霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 乱舌(らんぜつ)〔一一三三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻 篇:第2篇 恋海慕湖 よみ(新仮名遣い):れんかいぼこ
章:第8章 乱舌 よみ(新仮名遣い):らんぜつ 通し章番号:1133
口述日:1922(大正11)年11月15日(旧09月27日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
セーリス姫は、カールチンの王位簒奪計画を防ぐためとは言いながら、心にそぐわないユーフテスに色目を使って仲を偽ってきたことに心を痛め、二弦琴を弾きながら歌っている。
そこへユーフテスがそっとやってきた。ユーフテスは、清照姫の計略が当たり、カールチンが大黒主の援軍を断って返したことを報告にやってきた。
セーリス姫は自分の心を押さえてあくまでユーフテスに気がある風を装っている。ユーフテスは、これまで自分はセーリス姫にだまされているのではないかという疑いの心があったが、セーリス姫の真心がわかったと言って感動を露わにした。
ユーフテスが有頂天になっていると、扉の外からセーリス姫が呼びかけた。ユーフテスは、自分が今ここでセーリス姫と話をしているのに、不審を抱いた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-22 15:38:29 OBC :rm4208
愛善世界社版:106頁 八幡書店版:第7輯 680頁 修補版: 校定版:110頁 普及版:42頁 初版: ページ備考:
001(セーリス姫)(こがらし)(すさ)(あき)(そら)
002(つま)()鹿(しか)()(こゑ)
003(ほそ)りて(はや)くも(ふゆ)(そら)
004(つめ)たき(かぜ)(まど)()
005(にしき)(かざ)りし()(やま)
006()()(きぬ)()ぎすてて
007(やうや)(はだか)となりにける
008(とき)しもあれやユーフテス
009わが()(おも)恋衣(こひぎぬ)
010いよいよ(あつ)(かさ)なりて
011百度(ひやくど)以上(いじやう)(のぼ)(かた)
012(ふゆ)(なつ)とを間違(まちが)へて
013(たけ)(くる)ふぞ浅猿(あさま)しき
014(まこと)(みち)にありながら
015右守司(うもりつかさ)(くら)ぶれば
016(やや)正直(しやうぢき)(をとこ)をば
017(いつは)(あやつ)(わが)(こころ)
018げに(はづ)かしく(おも)へども
019セーラン(わう)(くに)(ため)
020仮令(たとへ)地獄(ぢごく)()つるとも
021(だま)さにやならぬ(この)場合(ばあひ)
022天地(てんち)(かみ)もセーリスが
023(こころ)(うべな)(あそ)ばして
024曲行(まがおこな)ひを惟神(かむながら)
025直日(なほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)
026()(なほ)されて(この)(たび)
027イルナの(くに)大変(たいへん)
028未発(みはつ)(ふせ)がせ(たま)へかし
029(だま)され()つたユーフテス
030さぞ今頃(いまごろ)(いさ)()
031(した)をかみ()(あご)をうち
032(くる)しい()をも打忘(うちわす)
033(わが)()(こと)一心(いつしん)
034(おも)ひこらしてスタスタと
035家路(いへぢ)()でて大道(だいだう)
036(いそ)ぎて(すす)(きた)るらむ
037(また)もや大道(だいだう)顛倒(てんたふ)
038(おほ)きな怪我(けが)のなき(やう)
039梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
