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第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
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第13巻(子の巻)
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第66巻(巳の巻)
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第71巻(戌の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第37巻(子の巻)
序
総説
第1篇 安閑喜楽
01 富士山
〔1013〕
02 葱節
〔1014〕
03 破軍星
〔1015〕
04 素破抜
〔1016〕
05 松の下
〔1017〕
06 手料理
〔1018〕
第2篇 青垣山内
07 五万円
〔1019〕
08 梟の宵企
〔1020〕
09 牛の糞
〔1021〕
10 矢田の滝
〔1022〕
11 松の嵐
〔1023〕
12 邪神憑
〔1024〕
第3篇 阪丹珍聞
13 煙の都
〔1025〕
14 夜の山路
〔1026〕
15 盲目鳥
〔1027〕
16 四郎狸
〔1028〕
17 狐の尾
〔1029〕
18 奥野操
〔1030〕
19 逆襲
〔1031〕
20 仁志東
〔1032〕
第4篇 山青水清
21 参綾
〔1033〕
22 大僧坊
〔1034〕
23 海老坂
〔1035〕
24 神助
〔1036〕
25 妖魅来
〔1037〕
霊の礎(九)
余白歌
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> 第3篇 阪丹珍聞 > 第17章 狐の尾
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第一七章
狐
(
きつね
)
の
尾
(
を
)
〔一〇二九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻
篇:
第3篇 阪丹珍聞
よみ(新仮名遣い):
はんたんちんぶん
章:
第17章 狐の尾
よみ(新仮名遣い):
きつねのお
通し章番号:
1029
口述日:
1922(大正11)年10月10日(旧08月20日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年3月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
あるとき、杉山が教会を新築したいので寄付を募るための演説を信者にしてくれ、と喜楽に頼んできた。そのとき喜楽はまだ若く、父の病気も直して欲しかったから、まじめに演説の腹案を考えていた。
しかし祭典の際に高島ふみを観察していると、受付の爺さんの言った通りに偽の狐の尾を使って神がかりの振りをしていることが見て取れたので、急に演説の気乗りがしなくなってしまった。
しかしこのときの演説にはなぜか、杉山をはじめ信者たちも非常に感服していた様子であった。しかしその後、別の信者がいい加減な託宣に騙されたと高島ふみのインチキを衆目の前ですっぱ抜き、それ以降この教会は次第にさびれてしまったのである。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-24 16:43:08
OBC :
rm3717
愛善世界社版:
205頁
八幡書店版:
第7輯 108頁
修補版:
校定版:
214頁
普及版:
101頁
初版:
ページ備考:
001
暫
(
しばら
)
くあつて
御
(
お
)
台
(
だい
)
サンと
称
(
しよう
)
する
高島
(
たかしま
)
ふみ
子
(
こ
)
は、
002
総務格
(
そうむかく
)
兼
(
けん
)
良人
(
をつと
)
なる
杉山
(
すぎやま
)
氏
(
し
)
と
共
(
とも
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
003
服部
(
はつとり
)
と
云
(
い
)
ふ
爺
(
おやぢ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
004
俄
(
にはか
)
に
徳利
(
とくり
)
を
股
(
また
)
にかくす。
005
杉山
(
すぎやま
)
は
喜楽
(
きらく
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
006
嬉
(
うれ
)
し
相
(
さう
)
に
笑
(
わら
)
ひ、
007
笑顔
(
ゑがほ
)
を
作
(
つく
)
り、
008
杉山
(
すぎやま
)
『あゝ
喜楽
(
きらく
)
サン、
009
能
(
よ
)
う
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
010
今日
(
けふ
)
はあなたに
一席
(
いつせき
)
の
講演
(
かうえん
)
を
願
(
ねが
)
はねばなりませぬ。
011
