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第15巻(寅の巻)
序
凡例
総説歌
第1篇 正邪奮戦
01 破羅門
〔568〕
02 途上の変
〔569〕
03 十六花
〔570〕
04 神の栄光
〔571〕
05 五天狗
〔572〕
06 北山川
〔573〕
07 釣瓶攻
〔574〕
08 ウラナイ教
〔575〕
09 薯蕷汁
〔576〕
10 神楽舞
〔577〕
第2篇 古事記言霊解
11 大蛇退治の段
〔578〕
第3篇 神山霊水
12 一人旅
〔579〕
13 神女出現
〔580〕
14 奇の岩窟
〔581〕
15 山の神
〔582〕
16 水上の影
〔583〕
17 窟の酒宴
〔584〕
18 婆々勇
〔585〕
第4篇 神行霊歩
19 第一天国
〔586〕
20 五十世紀
〔587〕
21 帰顕
〔588〕
22 和と戦
〔589〕
23 八日の月
〔590〕
跋文
余白歌
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第一二章
一人旅
(
ひとりたび
)
〔五七九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻
篇:
第3篇 神山霊水
よみ(新仮名遣い):
しんざんれいすい
章:
第12章 一人旅
よみ(新仮名遣い):
ひとりたび
通し章番号:
579
口述日:
1922(大正11)年04月02日(旧03月06日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年12月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
追放された素盞嗚尊は、母神に会おうと地教山にやってきた。しかし、バラモン教の鬼掴の一団に囲まれてしまう。
尊が鬼掴を放り投げると、その勢いに辟易したバラモン教の一団は逃げてしまう。尊が山を登っていくと、大蛇に道をさえぎられた。
困惑している尊の前に、母神・伊邪冊命が現れ、世界を遍歴して八岐大蛇を退治し、叢雲の剣を得て天照大御神に奉るように、と命じた。
尊は母神の命を奉じることとし、山を降った。降る途中、帰順した鬼掴を共とし、西南指して進んでいった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-01-16 01:42:46
OBC :
rm1512
愛善世界社版:
145頁
八幡書店版:
第3輯 334頁
修補版:
校定版:
145頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
001
天津神
(
あまつかみ
)
達
(
たち
)
八百万
(
やほよろづ
)
002
国津神
(
くにつかみ
)
達
(
たち
)
八百万
(
やほよろづ
)
003
百
(
もも
)
の
罪咎
(
つみとが
)
身
(
み
)
一
(
ひと
)
つに
004
負
(
お
)
ひてしとしと
濡
(
ぬ
)
れ
鼠
(
ねずみ
)
005
猫
(
ねこ
)
に
追
(
お
)
はれし
心地
(
ここち
)
して
006
凩
(
こがらし
)
荒
(
すさ
)
ぶ
冬
(
ふゆ
)
の
野
(
の
)
を
007
母
(
はは
)
の
命
(
みこと
)
に
遇
(
あ
)
はむとて
008
出
(
いで
)
ます
姿
(
すがた
)
ぞ
不愍
(
いぢら
)
しき
009
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
も
明放
(
あけはな
)
れ
010
一度
(
ひとたび
)
清
(
きよ
)
き
神
(
かみ
)
の
代
(
よ
)
と
011
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
るひまもなく
012
天足
(
あだる
)
の
彦
(
ひこ
)
や
胞場姫
(
えばひめ
)
の
013
醜
(
しこ
)
の
霊魂
(
みたま
)
の
荒
(
すさ
)
び
来
(
く
)
る
014
山
(
やま
)
の
尾上
(
をのへ
)
や
河
(
かは
)
の
瀬
(
せ
)
は
015
風
(
かぜ
)
腥
(
なまぐさ
)
く
土
(
つち
)
腐
(
くさ
)
り
016
河
(
かは
)
は
濁水
(
だくすゐ
)
満
(
み
)
ち
溢
(
あふ
)
れ
017
雨
(
あめ
)
は
日
(
ひ
)
に
夜
(
よ
)
に
降
(
ふ
)
り
続
(
つづ
)
き
018
流
(
なが
)
れ
流
(
なが
)
れて
進
(
すす
)
む
身
(
み
)
の
019
蓑
(
みの
)
もなければ
笠
(
かさ
)
もなく
020
とある
家路
(
いへぢ
)
に
立
(
た
)
ち
寄
(
よ
)
りて
021
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
を
訪
(
おとな
)
へば
022
