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第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
第4巻(卯の巻)
第5巻(辰の巻)
第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
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如意宝珠
第13巻(子の巻)
第14巻(丑の巻)
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第25巻(子の巻)
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第28巻(卯の巻)
第29巻(辰の巻)
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第51巻(寅の巻)
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第61巻(子の巻)
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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
第79巻(午の巻)
第80巻(未の巻)
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第42巻(巳の巻)
序文に代へて
総説に代へて
第1篇 波瀾重畳
01 北光照暗
〔1126〕
02 馬上歌
〔1127〕
03 山嵐
〔1128〕
04 下り坂
〔1129〕
第2篇 恋海慕湖
05 恋の罠
〔1130〕
06 野人の夢
〔1131〕
07 女武者
〔1132〕
08 乱舌
〔1133〕
09 狐狸窟
〔1134〕
第3篇 意変心外
10 墓場の怪
〔1135〕
11 河底の怪
〔1136〕
12 心の色々
〔1137〕
13 揶揄
〔1138〕
14 吃驚
〔1139〕
第4篇 怨月恨霜
15 帰城
〔1140〕
16 失恋会議
〔1141〕
17 酒月
〔1142〕
18 酊苑
〔1143〕
19 野襲
〔1144〕
第5篇 出風陣雅
20 入那立
〔1145〕
21 応酬歌
〔1146〕
22 別離の歌
〔1147〕
23 竜山別
〔1148〕
24 出陣歌
〔1149〕
25 惜別歌
〔1150〕
26 宣直歌
〔1151〕
余白歌
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> 第2篇 恋海慕湖 > 第6章 野人の夢
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第六章
野人
(
やじん
)
の
夢
(
ゆめ
)
〔一一三一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻
篇:
第2篇 恋海慕湖
よみ(新仮名遣い):
れんかいぼこ
章:
第6章 野人の夢
よみ(新仮名遣い):
やじんのゆめ
通し章番号:
1131
口述日:
1922(大正11)年11月14日(旧09月26日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年7月1日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
カールチンは自宅に帰り、奥の間に一人悦に入っている。そこへユーフテスとセーリス姫が訪ねてきた。セーリス姫は、姉のヤスダラ姫に代わってカールチンの気持ちを確かめに来たのだという。
カールチンがヤスダラ姫(清照姫)に執心であることを見届けると、ユーフテスとセーリス姫は帰って行った。
テーナ姫が帰ってきたが、カールチンはそっけなく出迎えた。テーナ姫は、カールチンが数日前からそわそわして様子が違うことから、早速若い女と浮気したことに気づいてカールチンに掴みかかった。
テーナ姫は荒れ狂い修羅場が展開したが、カールチンはあくまで落ち着いてあしらっていた。テーナ姫はとうとう、自分を送ってきたマンモスを連れて右守の館を出て行ってしまった。
後に右守は、テーナ姫を追い出す手間が省けたとほくそ笑んでいる。するとやにわに戸を開けてテーナ姫が入ってきてカールチンに襲い掛かってきた。
と見るや、これは夢であった。カールチンはテーナ姫に揺り起こされて目を覚ました。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-12-21 15:14:20
OBC :
rm4206
愛善世界社版:
81頁
八幡書店版:
第7輯 671頁
修補版:
校定版:
85頁
普及版:
30頁
初版:
ページ備考:
001
カールチンは
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
ニコニコしながら
恋
(
こひ
)
の
瞑想
(
めいさう
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
002
そこへやつて
来
(
き
)
たのはユーフテス、
003
セーリス
姫
(
ひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
であつた。
004
セーリス姫
『
右守
(
うもり
)
さま、
005
最前
(
さいぜん
)
はようこそ
御
(
ご
)
登城
(
とじやう
)
の
上
(
うへ
)
、
006
姉
(
あね
)
にお
会
(
あ
)
ひ
下
(
くだ
)
さいまして、
007
誠
(
まこと
)
に
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
ります。
008
貴方
(
あなた
)
がお
帰
(
かへ
)
り
遊
(
あそ
)
ばしたその
後
(
あと
)
で
姉
(
あね
)
も
非常
(
ひじやう
)
に
気分
(
きぶん
)
がよくなつたと
申
(
まを
)
し、
