霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 第一(だいいち)天国(てんごく)〔五八六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻 篇:第4篇 神行霊歩 よみ(新仮名遣い):しんこうれいほ
章:第19章 第一天国 よみ(新仮名遣い):だいいちてんごく 通し章番号:586
口述日:1922(大正11)年04月04日(旧03月08日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
神素盞嗚大神は、西蔵を越えてフサの国を打ち渡り、ウブスナ山の山頂に隠れ家を定めて、密かに神徳を現していた。
瑞霊の元津祖・豊国姫神の分霊である言霊別命は、国祖御退隠の際に幽界にて少彦名神となっていたが、神素盞嗚大神が漂泊の旅に出たと聞き、貧しい身分の人の腹を借りて、再びこの世に現れて、言依別命となった。
玉彦、厳彦、楠彦は言依別命の供となり、月の国を越えてフサの国の都・タールへと着いた。タールの都では、吾勝命が日の出別神と現れて、神政を敷いていた。言依別命一行は日の出別神に面会し、神素盞嗚大神の隠れ家を教えられ、喜び勇んで河鹿峠を越えていった。
神素盞嗚大神はウブスナ山の山頂、斎苑の高原に宮殿を構え、八十猛神に守らせた。自らは千種万様に御姿を変じ、変幻出没して御国を守らせつつあった。
斎苑の館に至るためには、河鹿峠を越えていくのが順路である。言依別命一行は、急坂を駒にまたがって進んで行く折、突風に煽られて谷底に転落してしまった。
と思う間に、一行はとある風景のよい高山の麓に降ろされていた。一行は、ここは天国ではなかろうかと不思議に思っていると、天の磐船が降りてきた。中から八人の童子神が現れると、大神の命であるとして言依別命一人を招きいれ、行ってしまった。
残された玉彦、厳彦、楠彦は、足の続く限り進んで行くこととした。途中、美しい河につかって禊をすると、三人の衣服は、鮮花色に変じた。
すると向こうから、多数の奇妙な鳥を連れた男がやってきた。男は、言依別命の命により、三人を迎えに高天原からやってきたという。男は言代別神・松彦と名乗った。
松彦は鳥たちを辺りに放すと、三人を案内して進んで行った。すると、鏡のように輝く岸壁に行き当たった。ここは鏡の岩と言い、三人が降り立った第二天国の終点にあたるという。鏡の岩を越えなければ、第一天国に入れない関門であるという。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-01-20 20:27:10 OBC :rm1519
愛善世界社版:237頁 八幡書店版:第3輯 367頁 修補版: 校定版:235頁 普及版:108頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]出口王仁三郎全集 > 第二巻 宗教・教育編 > 【宗教編】第四篇 神霊世界 > 第二十三章 人烏
001久方(ひさかた)高天原(たかあまはら)岩窟(いはやど)
002(ひら)けてここに天地(あめつち)
003(もも)(かみ)(たち)(いさ)()
004あな面白(おもしろ)やあなさやけおけ
005(あま)数歌(かずうた)(にぎ)はしく
006言葉(ことば)(はな)(ひら)(ぐち)
007常夜(とこよ)(やみ)()れぬれど
008まだ()れやらぬ(むね)(うち)
009(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)
010天地(あめつち)(もも)神人(しんじん)
011百千万(ももちよろづ)罪咎(つみとが)
012(おん)()(ひと)つに(あがな)ひつ
013(つれ)なき(あらし)()くままに
014千座(ちくら)置戸(おきど)()(たま)
015高天原(たかあまはら)(あと)にして
016(あめ)真名井(まなゐ)打渡(うちわた)
017唐土山(もろこしやま)(から)(はら)
018印度(つき)(くに)をば打過(うちす)ぎて
019秘密(ひみつ)(くに)(きこ)えたる
020高山(かうざん)四方(よも)(めぐ)らせる
021由緒(ゆいしよ)(ふか)西蔵(チベツト)
022山野(やまの)村々(むらむら)(ことごと)
023(ふと)御稜威(みいづ)(かがや)かし
024(なほ)(すす)みてフサの(くに)
025タールの(みやこ)打過(うちす)ぎて
026(くも)(あつ)して(そそ)()
027(もも)山々(やまやま)此処(ここ)彼処(かしこ)
028ウブスナ(やま)山脈(さんみやく)
029かかる手前(てまへ)河鹿山(かじかやま)
030()荒風(あらかぜ)()まれつつ
031(あし)もいそいそ(のぼ)りまし
032ウブスナ(やま)(やま)()
033四方(よも)景色(けしき)(うる)はしき
034(きよ)(ところ)(えら)みつつ
035八尋(やひろ)殿(との)()(たま)
036千代(ちよ)住家(すみか)(さだ)めつつ
037(この)()(しの)佗住居(わびずまゐ)
038黒雲(くろくも)四方(よも)(むら)がりて
039黒白(あやめ)()かぬ()(なか)
