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第6巻(巳の巻)
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第11巻(戌の巻)
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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
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第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
第79巻(午の巻)
第80巻(未の巻)
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第42巻(巳の巻)
序文に代へて
総説に代へて
第1篇 波瀾重畳
01 北光照暗
〔1126〕
02 馬上歌
〔1127〕
03 山嵐
〔1128〕
04 下り坂
〔1129〕
第2篇 恋海慕湖
05 恋の罠
〔1130〕
06 野人の夢
〔1131〕
07 女武者
〔1132〕
08 乱舌
〔1133〕
09 狐狸窟
〔1134〕
第3篇 意変心外
10 墓場の怪
〔1135〕
11 河底の怪
〔1136〕
12 心の色々
〔1137〕
13 揶揄
〔1138〕
14 吃驚
〔1139〕
第4篇 怨月恨霜
15 帰城
〔1140〕
16 失恋会議
〔1141〕
17 酒月
〔1142〕
18 酊苑
〔1143〕
19 野襲
〔1144〕
第5篇 出風陣雅
20 入那立
〔1145〕
21 応酬歌
〔1146〕
22 別離の歌
〔1147〕
23 竜山別
〔1148〕
24 出陣歌
〔1149〕
25 惜別歌
〔1150〕
26 宣直歌
〔1151〕
余白歌
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第42巻
> 第4篇 怨月恨霜 > 第19章 野襲
<<< 酊苑
(B)
(N)
入那立 >>>
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第一九章
野襲
(
やしふ
)
〔一一四四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻
篇:
第4篇 怨月恨霜
よみ(新仮名遣い):
えんげつこんそう
章:
第19章 野襲
よみ(新仮名遣い):
やしゅう
通し章番号:
1144
口述日:
1922(大正11)年11月24日(旧10月6日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年7月1日
概要:
舞台:
イルナ城(入那城、セーラン王の館)
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
イルナ城の奥の間には、黄金姫、清照姫、ヤスダラ姫、セーリス姫の四人が火鉢を囲みながら神話にふけり、やがて話題はカールチンの身の上に移った。
黄金姫と清照姫は、カールチンは本当に改心したわけではないだろうから、用心しなければならないと警戒している。
ヤスダラ姫はイルナの城に暗闘が絶えないことを嘆いた。黄金姫は、これもセーラン王の治世が開けるために通らなければならない道であろうと諭した。そして右守も同じ神様の分霊であり、善導しなければならないと自ら戒めた。
そこへセーラン王は竜雲他を引き連れて現れ、黄金姫たちに挨拶し感謝の意を述べた。一同はそれぞれ述懐の歌を歌った。
にわかに玄関口が騒がしくなり、レーブが視察に出た。すると右守をはじめユーフテス、マンモス、その他十数人が地面に坐して酒を飲み、歌ったり刀を引き抜いて空を切ったり駆けまわったりしている。
レーブはこのありさまを王に復命した。王は、やがて目が覚めるまでそのままにしておくのがよかろうと答えた。一同はそれぞれの寝室に入って夜を明かした。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-12-28 15:30:21
OBC :
rm4219
愛善世界社版:
223頁
八幡書店版:
第7輯 722頁
修補版:
校定版:
228頁
普及版:
96頁
初版:
ページ備考:
001
入那城
(
いるなぢやう
)
の
奥
(
おく
)
の
一間
(
ひとま
)
には、
002
黄金姫
(
わうごんひめ
)
、
003
清照姫
(
きよてるひめ
)
、
004
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
、
005
セーリス
姫
(
ひめ
)
の
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
火鉢
(
ひばち
)
を
中
(
なか
)
に
囲
(
かこ
)
みながら、
006
神話
(
しんわ
)
に
耽
(
ふけ
)
り、
007
話
(
はなし
)
は
転
(
てん
)
じてカールチンの
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に
移
(
うつ
)
つた。
008
黄金
(
わうごん
)
『
右守司
(
うもりつかさ
)
も
種々
(
いろいろ
)
雑多
(
ざつた
)
として
刹帝利
(
せつていり
)
の
位
(
くらゐ
)
にならうと
思
(
おも
)
ひ、
009
工夫
(
くふう
)
に
工夫
(
くふう
)
を
廻
(
めぐ
)
らしてゐたが、
010
とうとう
清
(
きよ
)
さまの
美貌
(
びばう
)
に
迷
(
まよ
)
ひ、
011