はつと
答
(
こた
)
へて
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
る
023
荒
(
あら
)
くれ
男
(
をとこ
)
の
顔
(
かほ
)
みれば
024
こは
抑
(
そ
)
も
如何
(
いか
)
にこは
如何
(
いか
)
に
025
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
夫婦
(
めをと
)
づれ
026
地教
(
ちけう
)
の
山
(
やま
)
の
山
(
やま
)
の
下
(
した
)
027
奇石
(
きせき
)
怪巌
(
くわいがん
)
立
(
た
)
ち
並
(
なら
)
ぶ
028
谷
(
たに
)
の
辺
(
ほとり
)
に
細々
(
ほそぼそ
)
と
029
立
(
た
)
つる
煙
(
けぶり
)
も
幽
(
かす
)
かなる
030
奥
(
おく
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
031
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
は
032
物
(
もの
)
をも
云
(
い
)
はず
戸
(
と
)
を
開
(
ひら
)
き
033
つかつか
立
(
た
)
ち
寄
(
よ
)
り
見給
(
みたま
)
へば
034
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
の
蜿蜒
(
えんえん
)
と
035
室
(
しつ
)
一面
(
いちめん
)
に
蟠
(
わだか
)
まり
036
赤
(
あか
)
き
血潮
(
ちしほ
)
は
全身
(
ぜんしん
)
に
037
洫
(
にじ
)
み
渉
(
わた
)
りて
凄
(
すさま
)
じく
038
命
(
みこと
)
を
見
(
み
)
るより
驚愕
(
きやうがく
)
し
039
忽
(
たちま
)
ち
毒気
(
どくき
)
を
吹
(
ふ
)
きかくる
040
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
と
思
(
おも
)
ひしは
041
全
(
まつた
)
く
大蛇
(
をろち
)
の
化身
(
けしん
)
にて
042
鬼雲姫
(
おにくもひめ
)
と
思
(
おも
)
ひしは
043
大蛇
(
をろち
)
に
従
(
したが
)
ふ
金毛
(
きんまう
)
の
044
白面
(
はくめん
)
九尾
(
きうび
)
の
古狐
(
ふるぎつね
)
045
裏口
(
うらぐち
)
あけてトントンと
046
後
(
あと
)
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り
047
深山
(
みやま
)
をさして
逃
(
に
)
げて
往
(
ゆ
)
く
048
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
は
049
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
の
太祝詞
(
ふとのりと
)
050
声
(
こゑ
)
爽
(
さはや
)
かに
宣
(
の
)
りあげて
051
この
曲津霊
(
まがつひ
)
を
言霊
(
ことたま
)
の
052
御息
(
みいき
)
に
和
(
なご
)
め
助
(
たす
)
けむと
053
心
(
こころ
)
を
籠
(
こ
)
めて
数歌
(
かずうた
)
の
054
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
い
)
つ
六
(
む
)
つ
055
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
の
数
(
かず
)
056
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
057
さしもに
太
(
ふと
)
き
八
(
や
)
つ
岐
(
また
)
の
058
大蛇
(
をろち
)
も
煙
(
けぶり
)
と
消
(
き
)
えて
行
(
ゆ
)
く
059
あゝ
訝
(
いぶ
)
かしと
大神
(
おほかみ
)
は
060
眼
(
まなこ
)
を
据
(
す
)
ゑて
見
(
み
)
たまへば
061
家
(
いへ
)
と
見
(
み
)
えしは
草野原
(
くさのはら
)
062
跡方
(
あとかた
)
もなき
虫
(
むし
)
の
声
(
こゑ
)
063
不審
(
ふしん
)
の
雲
(
くも
)
に
蔽
(
おほ
)
はれつ
064
地教
(
ちけう
)
の
山
(
やま
)
を
目標
(
めあて
)
とし
065
息
(
いき
)
もせきせき
登
(
のぼ
)
ります
066
折柄
(
をりから
)
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
