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第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
第4巻(卯の巻)
第5巻(辰の巻)
第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
第12巻(亥の巻)
如意宝珠
第13巻(子の巻)
第14巻(丑の巻)
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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
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第71巻(戌の巻)
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第63巻(寅の巻)
序歌
総説
第1篇 妙法山月
01 玉の露
〔1608〕
02 妙法山
〔1609〕
03 伊猛彦
〔1610〕
04 山上訓
〔1611〕
05 宿縁
〔1612〕
06 テルの里
〔1613〕
第2篇 日天子山
07 湖上の影
〔1614〕
08 怪物
〔1615〕
09 超死線
〔1616〕
第3篇 幽迷怪道
10 鷺と鴉
〔1617〕
11 怪道
〔1618〕
12 五託宣
〔1619〕
13 蚊燻
〔1620〕
14 嬉し涙
〔1621〕
第4篇 四鳥の別
15 波の上
〔1622〕
16 諒解
〔1623〕
17 峠の涙
〔1624〕
18 夜の旅
〔1625〕
第5篇 神検霊査
19 仕込杖
〔1626〕
20 道の苦
〔1627〕
21 神判
〔1628〕
22 蚯蚓の声
〔1629〕
余白歌
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第三章
伊猛彦
(
いたけりひこ
)
〔一六一〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第63巻 山河草木 寅の巻
篇:
第1篇 妙法山月
よみ(新仮名遣い):
すだるまさんげつ
章:
第3章 伊猛彦
よみ(新仮名遣い):
いたけりひこ
通し章番号:
1610
口述日:
1923(大正12)年05月18日(旧04月3日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年2月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玉国別は伊太彦の申し出に対し、もろ手を組んで思案に暮れている。玉国別は、伊太彦が玉への執着にとらわれて焦っているのではないかと心配していた。
玉国別は、宝玉は神様から与えられるものだから、自分から求めて得ようとするのはよろしくない、それよりも自分の内なる玉を磨いたほうがよい、と諭した。
伊太彦は内在の玉が大切なのはわかっているが、霊肉一致の原理によって外形的な玉も必要なのだ、と反論する。そして自分は神界からの内流を得て言っているのだ、と玉国別に反論する。
そこまで言うなら仕方がないと玉国別も折れた。伊太彦は師匠の許しを得て、カークスとベースを従えて、スーラヤ山指して意気揚々と出発してしまった。
一同は伊太彦の朗らかな意気に笑いに包まれた。玉国別は、伊太彦が神界の経綸で神掛かりになっていたと明かし、後々その霊の素性がわかるだろうと告げた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2019-09-11 14:30:39
OBC :
rm6303
愛善世界社版:
33頁
八幡書店版:
第11輯 274頁
修補版:
校定版:
34頁
普及版:
64頁
初版:
ページ備考:
001
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み
何
(
なに
)
か
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れてゐる。
002
伊太彦
(
いたひこ
)
は
気
(
き
)
をいらち、
003
『もし
先生
(
せんせい
)
、
004
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
、
005
何
(
なに
)
を
御
(
ご
)
思案
(
しあん
)
して
厶
(
ござ
)
るのですか。
006
貴方
(
あなた
)
も
玉国別
(
たまくにわけ
)
と
名
(
な
)
を
頂
(
いただ
)
いた
以上
(
いじやう
)
は、
007
今
(
いま
)
お
聞
(
き
)
きでせうが
夜光
(
やくわう
)
の
玉
(
たま
)
を、
008
も
一
(
ひと
)
つ
伊太彦
(
いたひこ
)
にお
取
(
と
)
らせになるのも、
009
お
名前
(
なまへ
)
から
云
(
い
)
つても
普通
(
ふつう
)
の
事
(
こと
)
だと
考
(
かんが
)
へます。
010
私
(
わたし
)
も
諦
(
あきら
)
めて
居
(
を
)
りましたが、
011
又
(
また
)
俄
(
にはか
)
に
何
(
なん
)
だか
勇気
(
ゆうき
)
が
勃々
(
ぼつぼつ
)
として
参
(
まゐ
)