欲
(
よく
)
と
恋
(
こひ
)
との
二道
(
ふたみち
)
を
歩
(
あゆ
)
まむとして、
012
一
(
いち
)
も
取
(
と
)
らず
二
(
に
)
も
取
(
と
)
らず、
013
しまひの
果
(
はて
)
には
諦
(
あきら
)
めたと
見
(
み
)
え………
兵士
(
つはもの
)
をハルナの
国
(
くに
)
へ
遣
(
つか
)
はして、
014
翼
(
つばさ
)
奪
(
と
)
られし
やもめ
鳥
(
どり
)
あはれ………なぞと
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
で
泣言
(
なきごと
)
をいつて
帰
(
かへ
)
つて
了
(
しま
)
つたが、
015
併
(
しか
)
しあれは
本気
(
ほんき
)
で
改心
(
かいしん
)
をしたのではありますまい。
016
キツと
今晩
(
こんばん
)
あたり、
017
失恋組
(
しつれんぐみ
)
を
語
(
かた
)
らうて
むし
返
(
かへ
)
しに
来
(
く
)
るかも
知
(
し
)
れませぬから、
018
皆
(
みな
)
さま、
019
決
(
けつ
)
して
油断
(
ゆだん
)
はなりませぬぞや』
020
セーリス『
左様
(
さやう
)
な
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
りますまい。
021
………かくならば
最早
(
もはや
)
右守
(
うもり
)
の
神司
(
かむづかさ
)
、
022
君
(
きみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
命
(
いのち
)
捧
(
ささ
)
げむ………と
云
(
い
)
つたのですから、
023
ヨモヤそんな
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい。
024
三百騎
(
さんびやくき
)
の
味方
(
みかた
)
は
既
(
すで
)
にハルナの
国
(
くに
)
へ
派遣
(
はけん
)
し、
025
武力
(
ぶりよく
)
は
既
(
すで
)
に
既
(
すで
)
に
根底
(
こんてい
)
から
削
(
そ
)
がれてゐるのだから、
026
何程
(
なにほど
)
向
(
むか
)
ふ
見
(
み
)
ずの
右守
(
うもり
)
だつて、
027
そんな
馬鹿
(
ばか
)
なことは
致
(
いた
)
しますまいよ。
028
………いざさらば
命
(
いのち
)
をめせよセーラン
王
(
わう
)
、
029
欲
(
よく
)
と
恋
(
こひ
)
とに
迷
(
まよ
)
ひし
吾
(
われ
)
を………と
云
(
い
)
つて、
030
命
(
いのち
)
まで
差出
(
さしだ
)
したのですからな』
031
清照
(
きよてる
)
『さう
楽観
(
らくくわん
)
は
出来
(
でき
)
ますまいよ。
032
恋
(
こひ
)
の
意地
(
いぢ
)
といふものは
恐
(
おそ
)
ろしいものですからなア。
033
私
(
わたし
)
がヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
になりすまして、
034
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
翻弄
(
ほんろう
)
したのだから、
035
男
(
をとこ
)
の
面
(
つら
)
を
下
(
さ
)
げて、
036
どうしてあのまま
泣
(
な
)
き
寝入
(
ねい
)
りが
出来
(
でき
)
ますものか。
037
お
母
(
かあ
)
アさまの
仰有
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
り、
038
キツと
今晩
(
こんばん
)
あたり、
039
失恋組
(
しつれんぐみ
)
が
暗殺隊
(
あんさつたい
)
を
組織
(
そしき
)
してやつて
来
(
く
)
るに
違
(
ちが
)
ひありませぬ………
思
(
おも
)
はざる
人
(
ひと
)
に
思
(
おも
)
はれ
恋
(
こ
)
はれしと、
040
思
(
おも
)
ひしことを
悲
(
かな
)
しくぞ
思
(
おも
)
ふ………と
云
(
い
)
つて、
041
未練
(
みれん
)
らしく
愚痴
(
ぐち
)
をこぼしてゐましたもの、
042
キツと
此
(
この
)
儘
(
まま
)
で
泣
(
な
)
き
寝入
(
ねい
)
りは
致
(
いた
)
しますまい』
043
セーリス『それでも
右守司
(
うもりつかさ
)
は………
今
(
いま
)
よりは
生
(
うま
)
れ
赤子
(
あかご
)
になり
変
(
かは
)
り、
044
神
(
かみ
)
と
君
(
きみ
)
とに
誠
(
まこと
)
捧
(
ささ
)
げむ………と
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
で
言明
(
げんめい
)
したではありませぬか。
045
あの
時
(
とき
)
こそ
私
(
わたし
)
は
右守司
(
うもりつかさ
)
の
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
出
(
で
)
た
言葉
(
ことば
)
と
感
(
かん
)
じました』
046
ヤスダラ『
如何
(
どう
)
してマア
此
(
この
)
入那
(
いるな
)
の
城
(
しろ
)
は
暗闘
(
あんとう
)
が
絶
(
た
)
えないのでせう。
047
昔
(
むかし
)
から
左守
(
さもり
)
、
048
右守
(
うもり
)
は
