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第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
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第5巻(辰の巻)
第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
第12巻(亥の巻)
如意宝珠
第13巻(子の巻)
第14巻(丑の巻)
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第25巻(子の巻)
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第51巻(寅の巻)
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第61巻(子の巻)
第62巻(丑の巻)
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第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
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第33巻(申の巻)
序歌
瑞祥
第1篇 誠心誠意
01 高論濁拙
〔916〕
02 灰猫婆
〔917〕
03 言霊停止
〔918〕
04 楽茶苦
〔919〕
第2篇 鶴亀躍動
05 神寿言
〔920〕
06 皮肉歌
〔921〕
07 心の色
〔922〕
08 春駒
〔923〕
09 言霊結
〔924〕
10 神歌
〔925〕
11 波静
〔926〕
12 袂別
〔927〕
第3篇 時節到来
13 帰途
〔928〕
14 魂の洗濯
〔929〕
15 婆論議
〔930〕
16 暗夜の歌
〔931〕
17 感謝の涙
〔932〕
18 神風清
〔933〕
第4篇 理智と愛情
19 報告祭
〔934〕
20 昔語
〔935〕
21 峯の雲
〔936〕
22 高宮姫
〔937〕
23 鉄鎚
〔938〕
24 春秋
〔939〕
25 琉の玉
〔940〕
26 若の浦
〔941〕
伊豆温泉旅行につき訪問者人名詠込歌
附記 湯ケ島所感
余白歌
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> 第1篇 誠心誠意 > 第2章 灰猫婆
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第二章
灰猫婆
(
はひねこばば
)
〔九一七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻
篇:
第1篇 誠心誠意
よみ(新仮名遣い):
せいしんせいい
章:
第2章 灰猫婆
よみ(新仮名遣い):
はいねこばば
通し章番号:
917
口述日:
1922(大正11)年08月24日(旧07月2日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年11月10日
概要:
舞台:
ウヅの館
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
カールは高姫の後を追って館の中へ入って行ったが、裏道を松若彦が逃げ、そのあとを高姫が追っかけているのが見えた。カールは高姫の執念深さにあきれつつ、松若彦が追いつかれることはないだろうと、玄関口へ戻ってきた。
そこへ常彦と春彦が慌ただしくやってきて、高姫の行方をカールに尋ねた。カールは得意の軽口で状況を説明する。常彦と春彦は、高姫がこのたびの結婚に反対で走り回っているのを止めようと、探しているのだという。
カールはそれを聞いて、常彦に代わりに留守番を頼むと、自分と春彦でそれぞれ、高姫の後を追って行くことにし、駆け出した。
二人が駆けてしばらく行くと、横幅三間ばかりの深い川が流れており、丸木橋がはずされていた。見れば高姫が川底にのびて横たわっている。カールと春彦は高姫を助け出した。二人は高姫を、高姫の臨時館に運び込み、鎮魂を施した。
高姫は気が付いたが、助けてもらいながら、カールと春彦に憎まれ口を叩き続けた。春彦は怒り心頭に達し、傍らにあった木株の火鉢を取って、高姫に殴りかかろうとする。カールは必死に止めるが、高姫は憎まれ口をやめない。
ついに火鉢がひっくり返って三人は灰まみれになってしまった。三人は真っ黒けになりながら、金切り声で掴みあっている。
そこへ言依別命が門口の戸を開けてやってきた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-07-04 18:26:03
OBC :
rm3302
愛善世界社版:
20頁
八幡書店版:
第6輯 263頁
修補版:
校定版:
21頁
普及版:
8頁
初版:
ページ備考:
001
カールは
高姫
(
たかひめ
)
の
無遠慮
(
ぶゑんりよ
)
にも
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
にかけこみしを
怒
(
いか
)
り
乍
(
なが
)
ら、
002
自分
(
じぶん
)
も
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
到
(
いた
)
つて
見
(
み
)
れば、
003
豈計
(
あにはか
)
らむや、
004
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
005
高姫
(
たかひめ
)
の
姿
(
すがた
)
が
見
(
み
)
えない。
006
ふと
開
(
あ
)
け
放
(
はな
)
つた
窓
(
まど
)
より
外
(
そと
)
を
覗
(
のぞ
)
き
見
(
み
)
れば、
007
一丁
(
いつちやう
)
許
(
ばか
)
り
距離
(
きより
)
を
保
(
たも
)
つて、
008
二人
(
ふたり
)
はマラソン
競走
(
きやうそう
)
の
真最中
(
まつさいちう
)
であつた。
009
カール『
何
(
なん
)
とマア、
010
我
(
が
)
の
強
(
つよ
)
い
婆
(
ばば
)
アだなア!