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り
信者
(
しんじや
)
が
沢山
(
たくさん
)
殖
(
ふ
)
えまして、
012
何時
(
いつ
)
までもこんな
不便
(
ふべん
)
な
家
(
いへ
)
を
借
(
か
)
つて
居
(
ゐ
)
る
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
きませぬ。
013
どつかに
新築
(
しんちく
)
をしたいと
思
(
おも
)
ひますがそれに
就
(
つ
)
いては
一寸
(
ちよつと
)
三千
(
さんぜん
)
円
(
ゑん
)
許
(
ばか
)
り
必要
(
ひつえう
)
なので、
014
今
(
いま
)
寄附帳
(
きふちやう
)
を
拵
(
こしら
)
へて、
015
各自
(
かくじ
)
に
手分
(
てわ
)
けをなし、
016
世話方
(
せわかた
)
が
寄附金
(
きふきん
)
募集
(
ぼしふ
)
に
歩
(
ある
)
かうと
相談
(
さうだん
)
の
纏
(
まと
)
まつた
所
(
ところ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
017
就
(
つ
)
いては
私
(
わたし
)
が
教会
(
けうくわい
)
建築
(
けんちく
)
の
話
(
はなし
)
をするのも
何
(
なん
)
だか
面白
(
おもしろ
)
くありませぬから、
018
一
(
ひと
)
つあなたが
私
(
わたし
)
に
代
(
かは
)
つて
演壇
(
えんだん
)
に
立
(
た
)
つて
下
(
くだ
)
さいますまいかなア』
019
と
云
(
い
)
ふ。
020
喜楽
(
きらく
)
は
其
(
その
)
時
(
とき
)
はまだ
二十六
(
にじふろく
)
歳
(
さい
)
、
021
父
(
ちち
)
の
病気
(
びやうき
)
が
治
(
なを
)
して
欲
(
ほ
)
しさに
信仰
(
しんかう
)
をして
居
(
を
)
つたのだから、
022
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
事
(
こと
)
なら
何
(
なん
)
でもいとはぬと
云
(
い
)
ふ
気
(
き
)
になつて
居
(
ゐ
)
た。
023
そこで
直
(
ただち
)
に
承諾
(
しようだく
)
の
旨
(
むね
)
を
告
(
つ
)
げ、
024
教会
(
けうくわい
)
の
仕様書
(
しやうがき
)
や
設計
(
せつけい
)
などを
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
ひ、
025
祭典
(
さいてん
)
がすめば
一場
(
いちぢやう
)
の
演説
(
えんぜつ
)
を
試
(
こころ
)
みようと
心
(
こころ
)
ひそかに
腹案
(
ふくあん
)
を
作
(
つく
)
つてゐた。
026
高島
(
たかしま
)
ふみ
子
(
こ
)
、
027
杉山
(
すぎやま
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
喜
(
よろこ
)
び、
028
丁重
(
ていちよう
)
な
料理
(
れうり
)
を
取
(
とり
)
よせて、
029
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
で
饗応
(
きやうおう
)
してくれた。
030
服部
(
はつとり
)
は
真赤
(
まつか
)
な
顔
(
かほ
)
をし、
031
フーフーと
苦
(
くる
)
しさうな
息
(
いき
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
032
高島
(
たかしま
)
の
前
(
まへ
)
にやつて
来
(
き
)
て、
033
服部
(
はつとり
)
『
今
(
いま
)
世話方
(
せわかた
)
衆
(
しう
)
が
見
(
み
)
えました。
034
やがて
信者
(
しんじや
)
も
追々
(
おひおひ
)
集
(
あつ
)
まりませうから、
035
世話方
(
せわかた
)
に
夫
(
そ
)
れまで
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
んで
貰
(
もら
)
ひませうか』
036
高島
(
たかしま
)
は
小声
(
こごゑ
)
で、
037
高島
(
たかしま
)
『
世話方
(
せわかた
)
なんと
云
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で、
038
いつも
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て
酒
(
さけ
)
をのむ
許
(
ばか
)
りで
何
(
なん
)
にもなりやしない』
039
と
云
(
い
)
つたのを、
040
服部
(
はつとり
)
は
聞
(
き
)
きかじつて、
041
巻舌
(
まきじた
)
になり
乍
(
なが
)
ら、
042
服部
(
はつとり
)
『ナヽ
何
(
なに
)
がイヽ
稲荷
(
いなり
)
のお
台
(
だい
)
サン、
043
キヽ