009
それはそれは
偉
(
えら
)
い
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
010
就
(
つ
)
いては
姉
(
あね
)
の
申
(
まを
)
しますのには、
011
男心
(
をとこごころ
)
と
秋
(
あき
)
の
空
(
そら
)
、
012
如何
(
どう
)
変
(
かは
)
るやら
心許
(
こころもと
)
ない。
013
右守
(
うもり
)
の
司様
(
かみさま
)
に、
014
も
一度
(
いちど
)
お
目
(
め
)
にかかる
迄
(
まで
)
は
安心
(
あんしん
)
ならない。
015
もしや
奥様
(
おくさま
)
に
感
(
かん
)
づかれ
遊
(
あそ
)
ばして、
016
種々
(
いろいろ
)
と
御
(
お
)
争
(
いさか
)
ひの
結果
(
けつくわ
)
、
017
お
心変
(
こころがは
)
りをなされはすまいかと
申
(
まを
)
しまして、
018
妾
(
わたし
)
に
一遍
(
いつぺん
)
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
を
伺
(
うかが
)
つて
来
(
き
)
てくれと、
019
まるで
狂人
(
きちがひ
)
の
様
(
やう
)
に
申
(
まを
)
しますの。
020
貴方
(
あなた
)
に
限
(
かぎ
)
つてそんな
水臭
(
みづくさ
)
い
方
(
かた
)
ぢやないから
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
遊
(
あそ
)
ばせと
何度
(
なんど
)
云
(
い
)
つても
聞
(
き
)
きませぬ。
021
それ
故
(
ゆゑ
)
夜中
(
やちう
)
にも
拘
(
かかは
)
らず、
022
御
(
お
)
邪魔
(
じやま
)
をいたした
様
(
やう
)
な
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
023
夜中
(
やちう
)
御
(
ご
)
門前
(
もんぜん
)
が
通
(
とほ
)
れないと
存
(
ぞん
)
じまして、
024
ユーフテス
様
(
さま
)
について
来
(
き
)
て
頂
(
いただ
)
きました』
025
カールチンは
小声
(
こごゑ
)
で、
026
カールチン
『あゝさうでしたか、
027
それは
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
でした。
028
屹度
(
きつと
)
心変
(
こころがは
)
りするなと
姫
(
ひめ
)
に
云
(
い
)
つてやつて
下
(
くだ
)
さい。
029
さうすりや
安心
(
あんしん
)
するでせう』
030
と
早
(
はや
)
くも
女房扱
(
にようばうあつかひ
)
にしてゐる。
031
セーリス
姫
(
ひめ
)
は
可笑
(
をか
)
しさを
堪
(
こら
)
へ、
032
故意
(
わざ
)
と
湿
(
しめ
)
つぽい
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
033
セーリス姫
『ハイ
有難
(
ありがた
)
い
其
(
その
)
お
言葉
(
ことば
)
、
034
妾
(
わたし
)
の
夫
(
をつと
)
になつて
下
(
くだ
)
さつた
様
(
やう
)
に
嬉
(
うれ
)
しう
厶
(
ござ
)
りますわ、
035
ホヽヽヽヽ』
036
カールチン
『これこれセーリス
姫
(
ひめ
)
殿
(
どの
)
、
037
気
(
き
)
の
多
(
おほ
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つちやなりませぬぞ。
038
貴女
(
あなた
)
の
最愛
(
さいあい
)
のユーフテスが
其処
(
そこ
)
に
居
(
ゐ
)
るぢやありませぬか。
039
大変
(
たいへん
)
に
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
んで、
040
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
まで
変
(
か
)
へて
居
(
を
)
りますよ。
041
アハヽヽヽヽ』
042
セーリス姫
『ホヽヽヽヽこんな
口
(
くち
)
の
腫
(
は
)
れた、
043
物
(
もの
)
も
碌
(
ろく
)
に
云
(
い
)
へぬ
様
(
やう
)
な
男
(
をとこ
)
、
044
妾
(
わたし
)
俄
(
にはか
)
に
嫌
(
いや
)
になつちまつたのですよ…………と
云
(
い
)
ふのは
表向
(
おもてむ
)
き、
045
ねえユーフテスさま、
046
貴方
(
あなた
)
、
047
私
(
わたし
)
の
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
はよく
知
(
し
)
つてゐますね。
048
人
(
ひと
)
の
前
(
まへ
)
でさう
惚気
(
のろけ
)
も
云
(
い
)
へませぬからな』
049
ユーフテスは
嬉
(
うれ
)
しさうな
顔
(
かほ
)
して、
050
ユーフテス
『ウフヽヽヽ』
051
と
笑
(
わら
)
ふ。
052
セーリス姫
『あのマア
好
(
す
)
かぬたらしい
笑
(
わら
)
ひ
様
(
やう
)
わいな。
053
本当
(
ほんたう
)
に
嫌
(
いや
)
になつてしまふワ。
054
如何
(
どう
)
して、
055
こんな
好
(
す
)
かぬたらしい
男
(
をとこ
)
が
好
(
す
)
きになつたのだらう。
056
吾
(
われ
)
と
吾
(
わが
)
心
(
こころ
)
で
判断
(
はんだん
)
がつかぬワ』
057
カールチン
『これこれセーリスさま、
058
あまりぢやありませぬか。
059
何
(
なに
)
か
一
(
ひと
)
つ
奢
(
おご
)
つて
貰
(
もら
)
ひませう。
060
たつぷりとお
惚気
(
のろけ
