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第二章 灰猫婆(はひねこばば)〔九一七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻 篇:第1篇 誠心誠意 よみ(新仮名遣い):せいしんせいい
章:第2章 灰猫婆 よみ(新仮名遣い):はいねこばば 通し章番号:917
口述日:1922(大正11)年08月24日(旧07月2日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年11月10日
概要: 舞台:ウヅの館 あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
カールは高姫の後を追って館の中へ入って行ったが、裏道を松若彦が逃げ、そのあとを高姫が追っかけているのが見えた。カールは高姫の執念深さにあきれつつ、松若彦が追いつかれることはないだろうと、玄関口へ戻ってきた。
そこへ常彦と春彦が慌ただしくやってきて、高姫の行方をカールに尋ねた。カールは得意の軽口で状況を説明する。常彦と春彦は、高姫がこのたびの結婚に反対で走り回っているのを止めようと、探しているのだという。
カールはそれを聞いて、常彦に代わりに留守番を頼むと、自分と春彦でそれぞれ、高姫の後を追って行くことにし、駆け出した。
二人が駆けてしばらく行くと、横幅三間ばかりの深い川が流れており、丸木橋がはずされていた。見れば高姫が川底にのびて横たわっている。カールと春彦は高姫を助け出した。二人は高姫を、高姫の臨時館に運び込み、鎮魂を施した。
高姫は気が付いたが、助けてもらいながら、カールと春彦に憎まれ口を叩き続けた。春彦は怒り心頭に達し、傍らにあった木株の火鉢を取って、高姫に殴りかかろうとする。カールは必死に止めるが、高姫は憎まれ口をやめない。
ついに火鉢がひっくり返って三人は灰まみれになってしまった。三人は真っ黒けになりながら、金切り声で掴みあっている。
そこへ言依別命が門口の戸を開けてやってきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-07-04 18:26:03 OBC :rm3302
愛善世界社版:20頁 八幡書店版:第6輯 263頁 修補版: 校定版:21頁 普及版:8頁 初版: ページ備考:
001 カールは高姫(たかひめ)無遠慮(ぶゑんりよ)にも(おく)()にかけこみしを(いか)(なが)ら、002自分(じぶん)(おく)()(いた)つて()れば、003豈計(あにはか)らむや、004松若彦(まつわかひこ)005高姫(たかひめ)姿(すがた)()えない。006ふと()(はな)つた(まど)より(そと)(のぞ)()れば、007一丁(いつちやう)(ばか)距離(きより)(たも)つて、008二人(ふたり)はマラソン競走(きやうそう)真最中(まつさいちう)であつた。
009カール『(なん)とマア、010()(つよ)(ばば)アだなア! (あと)()つかけて()(つか)まへ、011散々(さんざん)()らしめてやりたいは山々(やまやま)だが、012(おれ)(いま)ここを飛出(とびだ)せば、013サツパリ不在(るす)となつて(しま)ふ。014あれ(だけ)距離(きより)(たも)つて()以上(いじやう)は、015ヨモヤ()()きはせまい。016(その)(あひだ)松若彦(まつわかひこ)(さま)はどつかへ(かく)れられるだらう。017(おれ)臨時(りんじ)留守番(るすばん)(たの)まれて()以上(いじやう)一刻(いつこく)(あひだ)も、018(この)()(から)にしておく(わけ)には()くまい。019アヽ残念(ざんねん)だ……』
020(つぶや)(なが)ら、021玄関口(げんくわんぐち)(かへ)つて()た。022そこへ(あわ)ただしく常彦(つねひこ)023春彦(はるひこ)両人(りやうにん)024()(きた)り、