りました。
012
諺
(
ことわざ
)
にも「
聞
(
き
)
かざるは
之
(
これ
)
を
聞
(
き
)
くに
如
(
し
)
かず、
013
之
(
これ
)
を
聞
(
き
)
くは
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
るに
如
(
し
)
かず、
014
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
るは
之
(
これ
)
を
知
(
し
)
るに
如
(
し
)
かず、
015
之
(
これ
)
を
知
(
し
)
るは
之
(
これ
)
を
行
(
おこな
)
ふに
如
(
し
)
かず」と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
厶
(
ござ
)
いますから、
016
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
聞
(
き
)
いた
以上
(
いじやう
)
は、
017
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
実否
(
じつぴ
)
をつきとめ、
018
果
(
はた
)
して
玉
(
たま
)
在
(
あ
)
りとせば、
019
之
(
これ
)
を
竜王
(
りうわう
)
の
手
(
て
)
より
預
(
あづか
)
つて
帰
(
かへ
)
らうと
思
(
おも
)
ひます。
020
そして
竜王
(
りうわう
)
に
三五
(
あななひ
)
の
道
(
みち
)
を
説
(
と
)
き
聞
(
き
)
かせてやり
度
(
た
)
う
厶
(
ござ
)
いますが、
021
どうか
私
(
わたし
)
を
特命
(
とくめい
)
全権
(
ぜんけん
)
公使
(
こうし
)
に
任命
(
にんめい
)
して
下
(
くだ
)
さいますまいかな』
022
玉国
(
たまくに
)
『「
来
(
きた
)
りて
学
(
まな
)
ぶを
聞
(
き
)
く、
023
未
(
いま
)
だ
行
(
ゆ
)
きて
教
(
をし
)
ふるを
聞
(
き
)
かず」と
聖人
(
せいじん
)
も
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
024
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
に
余
(
あま
)
り
強
(
つよ
)
ばると
025
失策
(
しつさく
)
をやらうまいものでもないから、
026
些
(
ちつ
)
とジツクリしたら
宜
(
よ
)
からう。
027
ウバナンダ
竜王
(
りうわう
)
に
教
(
をしへ
)
をするのは
宜
(
よ
)
いが、
028
ここへ
言霊
(
ことたま
)
を
以
(
もつ
)
て
招
(
まね
)
き
寄
(
よ
)
せて
教
(
をし
)
へてやつたらどうだ。
029
こちらから
行
(
ゆ
)
く
必要
(
ひつえう
)
はあるまい。
030
諺
(
ことわざ
)
にも「
兵
(
へい
)
強
(
つよ
)
ければ
即
(
すなは
)
ち
滅
(
ほろ
)
び、
031
木
(
き
)
強
(
つよ
)
ければ
即
(
すなは
)
ち
折
(
を
)
れる」と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
032
人間
(
にんげん
)
は
控目
(
ひかへめ
)
にすることが
肝腎
(
かんじん
)
だからな』
033
伊太
(
いた
)
『
先生
(
せんせい
)
、
034
貴方
(
あなた
)
は
卑怯
(
ひけふ
)
な
事
(
こと
)
を
仰
(
おほ
)
せられますな。
035
「
危
(
あやふ
)
きは
疑
(
うたが
)
ひに
任
(
まか
)
すより
危
(
あやふ
)
きはなし、
036
危
(
あやふ
)
きものは
其
(
その
)
安
(
あん
)
を
保
(
たも
)
ち、
037
亡
(
ほろ
)
ぶるものは
其
(
その
)
存
(
そん
)
を
保
(
たも
)
つ」と
云
(
い
)
ひますぜ』
038
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
儼然
(
げんぜん
)
として
容
(
かたち
)
を
改
(
あらた
)
め、
039
徐
(
おもむろ
)
に
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
いて、
040
『
伊太彦
(
いたひこ
)
さま、
041
貴方
(
あなた
)
は
夜光
(
やくわう
)
の
玉
(
たま
)
夜光
(
やくわう
)
の
玉
(
たま
)
と
頻
(
しき
)
りに
熱望
(
ねつばう
)
して
居
(
を
)
られますが、
042
形態
(
けいたい
)
ある
玉
(
たま
)
は
或
(
あるひ
)
は
毀損
(
きそん
)
し
043
或
(
あるひ
)
は
紛失
(
ふんしつ
)
する
虞
(
おそ
)
れが
伴
(
ともな
)
ふものですよ。
044
夫
(
そ
)
れよりも
045
貴方
(
あなた
)
御
(
ご
)
自身
(
じしん
)
が
所持
(
しよぢ
)
して
居
(
を
)
らるる
内在
(
ないざい
