第一〇章 墓場の怪〔一一三五〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻
篇:第3篇 意変心外
よみ(新仮名遣い):いへんしんがい
章:第10章 墓場の怪
よみ(新仮名遣い):はかばのかい
通し章番号:1135
口述日:1922(大正11)年11月15日(旧09月27日)
口述場所:
筆録者:加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1924(大正13)年7月1日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:右守はいい機嫌で歌を歌いながら城への道を歩いていると、セーリス姫と白狐におどかされて逃げてきたユーフテスに突き当てられ、道の真ん中に倒れてしまった。
カールチンは怒って怒鳴りつけた。ユーフテスはこの声に、突き当たったのが右守であることを覚った。ユーフテスは白狐におどかされて意味のわからないことを右守に報告している。
カールチンはユーフテスが肘鉄を食わされたのだろうと意にも留めずに城に行こうとするのを、しがみついて止めた。とうとう止めきれずに手を放したとたんに、カールチンは勢い余って小栗の森に飛び込んだ。
この森にはイルナの城に仕えて居た先祖の墓があった。カールチンは石塔に頭を打って倒れてしまった。
気が付くと、あたりは夕闇となっていた。カールチンは石塔の後ろから狸に話しかけられ、追い払った。
やがて提灯をともしたヤスダラ姫が、小栗の森の墓場の道をやってくるのが見えた。カールチンは、大きな眼をした古狸ことをヤスダラ姫に話した。
ヤスダラ姫はこんな眼か、と大声を出した。カールチンが見ると、ヤスダラ姫の口は耳まで裂け、蛇の目傘のような目をむいていた。カールチンは驚いて闇の道をイルナの城門さして逃げていく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:2022-12-23 14:16:51
OBC :rm4210
愛善世界社版:133頁
八幡書店版:第7輯 690頁
修補版:
校定版:137頁
普及版:55頁
初版:
ページ備考:
001カールチン『イルナの都に名も高き 002右守の司と仕へたる
004千思万慮の其結果
005バラモン教の大棟梁
008右守の司を尊しと
010左守や右守を使ふ身の
013時めき渡るも目のあたり
016天女を欺く美貌持ち
018思はず知らず顔の皺
020文珠菩薩の再来か
021曾富戸の神の生宮か 022何だか知らぬが俺は又
026思案なげ首息を吐き
031軍を率ゐて遠国に
033天下に武名を現はして
035あゝ面白しと勇み立ち
038敵の軍勢に出会し
039奮戦苦闘の其結果
041さうなりや俺の活舞台 042これから自由に開け往く
044居宅が焼けて女房が
045死んだのは泣き泣き新しく
051梵天帝釈自在天 052神の御目に叶うたか
054吾身を襲うて来たやうだ
067見た時や若く見えるのか
071惚れた弱身の姫様の
073山に在します日の出別 074司の如くに見えるだらう
075俺は矢張り女等に
078涎の奴めが知らぬ間に
080勝手気儘に流れよる
083右守の司も恋路には
085嘸や他人が見たならば 086吹き出すだらうと思へども
091向ふの方からやつて来る 092もうよい加減に切り上げて
095心猿意馬奴が狂ひたち 096中々容易にや納まらぬ
099自然に足が早くなる 100女の力と云ふやつは
102時めき渡る右守さへ
104自由自在に翻弄し
108三五教でも云つて居る
109恋の花咲くイルナ城
111此花手折る主人公は
113山も田地も家倉も 114靨の中へ吸ひ込んで
117女は魔神と聞きつれど
119右守の司やヤスダラ姫の 120心が貴方に分らぬか
