太玉命が路傍の岩に腰掛けて天津祝詞を奏上するおりしも、夜は明けてきた。そこへ、岩彦、梅彦、音彦、亀彦、駒彦、鷹彦らの宣伝使が、駒に乗ってやってきた。六人は、フサの都より、太玉命の加勢にやってきたのであった。
悪神らは巨人と谷川の幻影を見せて一行の進入を阻もうとするが、太玉命らは見破る。一行七人は荘厳な城壁にまでついにたどり着いた。そして、顕恩郷の婆羅門の大将・鬼雲彦に合わせるよう門番を厳しく問い詰める。
門番はあわてて、宣伝使たちを城に迎え入れた。婆羅門教の将卒たちが左右に整列して居並ぶ中を、宣伝使たちは奥へと進んで行った。
十数人の美人が現れ、一行を奥殿に招き入れる。そこにはご馳走が並べられていた。鷹彦は美人たちに毒味を所望し、安全だとわかると岩彦は盃をぐっと飲み干した。しかし音彦と駒彦は食事に手をつけなかった。
鬼雲彦夫婦が現れ、婆羅門教は霊主体従であり、三五教とは姉妹教にあたる、ぜひ提携したい、と腰を低くして挨拶した。そして美人の中の愛子姫、幾代姫に舞を舞わせ、酒食を勧めた。顕恩郷の婆羅門の上役たちも、宴に参加して飲み、かつ食らった。
宣伝使らは酒を飲んで酔った振りをしつつ、警戒を解かないでいた。しばらくすると、顕恩郷の上役たちは黒血を吐いて苦しみ始めた。宣伝使たちも、苦悶の態を装って倒れた振りをした。
鬼雲彦夫婦は、毒の入った酒を自分の部下に飲ませて宣伝使たちを油断させ、諸共に葬ってしまおうという計略だった。
しかし鬼雲彦に仕えていた十六人の美人たちは、婆羅門教の将卒たちが毒に倒れて警備が薄くなったのを見ると、懐剣を抜いて鬼雲彦夫婦に迫った。美人たちは、実は神素盞嗚尊の密使たちであると明かした。
鬼雲彦夫婦は形勢不利と見ると、大蛇となり邪神の本性を現して、遠く東方の天を目指して逃げてしまった。
十六美人のうち愛子姫を始めとする八人は、神素盞嗚尊の娘たちで、婆羅門教に囚われた振りをして顕恩郷に入り込んでいた。残りの八人は婆羅門教の侍女たちであったが、愛子姫らが三五教の教えを感化し、今は三五教徒となっていたのであった。
太玉命は、あらかじめ自分自身の娘たちを敵地に忍ばせて、顕恩郷奪回の準備をされていた神素盞嗚尊の深いご神慮を悟り、ありがたさに涙に暮れて神言を奏上した。
すると、そこへ妙音菩薩が女神の姿で現れ、顕恩郷には太玉命と愛子姫、浅子姫が残って守備につき、残りの宣伝使・女人たちはエデン河を渡ってイヅ河へ向かうように、と託宣した。妙音菩薩は、先にエデン河に落ちて帰幽した安彦、国彦、道彦、田加彦、百舌彦の五人は蘇生して、イヅ河のほとりで一行と合流するであろう、と告げて姿を隠した。