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第3巻(寅の巻)
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第6巻(巳の巻)
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第11巻(戌の巻)
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第33巻(申の巻)
序歌
瑞祥
第1篇 誠心誠意
01 高論濁拙
〔916〕
02 灰猫婆
〔917〕
03 言霊停止
〔918〕
04 楽茶苦
〔919〕
第2篇 鶴亀躍動
05 神寿言
〔920〕
06 皮肉歌
〔921〕
07 心の色
〔922〕
08 春駒
〔923〕
09 言霊結
〔924〕
10 神歌
〔925〕
11 波静
〔926〕
12 袂別
〔927〕
第3篇 時節到来
13 帰途
〔928〕
14 魂の洗濯
〔929〕
15 婆論議
〔930〕
16 暗夜の歌
〔931〕
17 感謝の涙
〔932〕
18 神風清
〔933〕
第4篇 理智と愛情
19 報告祭
〔934〕
20 昔語
〔935〕
21 峯の雲
〔936〕
22 高宮姫
〔937〕
23 鉄鎚
〔938〕
24 春秋
〔939〕
25 琉の玉
〔940〕
26 若の浦
〔941〕
伊豆温泉旅行につき訪問者人名詠込歌
附記 湯ケ島所感
余白歌
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> 第1篇 誠心誠意 > 第4章 楽茶苦
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第四章
楽茶苦
(
らくちやく
)
〔九一九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻
篇:
第1篇 誠心誠意
よみ(新仮名遣い):
せいしんせいい
章:
第4章 楽茶苦
よみ(新仮名遣い):
らくちゃく
通し章番号:
919
口述日:
1922(大正11)年08月26日(旧07月4日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年11月10日
概要:
舞台:
ウヅの館
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
捨子姫は結婚式の準備に繁忙を極めていたが、松若彦が慌ただしく走り来たった。捨子姫の居間に通された松若彦は、高姫が自分の館にやってきて熱心に反対運動をしに来たことを告げ、捨子姫に注意を促した。
捨子姫は松若彦の報せに感謝し、ただし自分はすでに腹を決めているし、昨日国依別に会った時も、国依別本人が固い決心だから、何が起ころうとも安心するように、と松若彦をなだめた。
そこへ言依別命が松若彦を尋ねてやってきた。一緒に盛典を成功させようと、二人は御殿に向かって行こうとしたとき、高姫は髪を振り乱して捨子姫の館の玄関口にやってきた。いつの間にか言霊停止は解除されて、怒鳴りたてている。
後からカールと春彦がやってきて追いついたが、松若彦は玄関まで出て、取り込み中だから帰るようにと高姫に告げるが、高姫は必死にこの結婚が大神様への侮辱になるからと訴えた。
松若彦は高姫に上がるようにと言った。高姫はカールとちょっとやり合い、松若彦に憎まれ口を叩いた後、捨子姫に意見を始めた。
しかし捨子姫の結婚賛成への意見は堅く、逆に言依別命、松若彦とともに、高姫の反対意見に対して諭して聞かせた。高姫もついに我を折って、ここはおとなしく改心することになった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-08-18 18:39:02
OBC :
rm3304
愛善世界社版:
36頁
八幡書店版:
第6輯 269頁
修補版:
校定版:
37頁
普及版:
15頁
初版:
ページ備考:
001
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
けぬ
前
(
まへ
)
から
捨子姫
(
すてこひめ
)
は、
002
末子姫
(
すゑこひめ
)
の
結婚
(
けつこん
)
の
用意
(
ようい
)
に
取掛
(
とりかか
)
り、
003
相当
(
さうたう
)
に
繁忙
(
はんばう
)
を
極
(
きは
)
めて
居
(
ゐ
)
た。
004
そこへ
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
慌
(
あわ
)
ただしく
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
005
案内
(
あんない
)
を
請
(
こ
)
うた。
006
高公
(
たかこう
)
は
玄関
(
げんくわん
)
にて
其
(
その
)
用事
(
ようじ
)
の
趣
(
おもむき
)
を
聞
(
き
)
き、
007
直
(
ただ
)
ちに
捨子姫
(
すてこひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
に
通
(
とほ
)
した。
008
捨子姫
(
すてこひめ
)
『
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
、
009
慌
(
あわ
)
ただしきあなたの
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
、
010
何
(
なに
)
か
変事
(
へんじ
)
が
出来
(
しゆつたい
)
したので
御座
(
ござ
)
