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第15巻(寅の巻)
序
凡例
総説歌
第1篇 正邪奮戦
01 破羅門
〔568〕
02 途上の変
〔569〕
03 十六花
〔570〕
04 神の栄光
〔571〕
05 五天狗
〔572〕
06 北山川
〔573〕
07 釣瓶攻
〔574〕
08 ウラナイ教
〔575〕
09 薯蕷汁
〔576〕
10 神楽舞
〔577〕
第2篇 古事記言霊解
11 大蛇退治の段
〔578〕
第3篇 神山霊水
12 一人旅
〔579〕
13 神女出現
〔580〕
14 奇の岩窟
〔581〕
15 山の神
〔582〕
16 水上の影
〔583〕
17 窟の酒宴
〔584〕
18 婆々勇
〔585〕
第4篇 神行霊歩
19 第一天国
〔586〕
20 五十世紀
〔587〕
21 帰顕
〔588〕
22 和と戦
〔589〕
23 八日の月
〔590〕
跋文
余白歌
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> 第1篇 正邪奮戦 > 第8章 ウラナイ教
<<< 釣瓶攻
(B)
(N)
薯蕷汁 >>>
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第八章 ウラナイ
教
(
けう
)
〔五七五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻
篇:
第1篇 正邪奮戦
よみ(新仮名遣い):
せいじゃふんせん
章:
第8章 ウラナイ教
よみ(新仮名遣い):
うらないきょう
通し章番号:
575
口述日:
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年12月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
広い館の門には、風雨にさらされた表札に、神代文字で「ウラナイ教の本部」と書かれていた。安彦は、田加彦と百舌彦に中の様子を見てくるように依頼した。
二人が塀を乗り越えて館の中の様子を見ると、高姫という教主らしい肥えた中婆が中央に控え、七八人の宣伝使らしい男女がとろろ汁を吸っている。いずれも、盲人のような手つきである。
田加彦と百舌彦は、盲人らしいのを幸いに、とろろ汁を奪って吸ってしまう。ウラナイ教徒たちは、仲間にとろろ汁を取られたと思って喧嘩を始めてしまう。
高姫は盲人の真似をしていただけだったので、二人に気づき、出刃包丁を持って追いかけ、大騒ぎになる。
田加彦と百舌彦は、逃げる途中に針だらけの枝が仕掛けてある水ためにはまり込んでしまうが、高姫もよろめくはずみに水ために落ちて苦しむ。その隙に田加彦、百舌彦は逃げてしまう。
安彦、国彦、道彦は水ための側を通りかかり、高姫を救出した。そこへ田加彦、百舌彦が戻ってきた。高姫は二人がとろろ汁を盗んだことを非難する。道彦は話を聞いて吹きだし、お詫びに田加彦と百舌彦をウラナイ教にくれてやろう、という。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-01-16 01:35:20
OBC :
rm1508
愛善世界社版:
92頁
八幡書店版:
第3輯 314頁
修補版:
校定版:
92頁
普及版:
41頁
初版:
ページ備考:
001
安彦
(
やすひこ
)
、
002
国彦
(
くにひこ
)
、
003
道彦
(
みちひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
始
(
はじ
)
め、
004
田加彦
(
たかひこ
)
、
005
百舌彦
(
もずひこ
)
の
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は、
006
此
(
この
)
広
(
ひろ
)
き
館
(
やかた
)
の
門前
(
もんぜん
)
に
佇
(
たたず
)
み
内部
(
ないぶ
)
の
様子
(
やうす
)
を
耳
(
みみ
)
を
澄
(
す
)
ませて
聞
(
き
)
き
居
(
ゐ
)
たり。
007
フト
表門
(
おもてもん
)
を
眺
(
なが
)
むれば、
008
風雨
(
ふうう
)
に
曝
(
さら
)
された
標札
(
へうさつ
)
に
幽
(
かすか
)
に『ウラナイ
教
(
けう
)
の
本部
(
おほもと
)
』と
神代
(
じんだい
)
文字
(
もじ
)
にて
記
(
しる
)
されてある。
009
安彦
(
やすひこ
)
は
覚束
(
おぼつか
)
なげに
半
(
なかば
)
剥
(
は
)
げたる
文字
(
もじ
)
を
読
(
よ
)
み、
010
安彦
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
は、
011
ウラル
教
(
けう
)
と
三五教
(
あななひけう
)
を
合併
(
がつぺい
)
した
変則
(
へんそく
)
的
(
てき
)
神教
(
しんけう
)
の
本山
(
ほんざん