狐
(
きつね
)
サン、
044
役
(
やく
)
に
立
(
た
)
たぬのだ。
045
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
までおめし
給銀
(
きふぎん
)
でこき
使
(
つか
)
はれて
居
(
を
)
るのだから、
046
たまたま
一升
(
いつしよう
)
位
(
くらゐ
)
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
んだつて、
047
ゴテゴテ
言
(
い
)
ひなさるな』
048
高島
(
たかしま
)
『コレ
服部
(
はつとり
)
サン、
049
ソリヤ
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
つてゐなさるのだ。
050
早
(
はや
)
う
御
(
お
)
世話方
(
せわかた
)
にお
酒
(
さけ
)
でも
出
(
だ
)
して
叮嚀
(
ていねい
)
にあしらうて
下
(
くだ
)
さい』
051
服部
(
はつとり
)
『
今日
(
けふ
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
に
一度
(
いちど
)
の
春季
(
しゆんき
)
大祭
(
たいさい
)
だから、
052
私
(
わたし
)
が
神
(
かみ
)
さまの
御
(
お
)
神酒
(
みき
)
を
頂
(
いただ
)
いた
位
(
くらゐ
)
で、
053
ゴテゴテ
言
(
い
)
ひはしませぬだらうな。
054
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
学校
(
がくかう
)
の
小使
(
こづかひ
)
に
使
(
つか
)
うてやらうと
云
(
い
)
ふ
人
(
ひと
)
があるのだけれど、
055
お
前
(
まへ
)
サンが
怒
(
おこ
)
つて、
056
狐
(
きつね
)
でも
使
(
つか
)
ふて
あたん
でもすると
困
(
こま
)
るから、
057
そんな
事
(
こと
)
アおけと
友達
(
ともだち
)
が
言
(
い
)
ふてくれるので、
058
辛抱
(
しんばう
)
して
居
(
を
)
るのだが、
059
今日
(
けふ
)
はモウ
喜楽
(
きらく
)
サンが
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るのだから、
060
狐
(
きつね
)
の
尾
(
を
)
丈
(
だけ
)
はやめなさいや』
061
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
062
ヒヨロリ ヒヨロリと
玄関口
(
げんくわんぐち
)
の
方
(
はう
)
へ
走
(
はし
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
063
いよいよ
午後
(
ごご
)
の
三時過
(
さんじすぎ
)
になると、
064
ボツボツと
参詣人
(
さんけいにん
)
が
集
(
あつま
)
つて
来
(
き
)
て、
065
牡丹餅
(
ぼたもち
)
や
菓子
(
くわし
)
、
066
米
(
こめ
)
、
067
包
(
つつ
)
み
物
(
もの
)
、
068
小豆
(
あづき
)
、
069
豆
(
まめ
)
など
沢山
(
たくさん
)
に
供
(
そな
)
へられ、
070
いよいよ
午後
(
ごご
)
四
(
よ
)
時
(
じ
)
を
期
(
き
)
して
祝詞
(
のりと
)
が
始
(
はじ
)
まり、
071
神殿
(
しんでん
)
の
前
(
まへ
)
で
護摩
(
ごま
)
をたき
始
(
はじ
)
めた。
072
五寸
(
ごすん
)
許
(
ばか
)
りに
切
(
き
)
つて
割
(
わ
)
つた
木切
(
きぎ
)
れに、
073
一々
(
いちいち
)
姓名
(
せいめい
)
や
年齢
(
ねんれい
)
を
書
(
か
)
き
記
(
しる
)
し、
074
それを
高
(
たか
)
くつんで、
075
大
(
おほ
)
きな
鍋
(
なべ
)
の
中
(
なか
)
で、
076
火
(
ひ
)
をつけてもやす、
077
其
(
その
)
上
(
うへ
)
には
幣
(
へい
)
が
切
(
き
)
つてぶら
下
(
さが
)
つてゐる。
078
杉山
(
すぎやま
)
を
始
(
はじ
)
め
服部
(
はつとり
)
其
(
その
)
他
(
た
)
沢山
(
たくさん
)
の
世話方
(
せわかた
)
は、
079
お
鍋
(
なべ
)
で
作
(
つく
)
つた
火鉢
(
ひばち
)
のぐるりから、
080
祝詞
(
のりと
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
称
(
とな
)
へる。
081
火
(
ひ
)
はポーポーと
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
ててもえる。
082
アワヤ
上
(
うへ
)
に
吊
(
つ
)
つた
御幣
(
ごへい
)
に
火
(
ひ
)
が
燃
(
も
)
えつかうとすると、
083
水
(
