あまり
口
(
くち
)
をアークと
すこたん
を
喰
(
く
)
ひますぞや』
195
万公
『アハヽヽヽヽクヽヽヽヽぢや、
196
抑
(
そもそ
)
も
万公
(
まんこう
)
さまの
考
(
かんが
)
へでは、
197
アクと
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
ア、
198
凡
(
すべ
)
て
始末
(
しまつ
)
におへないものだ。
199
その
灰汁
(
あく
)
がぬけさへすれば
食
(
く
)
へぬものでも
食
(
く
)
へるだらう。
200
果物
(
くだもの
)
でも
野菜
(
やさい
)
でも
灰汁
(
あく
)
の
強
(
つよ
)
い
奴
(
やつ
)
は
水
(
みづ
)
に
漬
(
つ
)
けておくのだからな。
201
藁
(
わら
)
にだつて
灰汁
(
あく
)
がある。
202
溝
(
どぶ
)
に
流
(
なが
)
れてゐるのは
皆
(
みな
)
悪水
(
あくすゐ
)
だ。
203
その
悪水
(
あくすゐ
)
に
喜
(
よろこ
)
ンで
棲
(
す
)
ンでゐる
奴
(
やつ
)
が
所謂
(
いはゆる
)
溝鼠
(
どぶねずみ
)
だ。
204
鼬
(
いたち
)
も
矢張
(
やは
)
り
溝水
(
どぶみづ
)
に
近
(
ちか
)
い
処
(
ところ
)
に
棲
(
す
)
むものだ。
205
つまり
要
(
えう
)
するに
即
(
すなは
)
ちアクと
云
(
い
)
ふのは
溝狸
(
どぶたぬき
)
の
事
(
こと
)
だ。
206
アハヽヽヽヽ』
207
五三公
(
いそこう
)
は
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
し、
208
五三公
『
国常立之
(
くにとこたちの
)
尊
(
みこと
)
と
溝狸
(
どぶたぬき
)
とは
天地
(
てんち
)
霄壌
(
せうじやう
)
の
相違
(
さうゐ
)
ぢやないか』
209
アク
『
至大
(
しだい
)
無外
(
むぐわい
)
至小
(
しせう
)
無内
(
むない
)
、
210
無遠近
(
むゑんきん
)
、
211
無広狭
(
むくわうけふ
)
、
212
無大小
(
むだいせう
)
、
213
過去
(
くわこ
)
現在
(
げんざい
)
未来
(
みらい
)
の
区別
(
くべつ
)
なく、
214
或
(
ある
)
時
(
とき
)
は
天
(
てん
)
の
大神
(
おほかみ
)
となり、
215
或
(
ある
)
時
(
とき
)
は
狸
(
たぬき
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
、
216
蠑螈
(
いもり
)
蚯蚓
(
みみず
)
と
身
(
み
)
を
潜
(
ひそ
)
め、
217
天地
(
てんち
)
の
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
するのが
即
(
すなは
)
ちアクだよ。
218
艮
(
うしとらの
)
金神
(
こんじん
)
様
(
さま
)
は
悪神
(
あくがみ
)
祟神
(
たたりがみ
)
と
人
(
ひと
)
に
云
(
い
)
はれて、
219
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
をお
構
(
かま
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばして
厶
(
ござ
)
つたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
三五教
(
あななひけう
)
では
云
(
い
)
ふぢやないか。
220
三五教
(
あななひけう
)
のアと
国常立
(
くにとこたち
)
の
ク
と
頭
(
かしら
)
と
頭
(
かしら
)
をとつて
アク
さまと
云
(
い
)
ふのだからな。
221
馬
(
うま
)
の
子孫
(
しそん
)
とは
大分
(
だいぶん
)
に
訳
(
わけ
)
が
違
(
ちが
)
ふのだよ。
222
ヒヒーンだ。
223
ヒヽヽヽヽ』
224
松彦
『ウツフヽヽヽヽ
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが
松彦
(
まつひこ
)
には
人間界
(
にんげんかい
)
を
離
(
はな
)
れて、
225
畜生国
(
ちくしやうごく
)
の
会議
(
くわいぎ
)
に
臨席
(
りんせき
)
した
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がするわい。
226
もつと
らしい
問題
(
もんだい
)
を
提出
(
ていしゆつ
)
するものはないのかな』
227
アク
『そりや
何程
(
いくら
)
でもありますよ。
228
バラモン
教
(
けう
)
に
於
(
おい
)
て
智識
(
ちしき
)
の
宝庫
(
はうこ
)
と
称
(
とな
)
へられたるアクですからな』
229
万公
『
何
(
なん
)
とまア
万々々
(
まんまんまん
)
吹
(
ふ
)
いたものだな。
230
三百十
(
さんびやくとを
)
日
(
か
)
が
聞
(
き
)
いて
呆
(
あき
)
れるわ。
231
フヽヽヽ』