)
と
見
(
み
)
える
哩
(
わい
)
、
012
それにしても
最前
(
さいぜん
)
の
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
、
013
何
(
なん
)
となく
聞
(
き
)
き
覚
(
おぼ
)
えのある
感
(
かん
)
じがする。
014
ハテなア、
015
オー
百舌彦
(
もずひこ
)
、
016
田加彦
(
たかひこ
)
、
017
汝
(
なんぢ
)
はそつと
此
(
この
)
塀
(
へい
)
を
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
え、
018
中
(
なか
)
の
様子
(
やうす
)
を
探
(
さぐ
)
り
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
の
前
(
まへ
)
に
報告
(
はうこく
)
して
呉
(
く
)
れ』
019
百舌彦
(
もずひこ
)
、
020
田加彦
(
たかひこ
)
は
嬉
(
うれ
)
し
気
(
げ
)
に
打
(
う
)
ち
諾
(
うなづ
)
き、
021
木伝
(
こづた
)
ふ
猿
(
さる
)
か、
022
小蟹
(
ささがに
)
の
蜘蛛
(
くも
)
の
振舞
(
ふるまひ
)
逸早
(
いちはや
)
く、
023
ヒラリと
塀
(
へい
)
を
飛越
(
とびこ
)
えて、
024
庭先
(
にはさき
)
の
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みに
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
し、
025
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
ひつつありき。
026
ウラナイ
教
(
けう
)
の
教主
(
けうしゆ
)
と
見
(
み
)
えて、
027
ぼつてり
肥
(
こえ
)
た
婆
(
ばば
)
一人
(
ひとり
)
、
028
雑水桶
(
ざふづをけ
)
に
氷
(
こほり
)
のはつたやうな
眼
(
め
)
をキヨロつかせながら
中央
(
ちうあう
)
に
控
(
ひか
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
029
七八
(
しちはち
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
らしき
男女
(
だんぢよ
)
は、
030
孰
(
いづ
)
れも
白内障
(
はくないしやう
)
か、
031
黒内障
(
こくないしやう
)
を
病
(
や
)
んだ
盲人
(
まうじん
)
の
如
(
ごと
)
く、
032
表面
(
へうめん
)
眼
(
まなこ
)
はキロキロと
光
(
ひか
)
りながら、
033
何
(
なに
)
も
見
(
み
)
えぬと
見
(
み
)
えて
手探
(
てさぐ
)
りして
巨大
(
きよだい
)
なる
丼鉢
(
どんぶりばち
)
に
麦飯
(
むぎめし
)
薯蕷汁
(
とろろじる
)
を
多量
(
どつさり
)
に
盛
(
も
)
り、
034
ツルリツルリと
吸
(
す
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
035
二人
(
ふたり
)
の
薬鑵頭
(
やくわんあたま
)
の
禿爺
(
はげおやぢ
)
は、
036
頻
(
しき
)
りに
摺鉢
(
すりばち
)
に
山
(
やま
)
の
薯
(
いも
)
を
摺
(
す
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
037
これも
何
(
ど
)
うやら
盲人
(
めくら
)
らしく
手探
(
てさぐ
)
りしつつ
働
(
はたら
)
いて
居
(
を
)
る。
038
二人
(
ふたり
)
は
此
(
この
)
光景
(
くわうけい
)
を
見
(
み
)
やり、
039
田加彦
『オイ
百舌公
(
もずこう
)
、
040
此処
(
ここ
)
の
奴
(
やつ
)
は
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
皆
(
みな
)
盲人
(
めくら
)
ばかりだと
見
(
み
)
える。
041
大
(
おほ
)
きな
丼鉢
(
どんぶりばち
)
に
麦飯
(
むぎめし
)
薯蕷汁
(
とろろじる
)
をズルズルと
啜
(
すす
)
つて
居
(
を
)
るぢやないか、
042
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
ると
俄
(
にはか
)
に
胃
(
ゐ
)
の
腑
(
ふ
)
の
格納庫
(
かくなふこ
)
が
空虚
(
くうきよ
)
を
訴
(
うつた
)
へ
出
(
だ
)
したよ。
043
どうだ、
044
盲
(
めくら
)
を
幸
(
さひは
