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第八章 (ふくろ)宵企(よひだくみ)〔一〇二〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻 篇:第2篇 青垣山内 よみ(新仮名遣い):あおがきやまうち
章:第8章 梟の宵企 よみ(新仮名遣い):ふくろのよいだくみ 通し章番号:1020
口述日:1922(大正11)年10月09日(旧08月19日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年3月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
自宅へ帰って寝ていると、誰かが自分を揺り動かした。にわかに自分の身体は機械のように自動的に立ち上がり、自然に歩き出した。産土の社のそばの殿山という小さい丘の山に導かれた。
臍の下から円い塊がゴロゴロと音をさせて喉の近辺まで上がってきた。大霜天狗、と口を切って怒鳴りたてた。大霜は、金を掘らせてやるから道具を用意して奥山に行け、と命じた。
自分はやむを得ず険しい道を道具を持って奥山へと進んできた。大霜天狗に命じられた場所でつるはしを握ると、手が勝手に動き出して地面を掘り始めた。
大霜天狗が休憩しているときに、こんな場所から金が出てくるはずがないと思っていると、大霜は自分の疑いを非難した。そして神様の道に入った自分は金など要らないといっても、無理やりつるはしを振らされて地面を掘らされた。
結局、金は出ないまま岩盤に突き当たり、つるはしの先も坊主になってしまった。自分が大霜を責めると、大霜はお前の心を試したのだ、といって消えてしまった。
仕方がないので道具を持って山道を戻ってくると、途中で元市と宇一が待ち構えていた。結局、家に戻って本当に金が掘り出せなかったことが判明し、元市親子の信用を失って修行場を断られてしまった。
多田琴は中村へ帰って、四五人と共にさかんに鎮魂や帰神の修行をやっていた。自分は自宅で自修をすることになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-10-19 14:35:06 OBC :rm3708
愛善世界社版:103頁 八幡書店版:第7輯 68頁 修補版: 校定版:108頁 普及版:49頁 初版: ページ備考:
001 (ひさ)()りで自宅(じたく)(かへ)り、002(こころ)もユツタリと(よひ)(くち)から(ねむ)つて()た。003(にはか)に『オイオイ』と自分(じぶん)(からだ)()(おこ)すものがある。004吃驚(びつくり)して()()まして()れば(たれ)()ない。005(ただ)老母(らうぼ)(はは)(いもうと)が、006()(よひ)(くち)とて(ねむ)りもせず、007行灯(あんど)(そば)小説本(せうせつぼん)()たり、008()(ひろ)げて()たりして()るのみであつた。009(にはか)自分(じぶん)(からだ)器械(きかい)(ごと)自動(じどう)(てき)()(あが)り、010自然(しぜん)(あゆ)()した。011(れい)憑依(ひようい)された肉体(にくたい)自分(じぶん)意思(いし)では如何(いかん)ともする(こと)出来(でき)ぬ。
012 (からだ)(うご)くままに(まか)して()ると、013何時(いつ)()にか産土(うぶすな)(やしろ)(そば)殿山(とのやま)()ふ、014(ちひ)さい(をか)(やま)(みちび)かれて()る。015(へそ)(した)あたりから、016(まる)(かたまり)がゴロゴロと(おと)をさして、017(のど)近辺(きんぺん)まで()(あが)つて()たと(おも)刹那(せつな)
018大霜(おほしも)天狗(てんぐ)……』
019呶鳴(どな)()てた。020自分(じぶん)は、
021喜楽(きらく)『モシ大霜(おほしも)さま、022(かか)つて(くだ)さるのは結構(けつこう)(ござ)いますが、023さう(くる)しめられては(たま)りませぬ。024もつと(らく)(かか)つて(くだ)さいませ』