後
(
あと
)
追
(
お
)
つかけて
引
(
ひ
)
つ
掴
(
つか
)
まへ、
011
散々
(
さんざん
)
に
懲
(
こ
)
らしめてやりたいは
山々
(
やまやま
)
だが、
012
俺
(
おれ
)
が
今
(
いま
)
ここを
飛出
(
とびだ
)
せば、
013
サツパリ
不在
(
るす
)
となつて
了
(
しま
)
ふ。
014
あれ
丈
(
だけ
)
距離
(
きより
)
を
保
(
たも
)
つて
居
(
ゐ
)
る
以上
(
いじやう
)
は、
015
ヨモヤ
追
(
お
)
つ
着
(
つ
)
きはせまい。
016
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
に
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
はどつかへ
隠
(
かく
)
れられるだらう。
017
俺
(
おれ
)
も
臨時
(
りんじ
)
留守番
(
るすばん
)
を
頼
(
たの
)
まれて
来
(
き
)
た
以上
(
いじやう
)
は
一刻
(
いつこく
)
の
間
(
あひだ
)
も、
018
此
(
この
)
家
(
や
)
を
空
(
から
)
にしておく
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
くまい。
019
アヽ
残念
(
ざんねん
)
だ……』
020
と
呟
(
つぶや
)
き
乍
(
なが
)
ら、
021
玄関口
(
げんくわんぐち
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
022
そこへ
慌
(
あわ
)
ただしく
常彦
(
つねひこ
)
、
023
春彦
(
はるひこ
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
024
駆
(
か
)
け
来
(
きた
)
り、
025
常彦
(
つねひこ
)
『ヤア
是
(
これ
)
はカールさまですか。
026
一寸
(
ちよつと
)
御
(
お
)
尋
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
しますが、
027
ウチの
高姫
(
たかひめ
)
さまは
御
(
お
)
越
(
こ
)
しにはなりませぬか』
028
カール『ハイ、
029
お
越
(
こ
)
しか
怒
(
おこ
)
りか
知
(
し
)
りませぬが、
030
随分
(
ずゐぶん
)
に
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
が
起
(
おこ
)
りましたよ。
031
今
(
いま
)
裏
(
うら
)
の
広道
(
ひろみち
)
で、
032
松
(
まつ
)
の
木
(
き
)
と
鷹
(
たか
)
とのマラソン
競走
(
きやうそう
)
が
行
(
おこな
)
はれて
居
(
ゐ
)
ますワイ』
033
春彦
(
はるひこ
)
『
鷹
(
たか
)
は
羽
(
はね
)
があつて
空中
(
くうちう
)
を
翔
(
かけ
)
るでせうが、
034
松
(
まつ
)
が
走
(
はし
)
るとはチツト
合点
(
がつてん
)
が
往
(
ゆ
)
かぬぢやありませぬか』
035
カール『
今日
(
けふ
)
は
余
(
あま
)
りお
目出
(
めで
)
たい
日
(
ひ
)
だから、
036
山川
(
さんせん
)
草木
(
さうもく
)
皆
(
みな
)
踊
(
をど
)
り
狂
(
くる
)
うて、
037
喜
(
よろこ
)
んでゐます。
038
私
(
わたくし
)
だつて
常彦
(
つねひこ
)
……オツトドツコイ、
039
常
(
つね
)
の
日
(
ひ
)
とは
違
(
ちが
)
ひ、
040
春彦
(
はるひこ
)
……
又
(
また
)
違
(
ちが
)
うた……
春
(
はる
)
の
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
くやうな
陽気
(
やうき
)
な
気
(
き
)
になつて、
041
勇
(
いさ
)
んで
居
(
を
)
ります。
042
常
(
つね
)
は
尻
(
しり
)
の
重
(
おも
)
い
私
(
わたし
)
でも、
043
今日
(
けふ
)
は
何
(
なん
)
となしに
気
(
き
)
もカール、
044
足
(
あし
)
もカールになりました。
045
アハヽヽヽ』
046
常彦
(
つねひこ
)
『それはさうと、
047
私方
(
わたしかた
)
の
大将
(
たいしやう
)
、
048
高姫
(
たかひめ
)
さまは
如何
(
どう
)
