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第二〇章 五十(ごじつ)世紀(せいき)〔五八七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻 篇:第4篇 神行霊歩 よみ(新仮名遣い):しんこうれいほ
章:第20章 五十世紀 よみ(新仮名遣い):ごじゅっせいき 通し章番号:587
口述日: 口述場所: 筆録者:藤津久子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
三人はどうやって鏡の岩を突破しようかと思案に暮れている。松彦は、河鹿峠で吹き飛ばされて失った、三人の肉体の死骸と、乗ってきた馬の死骸を持ってこなくては、天国に入れない、と謎をかける。
厳彦は、松彦の謎にある「馬」は心の駒を表し、「肉体」は魂のことであると気づいた。そうして、自分たちが天国の美しさに心の駒の手綱を緩め、魂を宙に飛ばしてしまい、祝詞の奏上を忘れていたことに気づいた。
三人が天津祝詞を合奏すると、鏡の岩が自然に開かれて、大きな道が現れた。一行が進んで行くと、向こうから小さな五人連れの男女が歩いてきた。松彦は、これは五十世紀の人間の魂である、と説明した。
一行は美しい湖水の岸についた。松彦は三人を舟に迎え入れると、高天原さして漕ぎ出した。やがて、波の彼方の一つ島に、麗しい金殿玉楼が見えてきた。一行は上陸すると、壮麗な門をくぐり、松彦の案内で中に進んで行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-20 21:04:36 OBC :rm1520
愛善世界社版:256頁 八幡書店版:第3輯 374頁 修補版: 校定版:254頁 普及版:117頁 初版: ページ備考:
001 松彦(まつひこ)天使(てんし)(ともな)はれた一行(いつかう)(さん)(にん)は、002(かがみ)(いは)にピタリと行当(ゆきあた)り、003如何(いか)にして(この)関所(せきしよ)突破(とつぱ)せむかと(くび)(かたむ)けて、004(むね)()(こころ)()け、005(くび)上下(じやうげ)左右(さいう)(しづ)かに()(なが)ら、006やや当惑(たうわく)(てい)にて幾何(いくばく)かの時間(じかん)(つひ)やしゐたり。
007玉彦(たまひこ)吾々(われわれ)現界(げんかい)(おい)ても、008(こころ)(かがみ)(くも)つてゐる(ため)に、009万事(ばんじ)()()(あた)()ちだ、010神界(しんかい)()ても矢張(やつぱり)()(あた)身魂(みたま)性来(しやうらい)()える(わい)011アヽ、012どうしたら()からうな。013()()引返(ひきかへ)(わけ)にも()かず、014(なん)とか(ほん)守護神(しゆごじん)()智慧(ちゑ)()して()れさうなものだなア』
015松彦(まつひこ)貴方(あなた)はそれだから不可(いか)ないのですよ。016自分(じぶん)(あか)(ほん)守護神(しゆごじん)塗付(ぬりつ)けるといふ(こと)がありますか』
017玉彦(たまひこ)吾々(われわれ)(つね)()いて()ります。018(ほん)守護神(しゆごじん)(ぜん)であれば、019肉体(にくたい)もそれに()れて感化(かんくわ)され、020霊肉(れいにく)(とも)清浄(せいじやう)潔白(けつぱく)になり天国(てんごく)(すく)はれると()(こと)(かた)(しん)じてゐました。021()九分(くぶ)九厘(くりん)最上(さいじやう)天国(てんごく)()けぬと()ふことは吾々(われわれ)(ほん)守護神(しゆごじん)もどうやら(あや)しいものだ。022コラコラ(ほん)守護神(しゆごじん)023臍下(さいか)丹田(たんでん)から()()て、024()(にく)(みや)何故(なぜ)保護(ほご)をせないのか、025それでは(ほん)守護神(しゆごじん)職責(しよくせき)(つく)せぬでは()いか。026肉体(にくたい)天国(てんごく)()けば(ほん)守護神(しゆごじん)もが()ける道理(だうり)だ。027(べつ)玉彦(たまひこ)(とく)(ばか)りでない、028矢張(やつぱり)(ほん)守護神(しゆごじん)(とく)にもなるのだ。029(なに)をグヅグヅして()るのかい』