025大霜(おほしも)(らく)(かか)つてやり()いのは(かみ)(おな)(こと)だ。026(かみ)だつて(くる)しいのだ。027(その)(はう)はまだ疑心(うたがひごころ)がとれぬから、028それで(くる)しまねばならぬ。029(はや)改心(かいしん)(いた)して、030(かみ)(さま)御用(ごよう)にたたねばなるまいぞ。031高熊山(たかくまやま)修業(しうげふ)(こと)(おぼ)えて()るか』
032喜楽(きらく)『あんまり(くる)しうて、033(いま)(ところ)では全然(すつくり)(わす)れて(しま)ひました。034(なん)だか(あたま)がボーツとして、035(わか)らぬ(やう)になつて()ました。036(また)ボツボツと(おも)()すだらうと(おも)ふて()ます』
037大霜(おほしも)『これから元市(もといち)(まを)した(かね)所在(ありか)を、038(その)(はう)()らすによつて、039鶴嘴(つるばし)鋤鏈(じよれん)用意(ようい)し、040(ふご)一荷(いつか)もつて奥山(おくやま)現・亀岡市東別院町大野奥山のことか?()け。041そこになつたら(また)(この)(はう)()らしてやるから……』
042喜楽(きらく)奥山(おくやま)(やう)(ところ)一人(ひとり)()くのは(こま)ります。043宇一(ういち)でも()れて()きませうか』
044大霜(おほしも)馬鹿(ばか)をいふな。045あんな(よく)どしい(やつ)()れて()かうものなら、046(かみ)(さま)御用(ごよう)どころか、047みんな自分(じぶん)所有(もの)にして(しま)ふ。048(その)(はう)一人(ひとり)049(かみ)がついて()るから(はや)(かへ)つて用意(ようい)をせい。050(まへ)もやつぱり(かね)()るだらう』
051喜楽(きらく)(わたし)はもう(かみ)(さま)のお(みち)這入(はい)つたのですから、052(かね)欲望(よくばう)はありませぬ。053(かね)(こと)()いてもゾツと(いた)します』
054大霜(おほしも)馬鹿(ばか)()ふな。055(この)時節(じせつ)(かね)がなくて(かみ)(みち)(ひろ)まるか。056(いへ)(ひと)()てるにも(かね)()るぢやないか、057布教(ふけう)(ある)いても旅費(りよひ)()る。058(また)肉体(にくたい)()はねばならず、059着物(きもの)()なくてはならぬぢやないか。060(かね)(はな)れて如何(どう)して(かみ)のお(みち)(ひろ)まるか』
061喜楽(きらく)『それもさうです。062(しか)(おも)たいものを沢山(たくさん)()つて(かへ)ると()(こと)は、063(くら)がりの山道(やまみち)064(こま)るぢやありませぬか』
065大霜(おほしも)(おれ)天狗(てんぐ)正体(しやうたい)(あら)はして、066(おも)たければ(おれ)(かつ)いで(かへ)つてやる』
067自分(じぶん)(くち)から()つたり、068(こた)へたり、069自問(じもん)自答(じたふ)をする(こと)(やや)(しば)らくであつた。
070 ()()くと、071矢張(やはり)(かね)()ければならぬ(やう)心持(こころもち)になり、072宇一(ういち)()(うち)掘出(ほりだ)して()うと(おも)ひ、073(つち)(はこ)びの(ちひ)さい(ふご)(たづさ)へ、074(むく)(つゑ)075鶴嘴(つるばし)鋤鏈(じよれん)076(ふご)小判(こばん)一杯(いつぱい)(にな)うて(かへ)(やう)心持(こころもち)で、077宮垣内(みやがいち)伏屋(ふせや)をソツと()()し、078前条(まへんでう)から愛宕山(あたごさん)(ろく)079(うば)(ふところ)080虎池(とらいけ)081新池(しんいけ)082芝ケ原(しばがはら)083砂止(すなどめ)段々(だんだん)(すす)んで、084高熊山(たかくまやま)修業場(しうげふば)右手(めて)(なが)め、085猪熊峠(いのくまたうげ)をドンドン(のぼ)り、086危険(きけん)(きは)まる()(こし)()(さか)(のぼ)り、087算盤岩(そろばんいは)(わた)り、088(ふたた)(うま)()(けん)()て、089奥山(おくやま)玉子(たまこ)(はら)()谷間(たにま)(すす)んで()つた。