)
ひにそつと
一杯
(
いつぱい
)
頂戴
(
ちやうだい
)
して
来
(
こ
)
ようぢやないか』
045
百舌彦
(
もずひこ
)
は、
046
百舌彦
『ソイツは
面白
(
おもしろ
)
からう』
047
と
言
(
い
)
ひながら、
048
のそりのそりと
足音
(
あしおと
)
を
忍
(
しの
)
ばせ
一同
(
いちどう
)
の
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれ、
049
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
して
控
(
ひか
)
へて
居
(
を
)
る。
050
禿爺
(
はげおやぢ
)
は
丼鉢
(
どんぶりばち
)
に
麦飯
(
むぎめし
)
薯蕷汁
(
とろろじる
)
を
盛
(
も
)
り、
051
爺
『サアサアお
代
(
かは
)
りが
出来
(
でき
)
ました、
052
高姫
(
たかひめ
)
サン』
053
とニウツと
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
す。
054
高姫
(
たかひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
中年増
(
ちうどしま
)
のお
多福
(
たふく
)
婆
(
ばば
)
は
機械
(
きかい
)
人形
(
にんぎやう
)
のやうに
両手
(
りやうて
)
を
前
(
まへ
)
にさし
出
(
だ
)
した。
055
折
(
をり
)
も
折
(
をり
)
百舌彦
(
もずひこ
)
の
面前
(
めんぜん
)
に
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
した
丼鉢
(
どんぶりばち
)
を
百舌彦
(
もずひこ
)
は
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をしながら、
056
百舌彦
『ハイ、
057
これは
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
様
(
さん
)
、
058
もう
一杯
(
いつぱい
)
下
(
くだ
)
さいな』
059
爺
(
おやぢ
)
は
丼鉢
(
どんぶりばち
)
を
百舌彦
(
もずひこ
)
に
渡
(
わた
)
し、
060
爺
『よう
上
(
あが
)
る
高姫
(
たかひめ
)
サンぢや』
061
と
小声
(
こごゑ
)
に
呟
(
つぶや
)
きながら
又
(
また
)
探
(
さぐ
)
り
探
(
さぐ
)
り
台所
(
だいどころ
)
の
方
(
はう
)
に
帰
(
かへ
)
り
往
(
ゆ
)
き、
062
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
薯
(
いも
)
を
摺
(
す
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
063
高姫
(
たかひめ
)
『コレ
松助
(
まつすけ
)
、
064
何処
(
どこ
)
に
置
(
お
)
いたのだえ、
065
早
(
はや
)
く
此方
(
こちら
)
へ
渡
(
わた
)
して
呉
(
く
)
れないか』
066
松助
(
まつすけ
)
は
耳
(
みみ
)
遠
(
とほ
)
く
盲
(
めくら
)
と
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
るから、
067
何
(
なん
)
の
容赦
(
ようしや
)
もなく
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
鼻
(
はな
)
を
啜
(
すす
)
りつつ
薯
(
いも
)
を
摺
(
す
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
068
彼方
(
あちら
)
にも
此方
(
こちら
)
にも
ミヅバナ
を
啜
(
すす
)
るやうな
声
(
こゑ
)
が、
069
ずうずうと
聞
(
きこ
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
070
百舌彦
(
もずひこ
)
、
071
田加彦
(
たかひこ
)
は、
072
丼鉢
(
どんぶりばち
)
の
両方
(
りやうはう
)
より
噛
(
か
)
みつくやうに
腹
(
はら
)
が
減
(
へ
)
つたまま、
073
ツルツルと
非常
(
ひじやう
)
な
吸引力
(
きふいんりよく
)
で、
074
蟇蛙
(
ひきがへる
)
が
鼬
(
いたち
)
を
引
(
ひ
)
くやうに
大口
(
おほぐち
)
開
(
あ
)
けて
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んだ。
075
此
(
この
)
時
(
とき
)
松助
(
まつすけ
)
は
又