040(かみ)稜威(みいづ)もいや(たか)
041ひそかに四方(よも)(てら)します
042その神徳(しんとく)(した)ひつつ
043(しの)(しの)びに遠近(をちこち)
044(やま)()()(かは)()
045()れます(ただ)しき神人(しんじん)
046(われ)(われ)もと(あらそ)ひつ
047(たづ)()ますぞ(たふと)けれ。
048 瑞霊(みづのみたま)元津祖(もとつおや)049豊国姫(とよくにひめ)(かみ)分霊(わけみたま)050(むかし)聖地(せいち)エルサレムに幸魂(さちみたま)(かみ)として(あら)はれ(たま)へる言霊別(ことたまわけの)(みこと)は、051国治立(くにはるたち)大神(おほかみ)()退隠(たいいん)先立(さきだ)ち、052千座(ちくら)置戸(おきど)()ひて、053一旦(いつたん)幽界(かくりよ)()でまし少名彦(すくなひこ)(かみ)(あらた)めて、054常世(とこよ)(くに)永久(とこしへ)(まも)(たま)ひけるが、055瑞霊(みづのみたま)本津祖(もとつおや)056(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)の、057高天原(たかあまはら)退(やら)はれて、058豊葦原(とよあしはら)国々(くにぐに)を、059(こころ)(さび)しき漂泊(さすらひ)の、060旅路(たびぢ)(のぼ)らせ(たま)ひしと、061()くより(こころ)(やす)からず、062(ふたた)(この)()(あら)はれて、063(いや)しき(ひと)(はら)()り、064言依別(ことよりわけの)(みこと)となり、065森鷹彦(もりたかひこ)(みたま)流裔(ながれ)066玉彦(たまひこ)御伴(みとも)(かみ)(さだ)めつつ、067常世(とこよ)(くに)厳彦(いづひこ)や、068世人(よびと)(すく)楠彦(くすひこ)の、069三人(みたり)(かみ)(したが)へて、070波路(なみぢ)(はる)かに太平(たいへい)の、071(うみ)(わた)りて(つき)(くに)072フルの(みなと)上陸(じやうりく)し、073印度(つき)御国(みくに)()()えて、074(あゆ)みに(なや)むフサの(くに)075タールの(みやこ)()(たま)ふ。
076 吾勝(あかつの)(みこと)は、077フサの(くに)首府(しゆふ)タールの(みやこ)に、078()出別(でわけの)(かみ)(あら)はれて、079神政(しんせい)()(おこな)はせ(たま)ひつつありき。080言依別(ことよりわけの)(みこと)はタールの(みやこ)()出別(でわけの)(かみ)面会(めんくわい)し、081(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)のお隠宅(かくれが)(をし)へられ、082(よろこ)(いさ)んで、083玉彦(たまひこ)084厳彦(いづひこ)085楠彦(くすひこ)(とも)(こま)(またが)り、086河鹿(かじか)(たうげ)()えさせ(たま)ふ。087意外(いぐわい)峻坂(しゆんぱん)難路(なんろ)に、088流石(さすが)駿馬(しゆんめ)(すす)みかね、089幾度(いくたび)となく(こま)転倒(てんたう)せむとする危険(きけん)(をか)して、090徐々(しづしづ)山頂(さんちやう)()がけて(すす)ませ(たま)ふ。
091 この()一帯(いつたい)山脈(さんみやく)は、092(かぜ)(はげ)しく、093寒熱(かんねつ)不順(ふじゆん)にして、094(もも)草木(さうもく)生育(せいいく)()しく、095見渡(みわた)(かぎ)屹立(きつりつ)せる岩山(いはやま)096禿山(はげやま)097此処(ここ)彼処(かしこ)起伏(きふく)し、098眺望(てうばう)としては天下(てんか)絶景(ぜつけい)なり。
099 (かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)は、100ウブスナ山脈(さんみやく)頂上(ちやうじやう)斎苑(いそ)高原(かうげん)宮殿(きうでん)(つく)り、101四方(よも)神人(しんじん)言向和(ことむけやは)(たま)はむと、102千種(せんしゆ)万様(ばんやう)御姿(みすがた)(へん)じ、103(この)宮殿(きうでん)本拠(ほんきよ)(さだ)め、104八十猛(やそたけるの)(かみ)をして(かた)(まも)らしめ、105(みづか)らは表面(へうめん)罪人(ざいにん)()()(たま)ひて、106大八洲(おほやしまの)(くに)(わだか)まる大蛇(をろち)107悪鬼(あくき)108(しこ)神々(かみがみ)根絶(こんぜつ)せむと(こころ)(くだ)()(くる)しめ、109変幻(へんげん)出没(しゆつぼつ)(きは)まり()く、110()くして御国(みくに)(まも)らせ(たま)ひつつありき。111言依別(ことよりわけの)(みこと)(みこと)拝謁(はいえつ)大御心(おほみこころ)(なぐさ)めむと、112(みこと)(おも)真心(まごころ)より遥々(はるばる)此処(ここ)百千万(ひやくせんまん)艱苦(かんく)(をか)し、113(たづ)(きた)(たま)ひける。114河鹿(かじか)(たうげ)()()えて(ふたた)平野(へいや)(わた)り、115ウブスナ山脈(さんみやく)(かか)るが順路(じゆんろ)なり。