黒姫と玉治別の出自と半生の歌を聞いて、東助は両手を組み頭をうなだれて太い息をつきながらこの光景を見守っていた。
一方、高山彦も自身の懺悔の歌を歌い始めた。高山彦はコーカス山の大気津姫の重臣であった父母の間に生まれたが、黄泉比良坂の戦いで大気津姫一派はコーカス山を追われてアーメニヤに逃げた。
兄が家を継いだので、高山彦は気ままに育ち、若い女と駆け落ちして都を出たという。しかしその途上、女は谷底へ落ちて死んでしまった。嘆き悲しむ高山彦が柏井川に来たところ、その女にどことなく似た女と行き会い関係を持ったが、人の足音に驚いて逃げ去ってしまったという。
それ以来その女を探していたが、黒姫の昔語りを聞いて、まさにそれが現在の妻である黒姫であったと悟り、また玉治別が自分の実子であることを悟ったことを明かした。
高山彦の告白に、ここに夫婦親子の対面はなり、高山彦、黒姫、玉治別は互いに取りすがり、嬉し涙を流した。
高姫はこの光景に驚きながらも、自分はまだ罪障が取れずに悩みが解決しないのだと語った。黒姫は、高姫も若いころに捨て子をしたと聞いたのだが、そのことなのかと問いかけた。そしてその捨て子の守り刀の様子や、幼名や年までも言い当てて高姫を驚かせた。
黒姫は、自分が探索に出かけた筑紫の島で、国の神司である建国別に面会したことを歌って聞かせた。建国別は捨て子であったが国司・建日別の婿となった人物であった。そして真の父母を探しているという。
黒姫は建国別の話を聞いて、高姫の昔語りを思いだし、もしや建国別は高姫の子ではないかと思いながらも、高姫本人に確認しようと筑紫の国では何も語らずに自転倒島まで戻ってきたことを明かした。
玉治別も、黒姫の話を聞いてもしや建国別は高姫の息子ではないかと、筑紫の島までの案内を買ってでた。高姫はしばしうなだれてお礼を述べるのみであった。そしてそんな高姫を東助は顔色を変えて見つめていた。