)
を
聞
(
き
)
かされまして』
061
セーリス姫
『お
惚気
(
のろけ
)
はお
互
(
たがひ
)
様
(
さま
)
ですわ。
062
奢
(
おご
)
るだけは
倹約
(
けんやく
)
を
致
(
いた
)
しまして、
063
為替
(
かはせ
)
に
願
(
ねが
)
ひませうか。
064
時
(
とき
)
にカールチンさま、
065
奥様
(
おくさま
)
の
処置
(
しよち
)
は
如何
(
どう
)
なさいましたの。
066
それを
承
(
うけたま
)
はらねば、
067
姉
(
あね
)
が
矢張
(
やつぱ
)
り
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
みますから、
068
なあユーフテスさま、
069
さうでしたね』
070
ユーフテス
『そ……それが
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
只今
(
ただいま
)
の
御用
(
ごよう
)
ですわ。
071
もし
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
072
如何
(
どう
)
なりましたか。
073
屹度
(
きつと
)
直様
(
すぐさま
)
、
074
何
(
なん
)
とか
御
(
ご
)
処置
(
しよち
)
を
取
(
と
)
られたでせうな』
075
カールチン
『
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
、
076
今日
(
けふ
)
はマンモス、
077
サモア
姫
(
ひめ
)
に
招
(
まね
)
かれて、
078
テーナは
未
(
ま
)
だ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ないのだ。
079
然
(
しか
)
しながら
出
(
だ
)
し
抜
(
ぬ
)
けにそんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つたら、
080
此
(
この
)
際
(
さい
)
一悶錯
(
ひともんさく
)
が
起
(
おこ
)
るから、
081
暫
(
しば
)
らく
執行
(
しつかう
)
猶予
(
いうよ
)
を
願
(
ねが
)
ひたいものだ。
082
何
(
いづ
)
れ
折
(
をり
)
を
見
(
み
)
て
甘
(
うま
)
くやる
積
(
つも
)
りだから、
083
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
にもカールチンの
心
(
こころ
)
は
大
(
だい
)
磐石心
(
ばんじやくしん
)
だから
安心
(
あんしん
)
せよと
伝
(
つた
)
へて
下
(
くだ
)
さい。
084
それよりも
姫
(
ひめ
)
の
方
(
はう
)
に
心変
(
こころがは
)
りのせないやうと
此
(
この
)
方
(
はう
)
から
却
(
かへつ
)
て
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
んでゐる
位
(
くらゐ
)
だ。
085
アハヽヽヽヽ』
086
セーリス姫
『
好
(
よ
)
い
男
(
をとこ
)
さまに
生
(
うま
)
れると
気
(
き
)
の
揉
(
も
)
める
事
(
こと
)
ですな。
087
妾
(
わたし
)
の
様
(
やう
)
なお
多福
(
たふく
)
の
方
(
はう
)
が
却
(
かへつ
)
て
幸
(
さいは
)
ひかも
知
(
し
)
れませぬわ。
088
それでも
世間
(
せけん
)
は
広
(
ひろ
)
いもので、
089
干瓢
(
かんぺう
)
に
目鼻
(
めはな
)
をつけた
様
(
やう
)
なユーフテスさまが
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
つて
下
(
くだ
)
さいますもの、
090
お
多福
(
たふく
)
だつて、
091
さう
悲観
(
ひくわん
)
したものぢや
厶
(
ござ
)
りませぬな』
092
カールチン
『あゝ
何
(
なん
)
だか
妙
(
めう
)
な
気分
(
きぶん
)
になつて
来
(
き
)
ましたわい。
093
貴女
(
あなた
)
も
気
(
き
)
が
利
(
き
)
きませぬな。
094
ユーフテスの
様
(
やう
)
な
男
(
をとこ
)
をつれずに、
095
何故
(
なぜ
)
姉
(
ねえ
)
さまをソツと
連
(
つ
)
れて
来
(
こ
)
ないのですか。
096
さうすれば
何事
(
なにごと
)
も
直
(
すぐ
)
に
氷解
(
ひようかい
)
が
出来
(
でき
)
ますがね。
097
矢張
(
やはり
)
姉
(
ねえ
)
さまよりもユーフテスの
方
(
はう
)
が
宜
(
よ
)
いと
見
(
み
)
えますな』
098
セーリス姫
『そりやさうでせうとも。
099
何程
(
なにほど
)
姉
(
ねえ
)
さまが
綺麗
(
きれい
)
だと
云
(
い
)
つても、
100
女
(
をんな
)
同士
(
どうし
)
世帯
(
しよたい
)
を
持
(
も
)
つ
訳
(
わけ
)
には
行
(
い
)
かぬぢやありませぬか。
101
何程
(
なにほど
)
ヒヨツトコでも
瓢箪
(
へうたん
)
でも
干瓢
(
かんぺう
)
さまでも
蜥蜴
(
とかげ
)
の
欠伸
(
あくび
)
した
様
(
やう
)
な
男
(
をとこ
)
でも、
102
夫
(
をつと
)
とすれば、
103
ヤツパリ
贔屓
(
ひいき
)
がつきますわ。
104
オホヽヽヽヽ』
105
カールチン
『
時
(
とき
)
にセーリス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
106
追
(
お
)
つ
立
(
た
)
てる
様
(
やう
)
で
済
(
す
)
みませぬが、
107
今
(
いま
)
に
女房
(
にようばう
)
が
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て