)
の
宝玉
(
はうぎよく
)
を
046
穢
(
けが
)
さないやうに
為
(
な
)
さいませ』
047
伊太
(
いた
)
『
内在
(
ないざい
)
の
玉
(
たま
)
とは
何
(
なん
)
ですか。
048
拙者
(
わたし
)
はそんなものは
持
(
も
)
ちませぬがナア。
049
貴師
(
あなた
)
は
夜光
(
やくわう
)
の
玉
(
たま
)
をお
持
(
も
)
ちになつたものだから、
050
ソンナ
平気
(
へいき
)
なことを
謂
(
ゐ
)
つて
居
(
を
)
られるでせうが、
051
苟
(
いやし
)
くも
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
たるもの
052
玉
(
たま
)
の
一
(
ひと
)
つ
位
(
ぐらゐ
)
有形
(
いうけい
)
的
(
てき
)
に
所持
(
しよぢ
)
せなくては、
053
巾
(
はば
)
が
利
(
き
)
かないぢや
有
(
あ
)
りませぬか。
054
現
(
げん
)
に、
055
イク、
056
サールの
両君
(
りやうくん
)
さへも
結構
(
けつこう
)
な
水晶魂
(
すいしやうだま
)
を
神界
(
しんかい
)
より
与
(
あた
)
へられて
居
(
を
)
られるでせう。
057
拙者
(
せつしや
)
は
如何
(
どう
)
しても、
058
今回
(
こんくわい
)
はお
許
(
ゆる
)
しを
戴
(
いただ
)
いて
大蛇
(
をろち
)
の
窟
(
いはや
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
059
一箇
(
いつこ
)
だけ
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れて
見
(
み
)
たいものです。
060
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
も
国依別
(
くによりわけ
)
様
(
さま
)
も
061
琉
(
りう
)
と
球
(
きう
)
との
宝玉
(
ほうぎよく
)
の
威光
(
ゐくわう
)
によつて、
062
アンナ
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
を
遊
(
あそ
)
ばしたぢや
有
(
あ
)
りませぬか。
063
現
(
げん
)
にこの
霊山
(
れいざん
)
に
宝玉
(
ほうぎよく
)
ありと
聞
(
き
)
いた
以上
(
いじやう
)
は、
064
実否
(
じつぴ
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も、
065
一度
(
いちど
)
探険
(
たんけん
)
と
出
(
で
)
かけたいものですなア』
066
玉国
(
たまくに
)
『
伊太彦
(
いたひこ
)
さま、
067
御
(
お
)
説
(
せつ
)
は
御尤
(
ごもつと
)
もだが
俺
(
わし
)
の
話
(
はなし
)
も
一
(
ひと
)
つ
聞
(
き
)
いて
貰
(
もら
)
ひたい。
068
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
僕
(
ぼく
)
が
玉
(
たま
)
を
所持
(
しよぢ
)
して
居
(
ゐ
)
るのは
069
貴方
(
あなた
)
の
手
(
て
)
を
通
(
とほ
)
して
徳叉伽
(
タクシャカ
)
竜王
(
りうわう
)
から
預
(
あづ
)
かり、
070
之
(
これ
)
を
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
奉納
(
ほうなふ
)
せなくては
成
(
な
)
らぬ
宝玉
(
ほうぎよく
)
だ。
071
この
御用
(
ごよう
)
も
僕
(
ぼく
)
から
決
(
けつ
)
して
希望
(
きばう
)
したのでは
無
(
な
)
い、
072
惟神
(
かむながら
)
の
摂理
(
せつり
)
によつて
自然
(
しぜん
)
に
僕
(
ぼく
)
があづからなくてはならない
様
(
やう
)
になつたのだ。
073
天
(
てん
)
の
命
(
めい
)
ずる
所
(
ところ
)
だから、
074
之
(
これ
)
を
拒
(
こば
)
むことは
出来
(
でき
)
ない。
075
要
(
えう
)
するに
竜王
(
りうわう
)
が
帰順
(
きじゆん
)
の
至誠
(
しせい
)
を
表白
(
へうはく
)
する
一
(
ひと
)
つの
証拠品
(
しようこひん
)
だ。
076
之
(
これ
)
を
僕
(
ぼく
)
が
預
(
あづ
)
かつて
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
献
(
たてまつ
)
つて
上
(
あ
)
げねば、
077
竜王
(
りうわう
)
さまの
解脱
(
げだつ
)
が
出来
(
でき
)
ないからだよ。
078
お
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
に
自分
(
じぶん
)
の
方
(
はう
)
から
求
(
もと
)
めて
宝玉
(
ほうぎよく
)
を
得
(
え
)
ようとするのは、
