霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 怪道(くわいだう)〔一六一八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第63巻 山河草木 寅の巻 篇:第3篇 幽迷怪道 よみ(新仮名遣い):ゆうめいかいどう
章:第11章 怪道 よみ(新仮名遣い):かいどう 通し章番号:1618
口述日:1923(大正12)年05月24日(旧04月9日) 口述場所:教主殿 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年2月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
カークス、ベースの二人は、にわかにあたりの光景が一変した大原野の真ん中を、とぼとぼと何者かに押されるように進んでいく。冬の景色と見えて、松葉は風に揺られ桜の梢は木枯らしにふるえている。
二人は、宣伝使たちと一緒にスーラヤ山の岩窟に入ったはずが、見慣れない原野を歩いていることをいぶかしんだ。二人は述懐を歌いながらともかく先に進んで歩いていく。
二人は濁流みなぎる河辺についた。二人はどうやらここが現界ではないと思い始めた。行く手を阻まれて座り込み、地獄へ暴れこんで王国でも建てようかなどというのんきなほら話に花を咲かせている。
傍らの茅の中に藁小屋があり、黒いやせこけた怪しい婆が現れた。婆は伊太彦宣伝使一行がすでに河を渡って向こう側に行ったという。
遅れてはたいへんと二人は河を渡ろうとした。婆はベースの胸ぐらをつかんで、肝玉を引き抜いて食ってやるとすごんだ。カークスは婆の足をつかんだが、突けども押せどもビクとも動かない。
二人は進退窮まってしまった。するとはるか後ろの方から宣伝歌が聞こえてきた。はっと我に返ると、今まで婆と見えていたのは巨岩であった。河と見えたのは薄原であった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-04-23 16:16:09 OBC :rm6311
愛善世界社版:150頁 八幡書店版:第11輯 315頁 修補版: 校定版:153頁 普及版:64頁 初版: ページ備考:
001 カークス、002ベースの両人(りやうにん)は、003(にはか)四辺(あたり)光景(くわうけい)一変(いつぺん)した大原野(だいげんや)真中(まんなか)無言(むごん)(まま)トボトボと、004何者(なにもの)にか()さるるやうに(すす)んで()く。005(あたま)禿()げた饅頭形(まんぢうがた)(ちひ)さい(をか)(ふもと)辿(たど)つて()くと006其所(そこ)には、0061(まつ)(さくら)()一株(ひとかぶ)のやうになつて(むつ)まじげに()つてゐる。007(ふゆ)景色(けしき)()えて008(とが)つた松葉(まつば)(かぜ)()られて009パラパラと両人(りやうにん)頭上(づじやう)にふつて()る。010(さくら)はもはや真裸(まつぱだか)となつて(こがらし)(こずゑ)(ふる)うて()た。
011カークス『オイ、012ベース、013(おれ)(たち)はスーラヤの死線(しせん)()えて、014伊太彦(いたひこ)(つかさ)(とも)竜王(りうわう)岩窟(がんくつ)(たしか)這入(はい)つた(つも)りで()るのに、015何時(いつ)()にか、016かふ()(ところ)()てゐるのは不思議(ふしぎ)ぢやないか。017さうして(おれ)()つた(とき)はまだ(なつ)(をは)りぢやつたが018いつの()にかう(ふゆ)()たのだらう。019合点(がつてん)()かぬ(こと)だなア』
020ベース『ウン、021さうだなア、022(なん)とも合点(がつてん)()かぬ(こと)だ。023大方(おほかた)(ゆめ)()()たのだらう。024矢張(やつぱり)スダルマ(さん)山腹(さんぷく)樵夫(きこり)をやつて()(とき)に、025グツスリと(ねむ)つて仕舞(しま)ひ、026(その)(あひだ)(ふゆ)()たのかも()れないよ』