なりましたか』
049
カール『どうも
斯
(
か
)
うもなりませぬワイ』
050
春彦
(
はるひこ
)
『お
出
(
い
)
でになつたか、
051
ならぬか、
052
ハツキリ
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
053
カール『ハイ、
054
お
這入
(
はい
)
りになりまして、
055
すぐ
裏口
(
うらぐち
)
から
御
(
お
)
出
(
で
)
になりました。
056
大島
(
おほしま
)
が
入口
(
いりぐち
)
、
057
出口
(
でぐち
)
が
元
(
もと
)
で、
058
竜宮館
(
りうぐうやかた
)
が
高天原
(
たかあまはら
)
と
定
(
さだ
)
まりたぞよ。
059
アツハヽヽヽ』
060
常彦
(
つねひこ
)
『まるでキツネ
彦
(
ひこ
)
が
狐
(
きつね
)
にだまされたやうな
心持
(
こころもち
)
になつて
来
(
き
)
た』
061
カール『
松若彦
(
まつわかひこ
)
の
世
(
よ
)
になるぞよ、
062
末広
(
すゑひろ
)
き
末子姫
(
すゑこひめ
)
、
063
国依別
(
くによりわけの
)
命
(
みこと
)
と
今夜
(
こんや
)
は、
064
愈々
(
いよいよ
)
夫婦
(
ふうふ
)
におなり
遊
(
あそ
)
ばすぞよ、
065
霊
(
みたま
)
と
霊
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
が
寄合
(
よりあ
)
うて、
066
此
(
こ
)
の
身魂
(
みたま
)
は
此
(
この
)
身魂
(
みたま
)
、
067
あの
身魂
(
みたま
)
はあの
身魂
(
みたま
)
、
068
これとこれと
夫婦
(
めをと
)
、
069
あれとあれと
夫婦
(
めをと
)
と、
070
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
性来
(
しやうらい
)
を
検
(
あらた
)
めて、
071
結婚
(
けつこん
)
な
結婚
(
けつこん
)
な
結婚式
(
けつこんしき
)
が
今晩
(
こんばん
)
は
始
(
はじ
)
まり、
072
高砂
(
たかさご
)
や
此
(
この
)
浦舟
(
うらぶね
)
に
帆
(
ほ
)
をあげて、
073
と
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
だアハヽヽヽ。
074
イヤもう
目出
(
めで
)
たいの、
075
目出
(
めで
)
たうないのつて、
076
開闢
(
かいびやく
)
以来
(
いらい
)
の
御
(
お
)
目出
(
めで
)
たさだ……コレ
常彦
(
つねひこ
)
、
077
春彦
(
はるひこ
)
、
078
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
、
079
お
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
は
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
ますか』
080
常彦
(
つねひこ
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
ですなア。
081
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
結構
(
けつこう
)
だとは
申
(
まを
)
されませぬワイ……ナア
春彦
(
はるひこ
)
、
082
一寸
(
ちよつと
)
面倒
(
めんだう
)
いからなア』
083
カール『あなた
方
(
がた
)
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
は、
084
今度
(
こんど
)
の
結婚
(
けつこん
)
が
御
(
お
)
気
(
き
)
に
容
(
い
)
らないのですか』
085
常彦
(
つねひこ
)
『イエイエどうしてどうして、
086
大賛成
(
だいさんせい
)
です。
087
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
夜前
(
やぜん
)
も、
088
夜中
(
よなか
)
時分
(
じぶん
)
に
高姫
(
たかひめ
)
さまに
叩
(
たた
)
き
起
(
おこ
)
され……お
前
(
まへ
)
の
感想
(
かんさう
)
はどうだ……と
尋
(
たづ
)
ねられたので、
089
国依別
(
くによりわけ
)
さまもエライ
人
(