030(にぎ)(こぶし)(かた)めて(へそ)(あたり)をポンポン(たた)く。
031松彦(まつひこ)『アハヽヽヽ、032面白(おもしろ)面白(おもしろ)い』
033玉彦(たまひこ)(これ)()しからぬ、034千思(せんし)万慮(ばんりよ)(つく)し、035如何(いか)にして(この)鉄壁(てつぺき)通過(つうくわ)せむかと思案(しあん)にくるるのを()て、036可笑(おか)しさうに吾々(われわれ)嘲笑(てうせう)なさるのか、037貴方(あなた)余程(よつぽど)(けち)守護神(しゆごじん)伏在(ふくざい)して()ますな』
038松彦(まつひこ)天国(てんごく)には(うら)みも()ければ(かな)しみも()い。039(また)(あざけ)りもありませぬ。040(わたくし)(わら)つたのは貴方(あなた)守護神(しゆごじん)(わたくし)(たい)()つて()はれたのですよ』
041玉彦(たまひこ)『さう()けば、042さうかも()れませぬな。043これこれ厳彦(いづひこ)サン、044楠彦(くすひこ)サン、045貴方(あなた)がたの(ほん)守護神(しゆごじん)(なん)仰有(おつしや)いますかな』
046(くす)047(いづ)『アア(いま)だに(なん)とも()宣示(せんじ)がありませぬ。048(ここ)(しば)らく()沈黙(ちんもく)為体(ていたらく)()えます(わい)049()うなると(じつ)(はづか)しいものだ。050吾々(われわれ)背後(はいご)には立派(りつぱ)女神(めがみ)守護神(しゆごじん)(かがみ)(うつ)るのが()える、051有難(ありがた)い、052吾々(われわれ)(なん)()つても矢張(やつぱり)身魂(みたま)立派(りつぱ)だから、053守護神(しゆごじん)もあの(とほ)立派(りつぱ)なと(おも)刹那(せつな)054パツと()えて(しま)つて(あと)には霊衣(れいい)さへ()えなくなつて(しま)つた。055アヽ(こころ)油断(ゆだん)といふものは(おそ)ろしいものだナア』
056松彦(まつひこ)貴方(あなた)がたは(なに)(ひと)(おと)して()たものはありませぬか』
057三人最早(もはや)娑婆(しやば)執着心(しふちやくしん)()てた以上(いじやう)は、058(おと)すも(おと)さぬもありませぬワ。059()つて(おと)したと()へば執着心(しふちやくしん)(くらゐ)のものでせうよ』
060松彦(まつひこ)『イーエ、061ソンナものぢやありませぬ。062貴方(あなた)がたに()つて、063高天原(たかあまはら)関門(くわんもん)通過(つうくわ)すれば容易(ようい)通過(つうくわ)出来(でき)ます』
064玉彦(たまひこ)『コレコレ(くす)サン、065(いづ)サン、066(まへ)たち(なに)(おと)した(もの)(おも)()せないか』
067厳彦(いづひこ)『オー(おも)()した。068河鹿(かじか)(たうげ)(くだ)(とき)に、069大切(たいせつ)(うま)一匹(いつぴき)自分(じぶん)肉体(にくたい)(ひと)(おと)して()(やう)記憶(きおく)(うか)んで()る。070(おと)したと()つたら、071マアソンナ(もの)だらう。072もしもし松彦(まつひこ)サン、073(うま)死骸(しがい)人間(にんげん)死骸(しがい)(ひろ)つて()なくては此処(ここ)通過(つうくわ)出来(でき)ないのですか』
074松彦(まつひこ)『さうです。075(うま)死骸(しがい)人間(にんげん)死骸(しがい)(ひろ)つて()なさい。076さうすれば容易(ようい)通過(つうくわ)出来(でき)ませう』
077玉彦(たまひこ)一寸(ちよつと)()つて(くだ)さい。078貴方(あなた)仰有(おつしや)(こと)(すこ)脱線(だつせん)ぢやありますまいか。079(かく)(ごと)四面(しめん)玲瓏(れいろう)たる天国(てんごく)左様(さやう)穢苦(むさくる)しい死骸(しがい)()つて()てどうして関門(くわんもん)通過(つうくわ)出来(でき)ませうか。080(きよ)きが(うへ)にも(きよ)天国(てんごく)に、081()んだ(うま)(ひき)ずつて()(ところ)()(わけ)にも()かず、082一足(ひとあし)(ある)(わけ)にも()くまいし、083ハテ(わけ)(わか)らぬ(こと)仰有(おつしや)ります(わい)