犬猫
(
いぬねこ
)
同様
(
どうやう
)
ぢやと
聞
(
き
)
いてゐました。
049
仲
(
なか
)
の
悪
(
わる
)
い
者
(
もの
)
同志
(
どうし
)
の
標語
(
へうご
)
は
犬
(
いぬ
)
と
猿
(
さる
)
とではなくて、
050
入那城
(
いるなじやう
)
の
左守
(
さもり
)
、
051
右守
(
うもり
)
と
云
(
い
)
ふ
用語
(
ようご
)
迄
(
まで
)
出来
(
でき
)
てゐるではありませぬか。
052
何
(
なん
)
とかしてかういふことのないやうに
守
(
まも
)
つて
貰
(
もら
)
ひたいものでありますなア』
053
黄金
(
わうごん
)
『ヤア
是
(
これ
)
も
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
の
開
(
ひら
)
ける
径路
(
けいろ
)
かも
知
(
し
)
れませぬ。
054
イヤ
之
(
これ
)
が
却
(
かへつ
)
て
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
尊
(
たふと
)
き
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
ですよ。
055
王者
(
わうじや
)
争臣
(
さうしん
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
あれば
其
(
その
)
位
(
くらゐ
)
を
失
(
うしな
)
はず、
056
諸侯
(
しよこう
)
争臣
(
さうしん
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
あれば
其
(
その
)
国
(
くに
)
を
失
(
うしな
)
はず、
057
大夫
(
たいふ
)
争臣
(
さうしん
)
二
(
に
)
人
(
にん
)
あれば
其
(
その
)
家
(
いへ
)
を
失
(
うしな
)
はずとかいひまして、
058
如何
(
どう
)
しても
争
(
あらそ
)
ひといふものは
根絶
(
こんぜつ
)
するものではありませぬ。
059
又
(
また
)
争
(
あらそ
)
ひの
根絶
(
こんぜつ
)
した
時
(
とき
)
は
国家
(
こくか
)
の
亡
(
ほろ
)
ぶる
時
(
とき
)
ですから、
060
動中静
(
どうちうせい
)
あり、
061
静中動
(
せいちうどう
)
ありといふ
惟神
(
かむながら
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
でせう。
062
右守司
(
うもりつかさ
)
の
陰謀
(
いんぼう
)
があつた
為
(
ため
)
、
063
セーラン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
も
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
が
天下
(
てんか
)
に
輝
(
かがや
)
くのでせう。
064
いつもかも
平穏
(
へいをん
)
無事
(
ぶじ
)
であれば、
065
王
(
わう
)
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
め
人心
(
じんしん
)
弛緩
(
ちくわん
)
して
国家
(
こくか
)
はますます
衰頽
(
すゐたい
)
し、
066
政治
(
せいぢ
)
を
怠
(
をこた
)
り、
067
遂
(
つひ
)
には
国家
(
こくか
)
自滅
(
じめつ
)
の
悲運
(
ひうん
)
に
陥
(
おちい
)
るものです。
068
これを
思
(
おも
)
へば
右守司
(
うもりつかさ
)
だつてヤツパリ
入那
(
いるな
)
の
国
(
くに
)
の
柱石
(
ちうせき
)
、
069
心
(
こころ
)
の
企
(
たく
)
みは
憎
(
にく
)
むべきであるが、
070
彼
(
かれ
)
が
謀反
(
むほん
)
を
企
(
たく
)
んだ
為
(
ため
)
に
王
(
わう
)
の
位置
(
ゐち
)
はますます
鞏固
(
きようこ
)
となり、
071
入那城
(
いるなじやう
)
の
弛
(
ゆる
)
んで
居
(
を
)
つた
箍
(
たが
)
は
緊張
(
きんちやう
)
し、
072
国家
(
こくか
)
百
(
ひやく
)
年
(
ねん
)
の
基礎
(
きそ
)
を
造
(
つく
)
つたやうなものですから、
073
右守司
(
うもりつかさ
)
にして
改心
(
かいしん
)
した
以上
(
いじやう
)
は、
074
何処
(
どこ
)
までも
許
(
ゆる
)
してやらねばなりますまい。
075
なア、
076
ヤスダラ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
077
貴女
(
あなた
)
は
如何
(
いか
)
に
思召
(
おぼしめ
)
しますか』
078
ヤスダラ姫
『
何事
(
なにごと
)
も
善悪
(
ぜんあく
)
正邪
(
せいじや
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
御
(
お
)
審判
(
さばき
)
遊
(
あそ
)
ばすのですから、
079
吾々
(
われわれ
)
としては
右守司
(
うもりつかさ
)
の
罪
(
つみ
)
を
糺弾
(
きうだん
)
することは
出来
(
でき
)
ますまい。
080
又
(
また
)
自分
(
じぶん
)
に
省
(
かへり
)
みて
見
(
み
)
れば、
081
罪
(
つみ
)
に
汚
(