ひと
)
だと
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
つたがヤツパリ
偉
(
えら
)
い
御
(
お
)
方
(
かた
)
だと、
090
うつかり
蝶
(
しやべ
)
つた
所
(
ところ
)
、
091
それはそれはエライ
権幕
(
けんまく
)
で
大変
(
たいへん
)
な
不機嫌
(
ふきげん
)
でした。
092
それから
高姫
(
たかひめ
)
さまは
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
ける
迄
(
まで
)
一目
(
ひとめ
)
も
寝
(
ね
)
ず、
093
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
でブツブツと
独言
(
ひとりごと
)
を
云
(
い
)
つて
言依別
(
ことよりわけ
)
がどうの、
094
松若彦
(
まつわかひこ
)
がどうのと、
095
ハツキリは
分
(
わか
)
らぬが、
096
大変
(
たいへん
)
にこぼしてゐました。
097
私
(
わたくし
)
も
夜明
(
よあ
)
け
前
(
まへ
)
になつてからグツと
寝
(
ね
)
て
了
(
しま
)
ひ、
098
目
(
め
)
をあけて
見
(
み
)
れば、
099
高姫
(
たかひめ
)
さまのお
姿
(
すがた
)
が
見
(
み
)
えない、
100
コリヤ
大方
(
おほかた
)
、
101
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
宅
(
たく
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て、
102
又
(
また
)
もや
生
(
うま
)
れつきの
持病
(
ぢびやう
)
を
起
(
おこ
)
し、
103
鉈理屈
(
なたりくつ
)
をこねて
困
(
こま
)
らせてゐるに
違
(
ちが
)
ひない、
104
こんな
目出
(
めで
)
たい
事
(
こと
)
にケチつけてはたまらないから、
105
何
(
なん
)
とか
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
が、
106
高姫
(
たかひめ
)
さまに
出会
(
であ
)
つて、
107
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
を
申
(
まを
)
したいとの
一心
(
いつしん
)
から、
108
手水
(
てうづ
)
もつかはず、
109
朝飯
(
あさめし
)
も
食
(
く
)
はず、
110
周章
(
しうしやう
)
狼狽
(
らうばい
)
、
111
取
(
と
)
る
物
(
もの
)
も
取
(
と
)
りあへず
此処
(
ここ
)
まで
駆
(
か
)
けつけた
次第
(
しだい
)
で
御座
(
ござ
)
いますワイ』
112
春彦
(
はるひこ
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
つたお
婆
(
ばば
)
アですワイナ。
113
私
(
わたし
)
も
永
(
なが
)
らく
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
から
此処
(
ここ
)
までついて
来
(
き
)
ましたが、
114
それはそれは
随分
(
ずゐぶん
)
でしたよ』
115
カール『アハヽヽヽ、
116
ずいぶんジヤジヤ
馬
(
うま
)
ですなア。
117
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らあの
儘
(
まま
)
にして
置
(
お
)
いたら、
118
此
(
こ
)
の
目出
(
めで
)
たいお
日柄
(
ひがら
)
を
目出
(
めで
)
たくない
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
に
潰
(
つぶ
)
して
了
(
しま
)
ふか
分
(
わか
)
りませぬから、
119
コリヤ
斯
(
か
)
うしては
居
(
を
)
られますまい……
常彦
(
つねひこ
)
さま、
120
お
前
(
まへ
)
はここの
留守
(
るす
)
をして
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい。
121
私
(
わたし
)
は
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つて
行
(
い
)
く、
122
春彦