040(あつ)(まも)らせ(たま)へかし
041ユーフもヤツパリ天地(あめつち)
042(かみ)御水火(みいき)(うま)れたる
043(かみ)御子(みこ)なり(かみ)(みや)
044(わらは)(にく)しと(おも)はねど
045セーラン(わう)(おん)(ため)
046忠義(ちうぎ)犠牲(ぎせい)心得(こころえ)
047(こころ)にもなき(いつは)りを
048図々(づうづう)しくも白昼(はくちう)
049振舞(ふるま)(きた)るぞ(かな)しけれ
050天地(てんち)(かみ)百神(ももがみ)
051セーリス(ひめ)罪業(ざいごふ)
052(とが)(たま)はず(すみや)かに
053(ゆる)させ(たま)惟神(かむながら)
054(かみ)御前(みまへ)にねぎ(まつ)る』
055二絃琴(にげんきん)()はして(しと)やかに(うた)つてゐるのは、056(うた)文句(もんく)(あら)はれたセーリス(ひめ)である。
057 廊下(らうか)足音(あしおと)(しの)ばせながら、058あたりを(うかが)ひ、059ソツと這入(はい)つて()たのはユーフテスである。060痩犬(やせいぬ)(くさ)乞食(こじき)(めし)()ぎつけたやうなスタイルで、061負傷(ふしやう)した(した)五分(ごぶ)ばかりニヨツと()し、062下唇(したくちびる)(うへ)大切(だいじ)さうにチヤンと()せ、063(こし)(くび)(たがひ)ちがひに()りながら、064(すこ)しく(かが)んで、065左右(さいう)()(めう)恰好(かつかう)にパツと(ひろ)げ、066(てのひら)上向(うへむ)けにして、067乞食(こじき)(もの)(もら)(やう)()つき可笑(をか)しく、
068ユーフテス『モシ…………モシ…………(ひめ)さま』
069()(にく)さうに(くち)()つた。070セーリス(ひめ)は……あゝ(また)(いや)(をとこ)がやつて()た、071(しばら)(むし)(おさ)へて、072一活動(ひとくわつどう)やらねばならぬ、073(なに)ほど(いや)でも(いや)さうな(かほ)出来(でき)ない。074「いやなお(きやく)(わら)うて()せて、075ソツと()()()きの(ひざ)」といふ(こと)もある。076ここは遺憾(ゐかん)なく愛嬌(あいけう)()りまくのが孫呉(そんご)兵法(へいはふ)だ…………と(さと)くも(こころ)(けつ)し、077(ゑみ)十二分(じふにぶん)(たた)へて、
078セーリス姫『ユーフテス(さま)079()怪我(けが)如何(どう)御座(ござ)いますか、080()用心(ようじん)して(くだ)さいませや。081あたえ心配(しんぱい)(いた)しまして、082昨夜(ゆふべ)(ろく)()なかつたのですよ。083貴郎(あなた)(この)()(なか)生存(せいぞん)して()られなかつたら、084あたえも最早(もはや)社会(しやくわい)生存(せいぞん)希望(きばう)はありませぬワ。085ねえ貴郎(あなた)086可愛(かあい)いものでせう、087オホヽヽヽおゝ(はづか)し………』
088 ユーフテスは(これ)()いて(あたま)のぎりぎりまでザクザクさせ、089自由(じいう)のきかぬ(した)側面(そくめん)から()()もなく(よだれ)迸出(へいしゆつ)しながら、090(あわ)てて(たもと)()()り、
091ユーフテス『(()ひにくさうに()ふ)お(ひめ)さま………有難(ありがた)う………お(かげ)(さま)で………(たい)した(こと)は………ありませぬから、092マア、093安心(あんしん)して(くだ)さい………至極(しごく)………健全(けんぜん)です。094昨日(さくじつ)大変(たいへん)(いた)みましたが、095今日(こんにち)はお(かげ)(だい)ウヅキがとまり、096気分(きぶん)余程(よほど)よくなりました』