025常彦(つねひこ)『ヤア(これ)はカールさまですか。026一寸(ちよつと)()(たづ)(いた)しますが、027ウチの高姫(たかひめ)さまは()()しにはなりませぬか』
028カール『ハイ、029()しか(おこ)りか()りませぬが、030随分(ずゐぶん)(めう)(こと)(おこ)りましたよ。031(いま)(うら)広道(ひろみち)で、032(まつ)()(たか)とのマラソン競走(きやうそう)(おこな)はれて()ますワイ』
033春彦(はるひこ)(たか)(はね)があつて空中(くうちう)(かけ)るでせうが、034(まつ)(はし)るとはチツト合点(がつてん)()かぬぢやありませぬか』
035カール『今日(けふ)(あま)りお目出(めで)たい()だから、036山川(さんせん)草木(さうもく)(みな)(をど)(くる)うて、037(よろこ)んでゐます。038(わたくし)だつて常彦(つねひこ)……オツトドツコイ、039(つね)()とは(ちが)ひ、040春彦(はるひこ)……(また)(ちが)うた……(はる)(はな)()くやうな陽気(やうき)()になつて、041(いさ)んで()ります。042(つね)(しり)(おも)(わたし)でも、043今日(けふ)(なん)となしに()もカール、044(あし)もカールになりました。045アハヽヽヽ』
046常彦(つねひこ)『それはさうと、047私方(わたしかた)大将(たいしやう)048高姫(たかひめ)さまは如何(どう)なりましたか』
049カール『どうも()うもなりませぬワイ』
050春彦(はるひこ)『お()でになつたか、051ならぬか、052ハツキリ()つて(くだ)さいな』
053カール『ハイ、054這入(はい)りになりまして、055すぐ裏口(うらぐち)から()()になりました。056大島(おほしま)入口(いりぐち)057出口(でぐち)(もと)で、058竜宮館(りうぐうやかた)高天原(たかあまはら)(さだ)まりたぞよ。059アツハヽヽヽ』
060常彦(つねひこ)『まるでキツネ(ひこ)(きつね)にだまされたやうな心持(こころもち)になつて()た』
061カール『松若彦(まつわかひこ)()になるぞよ、062末広(すゑひろ)末子姫(すゑこひめ)063国依別(くによりわけの)(みこと)今夜(こんや)は、064愈々(いよいよ)夫婦(ふうふ)におなり(あそ)ばすぞよ、065(みたま)(みたま)因縁(いんねん)寄合(よりあ)うて、066()身魂(みたま)(この)身魂(みたま)067あの身魂(みたま)はあの身魂(みたま)068これとこれと夫婦(めをと)069あれとあれと夫婦(めをと)と、070身魂(みたま)因縁(いんねん)性来(しやうらい)(あらた)めて、071結婚(けつこん)結婚(けつこん)結婚式(けつこんしき)今晩(こんばん)(はじ)まり、072高砂(たかさご)(この)浦舟(うらぶね)()をあげて、073()(ところ)だアハヽヽヽ。074イヤもう目出(めで)たいの、075目出(めで)たうないのつて、076開闢(かいびやく)以来(いらい)()目出(めで)たさだ……コレ常彦(つねひこ)077春彦(はるひこ)078()両人(りやうにん)079(まへ)さま(たち)(なん)心得(こころえ)ますか』
080常彦(つねひこ)本当(ほんたう)結構(けつこう)(こと)ですなア。081(しか)(なが)結構(けつこう)だとは(まを)されませぬワイ……ナア春彦(はるひこ)082一寸(ちよつと)面倒(めんだう)いからなア』
083カール『あなた(がた)()両人(りやうにん)は、084今度(こんど)結婚(けつこん)()()()らないのですか』