027カークス『それだと()つて028伊太彦(いたひこ)()綺麗(きれい)神司(かむつかさ)とテルの(さと)へいつて、029ルーブヤさまの(やかた)宿(とま)()結構(けつこう)()馳走(ちそう)(あづ)かり、030それから(ふね)()り、031スーラヤ(さん)死線(しせん)()えた(こと)(たしか)記憶(きおく)(のこ)つて()る。032大方(おほかた)(いま)(ゆめ)かも()れないよ。033(ゆめ)()(やつ)(わづ)五分(ごふん)六分(ろつぷん)かの(あひだ)(うま)れて()(まで)(こと)()るものだ、034(ゆめ)想念(さうねん)延長(えんちやう)だから、035かうして()るのが(ゆめ)かも()れない。036(なん)()つても(ゆめ)浮世(うきよ)()ふからなア』
037ベース『(なん)()つても此処(ここ)見馴(みなれ)ない(ところ)だ。038いつの()にスーラヤ(さん)から此処(ここ)()たのだらう。039さうして四辺(あたり)景色(けしき)(ふゆ)(けい)ぢや。040パインの老木(らうぼく)(あひだ)から(はり)のやうな枯松葉(かれまつば)()つて()る。041(さくら)()(ぱだか)になつて(ふる)つて()る。042()(かく)()(ところ)(まで)()かうよ。043(また)()(こと)があるかも()れないよ。
044ベース『(おも)ひきやスーラヤ(さん)岩窟(がんくつ)
045(すす)みし(われ)(かく)あらむとは。
046(ゆめ)ならば(いち)()(はや)()めよかし
047(こころ)(そら)(くも)()らして』
048カークス『大空(おほぞら)(みな)黒雲(くろくも)(つつ)まれて
049行手(ゆくて)()らぬ(われ)(かな)しき。
050ウラル(ひこ)(かみ)(みこと)(いまし)めに
051()ひて(まよ)ふか(われ)二人(ふたり)は』
052ベース『ウラル(ひこ)(かみ)(をしへ)三五(あななひ)
053(みち)御神(みかみ)(つく)らしし(のり)
054(われ)(いま)途方(とはう)()れて(ふゆ)()
055いとも(さび)しき(たび)()つかな。
056伊太彦(いたひこ)やブラヷーダ(ひめ)(いま)いづく
057アスマガルダの(かげ)さへ()えず』
058カークス『村肝(むらきも)(こころ)(やみ)(つつ)まれて
059(いま)八衢(やちまた)(まよ)ふなるらむ。
060天地(あめつち)(すめ)大神(おほかみ)(あは)れみて
061(われ)()二人(ふたり)行方(ゆくて)()らしませ。
062(つき)()(ほし)かげもなき(ふゆ)()
063彷徨(さまよ)(われ)()(こころ)(さび)しさ。
064如何(いか)にせば常世(とこよ)(はる)(はな)(にほ)
065(わが)故郷(ふるさと)(かへ)りゆくらむ』
066ベース『()(つき)西(にし)(かたむ)()(なか)
067(われ)(さび)しき荒野(あらの)(まよ)ふ。
068西(にし)きた(ひがし)()たか()らねども
069みなみ(つみ)(あきら)めゆかむ。
070西(にし)(ひがし)(みなみ)(きた)もわきまへぬ
071(いま)幼児(をさなご)となりにけるかな』
072カークス『エヽ仕方(しかた)がない。073(いぬ)(ある)けば(ぼう)(あた)るとやら()(こと)がある。074さア075これから膝栗毛(ひざくりげ)(つづ)くだけ(この)(みち)(すす)んで()よう』
076 (ここ)二人(ふたり)(こがらし)()(すさ)野路(のぢ)(さび)しみを()さむが(ため)出放題(ではうだい)(うた)(うた)つて077(あし)(まか)せトボトボと(すす)()(こと)となつた。
078カークス『あゝ(いぶ)かしや(いぶ)かしや
079(ここ)冥途(めいど)八衢(やちまた)
080(ただ)しは浮世(うきよ)真中(まんなか)
081四辺(あたり)景色(けしき)(なが)むれば
082山野(やまの)草木(くさき)(かれ)()てて
083(つゆ)もやどらぬ(さび)しさよ
084パインの木蔭(こかげ)()()つて
085(いき)(やす)めむと()(あふ)
086()れば枯葉(かれは)はバタバタと
087(はり)(ごと)くに(くだ)()