けが
)
れた
吾々
(
われわれ
)
同志
(
どうし
)
が、
082
如何
(
いか
)
にして
人
(
ひと
)
を
審判
(
さば
)
く
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませうぞ。
083
只
(
ただ
)
惟神
(
かむながら
)
に
御
(
お
)
任
(
まか
)
せするより
仕方
(
しかた
)
はありませぬ』
084
黄金姫
『さうですなア。
085
右守司
(
うもりつかさ
)
だつて
吾々
(
われわれ
)
と
同
(
おな
)
じ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
分霊
(
ぶんれい
)
、
086
もとより
悪人
(
あくにん
)
ではありませぬ。
087
悪神
(
あくがみ
)
に
憑依
(
ひようい
)
されて、
088
良心
(
りやうしん
)
の
許
(
ゆる
)
さぬ
野心
(
やしん
)
を
遂行
(
すゐかう
)
しようとしたのですから、
089
其
(
その
)
悪神
(
あくがみ
)
を
憐
(
あは
)
れみ
肉体
(
にくたい
)
を
憐
(
あは
)
れんで、
090
善道
(
ぜんだう
)
に
立帰
(
たちかへ
)
るやうにせなくては、
091
吾々
(
われわれ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
の
職務
(
しよくむ
)
が
勤
(
つと
)
まりますまい。
092
同
(
おな
)
じ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
氏子
(
うぢこ
)
だから、
093
只
(
ただ
)
の
一人
(
ひとり
)
でもツツボにおとしては
神界
(
しんかい
)
へ
済
(
す
)
みませぬ。
094
右守司
(
うもりつかさ
)
は
春秋
(
しゆんじう
)
の
筆法
(
ひつぱふ
)
を
以
(
もつ
)
て
論
(
ろん
)
ずれば、
095
右守司
(
うもりつかさ
)
王位
(
わうゐ
)
を
守
(
まも
)
る
入那城
(
いるなじやう
)
に
忠勤
(
ちうきん
)
を
励
(
はげ
)
むと
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
すことも
出来
(
でき
)
ませう。
096
言
(
い
)
はば
入那城
(
いるなじやう
)
に
対
(
たい
)
する
救
(
すく
)
ひの
神
(
かみ
)
ですワ。
097
あの
鷹
(
たか
)
といふ
鳥
(
とり
)
は、
098
生餌
(
なまゑ
)
ばかり
食
(
く
)
つて
生
(
い
)
きてる
猛鳥
(
まうてう
)
だが、
099
冬
(
ふゆ
)
になると
爪先
(
つまさき
)
が
冷
(
ひ
)
えて、
100
吾
(
わが
)
身
(
み
)
が
持
(
も
)
てないので、
101
温
(
ぬく
)
め
鳥
(
どり
)
といつて、
102
小鳥
(
ことり
)
を
捕獲
(
ほくわく
)
し、
103
両足
(
りやうあし
)
の
爪
(
つめ
)
でソツと
握
(
にぎ
)
り、
104
吾
(
わが
)
爪
(
つめ
)
を
温
(
あたた
)
め、
105
ソツと
放
(
はな
)
してやるといふことだ。
106
そして
其
(
その
)
小鳥
(
ことり
)
の
逃
(
に
)
げて
行
(
い
)
つた
方向
(
はうかう
)
をよく
認
(
みと
)
めておいて、
107
三日
(
みつか
)
が
間
(
あひだ
)
は
其
(
その
)
方面
(
はうめん
)
の
小鳥
(
ことり
)
を
捕
(
とら
)
へないといふぢやありませぬか。
108
鳥
(
とり
)
でさへもそれ
丈
(
だけ
)
の
勘弁
(
かんべん
)
があるのだから、
109
いはば
王
(
わう
)
様
(
さま
)
は
鷹
(
たか
)
で、
110
右守司
(
うもりつかさ
)
は
温
(
ぬく
)
め
鳥
(
どり
)
のやうなものだ。
111
キツと
賢明
(
けんめい
)
な
王
(
わう
)
様
(
さま
)
は
右守司
(
うもりつかさ
)
の
罪
(
つみ
)
をお
赦
(
ゆる
)
し
遊
(
あそ
)
ばすでせう。
112
どうで
今宵
(
こよひ
)
は
夜襲
(
やしふ
)
に
来
(
く
)
るでせうが、
113
大江山
(
たいかうざん
)
の
眷族
(
けんぞく
)
旭
(
あさひ
)
、
114
月日
(
つきひ
)
、
115
高倉
(
たかくら
)
明神
(
みやうじん
)
様
(
さま
)
がお
守
(
まも
)
りある
以上
(
いじやう
)
は、
116
キツと
目的
(
もくてき
)
を
得達
(
えたつ
)
せず、
117
改心
(
かいしん
)
を
致
(
いた
)
すでせう』
118
かく
話
(
はな
)
す
所
(
ところ
)
へ、
119
セーラン
王
(
わう
)
は
竜雲
(
りううん
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
忠実
(
ちうじつ
)
なる
臣下
(
しんか
)
を
従
(
したが
)
へ
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
120
黄金姫
(
わうごんひめ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
121
セーラン王
『いろいろ
雑多
(
ざつた
)
の
御
(
お
)
心
(
こころ
)
配
(
くば
)
りに
依
(
よ
)
つて、
122
入那城
(
いるなじやう