097セーリス姫本当(ほんたう)にそれ()いて、098あてえ(うれ)しいワ。099そらさうでせうよ、100終日(しうじつ)終夜(しゆうや)101大自在天(だいじざいてん)(さま)()祈願(きぐわん)をこらしてゐたのだもの、102貴郎(あなた)(ため)なら、103仮令(たとへ)あたえの(いのち)がなくなつても、104チツとも()しくないワネエ』
105ユーフテス『そりや………有難(ありがた)いなア………お(ひめ)さまの………()精神(せいしん)が………そこまで………熱誠(ねつせい)だとは………(ゆめ)にも(おも)はなかつたですよ。106(はじ)めの(うち)(なに)か、107()をひかれてゐるのぢやなからうかと、108(うたが)つてゐましたが………ヤツパリ(うたが)ふのは………(わたし)(こころ)(きたな)いからでした………どうぞ、109(ひめ)さま、110こんなつまらぬ(をとこ)でも、111ここまでも()()うたのですから、112どうぞ末永(すえなが)可愛(かあい)がつて(くだ)さい………(その)(かは)りに、113貴女(あなた)(ため)ならば(おに)巣窟(さうくつ)へでも、114獅子(しし)(おほかみ)岩窟(いはや)へでも、115飛込(とびこ)めと仰有(おつしや)れば飛込(とびこ)みます。116猛獣(まうじう)棲処(すみか)(おろ)か、117猛火(まうくわ)(なか)でも水底(みなそこ)へでも、118()命令(めいれい)ならば………いやお(たの)みならば………(なん)でも忠実(ちうじつ)御用(ごよう)(うけたま)はりますワ』
119セーリス姫『オホヽヽ、120貴郎(あなた)そんな叮嚀(ていねい)(こと)いつて(くだ)さると、121あたえ、122(なん)だか他人(たにん)行儀(ぎやうぎ)のやうになつて()(じゆつ)なうてなりませぬワ。123どうぞこれから、124そんな虚偽(きよぎ)辞令(じれい)()きにして、125あたえを女房(にようばう)(あつか)ひに()んで(くだ)さいねえ。126そしておくれやしたら、127あたえ、128(なん)(うれ)しいか()れませぬワ。129オホヽヽ』
130ユーフテス(とき)にお(ひめ)さま、131(いな)セーリス(ひめ)132(よろこ)べ、133(えら)(こと)出来(でき)たぞ。134(てん)()になり、135()(てん)になる………と()大事変(だいじへん)だ。136それもヤツパリ智謀(ちぼう)絶倫(ぜつりん)のユーフテスとセーリス(ひめ)との方寸(はうすん)から(ひね)りだした結果(けつくわ)だから、137剛勢(がうせい)なものだよ、138オツホヽヽ。139アイタヽヽ、140(あま)(わら)ふと、141ヤツパリ(した)(いた)いワイ。142アーン』
143セーリス姫大変(たいへん)とは(なん)ですか。144(はや)()つて(くだ)さいな。145あたえ、146()にかかつて仕様(しやう)がありませぬワ。147(きち)(きよう)か、148(ぜん)(あく)か、149(はや)()かして頂戴(ちやうだい)
150と、151()(ほそ)うし(くび)(かたむ)(あご)(まへ)()()し、152(した)(みぎ)(くちびる)縫目(ぬひめ)へニユツと()し、153色目(いろめ)使(つか)つて()せた。154ユーフテスは益々(ますます)得意(とくい)になり、155十分(じふぶん)手柄話(てがらばなし)針小(しんせう)棒大(ぼうだい)にやつて()たいのは山々(やまやま)だが、156(おも)(やう)(した)命令(めいれい)()かぬので、157もどかしがり、158()をしばしばさせながら、
159ユーフテス天地(てんち)(かは)るといふのは………それ、160(まへ)心配(しんぱい)してゐた、161大黒主(おほくろぬし)(さま)()派遣(はけん)(あそ)ばす、162五百騎(ごひやくき)ぼつ(かへ)(やう)になつたのだ』
163セーリス姫『エヽいよいよ決行(けつかう)されましたかなア。164さぞ清照姫(きよてるひめ)さまも(よろこ)ばれる(こと)でせう、165清照姫(きよてるひめ)さまはヤツパリ(えら)いですなア』