088(うす)(ころも)()(とほ)
089(さくら)(こずゑ)はブルブルと
090(つめた)(かぜ)(ふる)()
091合点(がてん)()かぬ(この)旅路(たびぢ)
092(ゆめ)(うつつ)(まぼろし)
093三五教(あななひけう)伊太彦(いたひこ)
094スダルマ(さん)間道(かんだう)
095(やうや)(わた)りてテルの(さと)
096ルーブヤ(やかた)()ちよりて
097天女(てんによ)のやうなブラヷーダ
098(ひめ)(みこと)にもてなされ
099それより(ふね)()(まか)
100一行(いつかう)()(にん)スーラヤの
101(やま)(しづ)まるウバナンダ
102ナーガラシャーの宝玉(はうぎよく)
103(かみ)(おん)(ため)()(ため)
104()()(うづ)聖場(せいぢやう)
105(たてまつ)らむと(おも)ひしは
106(ゆめ)でありしかこれは(また)
107合点(がてん)()かぬ(こと)(ばか)
108(ゆめ)(なか)なる貴人(あでびと)
109(いま)はいづくに(ましま)すか
110(たづ)ぬるよしも()(ばか)
111(しも)(つるぎ)(つゆ)(たま)
112(わが)()にひしひし(せま)()
113これぞ(まつた)(いま)(まで)
114(をか)せし(つみ)(むく)いにか
115(ただ)しは前世(ぜんせ)因縁(いんねん)
116()(おそ)ろしき今日(けふ)(そら)
117(すす)みかねたる膝栗毛(ひざくりげ)
118あて()もなしに彷徨(さまよ)ひて
119地獄(ぢごく)(さと)(すす)むのか
120(ただ)しは常世(とこよ)(はな)(にほ)
121天国(てんごく)浄土(じやうど)(のぼ)るのか
122(かみ)ならぬ()吾々(われわれ)
123如何(いか)詮術(せんすべ)()(なみだ)
124暗路(やみぢ)(まよ)(くる)しさよ
125あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
126(かみ)(ひかり)一時(ひととき)
127(はや)(わが)()()らせかし』
128ベース『(あさひ)()らず(つき)()
129(ほし)(かげ)さへ()えぬ(そら)
130亡者(まうじや)(ごと)吾々(われわれ)
131()なれぬ(みち)辿(たど)りつつ
132あてどもなしに(すす)()
133(わが)()(さき)天国(てんごく)
134(ただ)しは聖地(せいち)のエルサレム
135黄金山(わうごんざん)八衢(やちまた)
136(ふか)濃霧(のうむ)(つつ)まれて
137大海原(おほうなばら)()(ふね)
138あてども()らぬ心地(ここち)なり
139あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
140天地(てんち)(かみ)のましまさば
141二人(ふたり)(いま)()(うへ)
142(あはれ)みたまひて現界(げんかい)
143はた霊界(れいかい)天国(てんごく)
144(ただ)しは地獄(ぢごく)八衢(やちまた)
145いと(あきら)けく()らしませ
146(ひと)(かみ)()(かみ)(みや)
147なりとの(をしへ)()きつれど
148かくも(まよ)ひし(わが)(たま)
149常夜(とこよ)(やみ)(ごと)くなり
150月日(つきひ)(ひかり)左程(さほど)には
151(たふと)(きよ)(おも)はざりし
152(われ)()(いま)(やうや)くに
153いづの御光(みひかり)瑞御霊(みづみたま)
154(つき)(ひかり)(たふと)さを
155(まさ)しく(さと)(そめ)てけり
156あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
157(われ)()(つく)りし皇神(すめかみ)
158(いち)()(はや)(わが)(むね)
159(しこ)横雲(よこぐも)()(はら)
160完全(うまら)委曲(つばら)行方(ゆくへ)をば
161()らさせたまへ惟神(かむながら)
162(かみ)御前(みまへ)()ぎまつる』