)
も
稍
(
やや
)
安泰
(
あんたい
)
の
曙光
(
しよくくわう
)
を
認
(
みと
)
めました。
123
全
(
まつた
)
く
黄金姫
(
わうごんひめ
)
様
(
さま
)
母子
(
おやこ
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
の
賜物
(
たまもの
)
で
厶
(
ござ
)
います。
124
返
(
かへ
)
す
返
(
がへ
)
すも
有難
(
ありがた
)
く
存
(
ぞん
)
じます』
125
と
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てる。
126
黄金姫
(
わうごんひめ
)
は
歌
(
うた
)
を
以
(
もつ
)
て
之
(
これ
)
に
答
(
こた
)
ふ。
127
黄金姫
『
月
(
つき
)
も
日
(
ひ
)
も
入那
(
いるな
)
の
城
(
しろ
)
に
現
(
あら
)
はれて
128
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
の
教
(
をしへ
)
照
(
て
)
らせり。
129
三五
(
あななひ
)
の
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
畏
(
かしこ
)
みて
130
これの
大道
(
おほぢ
)
を
守
(
まも
)
りませ
君
(
きみ
)
。
131
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
善
(
よ
)
しも
悪
(
あ
)
しきも
分
(
わか
)
ちなく
132
守
(
まも
)
らせ
給
(
たま
)
ふ
神
(
かみ
)
の
御稜威
(
みいづ
)
は』
133
セーラン『
今
(
いま
)
となり
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
尊
(
たふと
)
さを
134
悟
(
さと
)
りし
吾
(
われ
)
ぞ
愚
(
おろか
)
なりけり。
135
愚
(
おろ
)
かなる
心
(
こころ
)
に
智慧
(
ちゑ
)
の
御光
(
みひかり
)
を
136
照
(
て
)
らさせ
給
(
たま
)
ひし
三五
(
あななひ
)
の
神
(
かみ
)
』
137
ヤスダラ『
大君
(
おほぎみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
国
(
くに
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
と
138
思
(
おも
)
ひ
悩
(
なや
)
みて
神
(
かみ
)
を
忘
(
わす
)
れつ。
139
神
(
かみ
)
なくて
如何
(
いか
)
でか
国
(
くに
)
の
治
(
をさ
)
まらむ
140
われはこれより
神
(
かみ
)
に
一筋
(
ひとすぢ
)
。
141
神
(
かみ
)
と
君
(
きみ
)
仰
(
あふ
)
ぎまつりて
国民
(
くにたみ
)
に
142
誠
(
まこと
)
を
教
(
をし
)
へ
諭
(
さと
)
し
行
(
ゆ
)
かなむ』
143
竜雲
(
りううん
)
『
三五
(
あななひ
)
の
大道
(
おほぢ
)
を
進
(
すす
)
む
身
(
み
)
なりせば
144
醜
(
しこ
)
の
曲津
(
まがつ
)
もさやるべきかは。
145
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
ねぢけし
竜雲
(
りううん
)
も
146
神
(
かみ
)
に
照
(
て
)
らされ
真人
(
まびと
)
となりぬ。
147
神
(
かみ
)
を
知
(
し
)
り
教
(
をしへ
)
を
知
(
し
)
るは
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
の
148
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
の
務
(
つと
)
めなるらむ』
149
清照
(
きよてる
)
『
皇神
(
すめかみ
)
の
御稜威
(
みいづ
)
は
空
(
そら
)
に
清照姫
(
きよてるひめ
)
の
150
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
も
心
(
こころ
)
輝
(
かがや
)
く。
151
今
(
いま
)
ははや
入那
(
いるな
)
の
城
(
しろ
)
を
包
(
つつ
)
みたる
152
雲霧
(
くもきり
)
払
(
はら
)
ひし
心地
(
ここち
)
こそすれ』
153
黄金
(
わうごん
)
『
今
(
いま
)
しばし
醜
(
しこ
)
の
雲霧
(
くもきり
)
包
(
つつ
)
むとも
154
神
(
かみ
)
の
伊吹
(
いぶき
)
に
払
(
はら
)
ひよけなむ。
155
セーランの
王
(
きみ
)
の
命
(
みこと
)
よきこしめせ
156
今宵
(
こよひ
)
は
右守
(
うもり
)
のすさびあるべき』
157
セーラン『よしやよし
右守司
(
うもりつかさ
)
の
荒
(
すさ
)
ぶとも
158
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
りの
繁
(
しげ
)
き
吾
(
わが
)
身
(
み
)
ぞ。
159
惟神
(
かむながら
)
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
に
任
(
まか
)
してゆ
160
心
(
こころ
)