116言依別(ことよりわけ)一行(いつかう)は、117(いた)()てたる(ごと)急坂(きふはん)(こま)(またが)四人(よにん)(づれ)118ハイ、119ハイハイと手綱(たづな)引締(ひきし)(くだ)らせ(たま)折柄(をりから)に、120(にはか)吹来(ふきく)るレコード(やぶ)りの山嵐(やまあらし)(あふ)られて、121(うま)諸共(もろとも)河鹿(かじか)(たうげ)千仭(せんじん)谷間(たにま)に、122(もろ)くも墜落(つゐらく)(たま)ひ、123数多(あまた)(きず)()はせ(たま)ひ、124(ここ)一行(いつかう)四人(よにん)(づれ)125河鹿(かじか)(たうげ)谷底(たにそこ)に、126痛手(いたで)(なや)坤吟(しんぎん)(たま)ふこそ果敢(はか)なけれ。
127 (この)谷間(たにま)河鹿(かじか)名所(めいしよ)なり。128河鹿(かじか)(こゑ)遠近(をちこち)(ゆか)しく、129(あたか)金鈴(きんれい)()るが(ごと)く、130(こと)(だん)ずるが(ごと)く、131美妙(びめう)音楽(おんがく)天人(てんにん)天女(てんによ)(きた)りて(かな)づるかと(うたが)(ばか)りの雅趣(がしゆ)()()るなり。132言依別(ことよりわけ)一行(いつかう)谷水(たにみづ)(すく)ひ、133河鹿(かじか)(こゑ)()(なが)ら、134(こころ)ゆく(まで)(かは)きし(のど)()やさむとガブガブ嚥下(えんか)(たま)へば、135何時(いつ)とはなしに(たま)()行衛(ゆくゑ)何処(いづく)白浪(しらなみ)(たに)水音(みなおと)諸共(もろとも)に、136河鹿(かじか)(こゑ)(おく)られて()()(たま)ふぞ(かな)しけれ。
137 (ゆめ)とも()かず、138(うつつ)とも(わきま)()ねし(たび)(そら)139言依別(ことよりわけの)(みこと)一行(いつかう)は、140(すず)しき河鹿(かじか)(こゑ)(おく)られて夢路(ゆめぢ)辿(たど)心持(こころもち)141(かぜ)()かるる()()(ごと)く、142(つち)(はな)れて中空(ちうくう)五色(ごしき)(くも)(つつ)まれつ、143(ひがし)()して(かぜ)のまにまに()(たま)ふ。
144 とある高山(かうざん)(ふもと)風景(ふうけい)(もつと)()大河(おほかは)(ほとり)に、145一行(いつかう)姿(すがた)何時(いつ)()にか()ろされ()たり。
146言依別(ことよりわけ)『オー玉彦(たまひこ)147(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)御舎(みあらか)は、148どの方面(はうめん)(あた)らうかなア。149此処(ここ)河鹿(かじか)(たうげ)山麓(さんろく)150河鹿河(かじかがは)岸辺(きしべ)()える。151暴風(ばうふう)吹捲(ふきまく)られ、152(われ)()(もろ)くも(この)山麓(さんろく)吹散(ふきち)らされ、153(なん)となく一種(いつしゆ)不可思議(ふかしぎ)心持(こころもち)になつて()たが、154(なんぢ)()はどう(かんが)へるか』
155玉彦(たまひこ)(あふせ)(ごと)河鹿(かじか)(たうげ)烈風(れつぷう)(あふ)られ、156千尋(ちひろ)谷間(たにま)転落(てんらく)せしと(おも)()もなく、157(かぜ)()()()(ごと)心地(ここち)し、158フワリフワリと(たま)()んで大空(おほぞら)(たか)(ひがし)()して(すす)(きた)りしよと()()に、159不思議(ふしぎ)(われ)()一行(いつかう)()は、160()()れぬ(やま)(ふもと)風光(ふうくわう)明媚(めいび)河縁(かはべり)(すす)んで()たのです。161吾々(われわれ)(つらつ)(かんが)へまするに、162此処(ここ)(けつ)して河鹿(かじか)(たうげ)谷間(たにま)ではありますまい、163自転倒(おのころ)(じま)中心点(ちうしんてん)(やう)(おも)はれます』
164厳彦(いづひこ)『さうだ、165玉彦(たまひこ)()(とほ)合点(がてん)()かぬ四辺(あたり)光景(くわうけい)166現界(げんかい)とは様子(やうす)大変(たいへん)(ちが)つて()(やう)だ、167大方(おほかた)此処(ここ)天国(てんごく)ではあるまいかいなア』
168楠彦(くすひこ)『たしかに天国(てんごく)間違(まちがひ)ありませぬ、169迦陵(かりよう)頻迦(びんが)数限(かずかぎ)りもなく、170アレあの(とほり)舞狂(まひくる)有様(ありさま)171()()(かぜ)美妙(びめう)音楽(おんがく)(そう)し、172空気(くうき)(なん)となく(かん)ばしく梅花(ばいくわ)(かほ)りを(まじ)へ、173()るもの()(もの)(いつ)として快感(くわいかん)(あた)へないものは御座(ござ)いませぬ。174……もしもし言依別(ことよりわけの)(みこと)(さま)175()(あん)じなさいますな、176あなたの真心(まごころ)大神(おほかみ)()()ぬき(あそ)ばして、177()かる天国(てんごく)(みちび)(くだ)さつたのでせう』