(
また
)
探
(
さぐ
)
り
探
(
さぐ
)
り
麦飯
(
むぎめし
)
に
薯蕷汁
(
とろろじる
)
を
掛
(
かけ
)
た
大丼鉢
(
おほどんぶりばち
)
を、
076
足許
(
あしもと
)
覚束
(
おぼつか
)
なげに、
077
川水
(
かはみづ
)
の
中
(
なか
)
を
歩
(
ある
)
くやうな
体裁
(
ていさい
)
で、
078
松助
『サアサア
高姫
(
たかひめ
)
サン、
079
お
代
(
かは
)
りが
出来
(
でき
)
ました』
080
田加彦
(
たかひこ
)
は
又
(
また
)
もや
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をして、
081
田加彦
『アア
松助
(
まつすけ
)
、
082
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
であつた。
083
もう
一杯
(
いつぱい
)
お
代
(
かは
)
りを
頼
(
たの
)
むよ』
084
松助
『ハイハイ、
085
もう
薯
(
いも
)
の
へた
ばかりじやが、
086
それでも
宜
(
よろ
)
しければお
上
(
あが
)
りなさいませ』
087
と
面
(
つら
)
膨
(
ふく
)
らし、
088
部屋
(
へや
)
に
引返
(
ひきかへ
)
す。
089
高姫
(
たかひめ
)
は、
090
高姫
『コラコラ
松助
(
まつすけ
)
、
091
未
(
ま
)
だ
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
ぬか、
092
何処
(
どこ
)
へ
置
(
お
)
いたのだい』
093
田加彦
(
たかひこ
)
、
094
百舌彦
(
もずひこ
)
は
矢庭
(
やには
)
に
一杯
(
いつぱい
)
を
平
(
たひら
)
げた。
095
傍
(
そば
)
に
十数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
の
盲人
(
めくら
)
は、
096
丼鉢
(
どんぶりばち
)
を
前
(
まへ
)
に
据
(
す
)
ゑ、
097
一口
(
ひとくち
)
食
(
く
)
つては
下
(
した
)
に
置
(
お
)
き
楽
(
たの
)
しんで
居
(
を
)
る。
098
百舌彦
(
もずひこ
)
は
甲
(
かふ
)
の
丼鉢
(
どんぶりばち
)
をソツと
乙
(
おつ
)
の
前
(
まへ
)
に
置
(
お
)
き、
099
乙
(
おつ
)
の
丼鉢
(
どんぶりばち
)
を
丙
(
へい
)
の
前
(
まへ
)
に
置
(
お
)
き、
100
丙
(
へい
)
の
丼鉢
(
どんぶりばち
)
を
高姫
(
たかひめ
)
の
前
(
まへ
)
にソツと
据
(
す
)
ゑた。
101
甲
(
かふ
)
『まだ
半分
(
はんぶん
)
余
(
あま
)
りはあつた
積
(
つも
)
りだに
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
に
此様
(
こんな
)
に
減
(
へ
)
つて
仕舞
(
しま
)
つたらう、
102
オイ
貴様
(
きさま
)
俺
(
おれ
)
のを
一緒
(
いつしよ
)
に
平
(
たひら
)
げて
仕舞
(
しま
)
つたな』
103
乙
(
おつ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
を
云
(
い
)
ふな、
104
俺
(
おれ
)
の
丼鉢
(
どんぶりばち
)
を
何処
(
どこ
)
かへやりよつたのだ。
105
自分
(
じぶん
)
は
一人前
(
いちにんまへ
)
平
(
たひら
)
げて
置
(
お
)
いて
未
(
ま
)
だ
他人
(
ひと
)
のまで
取
(
と
)
つて
食
(
く
)
うとは、
106
余
(
あんま
)
りぢやないか』
107
と
互
(
たがひ
)
に
盲人
(
めくら
)
同志
(
どうし
)
の
喧嘩
(
けんくわ
)
が
始
(
はじ
)
まつた。
108
十数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
の
盲人
(
めくら
)
は、
109
取
(
と
)
られては
一大事
(
いちだいじ
)
と
丼鉢
(
どんぶりばち
)
を
堅
(
かた
)
く
握
(
にぎ
)
り、
110
下
(
した
)
にも
置
(
お
)
かず、
111
ツルツルズルズルと
吸
(
す
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
112
田加彦
(
たかひこ
)
は、
113
火鉢
(
ひばち
)
の
灰
(
はい
)
を
掴
(
つか
)
んで、
114
盲人
(
めくら
)
の
丼鉢
(
どんぶりばち
)
に
一摘
(
ひとつま
)
みづつソツと
配
(
くば
)
つて
廻
(
まは
)
つた。
115
甲乙丙丁
『ヤア
何