121悲しう御座ると泣いた時や
123右守は男だ悲しうて
125余り嬉して嬉し泣き
128地震雷火の雨が
130乱痴気騒ぎが起るだらう
131桑原々々惟神
134と云つた途端に、135ドスンと何者にか衝き当られ、136大道の真中に仰向に倒れて了つた。137衝き当つた男は、138セーリス姫に嚇かされて、139命からがら尻引きまくり、140頭を先に尻を一間ばかりつき出して、141向ふ見ずに飛んで来たユーフテスであつた。
142カールチン『タヽ誰ぢやい。143往来を歩くのに、144ちつと気をつけぬか。145人に衝突しよつて何者ぢや。146勿体なくも俺はイルナの城の右守司だぞ。147もはや了簡ならぬ。148姓名を名乗れ。149後から捕吏を遣はして相当の処分をなしてやる』
150と呶鳴る声も慄つて居る。151ユーフテスは此声に初めて右守たる事を知り、152衝突したる頭の痛さを耐へ顔を顰めながら、
153ユーフテス『マヽ誠にすみませぬ。154タヽ大変ですよ。155何うにも斯うにも、156ドテライ女に出会して私はもう懲々致しました。157貴方もこれから女の所へ行くのでせう。158悪い事は云ひませぬ。159おきなさい。160むきますぜ。161それはそれは大きな奴を、162おまけに同じ奴が二人も出ますぜ。163あゝ恐い恐い、164あた嫌らしい』
165カールチン『ナヽ何と申す。166むくとは何をむくのぢや。167膝節を擦りむいたのか、168大変な慌方ぢやないか』
169ユーフテス『これが慌てずに何としませう。170それはそれはむきましたぜ。171セーリス姫だと思うて居つたら、172ドテライ狐でした。173もう私は諦めました。174旦那様、175悪い事は云ひませぬ。176サアこれから私と館へ帰りませう』
177カールチン『貴様の云ふ事は、178何が何だか曖昧模糊として捕捉する事が出来ないぢやないか。179もつとハツキリ分るやうに云はぬかい。180一体何が出たと云ふのぢや』
181ユーフテス『それが分るやうな事なら、182何うして逃げて帰りますものか。183偉い事頬辺をつめりますぜ、184痛いの痛くないのつて、185涙が一升程出ました』
186カールチン『一升も涙がどこから出たのだ』
187ユーフテス『尿道から出ました』
188カールチン『エヽ貴様のやうな没分暁漢に相手になつて居る所ぢない。189ヤスダラ姫が待つて居るわい、190大方貴様は肱鉄を喰はされよつたのだなア』
191と云ひながら、192又もや尻引つからげ駆け出さうとするのを、193ユーフテスは後から腰をグツと掴んだ。194カールチンは向ふに気を取られ、195ユーフテスが剛力に任せ腰を抱いて居るのにも気が付かず、196同じ所ばかり手を振つて石づきをやつて居る。197恰度横槌を縦にして、198柄に石亀をのせたやうなスタイルである。
199カールチン『あゝ、200何ぼう歩いても捗らぬ道だなア。201近いやうでも遠いのは恋の道だワイ。202ウントコドツコイ ドツコイ、203これでも進めば、204何時かは行くだらう。205何だか後髪を引かれるやうだ。206俄に体が重くなつて来よつた』
207と益々石亀の地団駄を踏んで居る。208ユーフテスはとうとう根負をして手を放した。209其勢にバタバタバタと三間ばかり急進し、210バタリと倒れ、
211カールチン『アイタツタツタ、212又膝頭を擦りむいた』
213と云ひながら、214覚束ない足を無理に踏ん張り、215タヽヽヽと一目散に駆けて行く。216勢あまつて左へおりる道を一町ばかり右へ取り、217小栗の森に飛び込んで了つた。218此森はイルナの城に仕へて居る神司の先祖や身内のものが葬つてある墓場であつた。219矢庭に墓場に飛び込み、220石塔に頭を打つて、