178(かた)(をり)しも、179天空(てんくう)(とどろ)かして一道(いちだう)光明(くわうみやう)(とも)(あま)磐船(いはふね)()りて(この)()(くだ)()神人(しんじん)あり。180(あま)磐船(いはふね)(しづか)一行(いつかう)(まへ)舞下(まひくだ)りぬ。181金銀(きんぎん)珠玉(しゆぎよく)182瑠璃(るり)183硨磲(しやこ)184瑪瑙(めなう)185真珠(しんじゆ)186珊瑚(さんご)(とう)(もつ)(かざ)られたる立派(りつぱ)なる御船(みふね)なりき。187(よく)()れば(きぬ)でもなければ、188()でもない、189一種(いつしゆ)異様(いやう)(やはら)かき(かつ)(つよ)織物(おりもの)にて(つく)られてあり。190()()べて(この)(よく)をスウツと()でる刹那(せつな)に、191()()はれぬ美妙(びめう)音響(おんきやう)(はつ)するなり。192玉彦(たまひこ)右左(みぎひだり)(よく)()()めたる織物(おりもの)()(まは)せば、193精巧(せいかう)なる蓄音機(ちくおんき)円板(ゑんばん)(ごと)く、194種々(しゆじゆ)(うる)はしき音響(おんきやう)(きこ)()る。195(この)(とき)磐船(いはふね)(なか)より(あら)はれ()でたる(はち)(にん)童子(どうじ)196頭髪(とうはつ)(あか)くして(なが)く、197(かた)のあたりに(ちい)さき(つばさ)あり、198()濡烏(ぬれがらす)(ごと)(くろ)()め、199(べに)(くちびる)200(みどり)(したた)眼容(まなざし)201桃色(ももいろ)(ほほ)無限(むげん)(ゑみ)(たた)(なが)ら、202五六(ごろく)(さい)(おぼ)しき童子(どうじ)203言依別(ことよりわけの)(みこと)(まへ)(あら)はれ(きた)り、204(ほそ)(すず)しき(こゑ)にて、
205童子貴下(きか)瑞霊(みづのみたま)分霊(わけみたま)206常世(とこよ)(くに)()れましし言依別(ことよりわけの)(みこと)にましまさずや、207(われ)高天原(たかあまはら)より大神(おほかみ)(めい)(ほう)じ、208(むか)へに(きた)りし(もの)209サ、210サ、211(はや)くこの(ふね)()させ(たま)へ』
212言葉(ことば)(ひく)うし、213(れい)(あつ)くして()()つるにぞ、214(みこと)何気(なにげ)なく(この)(うる)はしき(ふね)(こころ)(うば)はれ、215ツカツカと(そば)近付(ちかづ)(たま)ふよと()()に、216磐船(いはふね)(かたはら)装置(さうち)せる(うる)はしき(つばさ)217(みこと)身体(しんたい)(つつ)みて御船(みふね)(なか)()(たてまつ)りけり。218(たちま)美妙(びめう)音響(おんきやう)(とどろ)(わた)ると()()に、219磐船(いはふね)地上(ちじやう)(はな)れ、220ゆるやかに(ゑん)(ゑが)きつつ空中(くうちう)(のぼ)()く。221(さん)(にん)突然(とつぜん)(この)出来事(できごと)呆然(ばうぜん)として(そら)見上(みあ)ぐるのみなりき。222磐船(いはふね)空中(くうちう)(たか)舞上(まひあが)り、223船首(せんしゆ)(てん)じ、224中空(ちうくう)(おび)(ごと)火線(くわせん)(しる)(なが)ら、225(つき)(ひかり)目当(めあて)悠々(いういう)(すす)み、226(つひ)には(その)姿(すがた)(まつた)()(とま)らずなりにけり。
227玉彦(たまひこ)常世(とこよ)(くに)から遥々(はるばる)と、228(しほ)八百路(やほぢ)(わた)り、229あらゆる艱難(かんなん)(たたか)ひ、230雨風(あめかぜ)(さら)され、231(あせ)(なみだ)でフサの(みやこ)到着(たうちやく)し、232()出別(でわけ)(かみ)(さま)のお(なさけ)(ぶか)いお(ことば)に、233(たび)(つか)れもスツカリ(わす)()て、234河鹿(かじか)(たうげ)絶頂(ぜつちやう)辿(たど)()いて四方(よも)風景(ふうけい)(なが)めた(とき)愉快(ゆくわい)さは、235(なん)ともかとも(たと)(かた)がなかつた。236それより板壁(いたかべ)(ごと)峻坂(しゆんぱん)(こま)(またが)つて(くだ)つた(とき)心持(こころもち)は、237全然(まるきり)地獄道(ぢごくだう)一足飛(いつそくとび)でもする(やう)煩悶(はんもん)驚異(きやうい)()たされ、238(こころ)(なか)神言(かみごと)奏上(そうじやう)し、239やがて(した)(まつ)(かむ)素盞嗚(すさのをの)(みこと)(さま)拝謁(はいえつ)()られる(こと)だと、240一歩(いつぽ)一歩(いつぽ)苦痛(くつう)(わす)(たの)しみ(すす)(をり)しも、241(にはか)()()山嵐(やまあらし)(あふ)られ、242()千仭(せんじん)谷間(たにま)()ちて粉砕(ふんさい)したと(おも)へば、243(あに)(はか)らむや通力(つうりき)自在(じざい)空中(くうちう)飛行(ひかう)244(こころ)イソイソ風雲(ふううん)(まか)(をり)しも、245(おも)ひきや、246()かる(うる)はしき(かは)べりに()ろされた。247どう(かんが)へても此処(ここ)現界(げんかい)ではあるまい、248ヤレ(うれ)しやと(おも)()もなく、249(ちから)(おも)言依別(ことよりわけの)(みこと)は、250(かみ)(むか)への(ふね)()りて、251中空(ちうくう)(たか)(つき)御国(みくに)()(のぼ)(あそ)ばした(とき)(うれ)しき、252(かな)しき、253非喜(ひき)交々(こもごも)(まじ)(われ)()(むね)(うち)254アヽどうしたら()からうか』