163 ()(うた)ひつつ(やうや)くにして濁流(だくりう)(みなぎ)河辺(かはべ)()いた。
164カークス『オイ、165此処(ここ)には(あめ)()らぬのに大変(たいへん)濁流(だくりう)(なが)れて()るぢやないか。166()んな(おほ)きな(かは)(わた)らうものなら、167(それ)こそ(いのち)安売(やすうり)だ。168もう仕方(しかた)がない。169二十(にじつ)世紀(せいき)ぢやないが、170(なに)()()きつまりだ、171(あと)()きかへさうか』
172ベース『()きかへさうと(おも)つても、173何者(なにもの)(うしろ)から()して()るのだから仕方(しかた)()いぢやないか。174慢心(まんしん)(いた)すと(かみ)(ためし)()ふて(ゆき)(かへ)りもならないやうになる」と三五教(あななひけう)教典(けうてん)(しめ)されて()るが175矢張(やつぱ)吾々(われわれ)は、1751ソーシャリズムとか自由(じいう)平等(べうどう)主義(しゆぎ)だとか()つて(かみ)(さま)(かろ)んじて()結果(けつくわ)176こんな羽目(はめ)(おちい)つたのだ。177どうしても(これ)現界(げんかい)とは(おも)はれないな。178竜神(りうじん)岩窟(がんくつ)(いのち)()られ此処(ここ)()たのだ。179もう()うなれば覚悟(かくご)をするより仕方(しかた)()いぞ』
180カークス『さうだ。181どう(かんが)へて()ても現界(げんかい)のやうぢやない。182(まへ)()(とほ)り、183これから(こま)(かしら)()(なほ)し、184(よわ)くてはいけないから、185仮令(たとへ)地獄(ぢごく)()かうとも(おほ)いに馬力(ばりき)()してメートルをあげ、186地獄(ぢごく)(おに)脅迫(けふはく)し、187(した)()かせ、188共和国(きようわこく)でも建設(けんせつ)しようぢやないか。189()(かく)今日(こんにち)()(なか)(よわ)くては()てぬのだからなア』
190ベース『さうだと()つて、191吾々(われわれ)両人(りやうにん)小勢(こぜい)では地獄(ぢごく)征服(せいふく)する(わけ)にも()くまい。192閻魔(えんま)大王(たいわう)とか()ふやつが()193帖面(ちやうめん)()つて吾々(われわれ)罪状(ざいじやう)一々(いちいち)()()194焦熱(せうねつ)地獄(ぢごく)へでも(おと)さうと()つたらどうする。195どうせ天国(てんごく)()かれる(やう)(おこな)ひはして()()ないからなア』
196カークス『(なに)心配(しんぱい)するな地獄(ぢごく)()(ところ)(つよ)(もの)(がち)()(なか)だ。197(ちひ)さい悪人(あくにん)(きび)しい刑罰(けいばつ)()けるなり、198(だい)なる悪人(あくにん)地獄(ぢごく)王者(わうじや)となつて大勢(おほぜい)亡者(まうじや)(あご)使(つか)ひ、199愉快(ゆくわい)生活(せいくわつ)(おく)らうと(まま)だよ。200閻魔(えんま)などはあるものぢやない。201霊界(れいかい)現界(げんかい)(おな)(こと)だ。202現界(げんかい)状態(じやうたい)(かんが)へて()よ。203(した)にあつて(らん)すれば(けい)せられ、204(うへ)にあつて(らん)すれば衆人(しうじん)より尊敬(そんけい)せらるる矛盾(むじゆん)暗黒(あんこく)()(なか)だ 205吾々(われわれ)(よわ)くてはならない。206(これ)から(ふんどし)(しつか)りと()め、207捻鉢巻(ねぢはちまき)をして(ほそ)(うで)(より)をかけ、208(この)濁流(だくりう)(むか)ふに(わた)り、209地獄(ぢごく)征服(せいふく)()かけようぢやないか。210人間(にんげん)精霊(せいれい)()ふものは211所主(しよしゆ)(あい)によつて天国(てんごく)なり、2111(また)地獄(ぢごく)(せき)()いて()るのださうだから、212(なに)地獄(ぢごく)だつて(かま)ふものか、213自分(じぶん)本籍(ほんせき)(かへ)るやうなものだ。