感
(
かん
)
づかれては
大変
(
たいへん
)
ですから、
108
何卒
(
どうぞ
)
ユーフテスと
共
(
とも
)
に
此処
(
ここ
)
を
立退
(
たちの
)
いて
下
(
くだ
)
さいますまいか』
109
セーリス姫
『はい、
110
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
111
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
女
(
をんな
)
だと
思召
(
おぼしめ
)
すでせう。
112
これが
姉
(
あね
)
だつたら、
113
そんな
事
(
こと
)
滅多
(
めつた
)
に
仰有
(
おつしや
)
いますまいに。
114
お
多福
(
たふく
)
はヤツパリ
仕方
(
しかた
)
がありませぬわ。
115
奥様
(
おくさま
)
がお
待
(
ま
)
ち
兼
(
か
)
ねでせう。
116
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
睦
(
むつ
)
まじうお
暮
(
くら
)
しなさいませ。
117
姉
(
あね
)
も
御
(
ご
)
親密
(
しんみつ
)
な
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
だと
聞
(
き
)
いたら、
118
嘸
(
さぞ
)
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
みませう、
119
いや
喜
(
よろこ
)
びませう。
120
誠
(
まこと
)
にいけすかない
女
(
をんな
)
が
参
(
まゐ
)
りまして
済
(
す
)
みませぬでした。
121
何卒
(
なにとぞ
)
神直日
(
かむなほひ
)
、
122
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
して
下
(
くだ
)
さいまして、
123
永当
(
えいたう
)
々々
(
えいたう
)
御
(
ご
)
贔屓
(
ひいき
)
に
願
(
ねが
)
ひまアす』
124
ユーフテス
『(
東西屋
(
とうざいや
)
口調
(
くてう
)
)チヨン チヨン チヨン、
125
えー
今晩
(
こんばん
)
はこれで
大切
(
おほぎ
)
りと
致
(
いた
)
しまして、
126
又
(
また
)
明晩
(
みやうばん
)
は
新手
(
あらて
)
を
入
(
い
)
れ
替
(
か
)
へ、
127
大序
(
だいじよ
)
より
大切
(
おほぎ
)
りまで
御覧
(
ごらん
)
に
入
(
い
)
れます。
128
芸題
(
げだい
)
は
入那
(
いるな
)
の
城
(
しろ
)
入那
(
いるな
)
の
城
(
しろ
)
、
129
登場
(
とうぢやう
)
役者
(
やくしや
)
は
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
カールチン
殿
(
どの
)
、
130
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
のローマンスの
情味
(
じやうみ
)
津々
(
しんしん
)
たる
艶場
(
つやば
)
をお
目
(
め
)
にかけますれば、
131
近所
(
きんじよ
)
合壁
(
がつぺき
)
誘
(
さそ
)
ひ
合
(
あは
)
せ、
132
賑々
(
にぎにぎ
)
しく
御
(
ご
)
観覧
(
くわんらん
)
の
程
(
ほど
)
を
偏
(
ひとへ
)
に
乞
(
こ
)
ひ
願
(
ねが
)
ひあげ
よこ
奉
(
まつ
)
ります。
133
アハヽヽヽヽ』
134
セーリス『ウツフヽヽヽヽ』
135
ユーフテス
『(
義太夫
(
ぎだいふ
)
)「
右守
(
うもり
)
は
悠然
(
いうぜん
)
として
立上
(
たちあが
)
り、
136
テーナ
姫
(
ひめ
)
の
館
(
やかた
)
をさして、
137
入
(
い
)
りにける。
138
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
りし
両人
(
りやうにん
)
は、
139
四辺
(
あたり
)
をキツと
打見
(
うちみ
)
やり、
140
互
(
たがひ
)
に
手
(
て
)
に
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り
交
(
か
)
はし、
141
ヤイノ ヤイノと
意茶
(
いちや
)
つく
間
(
ま
)
もなく、
142
表
(
おもて
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
人
(
ひと
)
の
足音
(
あしおと
)
、
143
コリヤ
叶
(
かな
)
はぬと、
144
暗
(
やみ
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
逃
(
に
)
げ
失
(
う
)
せたりチヨン」と
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
ですな。
145
イヒヽヽヽヽ』
146
カールチン『セーリス
姫
(
ひめ
)
殿
(
どの
)
、
147
又
(
また
)
改
(
あらた
)
めてお
目
(
め
)
にかかりませう』
148
と
云
(
い
)
ひすて
足早
(
あしばや
)
に
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
指
(
さ
)
して
姿
(
すがた
)
をかくした。
149
二人
(
ふたり
)
は
是非
(
ぜひ
)
なく
暗
(
やみ
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
館
(
やかた
)
を
出
(
い
)
で、
150
木枯
(
こがらし
)
烈
(
はげ
)
しき
野道
(
のみち
)
をよぎり、
151
城内
(
