第一三章 樹下の囁き〔二〇一七〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻
篇:第2篇 秋夜の月
よみ(新仮名遣い):しゅうやのつき
章:第13章 樹下の囁き
よみ(新仮名遣い):じゅかのささやき
通し章番号:2017
口述日:1934(昭和9)年07月28日(旧06月17日)
口述場所:関東別院南風閣
筆録者:白石恵子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年12月5日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:よみがえった5人一行は、火炎山の麓の樹の陰に息を休ませながら、これまでの述懐を歌に歌った。
秋男は、一同の勇気を鼓舞し、松、竹を先頭に、壁の切り立ったうねうねとした坂道を一足刻みに上っていった。
秋男一行は歌いながら進んでいくが、一向に火炎の山が近づいてこないことに気づき、悪魔の仕業ではないかと秋男は天之数歌を歌い始めた。
すると、こもり樹のこずえの方から、笑い婆が秋男たちを罵り笑う声が聞こえてきた。秋男は婆に歌い返すが、今度は譏り婆の声が秋男たちを脅し、身の毛もよだつ恐ろしい声で降伏の勧告をしてきた。
一行五人はここぞと一生懸命に天之数歌を奏上していた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm8013
愛善世界社版:
八幡書店版:第14輯 358頁
修補版:
校定版:251頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 蘇りたる五人の一行は、002火炎山の麓の籠り樹の蔭に息を休ませながら、003辺りの風光を見やりつつ、004朝明けの空に秋男は歌ふ。
005『秋の日の旅を重ねて今此処に
006あしたの露の光れるを見つ。
008わが魂の雄猛びやまずも。
009うるはしき朝の眺めに吾魂は
011鬼婆の醜のたくみも何かあらむ
012昇る朝日に消え失せぬれば。
013曲津見は光を恐れ闇の夜を
015赫々と輝き給ふ朝津日の
016光に亡びぬ水奔鬼の群。
017木々の梢露を浴びつつ瑠璃光の
018光保てり朝日のかげに。
019黒雲を起してわれを艱めてし
021髪の毛もよだつばかりの嫌らしさ
022譏り声出す醜の鬼婆。
023心地よき秋のあしたの山風を
024浴みつつ楽し曲津の棲処も。
025さやさやに千花百花吹きて行く
026風の音清くわが魂栄ゆる。
027白萩の所せきまで咲き匂ふ
028此山もとに不思議や鬼棲む。
029澄みきらふ空の色かも山肌の
030草木の色は青みだちたり。
031攻め来る醜の曲津を悉く
032生言霊に言向け和さむ。
033大空に黒雲起し荒びたる
035高くとも登り了せむ山の上の
036火種をとりて国土を定めむ。
037血の川の側に立ちたる夢を見て
038鬼のたくみの深きを悟りぬ。
039月も日も御空に清く照り渡る
040今朝の休らひ清しきろかも。
041照り渡る天津日のかげ浴びながら
043鳥の声清しくなりて山の袖
044吹く秋風は涼しかりけり。
045何事も神の御旨に従ひて
046登らむ山に曲津のあるべき。
047西を吹く風にあふられ山袖の
048尾花は地に靡き伏したり。
049奴婆玉の闇に伊猛る鬼婆を
050生言霊の剣に放らむ』
052『野に山に咲く白萩の花見れば
053鬼の心か風にみだるる。
054優しかる姿ながらも白萩の
055花の乱れを見るは憂れたし。
056吹く風にもろく散りゆく白萩の
057花にも似たる譏り婆かも。
058秋山の草木はいづれも紅葉して
059北吹く風に打ちふるふなり。
060果敢なきは風に散り行く病葉の
061すがたに似たる鬼婆なるかも。
062穂薄は何を招くか力弱く
063秋吹く風に倒されにつつ』
065『鬼婆の館に会ひし五人乙女の
066行方はいづこ聞かまほしけれ。
067精霊の身にしあれどもわが旅路
068守ると言ひし事は忘れじ。
069火炎山焔は天に冲すれど
070此山裾は秋風そよぐ。
071時々は唸りをたてて焼石を
072四方に降らせる火炎の山かな。
073火の種の手に入るまでは此山を
074われ等五人は離れじと思ふ。
075此山の頂雲に包まれぬ
076悪獣毒蛇の集ひ居るにや』
078『女郎花風にゆらげるさま見れば
079貴の乙女のよそほひ思ふ。
080萩桔梗紫匂ふ山裾に
081朝日をあびて憩ふ楽しさ。
082来てみれば火炎の山の頂は
083いよいよ遥けくいよいよ高し。
084もろもろの曲神集ふ此山は
085心して行け言霊宣りつつ』
087『鬼婆の縄張といふこの山は
088怪しき事のみ次々起るも。
089さはあれど誠心に進みなば
090如何なる艱みも安くのぼらむ。
091火炎山火種の一つ持つならば
092此国原は安けかるべし。
093はろばろと水上の山を立ち出でて
094今日は魔神の軍に向ふも。
095笑ひ婆と譏り婆アのその上に
096瘧婆アの夢を見しかな。
097婆といふ名を聞くさへも忌はしく
100『大丈夫の弥猛心を引き立てて