214片端(かたつぱし)から暴威(ばうゐ)(ふる)つて四辺(あたり)小団体(せうだんたい)征服(せいふく)し、215大同(だいどう)団結(だんけつ)(つく)り、216カークス、217ベース王国(わうごく)()てようぢやないか。218(なに)219地獄(ぢごく)(くらゐ)屁古垂(へこた)れてたまらうかい。220何程(なにほど)地獄(ぢごく)(つら)いと()つても現界(げんかい)(くらゐ)のものだ。221現界(げんかい)所謂(いはゆる)地獄(ぢごく)映象(えいしやう)だと()(こと)だから、222吾々(われわれ)経験(けいけん)がつんで()る。223現界(げんかい)では大黒主(おほくろぬし)()大将(たいしやう)()るから吾々(われわれ)(おも)ふやうには()かないが、224地獄(ぢごく)では勝手(かつて)だ。225この(うで)一本(いつぽん)あればどんな(こと)でも出来(でき)るよ』
226ベース『さうだなア。227どうやら地獄(ぢごく)八丁目(はつちやうめ)らしい。228()つたか()たかだ。229(この)濁流(だくりう)(よこ)ぎり、230(その)(いきほひ)地獄(ぢごく)侵入(しんにふ)し、231(ひと)脅喝(けふかつ)(てき)手段(しゆだん)(ろう)して粟散(ぞくさん)鬼王(きわう)(たひら)げ、232天晴(あつぱれ)地獄界(ぢごくかい)勇者(ゆうしや)となるも(めう)だ。233ヤア(いさ)ましくなつて()た。234(どく)(くら)へば(さら)(まで)だ。235どうせ吾々(われわれ)天国(てんごく)代物(しろもの)ぢやないからなア。236アハヽヽヽ』
237 (かく)両人(りやうにん)河端(かはばた)(たたず)泡沫(はうまつ)(ごと)(のぞ)みを(いだ)いて雄健(をたけ)びして()る。238(かたはら)()(しげ)つた(かや)(なか)藁小屋(わらごや)から239(くろ)(やせ)こけた(あや)しい(ばば)(やぶ)れた茣蓙(ござ)(かた)にかけ、240ガサリガサリと萱草(かやぐさ)(ゆす)りながら二人(ふたり)(まへ)()241(ひだり)()(えのき)(つゑ)(たづさ)へた(まま)
242(ばば)(たれ)(たれ)だ、243あた矢釜(やかま)しい。244そんな(おほ)きな(こゑ)(しやべ)()らすと、245(おれ)(みみ)(たこ)になるわい。246貴様(きさま)はどこの兵六玉(ひやうろくだま)だ。247一寸(ちよつと)こちらへ()い』
248カークス『ハヽヽヽヽ。249(なん)とまア(きたな)(ばば)もあつたものぢやないかい。250(もの)()ふも(けが)らはしいわい。251(なん)()つても天下(てんか)豪傑(がうけつ)兵六玉(ひやうろくだま)のカークス(わう)(さま)だからなア』
252(ばば)『ヘン、253(ひと)()(ところ)でそつと猫婆(ねこばば)()()み、254(よく)(こと)(ばか)(いた)し、255(なに)()(ひと)(まへ)にカークス(おやぢ)だらう。256一匹(いつぴき)(やつ)(なん)()兵六玉(ひやうろくだま)だい』
257ベース『(この)(はう)失敬(しつけい)ながら(つき)(くに)にて()(たか)きベース(さま)だよ』
258(ばば)成程(なるほど)259どいつも此奴(こいつ)人気(にんき)(わる)(つら)つきだなア。260ベースをカークスやうな(その)(あは)れつぽいスタイルは(なん)だ。261此処(ここ)三途(せうづ)(かは)渡船場(わたしば)だ。262サアこれから貴様(きさま)衣類(いるい)万端(ばんたん)(はぎ)()つてやらう。263覚悟(かくご)(いた)したがよいぞい。264(いま)(さき)265伊太彦(いたひこ)266ブラヷーダの若夫婦(わかふうふ)(うれ)しさうに()()いて此所(ここ)(とほ)りよつた。267さうして馬鹿面(ばかづら)をした、268(なん)でも兄貴(あにき)()えるが、269アスマガルダと()(やつ)270(いもうと)(いもうと)婿(むこ)(しもべ)となつて(とほ)りよつたぞや』
271カークス『(なに)272伊太彦(いたひこ)さまが此所(ここ)(とほ)られたと()ふのか。273(なん)立派(りつぱ)(たま)でも()つて()られただらうなア』