255厳彦(いづひこ)何事(なにごと)(かみ)のまにまにお(まか)せするより仕方(しかた)がない、256言依別(ことよりわけの)(みこと)(さま)荘厳(さうごん)(きは)まりなき天国(てんごく)(のぼ)られ、257大神(おほかみ)(みぎ)()し、258地上(ちじやう)経綸(けいりん)言問(ことと)はせ(たま)ふお(やく)()える。259吾々(われわれ)最早(もはや)言依別(ことよりわけの)(みこと)(さま)(こと)断念(だんねん)して、260(あし)(つづ)(かぎ)(すす)まうではないか、261ナア楠彦(くすひこ)サン』
262楠彦(くすひこ)左様(さやう)御座(ござ)います、263それにつけても、264(なん)とした気分(きぶん)()(ところ)でせう。265(なん)だか()がイソイソとして(こし)()ろして(やす)()にもなりませぬ、266サア(はや)前進(ぜんしん)(いた)しませう』
267(さき)()ちて(あゆ)()した。268(あさ)(ひろ)大河(おほかは)水晶(すゐしやう)(みづ)ゆるやかに(なが)れて()る。269(さん)(にん)は、
270三人『アヽナント綺麗(きれい)(みづ)だナア、271()れが生命(いのち)真清水(ましみづ)であらう。272……どうでせう、273一杯(いつぱい)()(すく)つて(いただ)きませうか。274身体(しんたい)各所(かくしよ)沢山(たくさん)の、275各自(めいめい)(きず)()うて()ますれば、276あの河中(かはなか)(ひた)つて()れば、277この疼痛(いたみ)()えるかも()れませぬぜ』
278(つつみ)をゆるゆる(くだ)り、279真裸(まつぱだか)となつて(かは)にザンブと飛込(とびこ)んだ。280(きよ)(なが)れの河水(かはみづ)は、281河底(かはぞこ)金銀色(きんぎんしよく)砂利(じやり)282日光(につくわう)(えい)じてきらめき(わた)(その)(うる)はしさ、283(さん)(にん)(かは)中央(まんなか)にどつかと(すわ)つた。284(ふか)さは(すわ)つて(ちち)(あた)りまでよりない。285(みづ)(なが)れは(ゆる)やかに、286(つめた)からず、287ぬるからず、288(みづ)名香(めいかう)(くん)ずるが(ごと)く、289(あぢ)甘露(かんろ)(ごと)く、290身体(しんたい)(きず)(たちま)()えて、291(はだ)紫摩(しま)黄金(わうごん)(いろ)(へん)じ、292(あら)くれ(をとこ)肉体(にくたい)淡雪(あはゆき)(ごと)(やはら)かく、293(ひかり)(はな)つに(いた)つた。294(さん)(にん)(しばら)くにして(この)(かは)(あが)り、295衣服(いふく)着替(きか)へむとした。296不思議(ふしぎ)(さん)(にん)衣服(いふく)()()はれぬ鮮花色(せんくわしよく)(へん)じて()る。
297玉彦(たまひこ)『ヤア何時(いつ)()にか吾輩(わがはい)()着衣(ちやくい)失敬(しつけい)しよつたな』
298其処(そこ)をウロウロと(さが)して()る。
299楠彦(くすひこ)『オー此処(ここ)綺麗(きれい)衣服(いふく)()いである。300恰度(ちやうど)三組(みくみ)だ、301これを着服(ちやくふく)したらどうだらうなア』
302厳彦(いづひこ)『ヤア()()け、303()れは天人(てんにん)羽衣(はごろも)だ。304ウツカリコンナ(もの)()やうものなら、305それこそ折角(せつかく)天国(てんごく)()喜悦(よろこび)(たちま)(へん)じて地獄道(ぢごくだう)(くるし)みに早替(はやがは)りするかも()れない、306……エ何事(なにごと)惟神(かむながら)(まか)せて(はだか)のまま(すす)(こと)にせう。307(かぜ)(あたた)かく、308肌具合(はだぐあひ)()し、309(この)(まま)(すす)まうではないか』
310玉彦(たまひこ)『ヨー(この)着物(きもの)には、311(なん)だか(しるし)()いて()るぞ』
312()取上(とりあ)(なが)むれば、313玉彦(たまひこ)(ころも)(しる)してある。
314玉彦(たまひこ)『ヤア()れは(めう)だ、315何時(いつ)()にか、316吾輩(わがはい)(あせ)(にじ)んだ衣裳(いしやう)と、317コンナ(あたら)しい(うる)はしい衣裳(いしやう)交換(かうくわん)した(やつ)があると()えるワイ、318……ヨウヨウ()れには、319楠彦(くすひこ)320厳彦(いづひこ)(しる)してある、321……(あゝ)322天国(てんごく)泥棒(どろばう)(かは)つた(もの)だなア、323サツパリ娑婆(しやば)とは逆様(さかさま)だ。324娑婆(しやば)()(とき)には、325自分(じぶん)()(ふる)した足駄(あしだ)他人(ひと)(あたら)しい足駄(あしだ)と、326(だま)つて交換(かうくわん)する(やつ)(ばか)りだが、327天国(てんごく)(また)(おもむき)(ちが)うワイ』
