火の湖の中央に浮かんでいる小島を、秋男島といった。水奔鬼の鬼婆たちは、この島を住処にしようと企んでいたが、秋男たちの精霊がこの島の司となっており、悪魔たちを防ごうと言霊戦を行っていた。
笑い婆は悪魔を引き連れて、濁った言霊で秋男たちを攻め立てていた。譏り婆はさらに水奔鬼たちを使っていっせいに耳を聾するばかりの怪音で島を包んで攻撃してきた。
そこへ天の鳥船が空に現れ、秋男島の砂地に悠々と舞い降りた。そして、朝空男の神、国生男の神を始めとし、精霊となった冬男一行が現れた。また、水上山から弟たちの消息を尋ねてきた春男、夏男、執政の水音、瀬音とその従者たちも、鳥船から降りて来た。
秋男はこの様を見て歓喜し、天津神の前に出て感謝の路を述べ、また弟の精霊や兄たちに面会できたうれしさに、踊り歌った。
朝空男の神、国生男の神は、秋男たち秋男島を守ってきた精霊たちを安堵させる歌を歌った。冬男は兄の精霊との再会を喜び、水音、瀬音は若君たちの精霊に会うことができた喜びを歌った。春男、夏男も、弟たちが命を落としたことを知って悲しんだが、精霊として存在していることに心を慰めた。
秋男は一同に感謝の歌を述べた。
二柱の天津神は秋男島の頂上に登り、天の数歌を奏上すると、水奔鬼の鬼婆たちは満身に傷を負って湖上を逃げ去り、終に力尽きて熱湯の湖水に陥って全滅した。
春男・夏男の一行は一人も命を落とすことなく無事に水上山に復命した。そして、二人の弟の身の成り行きなどをつぶさに神前に報告した。巌ケ根は三男、四男が命を落としたことを知って落胆したが、神恩の深いことを感謝し、朝夕神前に祝詞を上げる日を送ることになった。
秋男たち精霊一行は、秋男島に鎮まり、湖中の神として往来の船や漁夫たちを永遠に守ることとなった。また冬男は忍ケ丘に熊公、虎公、山、川、海の精霊たちと共に永遠に鎮まり、霊界から葭原国の栄を守り、悪魔を滅ぼす神として、国人から尊敬を集めることとなった。