山颪
(
やまおろし
)
067
八握
(
やつか
)
の
髯
(
ひげ
)
のぼうぼうと
068
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれて
散
(
ち
)
り
果
(
は
)
つる
069
木々
(
きぎ
)
の
梢
(
こづゑ
)
の
紅葉
(
もみぢば
)
も
070
命
(
みこと
)
が
赤
(
あか
)
き
誠心
(
まことごころ
)
を
071
照
(
て
)
らしあかすぞ
殊勝
(
しゆしよう
)
なる。
072
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
は、
073
地教山
(
ちけうざん
)
の
中腹
(
ちうふく
)
なる
道
(
みち
)
の
辺
(
べ
)
の
巌
(
いはほ
)
に
腰
(
こし
)
打
(
う
)
ち
掛
(
か
)
け、
074
高天原
(
たかあまはら
)
に
於
(
お
)
ける
磐戸隠
(
いはとがく
)
れの
顛末
(
てんまつ
)
を
追懐
(
つゐくわい
)
し、
075
無念
(
むねん
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれ
居
(
ゐ
)
たまふ
時
(
とき
)
こそあれ、
076
忽
(
たちま
)
ち
山上
(
さんじやう
)
より
岩石
(
がんせき
)
も
割
(
わ
)
るるばかりの
音響
(
おんきやう
)
陸続
(
りくぞく
)
として
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
る。
077
怪
(
あや
)
しの
物音
(
ものおと
)
は
刻々
(
こくこく
)
に
近
(
ちか
)
づき
来
(
き
)
たる。
078
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
は
又
(
また
)
もや
大蛇
(
をろち
)
の
悪神
(
あくがみ
)
襲来
(
しふらい
)
せるかと、
079
ツト
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
080
剣
(
つるぎ
)
の
握
(
つか
)
に
手
(
て
)
をかけて
身構
(
みがま
)
へしつつ
待
(
ま
)
ち
居
(
ゐ
)
たまへば、
081
雲
(
くも
)
突
(
つ
)
く
許
(
ばか
)
りの
大男
(
おほをとこ
)
四五十
(
しごじふ
)
人
(
にん
)
の
手下
(
てした
)
と
共
(
とも
)
に、
082
尊
(
みこと
)
の
前
(
まへ
)
に
大手
(
おほて
)
を
拡
(
ひろ
)
げて
立
(
た
)
ち
塞
(
ふさ
)
がり、
083
男
『ヤア、
084
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
天教山
(
てんけうざん
)
の
高天原
(
たかあまはら
)
に
於
(
おい
)
て、
085
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
に、
086
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
を
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
めまつりたる
悪魔
(
あくま
)
の
張本
(
ちやうほん
)
、
087
建速
(
たけはや
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
ならむ。
088
一寸
(
いつすん
)
たりともこの
山
(
やま
)
に
登
(
のぼ
)
る
事
(
こと
)
罷
(
まか
)
りならぬ』
089
と
呶鳴
(
どな
)
りつくるを、
090
尊
(
みこと
)
は
言葉
(
ことば
)
優
(
やさ
)
しく、
091
素盞嗚尊
『
吾
(
われ
)
は
汝
(
なんぢ
)
が
言
(
い
)
ふ
如
(
ごと
)
く、
092
高天原
(
たかあまはら
)
を
神退
(
かむやら
)
ひに
退
(
やら
)
はれたる、
093
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
なり。
094
さりながらこの
地教
(
ちけう
)
の
山
(
やま
)
には、
095
吾母
(
わがはは
)
の
永久
(
とこしへ
)
に
鎮
(
しづ
)
まり
居
(
ゐ
)
ませば、
096
一度
(
いちど
)
拝顔
(
はいがん
)
を
得
(
え
)
て、
097
身
(
み
)
の
進退
(
しんたい
)
を
決
(
けつ
)
せむと
思
(
おも
)
ひ、
098
遥々
(
はるばる
)
此処
(
ここ
)
に
来
(
きた
)
れるものぞ。
099
汝
(
なんぢ
)
物
(
もの
)
の
哀
(