328厳彦(いづひこ)『そら、329そうだらうよ、330天国(てんごく)にはコンナ(きたな)(もの)(めづ)らしいから、331高天原(たかあまはら)徴古館(ちようこくわん)へでも(かざ)(つも)りで、332吾々(われわれ)河中(かちう)(うつつ)をぬかしてる()に、333泥棒(どろばう)()()へこを()よつたのだらう、334本当(ほんたう)油断(ゆだん)のならぬ()(なか)だ。335天国(てんごく)()てもやつぱり(もと)人間(にんげん)(れい)()るのだから、336泥棒(どろばう)根性(こんじやう)()せぬと()えるワイ、337アハヽヽヽ』
338楠彦(くすひこ)『ヤアナント(かる)着物(きもの)だナア、339()れを()ると、340(からだ)(かる)くなつて、341(てん)へでも自然(しぜん)舞上(まひあが)りさうだ。342身軽(みがる)になつたのは、343気分(きぶん)()いものだなア』
344玉彦(たまひこ)()まつた(こと)だよ、345幽霊(いうれい)(からだ)(かる)いものだ。346(この)(うる)はしい着物(きもの)()たが最後(さいご)347現世(うつしよ)(きぬ)()いで、348神界(しんかい)羽衣(はごろも)着替(きか)へたのだから、349(ふたた)(こひ)しき娑婆(しやば)(かへ)れない(こと)請合(うけあひ)だ』
350厳彦(いづひこ)娑婆(しやば)だつて、351神界(しんかい)だつて(かま)はぬぢやないか、352()(かく)353(かみ)(さま)(ため)(はたら)ける(だけ)(はたら)けば、354吾々(われわれ)人生(じんせい)本分(ほんぶん)(つく)せるのだ。355サアサア()かう、356……ヤア(からだ)(あし)滅法界(めつぽふかい)(かる)くなつた。357アア気分(きぶん)(なん)となく、358爽々(さやさや)として()た。359神言(かみごと)奏上(そうじやう)(なが)ら、360()(とこ)まで()かうかい』
361厳彦(いづひこ)(さき)()つて(すす)()した。362前方(ぜんぱう)より頭髪(とうはつ)(うるし)(ごと)(くろ)く、363光沢(くわうたく)(ゆたか)に、364()(たけ)(ろく)(しやく)(ばか)眉目(びもく)清秀(せいしう)(いち)神人(しんじん)365数多(あまた)(うる)はしき(とり)数百羽(すうひやくぱ)()きつれ、366(きん)(つゑ)()つて指揮(しき)(なが)此方(こなた)(むか)つて(すす)()る。
367玉彦(たまひこ)『ヤ、368()ンと綺麗(きれい)(とり)()るではないか、369到底(たうてい)現界(げんかい)では、370()られない、371(うる)はしいものだ』
372 かく()(うち)373(くだん)(をとこ)一足(ひとあし)一足(ひとあし)近付(ちかづ)き、374(さん)(にん)()て、
375『ヤアあなたは高天原(たかあまはら)()参詣(さんけい)ですか』
376笑顔(ゑがほ)(もつ)て、377言葉(ことば)(やさ)しく()ひかけた。
378 (さん)(にん)(こゑ)(そろ)へて、
379三人『ハイ、380不思議(ふしぎ)(こと)で、381吾々(われわれ)斯様(こん)立派(りつぱ)(くに)(おも)はず(まゐ)りました。382高天原(たかあまはら)何方(どちら)()して()けば(よろ)しいでせうか』
383(をとこ)(松彦)『マア(いそ)(たび)でもなし、384この(うる)はしい(くさ)(うへ)で、385(みな)サンゆつくりと休息(きうそく)(いた)しませうか、386吾々(われわれ)言依別(ことよりわけ)命様(みことさま)(めい)()り、387あなた(がた)(さん)(にん)(かた)をお(むか)へに(まゐ)りました』
388玉彦(たまひこ)『エー、389ナント仰有(おつしや)います、390言依別(ことよりわけの)(みこと)(さま)は、391最早(もはや)高天原(たかあまはら)へお()きになりましたか、392それやマアどうした(こと)で、393そう(はや)くお()きになつたでせう……ハテ……合点(がてん)()かぬ(こと)だワイ』
394(をとこ)(松彦)神界(しんかい)には時間(じかん)空間(くうかん)()りませぬ、395仮令(たとへ)幾億万(いくおくまん)()(いへど)も、396一息(ひといき)(うち)往復(わうふく)出来(でき)ます、397それが(すなは)神界(しんかい)特長(とくちやう)御座(ござ)いませう。398アハヽヽヽ』
399 (ここ)()(にん)(うる)はしき花毛氈(はなまうせん)()()めた(やう)河辺(かはべり)芝生(しばふ)(こし)うち()け、400(あし)()ばして種々(いろいろ)(はなし)(ふけ)るのであつた。401(かぜ)音調(おんてう)(しと)やかなる(ふえ)()いて、402(かは)(おも)をよぎつて()る。403魚鱗(ぎよりん)(なみ)金色(こんじき)(ひかり)(はな)ち、404(かぜ)()れて河下(かはしも)より河上(かはかみ)(なが)()(やう)()えて()る。405数多(あまた)(うる)はしき(とり)熟視(じゆくし)すれば、406(ひと)(かほ)(つばさ)()えたかつかう(どり)(やう)なものばかり、407(めう)(こゑ)()して(つぶや)()した。