232
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
時
(
とき
)
しも
一天
(
いつてん
)
黒雲
(
こくうん
)
に
包
(
つつ
)
まれ、
233
俄
(
にはか
)
に
真黒
(
しんこく
)
の
暗
(
やみ
)
となつて
了
(
しま
)
つた。
234
万公
(
まんこう
)
はそろそろ
慄
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
した。
235
万公
『オイ、
236
いゝゝゝ
五三公
(
いそこう
)
、
237
もつと
此方
(
こつち
)
や
寄
(
よ
)
らぬかい。
238
さう
遠慮
(
ゑんりよ
)
するものぢやないわ』
239
五三公
『お
前
(
まへ
)
から
此方
(
こつち
)
へ
寄
(
よ
)
つてくれ。
240
かう
暗
(
くら
)
くては
仕方
(
しかた
)
がないわ。
241
俺
(
おれ
)
や
何
(
なん
)
だか
体
(
からだ
)
が
地
(
ち
)
にくつついた
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がして
動
(
うご
)
けなくなつたのだ、
242
根
(
ね
)
つから
五三
(
いそ
)
々々
(
いそ
)
せぬワイ』
243
万公
『おい、
244
何
(
ど
)
うやら
怪
(
あや
)
しくなつて
来
(
き
)
たぞ、
245
何程
(
なにほど
)
気張
(
きば
)
つても
腹
(
はら
)
の
底
(
そこ
)
から
慄
(
ふる
)
うて
来
(
く
)
るぢやないか。
246
何
(
ど
)
うも
合点
(
がつてん
)
がゆかぬ。
247
歓喜
(
くわんき
)
楽天
(
らくてん
)
の
奴
(
やつ
)
、
248
いつの
間
(
あひだ
)
にか
万
(
まん
)
わるく
遁走
(
とんそう
)
して
了
(
しま
)
ひよつた。
249
俺
(
おれ
)
の
神霊
(
しんれい
)
もそろそろ
脱出
(
だつしゆつ
)
したと
見
(
み
)
えるわい。
250
五三公
(
いそこう
)
お
前
(
まへ
)
だけなつと、
251
しつかりしてゐてくれよ』
252
五三公
『
何
(
なに
)
、
253
心配
(
しんぱい
)
するな。
254
松彦
(
まつひこ
)
さまがついて
厶
(
ござ
)
るわい。
255
あまり
頬桁
(
ほほげた
)
を
叩
(
たた
)
くから
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
戒
(
いまし
)
めを
受
(
う
)
けたのだよ。
256
サア
祈
(
いの
)
れ
祈
(
いの
)
れ』
257
アク
『もし
皆
(
みな
)
さま、
258
どうも
怪
(
あや
)
しくアクなつて
来
(
き
)
たぢやありませぬか』
259
五三公
『
本当
(
ほんたう
)
に
気遣
(
きづか
)
ひな
状況
(
じやうきやう
)
になりましたな。
260
皆
(
みな
)
さま
御
(
ご
)
遠慮
(
ゑんりよ
)
は
要
(
い
)
りませぬ。
261
一所
(
ひとところ
)
へ
五三
(
いそ
)
ぎ
密集
(
みつしふ
)
しませうか』
262
タク
『おいアク、
263
一所
(
ひとところ
)
へ
寄
(
よ
)
つちやいかないよ。
264
もしも
空
(
そら
)
から
爆弾
(
ばくだん
)
でも
落
(
お
)
ちて
来
(
き
)
たら
全滅
(
ぜんめつ
)
だ。
265
何事
(
なにごと
)
も
散兵線
(
さんぺいせん
)
が
安全
(
あんぜん
)
だからな、
266
生命
(
せいめい
)
は
捨
(
すて
)
タク
無
(
な
)
いからなア』
267
アク
『それもさうだ。
268
然
(
しか
)
し
何
(
なん
)
とはなしにアクの
守護神
(
しゆごじん
)
がよりたがつて
仕様
(
しやう
)
がないわ』
269
タク
小声
(
こごゑ
)
で、
270
タク
『この
暗
(
くら
)
がりに
三五教
(
あななひけう
)
の
側
(
そば
)
へ
寄
(
よ
)
ると、
271
あの
懐剣
(
くわいけん
)
でグサツとやられるかも
知
(
し
)
れぬぞ。
272
あまり
気
(
き
)
を
許
(
ゆる
)
しちや
大変
(
たいへん
)
だからな』
273
アクは
故意
(
わざ
)
と
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で、
274
アク
『
何
(
なに
)
、
275
暗
(
くら
)
がりで
側
(
そば
)
へ
寄
(
よ
)
ると、
276
三五教
(
あななひけう
)
が
懐剣
(
くわいけん
)
で
突
(
つ
)
くかも
知
(
し
)
れぬと
云
(
い
)
ふのか。
277
何
(
なに
)
突
(
つ
)
いても
構
(
かま
)
はぬさ、
278
突
(
つ
)
かしておけばよいのさ。
279
敵
(
てき
)
も
味方
(
みかた
)
も
牆壁
(
しやうへき
)
をとつて
親
(
した
)
しく
つき
合
(
あ
)
ひと
云
(
い
)
ふのだから、
280
つく
のは
結構
(
けつこう
)
だ。
281
つかれる
のも
結構