166ユーフテス『そらさうですとも、167セーリス(ひめ)さまの………ドツコイ、168(まへ)(にせ)(あね)になるといふ腕前(うでまへ)だからなア、169(えら)いと()へば(えら)いものだが、170(しか)しながら(その)八九分(はちくぶ)(まで)功績(こうせき)は、171ヤツパリ、172ユーフテスとセーリス(ひめ)にあるのだからなア。173何程(なにほど)智慧(ちゑ)があつても、174器量(きりやう)がよくても、175一人(ひとり)芝居(しばゐ)出来(でき)ないから、176吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)(せん)(りやう)役者(やくしや)()つても………過言(くわごん)ではあるまい。177アーン』
178セーリス姫『オホヽヽ、179正式(せいしき)結婚(けつこん)もせない(うち)から、180夫婦(ふうふ)なんて()ふものぢやありませぬよ。181もしも(くち)さがなき京童(きやうわらべ)(みみ)へでも這入(はい)らうものなら、182ユーフテスの夫婦(ふうふ)自由(じいう)結婚(けつこん)をやつたとか、183セーリス(ひめ)はお転婆(てんば)標本(へうほん)だとか、184(あたら)しい(をんな)だとか()はれちや、185(たがひ)迷惑(めいわく)ですからなア』
186ユーフテス『それなら(なん)()つたらいいのだ。187夫婦(ふうふ)()はれても、188(あま)()(わる)くなる問題(もんだい)ぢやあるまい。189アーン』
190セーリス姫『そらさうですとも、191一刻(いつこく)(はや)く、192(たがひ)(をつと)(つま)よと意茶(いちや)ついて(くら)したいのは山々(やまやま)ですワ。193(あま)(うれ)しうて、194一寸(ちよつと)すねて()たのですよ。195オホヽヽ』
196ユーフテス『エヽ(はら)(わる)(をんな)だなア。197さう(をつと)をジラすものぢやないワ』
198セーリス姫(をつと)でも(をとこ)でも、199オツトセーでも、200ナツトセーでも()いぢやありませぬか。201本当(ほんたう)(わたし)のオツトセーになるのは、202(この)(ひろ)世界(せかい)貴郎(あなた)(だけ)ですワネエ。203なつと千匹(せんびき)(をつと)一匹(いつぴき)()ひまして、204択捉島(えとろふじま)あたり沢山(たくさん)棲息(せいそく)してゐる膃肭臍(おつとせい)も、205真実(しんじつ)千匹(せんびき)(なか)(しん)のオツトセーは(ただ)一匹(いつぴき)より()ないさうです。206九百(きうひやく)九十九(きうじふきう)(ひき)(まで)(みな)なつとせいださうですからな。207アホツホヽヽ』
208ユーフテス『なつとせい………なんて、209そんな(こと)初耳(はつみみ)だがなア、210オツトセーとなつとせい何処(どこ)区別(くべつ)がつくのだらうかな』
211セーリス姫『そりや(たしか)区別(くべつ)がありますワ。212ナツトセーといふのは、213人間(にんげん)でいへばやくざ(をとこ)(こと)ですよ。214婿(むこ)えらみをした結果(けつくわ)215どれを()ても(おび)には(みじか)(たすき)(なが)し、216意中(いちう)(をつと)()つからない、217さうかうする(うち)月日(つきひ)(こま)()(ごと)(すす)み、218(ほころ)びかけた(さくら)(はな)は、219グヅグヅしてゐると(すで)(こずゑ)()らむとするやうになつて()る。220そこで(あわ)てて()となる(ひと)(にはか)にきめます。221(その)(とき)にどれを()ても、222(かふ)(おつ)(へい)(てい)区別(くべつ)がつかぬ、223(しか)(この)(をとこ)(はな)(たか)いとか、224口元(くちもと)がしまつてるとか、225()(すず)しいとか、226(ひと)つの()()(てん)(つか)まへ()し、227コレナツと(をつと)にしようか………と()つて、228(をんな)(はう)からきめるのが、229所謂(いはゆる)ナツトセーですワ。230オツホヽヽ』