いますか』
011
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
息
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませ
乍
(
なが
)
ら、
012
松若彦
(
まつわかひこ
)
『
今日
(
けふ
)
は
誠
(
まこと
)
に
以
(
もつ
)
てお
目出
(
めで
)
たう
存
(
ぞん
)
じます。
013
さて
只今
(
ただいま
)
私
(
わたし
)
の
館
(
やかた
)
へ
高姫
(
たかひめ
)
さまが
御
(
お
)
出
(
い
)
でになり
大変
(
たいへん
)
な
権幕
(
けんまく
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
014
要
(
えう
)
するに
今度
(
こんど
)
の
結婚
(
けつこん
)
をジヤミにしようと
熱心
(
ねつしん
)
に
車輪
(
しやりん
)
的
(
てき
)
運動
(
うんどう
)
をやつて
居
(
を
)
られます。
015
私
(
わたし
)
も
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
より
昨夜
(
さくや
)
大体
(
だいたい
)
を
承
(
うけたま
)
はつて
居
(
を
)
りましたので、
016
これは
屹度
(
きつと
)
其
(
その
)
問題
(
もんだい
)
に
違
(
ちがひ
)
ないと
思
(
おも
)
つてゐますと、
017
果
(
はた
)
して
私
(
わたし
)
が
只一口
(
ただひとくち
)
……ウン……と
云
(
い
)
つて、
018
首
(
くび
)
を
縦
(
たて
)
にふりさえすれば、
019
万事
(
ばんじ
)
解決
(
かいけつ
)
のつく
話
(
はなし
)
だと
言
(
い
)
はれましたので、
020
コリヤ
大変
(
たいへん
)
、
021
今
(
いま
)
となつて
水
(
みづ
)
を
注
(
さ
)
されては、
022
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
初
(
はじ
)
め、
023
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
し、
024
申訳
(
まをしわけ
)
がない。
025
弁舌
(
べんぜつ
)
の
巧
(
たくみ
)
な
高姫
(
たかひめ
)
さまに
対
(
たい
)
して
議論
(
ぎろん
)
をして
居
(
を
)
つても、
026
追
(
お
)
つ
付
(
つ
)
かない、
027
取
(
と
)
り
合
(
あ
)
はぬが
奥
(
おく
)
の
手
(
て
)
と、
028
裏口
(
うらぐち
)
から
逃
(
に
)
げて
参
(
まゐ
)
りました。
029
あと
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り
見
(
み
)
れば、
030
高姫
(
たかひめ
)
さまは
髪
(
かみ
)
ふり
乱
(
みだ
)
し、
031
夜叉
(
やしや
)
の
様
(
やう
)
な
勢
(
いきほ
)
ひで、
032
私
(
わたし
)
のあとを
追
(
お
)
つかけて
来
(
き
)
ます。
033
私
(
わたし
)
は
幸
(
さいは
)
ひ、
034
一本橋
(
いつぽんばし
)
を
落
(
おと
)
しておいて
高姫
(
たかひめ
)
さまの
進路
(
しんろ
)
を
遮
(
さへぎ
)
り、
035
漸
(
やうや
)
く
此処
(
ここ
)
まで
駆
(
か
)
けつけました。
036
何
(
いづ
)
れ、
037
後
(
のち
)
程
(
ほど
)
お
宅
(
たく
)
へお
出
(
い
)
でになるでせうから、
038
それ
迄
(
まで
)
にトツクリとあなたと
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
を
遂
(
と
)
げ、
039
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
にも
断乎
(
だんこ
)
たる
決心
(
けつしん
)
を
持
(
も
)
つて
頂
(
いただ
)
きたいと
存
(
ぞん
)
じまして、
040
お
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました
次第
(
しだい
)
で
御座
(
ござ
)
います』
041
捨子姫
(
すてこひめ
)
『あゝ
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか。
042
それは
大変
(
たいへん
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
をおかけ
申
(
まを
)
しました。
043
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
方
(
はう
)
に
於
(
おい
)
ては
夜前
(
やぜん
)
より、
044
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
と
私
(
わたくし
)
が、
045
及
(
およ
)
ばず
乍
(
なが
)
ら、
046
いろいろと
申上
(
まをしあ
)
げ、
047
今
(
いま
)
の
処
(
ところ
)
では
挺
(
てこ
)
でも
棒
(
ぼう
)
でも
動
(
うご
)
かぬ
様
(
やう
)
な
固
(
かた
)
い
御
(