あは
)
れを
知
(
し
)
るならば、
100
一度
(
いちど
)
は
此
(
この
)
道
(
みち
)
を
開
(
ひら
)
きて、
101
吾
(
われ
)
を
母
(
はは
)
に
会
(
あ
)
はせかし』
102
と
下
(
した
)
から
出
(
いづ
)
ればつけ
上
(
あが
)
り、
103
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
は
鼻息
(
はないき
)
荒
(
あら
)
く
仁王
(
にわう
)
の
如
(
ごと
)
き
腕
(
うで
)
をニウツと
前
(
まへ
)
に
出
(
だ
)
し、
104
男
『
男子
(
だんし
)
の
言葉
(
ことば
)
に
二言
(
にごん
)
は
無
(
な
)
いぞ、
105
罷
(
まか
)
りならぬと
云
(
い
)
へば
絶対
(
ぜつたい
)
に
罷
(
まか
)
りならぬ。
106
仮令
(
たとへ
)
天地
(
てんち
)
は
上下
(
うへした
)
にかへるとも、
107
ミロクの
世
(
よ
)
が
来
(
く
)
るとも、
108
いつかな、
109
いつかな、
110
吾々
(
われわれ
)
が
守護
(
しゆご
)
する
限
(
かぎ
)
りは、
111
一分
(
いちぶ
)
一寸
(
いつすん
)
たりとも
当山
(
たうざん
)
に
登
(
のぼ
)
る
事
(
こと
)
は
許
(
ゆる
)
さぬ。
112
たつて
登山
(
とざん
)
せむと
思
(
おも
)
はば
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
腕
(
うで
)
を
捻
(
ね
)
ぢて
登
(
のぼ
)
れ、
113
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
天教山
(
てんけうざん
)
に
坐
(
ま
)
し
在
(
ま
)
す
大神
(
おほかみ
)
の
命
(
めい
)
を
奉
(
ほう
)
じ、
114
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
万一
(
まんいち
)
此
(
この
)
山
(
やま
)
に
登
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
らば
都牟刈
(
つむがり
)
の
太刀
(
たち
)
をもつて
斬
(
き
)
りはふれ、
115
との
厳
(
きび
)
しき
御
(
おん
)
仰
(
あふ
)
せ、
116
万々一
(
まんまんいち
)
其
(
その
)
方
(
はう
)
を
此
(
この
)
岩
(
いは
)
より
一歩
(
いつぽ
)
たりとも
登
(
のぼ
)
すが
最後
(
さいご
)
、
117
吾々
(
われわれ
)
一族
(
いちぞく
)
は
天地間
(
てんちかん
)
に
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないのだ。
118
汝
(
なんぢ
)
も
元
(
もと
)
は
葦原
(
あしはら
)
の
国
(
くに
)
の
主宰
(
しゆさい
)
ならずや、
119
物
(
もの
)
の
道理
(
だうり
)
も
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
らう、
120
下
(
さが
)
れ
下
(
さが
)
れ、
121
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
らぬか』
122
素盞嗚尊
『アヽ
是非
(
ぜひ
)
に
及
(
およ
)
ばぬ、
123
然
(
しか
)
らば
汝
(
なんぢ
)
の
勝手
(
かつて
)
に
邪魔
(
じやま
)
ひろげ、
124
吾
(
われ
)
は
母
(
はは
)
に
面会
(
めんくわい
)
のため、
125
たつて
登山
(
とざん
)
致
(
いた
)
す』
126
と
群
(
むら
)
がる
人々
(
ひとびと
)
の
中
(
なか
)
を
悠然
(
いうぜん
)
として
登
(
のぼ
)
り
往
(
ゆ
)
かむとしたまふを、
127
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
は
ぐつ
と
猿臂
(
えんぴ
)
を
延
(
の
)
ばし、
128
男
『コラコラコラ、
129
俺
(
おれ
)
を
誰方
(
どなた
)
と
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
るか、
130
実
(
じつ
)
の
事
(
こと
)
を
白状
(
はくじやう
)
すれば、
131
バラモン
教
(
けう
)
の
大棟梁
(
だいとうりやう
)
、
132
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
のお
脇立
(
わきだち
)
と