090 そつと空畚(からふご)(おろ)し、091(やま)腰掛(こしか)(いき)(やす)め、092天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)(はじ)めた。093(なん)だか()らぬが其辺(そこら)ぢうが真黒気(まつくろけ)になつて()た。094(たに)(した)(はう)から灰色(はひいろ)(くも)(やう)なものが、095チクチクと此方(こつち)(むか)ふて押寄(おしよ)せて()(やう)気分(きぶん)がして、096何時(いつ)()にか()(あし)(ふる)ふて()る。097(なん)とも()へぬ(さび)しい(やう)(なさけ)ない(やう)気分(きぶん)になり、098仮令(たとへ)一億(いちおく)(ゑん)(かね)があつても()()くもなし、099()しくもない。100それよりも(はや)く、101自分(じぶん)(たく)(かへ)()いと()(よわ)気分(きぶん)(おそ)ふて()た。102(さいは)ひに(ひがし)(そら)から、103(はる)朧月(おぼろづき)(やせ)(かほ)して(のぼ)つて()た。104(こころ)(せい)か、105其辺(そこら)あたりに(なん)とも()へぬ(さび)しい、106(ひと)とも(むし)とも(けだもの)とも見当(けんたう)のつかぬ(やう)な、107(かな)しい(いや)らしい(こゑ)(きこ)えて()る。108(へそ)(した)から(また)もや(みつ)つの(かたまり)がグレグレグレと(うご)()し、109咽喉元(のどもと)()(あが)る。110(また)神懸(かむがか)りだなと(おも)ふて()ると、
111大霜天狗(おれ)大霜(おほしも)だ、112サア(この)(した)小判(こばん)がいけてある。113此処(ここ)()れ、114鶴嘴(とんが)()て!』
115呶鳴(どな)()した。116喜楽(きらく)(めい)のまにまに鶴嘴(つるばし)()(にぎ)ると、117(りやう)()鶴嘴(つるばし)()()ひついた(やう)(はな)れず、118器械(きかい)(てき)鶴嘴(つるばし)は、119カチンカチンと(うご)()した。120何程(なにほど)(からだ)がえらいから一休(ひとやす)みしようと(おも)ふても、121鶴嘴(つるばし)()()()いて(はな)れず、122勝手(かつて)鶴嘴(つるばし)(かた)(つち)をコツンコツンとこつき()す。123(ほとん)()時間(じかん)ばかり(つち)をこついては鋤鏈(じよれん)でかき()けさせられ、124(また)鶴嘴(つるばし)(つち)をつつきては鋤鏈(じよれん)()()け、125(また)鶴嘴(つるばし)(つち)()()(しやく)ばかりの(ふか)さに(よん)(しやく)四方(しはう)(ほど)()らされて(しま)ふた。126(はら)(なか)から、
127大霜(おほしも)大分(だいぶん)(まへ)草臥(くたぶ)れただらう。128(かみ)余程(よほど)(つか)れたから一寸(ちよつと)一服(いつぷく)(いた)す』
129()ふと(とも)に、130引着(ひつつ)いて()鋤鏈(じよれん)()から(はな)れた。131(ほとん)(じつ)分間(ぷんかん)ばかり(こし)()ちかけ()つた(あな)(なが)め、
132(喜楽)『こんな(ところ)何時迄(いつまで)()つた(ところ)(なに)()てくるもんか』
133(こころ)(おも)はれて仕方(しかた)がなかつた。134(はら)(なか)から、
135大霜(おほしも)『オイ、136喜楽(きらく)137貴様(きさま)はまだ(うたが)ふて()るな。138此処(ここ)(かね)()いと(おも)ふか、139(かみ)があると(まを)したら(たしか)にある。140もう一息(ひといき)辛抱(しんばう)だ。141さうならば貴様(きさま)(うたがひ)もとけるだらう。142金光(きんくわう)燦然(さんぜん)として()(まばゆ)きばかりの、143大判(おほばん)小判(こばん)無尽蔵(むじんざう)(あら)はれて()るぞ。144貴様(きさま)はまだ銀貨(ぎんくわ)銅貨(どうくわ)()()るが、145(きん)()(こと)はあるまい。146ビツクリ(いた)さぬ(やう)に、147(さき)()をつけておく。148シツカリ腹帯(はらおび)をしめてかかるんだぞ。149(いや)さうにすると(かみ)懲戒(みせしめ)(いた)すぞよ。150(また)(のど)をつめようか』