じやうない
)
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
152
カールチンは
二人
(
ふたり
)
に
別
(
わか
)
れ、
153
奥
(
おく
)
の
大広間
(
おほひろま
)
に
座蒲団
(
ざぶとん
)
を
幾枚
(
いくまい
)
も
積
(
つ
)
み
重
(
かさ
)
ね、
154
ばい
の
化物然
(
ばけものぜん
)
とすまし
込
(
こ
)
み、
155
頻
(
しき
)
りに
首
(
くび
)
をかたげて
時々
(
ときどき
)
堪
(
こら
)
へきれぬ
様
(
やう
)
な
笑
(
ゑみ
)
を
洩
(
もら
)
し、
156
鼻糞
(
はなくそ
)
をほぜくつたり、
157
手
(
て
)
の
甲
(
かふ
)
で
歯糞
(
はくそ
)
を
取
(
と
)
つたり、
158
眉毛
(
まゆげ
)
の
癖
(
くせ
)
を
直
(
なほ
)
したり、
159
首筋
(
くびすぢ
)
を
撫
(
な
)
で
上
(
あ
)
げたり
等
(
など
)
して、
160
俄
(
にはか
)
に
若
(
わか
)
やいだ
気分
(
きぶん
)
になつて
上機嫌
(
じやうきげん
)
で
納
(
をさ
)
まり
返
(
かへ
)
つてゐる。
161
そこへマンモスに
送
(
おく
)
られて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのはテーナ
姫
(
ひめ
)
であつた。
162
マンモス
『
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
163
今日
(
けふ
)
は
奥様
(
おくさま
)
に
穢
(
むさくる
)
しい
処
(
ところ
)
へ
御
(
お
)
入来
(
いで
)
を
願
(
ねが
)
ひまして
実
(
じつ
)
に
光栄
(
くわうえい
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
164
サモア
姫
(
ひめ
)
も
大変
(
たいへん
)
に
満足
(
まんぞく
)
致
(
いた
)
しましたと、
165
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
へお
礼
(
れい
)
を
申上
(
まをしあ
)
げて
呉
(
く
)
れよと
申
(
まを
)
しました。
166
今日
(
けふ
)
はツイにない
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
なお
顔
(
かほ
)
を
拝
(
はい
)
し、
167
マンモスに
於
(
おい
)
ても
恐悦
(
きようえつ
)
至極
(
しごく
)
に
存
(
ぞん
)
じます』
168
カールチン
『マンモス、
169
よう
送
(
おく
)
つて
来
(
き
)
てくれた。
170
も
少
(
すこ
)
し
遅
(
おそ
)
くても
構
(
かま
)
はなかつたになあ』
171
テーナ
姫
(
ひめ
)
は
不機嫌
(
ふきげん
)
な
顔
(
かほ
)
をして
一杯
(
いつぱい
)
機嫌
(
きげん
)
を
幸
(
さいは
)
ひ、
172
カールチンの
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
出
(
い
)
で
矢庭
(
やには
)
に
胸倉
(
むなぐら
)
をグツと
取
(
と
)
り、
173
テーナ姫
『これ、
174
旦那
(
だんな
)
さま、
175
薬鑵
(
やくわん
)
老爺
(
おやぢ
)
さま、
176
もちつと
長
(
なが
)
くともよいとは、
177
そりや
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますか。
178
大方
(
おほかた
)
貴方
(
あなた
)
は
妾
(
わたし
)
の
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るのがお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らぬのでせう。
179
二三
(
にさん
)
日前
(
にちぜん
)
から、
180
何
(
なん
)
だかソワソワして
落着
(
おちつ
)
かぬ
風
(
ふう
)
ぢやと
思
(
おも
)
つてゐましたが、
181
到頭
(
たうとう
)
本音
(
ほんね
)
を
吹
(
ふ
)
いたぢやありませぬか。
182
ツイ
二三
(
にさん
)
日前
(
にちぜん
)
まで
妾
(
わたし
)
が
一息
(
ひといき
)
の
間
(
ま
)
居
(
を
)
らなくても
八釜
(
やかま
)
しく
仰有
(
おつしや
)
つたぢやありませぬか。
183
貴方
(
あなた
)
は
何
(
なに
)
か
外
(
ほか
)
に
増
(
ま
)
す
花
(
はな
)
が
出来
(
でき
)
たのでせう。
184
いやもの
云
(
い
)
ふ
花
(
はな
)
を
手折
(
たお
)
つて
来
(
き
)
たのでせう。
185
サア
今日
(
けふ
)
は
何処迄
(
どこまで
)
も
調
(
しら
)
べ
上
(
あ
)
げねばおきませぬぞ。
186
女房
(
にようばう
)
は
手
(
て
)
の
下
(
した
)
の
罪人
(
ざいにん
)
だと
思
(
おも
)
つて
何時
(
いつ
)
も
馬鹿
(
ばか
)
にしてゐなさるが、
187
もう
私
(
わたし
)
も
今日
(
けふ
)
は
了簡
(
れうけん
)
しませぬ。
188
さあ
白状
(
はくじやう
)
しなさい、
189
男
(
をとこ
)
らしう』
190
と
云
(
い
)
ひながら
力限
(
ちからかぎ
)
り
襟髪
(
えりがみ
)
をとつて
前後
(
ぜんご
)
にシヤクリまはす。
191
カールチン
『アハヽヽヽ、
192
悋気
(
りんき
)
も
宜
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
にしたが
良
(
よ
)
からうぞ。