ご
)
決心
(
けつしん
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
048
たとへ
高姫
(
たかひめ
)
さまが
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
はう
共
(
とも
)
、
049
最早
(
もはや
)
ビクとも
動
(
うご
)
きませぬ。
050
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
051
松若彦
(
まつわかひこ
)
『それを
聞
(
き
)
いて
私
(
わたくし
)
も
一寸
(
ちよつと
)
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
しました。
052
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
053
こんなゴテゴテした
事
(
こと
)
が、
054
肝腎
(
かんじん
)
の
国依別
(
くによりわけ
)
さまの
耳
(
みみ
)
へでも
這入
(
はい
)
らうものなら、
055
淡泊
(
たんぱく
)
な
人
(
ひと
)
だから……エヽもう
斯
(
こ
)
んなゴテゴテした
縁談
(
えんだん
)
なら
真平
(
まつぴら
)
だ……と
首
(
くび
)
を
横
(
よこ
)
にふられたが
最後
(
さいご
)
、
056
吾々
(
われわれ
)
は
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
して
申訳
(
まをしわけ
)
が
御座
(
ござ
)
いませぬから、
057
それが
第一
(
だいいち
)
心配
(
しんぱい
)
で
御座
(
ござ
)
います』
058
捨子姫
(
すてこひめ
)
『
国依別
(
くによりわけ
)
さまも、
059
妾
(
わたし
)
が
夜前
(
やぜん
)
ソツと
高公
(
たかこう
)
を
伴
(
つ
)
れ
訪問
(
はうもん
)
致
(
いた
)
し、
060
いろいろと
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
を
承
(
うけたま
)
はりましたが、
061
高姫
(
たかひめ
)
さまの
混
(
まぜ
)
つ
返
(
かへ
)
しについて、
062
少
(
すこ
)
し
許
(
ばか
)
り、
063
うるさがつて
居
(
を
)
られました。
064
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
065
今度
(
こんど
)
はどうしても、
066
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
だから、
067
否
(
いな
)
む
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かぬ……と
仰有
(
おつしや
)
つて
固
(
かた
)
い
固
(
かた
)
い
決心
(
けつしん
)
が
見
(
み
)
えました。
068
これも
一
(
ひと
)
つ
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
069
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ、
070
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
は
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
071
高公
(
たかこう
)
に
案内
(
あんない
)
させ
乍
(
なが
)
ら、
072
ツカツカと
奥
(
おく
)
に
入
(
い
)
り、
073
言依別命
『ヤア
松若彦
(
まつわかひこ
)
さま、
074
此処
(
ここ
)
でしたか、
075
よい
所
(
ところ
)
でお
目
(
め
)
にかかりました……
捨子姫
(
すてこひめ
)
様
(
さま
)
、
076
御
(
お
)
忙
(
いそが
)
しい
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いませうなア』
077
松若彦
(
まつわかひこ
)
『つい
今
(
いま
)
の
先
(
さき
)
、
078
参
(
まゐ
)
つた
所
(
ところ
)
で
御座
(
ござ
)
います』
079
捨子姫
(
すてこひめ
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
080
お
目出
(
めで
)
たい
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
います。
081
あなたも
此
(
この
)
事
(
こと
)
に
就
(
つい
)
て
御
(
ご
)
奔走
(
ほんそう
)
遊
(
あそ
)
ばし、
082
さぞお
心遣
(
こころづか
)
ひの
程
(
ほど
)
御
(
お
)
察
(
さつ
)
し
申上
(
まをしあ
)
げます』
083
言依別
(
ことよりわけ
)
『
時
(
とき
)
に
松若彦
(
まつわかひこ
)
さま……
高姫
(
たかひめ
)
さまの
事
(
こと
)
ですが、
084
俄
(
にはか
)
に
病気
(
びやうき
)
が
起
(
おこ
)
り、
085
一旦
(
いつたん
)
は
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
に
陥
(
おちい