(
な
)
んだ、
116
この
丼鉢
(
どんぶりばち
)
の………
俄
(
にはか
)
に
薯蕷汁
(
とろろじる
)
の
味
(
あぢ
)
が
変
(
かは
)
つたやうだ。
117
他人
(
ひと
)
が
盲人
(
めくら
)
だと
思
(
おも
)
つて
馬鹿
(
ばか
)
にしよるナ、
118
誰
(
たれ
)
か
灰
(
はい
)
を
入
(
い
)
れよつたわい』
119
百舌彦
(
もずひこ
)
『
ハイハイ
、
120
左様
(
さやう
)
々々
(
さやう
)
』
121
高姫
(
たかひめ
)
『ヤヽ、
122
誰
(
たれ
)
か
声
(
こゑ
)
の
違
(
ちが
)
ふ
奴
(
やつ
)
が
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
るらしい、
123
オイ
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
気
(
き
)
をつけよ、
124
何
(
なん
)
だか
最前
(
さいぜん
)
から
怪
(
あや
)
しいと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
125
俺
(
わし
)
は
最前
(
さいぜん
)
から
盲人
(
めくら
)
の
真似
(
まね
)
をして
居
(
を
)
れば、
126
何処
(
どこ
)
の
奴
(
やつ
)
か
知
(
し
)
らぬが、
127
二人
(
ふたり
)
のヒヨツトコ
野郎
(
やらう
)
奴
(
め
)
、
128
要
(
い
)
らぬ
悪戯
(
いたづら
)
をしよつた。
129
サアもう
了見
(
れうけん
)
ならぬ、
130
家
(
うち
)
の
爺
(
おやぢ
)
が
酷
(
きつ
)
い
肺病
(
はいびやう
)
で、
131
此処
(
ここ
)
に
薯蕷汁
(
とろろじる
)
によう
似
(
に
)
た
痰
(
たん
)
が
一杯
(
いつぱい
)
蓄
(
たくは
)
へてある。
132
之
(
これ
)
を
食
(
くら
)
つてサツサと
出
(
で
)
て
失
(
う
)
せ』
133
百舌
(
もず
)
と
田加
(
たか
)
は
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
きながら、
134
百舌彦、田加彦
『ヤア、
135
そいつは
御免
(
ごめん
)
だ』
136
高姫
(
たかひめ
)
『
御免
(
ごめん
)
も
糞
(
くそ
)
もあつたものか、
137
ヤアヤア
長助
(
ちやうすけ
)
、
138
伴助
(
はんすけ
)
、
139
二人
(
ふたり
)
の
者
(
もの
)
を
縛
(
しば
)
つて
了
(
しま
)
へ』
140
長助、伴助
『
畏
(
かしこ
)
まつた』
141
と
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
より、
142
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でたる
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
、
143
出刃
(
でば
)
庖丁
(
ぼうちやう
)
を
振
(
ふ
)
り
翳
(
かざ
)
し、
144
二人
(
ふたり
)
に
向
(
むか
)
つて
迫
(
せま
)
り
来
(
く
)
る。
145
高姫
(
たかひめ
)
も
眉
(
まゆ
)
を
逆立
(
さかだ
)
て、
146
出刃
(
でば
)
庖丁
(
ぼうちやう
)
を
逆手
(
さかて
)
に
持
(
も
)
ち、
147
三方
(
さんぱう
)
より
二人
(
ふたり
)
に
向
(
むか
)
つて
斬
(
き
)
つてかかる。
148
百舌彦
(
もずひこ
)
、
149
田加彦
(
たかひこ
)
は
丼鉢
(
どんぶりばち
)
を
頭
(
あたま
)
に
被
(
かぶ
)
りトントントンと
表
(
おもて
)
を
指
(
さ
)
して
逃出
(
にげだ
)
す。
150
百舌彦
(
もずひこ
)
の
被
(
かぶ
)
つた
丼鉢
(
どんぶりばち
)
には
爺
(
おやぢ
)
の
吐
(
は
)
いた
痰
(
たん
)
が
一杯
(
いつぱい
)
盛
(
も
)
つてあつた。
151
頭
(
あたま
)
から
痰
(
たん
)
を
一
(
いつ
)
ぱい
浴
(
あ
)
びたまま、
152
スタスタと
表
(
おもて
)
を
指
(
さ
)
して
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
す。
153
二人
(
ふたり
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
は
大股
(
おほまた
)
に
踏
(
ふ
)
ん
張
(
ば
)
りながら
二人
(
ふたり
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひかけ
来
(
きた
)
り、
154
澪
(
こぼ
)
れた
痰
(
たん
)
に
つるり
と
辷
(
すべ
)
つて、
155
スツテンドウと
仰向
(
あふむ
)
けに
倒
(
たふ
)
れた。
156
高姫
(
たかひめ
)
は
出刃
(
でば
)
を
振
(
ふ
)
り
翳
(
かざ
)
しながら
表
(
おもて
)
に
駆
(
か
)
け
出
(
い
)
で、
157
二人
(
ふたり
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
に
躓
(
つまづ
)
き、
158
バタリと
転
(
こ
)
けた
機
(
はづみ
)
に
長助
(
ちやうすけ
)
の
腹
(
はら
)
の
上
(
うへ
)
に
出刃
(
でば
)
を
突
(
つ
)
き
立
(
た
)
て、
159
長助
(
ちやうすけ
)
はウンと
一声
(
いつせい
)
七転
(
しちてん
)
八倒
(
ばつたふ
)
、
160
のた
打
(
う
)
ち
廻
(
まは
)
る。
161
忽
(
たちま
)
ち
館
(
やかた
)
の
中
(
うち
)
は
大騒動
(
おほさうどう
)
が
おつ
始
(
ぱじ
)
まりける。
162
田加彦
(
たかひこ
)
、
163
百舌彦
(
もずひこ
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し、
164
道端
(
みちばた
)
の
溜
(
たま
)
り
池
(
いけ
)
にザンブと
飛込
(
とびこ
)
み、
165
痰
(
たん
)
を
洗
(
あら
)
ひ
落
(
おと
)
さうとした。
166
此
(
この
)
水溜
(
みづため
)
は
数多
(
あまた
)
の
魚
(
うを
)
が
囲
(
かこ
)
うてある。
167
鼬
(
いたち
)
や
川獺
(
かはをそ
)
の
襲来
(
しふらい
)
を
防
(
ふせ
)
ぐために
柚
(
ゆ
)
の
木
(
き
)
の
針
(
はり
)
だらけの
枝
(
えだ
)
が
一面
(
いちめん
)
に
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んであつた。
168
二人
(
ふたり
)
はそれとも
知
(
し
)
らず
真裸
(
まつぱだか
)
となつて
飛込
(
とびこ
)
み
柚
(
ゆ
)
の
木
(
き
)
の
針
(
はり
)
に
刺
(
さ
)
されて
身体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
に
穴
(
あな
)
だらけとなり
辛
(
から
)
うじて
這
(
は
)
ひ
上
(
あが
)
りメソメソ
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
してゐる。
169
婆
(
ばば
)
は
眉
(
まゆ
)
を
逆立
(
さかだ
)
て
二本
(
にほん
)
の
角
(
つの
)
を
一寸
(
いつすん
)
許
(
ばか
)
り
髪
(
かみ
)
の
間
(
あひだ
)
より
現
(
あら
)
はしながら
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれた。
170
二人
(
ふたり
)
が
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
心地
(
ここち
)
よげに
打
(
う
)
ち
笑
(
わら
)
ひ、
171
蹌跟
(
よろめ
)
く
機
(
はづみ
)
に
又
(
また
)
もや
池
(
いけ
)
の
中
(
なか
)
にザンブと
斗
(
ばか
)
り
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
み、
172
婆
『アイタタアイタタ』
173
と
婆々
(
ばば
)
が
悶
(
もだ
)
え
苦
(
くる
)
しむ
可笑
(
おか
)
しさ、
174
二人
(
ふたり
)
は
真裸
(
まつぱだか
)
のまま、
175
百舌彦、田加彦
『
態
(
ざま
)
ア
見
(
み
)
やがれ』
176
と
云
(
い
)
ひつつ
足
(
あし
)
を
ちが
ちがさせ
田圃道
(
たんぼみち
)
を
走
(
はし
)
つて
往
(
ゆ
)
く。
177
安彦
(
やすひこ
)
、
178
国彦
(
くにひこ
)
、
179
道彦
(
みちひこ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
して
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひつつこの
池
(
いけ
)
の
傍
(
かたはら
)
を
通
(
とほ
)
り
過
(
す
)
ぎむとするや、
180
池
(
いけ
)
の
中
(
なか
)
より
高姫
(
たかひめ
)
は
掌
(
て
)
を
合
(
あは
)
し、
181
頻
(
しき
)
りに
助
(
たす
)
けを