231ユーフテス『さうすると、232(おれ)はナツトセーの(はう)かなア。233それを()くと(あま)有難(ありがた)くもないやうだ。234アーンアーン』
235セーリス姫貴郎(あなた)はオツトセーですよ。236()(かは)(やはら)かいし、237(かは)むいて首巻(くびまき)にしたつて大変(たいへん)高貴(かうき)なものなり、238(かは)になつても、239(をんな)(くび)(だけ)はきつと、240ホコホコするといふ大事(だいじ)大事(だいじ)のオツトセーですワ。241どの(をとこ)婿(むこ)()たうかと、242あたえも(なが)らく調(しら)べてゐましたが、243あなたのやうな(いろ)(しろ)い、244()のパツチリとした、245鼻筋(はなすぢ)(とほ)つた、246口元(くちもと)のリリしい、247カイゼル(ひげ)()えた、248()のスラリと(たか)い、249(はだ)(やはら)かい、250しかも智謀(ちぼう)絶倫(ぜつりん)()てゐるのだから、251オツトマカセに(くは)()んだのだから、252オツト()つてましたといふ具合(ぐあひ)に、253(ねこ)のやうに(のど)をゴロゴロならして飛付(とびつ)いたのですもの、254(しん)(まこと)のオツトセーですワ。255オホヽヽ』
256ユーフテス『アハヽヽ、257アハヽ、258アイタヽヽ、259(なん)だか(わら)ふと(した)(いた)い、260(こま)つた(こと)だ。261有難(ありがた)いなア』
262セーリス姫『コレ(だけ)恋慕(こひした)うてゐる女房(にようばう)ですもの、263あなただつて、264(なに)もかも腹蔵(ふくざう)なく仰有(おつしや)つて(くだ)さいますわねえ。265夫婦(ふうふ)(あひだ)といふものは、266本当(ほんたう)(した)しいもので、267()んでくれた(おや)にも()せない(ところ)まで()せたり、268(はな)さない(こと)まで(はな)すのですもの。269夫婦(ふうふ)家庭(かてい)日月(じつげつ)天地(てんち)(はな)ですワ』
270ユーフテス(おれ)はお(まへ)(こと)なら、271(なん)でも(みな)秘密(ひみつ)()かしてやる覚悟(かくご)だ。272(とき)(なん)だよ………五百騎(ごひやくき)差止(さしと)めたばかりでなく、273テーナ(ひめ)さまが三百(さんびやく)()()強者(つはもの)(みな)引率(いんそつ)して、274ハルナの(くに)まで()つて(しま)つたのだから、275カールチンの部下(ぶか)最早(もはや)一人(ひとり)(のこ)つてゐないのだ。276もう()うなつちや、277何程(なにほど)謀叛(むほん)(たく)まうたつて、278駄目(だめ)だからなア。279(あと)(のこ)つてる(やつ)ア、280()ツかちや、281(びつこ)(つんぼ)282()しやくに()はぬ(やつ)ばかりウヨウヨしてるのだ。283屈強(くつきやう)(ざか)りの豪傑(がうけつ)(れん)は、284(みな)テーナ(ひめ)従軍(じゆうぐん)したのだから、285(これ)(いち)()(はや)く、286清照(きよてる)さまに………報告(はうこく)して(よろこ)ばしたいものだ。287アーン』
288セーリス姫『ホヽヽ、289そんな(こと)ですかい。290それなら夜前(やぜん)(わたし)(もと)へチヤンと無言(むげん)霊話(れいわ)がかかりましたワ。291清照姫(きよてるひめ)(さま)(すで)(すで)御存(ごぞん)じですよ。292そんな(おそ)報告(はうこく)駄目(だめ)です。293モチツト(はや)報告(はうこく)して(もら)はぬと、294女房(にようばう)のあてえが清照姫(きよてるひめ)(さま)申上(まをしあ)げて手柄(てがら)にする(わけ)には()かぬぢやありませぬか』