)
られましたが、
086
吾々
(
われわれ
)
初
(
はじ
)
め、
087
カール、
088
春彦
(
はるひこ
)
両人
(
りやうにん
)
の
祈願
(
きぐわん
)
に
依
(
よ
)
りて、
089
漸
(
やうや
)
く
息
(
いき
)
を
吹
(
ふ
)
き
返
(
かへ
)
されました。
090
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
言霊
(
ことたま
)
が
停止
(
ていし
)
されて
了
(
しま
)
ひ、
091
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
つても
御
(
お
)
答
(
こた
)
へなく、
092
目
(
め
)
計
(
ばか
)
りパチつかせ、
093
体
(
からだ
)
をプリンプリンと
振
(
ふ
)
つて
計
(
ばか
)
りゐられます。
094
何
(
いづ
)
れ
今夜
(
こんや
)
の
御
(
ご
)
結婚
(
けつこん
)
がお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らないのでせうが、
095
此
(
この
)
事
(
こと
)
計
(
ばか
)
りは
如何
(
どう
)
あつても、
096
高姫
(
たかひめ
)
さまの
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
ばかり
用
(
もち
)
ゐる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬから、
097
飽
(
あ
)
く
迄
(
まで
)
も
此
(
この
)
盛典
(
せいてん
)
を
完全
(
くわんぜん
)
に
成功
(
せいこう
)
させたいと
思
(
おも
)
つて、
098
あなたの
御
(
お
)
宅
(
たく
)
へ
御
(
お
)
訪
(
たづ
)
ねした
所
(
ところ
)
、
099
常彦
(
つねひこ
)
さまが
留守
(
るす
)
をして
居
(
を
)
り、
100
大方
(
おほかた
)
捨子姫
(
すてこひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
宅
(
たく
)
へ
御
(
お
)
出
(
い
)
でになつたのだらうとの
事
(
こと
)
、
101
それ
故
(
ゆゑ
)
お
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました
様
(
やう
)
な
次第
(
しだい
)
で
御座
(
ござ
)
います』
102
松若彦
(
まつわかひこ
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
103
最早
(
もはや
)
動
(
うご
)
かすことは
出来
(
でき
)
ませぬ。
104
サア
是
(
これ
)
から
御殿
(
ごてん
)
へ
上
(
あが
)
りまして、
105
一切
(
いつさい
)
の
準備
(
じゆんび
)
に
取掛
(
とりかか
)
りませう』
106
言依別
(
ことよりわけ
)
『
左様
(
さやう
)
ならば、
107
捨子姫
(
すてこひめ
)
さま、
108
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
、
109
取急
(
とりいそ
)
ぎ
参
(
まゐ
)
りませう』
110
と
立出
(
たちい
)
でむとする
所
(
ところ
)
へ、
111
高姫
(
たかひめ
)
は
髪
(
かみ
)
ふり
乱
(
みだ
)
し、
112
玄関口
(
げんくわんぐち
)
に
立塞
(
たちふさ
)
がり、
113
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
言霊
(
ことたま
)
の
停止
(
ていし
)
は
解除
(
かいぢよ
)
されて、
114
高姫
(
たかひめ
)
『
言依別
(
ことよりわけ
)
、
115
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
116
捨子姫
(
すてこひめ
)
殿
(
どの
)
、
117
用
(
よう
)
が
御座
(
ござ
)
る。
118
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
門
(
もん
)
あけて
下
(
くだ
)
さい』
119
と
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
ててゐる。
120
後
(
あと
)
よりカール、
121
春彦
(
はるひこ
)
の
二人
(
ふたり
)
は
慌
(
あわ
)
ただしく
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
122
漸
(
やうや
)
く
玄関先
(
げんくわんさき
)
で
追
(
お
)
ひ
着
(
つ
)
き、
123
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
卸
(
おろ
)
してゐる。
124
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
は、
125
高姫
(
たかひめ
)
の
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
き、
126
又
(
また
)
うるさい、
127
やつて
来
(
き
)
よつたなア……と
口
(
くち
)
には
云
(
い