079
余
(
あま
)
り
面白
(
おもしろ
)
くないと
思
(
おも
)
ふがなア。
080
伊太彦
(
いたひこ
)
さま、
081
僕
(
ぼく
)
が
何時
(
いつ
)
ぞやら
比喩話
(
たとへばなし
)
を
聞
(
き
)
いたことを
今
(
いま
)
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
したから
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さい。
082
エヽと
或
(
あ
)
る
処
(
ところ
)
に
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
があつて、
083
友人
(
いうじん
)
の
所
(
ところ
)
へ
訪問
(
はうもん
)
した。
084
そして
大変
(
たいへん
)
に
振舞酒
(
ふるまひざけ
)
に
泥酔
(
どろゑひ
)
して
085
グタグタに
前後
(
ぜんご
)
も
知
(
し
)
らず
酔
(
よ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
086
その
時
(
とき
)
にその
親友
(
しんいう
)
は、
087
或
(
あ
)
る
官用
(
くわんよう
)
のために
急
(
きふ
)
に
出掛
(
でか
)
けることと
成
(
な
)
つたので
088
酔
(
よ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
れて
居
(
を
)
る
友人
(
いうじん
)
を
色々
(
いろいろ
)
と
揺
(
ゆ
)
り
起
(
おこ
)
して
見
(
み
)
た
所
(
ところ
)
が、
089
容易
(
ようい
)
に
目
(
め
)
が
醒
(
さ
)
めないので
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
090
眠
(
ねむ
)
つてゐる
友人
(
いうじん
)
の
衣服
(
いふく
)
の
裏
(
うら
)
へ
091
非常
(
ひじやう
)
に
高価
(
かうか
)
な
玉
(
たま
)
をソツと
繋
(
つな
)
いで
出掛
(
でかけ
)
た。
092
其
(
その
)
後
(
ご
)
になつて
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
れてゐた
男
(
をとこ
)
は
眼
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まし、
093
友人
(
いうじん
)
の
繋
(
つな
)
いで
置
(
お
)
いて
呉
(
く
)
れた
球
(
たま
)
のことは
一向
(
いつかう
)
に
気
(
き
)
が
附
(
つ
)
かずに、
094
親友
(
しんいう
)
のゐないのに
驚
(
おどろ
)
き
家
(
いへ
)
を
立
(
たち
)
出
(
い
)
で、
095
懐中
(
くわいちう
)
無一物
(
むいちぶつ
)
のため
仕方
(
しかた
)
がないので
096
放浪
(
はうらう
)
して
他国
(
たこく
)
へ
出
(
で
)
かけて
行
(
い
)
つた。
097
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
無銭
(
むせん
)
旅行
(
りよかう
)
をやつてゐるため
098
衣食
(
いしよく
)
と
住居
(
ぢうきよ
)
に
就
(
つい
)
て
具
(
つぶ
)
さに
艱難
(
かんなん
)
辛苦
(
しんく
)
を
嘗
(
な
)
めた。
099
然
(
しか
)
しその
男
(
をとこ
)
は
例
(
れい
)
の
親友
(
しんいう
)
が
自分
(
じぶん
)
の
衣服
(
いふく
)
の
裏
(
うら
)
に、
100
貴重
(
きちよう
)
なる
宝玉
(
ほうぎよく
)
を
繋
(
つな
)
いで
置
(
お
)
いて
呉
(
く
)
れたことは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らず、
101
依然
(
いぜん
)
として
衣食
(
いしよく
)
に
窮
(
きう
)
し
102
所々
(
しよしよ
)
方々
(
はうばう
)
と
放浪
(
はうらう
)
し
苦辛
(
くしん
)
を
嘗
(
な
)
めた。
103
所
(
ところ
)
が
余程
(
よほど
)
経
(
た
)
つてから
後
(
のち
)
のこと、
104
偶然
(
ぐうぜん
)
にも
昔
(
むかし
)
の
親友
(
しんいう
)
に
出会
(
でつくは
)
した。
105
そこで
今
(
いま
)
まで
艱難
(
かんなん
)
苦労
(
くらう
)
したことの
一部
(
いちぶ
)
始終
(
しじう
)
を
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
物語
(
ものがた
)
ると、
106
友人
(
いうじん
)
は
吃驚
(
びつくり
)
して、
107
「
君
(
きみ
)
はマア
何
(
なん
)
といふ
馬鹿
(
ばか
)
な
真似
(
まね
)
をしたのだらう。
108
何
(
なに
)
もそれ
程
(
ほど
)
迄
(
まで
)
