葭原国を東西に画する中央山脈の最高峰が、高光山であった。常に紫の瑞雲がたなびく霊地であった。この地点を青木が原といい、八百万の神が集まって政に仕えていた。
御樋代神の朝霧比女の神は、神苑を逍遥しながら国土を統べる神業に心を悩ませていた。朝霧比女の神は、子心比女の神が竜彦をあやしながら養育している様を見て、肌身離さず育んで良く育て、国の司となるように、と言葉を掛けた。
子心比女の神は朝霧比女の神の気遣いに感謝し、また火炎山の視察に出た朝空男、国生男の神がどうなったかを尋ねた。すると、ちょうど空に天の鳥船の影が見えてきた。
朝空男の神、国生男の神の無事帰着に、高光山の神々は喜びの声を上げた。朝霧比女の神が二神の労をねぎらう歌を歌った。
朝空男の神は火炎山の爆発を報告し、国生男の神は、水上山の国津神たちの国土開拓の進捗を報告した。二神は、火炎山の曲津神を焼き滅ぼす力を持った火種が失われてしまったことを懸念し、今後の方策を朝霧比女の神に諮った。
朝霧比女の神も今後は御火をどうやって得たらよいかを心配したが、まずは大御照の神が、百日の禊を終えて帰ってくるのを待つようにと歌った。
折りしも禊を終えて帰ってきた大御照の神が、青木ケ原の聖場に来着した。そして、万里の海を越えてやってくる朝香比女の神が、御火をもたらすであろう、と言葉を賜ったことを明かし、松浦の港に朝香比女の神を出迎えに行くよう進言した。
朝霧比女の神は斎戒沐浴し、青木ケ原の神前に自ら斎主となり、天の鳥船での出迎えに当たって空中安全の祈願をなした。祭典の無事終了をもって、朝空男の神、国生男の神、大御照の神の三柱神たちは、鳥船に乗り込んで松浦の港へ、朝香比女の神一行を出迎えに出発した。