408厳彦(いづひこ)『モシモシ神界(しんかい)()(ところ)は、409(すべて)(もの)(かは)つて()ますな、410(この)(とり)(また)(なん)として人間(にんげん)()()るのでせうか』
411(をとこ)(松彦)『イヤ()れは人鳥(にんてう)()ひます、412高天原(たかあまはら)玩弄物(おもちや)になつたり、413(あるひ)はお使(つかひ)をするものですが、414もとはヤハリ現界(げんかい)()つて、415(たか)(ところ)(あが)つて(わけ)(わか)らぬことを(さへづ)り、416バカセだとか、417(なん)とか()保護色(ほごしよく)や、418(なが)(くちばし)使(つか)つて人間(にんげん)(あたま)をこついた(むく)いで、419コンナ(もの)変化(へんくわ)して(しま)つたのですよ、420今年(こんねん)(ほとん)三千(さんぜん)八百(はつぴやく)()幽界(いうかい)から輸入(ゆにふ)して()ました。421みな言語(げんご)明瞭(めいれう)ではありませぬが、422各自(めいめい)小賢(こざか)しい(こと)(しやべ)怪鳥(くわいてう)ですよ』
423厳彦(いづひこ)『そうすると()れは神界(しんかい)424天国(てんごく)産物(さんぶつ)ではありませぬか』
425(をとこ)(松彦)無論(むろん)(こと)426コンナ畸形児(きけいじ)(てき)鳥類(てうるゐ)は、427神界(しんかい)には一羽(いちは)()りませぬ。428()れは(えう)するに閻魔(えんま)(ちやう)より、429高天原(たかあまはら)には(めづ)らしいと()つて、430神界(しんかい)のお(なぐさ)みの(ため)に、431輸入(ゆにふ)されたものです、432()はば、433舶来(はくらい)ですな。434アハヽヽヽ』
435厳彦(いづひこ)()(かく)(めう)なものだ、436此奴(こいつ)()娑婆(しやば)()(とき)には、437自由(じいう)恋愛(れんあい)だとか、438共和(きようわ)だとか、439民衆(みんしう)だとか(なん)とか()つて、440沢山(たくさん)娑婆(しやば)亡者(まうじや)煽動(せんどう)した何々長(なになにちやう)とか()怪鳥(くわいてう)でせう。441(しか)(この)綺麗(きれい)天国(てんごく)浄土(じやうど)(ふん)をひりさがされては、442(また)もや娑婆(しやば)(やう)になりはしますまいかなア』
443(をとこ)(松彦)『イヤ大丈夫(だいぢやうぶ)です、444此奴(こいつ)(しり)最早(もはや)糞詰(ふんづま)りですから……娑婆(しやば)()(とき)には、445何事(なにごと)()つて()つて(しり)()いた(やう)(こと)()つて、446(なが)(くちばし)()りまはし、447(さへづ)つては()つて()ましたが、448モウ娑婆(しやば)でも(この)(くちばし)()()はなくなつて(くち)(つま)り、449(しり)(ふさ)がり、450行詰(ゆきつま)りの悲境(ひきやう)(おちい)つてる代物(しろもの)です。451娑婆(しやば)でもあまり()へないので、452(ふん)をこく(たね)もなし、453清潔(きれい)なものですよ』
454厳彦(いづひこ)『ソンナ(はなし)()くと、455吾々(われわれ)生物識(なまものしり)聞噛(ききか)じり学問(がくもん)をやつて()たが、456コンナ(こと)になると(おも)へば、457ガツクリして(むね)学々(がくがく)(いた)しますワ、458アハヽヽヽ』
459玉彦(たまひこ)一寸(ちよつと)(この)(とり)物言(ものい)はして()(くだ)さいな』
460(をとこ)(松彦)『ナンダか言語(げんご)(つう)(がた)いから、461聞取(ききと)れますまい、462此奴(こいつ)金鳥(きんてう)()ひ、463此奴(こいつ)銀鳥(ぎんてう)()ひます。464娑婆(しやば)で、465椅子(いす)とか()()()(つく)り、466月給(げつきふ)々々(げつきふ)()いたり、467ホーホー俸給(ほうきふ)々々(ほうきふ)(さへづ)つて()つた(とり)ださうです。468(この)天国(てんごく)輸入(ゆにふ)されてからと()ふものは、469(なん)だか(ねずみ)病人(びやうにん)(やう)にキウ(きう)(さへづ)つて()ます』
470 数多(あまた)人鳥(にんてう)は、471キウ(きう)472クウ苦々(くく)()(なが)ら、473家鴨(あひる)(やう)(かは)にバサバサと()()心地(ここち)よげにかいつぶり真似(まね)をして、474()きつ(しづ)みつ(たはむ)れて()る。
475楠彦(くすひこ)『ナント天国(てんごく)(かは)つたものですな、476迦陵(かりよう)頻迦(びんが)名鳥(めいてう)沢山(たくさん)()ると()きましたが、477(その)(やう)(とり)(あま)見当(みあた)らないぢやありませぬか』
478(をとこ)(松彦)(その)(とり)高天原(たかあまはら)中心(ちうしん)として、479(じふ)()四方(しはう)区域(くゐき)(かぎ)つて()んで()ます。480(この)(へん)(えう)するに準天国(じゆんてんごく)()つても()(やう)(ところ)ですよ、481まだまだ(この)(さき)へお(すす)みになれば、482立派(りつぱ)(ところ)があります。483……(わたくし)はウツカリとネームを申上(まをしあ)げるのを(わす)れて()ましたが、484(じつ)高天原(たかあまはら)使(つかひ)松彦(まつひこ)(まを)(もの)485(むかし)はヱルサレムに(おい)て、486言霊別(ことたまわけの)(みこと)にお(つか)(いた)した(こと)のある言代別(ことしろわけ)御座(ござ)います』