に
苦
(
くるし
)
まなくてもよかつたのだ。
109
昔
(
むかし
)
君
(
きみ
)
と
僕
(
ぼく
)
と
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
んだ
際
(
さい
)
に
110
君
(
きみ
)
は
大変
(
たいへん
)
に
酔
(
よ
)
つてゐたので
知
(
し
)
らなかつたけれ
共
(
ども
)
、
111
君
(
きみ
)
に
将来
(
しやうらい
)
不自由
(
ふじゆう
)
なく
安楽
(
あんらく
)
に
暮
(
くら
)
させようと
思
(
おも
)
つて、
112
態々
(
わざわざ
)
高価
(
かうか
)
な
宝珠
(
ほつしゆ
)
を、
113
君
(
きみ
)
の
衣服
(
いふく
)
の
裏
(
うら
)
に
繋
(
つな
)
ぎ
隠
(
かく
)
しておいた
筈
(
はず
)
だ。
114
まア、
115
一度
(
いちど
)
調
(
しら
)
べて
見給
(
みたま
)
へ、
116
今
(
いま
)
も
当時
(
たうじ
)
の
球
(
たま
)
は
君
(
きみ
)
の
衣服
(
いふく
)
の
裏
(
うら
)
にきつと
有
(
あ
)
るに
違
(
ちが
)
ひない。
117
君
(
きみ
)
がその
球
(
たま
)
にさへ
早
(
はや
)
く
気
(
き
)
が
附
(
つ
)
いてゐたら、
118
決
(
けつ
)
して
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
様
(
やう
)
な
苦労
(
くらう
)
なんか
為
(
せ
)
なくても
可
(
よ
)
かつた
筈
(
はず
)
だ。
119
早
(
はや
)
く
其
(
そ
)
の
球
(
たま
)
を
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
して
120
何
(
なん
)
なりと
君
(
きみ
)
に
必用
(
ひつよう
)
なものを
買
(
か
)
ふ
資料
(
しれう
)
にしたが
可
(
い
)
い」と
親切
(
しんせつ
)
に
諭
(
さと
)
した。
121
所
(
ところ
)
がその
男
(
をとこ
)
は
今更
(
いまさら
)
のやうに
気
(
き
)
がついて
衣服
(
いふく
)
の
裏
(
うら
)
を
査
(
しら
)
べると
122
親友
(
しんいう
)
の
言
(
い
)
つた
通
(
とほ
)
り
高価
(
かうか
)
な
球
(
たま
)
があつたので、
123
男
(
をとこ
)
は
友
(
とも
)
の
懇情
(
こんじやう
)
を
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
感謝
(
かんしや
)
し、
124
それから
後
(
のち
)
は
安楽
(
あんらく
)
に
暮
(
くら
)
したと
謂
(
ゐ
)
ふことだ。
125
然
(
しか
)
し
伊太彦
(
いたひこ
)
さま、
126
これは
譬話
(
たとへばなし
)
だから
有形
(
いうけい
)
の
宝玉
(
ほうぎよく
)
ではない。
127
人間
(
にんげん
)
が
本来
(
ほんらい
)
具有
(
ぐいう
)
せる
内在
(
ないざい
)
の
神
(
かみ
)
でもあり
128
霊的
(
れいてき
)
の
宝玉
(
ほうぎよく
)
だ。
129
そして
球
(
たま
)
を
繋
(
つな
)
いで
呉
(
く
)
れた
親友
(
しんいう
)
と
云
(
い
)
ふのは、
130
吾々
(
われわれ
)
に
神
(
かみ
)
の
性能
(
せいのう
)
あることを
知
(
し
)
らして
下
(
くだ
)
さつた
瑞
(
みづ
)
の
御魂
(
みたま
)
の
救
(
すく
)
ひ
主
(
ぬし
)
、
131
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
だ。
132
又
(
また
)
酒
(
さけ
)
と
云
(
い
)
ふのは
名利
(
めいり
)
女色
(
ぢよしよく
)
等
(
とう
)
の
際限
(
さいげん
)
なき
欲望
(
よくばう
)
のことだ。
133
そして
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひつぶれた
男
(
をとこ
)
と
云
(
い
)
ふのは、
134
果
(
はた
)
して
何人
(
なにびと
)
であらうか』
135
伊太
(
いた
)
『
先生
(
せんせい
)
136
ソンナ
事
(
こと
)
は
三十万
(
さんじふまん
)
年
(
ねん
)
未来
(
みらい
)
に
於
(
おい
)
て
137
月照彦
(
つきてるひこ
)
様
(
さま
)
が
釈迦
(
しやか
)
と
現
(
あら
)
はれて、
1371
御
(
お
)
説
(
と
)
きになつた
138
法華経
(
ほけきやう
)
の
七大
(
しちだい
)
比喩
(
ひゆ
)
の
中
(
なか
)
に
記
(
しる
)
してある
文句
(
もんく
)
ですよ。
139
内在
(
ないざい
)
の
玉
(
たま
)
は
既
(
すで
)
に
已
(
すで
)
に
認
(
みと
)
めて
居
(
を
)
ります。
140
併
(
しか
)
し
世界
(
せかい
)
は
顕幽
(