にかかる
村雲
(
むらくも
)
もなし。
161
悲
(
かな
)
しみも
亦
(
また
)
戦
(
をのの
)
きも
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せぬ
162
神
(
かみ
)
の
光
(
ひかり
)
に
照
(
て
)
らされし
吾
(
あ
)
は』
163
セーリス『
大君
(
おほぎみ
)
よ
心
(
こころ
)
ゆるさせ
給
(
たま
)
ふまじ
164
ひまゆく
駒
(
こま
)
の
繁
(
しげ
)
き
世
(
よ
)
なれば』
165
レーブ『われは
今
(
いま
)
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
に
従
(
したが
)
ひて
166
高天原
(
たかあまはら
)
に
住
(
す
)
む
心地
(
ここち
)
なり。
167
さりながら
高天原
(
たかあまはら
)
も
苦
(
くる
)
しみの
168
交
(
まじ
)
らふ
世
(
よ
)
ぞと
心
(
こころ
)
許
(
ゆる
)
さず』
169
カル『かけまくも
畏
(
かしこ
)
き
神
(
かみ
)
の
御光
(
みひかり
)
を
170
仰
(
あふ
)
ぎ
敬
(
うやま
)
ふ
身
(
み
)
こそ
安
(
やす
)
けれ。
171
黄金姫
(
わうごんひめ
)
貴
(
うづ
)
の
命
(
みこと
)
に
従
(
したが
)
ひて
172
入那
(
いるな
)
の
城
(
しろ
)
に
来
(
きた
)
りし
嬉
(
うれ
)
しさ』
173
テームス『
照
(
て
)
りわたる
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御教
(
みをしへ
)
に
174
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
の
暗
(
やみ
)
を
照
(
て
)
らさむ。
175
常世
(
とこよ
)
ゆく
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
に
隠
(
かく
)
れます
176
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
を
引出
(
ひきだ
)
しまつれ。
177
今
(
いま
)
は
早
(
はや
)
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
の
開
(
ひら
)
け
口
(
ぐち
)
178
イルナの
国
(
くに
)
もやがて
栄
(
さか
)
えむ』
179
清照
(
きよてる
)
『
大神
(
おほかみ
)
と
君
(
きみ
)
と
国
(
くに
)
との
其
(
その
)
為
(
ため
)
に
180
心
(
こころ
)
尽
(
つく
)
しの
果
(
はて
)
までゆかむ』
181
セーリス『よからざる
事
(
こと
)
と
知
(
し
)
りつつユーフテスを
182
あやつり
来
(
きた
)
りし
心
(
こころ
)
恥
(
はづか
)
し。
183
さはいへど
神
(
かみ
)
と
君
(
きみ
)
との
為
(
ため
)
ならば
184
許
(
ゆる
)
させ
給
(
たま
)
へ
三五
(
あななひ
)
の
神
(
かみ
)
』
185
清照
(
きよてる
)
『われも
亦
(
また
)
よからぬ
事
(
こと
)
と
知
(
し
)
りながら
186
右守
(
うもり
)
の
司
(
かみ
)
をあやなしにけり。
187
カールチン
右守
(
うもり
)
の
司
(
つかさ
)
よ
赦
(
ゆる
)
せかし
188
清照姫
(
きよてるひめ
)
のいたづら
事
(
ごと
)
を。
189
右守
(
うもり
)
をばもとより
憎
(
にく
)
しと
思
(
おも
)
はねど
190
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
には
是非
(
ぜひ
)
もなければ』
191
竜雲
(
りううん
)
『
何事
(
なにごと
)
も
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
は
許
(
ゆる
)
すべし
192
身欲
(
みよく
)
の
為
(
ため
)
のわざにあらねば』
193
かく
歌
(
うた
)
ふ
時
(
とき
)
しも、
194
俄
(
にはか
)
に
玄関口
(
げんくわんぐち
)
の
騒
(
さわ
)
がしさに、
195
レーブは
一同
(
いちどう
)
の
許
(
ゆる
)
しを
受
(
う
)
け、
196
視察
(
しさつ
)
のために
表
(
おもて
)
へ
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
した。
197
レーブは
息
(
いき
)
を
凝
(
こ
)
らして
外
(
そと
)
の
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
ひ
見
(
み
)
るに、
198
右守司
(
うもりつかさ
)
を
始
(
はじ
)
めユーフテス、
199
マンモス
其
(
その
)
他
(
た
)
十数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
は、
200
庭
(
には
)
に
敷物
(
しきもの
)
も
敷
(
し
)
かずドツカと
坐
(
ざ
)
し、
201
携
(
たづさ
)
へ
持
(
も
)
つた
瓢
(
ひさご
)
の
酒
(
さけ
)
をグビリグビリと
呑
(
の
)
みながら、
202