295ユーフテス何分(なにぶん)(した)怪我(けが)したものだから、296(した)(おく)れたのだよ。297それは()しい(こと)したものだ。298ウツフヽヽヽ、299此奴(こいつ)(ひと)つガツカリした
300セーリス姫『オツホヽヽヽ(とき)右守(うもり)如何(どう)して()られますか、301随分(ずゐぶん)()機嫌(きげん)()いでせうなア』
302 ユーフテスは最前(さいぜん)から(あま)(した)無暗(むやみ)使(つか)つたので、303チツとばかり()れて()たと()え、
304ユーフテス『アヽヽ』
305()ひながら、306()(ひろ)げて不恰好(ぶかつかう)仕方(しかた)をして()せて()る。
307セーリス姫『オホヽヽまるで蟷螂(かまきり)(をど)つとる(やう)だワ。308モウ(ひと)(ちが)うたら米搗(こめつき)バツタの手踊(てをどり)みたやうですワ。309あたえ、310そんなスタイル()るの、311(いや)になつたワ。312オツホヽヽヽ』
313ユーフテス『アーンアーンアーン、314ウーウーウー、315シシ(した)が、316オオ(おも)ふよに、317きけなくなつた』
318 セーリス(ひめ)両手(りやうて)()み、319鎮魂(ちんこん)姿勢(しせい)()り、320(こころ)(しづ)かにユーフテスの(した)(むか)つて、
321セーリス姫(ひと)(ふた)()()(いつ)(むゆ)(なな)()(ここの)(たり)(もも)()(よろづ)
322(あま)数歌(かずうた)三四回(さんしくわい)繰返(くりかへ)祈願(きぐわん)をこらした。323不思議(ふしぎ)やユーフテスの(した)(その)()(はれ)()き、324(いた)みもとまり、325(また)もや水車(みづぐるま)(ごと)運転(うんてん)(はじ)めた。
326ユーフテス『ヤア有難(ありがた)う、327不思議(ふしぎ)()神徳(しんとく)輪転機(りんてんき)破損(はそん)全部(ぜんぶ)修繕(しうぜん)したと()え、328運転(うんてん)自由(じいう)自在(じざい)になつて()ました。329サア(これ)から三寸(さんずん)舌鋒(ぜつぽう)縦横(じうわう)無尽(むじん)にふりまはし、330懸河(けんが)弁舌(べんぜつ)滔々(たうたう)神算(しんさん)秘策(ひさく)陳述(ちんじゆつ)する(こと)としよう。331女房(にようばう)(よろこ)べ、332(あま)瓊矛(ぬぼこ)恢復(くわいふく)したぞや、333アハヽヽヽ』
334セーリス姫『オホヽヽヽあの元気(げんき)(こと)335わたしも(これ)一安心(ひとあんしん)しました336イヒヽヽ』
337 かく()(ところ)へやさしい(をんな)(こゑ)で、338(ふすま)(そと)から、
339別のセーリス姫『モシモシ、340ユーフテス(さま)341あてえはセーリスで(ござ)います、342どうぞ()けて(くだ)さいな』
343ユーフテス『ハテ合点(がてん)()かぬ(やう)になつて()たワイ。344(おれ)(いま)セーリス(ひめ)(はなし)をしてゐるに、345なアんだ。346(また)チツトも(ちが)はぬ(こゑ)()しよつて………ユーフテスさま、347()けて(くだ)さい………と(ぬか)しよる、348ウーン、349此奴(こいつ)はチツト(へん)だぞ』
350(くび)をかたげ、351眉毛(まゆげ)(つば)をぬりつけ(はじ)めた。
352セーリス『オホヽヽ』
353 (ふすま)(そと)から、354(おな)声色(こわいろ)で、
355別のセーリス姫『オホヽヽ』
356大正一一・一一・一五 旧九・二七 松村真澄録)
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