193
十九
(
つづ
)
や
二十
(
はたち
)
の
身
(
み
)
ぢやあるまいし、
194
四十
(
しじふ
)
女
(
をんな
)
の
姥桜
(
うばざくら
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として、
195
その
態
(
ざま
)
は
何
(
なん
)
だ。
196
あまり
見
(
み
)
つともよくないぢやないか』
197
テーナ姫
『
雀
(
すずめ
)
百
(
ひやく
)
まで
雄鳥
(
をんどり
)
を
忘
(
わす
)
れぬと
云
(
い
)
ふぢやありませぬか。
198
四十
(
しじふ
)
女
(
をんな
)
がいやなら、
199
元
(
もと
)
の
十七
(
じふしち
)
にして
返
(
かへ
)
しなさい。
200
お
前
(
まへ
)
さまに
嫁
(
かし
)
づいて
年
(
とし
)
をとらされたのだから、
201
元
(
もと
)
のスタイルにさへして
貰
(
もら
)
へば
何時
(
いつ
)
にても
帰
(
かへ
)
りますわ。
202
サア
何処
(
どこ
)
で
何奴
(
どいつ
)
と
意茶
(
いちや
)
ついて
来
(
き
)
た。
203
白状
(
はくじやう
)
しなさい。
204
実
(
じつ
)
の
処
(
ところ
)
は
今日
(
けふ
)
マンモスに
招
(
まね
)
かれて
行
(
い
)
つたのも、
205
お
前
(
まへ
)
さまの
秘密
(
ひみつ
)
を
探
(
さぐ
)
る
為
(
た
)
めだつた。
206
隠
(
かく
)
しても
駄目
(
だめ
)
ですよ。
207
何
(
なに
)
もかも
皆
(
みな
)
ユーフテスやセーリス
姫
(
ひめ
)
のドスベタの
取持
(
とりも
)
ちでやつて
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
はチヤンとマンモスに
探偵
(
たんてい
)
がさしてあるのですよ。
208
あまり
人
(
ひと
)
を
盲目
(
めくら
)
にしなさるな。
209
サア
之
(
これ
)
でもお
前
(
まへ
)
さまは
知
(
し
)
らぬと
云
(
い
)
ひますか』
210
カールチン
『
何
(
なん
)
と
偉
(
えら
)
い
権幕
(
けんまく
)
だな。
211
まるで
狂人
(
きちがひ
)
の
様
(
やう
)
ぢやないか』
212
テーナ姫
『
良妻
(
りやうさい
)
賢母
(
けんぼ
)
も
夫
(
をつと
)
の
仕打
(
しうち
)
が
悪
(
わる
)
いと、
213
こんなになるのですよ。
214
権幕
(
けんまく
)
が
荒
(
あら
)
くなつたのも
狂人
(
きちがひ
)
になつたのも、
215
何
(
なに
)
かの
素因
(
そいん
)
がなくてはなりますまい。
216
あゝ
残念
(
ざんねん
)
や、
217
くゝゝゝ
口惜
(
くや
)
しやな。
218
こんな
事
(
こと
)
と
知
(
し
)
つたなら、
219
何故
(
なぜ
)
二十
(
にじふ
)
年
(
ねん
)
も
昔
(
むかし
)
に
命
(
いのち
)
までかけて
恋慕
(
こひした
)
うて
居
(
を
)
つたキユールさまに、
220
添
(
そ
)
はなかつたのだらう』
221
と
焼糞
(
やけくそ
)
になつて
悋気
(
りんき
)
の
角
(
つの
)
を
生
(
は
)
やし、
222
襖
(
ふすま
)
や
畳
(
たたみ
)
や
其処辺
(
そこら
)
の
道具
(
だうぐ
)
にあたり
散
(
ち
)
らす。
223
忽
(
たちま
)
ち
箪笥
(
たんす
)
は
顛覆
(
てんぷく
)
する、
224
襖
(
ふすま
)
は
倒
(
たふ
)
れる、
225
土瓶
(
どびん
)
は
腹
(
はら
)
を
破
(
やぶ
)
つて
小便
(
せうべん
)
を
垂
(
た
)
れる、
226
火鉢
(
ひばち
)
は
宙
(
ちう
)
に
舞
(
ま
)
ふ。
227
座敷
(
ざしき
)
一面
(
いちめん
)
灰煙
(
はひけむり
)
が
濛々
(
もうもう
)
と
包
(
つつ
)
む。
228
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
もつけられなくなつて
了
(
しま
)
つた。
229
マンモス
『マンマンマン モスモスモスもすこし
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
230
奥
(
おく
)
さま、
231
さう
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
てちやお
身体
(
からだ
)
に
障
(
さは
)
ります。
232
まだ
確
(
たしか
)
なことは
見届
(
みとど
)
けてないのですから、
233
さう
早
(
はや
)
くから
予行
(
よかう
)
演習
(
えんしふ
)
をやられちや、
234
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
235
マンモスまでが
忽
(
たちま
)
ち
迷惑
(
めいわく
)
を
致
(
いた
)
します。
236
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づお
鎮
(
しづ
)
まりを
願
(
ねが
)
ひます』
237
カールチンはマンモスをハツタと
睨
(
ね
)
めつけ、
238
声
(
こゑ
)
を
震
(
ふる
)
はせて、
239
カールチン
『こりや、
240
マヽヽヽマン、
241
左様
(
さやう
)
な
不届
(
ふとど
)
きな
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
して
右守
(
うもり
)
の
館
(
やかた
)
を
攪乱
(
かくらん
)
せむとするのか。
242
不忠
(
ふちう
)
不義
(
ふぎ
)
の
痴
(
し
)
れ
者
(
もの
)
奴
(
め
)
、
243