085常彦(つねひこ)『イエイエどうしてどうして、086大賛成(だいさんせい)です。087(しか)(なが)夜前(やぜん)も、088夜中(よなか)時分(じぶん)高姫(たかひめ)さまに(たた)(おこ)され……お(まへ)感想(かんさう)はどうだ……と(たづ)ねられたので、089国依別(くによりわけ)さまもエライ(ひと)だと(おも)うて()つたがヤツパリ(えら)()(かた)だと、090うつかり(しやべ)つた(ところ)091それはそれはエライ権幕(けんまく)大変(たいへん)不機嫌(ふきげん)でした。092それから高姫(たかひめ)さまは()()ける(まで)一目(ひとめ)()ず、093(おく)()でブツブツと独言(ひとりごと)()つて言依別(ことよりわけ)がどうの、094松若彦(まつわかひこ)がどうのと、095ハツキリは(わか)らぬが、096大変(たいへん)にこぼしてゐました。097(わたくし)夜明(よあ)(まへ)になつてからグツと()(しま)ひ、098()をあけて()れば、099高姫(たかひめ)さまのお姿(すがた)()えない、100コリヤ大方(おほかた)101松若彦(まつわかひこ)(さま)()(たく)()()て、102(また)もや(うま)れつきの持病(ぢびやう)(おこ)し、103鉈理屈(なたりくつ)をこねて(こま)らせてゐるに(ちが)ひない、104こんな目出(めで)たい(こと)にケチつけてはたまらないから、105(なん)とか吾々(われわれ)両人(りやうにん)が、106高姫(たかひめ)さまに出会(であ)つて、107()意見(いけん)(まを)したいとの一心(いつしん)から、108手水(てうづ)もつかはず、109朝飯(あさめし)()はず、110周章(しうしやう)狼狽(らうばい)111()(もの)()りあへず此処(ここ)まで()けつけた次第(しだい)御座(ござ)いますワイ』
112春彦(はるひこ)本当(ほんたう)(こま)つたお(ばば)アですワイナ。113(わたし)(なが)らく自転倒(おのころ)(じま)から此処(ここ)までついて()ましたが、114それはそれは随分(ずゐぶん)でしたよ』
115カール『アハヽヽヽ、116ずいぶんジヤジヤ(うま)ですなア。117(しか)(なが)らあの(まま)にして()いたら、118()目出(めで)たいお日柄(ひがら)目出(めで)たくない(やう)(こと)(つぶ)して(しま)ふか(わか)りませぬから、119コリヤ()うしては()られますまい……常彦(つねひこ)さま、120(まへ)はここの留守(るす)をして()(くだ)さい。121(わたし)松若彦(まつわかひこ)(さま)(あと)()つて()く、122春彦(はるひこ)高姫(たかひめ)さまの(あと)()つて()くと()(こと)にしてカール、123春彦(はるひこ)両人(りやうにん)第二(だいに)のマラソンをつづけませうかい』
124常彦(つねひこ)何分(なにぶん)(よろ)しう(たの)みますよ……カールさま、125春彦(はるひこ)さま、126サア(はや)()つて(くだ)さい。127キツト捨子姫(すてこひめ)(さま)か、128言依別(ことよりわけ)(さま)()(たく)間違(まちが)ひないから……』
129 両人(りやうにん)は「合点(がつてん)だ」と(しり)ひつからげ、130裏口(うらぐち)より大股(おほまた)大地(だいち)をドンドンドンと威喝(ゐかつ)させ(なが)ら、131一生(いつしやう)懸命(けんめい)駆出(かけだ)した。
132 二人(ふたり)二三丁(にさんちやう)(ばか)駆出(かけだ)した。133そこには横幅(よこはば)三間(さんげん)(ばか)りの(ふか)(かは)(なが)れてゐる。134さうして丸木橋(まるきばし)(かか)つて()た。135(かは)(ふか)(わり)には(みづ)(すくな)く、136ほとんど向脛(むかふずね)半分(はんぶん)(ばか)(ぼつ)する(くらゐ)(あさ)(なが)れであつた…………フト()れば一本橋(いつぽんばし)(もろ)くも(おと)され、137高姫(たかひめ)川底(かはそこ)(だい)()となつて、138フン()びてゐる。139これは松若彦(まつわかひこ)高姫(たかひめ)()(きた)るのを(ふせ)がむ(ため)に、140臨時(りんじ)一本橋(いつぽんばし)(おと)しておいたのである。141高姫(たかひめ)(あたま)(まへ)にして、142(ちから)一杯(いつぱい)(はし)つて()(その)惰力(だりよく)で、143(にはか)(たち)とまる(こと)()ず、144()むを()ず、145(はし)なき(かは)()(なが)ら、146落込(おちこ)んで(しま)つたのであつた。147二人(ふたり)は、