けんいう
)
一本
(
いつぽん
)
とか
霊肉
(
れいにく
)
一致
(
いつち
)
とか
云
(
い
)
つて、
141
内外
(
ないぐわい
)
に
玉
(
たま
)
が
必用
(
ひつよう
)
ぢやありませぬか』
142
玉国
(
たまくに
)
『アヽ
困
(
こま
)
りましたなア。
143
到底
(
たうてい
)
拙者
(
せつしや
)
の
言霊
(
ことたま
)
では
伊太彦
(
いたひこ
)
砲台
(
はうだい
)
の
陥落
(
かんらく
)
は
不可能
(
ふかのう
)
かも
知
(
し
)
れぬ。
144
治道
(
ちだう
)
様
(
さま
)
、
145
貴方
(
あなた
)
一
(
ひと
)
つ
援兵
(
ゑんぺい
)
を
繰
(
くり
)
出
(
だ
)
して
下
(
くだ
)
さいな。
146
何
(
ど
)
うやら
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
は
旗色
(
はたいろ
)
が
悪
(
わる
)
くなつた
様
(
やう
)
です』
147
治道
(
ちだう
)
『
伊太彦
(
いたひこ
)
さま、
148
先
(
ま
)
づ
冷静
(
れいせい
)
にお
考
(
かんが
)
へなさいませ。
149
現在
(
げんざい
)
の
吾々
(
われわれ
)
お
互
(
たがひ
)
を
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
の
神鏡
(
しんきやう
)
に
照
(
て
)
らして
反省
(
はんせい
)
して
見
(
み
)
ると、
150
今
(
いま
)
玉国別
(
たまくにわけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
の
酔
(
よ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
れの
男
(
をとこ
)
とは、
151
若
(
も
)
しや
自分
(
じぶん
)
共
(
ども
)
の
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
つたのでは
在
(
あ
)
りますまいか。
152
人間
(
にんげん
)
は
兎角
(
とかく
)
忘
(
わす
)
れてはならない
事
(
こと
)
を
忘
(
わす
)
れたり、
153
忘
(
わす
)
れて
可
(
よ
)
い
事
(
こと
)
を
忘
(
わす
)
れないものです。
154
今
(
いま
)
私
(
わたし
)
達
(
たち
)
は
肉団
(
にくだん
)
の
胸
(
むね
)
の
中
(
うち
)
に
高価
(
かうか
)
な
珠
(
たま
)
を
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら
155
忘
(
わす
)
れ
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つて
居
(
ゐ
)
るのです。
156
又
(
また
)
その
珠
(
たま
)
を
用
(
もち
)
ゆることもせずに
徒
(
いたづら
)
に
形
(
かたち
)
ある
宝
(
たから
)
に
心酔
(
しんすゐ
)
して、
1561
肝腎
(
かんじん
)
の
霊魂
(
たま
)
を
失
(
うしな
)
つて
居
(
ゐ
)
るのでは
有
(
あ
)
りますまいかなア』
157
伊太
(
いた
)
『……』
158
玉国
(
たまくに
)
『
魯
(
ろ
)
の
哀公
(
あいこう
)
[
※
魯(中国)の第27代君主。紀元前5世紀頃の人物。
]
は、
159
「
人
(
ひと
)
の
好
(
よ
)
く
忘
(
わす
)
るるものあり、
160
移宅
(
わたまし
)
に
乃
(
すなは
)
ち
其
(
その
)
妻
(
つま
)
を
忘
(
わす
)
れたり」といつた
所
(
ところ
)
が、
161
孔子
(
こうし
)
は
亦
(
また
)
、
162
之
(
これ
)
に
対
(
たい
)
して「また
好
(
よ
)
く
忘
(
わす
)
るること
此
(
これ
)
より
甚
(
はなは
)
だしきあり。
163
桀紂
(
けつちう
)
は
乃
(
すなは
)
ち
其
(
その
)
身
(
み
)
を
忘
(
わす
)
れたり」と
皮肉
(
ひにく
)
を
言
(
い
)
つたと
言
(
い
)
ふが、
164
桀
(
けつ
)
と
紂
(
ちう
)
とは
支那
(
しな
)
の
未来
(
みらい
)
の
暴君
(
ばうくん
)
で、
165
酒地
(
しゆち
)
肉林
(
にくりん
)
の
淫楽
(
いんらく
)
に
耽
(
ふけ
)
つて、
166
遂
(
つひ
)
にその
身
(
み
)
と
国家
(
こくか
)
とを
失
(
うしな
)
つた
虐主
(
ぎやくしゆ
)
である。
167
何
(
なに
)
が
一番
(
いちばん
)
大
(
おほ
)
きな
忘
(
わす
)
れものだと
言
(
い
)
つても、
168
自分
(
じぶん
)
を
忘
(
わす
)
れる
程
(
ほど
)
、
169
大
(
おほ
)
きい
忘
(
わす
)
れものは
無
(
な
)
からう。
170
人間
(
にんげん
)
の
弱点
(
じやくてん
)
は
兎角
(
とかく
)
この
忘
(
わす
)
れる
筈