呼
(
よ
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
182
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
さに
耐
(
た
)
へ
兼
(
か
)
ね、
183
漸
(
やうや
)
くにして
高姫
(
たかひめ
)
を
救
(
すく
)
ひあげた。
184
高姫
(
たかひめ
)
は
大
(
おほい
)
に
喜
(
よろこ
)
び
三
(
さん
)
人
(
にん
)
に
向
(
むか
)
つて
救命
(
きうめい
)
の
大恩
(
たいおん
)
を
感謝
(
かんしや
)
したりける。
185
此
(
この
)
時
(
とき
)
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
つた
百舌
(
もず
)
、
186
田加
(
たか
)
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
は
真裸
(
まつぱだか
)
の
儘
(
まま
)
慄
(
ふる
)
ひ
慄
(
ふる
)
ひ
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
187
百舌彦、田加彦
『モシモシ
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
188
寒
(
さむ
)
くつて
耐
(
たま
)
りませぬワ、
189
何
(
ど
)
うぞウラナイ
教
(
けう
)
の
婆
(
ば
)
アサンに
適当
(
てきたう
)
な
着物
(
きもの
)
を
貰
(
もら
)
つて
下
(
くだ
)
さいな。
190
ナア
婆
(
ば
)
アサン、
191
お
前
(
まへ
)
も
宣伝使
(
せんでんし
)
のお
蔭
(
かげ
)
で
命拾
(
いのちびろ
)
ひをしたのだから
着物
(
きもの
)
位
(
ぐらゐ
)
進上
(
しんじやう
)
なさつても
安
(
やす
)
いものだらう』
192
安彦
(
やすひこ
)
『ヤア
吾々
(
われわれ
)
は
着物
(
きもの
)
の
如
(
ごと
)
きものは
必要
(
ひつえう
)
が
御座
(
ござ
)
らぬ。
193
平
(
ひら
)
にお
断
(
ことわ
)
り
申
(
まを
)
します』
194
国
(
くに
)
、
195
道
(
みち
)
『
吾々
(
われわれ
)
も
同様
(
どうやう
)
、
196
衣服
(
いふく
)
なんか
必要
(
ひつえう
)
が
御座
(
ござ
)
らぬ』
197
百舌彦
(
もずひこ
)
『エヽ
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
宣伝使
(
せんでんし
)
だな、
198
此処
(
ここ
)
に
二人
(
ふたり
)
も
着物
(
きもの
)
の
要
(
い
)
る
御
(
お
)
方
(
かた
)
が
御座
(
ござ
)
るのが
目
(
め
)
につきませぬかい』
199
道彦
(
みちひこ
)
『
吾々
(
われわれ
)
はウラナイ
教
(
けう
)
の
信者
(
しんじや
)
になつたと
見
(
み
)
え、
200
薩張
(
さつぱり
)
明盲人
(
あきめくら
)
になつて
仕舞
(
しま
)
つたよ。
201
アハヽヽヽヽ』
202
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
は、
203
ノソノソと
吾
(
わ
)
が
座敷
(
ざしき
)
に
這
(
は
)
ひ
込
(
こ
)
み、
204
薯蕷汁
(
とろろ
)
を
二三杯
(
にさんばい
)
もソツと
横領
(
わうりやう
)
して
喰
(
く
)
ひ、
205
其
(
その
)
上
(
うへ
)
大勢
(
おほぜい
)
の
盲人
(
めくら
)
を
附
(
つ
)
け
込
(
こ
)
み、
206
薯蕷汁
(
とろろ
)
の
中
(
なか
)
に
灰
(
はい
)
を
掴
(
つま
)
んで
入
(
い
)
れた
不届
(
ふとど
)
きの
奴
(
やつ
)
ぢや、
207
着物
(
きもの
)
をやる
処
(
どころ
)
ぢやないが、
208
併
(
しか
)
し
生命
(
いのち
)
を
救
(
たす
)
けてもらつた
其
(
その
)
お
礼
(
れい
)
として、
209
長公
(
ちやうこう
)
、
210
伴公
(
はんこう
)
の
死人
(
しにん
)
の
着物
(
きもの
)
を
呉
(
く
)
れてやらうか』
211
道彦
(
みちひこ
)
『これやこれや、
212
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
は
薯蕷汁
(
とろろ
)
を
盗
(
ぬす
)
み
食
(
く
)
つたのか』
213
百舌彦
(
もずひこ
)
『ハイ、
214
トロロウ
をやりました。
215
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