聞
(
きこ
)
えたる、
133
鬼掴
(
おにつかみ
)
なるぞ』
134
と
云
(
い
)
ひながら
尊
(
みこと
)
の
胸倉
(
むなぐら
)
を
ぐつ
と
取
(
と
)
りぬ。
135
尊
(
みこと
)
はエヽ
面倒
(
めんだう
)
と
云
(
い
)
ひながら、
136
片足
(
かたあし
)
をあげて
ポン
と
蹴
(
け
)
り
玉
(
たま
)
ひし
拍子
(
へうし
)
に、
137
鬼掴
(
おにつかみ
)
の
体
(
からだ
)
は
四五間
(
しごけん
)
ばかり
空中
(
くうちう
)
滑走
(
くわつそう
)
をしながら
片辺
(
かたへ
)
の
林
(
はやし
)
の
中
(
なか
)
に、
138
ドスンと
倒
(
たふ
)
れさまに
着陸
(
ちやくりく
)
し、
139
頭蓋骨
(
づがいこつ
)
を
打
(
う
)
つてウンウンと
唸
(
うな
)
り
居
(
ゐ
)
る。
140
尊
(
みこと
)
は
委細
(
ゐさい
)
構
(
かま
)
はず
大手
(
おほて
)
を
振
(
ふ
)
つて
急坂
(
きふはん
)
をとぼとぼ
登
(
のぼ
)
りたまへば、
141
数多
(
あまた
)
の
家来
(
けらい
)
は
此
(
この
)
勢
(
いきほひ
)
に
辟易
(
へきえき
)
し、
142
蜘蛛
(
くも
)
の
子
(
こ
)
を
散
(
ち
)
らすが
如
(
ごと
)
く
四辺
(
あたり
)
の
森林
(
しんりん
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したりけり。
143
尊
(
みこと
)
は
猶
(
なほ
)
も
足
(
あし
)
を
速
(
はや
)
めて
急坂
(
きふはん
)
を
登
(
のぼ
)
りたまふ
時
(
とき
)
しもあれ、
144
傍
(
かたはら
)
の
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みより、
145
又
(
また
)
ツト
頭
(
かしら
)
を
出
(
だ
)
したる
滅法界
(
めつぽふかい
)
巨大
(
きよだい
)
なる
大蛇
(
だいじや
)
の
姿
(
すがた
)
路上
(
ろじやう
)
に
横
(
よこた
)
はり、
146
尊
(
みこと
)
の
通路
(
つうろ
)
を
妨
(
さまた
)
げて
動
(
うご
)
かず。
147
尊
(
みこと
)
は
大蛇
(
をろち
)
に
遮
(
さへぎ
)
られ、
148
稍
(
やや
)
当惑
(
たうわく
)
の
体
(
てい
)
にて
暫
(
しば
)
し
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れたまふ
時
(
とき
)
、
149
山上
(
さんじやう
)
より
嚠喨
(
りうりやう
)
たる
音楽
(
おんがく
)
響
(
ひび
)
き
来
(
きた
)
り、
150
数多
(
あまた
)
の
美
(
うる
)
はしき
神人
(
しんじん
)
列
(
れつ
)
を
正
(
ただ
)
し
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
給
(
たま
)
ひ、
151
中
(
なか
)
に
優
(
すぐ
)
れて
高尚
(
かうしやう
)
優美
(
いうび
)
なる
一柱
(
ひとはしら
)
の
女神
(
めがみ
)
は、
152
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
に
向
(
むか
)
ひ、
153
女神
『ヤヨ、
154
愛
(
あい
)
らしき
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
よ、
155
妾
(
わらは
)
は
汝
(
なんぢ
)
が
母
(
はは
)
伊邪冊
(
いざなみの
)
命
(
みこと
)
なるぞ、
156
汝
(
なんぢ
)
が
心
(
こころ
)
の
清
(
きよ
)
き
事
(
こと
)
は
高天原
(
たかあまはら
)
に
日月
(
じつげつ
)
の
如
(
ごと
)
く
照
(
て
)
り
輝
(
かがや
)
けり。
157
さりながら
大八洲
(
おほやしま
)
国
(
くに
)
になり
出
(
い
)
づる、
158
数多
(
あまた
)
の
神人
(
しんじん
)
の
罪
(
つみ
)
汚
(
けが
)
れを
救
(
すく
)
ふは
汝
(
なんぢ
)
の
天賦
(
てんぷ
)
の
職責
(
しよくせき
)
なれば、
159
千座
(
ちくら
)
の
置戸
(
おきど
)
を
負
(
お
)
ひて
洽
(
あまね
)
く
世界
(
せかい
)
を
遍歴
(
へんれき
)
し、
160
所在
(
あらゆる
)
艱難
(
かんなん
)
辛苦
(
しんく
)
を
嘗
(
な
)
め、
161
天地
(
てんち
)
に
蟠
(
わだか
)
まる
鬼
(
おに
)
、
162
大蛇
(
をろち