151喜楽(きらく)『いやとも(なん)とも()つてるのぢやありませぬ。152(かみ)(さま)()(とほ)りしとるぢやありませぬか』
153大霜(おほしも)随分(ずいぶん)(たの)しみぢやらうなア。154何程(なにほど)貴様(きさま)(かね)()らぬとヘラズ(ぐち)(たた)いても、155(その)(きん)(かく)してあると(おも)へば、156やつぱり(こころ)がいそいそするだらう。157(この)(かね)がありさへすれば、158(この)()(なか)苦労(くらう)()らず結構(けつこう)(わた)られるのだ。159貴様(きさま)余程(よほど)果報者(くわほうもの)だ。160サア(はや)鶴嘴(つるばし)()て!』
161()ふかと()れば、162自分(じぶん)(からだ)器械(きかい)(てき)にポイと()(あが)り、163矢庭(やには)鶴嘴(つるばし)(にぎ)り、164カチンカチンと大地(だいち)をつつき()した。165()つても()つても天然(てんねん)(いは)ばかり()(しやく)ほど(した)(なら)んでゐる。166(また)(いち)時間(じかん)(ほど)()らされたが、167今度(こんど)一寸(ちよつと)()れない。168鶴嘴(つるばし)(さき)坊主(ばうず)になつて(しま)ひ、169一寸(ちよつと)()かなくなつて(しま)つた。
170喜楽(きらく)『こんな(いは)ばかり、171何時迄(いつまで)こついて()つても駄目(だめ)でせう。172(たれ)かが()けたのなら岩蓋(いはぶた)()なければならぬ。173此奴(こいつ)天然(てんねん)(いは)(ちが)ひありませぬ。174チツと(ところ)間違(まちが)ふて()るのぢやありませぬか、175もう(よく)にも(とく)にも(この)(うへ)(はたら)(こと)出来(でき)ませぬわ』
176大霜(おほしも)『アハヽヽヽ、177腰抜(こしぬ)けだな。178そんな(よわ)(こと)如何(どう)して(かみ)(さま)御用(ごよう)出来(でき)るか。179地球(ちきう)中心(ちうしん)(まで)()()(だけ)決心(けつしん)がなければ、180三間(さんげん)五間(ごけん)()つては小判(こばん)(ところ)へは(とど)かぬぞ』
181喜楽(きらく)天狗(てんぐ)サン、182(まへ)サン(わし)(だま)したのだなア。183あんまり殺生(せつしやう)ぢやありませぬか。184(かね)()しがつて()元市(もといち)には()らさずに、185(かね)なんか()らぬと()つて()(わたし)を、186()んな(ところ)()れて()(だま)すとはあんまりです。187サアもう(わたし)肉体(にくたい)には()きませぬ。188(はや)()(くだ)さい』
189大霜(おほしも)何程(なにほど)()えと()つても、190(まへ)生命(いのち)のある(かぎ)()(こと)はならぬわい。191本当(ほんたう)(うそ)だ、192(まへ)(こころ)をためしたのだ。193こんな(ところ)(かね)があつて(たま)るかい。194アハヽヽヽ』
195喜楽(きらく)『こりや、196(たぬき)! (ひと)(からだ)這入(はい)りやがつて、197馬鹿(ばか)さらす(ほど)がある。198もう(なん)()ふても(おれ)(からだ)にはおいてやらぬぞ』
199大霜(おほしも)貴様(きさま)はまだ(かね)()しいのか』
200喜楽(きらく)(おれ)一寸(ちよつと)()しくないわい。201天狗(てんぐ)(やつ)()しいものだから(おれ)使(つか)ひやがつて、202あてが(はづ)れたのだらう。203あんまり馬鹿(ばか)にすな、204サア()にくされ』
205(はら)から(むね)(にぎ)(こぶし)(ちから)一杯(いつぱい)(たた)いて()た。206それきり(はら)(なか)(かたまり)()(あが)つて()ず、207(ぶつ)(ほふ)とも()はなくなつた。208()うなると(にはか)(さび)しくなつて(たま)らない。209折角(せつかく)此処迄(ここまで)()て、210空畚(からふご)(かつ)いで(かへ)るのも(ざま)(わる)いと、211月夜(つきよ)(こと)(つゆ)をおびて(ひか)つて()紫躑躅(むらさきつつじ)赤躑躅(あかつつじ)を、212ポキポキ()つて一荷(いつか)(はな)()(こしら)へ、213そこへ鶴嘴(つるばし)鋤鏈(じよれん)(かく)し、214朧月夜(おぼろづきよ)ぼやいたり、215びくついたりし(なが)ら、216(やうや)くにして砂止(すなどめ)(まで)(かへ)つて()た。