274(ばば)(たま)沢山(たくさん)()つて()つたよ。275粟粒(あはつぶ)のやうな()つぽけな肝玉(きもだま)やら276(ちぢ)こまつた睾丸(きんたま)やら277どん(ぐり)のやうな()(たま)やらをぶらさげて、278悄気(しよげ)かへつて此処(ここ)(とほ)りよつた。279真裸(まつぱだか)にしてやらうと(おも)つたが280貴様(きさま)()とは余程(よほど)御霊(みたま)がよいので、281(この)(ばば)()をかける(こと)出来(でき)ず、282(この)(かや)(なか)(かく)れてそつと()()つたら、283綺麗(きれい)なナイスに()()かれ、284あの(かは)真中(まんなか)(とほ)りよつた。285大方(おほかた)天国(てんごく)()くのだらう。286(しか)(なが)貴様(きさま)(たち)(この)(ばば)()()て、287三途(せうづ)(かは)(わた)らずに一途(いちづ)(かは)(わた)り、288直様(すぐさま)地獄(ぢごく)()(おと)される代物(しろもの)だ。289ても()ても(あは)れなものぢやわいのう、290オンオンオン』
291ベース『ヤア此奴(こいつ)ア、292グヅグヅしては()られない。293(この)(ばば)()()かして()いて(この)(かは)(わた)り、294(ひと)地獄(ぢごく)征服(せいふく)()かけようか、295カークス(きた)れ』
296(はや)くも(しり)()(まく)り、297濁流(だくりう)目蒐(めが)けて(わた)らうとする。298(ばば)(ほそ)()せこけた()()して、299ベースの胸座(むなぐら)()り、300()()()する。
301ベース『これや(ばば)302どうするのだい。303失敬(しつけい)な、304(ひと)胸座(むなぐら)()りやがつて』
305(ばば)()らいでかい()らいでかい、306貴様(きさま)肝玉(きもだま)()()いてやるのだ。307こら其処(そこ)兵六玉(ひやうろくだま)308貴様(きさま)同様(どうやう)だから()つて()れ。309この(ばば)此所(ここ)荒料理(あられうり)をして310(ほね)(にく)()(やき)にして()つてやるのだ。311大分(だいぶん)(はら)()つた(ところ)へよい(ゑさ)()たものだ』
312 カークスは(うしろ)より(ばば)(あし)をグツと(つか)(ちから)(かぎ)()けども()せども、313()から()えた(いは)のやうにビクとも(うご)かない。
314カークス『ヤア(なん)(こし)(つよ)い、315強太(しぶと)(ばば)だな』
316(ばば)(きま)つた(こと)だよ。317(おれ)()(そこ)から()えたお(いは)()幽霊婆(いうれいばば)だ。318兵六玉(ひやうろくだま)十匹(じつぴき)二十匹(にじつぴき)()かつて()(ところ)319ビクとも(うご)くものかい』
320ベース『こら()アさま、321(はな)さぬかい。322(おれ)(いき)()れるぢやないか』
323(ばば)()まつた(こと)だい。324(いき)()れるやうに(つか)んで()るのだ。325(いき)()らして軍鶏(しやも)(たた)くやうに(たた)きつぶし、326(すな)にまぶし、327肉団子(にくだんご)をこしらへて()つて仕舞(しま)ふのだ。328こうなつたら貴様(きさま)(たち)ももう娑婆(しやば)年貢(ねんぐ)(をさ)(どき)だ。329(いさぎよ)覚悟(かくご)をして()るがよい』
330 二人(ふたり)進退(しんたい)(きは)まり、331如何(いかが)はせむかと(あん)(わづら)折柄(をりから)332(はる)(うしろ)(はう)から、333宣伝歌(せんでんか)(きこ)えて()た。334ハツと(おも)途端(とたん)335(いま)(まで)(ばば)()えたのは(かは)(かたはら)巨巌(きよがん)であつた。336(かは)()えたのは(はて)しも()られぬ薄原(すすきばら)で、337(その)(すすき)()(かぜ)()られて(みづ)()えて()つたのであつた。
338大正一二・五・二四 旧四・九 於教主殿 加藤明子録)
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