)
、
163
悪狐
(
あくこ
)
、
164
醜女
(
しこめ
)
、
165
曲津見
(
まがつみ
)
の
心
(
こころ
)
を
清
(
きよ
)
め、
166
善
(
ぜん
)
を
助
(
たす
)
け
悪
(
あく
)
を
和
(
なご
)
め、
167
八岐
(
やまた
)
の
大蛇
(
をろち
)
を
十握
(
とつか
)
の
剣
(
つるぎ
)
をもつて
切
(
き
)
りはふり、
168
彼
(
かれ
)
が
所持
(
しよぢ
)
せる
叢雲
(
むらくも
)
の
剣
(
つるぎ
)
を
得
(
え
)
て
天教山
(
てんけうざん
)
に
坐
(
ま
)
し
在
(
ま
)
す
天照
(
あまてらす
)
大神
(
おほかみ
)
に
奉
(
たてまつ
)
るまでは、
169
唯今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
妾
(
わらは
)
は
汝
(
なんぢ
)
が
母
(
はは
)
に
非
(
あら
)
ず、
170
汝
(
なんぢ
)
又
(
また
)
妾
(
わらは
)
が
子
(
こ
)
に
非
(
あら
)
ず、
171
片時
(
かたとき
)
も
早
(
はや
)
く
当山
(
たうざん
)
を
去
(
さ
)
れよ、
172
再
(
ふたた
)
び
汝
(
なんぢ
)
に
会
(
あ
)
ふ
事
(
こと
)
あらむ、
173
曲津
(
まがつ
)
の
猛
(
たけ
)
び
狂
(
くる
)
ふ
葦原
(
あしはら
)
の
国
(
くに
)
、
174
随分
(
ずゐぶん
)
心
(
こころ
)
を
配
(
くば
)
らせられよ』
175
と
宣
(
の
)
らせ
給
(
たま
)
ふと
見
(
み
)
れば、
176
姿
(
すがた
)
は
煙
(
けぶり
)
と
消
(
き
)
えて
後
(
あと
)
には
地教山
(
ちけうざん
)
の
峰
(
みね
)
吹
(
ふ
)
き
渡
(
わた
)
る
松風
(
まつかぜ
)
の
音
(
おと
)
のみにして、
177
道
(
みち
)
に
障碍
(
さや
)
りたる
大蛇
(
をろち
)
の
影
(
かげ
)
も
何時
(
いつ
)
しか
見
(
み
)
えずなりぬ。
178
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
は
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
此処
(
ここ
)
より
踵
(
きびす
)
をかへし、
179
急坂
(
きふはん
)
を
下
(
くだ
)
らせたまへば、
180
以前
(
いぜん
)
の
男
(
をとこ
)
、
181
鬼掴
(
おにつかみ
)
は
大地
(
たいち
)
に
平伏
(
ひれふ
)
し
尊
(
みこと
)
に
向
(
むか
)
つて
帰順
(
きじゆん
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
し、
182
鬼掴
『
私
(
わたくし
)
は
実
(
じつ
)
を
申
(
まを
)
せば
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
家来
(
けらい
)
とは
偽
(
いつは
)
り、
183
高天原
(
たかあまはら
)
の
或
(
ある
)
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
より
内命
(
ないめい
)
を
受
(
う
)
け、
184
貴神
(
きしん
)
の
当山
(
たうざん
)
に
登
(
のぼ
)
らせたまふを
道
(
みち
)
にて
遮断
(
しやだん
)
せよとの
厳命
(
げんめい
)
を
頂
(
いただ
)
きしもの、
185
嗚呼
(
あゝ
)
併
(
しか
)
しながら
此
(
この
)
度
(
たび
)
の
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
の
変
(
へん
)
は
貴神
(
きしん
)
の
罪
(
つみ
)
に
非
(
あら
)
ず、
186
罪
(
つみ
)
は
却
(
かへ
)
つて
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
の
方
(
はう
)
にあり、
187
何
(
いづ
)
れの
神
(
かみ
)
も
御
(
ご
)
心中
(
しんちう
)
御
(
お
)
察
(
さつ
)
し
申
(
まを
)
上
(
あ
)
げ
居
(
ゐ
)
る
方々
(
かたがた
)
のみ。
188
吾
(
われ
)
は
之
(
これ
)
より
心
(
こころ
)
を
改
(
あらた
)
め
貴神
(
きしん
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
に
満腔
(
まんこう
)
の
同情
(
どうじやう
)
を
表
(
へう
)
し
奉
(
たてまつ
)
り