みづ
)
の
垂
(
た
)
るやうな
榊
(
さかき
)
をポツとくべて
火
(
ひ
)
を
防
(
ふせ
)
ぐ、
084
又
(
また
)
燃上
(
もえあが
)
らうとすると
榊
(
さかき
)
の
葉
(
は
)
をくべる、
085
それでも
火
(
ひ
)
はだんだんと
烈
(
はげ
)
しくなつてくる。
086
高島
(
たかしま
)
ふみ
子
(
こ
)
は
例
(
れい
)
の
神憑
(
かむがか
)
りになり、
087
羽織
(
はおり
)
のあひからチヨロチヨロと
赤
(
あか
)
い
色
(
いろ
)
の
狐
(
きつね
)
の
尻尾
(
しつぽ
)
を
見
(
み
)
せながら、
088
御幣
(
ごへい
)
をふつて、
089
烈
(
はげ
)
しく
燃
(
も
)
え
上
(
あ
)
がる
火
(
ひ
)
の
中
(
なか
)
へ
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
し、
090
上
(
うへ
)
から
吊
(
つ
)
つた
御幣
(
ごへい
)
に
延焼
(
えんせう
)
せむとするのを
防
(
ふせ
)
ぎつつ、
091
其
(
その
)
幣
(
へい
)
を
又
(
また
)
もや
信者
(
しんじや
)
の
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
に
左右左
(
さいうさ
)
とふる。
092
すみからすみまで、
093
百
(
ひやく
)
四五十
(
しごじふ
)
人
(
にん
)
の
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
を
一
(
ひと
)
つ
一
(
ひと
)
つ
御幣
(
ごへい
)
でしばいてまはる、
094
護摩
(
ごま
)
の
火
(
ひ
)
はだんだん
高
(
たか
)
くなり、
095
アワヤ
吊
(
つ
)
り
下
(
さげ
)
たフサフサとした
御幣
(
ごへい
)
に
燃
(
も
)
え
移
(
うつ
)
らうとする
危険
(
きけん
)
に
迫
(
せま
)
ると、
096
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
世話方
(
せわかた
)
が
一割
(
いちわり
)
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で、
097
シヤクル
様
(
やう
)
に
祝詞
(
のりと
)
を
上
(
あ
)
げる、
098
それを
合図
(
あひづ
)
に
高島
(
たかしま
)
ふみ
子
(
こ
)
は
榊
(
さかき
)
の
青葉
(
あをば
)
に
括
(
くく
)
りつけた
御幣
(
ごへい
)
を、
099
あわてて
火
(
ひ
)
と
吊幣
(
つりへい
)
との
間
(
あひだ
)
にグツとつき
出
(
だ
)
し
延焼
(
えんせう
)
を
防
(
ふせ
)
ぐ
其
(
その
)
巧妙
(
かうめう
)
さ。
100
喜楽
(
きらく
)
は
高島
(
たかしま
)
ふみ
子
(
こ
)
の
尻
(
しり
)
からチヨロチヨロ
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
る
狐
(
きつね
)
の
尻尾
(
しつぽ
)
をグツと
握
(
にぎ
)
ると、
101
ふみ
子
(
こ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて『シユーシユー』と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
芋虫
(
いもむし
)
を
弄
(
いろ
)
ふた
様
(
やう
)
な
体裁
(
ていさい
)
でプリンと
尻
(
しり
)
を
一方
(
いつぱう
)
へふり、
102
御幣
(
ごへい
)
をプイプイと
振
(
ふ
)
り
廻
(
まは
)
し
又
(
また
)
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
へ
払
(
はら
)
ひもつて
行
(
ゆ
)
く。
103
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
くして
祭典
(
さいてん
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
終了
(
しうれう
)
を
告
(
つ
)
げた。
104
服部
(
はつとり
)
爺
(
ぢい
)
サンの
言
(
い
)
つた
狐
(
きつね
)
の
尾
(
を
)
も
万更
(
まんざら
)
ウソでない
事
(
こと
)
を
悟
(
さと
)
つた。
105
可笑
(
おか
)
しいやら
馬鹿
(
ばか
)
らしいやら、
106
俄
(
にはか
)
に
信仰
(
しんかう
)
がさめて
了
(
しま
)
ひ、
107
それから
三十一
(
さんじふいち
)
年
(
ねん
)
の
二
(
に
)
月
(
ぐわつ
)
、
108
廿八
(
にじふはつ
)
歳
(
さい
)
になるまで、
109
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