(
はるひこ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
さまの
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つて
行
(
ゆ
)
くと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
にしてカール、
123
春彦
(
はるひこ
)
両人
(
りやうにん
)
が
第二
(
だいに
)
のマラソンをつづけませうかい』
124
常彦
(
つねひこ
)
『
何分
(
なにぶん
)
宜
(
よろ
)
しう
頼
(
たの
)
みますよ……カールさま、
125
春彦
(
はるひこ
)
さま、
126
サア
早
(
はや
)
く
往
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
127
キツト
捨子姫
(
すてこひめ
)
様
(
さま
)
か、
128
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
宅
(
たく
)
に
間違
(
まちが
)
ひないから……』
129
両人
(
りやうにん
)
は「
合点
(
がつてん
)
だ」と
尻
(
しり
)
ひつからげ、
130
裏口
(
うらぐち
)
より
大股
(
おほまた
)
に
大地
(
だいち
)
をドンドンドンと
威喝
(
ゐかつ
)
させ
乍
(
なが
)
ら、
131
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
駆出
(
かけだ
)
した。
132
二人
(
ふたり
)
は
二三丁
(
にさんちやう
)
許
(
ばか
)
り
駆出
(
かけだ
)
した。
133
そこには
横幅
(
よこはば
)
三間
(
さんげん
)
許
(
ばか
)
りの
深
(
ふか
)
い
川
(
かは
)
が
流
(
なが
)
れてゐる。
134
さうして
丸木橋
(
まるきばし
)
が
架
(
かか
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
135
川
(
かは
)
は
深
(
ふか
)
い
割
(
わり
)
には
水
(
みづ
)
は
少
(
すくな
)
く、
136
ほとんど
向脛
(
むかふずね
)
の
半分
(
はんぶん
)
許
(
ばか
)
り
没
(
ぼつ
)
する
位
(
くらゐ
)
な
浅
(
あさ
)
き
流
(
なが
)
れであつた…………フト
見
(
み
)
れば
一本橋
(
いつぽんばし
)
は
脆
(
もろ
)
くも
落
(
おと
)
され、
137
高姫
(
たかひめ
)
は
川底
(
かはそこ
)
に
大
(
だい
)
の
字
(
じ
)
となつて、
138
フン
伸
(
の
)
びてゐる。
139
これは
松若彦
(
まつわかひこ
)
が
高姫
(
たかひめ
)
の
追
(
お
)
ひ
来
(
きた
)
るのを
防
(
ふせ
)
がむ
為
(
ため
)
に、
140
臨時
(
りんじ
)
に
一本橋
(
いつぽんばし
)
を
落
(
おと
)
しておいたのである。
141
高姫
(
たかひめ
)
は
頭
(
あたま
)
を
前
(
まへ
)
にして、
142
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
走
(
はし
)
つて
来
(
き
)
た
其
(
その
)
惰力
(
だりよく
)
で、
143
俄
(
にはか
)
に
立
(
たち
)
とまる
事
(
こと
)
を
得
(
え
)
ず、
144
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
145
橋
(
はし
)
なき
川
(
かは
)
と
知
(
し
)
り
乍
(
なが
)
ら、
146
落込
(
おちこ
)
んで
了
(
しま
)
つたのであつた。
147
二人
(
ふたり
)
は、
148
カール、春彦
『ヤア、
149
コリヤ
大変
(
たいへん
)
だ』
150
と
辛
(
から
)
うじて
川
(
かは
)
に
下
(
お
)
りたち、
151
高姫
(
たかひめ
)
の
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
となつてゐる
体
(
からだ
)
を
引
(
ひつ
)
かたげ
高姫
(
たかひめ
)
の
臨時館
(
りんじやかた
)
へ
送
(
おく
)
り
届
(
とど
)
け、
152
いろいろと
介抱
(
かいほう
)
をし、
153
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