084松彦(まつひこ)『サア(その)(おと)した(うま)人間(にんげん)死骸(しがい)()かしさへすれば、085立派(りつぱ)通過(つうくわ)出来(でき)るのだ。086マア一寸(ちよつと)(ほん)守護神(しゆごじん)(とつく)()相談(さうだん)をなさいませ。087(わたくし)はそれまで此処(ここ)()つて()ます』
088玉彦(たまひこ)『ヤア()(いそが)しいのに()みませぬな』
089厳彦(いづひこ)横手(よこて)()ち)『ヤア(わか)つた(わか)つた、090(ほん)守護神(しゆごじん)(ささや)きに()つて、091一切(いつさい)万事(ばんじ)解決(かいけつ)()いた。092(うま)(おと)したと()(こと)は、093(こころ)(こま)手綱(たづな)(ゆる)んで何処(どこ)かへ逸走(いつそう)して(しま)つたと()(こと)だつた。094死骸(しがい)(おと)したと()(こと)吾々(われわれ)身魂(みたま)天国(てんごく)(うる)はしき光景(くわうけい)憧憬(あこが)(たましひ)(ちう)()ばして(しま)つたといふ(なぞ)であつた。095さうして(もつと)(ひと)大事(だいじ)なのは、096神界(しんかい)旅行(りよかう)必要(ひつえう)なる天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)神言(かみごと)合奏(がつそう)であつた。097箕売(みうり)(かさ)ひるとは(この)(こと)だ。098現界(げんかい)()(とき)一生(いつしやう)懸命(けんめい)に、099宣伝歌(せんでんか)(とな)へ、100天津(あまつ)祝詞(のりと)言霊(ことたま)朝夕(あさゆふ)奏上(そうじやう)したものだ。101(その)言霊(ことたま)奏上(そうじやう)も、102天国(てんごく)自分(じぶん)(すく)はれ、103数多(あまた)(ひと)(すく)はむが(ため)であつた。104(しか)るに()目的(もくてき)たる天国(てんごく)()(のぼ)(なが)ら、105肝腎(かんじん)宣伝使(せんでんし)身魂(みたま)何時(いつ)()にやら遺失(ゐしつ)して(しま)ひ、106(こころ)(こま)有頂天(うちやうてん)となつて空中(くうちう)飛散(ひさん)して(しま)つて()た。107アヽ天国(てんごく)()(ところ)は、108油断(ゆだん)のならぬ(ところ)だな、109結構(けつこう)(ところ)気遣(きづか)ひの(ところ)(こわ)(ところ)だ。110サアサア()一同(いちどう)(さま)111天津(あまつ)祝詞(のりと)(この)鏡岩(かがみいは)(むか)つて奏上(そうじやう)(いた)しませう』
112一同(いちどう)()()けたる心地(ここち)して、113(いさ)()ち、114天津(あまつ)祝詞(のりと)一心(いつしん)不乱(ふらん)になつて百度(ももたび)(ばか)奏上(そうじやう)した。115(かがみ)(いは)自然(しぜん)左右(さいう)(ひら)かれ、116坦々(たんたん)たる(はな)(もつ)(かざ)られたる、117(きよ)大道(だいだう)(あら)はれて()た。118(さん)(にん)(こゑ)(そろ)へて、
119三人『ヤア松彦(まつひこ)(さま)120有難(ありがた)御座(ござ)いました。121()(かげ)(さま)難関(なんくわん)無事(ぶじ)通過(つうくわ)(いた)しました。122何分(なにぶん)()れぬ神界(しんかい)旅行(りよかう)123勝手(かつて)(ぞん)じませぬから、124(なん)とぞ(よろ)しく()世話(せわ)(くだ)さいませ』
125松彦(まつひこ)否々(いやいや)126貴方(あなた)(こと)貴方(あなた)がおやりなさい。127現界(げんかい)(おい)貴方(あなた)がたは、128(つね)に、129(ひと)(つゑ)()くな、130師匠(ししやう)便(たよ)りにするなと()つて(まは)つて()られたでせう』
131 (さん)(にん)は、
132三人『アハヽヽヽ、133(あま)()景色(けしき)気分(きぶん)()くなつて(なに)()(わす)れて(しま)つた。134さうすると矢張(やつぱ)執着心(しふちやくしん)必要(ひつえう)だ』