すのがいやになり、
110
極端
(
きよくたん
)
な
無神論
(
むしんろん
)
者
(
じや
)
になつて
了
(
しま
)
つたのである。
111
祭典
(
さいてん
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
済
(
す
)
んだ。
112
杉山
(
すぎやま
)
某
(
ぼう
)
から
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
迄
(
まで
)
拵
(
こしら
)
へて
頼
(
たの
)
まれた
演説
(
えんぜつ
)
も
此
(
この
)
尻尾
(
しつぽ
)
を
見
(
み
)
てから
何
(
なん
)
となく
気乗
(
きのり
)
がせず、
113
折角
(
せつかく
)
拵
(
こしら
)
へておいた
腹案
(
ふくあん
)
もどつかへ
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
ひ、
114
申
(
まを
)
し
訳
(
わけ
)
的
(
てき
)
に
十
(
じつ
)
分間
(
ぷんかん
)
程
(
ほど
)
取
(
とり
)
とめもない、
115
支離
(
しり
)
滅裂
(
めつれつ
)
な
演説
(
えんぜつ
)
をやつてのけた。
116
それでも
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
には、
117
杉山
(
すぎやま
)
を
始
(
はじ
)
め
世話方
(
せわかた
)
信者
(
しんじや
)
は
手
(
て
)
を
叩
(
たた
)
いて、
118
非常
(
ひじやう
)
に
感服
(
かんぷく
)
してゐる
様子
(
やうす
)
であつた。
119
何
(
なに
)
も
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
婆嬶
(
ばばかか
)
の
迷信
(
めいしん
)
連
(
れん
)
に
向
(
むか
)
つて、
120
自分
(
じぶん
)
でさへも
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つたのに、
121
余
(
あま
)
り
反対
(
はんたい
)
も
受
(
う
)
けず、
122
却
(
かへつ
)
て
拍手
(
はくしゆ
)
を
以
(
もつ
)
て
迎
(
むか
)
へられたのは
合点
(
がつてん
)
のいかぬ
事
(
こと
)
であつた。
123
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
人間
(
にんげん
)
に
対
(
たい
)
しては、
124
ヤツパリ
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふて
聞
(
き
)
かすのが、
125
よく
耳
(
みみ
)
に
這入
(
はい
)
るものだなアと、
126
自
(
みづか
)
ら
感心
(
かんしん
)
せざるを
得
(
え
)
なかつた。
127
祭典
(
さいてん
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
済
(
す
)
み、
128
お
台
(
だい
)
サンのおふみサンの
言
(
い
)
ひ
付
(
つ
)
けで
馬路村
(
うまぢむら
)
の
或
(
あ
)
る
中川
(
なかがは
)
と
云
(
い
)
ふ
信者
(
しんじや
)
から、
129
子
(
こ
)
が
無事
(
ぶじ
)
に
生
(
うま
)
れたお
礼
(
れい
)
だと
云
(
い
)
つて、
130
御
(
お
)
供
(
そな
)
へした
沢山
(
たくさん
)
の
牡丹餅
(
ぼたもち
)
を
百
(
ひやく
)
四五十
(
しごじふ
)
人
(
にん
)
の
信者
(
しんじや
)
に
二
(
ふた
)
つづつ
配
(
くば
)
つて
廻
(
まは
)
つた。
131
そしておふみサンの
言草
(
いひぐさ
)
が
面白
(
おもしろ
)
い。
132
ふみ
『
皆
(
みな
)
サン
中川
(
なかがは
)
サンの
奥
(
おく
)
サンは、
133
御
(
ご
)
妊娠
(
にんしん
)
をなさつてから、
134
十二
(
じふに
)
ケ
月
(
げつ
)
になるのに、
135
子
(
こ
)
が
出
(
で
)
ませぬので、
136
此
(
この
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
にお
参
(
まゐ
)
りになり、
137
お
伺
(
うかが
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばした
所
(
ところ
)
、
138
此
(
この
)
人
(
ひと
)
は
懐妊
(
みもち
)
になつてから、
139
牛
(
うし
)
の
綱
(
つな
)
を
跨
(
また
)
げたから、
140
其
(
その
)
罰
(
ばち
)
で
牛
(
うし
)
の
子
(
こ
)
が
宿
(
やど
)
つたので、
141
十二
(
じふに
)
ケ
月
(
げつ
)
も
腹
(
はら
)
に