)
はねど、
128
互
(
たがひ
)
の
顔
(
かほ
)
を
色
(
いろ
)
に
表
(
あら
)
はし
乍
(
なが
)
ら、
129
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
表
(
おもて
)
の
戸
(
と
)
を
開
(
ひら
)
き、
130
松若彦
(
まつわかひこ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
131
今日
(
けふ
)
は
取込
(
とりこ
)
んで
居
(
を
)
りますので、
132
どうぞ
御
(
お
)
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
133
又
(
また
)
明日
(
あす
)
ゆつくりとお
目
(
め
)
にかかりませう』
134
高姫
(
たかひめ
)
『
又
(
また
)
しても
妾
(
わたし
)
を
邪魔者
(
じやまもの
)
扱
(
あつか
)
ひにして、
135
門前払
(
もんぜんばら
)
ひを
食
(
く
)
はす
積
(
つも
)
りですか。
136
言
(
こと
)
に
捨
(
すて
)
の
両人
(
りやうにん
)
も
此
(
ここ
)
に
居
(
を
)
られるでせう。
137
何程
(
なにほど
)
忙
(
いそが
)
しいか
知
(
し
)
りませぬが、
138
今晩
(
こんばん
)
の
ことよりわけ
て、
139
きまりつけねば、
140
此
(
この
)
儘
(
まま
)
に
捨子姫
(
すてこひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
訳
(
わけ
)
にも
参
(
まゐ
)
りませぬぞや。
141
各自
(
めいめい
)
が
気
(
き
)
をつけて、
142
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
此
(
この
)
結婚
(
けつこん
)
は
末
(
すゑ
)
の
末子姫
(
すゑこひめ
)
まで
考
(
かんが
)
へて
上
(
あ
)
げねば、
143
あつたら
娘
(
むすめ
)
をドブ
壺
(
つぼ
)
へおとすやうなことを
致
(
いた
)
しましたら、
144
それこそ
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
様
(
さま
)
へ、
145
あなた
方
(
がた
)
の
言
(
い
)
ひ
訳
(
わけ
)
が
立
(
た
)
ちますまいぞや、
146
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
も
第一
(
だいいち
)
申訳
(
まをしわけ
)
が
立
(
た
)
ちませぬからなア。
147
妾
(
わたし
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
はどうで
御
(
お
)
気
(
き
)
には
容
(
い
)
りますまいが、
148
ここは
一
(
ひと
)
つ
大雅量
(
だいがりやう
)
を
出
(
だ
)
して
老人
(
としより
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
も
取上
(
とりあ
)
げて
貰
(
もら
)
ひませぬと、
149
後
(
あと
)
に
至
(
いた
)
つて
臍
(
ほぞ
)
を
噛
(
か
)
むとも
及
(
およ
)
ばない、
150
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
になりますぞや』
151
松若彦
(
まつわかひこ
)
『そんな
玄関口
(
げんくわんぐち
)
で、
152
見
(
み
)
つともない、
153
どうぞ
奥
(
おく
)
へ
御
(
お
)
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
さい』
154
高姫
(
たかひめ
)
『
通
(
とほ
)
れと
云
(
い
)
はなくても、
155
通
(
とほ
)
らなおきますか。
156
妾
(
わたし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
通
(
とほ
)
らねば、
157
通
(
とほ
)
る
所
(
ところ
)
まで
通
(
とほ
)
して
見
(
み
)
せます。
158
桃李
(
たうり
)
物
(
もの
)
云
(
い
)
はずと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
159
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
が
通
(
とほ
)
りたら
最後
(
さいご
)
、
160
物言
(
ものい
)
ひなしに
私
(
わたし
)
の
意見
(
いけん
)
を
通
(
とほ
)
して
下
(
くだ
)
さい。
161
お
前
(
まへ
)
さま
方
(
かた
)
は
寄
(
よ
)
つてたかつて、
162
とりどりの
小田原
(
をだはら
)
評定
(
ひやうぢやう
)
計
(
ばか
)
りに
日
(
ひ
)
を
暮
(
くら
)
して
御座
(
ござ
)
るが、
163
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても、
164
雪
(
ゆき
)
と
炭
(
すみ
)
、
165
月
(
つき
)
と
鼈
(
すつぽん
)
程
(
ほど
)
身魂
(
みたま
)
の
違
(
ちが
)
ふ
此
(
この
)