154
鎮魂
(
ちんこん
)
を
施
(
ほどこ
)
した。
155
漸
(
やうや
)
くにして
高姫
(
たかひめ
)
は
息
(
いき
)
を
吹
(
ふ
)
き
返
(
かへ
)
し、
156
あたりをキヨロキヨロ
眺
(
なが
)
めてゐる。
157
カール『モシモシ
高姫
(
たかひめ
)
さま、
158
お
気
(
き
)
がつきましたか、
159
大変
(
たいへん
)
なお
危
(
あぶ
)
ないこつて
御座
(
ござ
)
いました。
160
マアマア
私
(
わたし
)
や
春彦
(
はるひこ
)
、
161
両人
(
りやうにん
)
が、
162
後
(
あと
)
から
従
(
つ
)
いてゐたものだから、
163
あなたの
貴重
(
きちよう
)
な
命
(
いのち
)
が
御
(
お
)
助
(
たす
)
かり
遊
(
あそ
)
ばし、
164
こんな
目出
(
めで
)
たい
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬワイ』
165
高姫
(
たかひめ
)
『ハイ、
166
それは
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います……と
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
したらお
前
(
まへ
)
さまのスツカリ
壺
(
つぼ
)
にはまるだらうが、
167
ヘンさうは
往
(
ゆ
)
きませぬぞや。
168
何
(
なん
)
だか
後
(
あと
)
から
人
(
ひと
)
が
突
(
つ
)
くやうに
走
(
はし
)
つたと
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
つたら、
169
カール、
170
お
前
(
まへ
)
は
私
(
わたし
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つかけて
来
(
き
)
て、
171
あの
丸木橋
(
まるきばし
)
の
下
(
した
)
へ
突込
(
つつこ
)
んだのだな。
172
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
だとて
橋
(
はし
)
のない
川
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
らうとするやうな
馬鹿
(
ばか
)
ぢやありませぬワ。
173
何
(
なん
)
だか
余
(
あま
)
り
後
(
あと
)
から
突
(
つ
)
きよつたものだから、
174
とうとう
其
(
その
)
勢
(
いきほ
)
ひに
落込
(
おちこ
)
んで
了
(
しま
)
つたのだ。
175
あんな
深
(
ふか
)
い
川
(
かは
)
へはまつたのが
分
(
わか
)
つたと
云
(
い
)
ふのは
怪
(
あや
)
しいぢやないか、
176
お
前
(
まへ
)
は
松若彦
(
まつわかひこ
)
の
御
(
ご
)
贔屓
(
ひいき
)
を
志
(
し
)
て、
177
私
(
わたし
)
を
突
(
つ
)
きはめたのだらう。
178
オツホヽヽヽ、
179
悪
(
あく
)
を
企
(
たく
)
んでも
忽
(
たちま
)
ち
露
(
あら
)
はれませうがな』
180
春彦
(
はるひこ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さま
余
(
あま
)
りぢやありませぬか、
181
現
(
げん
)
に
私
(
わたし
)
が
証拠人
(
しようこにん
)
です。
182
折角
(
せつかく
)
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
183
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
無茶
(
むちや
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るのですか』
184
高姫
(
たかひめ
)
『オツホヽヽヽ、
185
同
(
おな
)
じ
穴
(
あな
)
の
狐
(
きつね
)
同志
(
どうし
)
が
同盟
(
どうめい
)
して、
186
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますワい。
187
何程
(
なにほど
)
あの
川
(
かは
)
の
様
(
やう
)
な
深
(
ふか
)
い
企
(
たく
)
みをしても、
188
知慧
(
ちゑ
)
の
流