135松彦(まつひこ)『それは(けつ)して執着心(しふちやくしん)ではありませぬ。136貴方(あなた)がたの身魂(みたま)(まも)生命(いのち)(つな)ですよ。137ヤア(いそ)いで(まゐ)りませう』
138 (むか)ふの(はう)より、139()(たけ)()(しやく)ばかりの男女(だんぢよ)五人(ごにん)(づれ)140()(つな)(なが)ら、141ヒヨロヒヨロと此方(こなた)(むか)つて(すす)(きた)るあり。
142玉彦(たまひこ)『ヤア(ちい)さいお(かた)()()でたぞ。143此処(ここ)小人島(こびとじま)(やう)だな。144天国(てんごく)にはコンナ(ちい)さい人間(にんげん)()まつて()るのですか。145ナア松彦(まつひこ)サン』
146松彦(まつひこ)(なに)147神界(しんかい)(ばか)りか、148現界(げんかい)(この)(とほ)りですよ。149一番(いちばん)図抜(づぬ)けて大男(おほをとこ)()はれるのが(さん)(しやく)内外(ないぐわい)(いつ)(しやく)八寸(はつすん)もあれば一人前(いちにんまへ)人間(にんげん)だ。150顕幽(けんいう)一致(いつち)151現界(げんかい)()まつてゐる人間(にんげん)霊体(れいたい)(この)高天原(たかあまはら)(あそ)びに()てゐるのだ。152ああやつて()(つな)いで(ある)かないと、153(つる)()()て、154(たか)(ところ)()つて(あが)るから、155(その)(なん)(ふせ)(ため)156ああやつて()(つな)いで(ある)いて()るのだ』
157玉彦(たまひこ)『ハテ益々(ますます)合点(がてん)()かなくなつて()た。158吾々(われわれ)(さん)(にん)は、159常世(とこよ)(くに)振出(ふりだ)しに、160世界(せかい)各国(かくこく)(また)にかけ、161現界(げんかい)大抵(たいてい)跋渉(ばつせふ)した(つも)りだが、162何程(なにほど)(ちい)さき人間(にんげん)だと()つても(ろく)(しやく)より(ひく)男女(だんぢよ)()かつた。163(あか)(ばう)だつてあれ(くらゐ)背丈(せたけ)は、164現界(げんかい)人間(にんげん)なれば()つてゐますよ。165貴方(あなた)166(なに)かの間違(まちが)ひではありますまいか』
167松彦(まつひこ)(ろく)(しやく)以上(いじやう)人間(にんげん)()まつて()つたのは、168(いま)より(ほとん)三十五万(さんじふごまん)(ねん)(むかし)(こと)だ。169貴方(あなた)河鹿(かじか)(たうげ)帰幽(きいう)してからは、170最早(もはや)三十五万(さんじふごまん)(ねん)経過(けいくわ)して()るのだ。171現界(げんかい)二十(にじつ)世紀(せいき)といふ、172(たましひ)(ちい)さい人間(にんげん)()まつて()時代(じだい)超過(てうくわ)し、173(すで)三千(さんぜん)(ねん)()れてゐる。174現界(げんかい)()へば、175キリストが(あら)はれてから五十(ごじつ)世紀(せいき)今日(こんにち)だ。176()漸次(だんだん)(ひら)けるに()れて、177地上(ちじやう)人間(にんげん)労苦(らうく)(いと)ひ、178(ある)くのにも電車(でんしや)だとか、179自動車(じどうしや)180汽車(きしや)181風車(ふうしや)182羽車(はぐるま)(など)()つて天地間(てんちかん)往来(わうらい)し、183(すこ)しも手足(てあし)使(つか)はないものだから、184身体(しんたい)()()ひと虚弱(きよじやく)になつて最早(もはや)五十(ごじつ)世紀(せいき)今日(こんにち)では、185コンナ弱々(よわよわ)しい人間(にんげん)になつて(しま)つたのだ。186(しか)(なが)ら、187十九(じふく)世紀(せいき)(をは)りから二十(にじつ)世紀(せいき)にかけて()()()した、188三五教(あななひけう)(をしへ)(しん)不言(ふげん)実行(じつかう)(つと)め、189労苦(らうく)(たの)しみとしてゐる人間(にんげん)系統(けいとう)(かぎ)つて、190()れと反対(はんたい)(ろく)(しやく)以上(いじやう)体躯(たいく)(たも)ち、191現幽(げんいう)神界(しんかい)(おい)て、192(かみ)生宮(いきみや)として活動(くわつどう)してゐるミロク人種(じんしゆ)もありますよ』