縁談
(
えんだん
)
がどうして
纏
(
まと
)
まりませう。
166
チツト
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
を
当
(
あ
)
てて
後先
(
あとさき
)
を
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
167
誠
(
まこと
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
侮辱
(
ぶじよく
)
すると
云
(
い
)
うても、
168
これ
位
(
くらゐ
)
甚
(
はなは
)
だしい
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
いますまい。
169
誰
(
たれ
)
も
彼
(
かれ
)
も
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
をとる
事
(
こと
)
計
(
ばか
)
り
考
(
かんが
)
へて、
170
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
の
大事
(
だいじ
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
一寸
(
ちよつと
)
も
構
(
かま
)
はないから、
171
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
172
年
(
とし
)
の
老
(
よ
)
つた
高姫
(
たかひめ
)
が
又
(
また
)
しても
又
(
また
)
しても
出馬
(
しゆつば
)
せねばならぬ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
が、
173
出来
(
でき
)
て
来
(
く
)
るのだ』
174
カール『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
175
そらさうですワイ。
176
お
前
(
まへ
)
さまは
三五教
(
あななひけう
)
の
元老株
(
げんらうかぶ
)
だから、
177
かういふ
時
(
とき
)
にや
飛
(
と
)
んで
出
(
で
)
るのが
当
(
あた
)
り
前
(
まへ
)
だらう。
178
内閣
(
ないかく
)
組織
(
そしき
)
の
時
(
とき
)
でも、
179
いつも
元老
(
げんらう
)
が
飛出
(
とびだ
)
すぢやないか。
180
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
立憲
(
りつけん
)
政体
(
せいたい
)
の
今日
(
こんにち
)
、
181
元老
(
げんらう
)
の
飛出
(
とびだ
)
しは
時代
(
じだい
)
錯誤
(
さくご
)
だとか
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
つて、
182
随分
(
ずゐぶん
)
国民
(
こくみん
)
が
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
うてゐますよ。
183
モウいい
加減
(
かげん
)
にお
前
(
まへ
)
さまも
目
(
め
)
をつぶつておとなしくしたら
如何
(
どう
)
ですか。
184
日進
(
につしん
)
月歩
(
げつぽ
)
の
今日
(
こんにち
)
余
(
あま
)
り
古
(
ふる
)
い
事
(
こと
)
をふりまはされると、
185
時代
(
じだい
)
に
順応
(
じゆんおう
)
すると
云
(
い
)
ふ
神策
(
しんさく
)
が
行
(
おこな
)
はれなくなり、
186
此
(
この
)
ウヅの
国
(
くに
)
は
今日
(
こんにち
)
の
文明
(
ぶんめい
)
から
継子扱
(
ままこあつかひ
)
をされる
様
(
やう
)
になつて
了
(
しま
)
ひますよ』
187
高姫
(
たかひめ
)
『お
黙
(
だま
)
り
召
(
め
)
され……カール
口
(
ぐち
)
か
何
(
なん
)
ぞのやうにベラベラと、
188
こんな
所
(
ところ
)
へ
出
(
だ
)
しやばる
幕
(
まく
)
ぢやありませぬぞえ。
189
私
(
わたし
)
は
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
、
190
其
(
その
)
外
(
ほか
)
の
立派
(
りつぱ
)
な
方々
(
かたがた
)
に
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
に
来
(
き
)
たのだ。
191
コンマ
以下
(
いか
)
のお
前
(
まへ
)
さまが、
192
此
(
この
)
大問題
(
だいもんだい
)
に
対
(
たい
)
して、
193
何
(
なに
)
嘴
(
くちばし
)
を
尖
(
とが
)
らすのだい』
194
カール『これだから、
195
あの
儘
(
まま
)
にしておいたが
宜
(
よ
)
かつたのだ。
196
言依別
(
ことよりわけ
)
さまを
途中
(
とちう
)
まで
御
(
お
)
送
(
おく
)
りすると……おいカール、
197
お
前
(
まへ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
の
言霊
(
ことたま
)
が
利
(
き
)
く
様
(
やう
)
に、
198
マ
一度
(
いちど
)
引返
(
ひきかへ
)
し、
199
ウ…ア…と