(
はず
)
のもので
無
(
な
)
い
自分
(
じぶん
)
を
忘
(
わす
)
れてゐる
場合
(
ばあひ
)
が
多
(
おほ
)
いものだ。
171
桀
(
けつ
)
や
紂
(
ちう
)
の
如
(
ごと
)
く
暴君
(
ばうくん
)
たらずとも、
172
金銭
(
きんせん
)
や
名誉
(
めいよ
)
や
酒色
(
しゆしよく
)
の
暴君
(
ばうくん
)
となつて
173
何時
(
いつ
)
も
本来
(
ほんらい
)
の
我
(
われ
)
を
忘
(
わす
)
れてゐるのだ。
174
伊太彦
(
いたひこ
)
さまの
霊肉
(
れいにく
)
一致説
(
いつちせつ
)
も
亦
(
また
)
一理
(
いちり
)
ある
様
(
やう
)
だが
175
肝腎
(
かんじん
)
の
御魂
(
みたま
)
の
置所
(
おきどころ
)
を
忘
(
わす
)
れては
居
(
ゐ
)
ないだらうかなア』
176
伊太
(
いた
)
『
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さいますな、
177
拙者
(
せつしや
)
は
神界
(
しんかい
)
から
直接
(
ちよくせつ
)
内流
(
ないりう
)
があつて
命令
(
めいれい
)
を
受
(
う
)
けてゐるのです。
178
何
(
なに
)
が
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
になるか
判
(
わか
)
りませぬからなア』
179
玉国
(
たまくに
)
『
神界
(
しんかい
)
からの
内流
(
ないりう
)
とある
以上
(
いじやう
)
は、
180
吾
(
われ
)
何
(
なに
)
をか
言
(
い
)
はむやだ。
181
そんなら
伊太彦
(
いたひこ
)
さま、
182
玉国別
(
たまくにわけ
)
はこれ
限
(
ぎ
)
り
何
(
なに
)
も
申
(
まを
)
しませぬ。
183
自由
(
じいう
)
に
神示
(
しんじ
)
の
御用
(
ごよう
)
をなさい。
184
人間
(
にんげん
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
神
(
かみ
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
は
到底
(
たうてい
)
測知
(
そくち
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬからなア』
185
伊太
(
いた
)
『さすがは
先生
(
せんせい
)
だ。
186
有難
(
ありがた
)
うエヘヽヽヽ。
187
サア、
188
お
許
(
ゆる
)
しを
得
(
え
)
た
以上
(
いじやう
)
は、
189
之
(
これ
)
から
逸早
(
いちはや
)
くスダルマ
山
(
さん
)
の
嶮
(
けん
)
を
越
(
こ
)
え、
190
カークス、
191
ベースの
勇士
(
ゆうし
)
を
従
(
したが
)
へ
192
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
としてスーラヤの
湖
(
うみ
)
に
永久
(
とこしへ
)
に
漂
(
ただよ
)
ふ
宝
(
たから
)
の
山
(
やま
)
、
193
スーラヤ
山
(
さん
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せ、
194
ウバナンダ
竜王
(
りうわう
)
を
言向
(
ことむ
)
け、
195
夜光
(
やくわう
)
の
玉
(
たま
)
を
貢
(
みつ
)
がせ、
196
三
(
さん
)
人
(
にん
)
轡
(
くつわ
)
を
並
(
なら
)
べて
黄金山
(
わうごんざん
)
に
参上
(
まゐのぼ
)
り、
197
天晴
(
あつぱれ
)
功名
(
こうみやう
)
手柄
(
てがら
)
を
致
(
いた
)
すで
厶
(
ござ
)
らう。
198
者共
(
ものども
)
、
199
吾
(
われ
)
に
従
(
したが
)
へ』
200
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
肩肱
(
かたひぢ
)
怒
(
いか
)
らし、
201
カークス、
202
ベースの
両人
(
りやうにん
)
を
引率
(
ひきつ
)
れ、
203
玉国別
(
たまくにわけ
)
一行
(
いつかう
)
に
別
(
わか
)
れ、
204
「
何
(
いづ
)
れエルサレムにて
御
(
ご
)
面会
(
めんくわい
)
」と
一言
(
ひとこと
)
を
残
(
のこ
)
し、
205
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
として、
206
カークスに
間道
(
かんだう
)
を
教
(
をし
)
へられ
足早
(
あしばや
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
207
後
(
あと
)
見送
(
みおく
)
つて
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
打
(
うち
)
笑
(
わら
)
ひ、
208
『アハヽヽヽヽ、
209