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて
切
(
しき
)
りに
歌
(
うた
)
つてゐる。
203
かと
思
(
おも
)
へば、
204
大刀
(
だいたう
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
き
空
(
くう
)
を
切
(
き
)
り、
205
右
(
みぎ
)
へ
左
(
ひだり
)
へかけまはりつつ、
206
バタリと
倒
(
たふ
)
れては
起上
(
おきあが
)
り、
207
一種
(
いつしゆ
)
異様
(
いやう
)
の
狂態
(
きやうたい
)
を
演
(
えん
)
じてゐる。
208
レーブは
不審
(
ふしん
)
晴
(
は
)
れやらず、
209
直
(
ただち
)
に
奥殿
(
おくでん
)
に
引返
(
ひつかへ
)
し、
210
王
(
わう
)
の
前
(
まへ
)
に
復命
(
ふくめい
)
した。
211
レーブ
『
申上
(
まをしあ
)
げます、
212
庭先
(
にはさき
)
の
騒々
(
さうざう
)
しさに、
213
命
(
めい
)
に
依
(
よ
)
つて
何事
(
なにごと
)
ならむと
覗
(
うかが
)
ひみれば、
214
豈
(
あに
)
はからむや、
215
右守司
(
うもりつかさ
)
、
216
門先
(
もんさき
)
に
十数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
と
共
(
とも
)
にドツカと
坐
(
ざ
)
し、
217
酒
(
さけ
)
を
汲
(
く
)
み
交
(
かは
)
し、
218
歌
(
うた
)
つて
居
(
ゐ
)
るかと
見
(
み
)
れば、
219
長刀
(
なぎなた
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
き、
220
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
切
(
き
)
り
捲
(
まく
)
つて
居
(
を
)
りました。
221
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
、
222
白狐
(
びやくこ
)
さまに
騙
(
だま
)
されて、
223
月
(
つき
)
照
(
て
)
る
土
(
つち
)
の
上
(
うへ
)
によい
気
(
き
)
になつて
酒宴
(
しゆえん
)
を
催
(
もよほ
)
してゐるのでせう。
224
右守司
(
うもりつかさ
)
は
大変
(
たいへん
)
ないい
声
(
こゑ
)
で
詩吟
(
しぎん
)
をやつてゐました………
月卿
(
げつけい
)
雲客
(
うんきやく
)
或
(
あるひ
)
は
長汀
(
ちやうてい
)
の
月
(
つき
)
に
策
(
むち
)
をあげ、
225
或
(
あるひ
)
は
曲浦
(
きよくほ
)
の
波
(
なみ
)
に
棹
(
さを
)
をさし
給
(
たま
)
へば、
226
巴猿
(
はゑん
)
一度
(
ひとたび
)
叫
(
さけ
)
んで
舟
(
ふね
)
を
明月峡
(
めいげつけふ
)
の
辺
(
ほとり
)
に
停
(
とど
)
め、
227
胡馬
(
こば
)
忽
(
たちま
)
ち
嘶
(
いなな
)
いて
道
(
みち
)
を
黄沙磧
(
くわうさせき
)
の
裏
(
うら
)
に
失
(
うしな
)
ふ………なんて
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
と
剣舞
(
けんぶ
)
をやつてゐましたよ。
228
あの
詩
(
し
)
から
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
ますれば、
229
畏
(
おそれおほ
)
くも
王
(
わう
)
様
(
さま
)
を
放逐
(
はうちく
)
し、
230
あとの
天下
(
てんか
)
を
握
(
にぎ
)
つた
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
てゐるらしう
厶
(
ござ
)
います。
231
実
(
じつ
)
に
乱痴気
(
らんちき
)
騒
(
さわ
)
ぎといつたら
見
(
み
)
られたものぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ』
232
セーラン王
『
軈
(
やが
)
て
目
(
め
)
が
醒
(
さ
)
めるだらうから、
233
明日
(
あす
)
の
朝
(
あさ
)
まで
打
(
う
)
ちやつておくがよからう。
234
折角
(
せつかく
)
天下
(
てんか
)
を
取
(
と
)
つた
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
て
喜
(
よろこ
)
んでゐるのに、
235
中途
(
ちうと
)
に
醒
(
さま
)
してやるのは
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だ。
236
夢
(
ゆめ
)
になりとも
一度
(
いちど
)
天下
(
てんか
)
を
取
(
と
)
つて
見
(
み
)
たいといふ
者
(
もの
)
がある
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だから、
237
一刻
(
いつこく
)
も
長
(
なが
)
く
目
(
め
)
の
醒
(
さ
)
めぬやうに
楽
(
たのし
)
ましてやるがよからう。
238
アハヽヽヽ』
239
黄金
(
わうごん
)
『オホヽヽヽ