487楠彦(くすひこ)『ヤア昔語(むかしがたり)()いて()つた言代別(ことしろわけ)はあなたの(こと)ですか、488ヤアこれはこれは(めう)(ところ)でお()()かりました』
489松彦(まつひこ)(しか)らば()案内(あんない)(いた)しませう』
490(さき)()つて()かむとする。
491玉彦(たまひこ)『もしもし松彦(まつひこ)(さま)492あの沢山(たくさん)(とり)は、493()れてお(かへ)りになりませぬか』
494松彦(まつひこ)折角(せつかく)閻魔(えんま)(ちやう)より輸入(ゆにふ)されたものですが、495(じふ)()四方(しはう)(うち)には()(こと)出来(でき)ないと大神(おほかみ)(さま)厳命(げんめい)()りて、496(じふ)()圏外(けんぐわい)(おく)()して()ました。497……あの(やう)鳥族(てうぞく)には(すこ)しも執着心(しふちやくしん)はありませぬ、498どうなつと勝手(かつて)方針(はうしん)()てるでせう』
499(あし)をはづませ、500飛鳥(ひてう)(ごと)くに(すす)()く。501(さん)(にん)(なん)となく足許(あしもと)(かる)く、502()()(ごと)くに追跡(つゐせき)する。503一時(ひととき)(ばか)(ある)いたと(おも)(ころ)504ピタリと岸壁(がんぺき)行当(ゆきあた)つた。505(この)(いは)(かがみ)(いは)()つて、506浄玻璃(じやうはり)(かがみ)(ごと)くに(ひか)(かがや)き、507日光(につくわう)鏡面(きやうめん)(えい)じて、508()()はれぬ(うる)はしさ、509一行(いつかう)姿(すがた)(かがみ)(くま)なく(うつ)つた。510()れば自分(じぶん)背後(うしろ)五色(ごしき)霊衣(れいい)(あら)はれ、511優美(いうび)にして、512気品(きひん)(たか)女神(めがみ)(あら)はれて()る。513(さん)(にん)(おも)はず合掌(がつしやう)した。
514松彦(まつひこ)此処(ここ)(かがみ)(いは)です。515大抵(たいてい)(もの)此処(ここ)(きた)りて、516(あと)引返(ひきかへ)(もの)(おほ)いですよ。517天国(てんごく)にも上中下(じやうちうげ)三段(さんだん)区劃(くくわく)があります。518(この)(かがみ)無事(ぶじ)通過(つうくわ)すれば、519最上(さいじやう)天国(てんごく)です。520(この)(かがみ)さへ突破(とつぱ)すれば、521モウ()めたものです』
522玉彦(たまひこ)『アー、523それは有難(ありがた)御座(ござ)いました。524(しか)(なが)吾々(われわれ)は、525第二(だいに)天国(てんごく)何時(いつ)()通過(つうくわ)したのですか、526まさか途中(とちう)天国(てんごく)移転(いてん)()(やう)(こと)もありますまいが……』
527松彦(まつひこ)『あなた(がた)は、528言依別(ことよりわけの)(みこと)(さま)のお(かげ)()りて、529第三(だいさん)天国(てんごく)()きにし、530第二(だいに)天国(てんごく)直接(ちよくせつ)()りになつたのです。531()れも第二(だいに)天国(てんごく)(ほとん)終点(しうてん)ですから、532(たい)したものですお(よろこ)びなさいませ』
533(さん)(にん)身分(みぶん)()ぎたる有難(ありがた)(かみ)(さま)()待遇(たいぐう)534恐縮(きようしゆく)(いた)りだ、535………(この)鏡岩(かがみいは)をどうして突破(とつぱ)すれば()いでせうか』
536松彦(まつひこ)(これ)より以内(いない)(みや)(うち)537(この)鏡岩(かがみいは)外囲(そとがこひ)です、538これを突破(とつぱ)しなくては、539最上(さいじやう)天国(てんごく)(すす)(こと)出来(でき)ませぬ。540神界(しんかい)(おい)ても、541()()(ひと)つの(くる)しみがありますワイ。542吾々(われわれ)幾度(いくたび)此処(ここ)往復(わうふく)(いた)して()りますから、543勝手(かつて)(わか)つて()りますが、544あなた(がた)(はじ)めての(こと)各自(めいめい)(こころ)をお(ひら)きになれば、545自然(しぜん)(この)鏡岩(かがみいは)通過(つうくわ)(かな)ひます。546神界(しんかい)(きび)しき警告(いましめ)()りて、547(この)(こと)ばかりは()(をし)(まを)(こと)出来(でき)ませぬ、548()れが神界(しんかい)関門(くわんもん)549(みたま)試金石(しきんせき)ですよ』
550 (さん)(にん)は、
551三人『ハテナア』
552双手(もろて)()み、553(くび)項低(うなだれ)る。
554大正一一・四・四 旧三・八 松村真澄録)
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