二声
(
ふたこゑ
)
言霊
(
ことたま
)
を
唱
(
とな
)
へてやれ、
200
そしたら
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
口
(
くち
)
が
利
(
き
)
けるやうになるから……と
気
(
き
)
の
良
(
よ
)
い
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
が
仰有
(
おつしや
)
つたものだから、
201
此奴
(
こいつ
)
ア
今
(
いま
)
物
(
もの
)
言
(
い
)
はしたら、
202
面倒
(
めんだう
)
だと
思
(
おも
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
203
教主
(
けうしゆ
)
の
命令
(
めいれい
)
背
(
そむ
)
くに
由
(
よし
)
なく、
204
引返
(
ひきかへ
)
して
物
(
もの
)
を
言
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
にしてやれば、
205
すぐ
此
(
こ
)
れだから
困
(
こま
)
つて
了
(
しま
)
ふ。
206
どうぞマ
一遍
(
いつぺん
)
、
207
とめる
工夫
(
くふう
)
はあるまいかな』
208
と
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
つてゐる。
209
高姫
(
たかひめ
)
『ヘン、
210
お
構
(
かま
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばすなや。
211
高姫
(
たかひめ
)
は
生
(
うま
)
れついてから
唖
(
おし
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬぞや。
212
言霊
(
ことたま
)
は
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
授
(
さづ
)
かつて
居
(
を
)
ります。
213
とめられるものなら、
214
とめて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
215
妾
(
わたし
)
が
物
(
もの
)
言
(
い
)
はなかつたのは
余
(
あま
)
りむかつくから、
216
言
(
い
)
はぬは
言
(
い
)
ふにいや
優
(
まさ
)
ると、
217
プリンプリンと
身振
(
みぶ
)
りで
妾
(
わたし
)
の
意志
(
いし
)
を
表示
(
へうじ
)
してゐたのだよ。
218
何
(
なに
)
も
御
(
お
)
前
(
まへ
)
さまのウ…ア…なんてアタ
阿呆
(
あはう
)
らしい、
219
そんな
言霊
(
ことたま
)
で
物
(
もの
)
が
云
(
い
)
へたなぞと、
220
余
(
あんま
)
り、
221
ヘン、
222
見違
(
みちが
)
ひをして
貰
(
もら
)
ひますまいかいなア。
223
アヽドレドレ、
224
何時迄
(
いつまで
)
も
門立
(
かどだ
)
ち
芸者
(
げいしや
)
の
様
(
やう
)
に
玄関口
(
げんくわんぐち
)
に
立
(
た
)
ちはだかつて、
225
言霊
(
ことたま
)
の
発射
(
はつしや
)
も
気
(
き
)
が
利
(
き
)
きませぬワイ』
226
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
227
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
主人顔
(
しゆじんがほ
)
して、
228
ドンとすわり
込
(
こ
)
み、
229
高姫
(
たかひめ
)
『
松若彦
(
まつわかひこ
)
さま、
230
今朝
(
けさ
)
程
(
ほど
)
は
大
(
おほ
)
きに
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になりました。
231
ヨウまアあんな
深
(
ふか
)
い
川
(
かは
)
へおとして
下
(
くだ
)
さいまして、
232
誠
(
まこと
)
に
高姫
(
たかひめ
)
も
空中
(
くうちう
)
滑走
(
くわつそう
)
の
味
(
あぢ
)
を
覚
(
おぼ
)
え、
233
愉快
(
ゆくわい
)
なこつて
御座
(
ござ
)
いました、
234
ホヽヽヽヽ。
235
人
(
ひと
)
を
呪
(
のろ
)
はば
穴二
(
あなふた
)
つですよ。
236
お
前
(
まへ
)
さまもシツカリなさらぬと
何時
(
いつ
)
ドブへはまるか
分
(
わか
)
りませぬぞや……コレ
捨子姫
(
すてこひめ
)
さま、
237
お
前
(
まへ
)
に
一
(
ひと
)
つ
言
(
い
)
ひたい
事
(
こと
)
がある』
238
捨子姫
(
すてこひめ
)
『ハイ、
239
何事
(
なにごと
)
か
存
(
ぞん
)
じませぬが、
240
承
(
うけたま
)
はりませう』
241
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
も
大抵
(
たいてい
)
私
(
わたし
)
が
何
(
なに
)
しに
来
(
き
)
た
位
(
くらゐ
)
は、
242
云
(
い
)
はいでも
御
(
お
)
分
(
わか
)
りになつてゐるでせう。
243
今
(
いま
)
高姫
(
たかひめ
)
が
茶々入
(
ちやちやい
)
れに
来
(
く
)
るから、
244