労苦
(
らうく
)
を
共
(
とも
)
にせむと
欲
(
ほつ
)
す、
189
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
世界
(
せかい
)
万民
(
ばんみん
)
の
為
(
ため
)
に
吾
(
わ
)
が
願
(
ねがひ
)
を
許
(
ゆる
)
させ
給
(
たま
)
へ』
190
と
誠心
(
せいしん
)
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれ
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
して
歎願
(
たんぐわん
)
したりける。
191
尊
(
みこと
)
は、
192
素盞嗚尊
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
頭
(
かしら
)
の
傷
(
きず
)
は
如何
(
いかが
)
なせしや』
193
と
尋
(
たづ
)
ね
玉
(
たま
)
ふに、
194
鬼掴
(
おにつかみ
)
は
畏
(
かしこ
)
みながら、
195
鬼掴
『ハイ、
196
お
蔭様
(
かげさま
)
にて
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず、
197
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
と
御
(
おん
)
名
(
な
)
を
称
(
たた
)
へまつりし
其
(
その
)
刹那
(
せつな
)
より、
198
さしも
激烈
(
げきれつ
)
なる
痛
(
いた
)
みも
忘
(
わす
)
れたる
如
(
ごと
)
くに
止
(
と
)
まり、
199
割
(
わ
)
れたる
頭
(
あたま
)
も
元
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
くに
全快
(
ぜんくわい
)
致
(
いた
)
したり。
200
瑞霊
(
みづのみたま
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
には
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
り
奉
(
たてまつ
)
る』
201
と
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
して
涙
(
なみだ
)
をホロホロ
流
(
なが
)
し
居
(
ゐ
)
る。
202
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
は
大
(
おほい
)
に
喜
(
よろこ
)
びたまひ、
203
素盞嗚尊
『
吾
(
わ
)
れ、
204
高天原
(
たかあまはら
)
を
退
(
やら
)
はれしより、
205
時雨
(
しぐれ
)
の
中
(
なか
)
の
一人旅
(
ひとりたび
)
、
206
実
(
じつ
)
に
淋
(
さび
)
しい
思
(
おも
)
ひを
致
(
いた
)
したるが、
207
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
妙
(
めう
)
なものかな、
208
一人
(
ひとり
)
の
同情者
(
どうじやうしや
)
を
得
(
え
)
たり。
209
いざ
之
(
これ
)
より
汝
(
なんぢ
)
と
吾
(
われ
)
とは
生
(
うみ
)
の
兄弟
(
きやうだい
)
となりて
大八洲
(
おほやしま
)
の
国
(
くに
)
に
蟠
(
わだか
)
まる
悪魔
(
あくま
)
を
滅
(
ほろぼ
)
し、
210
万民
(
ばんみん
)
を
救
(
すく
)
ひ
天下
(
てんか
)
に
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
至誠
(
しせい
)
を
現
(
あら
)
はさむ、
211
鬼掴
(
おにつかみ
)
来
(
きた
)
れ』
212
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
213
柴笛
(
しばふえ
)
を
吹
(
ふ
)
きながら
足
(
あし
)
を
速
(
はや
)
めて
何処
(
いづこ
)
ともなく
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
歌
(
うた
)
ひつつ、
214
西南
(
せいなん
)
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
みたまふ。
215
(
大正一一・四・二
旧三・六
加藤明子
録)
216
(昭和一〇・三・二〇 於彰化神聖会支部 王仁校正)
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