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
暇
(
ひま
)
を
遣
(
つか
)
はす。
244
トツトと
出
(
で
)
て
行
(
ゆ
)
かう』
245
テーナ姫
『これカールチンさま、
246
マンモスが
居
(
ゐ
)
ると
大変
(
たいへん
)
に
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
がお
悪
(
わる
)
いでせう。
247
序
(
ついで
)
に
妾
(
わたし
)
も
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
りますと
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
が
嘸
(
さぞ
)
お
悪
(
わる
)
う
御座
(
ござ
)
いませう。
248
妾
(
わたし
)
はこれから
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
ります。
249
何程
(
なにほど
)
貴方
(
あなた
)
に
棄
(
す
)
てられても、
250
決
(
けつ
)
して
難儀
(
なんぎ
)
は
致
(
いた
)
しませぬ。
251
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
に
女
(
をんな
)
の
廃
(
すた
)
り
物
(
もの
)
はありませぬぞや。
252
女
(
をんな
)
やもめ
[
※
初版・三版・愛世版では「男やもめ」だが、校定版では「女やもめ」に直している。文脈上は「女やもめ」が妥当。
]
に
蛆
(
うぢ
)
が
湧
(
わ
)
きませぬぞえ。
253
大
(
おほ
)
きに
永々
(
ながなが
)
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になりました。
254
何卒
(
どうぞ
)
鬼薊
(
おにあざみ
)
の
様
(
やう
)
なお
方
(
かた
)
と
末永
(
すえなが
)
うお
添
(
そ
)
ひなさいませ。
255
これマンモス、
256
捨
(
す
)
てる
神
(
かみ
)
があれば
拾
(
ひろ
)
ふ
神
(
かみ
)
もある。
257
妾
(
わたし
)
の
財産
(
ざいさん
)
だつて、
258
云
(
い
)
ふと
済
(
す
)
まぬが、
259
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
より
倍
(
ばい
)
以上
(
いじやう
)
もあるから
心配
(
しんぱい
)
なさるな、
260
屹度
(
きつと
)
養
(
やしな
)
うて
上
(
あ
)
げますぞや。
261
えーえー、
262
こんな
所
(
ところ
)
にようも
二十
(
にじふ
)
年
(
ねん
)
も
居
(
を
)
つた
事
(
こと
)
だ』
263
と
足
(
あし
)
で
畳
(
たたみ
)
を
蹴
(
け
)
り
立
(
た
)
て
髪
(
かみ
)
ふり
乱
(
みだ
)
し、
264
恥
(
はぢ
)
も
外聞
(
ぐわいぶん
)
も
構
(
かま
)
はばこそ、
265
オンオンと
狼泣
(
おほかみな
)
きしながら
館
(
やかた
)
を
後
(
あと
)
に
何処
(
いづこ
)
ともなく
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
266
後
(
あと
)
見送
(
みおく
)
つてカールチンは、
267
さも
嬉
(
うれ
)
し
気
(
げ
)
に
肩
(
かた
)
を
聳
(
そび
)
やかし、
268
頤
(
あご
)
をしやくり
独言
(
ひとりごと
)
を
云
(
い
)
つてゐる。
269
カールチン
『アハヽヽヽヽ、
270
都合
(
つがふ
)
の
好
(
い
)
い
時
(
とき
)
には
何処
(
どこ
)
までも
都合
(
つがふ
)
の
好
(
よ
)
いものだな。
271
如何
(
どう
)
して
追放
(
おつぽ
)
り
出
(
だ
)
さうかと、
272
そればかり
思案
(
しあん
)
してゐたのに、
273
自分
(
じぶん
)
の
方
(
はう
)
から
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
すと
云
(
い
)
ふのは、
274
何
(
な
)
したマア
都合
(
つがふ
)
のいい
事
(
こと
)
だらう。
275
あれ
丈
(
だけ
)
乱暴
(
らんばう
)
して
行
(
い
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
276
よもやテーナも
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
る
考
(
かんが
)
へぢやあるまいし、
277
俺
(
おれ
)
だつてあれだけ
踏
(
ふ
)
みつけられた
女
(
をんな
)
を、
278
又
(
また
)
ノメノメと
家
(
うち
)
において
置
(
お
)
く
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
では、
279
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
の
威勢
(
ゐせい
)
も
空
(
から
)
つきり
駄目
(
だめ
)
になつて
了
(
しま
)
ふ。
280
もう
何人
(
なんぴと
)
が
仲裁
(
ちうさい
)
に
這入
(
はい
)
つても
聞
(
き
)
く
必要
(
ひつえう
)
はない。
281
エヘヽヽヽヽ
福
(
ふく
)
の
神
(
かみ
)
の
御
(
ご
)
入来
(
じゆらい
)
、
282
貧乏神
(
びんばふがみ
)
の
御
(
ご
)
退却
(
たいきやく
)
、
283
実
(
じつ
)
に
恐
(
おそ
)
れ
入谷
(
いりや
)
の
鬼子
(
きし
)
母神
(
ぼじん
)
、
284
そこへヤスダラ
姫
(
ひめ
)