酷
(
ひど
)
い
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
つ
たん
ぢや、
216
汚
(
きたな
)
い
物
(
もの
)
を
頭
(
あたま
)
に
被
(
かぶ
)
つ
たん
ぢや。
217
盲人
(
めくら
)
を
瞞
(
だま
)
して
薯蕷汁
(
とろろ
)
を
多量
(
どつさり
)
食
(
く
)
つ
たん
じや、
218
それから
長公
(
ちやうこう
)
伴公
(
はんこう
)
に
追
(
お
)
ひかけられて
タンタンタン
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
逃
(
に
)
げたんじや。
219
門口
(
かどぐち
)
で
長公
(
ちやうこう
)
伴公
(
はんこう
)
が
転倒
(
ひつくりかへ
)
つ
たん
ぢや、
220
其処
(
そこ
)
へ
婆
(
ばば
)
が
飛
(
と
)
んで
来
(
き
)
て
転
(
こ
)
け
たん
ぢや、
221
倒
(
こ
)
けた
拍子
(
へうし
)
に
長公
(
ちやうこう
)
のどん
腹
(
ばら
)
を
突
(
つ
)
い
たん
ぢや、
222
二人
(
ふたり
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
、
223
痰
(
たん
)
の
体
(
からだ
)
を
清
(
きよ
)
めんと
溜池
(
ためいけ
)
に
矢庭
(
やには
)
に
飛込
(
とびこ
)
ん
たん
ぢや、
224
柚
(
ゆ
)
の
針
(
はり
)
に
身体
(
からだ
)
を
突
(
つ
)
かれて
痛
(
いた
)
かつ
たん
ぢや、
225
たんたん
と
立派
(
りつぱ
)
な
着物
(
きもの
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
し
度
(
た
)
いもんぢや、
226
なア
田加
(
たか
)
たん
』
227
道彦
(
みちひこ
)
は
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
し、
228
道彦
『アハヽヽヽ、
229
身魂
(
みたま
)
の
汚
(
きたな
)
い
奴
(
やつ
)
ぢやなア、
230
貴様
(
きさま
)
は
之
(
これ
)
から
改心
(
かいしん
)
を
致
(
いた
)
してウラナイ
教
(
けう
)
の
盲人
(
めくら
)
仲間
(
なかま
)
に
入
(
い
)
れて
貰
(
もら
)
うと
都合
(
つがふ
)
がよからう。
231
モシモシお
婆
(
ば
)
アサン
此
(
これ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
教理
(
けうり
)
は
到底
(
たうてい
)
高遠
(
かうゑん
)
にして
体得
(
たいとく
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ、
232
善
(
ぜん
)
とも
悪
(
あく
)
とも
愚
(
おろか
)
とも
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
半
(
はん
)
ドロ
的
(
てき
)
の
人間
(
にんげん
)
ですから、
233
ウラナイ
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
にでもお
使
(
つか
)
ひ
下
(
くだ
)
さらば
最
(
もつと
)
も
適任
(
てきにん
)
でせう』
234
婆
(
ばば
)
『それはそれは
誠
(
まこと
)
に
有難
(
ありがた
)
い
御
(
おん
)
仰
(
あふ
)
せ、
235
ウラナイ
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
には
至極
(
しごく
)
適当
(
てきたう
)
の
人物
(
じんぶつ
)
、
236
幾何
(
いくら
)
で
売
(
う
)
つて
下
(
くだ
)
さいますか』
237
道彦
(
みちひこ
)
『サア、
238
ほんの
残
(
のこ
)
り
者
(
もの
)
の
未成品
(
みせいひん
)
もので
御座
(
ござ
)
いますから、
239
無料
(
ただ
)
にまけて
置
(
お
)
きます。
240
米
(
こめ
)
や
麦
(
むぎ
)
を
食
(
た
)
べさして
貰
(
もら
)
うと
胃
(
ゐ
)
を
損
(
そこ
)
ねますから、
241
身魂
(
みたま
)
相当
(
さうたう
)
に
鰌
(
どぢやう
)
や
蛙
(
かわづ
)
で
飼
(
か
)
うてやつて
下
(
くだ
)
さい、
242
アハヽヽヽ』
243
婆
(
ばば
)
『オホヽヽヽ』
244
(
大正一一・四・一
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