居
(
を
)
らはつたのです。
142
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
では、
143
此
(
この
)
儘
(
まま
)
放
(
はう
)
つといたら
牛
(
うし
)
の
子
(
こ
)
が
生
(
うま
)
れるに
依
(
よ
)
つて、
144
信仰
(
しんかう
)
をせよと
仰有
(
おつしや
)
りました。
145
それから
中川
(
なかがは
)
サン
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
二
(
に
)
里
(
り
)
もある
所
(
ところ
)
を
代
(
かは
)
る
代
(
がは
)
る
御
(
ご
)
参拝
(
さんぱい
)
になつて、
146
とうとう
立派
(
りつぱ
)
な
人間
(
にんげん
)
の
男
(
をとこ
)
の
子
(
こ
)
がお
生
(
うま
)
れになつたので、
147
今日
(
けふ
)
はお
祭
(
まつり
)
を
幸
(
さいは
)
ひに、
148
牡丹餅
(
ぼたもち
)
をお
供
(
そな
)
へになつたので
御座
(
ござ
)
います。
149
皆
(
みな
)
サンあやかつて
下
(
くだ
)
さいませ。
150
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
信心
(
しんじん
)
さへ
強
(
つよ
)
うすればどんな
事
(
こと
)
でも
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
はります。
151
どうぞ
皆
(
みな
)
サンも
疑
(
うたが
)
はずに
信心
(
しんじん
)
をして
下
(
くだ
)
さりませ、
152
キツと
広大
(
くわうだい
)
な
御
(
ご
)
利益
(
りやく
)
が
頂
(
いただ
)
けますぞえ』
153
としたり
顔
(
がほ
)
に
教服
(
けうふく
)
をつけたまま、
154
上座
(
かみざ
)
に
立
(
た
)
つて
喋
(
しやべ
)
り
立
(
た
)
て、
155
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
這入
(
はい
)
つた。
156
大勢
(
おほぜい
)
の
信者
(
しんじや
)
は
手
(
て
)
に
頂
(
いただ
)
いて、
157
一口
(
ひとくち
)
かぶつては
妙
(
めう
)
な
顔
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら
懐
(
ふところ
)
から
紙
(
かみ
)
を
出
(
だ
)
して
包
(
つつ
)
み
袂
(
たもと
)
に
入
(
い
)
れる。
158
誰
(
たれ
)
もかれも
厭相
(
いやさう
)
な
顔
(
かほ
)
をしてゐる。
159
自分
(
じぶん
)
も
二
(
ふた
)
つ
貰
(
もら
)
うたが、
160
妙
(
めう
)
な
香
(
にほひ
)
だと
思
(
おも
)
うて
割
(
わ
)
つて
見
(
み
)
ると
牛糞
(
うしくそ
)
が
包
(
つつ
)
んであつた。
161
大勢
(
おほぜい
)
の
中
(
なか
)
から、
162
『オイお
台
(
だい
)
サン、
163
コリヤ
牛糞
(
うしくそ
)
が
交
(
ま
)
ぜつとりますぜ』
164
と
叫
(
さけ
)
ぶ
者
(
もの
)
がある。
165
さうするとあちらからも
此方
(
こちら
)
からも、
166
『あゝ
臭
(
くさ
)
かつた、
167
エーエー』
168
と
紙
(
かみ
)
を
使
(
つか
)
ふものも
出来
(
でき
)
て
来
(
き
)
た。
169
高島
(
たかしま
)
ふみ
子
(
こ
)
サンは
驚
(
おどろ
)
いて、
170
上装束
(
うはせうぞく
)
をぬぎ、
171
狐
(
きつね
)
の
尾
(
を
)
を
細帯
(
ほそおび
)
で
括
(
くく
)
つたまま、
172
取
(
と
)
るのを
忘
(
わす
)
れて、
173
此
(
この
)
場
(
ば
)
へ
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
174
高島
(
たかしま
)
『
皆
(
みな
)
サン
勿体
(
もつたい
)
ない
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るな。
175
そんな
物
(
もの
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
供
(
そな
)
へしそうな
事
(
こと
)
がありませぬ』
176
と
云
(
い
)
ふや
否
(
いな
)
や、
177
中川
(
なかがは
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
、
178
三十二三
(
さんじふにさん
)
歳
(
さい
)
の
少
(
すこ
)
し
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
い、
179
細長
(
ほそなが