(
けつこう
)
だ。
282
やがて
黒雲
(
くろくも
)
排
(
はい
)
して
月
(
つき
)
も
出
(
で
)
るだらう』
283
タクは
袖
(
そで
)
を
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
つて、
284
タク
『おい、
285
アク、
286
さう
大
(
おほ
)
きな
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
くものぢやないわ。
287
タク
山
(
さん
)
のタク
宣
(
せん
)
を、
288
そンな
大声
(
おほごゑ
)
でさらけ
出
(
だ
)
されちや
堪
(
たま
)
らぬぢやないか』
289
アク
『
大声
(
おほごゑ
)
の
方
(
はう
)
がいいのだよ。
290
大声
(
たいせい
)
俚耳
(
りじ
)
に
入
(
い
)
らずと
云
(
い
)
うてな。
291
却
(
かへつ
)
てこそこそ
話
(
はなし
)
をしてゐると
聞
(
きこ
)
えるものだよ』
292
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
してゐる
処
(
ところ
)
へ、
293
暗
(
やみ
)
の
中
(
なか
)
から
光
(
ひかり
)
の
無
(
な
)
い
薄青
(
うすあを
)
い
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
が
永
(
なが
)
い
褌
(
ふんどし
)
を
引
(
ひき
)
ずつて、
294
地上
(
ちじやう
)
五六
(
ごろく
)
尺
(
しやく
)
の
処
(
ところ
)
をフワリフワリとやつて
来
(
き
)
た。
295
松彦
(
まつひこ
)
は
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
に
向
(
むか
)
ひ、
296
松彦
『
廻
(
まは
)
れ
右
(
みぎ
)
へ』
297
と
号令
(
がうれい
)
を
掛
(
かけ
)
るや
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
は
松彦
(
まつひこ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
従
(
したが
)
ひ
俄
(
にはか
)
に
頭
(
かうべ
)
を
転
(
てん
)
じ
右
(
みぎ
)
の
方
(
はう
)
へクルリと
廻
(
まは
)
つた。
298
さうして
松彦
(
まつひこ
)
の
額
(
ひたひ
)
のあたりを
尾
(
を
)
にて
撫
(
な
)
で
乍
(
なが
)
らスツと
通
(
とほ
)
り、
299
中央
(
ちうあう
)
にブンブンブンと
呻
(
うな
)
つて、
300
尾
(
を
)
を
直立
(
ちよくりつ
)
させ
火柱
(
くわちう
)
を
立
(
た
)
てた
様
(
やう
)
になつた。
301
万公
(
まんこう
)
はビツクリしながら、
302
万公
『
松彦
(
まつひこ
)
さま、
303
「
廻
(
まは
)
れ
帰
(
かへ
)
れ」と
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいな。
304
随分
(
ずゐぶん
)
厭
(
いや
)
らしいものがやつて
来
(
く
)
るぢやありませぬか』
305
松彦
『アハヽヽヽありや
狸
(
たぬき
)
だよ。
306
最前
(
さいぜん
)
から
狸
(
たぬき
)
々
(
たぬき
)
と
罵
(
ののし
)
つたお
前
(
まへ
)
の
言霊
(
ことたま
)
が
実地
(
じつち
)
に
現
(
あら
)
はれたのだから、
307
お
前
(
まへ
)
が
処置
(
しよち
)
をつけねば
誰
(
たれ
)
が
処置
(
しよち
)
をつけるのだ。
308
それそれ
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
がお
前
(
まへ
)
の
方
(
はう
)
へ
近寄
(
ちかよ
)
つて
来
(
く
)
るぢやないか』
309
万公
『こりや
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
、
310
貴様
(
きさま
)
の
本家
(
ほんけ
)
は
万公
(
まんこう
)
ぢやないぞ。
311
バラモンのアクさまだ。
312
アクさまの
方
(
はう
)
へトツトと
行
(
ゆ
)
け。
313
戸惑
(
とまど
)
ひするのも
程
(
ほど
)
がある。
314
エー』
315
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
はジリジリと
万公
(
まんこう
)
目蒐
(
めが
)
けて
迫
(
せま
)
つて
来
(
く
)
る。
316
万公
(
まんこう
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
になつて
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
みウンウンと
鎮魂
(
ちんこん
)
の
姿勢
(
しせい
)