222と叫ぶと共に目から星のやうにパツと火が出た。223自分の目から出た火に驚いてドスンと腰をおろし、224どうしたものか一声も出なくなつて了つた。225カールチンは昼頃から一のくらみになる迄ビクとも動かず、226ウンとも得言はず、227墓の石塔と睨み合ひをして居た。228心のせいか、229何か知らず石塔の後から婆が赤黒い手をしうと前に垂らし、230蚊の鳴くやうな声で、
232とやり出した。233カールチンは益々驚きよくよく見れば女房のテーナ姫の顔にそつくりである。
234カールチン『ヤア貴様はテーナぢやないか………ハ……テーナ……いつの間に、235こんな所へ来やがつたのだ。236エーン』
237婆『お前はカールチンぢやないか。238ヤスダラ姫に現を抜かし、239私をハルナの都へ軍に出し、240其間に甘い事、241恋の欲望を遂げようとした悪性男だ。242此テーナは途中に於て非業の最後を遂げ、243先祖の骨の埋めてある此墓へ幽霊となつて出て来たのだ。244併し此婆も、245かう幽霊になつた上は、246お前と添ふ訳にも往かぬ。247見て見ぬ振をして居るから、248仲よくヤスダラ姫と添ふがよからう』
249と蟷螂のやうなスタイルをして、250訳の分らぬ事を喋りたて、251クルクルと毬のやうな目を剥いて見せた。
252カールチン『コリヤコリヤ、253貴様は狸ぢやな。254俺の女房はそんな弱いものと違ふわい。255馬鹿にさらすと了簡ならぬぞ。256早く俺の腰を癒さぬか』
257と何時の間にやら言論機関が円滑に働き出した。
258婆『実の処は俺は小栗の森の古狸だよ。259どうぞこれぎり、260キツト出ませぬとは申さぬから、261許して下さい。262左様なら、263又明晩改めてお目にかかりませう』
264 ブスツと象が屁をこいたやうな音をして消えて了つた。265カールチンは漸く立ち上り、
266カールチン『何だ狸奴、267馬鹿にしやがつた。268何時の間にか慌ててこんな所へ飛び込んで来たと見えるわい。269俺もやつぱり恋の暗路に迷うて居るのかなア。270女一人関係をつけようと思へば大抵の事ぢやない、271命がけだ』
272と呟いて居る。273そこへ提灯を灯してスタスタとやつて来た美しい女がある。274カールチンは其女の顔を怪しみながら、275こはごは窺いて見ると、276豈計らむやヤスダラ姫であつた。
277カールチン『ヤア貴女はヤスダラ様ぢやありませぬか。278どうしてまアこんな物騒な所へ、279女の身としてお越しなさつたのですか』
280ヤスダラ姫『ハイ、281私日が暮れたので、282貴方のお越しを待つて居ました処、283お出が遅いものだから、284じれつたくて仕方がなく、285そこで一寸人目を忍び、286裏門からお迎へに参りました。287こんな恐ろしい所に、288ようまア独り何ともありませなんだなア。289私ならよう参りませぬわ。290恋しい貴方が御座ると思へばこそ、291ここ迄お迎へに来たのですよ』
293カールチン『あゝさうでしたか、294御親切にようまア迎へに来て下さつた』
295ヤスダラ姫『何も変つた事は厶いませなんだかなア』
296カールチン『私の名がカールチンだと思うて、297余程カールたチン(変つた珍)な事を古狸の奴やつて見せたのですよ。298随分大きな目をむきましたよ。299其時には私も随分肝を潰しました』
300ヤスダラ姫『悪戯な狸もあつたものですなア。301どんなに大きな目でしたか、302こんなんですか』
303と団栗のやうな目をむいて見せた。
304 カールチンは何だか少し怪しいと思ひながら、
305カールチン『そんな小さなのぢやありませぬ、306随分大きな目でしたよ』
308と大きな声を出し、309耳まで裂けた口を開け、310蛇の目の傘のやうな目を、311クリクリとむいて見せた。312カールチンはビツクリして一生懸命に闇の道をスタスタとイルナ城の表門さして逃げて行く。
313(大正一一・一一・一五 旧九・二七 加藤明子録)