217 其処(そこ)にはハツキリ(わか)らぬが(ふた)つの(くろ)(かげ)(こし)をかけて、218煙管(きせる)煙草(たばこ)をスパスパやつて()る。219喜楽(きらく)(こころ)(うち)で、
220(喜楽)『ハテナ、221今頃(いまごろ)にあんな(ところ)(をとこ)煙草(たばこ)()ふて()やがる。222ヒヨツとしたら泥坊(どろばう)かも()れぬぞ。223もし泥坊(どろばう)だつたら、224折角(せつかく)()()した小判(こばん)(みな)()られて(しま)ひ、225生命(いのち)まで()られて(しま)ふかも()れぬ。226マア、227(かね)()うてよかつた。228もし泥坊(どろばう)(なに)(わた)せと()つたら、229(この)(はな)をつき()してやつたら吃驚(びつくり)するだらう』
230(おも)(なが)ら、231怕々(こはごは)一筋道(ひとすぢみち)(くろ)(かげ)(ところ)(まで)やつて()ると、
232斎藤元市『ヤア、233大先生(だいせんせい)234目出度(めでた)う! (これ)から(わたし)(かつ)いであげます。235(じつ)(ところ)大霜(おほしも)さまがきつう()められましたから、236(とも)はしませんでしたが、237一生(いつしやう)懸命(けんめい)()つて(ござ)つた(とき)238一丁(いつちやう)(ほど)(わき)から見張(みは)りをして()りました。239大分(だいぶ)沢山(たくさん)()れましたやらうなア。240サア(わたし)(これ)から(かつ)いであげませう。241何分(なにぶん)黄金(わうごん)といふものは(かさ)割合(わりあひ)(おも)いもんだから……』
242欣々(いそいそ)として(はしや)いでゐる。
243喜楽(きらく)『いいえ、244そんなに(おも)いものぢやありませぬ。245空畚(からふご)(おな)じですから、246(この)(まま)(わたし)(かつ)いで(まゐ)ります。247薩張(さつぱ)駄目(だめ)でした』
248元市(もといち)駄目(だめ)でしたやらう。249それはその(はず)ぢや。250此処(ここ)はマア駄目(だめ)にして、251(この)(まま)(わたし)(うち)(かへ)つたら如何(どう)ですか』
252喜楽(きらく)元市(もといち)サン、253みんな空畚(からふご)躑躅(つつじ)(はな)ばつかりです』
254元市(もといち)(うは)かはは躑躅(つつじ)でも()いぢやないか、255どれ(わたし)(かつ)ぎます』
256無理(むり)(ぼう)をひつたくつて(かた)(かつ)ぎ、
257元市(もといち)『あゝ(わり)とは(かる)い、258これでも一万(いちまん)(ゑん)(ぐらゐ)はあるだらう。259空畚(からふご)にしては大変(たいへん)(おも)いから……』
260喜楽(きらく)(おも)いのは鶴嘴(つるばし)目方(めかた)ぢや』
261元市(もといち)『マア結構(けつこう)々々(けつこう)262仮令(たとへ)少々(せうせう)でも資本(もとで)さへあればよい。263サア(これ)から八十(はちじふ)(まん)(ゑん)(まう)けて、264天狗(てんぐ)さまの公園(こうゑん)にかからう』
265欣々(いそいそ)として(わが)()(かへ)つて()く。
266 それから(あと)元市(もといち)親子(おやこ)信用(しんよう)(うしな)ひ、267(つひ)には修行場(しうぎやうば)まで(ことわ)られて(しま)つた。268不得已(やむをえず)269自分(じぶん)自宅(じたく)(かへ)つて自修(じしう)する(こと)となつた。270多田(ただ)(こと)中村(なかむら)(かへ)つて奥山川(おくやまがは)(みづ)(ひた)御禊(みそぎ)(なが)ら、271(さかん)鎮魂(ちんこん)帰神(きしん)修業(しうげふ)四五(しご)(にん)(とも)にやつて()た。
272大正一一・一〇・九 旧八・一九 北村隆光録)
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