の
弁財天
(
べんざいてん
)
が
御
(
ご
)
降臨
(
かうりん
)
遊
(
あそ
)
ばし、
285
暫
(
しばら
)
く
天之
(
あめの
)
御柱
(
みはしら
)
、
286
国之
(
くにの
)
御柱
(
みはしら
)
を
巡
(
めぐ
)
り
合
(
あ
)
ふうち、
287
忽
(
たちま
)
ち
布袋
(
ほてい
)
さまと
早変
(
はやがは
)
り、
288
大黒天
(
だいこくてん
)
さまもお
羨
(
うらや
)
み
遊
(
あそ
)
ばすやうな
円満
(
ゑんまん
)
な
家庭
(
かてい
)
を
作
(
つく
)
り、
289
仮令
(
たとへ
)
女房
(
にようばう
)
の
素性
(
すじやう
)
が
毘舎門天
(
びしやもんてん
)
でも
美人
(
びじん
)
でさへあれば、
290
それで
本能
(
ほんのう
)
が
満足
(
まんぞく
)
するのだ。
291
それさへあるにヤスダラ
姫
(
ひめ
)
は
刹帝利
(
せつていり
)
の
御
(
おん
)
種
(
たね
)
、
292
こんな
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
が、
293
ようマア
如何
(
どう
)
して
勃発
(
ぼつぱつ
)
したのだらうかな。
294
南無
(
なむ
)
大自在天
(
だいじざいてん
)
大国彦
(
おほくにひこの
)
大神
(
おほかみ
)
、
295
謹
(
つつし
)
み
敬
(
うやま
)
ひ
感謝
(
かんしや
)
し
奉
(
たてまつ
)
ります。
296
あゝあ
今日
(
けふ
)
位
(
くらゐ
)
目
(
め
)
の
上
(
うへ
)
の
瘤
(
こぶ
)
がとれて
愉快
(
ゆくわい
)
な
事
(
こと
)
があらうか。
297
エヘヽヽヽヽもう
誰
(
たれ
)
に
遠慮
(
ゑんりよ
)
も
要
(
い
)
らぬ、
298
天下
(
てんか
)
晴
(
は
)
れての
夫婦
(
ふうふ
)
だ』
299
と
独言
(
ひとりごと
)
を
独
(
ひと
)
り
喜
(
よろこ
)
んでゐる。
300
そこへ
隣
(
となり
)
の
襖
(
ふすま
)
をガラリと
引
(
ひ
)
き
開
(
あ
)
け、
301
髪
(
かみ
)
ふり
乱
(
みだ
)
し、
302
馮河
(
ひようが
)
暴虎
(
ばうこ
)
の
勢
(
いきほひ
)
で
現
(
あら
)
はれたのはテーナ
姫
(
ひめ
)
であつた。
303
矢庭
(
やには
)
に
首筋
(
くびすぢ
)
を
剛力
(
がうりき
)
に
任
(
まか
)
せてグツと
抑
(
おさ
)
へ、
304
テーナ姫
『えーえ、
305
何
(
なに
)
もかも
知
(
し
)
らぬかと
思
(
おも
)
うて
蛙
(
かへる
)
は
口
(
くち
)
から
白状
(
はくじやう
)
致
(
いた
)
したな。
306
もう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
はテーナ
姫
(
ひめ
)
が
死物狂
(
しにものぐるひ
)
、
307
生首
(
なまくび
)
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
き
地獄
(
ぢごく
)
の
八丁目
(
はつちやうめ
)
まで
担
(
かた
)
げて
行
(
い
)
つて
鬼
(
おに
)
に
喰
(
く
)
はしてやるから
左様
(
さう
)
思
(
おも
)
へ、
308
如何
(
どう
)
ぢや
如何
(
どう
)
ぢや』
309
と
頭
(
あたま
)
が
めしや
げる
程
(
ほど
)
畳
(
たたみ
)
に
圧
(
おさ
)
へつける。
310
カールチンは
苦
(
くる
)
しさに
堪
(
た
)
へかね、
311
キヤツと
悲鳴
(
ひめい
)
をあげる
途端
(
とたん
)
に、
312
テーナ姫
『これこれ
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
』
313
と
揺
(
ゆ
)
り
起
(
おこ
)
したのはテーナ
姫
(
ひめ
)
であつた。
314
テーナ姫
『
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
315
えらう
魘
(
うな
)
されてゐましたな。
316
しつかりなさいませ。
317
えらい
冷汗
(
ひやあせ
)
が
出
(
で
)
てゐますよ』
318
カールチン
『あゝあ、
319
夢
(
ゆめ
)
だつたか、
320
ま、
321
夢
(
ゆめ
)
でよかつた。
322
貴様
(
きさま
)
も
余程
(
よほど
)
ひどい
奴
(
やつ
)
だな』
323
テーナ姫
『
何
(
なん
)
ですか、
324
妾
(
わたし
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
御覧
(
ごらん
)
になりましたの。
325
へー、
326
何
(
なに
)
か
妾
(
わたし
)
に
怒
(
おこ
)
られるやうな
事
(
こと
)
をなさつてゐられるので、
327
そんな
夢
(
ゆめ
)
を
御覧
(
ごらん
)
になつたのでせう』
328
カールチン
『
何
(
なに
)
、
329
お
前
(
まへ
)
の
武者振
(
むしやぶり
)
を
夢
(
ゆめ
)
に
見
(
み
)
たのだ。
330
それはなア
随分
(
ずゐぶん
)
、
331
白馬
(
はくば
)
の
上
(
うへ
)
に
跨
(
また
)
がつて
軍隊
(
ぐんたい
)
を
指揮
(
しき
)
する
勢
(
いきほひ
)
は
目覚
(
めざま
)
しいものだつたよ。
332
あれが
俺
(
わし
)
の
女房
(
にようばう
)
かと
驚嘆
(
きやうたん
)
のあまり
目
(
め
)
が
覚
(
さ
)
めたのだよ、
333
アハヽヽヽ』
334
テーナ姫
『オホヽヽヽ』
335
(
大正一一・一一・一四
旧九・二六
北村隆光
録)
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