148カール、春彦『ヤア、149コリヤ大変(たいへん)だ』
150(から)うじて(かは)()りたち、151高姫(たかひめ)人事(じんじ)不省(ふせい)となつてゐる(からだ)(ひつ)かたげ高姫(たかひめ)臨時館(りんじやかた)(おく)(とど)け、152いろいろと介抱(かいほう)をし、153祝詞(のりと)奏上(そうじやう)し、154鎮魂(ちんこん)(ほどこ)した。155(やうや)くにして高姫(たかひめ)(いき)()(かへ)し、156あたりをキヨロキヨロ(なが)めてゐる。
157カール『モシモシ高姫(たかひめ)さま、158()がつきましたか、159大変(たいへん)なお(あぶ)ないこつて御座(ござ)いました。160マアマア(わたし)春彦(はるひこ)161両人(りやうにん)が、162(あと)から()いてゐたものだから、163あなたの貴重(きちよう)(いのち)()(たす)かり(あそ)ばし、164こんな目出(めで)たい(こと)御座(ござ)いませぬワイ』
165高姫(たかひめ)『ハイ、166それは有難(ありがた)御座(ござ)います……と()(れい)(まを)したらお(まへ)さまのスツカリ(つぼ)にはまるだらうが、167ヘンさうは()きませぬぞや。168(なん)だか(あと)から(ひと)()くやうに(はし)つたと(おも)うて()つたら、169カール、170(まへ)(わたし)(あと)()つかけて()て、171あの丸木橋(まるきばし)(した)突込(つつこ)んだのだな。172(この)高姫(たかひめ)だとて(はし)のない(かは)(わた)らうとするやうな馬鹿(ばか)ぢやありませぬワ。173(なん)だか(あま)(あと)から()きよつたものだから、174とうとう(その)(いきほ)ひに落込(おちこ)んで(しま)つたのだ。175あんな(ふか)(かは)へはまつたのが(わか)つたと()ふのは(あや)しいぢやないか、176(まへ)松若彦(まつわかひこ)()贔屓(ひいき)()て、177(わたし)()きはめたのだらう。178オツホヽヽヽ、179(あく)(たく)んでも(たちま)(あら)はれませうがな』
180春彦(はるひこ)高姫(たかひめ)さま(あま)りぢやありませぬか、181(げん)(わたし)証拠人(しようこにん)です。182折角(せつかく)(いのち)(たす)けて(もら)(なが)ら、183(なん)()無茶(むちや)(こと)仰有(おつしや)るのですか』
184高姫(たかひめ)『オツホヽヽヽ、185(おな)(あな)(きつね)同志(どうし)同盟(どうめい)して、186(うま)(こと)仰有(おつしや)いますワい。187何程(なにほど)あの(かは)(やう)(ふか)(たく)みをしても、188知慧(ちゑ)(ながれ)(あさ)いのだから、189(すぐ)(そこ)()えましてな、190ホツホヽヽヽ』
191カール『(なん)とマア小面憎(こづらにく)(ばば)アだなア。192(おれ)最早(もはや)愛想(あいさう)()きて()た』
193高姫(たかひめ)『さうだらう さうだらう、194小面憎(こづらにく)()アで愛想(あいさう)がつきたものだから、195()(おと)したのだな。196カールは(くち)から、197(われ)(わが)()白状(はくじやう)しましたねエ』
198春彦(はるひこ)『アーア、199モウ(なさけ)ない……これ、200カールさま、201どうぞ(わたし)(めん)じて、202()(はら)()つだらうが(こら)へて(くだ)さいや』
203高姫(たかひめ)『コレ春公(はるこう)204(こら)へてくれと()ふのは、205ソリヤ見当(けんたう)(ちが)ひぢやありませぬか。206(だい)それた()出神(でのかみ)生宮(いきみや)………とも()ふべき、207(この)高姫(たかひめ)をこんな()(あは)せておいて、208なぜ低頭(ていとう)平身(へいしん)209おわびをせないのか、210チツト方角(はうがく)(ちが)ひぢやありませぬか』