王
(
わう
)
様
(
さま
)
も
余程
(
よほど
)
仁慈
(
じんじ
)
の
心
(
こころ
)
が
発達
(
はつたつ
)
しましたねえ。
240
其
(
その
)
御
(
お
)
心
(
こころ
)
でなくては、
241
人
(
ひと
)
の
頭
(
かしら
)
にはなれませぬぞ。
242
サア
皆
(
みな
)
さま、
243
明日
(
あす
)
の
朝
(
あさ
)
まで、
244
ゆつくりと
就寝
(
しうしん
)
致
(
いた
)
しませう。
245
明日
(
あす
)
は
又
(
また
)
面白
(
おもしろ
)
い
芝居
(
しばゐ
)
が
見
(
み
)
られませうからなア』
246
清照姫
『お
母
(
か
)
アさま、
247
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
ですが、
248
私
(
わたし
)
だけ
一寸
(
ちよつと
)
其
(
その
)
場
(
ば
)
へ
出張
(
しゆつちやう
)
させて
頂
(
いただ
)
く
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬか。
249
メツタに
心機
(
しんき
)
一転
(
いつてん
)
して、
250
右守司
(
うもりのかみ
)
様
(
さま
)
に
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
るやうなことは
致
(
いた
)
しませぬから………』
251
黄金姫
『オホヽヽヽ
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
剣呑
(
けんのん
)
で
堪
(
たま
)
らないから、
252
清
(
きよ
)
さまは
母
(
はは
)
の
側
(
そば
)
を
一寸
(
ちよつと
)
も
離
(
はな
)
れちやなりませぬ、
253
猫
(
ねこ
)
に
鰹節
(
かつをぶし
)
だからなア。
254
オホヽヽ』
255
清照姫
『お
母
(
か
)
アさまの
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさらぬやうに、
256
セーリス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
257
貴女
(
あなた
)
と
二人
(
ふたり
)
参
(
まゐ
)
りませうかねえ。
258
さうすりや、
259
お
母
(
か
)
アさまだつて
心配
(
しんぱい
)
はなされますまい』
260
セーリス姫
『イエイエ、
261
それでも
貴女
(
あなた
)
はカールチンさまに、
262
私
(
わたし
)
はユーフテスさまに
揶揄
(
からか
)
つた
覚
(
おぼ
)
えがあるのだもの、
263
袖
(
そで
)
ふり
合
(
あ
)
ふも
多生
(
たしやう
)
の
縁
(
えん
)
と
云
(
い
)
つて、
264
万更
(
まんざら
)
の
他人
(
たにん
)
ではありませぬからねえ。
265
ヒヨツとして
出来
(
でき
)
心
(
ごころ
)
が
起
(
おこ
)
つたら、
266
又
(
また
)
お
母
(
か
)
アさまに
要
(
い
)
らぬ
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
ませねばなりますまい。
267
モウやめませうか』
268
清照姫
『だつて
貴女
(
あなた
)
、
269
此
(
この
)
儘
(
まま
)
寝
(
ね
)
るのも、
270
何
(
なん
)
だか
気
(
き
)
が
利
(
き
)
きませぬワ』
271
黄金姫
『コレ
清
(
きよ
)
さま、
272
腹
(
はら
)
の
悪
(
わる
)
い。
273
又
(
また
)
しても
老人
(
としより
)
に
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
まさうと
思
(
おも
)
つて
揶揄
(
からか
)
つてゐるのだなア。
274
モウ
何時
(
なんどき
)
だと
思
(
おも
)
つてゐなさる。
275
山河
(
さんか
)
草木
(
さうもく
)
も
眠
(
ねむ
)
る
丑満
(
うしみつ
)
の
刻
(
こく
)
ですよ』
276
清照姫
『
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
だから………
左様
(
さやう
)
ならば、
277
今晩
(
こんばん
)
はドツと
譲歩
(
じやうほ
)
しまして、
278
お
母
(
か
)
アさまの
提案
(
ていあん
)
に
盲従
(
まうじゆう
)
致
(
いた
)
しませう。
279
盲従組
(
まうじゆうぐみ
)
のお
方
(
かた
)
は
起立
(
きりつ
)
を
願
(
ねが
)
ひます。
280
オホヽヽヽ』
281
セーラン
王
(
わう
)
は
微笑
(
びせう
)
を
泛
(
うか
)
べながら
独
(
ひと
)
り
寝室
(
しんしつ
)
に
入
(
い
)
る。
282
黄金姫
(
わうごんひめ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
一同
(
いちどう
)
も
微笑
(
びせう
)
しながら、
283
それぞれ
設
(
まう
)
けられた
寝室
(
しんしつ
)
に
入
(
い
)
つて
夜
(
よ
)
を
明
(
あ
)
かす
事
(
こと
)
となつた。
284
(
大正一一・一一・二四
旧一〇・六
松村真澄
録)
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