をとつた。
317
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
は
益々
(
ますます
)
太
(
ふと
)
く
長
(
なが
)
く
膨脹
(
ばうちやう
)
するばかり、
318
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
間
(
うち
)
に
鬼女
(
きぢよ
)
の
顔
(
かほ
)
が
現
(
あら
)
はれ
頭
(
あたま
)
に
三本
(
さんぼん
)
の
蝋燭
(
らふそく
)
が
光
(
ひか
)
つて
来
(
き
)
だした。
319
胸
(
むね
)
には
鏡
(
かがみ
)
をかけてゐる。
320
夜前
(
やぜん
)
の
楓姫
(
かへでひめ
)
そつくりである。
321
万公
(
まんこう
)
は
目
(
め
)
を
閉
(
ふさ
)
ぎ
耳
(
みみ
)
をつめて
蹲
(
しやが
)
むで
了
(
しま
)
つた。
322
アク、
323
タク、
324
テクの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はアツと
云
(
い
)
つたきり
大地
(
だいち
)
に
横
(
よこ
)
たはつた。
325
目
(
め
)
を
ぎよろ
つかせ
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
いたぎり、
326
アフンとしてゐる。
327
怪物
(
くわいぶつ
)
は
長
(
なが
)
い
舌
(
した
)
をペロペロ
出
(
だ
)
し
乍
(
なが
)
ら
嫌
(
いや
)
らしい
声
(
こゑ
)
で、
328
怪物
『
万公
(
まんこう
)
、
329
五三公
(
いそこう
)
、
330
アク、
331
タク、
332
テクの
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
、
333
大雲山
(
たいうんざん
)
から
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
たのだ。
334
さア
俺
(
わし
)
について
出
(
で
)
て
厶
(
ござ
)
れ。
335
(
大声
(
おほごゑ
)
)
違背
(
ゐはい
)
に
及
(
およ
)
べば
噛
(
か
)
み
殺
(
ころ
)
さうか』
336
五三公
『たゝゝゝゝゝ
狸
(
たぬき
)
の
化物
(
ばけもの
)
奴
(
め
)
、
337
なゝゝゝゝ
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しよるのだイ。
338
だゞゞゞゞ
誰
(
たれ
)
が
大雲山
(
たいうんざん
)
まで
行
(
ゆ
)
く
奴
(
やつ
)
があるか、
339
ばゞゞ
馬鹿
(
ばか
)
、
340
五三公
(
いそこう
)
の
神力
(
しんりき
)
を
知
(
し
)
らぬかい』
341
と
冷汗
(
ひやあせ
)
をかき
乍
(
なが
)
ら
呶鳴
(
どな
)
りつける。
342
怪物
(
くわいぶつ
)
の
姿
(
すがた
)
は
象
(
ざう
)
が
屁
(
へ
)
を
放
(
ひ
)
つた
様
(
やう
)
にボスンと
云
(
い
)
つたまま
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
つた。
343
中天
(
ちうてん
)
に
昇
(
のぼ
)
つた
月
(
つき
)
は、
344
もとの
如
(
ごと
)
くに
皎々
(
かうかう
)
と
輝
(
かがや
)
いてゐる。
345
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば
一匹
(
いつぴき
)
の
白
(
しろ
)
い
動物
(
どうぶつ
)
が
太
(
ふと
)
い
尾
(
を
)
を
垂
(
た
)
らしノソリノソリと
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
を
目蒐
(
めが
)
け
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
346
松彦
『アハヽヽヽヽヽ
又
(
また
)
やられたな』
347
一同
『ヘヽヽヽヽ』
348
と
一同
(
いちどう
)
のかすかな
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
でつき
合
(
あ
)
ひ
笑
(
わら
)
ひをやつてゐる。
349
これより
松彦
(
まつひこ
)
は
五三公
(
いそこう
)
、
350
万公
(
まんこう
)
、
351
アク、
352
タク、
353
テクの
五
(
ご
)
人
(
にん
)
を
従
(
したが
)
へ
夜明
(
よあ
)
けを
待
(
ま
)
ち
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
をさして
出
(
い
)
でて
行
(
ゆ
)
く。
354
(
大正一一・一二・九
旧一〇・二一
北村隆光
録)
355
(昭和九・一二・二九 王仁校正)
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