211春彦(はるひこ)()りませぬワイ。212(まへ)(やう)(うたが)ひの(ふか)悪垂(あくた)(ばば)アは、213今日(けふ)(かぎ)絶交(ぜつかう)だ、214カールさまに(たい)して申訳(まをしわけ)がないから……(ひと)(いのち)(たす)けてやつて、215あやまらねばならぬ(ほふ)がどこにあるものか、216おまけに吾々(われわれ)()(おと)したなどと、217無理(むり)難題(なんだい)()ふにも(ほど)がある』
218高姫(たかひめ)謝罪(あやま)らな、219あやまらぬでよい。220殺人(さつじん)未遂罪(みすゐざい)告発(こくはつ)するから(その)(つも)りでゐなさいや』
221カール『高姫(たかひめ)さま、222あなたは(あま)(にはか)にあんな(ところ)から転倒(てんたふ)なさつたものだから、223精神(せいしん)逆上(ぎやくじやう)してるのでせう。224マア()()()けて()(もの)道理(だうり)(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。225(わたくし)(これ)から()(いとま)いたします』
226高姫(たかひめ)『ヘン、227(くち)()ふものは重宝(ちようはう)なものですなア、228(うま)(こと)()つて()げようとしても、229()がしませぬぞや。230人殺(ひとごろ)()が!』
231春彦(はるひこ)『エヽもう(おれ)堪忍袋(かんにんぶくろ)()()れた。232たとへ天則(てんそく)違反(ゐはん)になつても、233カールさまに(たい)して申訳(まをしわけ)がない、234覚悟(かくご)せい!』
235()(なが)ら、236其処(そこ)にあつた木株(きかぶ)火鉢(ひばち)()るより(はや)く、237高姫(たかひめ)()がけてブチつけようとする。238(この)(とき)カールはあわてて、
239カール『ヤア(はる)さま、240まつた まつた』
241()きとめる。242春彦(はるひこ)は、
243春彦(はるひこ)『オイ、244カールさま、245(かま)うてくれな。246おりやモウ死物狂(しにものぐる)ひだ』
247火鉢(ひばち)両手(りやうて)に、248頭上(づじやう)(たか)くふり()げた(まま)249()(いか)らしてゐる。250高姫(たかひめ)は、
251高姫(たかひめ)『ヘン、252(はる)野郎(やらう)253(なに)をするのだ。254そんな(こと)でビクつく(やう)高姫(たかひめ)ぢやありませぬぞえ。255(わる)(こと)をした言訳(いひわけ)のテレ(かく)しに、256そんな狂言(きやうげん)を、257二人(ふたり)(はら)(あは)せてやつた(ところ)で、258計略(けいりやく)(おく)(おく)まで、259チヤンと()えすいた高姫(たかひめ)260そんな威喝(ゐかつ)駄目(だめ)ですよ。261オホヽヽヽ』
262 春彦(はるひこ)益々(ますます)(いか)り、
263春彦『モウ了見(りやうけん)ならぬ』
264高姫(たかひめ)(あたま)()げつけようとする。265カールは(ちから)一杯(いつぱい)春彦(はるひこ)(ささ)げた両手(りやうて)(にぎ)つてとめやうとする。266火鉢(ひばち)はいつの()にかひつくり(かへ)り、267(さん)(にん)(あたま)(うへ)(はい)だらけになり、268真黒(まつくろ)けの黒猫(くろねこ)になつて、269()()えぬ(まま)金切声(かなきりごゑ)()()(つか)()うてゐる。270(この)(ところ)言葉(ことば)(しづか)に、
271(言依別命)御免(ごめん)なさい』
272()(なが)ら、273門口(かどぐち)()()けて()()一人(ひとり)立派(りつぱ)(をとこ)ありき。274(これ)言依別(ことよりわけの)(みこと)なりける。
275大正一一・八・二四 旧七・二 松村真澄録)
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