193(さん)(にん)吾々(われわれ)昨夜(さくや)194河鹿(かじか)(たうげ)落命(らくめい)したと(おも)つて()るのに、195最早(もはや)三十五万(さんじふごまん)(ねん)()れたのでせうか。196如何(いか)神界(しんかい)時間(じかん)()いと()つても(これ)(また)(あま)(はや)いぢやありませぬか』
197松彦(まつひこ)『サアお(はなし)聖地(せいち)到着(たうちやく)(うへ)ゆつくりと(いた)しませう。198(かみ)(さま)がお待兼(まちか)ね、199ぼつぼつ(まゐ)りませう』
200(さき)()つて(あゆ)()した。201(さん)(にん)松彦(まつひこ)(あと)にいそいそと(したが)()く。202(たちま)眼前(がんぜん)展開(てんかい)せる湖水(こすゐ)(きし)()いた。203金波(きんぱ)銀波(ぎんぱ)洋々(やうやう)として魚鱗(ぎよりん)(ごと)日光(につくわう)(えい)じ、204(その)壮観(さうくわん)(たと)ふるに(もの)なき(ほど)である。205七宝(しつぽう)珠玉(しゆぎよく)(もつ)(かざ)られたる目無(めなし)堅間(かたま)御船(みふね)は、206幾十艘(いくじつそう)とも()(うか)んでゐる。207松彦(まつひこ)は、208(その)(うち)(もつと)(うる)はしき、209(あたら)しき(ふね)にヒラリと()()り、210(さん)(にん)同乗(どうじやう)(すす)め、211(みづか)()(あやつ)(なが)ら、212西南(せいなん)()して波上(はじやう)(ゆたか)(ゆら)()く。213湖面(こめん)日光(につくわう)七色(しちしよく)(なみ)(もつ)(いろ)どられたる(ごと)波紋(はもん)(ゑが)きつつ、214船唄(ふなうた)(いさ)ましく聖地(せいち)高天原(たかあまはら)()して、215(いさ)()()く。216(なみ)彼方(あなた)に、217(かすみ)(うへ)()いてゐる黄金(わうごん)(かはら)218(ぎん)(はしら)219真珠(しんじゆ)220瑪瑙(めなう)221珊瑚(さんご)222瑠璃(るり)223琥珀(こはく)224硨磲(しやこ)(など)七宝(しつぽう)(ちりば)めたる金殿(きんでん)玉楼(ぎよくろう)太陽(たいやう)(ひかり)(またた)きて、225六合(りくがふ)(てら)(ばか)りの荘麗(さうれい)(しめ)してゐる。226(やうや)くにして(ふね)(ひと)つの(しま)()いた。227地上(ちじやう)一面(いちめん)()かれたる金銀(きんぎん)真珠(しんじゆ)清庭(すがには)がある。228(ひがし)(もん)巨大(きよだい)なる真珠(しんじゆ)(もつ)(かた)められ、229西(にし)には瑪瑙(めなう)神門(しんもん)230(みなみ)瑠璃(るり)神門(しんもん)231(きた)には硨磲(しやこ)神門(しんもん)(もつ)(かこ)まれ、232東北(とうほく)には白金(はくきん)(もん)233西南(せいなん)には白銀(はくぎん)(もん)234西北(せいほく)には黄金(わうごん)(もん)235東南(とうなん)には瑪瑙(めなう)(もん)(つく)られ、236(その)()に、237(やつ)(くぐ)(もん)(おのおの)(めづ)らしき宝玉(ほうぎよく)(ちりば)められ、238(その)壮観(さうくわん)美麗(びれい)なる(こと)239筆舌(ひつぜつ)()(つく)(ところ)ではない。240松彦(まつひこ)()東門(とうもん)より(さん)(にん)(ともな)ひ、241静々(しづしづ)(すす)()る。242入口(いりくち)には眉目(びもく)(うる)はしき男女(だんぢよ)天使(てんし)243満面(まんめん)(ゑみ)(たた)へて一行(いつかう)歓迎(くわんげい)しつつありき。244松彦(まつひこ)(これ)()(うる)はしき天使(てんし)目礼(もくれい)(なが)ら、245(さん)(にん)(とも)(おく)(おく)へと(すす)()く。
246大正一一・四・四 旧三・八 藤津久子録)
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