(
ながれ
)
が
浅
(
あさ
)
いのだから、
189
直
(
すぐ
)
に
底
(
そこ
)
が
見
(
み
)
えましてな、
190
ホツホヽヽヽ』
191
カール『
何
(
なん
)
とマア
小面憎
(
こづらにく
)
い
婆
(
ばば
)
アだなア。
192
俺
(
おれ
)
も
最早
(
もはや
)
愛想
(
あいさう
)
が
尽
(
つ
)
きて
来
(
き
)
た』
193
高姫
(
たかひめ
)
『さうだらう さうだらう、
194
小面憎
(
こづらにく
)
い
婆
(
ば
)
アで
愛想
(
あいさう
)
がつきたものだから、
195
突
(
つ
)
き
落
(
おと
)
したのだな。
196
カールは
口
(
くち
)
から、
197
吾
(
われ
)
と
吾
(
わが
)
手
(
て
)
に
白状
(
はくじやう
)
しましたねエ』
198
春彦
(
はるひこ
)
『アーア、
199
モウ
情
(
なさけ
)
ない……これ、
200
カールさま、
201
どうぞ
私
(
わたし
)
に
免
(
めん
)
じて、
202
御
(
お
)
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つだらうが
怺
(
こら
)
へて
下
(
くだ
)
さいや』
203
高姫
(
たかひめ
)
『コレ
春公
(
はるこう
)
、
204
怺
(
こら
)
へてくれと
云
(
い
)
ふのは、
205
ソリヤ
見当
(
けんたう
)
違
(
ちが
)
ひぢやありませぬか。
206
大
(
だい
)
それた
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
………とも
云
(
い
)
ふべき、
207
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
をこんな
目
(
め
)
に
合
(
あは
)
せておいて、
208
なぜ
低頭
(
ていとう
)
平身
(
へいしん
)
、
209
おわびをせないのか、
210
チツト
方角
(
はうがく
)
違
(
ちが
)
ひぢやありませぬか』
211
春彦
(
はるひこ
)
『
知
(
し
)
りませぬワイ。
212
お
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
な
疑
(
うたが
)
ひの
深
(
ふか
)
い
悪垂
(
あくた
)
れ
婆
(
ばば
)
アは、
213
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
絶交
(
ぜつかう
)
だ、
214
カールさまに
対
(
たい
)
して
申訳
(
まをしわけ
)
がないから……
人
(
ひと
)
の
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けてやつて、
215
あやまらねばならぬ
法
(
ほふ
)
がどこにあるものか、
216
おまけに
吾々
(
われわれ
)
が
突
(
つ
)
き
落
(
おと
)
したなどと、
217
無理
(
むり
)
難題
(
なんだい
)
を
云
(
い
)
ふにも
程
(
ほど
)
がある』
218
高姫
(
たかひめ
)
『
謝罪
(
あやま
)
らな、
219
あやまらぬでよい。
220
殺人
(
さつじん
)
未遂罪
(
みすゐざい
)
で
告発
(
こくはつ
)
するから
其
(
その
)
積
(
つも
)
りでゐなさいや』
221
カール『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
222
あなたは
余
(
あま
)
り
俄
(
にはか
)
にあんな
所
(
ところ
)
から
転倒
(
てんたふ
)
なさつたものだから、
223
精神
(
せいしん
)
が
逆上
(
ぎやくじやう
)
してるのでせう。
224
マア
気
(
き
)
を
落
(
お
)
ち
着
(
つ
)
けて
能
(
よ
)
く
物
(
もの
)
の
道理
(
だうり
)
を
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
225
私
(
わたくし
)
は
是
(
これ
)
から
御
(
お
)
暇
(
いとま
)
いたします』
226
高姫
(
たかひめ
)
『ヘン、
227
口
(
くち
)
と
云
(
い
)
ふものは
重宝
(
ちようはう
)
なものですなア、
228
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
逃
(
に
)
げようとしても、
229
逃
(
に
)
がしませぬぞや。
230
人殺
