玉国別一行はバーチル、チルテルそのほか一同に別れを告げて、ハルナの都を指して進むことになった。別れを惜しんでバーチル以下一同は袖にすがりつき、涙をたたえて別離の歌を歌う。
バーチルが述懐を込めた歌を歌い、玉国別一行が和歌で返し、またスマの里人たちが和歌で述懐と別離を歌った。
玉国別一行はスマの里を後にし、晩夏の風を浴びながら進んで行く。日がたそがれ、大原野に人通りも少なく、わずかに道のかたえにある沙羅双樹の森で一夜を過ごそうと入って行く。
この森には小さな祠が建っており、一行五人は祠の前にみのを敷いて笠を顔にかぶり、一夜を明かすことになった。
深夜になると三人組の泥棒が現れ、一行の寝息をうかがっている。泥棒の一人は元バラモン軍のベルであった。泥棒たちは、五人を襲う相談をしている。
玉国別は泥棒たちの話を聞いていたが、祠の後ろから闇夜をつらぬいて法螺の音が響いてきた。泥棒たちは驚き、ベルともう一人は逃げて行ったが、新米の乙はその場に立ちすくんでしまった。
玉国別が法螺貝の吹き主を歌で尋ねると、祠の後ろから答えたのは元バラモン軍将軍鬼春別、今は比丘となた治道居士が名乗り出た。一行は歌で泥棒の一件を述懐し、挨拶をした。
三千彦が枯れ枝に火をつけて明りを取った。治道居士は祠の後ろから現れ、玉国別一行に挨拶をなした。一行はこれまでの経緯をしばし語り合った。
玉国別は、体が休まったから夜中でも先に進もうと提案した。治道居士はしばらく同道することになった。見れば、ひとりの泥棒がしゃがんで震えている。泥棒は、自分は今日初めて、泥棒のベルという男の家来になったところだ、と言うと、こそこそと闇に姿を隠してしまった。
一行六人は法螺貝を吹く治道居士を先頭に立てて東南の方向に進んで行った。