イヤ、
210
面白
(
おもしろ
)
い
男
(
をとこ
)
だ。
211
之
(
これ
)
で
伊太彦
(
いたひこ
)
の
使命
(
しめい
)
も
果
(
はた
)
せるであらう。
212
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らスーラヤ
山
(
さん
)
の
竜王
(
りうわう
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
猛悪神
(
まうあくしん
)
と
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
213
どうも
伊太彦
(
いたひこ
)
一人
(
ひとり
)
にては
心
(
こころ
)
許
(
もと
)
ない。
214
真純彦
(
ますみひこ
)
さま、
215
その
他
(
た
)
皆
(
みな
)
さま、
216
之
(
これ
)
からそろそろ
時機
(
じき
)
を
見図
(
みはか
)
らひ
応援
(
おうゑん
)
に
参
(
まゐ
)
りませうか』
217
治道
(
ちだう
)
『
謹
(
つつし
)
んでお
伴
(
とも
)
いたしませう。
218
伊太彦
(
いたひこ
)
さまは
随分
(
ずいぶん
)
快活
(
くわいくわつ
)
な
人
(
ひと
)
ですな。
219
拙者
(
せつしや
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
伊太彦
(
いたひこ
)
崇拝熱
(
すうはいねつ
)
が
高
(
たか
)
まつて
参
(
まゐ
)
りましたよ。
220
アハヽヽヽヽ』
221
真純
(
ますみ
)
『「
材
(
ざい
)
に
任
(
にん
)
じ
能
(
のう
)
を
使
(
つか
)
ふは
務
(
つと
)
めを
済
(
な
)
す
所以
(
ゆゑん
)
なり、
222
物
(
もの
)
を
済
(
な
)
す
所以
(
ゆゑん
)
なり」と
云
(
い
)
つて、
223
流石
(
さすが
)
は
玉国別
(
たまくにわけ
)
様
(
さま
)
だ。
224
適材
(
てきざい
)
を
適所
(
てきしよ
)
にお
使
(
つか
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばす、
225
その
御
(
ご
)
明察
(
めいさつ
)
には
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
りました』
226
玉国
(
たまくに
)
『
伊太彦
(
いたひこ
)
さまは
本当
(
ほんたう
)
に
偉
(
えら
)
いですよ。
227
最前
(
さいぜん
)
から
彼
(
あ
)
んな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つてゐましたが
228
神界
(
しんかい
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
によつて
神懸
(
かむがかり
)
になつてゐたのです。
229
諺
(
ことわざ
)
にも「
死
(
し
)
を
知
(
し
)
るは
必
(
かなら
)
ず
勇
(
ゆう
)
なり。
230
死
(
し
)
するは
難
(
かた
)
きに
非
(
あら
)
ず、
231
死
(
し
)
に
所
(
しよ
)
するは
難
(
かた
)
し」と
云
(
い
)
つて、
232
剣呑
(
けんのん
)
な
所
(
ところ
)
を
好
(
この
)
んで
神界
(
しんかい
)
のために
行
(
ゆ
)
かうとする、
233
その
精神
(
せいしん
)
は
天晴
(
あつぱれ
)
なものですよ』
234
三千
(
みち
)
『
伊太彦
(
いたひこ
)
さまは
普通
(
ふつう
)
の
人間
(
にんげん
)
ぢやありますまいね』
235
玉国
(
たまくに
)
『
普通
(
ふつう
)
の
人間
(
にんげん
)
ならば
如何
(
どう
)
してタクシャカ
竜王
(
りうわう
)
を
言向和
(
ことむけやは
)
す
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませう。
236
やがて
霊
(
みたま
)
の
素性
(
すじやう
)
が
分
(
わか
)
るでせう。
237
私
(
わたし
)
も
今
(
いま
)
初
(
はじ
)
めて
非凡
(
ひぼん
)
の
神格者
(
しんかくしや
)
なる
事
(
こと
)
を……
恥
(
はづか
)
し
乍
(
なが
)
ら
悟
(
さと
)
つたのです、
238
アハヽヽヽ』
239
デビス『サア、
240
皆様
(
みなさま
)
、
241
ボツボツ
参
(
まゐ
)
りませうか』
242
『
宜
(
よろ
)
しからう』
243
と
一同
(
いちどう
)
は
油蝉
(
あぶらせみ
)
の
鳴
(
な
)
く
炎天
(
えんてん
)
の
山道
(
やまみち
)
を
喘
(
あへ
)
ぎ
喘
(
あへ
)
ぎ
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
244
(
大正一二・五・一八
旧四・三
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