101いざや登らむ火炎の山頂』
102と歌ひながら、103松、104竹を先頭に、105梅、106桜を殿とし、107壁立つ羊腸の坂道を、108一歩々々刻みつつ登り行く。
112悪魔の猛びは強くとも
113如何で恐れむ大丈夫の
114固き心を発揮して
115此急坂を登るなり
116尾花は靡き百花は
117わが行く足の右左
118清く匂ひて虫の音も
121天地開けし始めより
123魍魎毒蛇は潜むとも
125斬り放らひつ葭原の
126神国の基礎を固むべく
127山の尾の上の火口まで
129進めよ進め、いざ進め
130天津御空はいや高し
131地上を伏して眺むれば
132黄金の野辺は天津日の
134目路の限りを光るなり
136いつかは登らむ火炎山
138火種を一つ戴きて
139世人を普く救ふべし
142天津神たち国津神
143百の神たち聞し召せ
147と歌ひながら秋男は急坂をものともせず、148雄々しく登り行く。
150『登り行けば頂ますます遠く見えて
151心もとなき火炎の山かも。
152不思議なる山にもあるか行けど行けど
153はてしも知らぬ高き峰なり。
154悪神の妨げなせるか吾足は
156兎も角も此処に息をば休めつつ
157登り行かむか秋男若君』
158と言ひつつ、159地上より一尺ばかり頭を突き出し覗ける岩にどつかと腰を掛け、160ハアハアと息をはづませ居る。161一行はこれに倣ひて、162萱草の上にどつかと腰を下し、163荒き鼻息を止めむとして居る。
165『行けど行けど果しも知らぬ此山は
166不思議なるかな追々遠のく。
167魔の山か地獄の山か知らねども
168次第に遠のくいぶかしの山。
169曲神のまたもや罠にかかりしか
170心もとなきこの山登り』
172『若君の仰せ宜なり此山は
173譏り婆アの棲処なりせば。
174怪しきは此山登りいつまでも
175同じ所を行きつ戻りつ。
176まなかひは眩みたるらし村肝の
177心焦てど道捗らず』
179『わが眼こすりこすりてよく見れば
180わが身の位置は少しも変らず。
181籠り樹のかげに佇み足ばかり
182われらは動かし居たりけむかも』
184『如何にしてわれ登らむと思へども
185曲津の猛びの妨げ強し。
186皇神のわれにたまひし数歌を
187うたひうたひて登りたく思ふ。
188数歌にうたれて逃げし鬼婆よ
189これに勝りし武器はあらじな』
191『さもあらむ吾はこれより言霊の
192天の数歌うたひ登らむ。
193一二三四五六七八九十百千万
194八千万の神守らせ給へ。
195言霊の厳の力に助けられ
196登り了せむ山の頂』
197 斯く歌ふ折しも、198籠り樹の梢の方より、
202 うつけ者、203思ひ知りたか、204吾こそは忍ケ丘に年古く棲みし水奔鬼の司、205笑ひ婆アぞや、206よくものめのめと吾棲処へ迷うてうせたな。207もう斯くなればこつちのもの、208てもさてもいぢらしいものだワイ。
210 厳めしい姿致して、211偉さうに鬼を征服するなどとは、212をこがましや、213あた阿呆らしや、214とても叶はずきつぱりと降参致すか、215首でも吊つて往生するか、216返答如何に。
218かねてわがたくみ置きたる計略の
219罠にかかりし愚者かな。
220さてもさても憐れな者よ此餓鬼は
221火炎の山の露と消ゆべし。
222玉の緒の生命と霊魂の生命をば
223共に砕きて苦しめ悩めむ。
224今日の如く心地よき日はなかるべし
225冬男の餓鬼の恨み晴らせば』
227『どこまでもわれに仇なす曲津見を
228征討めでやむべき大丈夫われは。
229かくならば一歩も退かじ巌ケ根の
230神の司の御子にしあれば。
231祖先の恥と思へば一歩も
232曲津の棲処は退かざらむ。
233曲神の司と言へる笑ひ婆
234譏り婆アを征討めて止まむ』
235 樹上より怪しき声再び聞えて、
237 此方は月見ケ丘にて、238其方たちを悩めし水奔鬼の司、239笑ひ婆アが妹の善事曲事一切を譏り婆アの曲鬼様だ。240しつかりと耳を浚へて聞け。
241 もうかうなる上は遁しはせぬ、242覚悟極めて婆アが軍門に降れ。243いづれ保てぬ此世の生命、244綺麗さつぱり此方に奉り、245わが幕下となつて忠実に悪を働け。246それに背くとあれば止むを得ず、247汝が身体霊魂を捻り潰し、248踏み砕き、249無限の憂目を見せて呉れむ、250ワツハハハハハ、251ワツハハハハハ』
252と砕ける如き婆アの声の嫌らしさ、253身体一面に粟を生ずるばかりなりける。
254 秋男は不審の念晴れやらず、255ふと大空を仰げば、256今まで煌々たる天津日の光は跡形もなく、257満天黒雲塞がり、258陰鬱の気四方を鎖し、259次々怪しき物音高まり来る。
260 一行五人はここぞ一生懸命と、261力限りに天の数歌を奏上しつつありける。
262曲神のまたもや罠に陥りて
263あはれ五人は闇に包まる。
264悪神の計略は深し七重八重
265黒雲の幕包みて攻め来る。
266急坂を登る心地し樹のかげの
267同じ所にうろつき居たりし。
268(昭和九・七・二八 旧六・一七 於関東別院南風閣 白石恵子謹録)