)
い
顔
(
かほ
)
をして、
180
神壇
(
しんだん
)
の
前
(
まへ
)
に
立
(
た
)
ち、
181
中川
(
なかがは
)
『
私
(
わたくし
)
は
馬路村
(
うまぢむら
)
の
中川
(
なかがは
)
某
(
ぼう
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
です。
182
私
(
わたくし
)
の
家内
(
かない
)
が
妊娠
(
にんしん
)
をしてから
月
(
つき
)
が
満
(
み
)
ちても
出産
(
しゆつさん
)
せぬので、
183
ここへ
伺
(
うかが
)
ひに
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
、
184
ここの
奴狐
(
どぎつね
)
がぬかすには、
185
牛
(
うし
)
の
綱
(
つな
)
をまたげたから、
186
牛
(
うし
)
の
子
(
こ
)
が
宿
(
やど
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ、
187
信心
(
しんじん
)
さへすれば
人間
(
にんげん
)
の
子
(
こ
)
に
生
(
うま
)
れさしてやると、
188
バカな
事
(
こと
)
をぬかしやがる、
189
人間
(
にんげん
)
さまを
馬鹿
(
ばか
)
にしやがるも
程
(
ほど
)
があると
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
つたが、
190
それでも
出来
(
でき
)
て
見
(
み
)
ねば
分
(
わか
)
らぬと
思
(
おも
)
ひ、
191
女房
(
にようばう
)
の
代
(
かは
)
りに
毎日
(
まいにち
)
参
(
まゐ
)
つて
居
(
を
)
りました。
192
そした
所
(
ところ
)
、
193
女子
(
ぢよし
)
が
出来
(
でき
)
るとぬかしたに
拘
(
かかは
)
らず、
194
立派
(
りつぱ
)
な
男
(
をとこ
)
の
子
(
こ
)
が
生
(
うま
)
れました。
195
そんな
事
(
こと
)
の
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
の
事
(
こと
)
まで
分
(
わか
)
る
様
(
やう
)
な
稲荷
(
いなり
)
なら、
196
牡丹餅
(
ぼたもち
)
の
中
(
なか
)
へ
牛糞
(
うしくそ
)
を
入
(
い
)
れて
供
(
そな
)
へたらキツト
知
(
し
)
つてるだらう、
197
モシ
知
(
し
)
らぬやうな
事
(
こと
)
なら
山子婆
(
やまこばば
)
の
溝狸
(
どぶだぬき
)
だと
思
(
おも
)
うてをつたら、
198
案
(
あん
)
の
条
(
でう
)
、
199
牛糞
(
うしくそ
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
に
供
(
そな
)
へて
拝
(
をが
)
んでをる
可笑
(
おか
)
しさ。
200
私
(
わたし
)
は
皆
(
みな
)
さまに
食
(
くつ
)
て
下
(
くだ
)
さいと
云
(
い
)
ふて
牡丹餅
(
ぼたもち
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
たのだないから、
201
皆
(
みな
)
さま
怒
(
おこ
)
つて
下
(
くだ
)
さるな。
202
ここの
婆
(
ばば
)
アが
悪
(
わる
)
いのだ、
203
アハヽヽ
稲荷下
(
いなりさげ
)
の
山子
(
やまこ
)
バヽ、
204
尻
(
しり
)
でもくらへ、
205
これから
俺
(
おれ
)
がそこら
中
(
ぢう
)
、
206
此
(
この
)
次第
(
しだい
)
をふれ
歩
(
ある
)
いてやる』
207
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
208
一目散
(
いちもくさん
)
に
飛出
(
とびだ
)
し
帰
(
かへ
)
つて
行
(
い
)
つた。
209
これより
旭日
(
きよくじつ
)
昇天
(
しようてん
)
の
勢
(
いきほ
)
ひであつた、
210
此
(
この
)
教会
(
けうくわい
)
も
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
にさびれて、
211
遂
(
つひ
)
には
維持
(
ゐぢ
)
が
出来
(
でき
)
なくなり、
212
京町
(
きやうまち
)
の
天神
(
てんじん
)
さまの
境内
(
けいだい
)
へ
移転
(
いてん
)
して、
213
僅
(
わづ
)
かに
命脈
(
めいみやく
)
を
保
(
たも
)
つて、
214
明治
(
めいぢ
)
四十五
(
しじふご
)
年
(
ねん
)
頃
(
ごろ
)
まで
継続
(
けいぞく
)
して
居
(
ゐ
)
たのであつた。
215
(
大正一一・一〇・一〇
旧八・二〇
松村真澄
録)
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