(
ひとごろ
)
し
奴
(
め
)
が!』
231
春彦
(
はるひこ
)
『エヽもう
俺
(
おれ
)
も
堪忍袋
(
かんにんぶくろ
)
の
緒
(
を
)
が
切
(
き
)
れた。
232
たとへ
天則
(
てんそく
)
違反
(
ゐはん
)
になつても、
233
カールさまに
対
(
たい
)
して
申訳
(
まをしわけ
)
がない、
234
覚悟
(
かくご
)
せい!』
235
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
236
其処
(
そこ
)
にあつた
木株
(
きかぶ
)
の
火鉢
(
ひばち
)
を
取
(
と
)
るより
早
(
はや
)
く、
237
高姫
(
たかひめ
)
目
(
め
)
がけてブチつけようとする。
238
此
(
この
)
時
(
とき
)
カールはあわてて、
239
カール『ヤア
春
(
はる
)
さま、
240
まつた まつた』
241
と
抱
(
だ
)
きとめる。
242
春彦
(
はるひこ
)
は、
243
春彦
(
はるひこ
)
『オイ、
244
カールさま、
245
構
(
かま
)
うてくれな。
246
おりやモウ
死物狂
(
しにものぐる
)
ひだ』
247
と
火鉢
(
ひばち
)
を
両手
(
りやうて
)
に、
248
頭上
(
づじやう
)
高
(
たか
)
くふり
上
(
あ
)
げた
儘
(
まま
)
、
249
目
(
め
)
を
怒
(
いか
)
らしてゐる。
250
高姫
(
たかひめ
)
は、
251
高姫
(
たかひめ
)
『ヘン、
252
春
(
はる
)
の
野郎
(
やらう
)
、
253
何
(
なに
)
をするのだ。
254
そんな
事
(
こと
)
でビクつく
様
(
やう
)
な
高姫
(
たかひめ
)
ぢやありませぬぞえ。
255
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
をした
言訳
(
いひわけ
)
のテレ
隠
(
かく
)
しに、
256
そんな
狂言
(
きやうげん
)
を、
257
二人
(
ふたり
)
が
腹
(
はら
)
を
合
(
あは
)
せてやつた
所
(
ところ
)
で、
258
計略
(
けいりやく
)
の
奥
(
おく
)
の
奥
(
おく
)
まで、
259
チヤンと
見
(
み
)
えすいた
高姫
(
たかひめ
)
、
260
そんな
威喝
(
ゐかつ
)
は
駄目
(
だめ
)
ですよ。
261
オホヽヽヽ』
262
春彦
(
はるひこ
)
益々
(
ますます
)
怒
(
いか
)
り、
263
春彦
『モウ
了見
(
りやうけん
)
ならぬ』
264
と
高姫
(
たかひめ
)
の
頭
(
あたま
)
に
投
(
な
)
げつけようとする。
265
カールは
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
春彦
(
はるひこ
)
の
捧
(
ささ
)
げた
両手
(
りやうて
)
を
握
(
にぎ
)
つてとめやうとする。
266
火鉢
(
ひばち
)
はいつの
間
(
ま
)
にかひつくり
返
(
かへ
)
り、
267
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
は
灰
(
はい
)
だらけになり、
268
真黒
(
まつくろ
)
けの
黒猫
(
くろねこ
)
になつて、
269
目
(
め
)
も
見
(
み
)
えぬ
儘
(
まま
)
に
金切声
(
かなきりごゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げ
掴
(
つか
)
み
合
(
あ
)
うてゐる。
270
此
(
この
)
所
(
ところ
)
へ
言葉
(
ことば
)
も
静
(
しづか
)
に、
271
(言依別命)
『
御免
(
ごめん
)
なさい』
272
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
273
門口
(
かどぐち
)
の
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けて
入
(
い
)
り
来
(
く
)
る
一人
(
ひとり
)
の
立派
(
りつぱ
)
な
男
(
をとこ
)
ありき。
274
是
(
これ
)
は
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
なりける。
275
(
大正一一・八・二四
旧七・二
松村真澄
録)
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