腹帯
(
はらおび
)
をしめねばならぬと、
245
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
云
(
い
)
ひ
合
(
あ
)
はして
御座
(
ござ
)
つたでせう。
246
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
247
よく
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
248
あの
国依別
(
くによりわけ
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
、
249
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
から
親子
(
おやこ
)
兄弟
(
きやうだい
)
散
(
ち
)
り
散
(
ぢ
)
りバラバラとなり、
250
碌
(
ろく
)
に
教育
(
けういく
)
も
受
(
う
)
けず、
251
乞食
(
こじき
)
の
様
(
やう
)
にうろつきまはり、
252
少
(
すこ
)
し
大
(
おほ
)
きくなると、
253
女
(
をんな
)
たらしの
後家倒
(
ごけたふ
)
し、
254
婆嬶弱
(
ばばかかよわ
)
らせの
家潰
(
いへつぶ
)
しをやつて
来
(
き
)
た
如何
(
どう
)
にも
斯
(
か
)
うにも
仕方
(
しかた
)
のない
代物
(
しろもの
)
を、
255
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
球
(
きう
)
の
玉
(
たま
)
とかの
神力
(
しんりき
)
を
受
(
う
)
けたと
云
(
い
)
つて、
256
御
(
ご
)
勿体
(
もつたい
)
ない
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
の
大切
(
たいせつ
)
な
御
(
お
)
娘子
(
むすめご
)
、
257
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
の
婿
(
むこ
)
にしよう
等
(
なぞ
)
とは
地異
(
ちい
)
天変
(
てんぺん
)
、
258
天地
(
てんち
)
転倒
(
てんたふ
)
の
行方
(
やりかた
)
と
申
(
まを
)
さねばなりますまい。
259
是
(
これ
)
までお
前
(
まへ
)
さまは
何時
(
いつ
)
も
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
の
近侍
(
きんじ
)
を
勤
(
つと
)
めてゐた
関係
(
くわんけい
)
上
(
じやう
)
、
260
主人
(
しゆじん
)
が
大事
(
だいじ
)
と
思
(
おも
)
ふ
誠
(
まこと
)
があれば、
261
国依別
(
くによりわけ
)
の
欠点
(
けつてん
)
を
包
(
つつ
)
まず
隠
(
かく
)
さずさらけ
出
(
だ
)
して、
262
愛想
(
あいさう
)
をつかさせ、
263
此
(
この
)
縁談
(
えんだん
)
を
破約
(
はやく
)
なさるやうに
仕向
(
しむ
)
けるのが、
264
お
前
(
まへ
)
の
誠
(
まこと
)
だ。
265
本当
(
ほんたう
)
に
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
を
大事
(
だいじ
)
と
思召
(
おぼしめ
)
すなら、
266
早
(
はや
)
く
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
を
遊
(
あそ
)
ばして、
267
やめさせて
下
(
くだ
)
さい。
268
年
(
とし
)
が
老
(
よ
)
つた
高姫
(
たかひめ
)
がワザワザここへ
訪問
(
はうもん
)
したのも
其
(
その
)
為
(
ため
)
ですから、
269
どうぞ
高姫
(
たかひめ
)
のここへ
来
(
き
)
たことが
無駄足
(
むだあし
)
にならぬ
様
(
やう
)
に
頼
(
たの
)
みますよ…なア
捨子姫
(
すてこひめ
)
さま、
270
お
前
(
まへ
)
は
余
(
あま
)
り
身魂
(
みたま
)
が
良過
(
よす
)
ぎて、
271
映
(
うつ
)
り
易
(
やす
)
いから、
272
言依別
(
ことよりわけ
)
さまや
松若彦
(
まつわかひこ
)
に
甘
(
うま
)
く
抱
(
だ
)
き
込
(
こ
)
まれ、
273
とうとう
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
心
(
こころ
)
を
動
(
うご
)
かしたのぢやありませぬかなア』
274
捨子姫
(
すてこひめ
)
『ハイ
妾
(
わたし
)
が
第一
(
だいいち
)
、
275
大賛成
(
だいさんせい
)
で
御
(
お
)
話
(
はなし
)
を
持
(
も
)
ちかけたので
御座
(
ござ
)
います。
276
さうすると
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
や、
277
松若彦
(
まつわかひこ
)
様
(
さま
)
、
278
竜国別
(
たつくにわけ
)
様
(
さま
)
初
(
はじ
)
め、
279
肝腎
(
かんじん
)
の
末子姫
(
すゑこひめ
)
様
(
さま
)
が、
280
それはそれは
御
(
ご
)
愉快
(
ゆくわい
)
相
(
さう
)
な
御
(
お
)
顔
(
かほ
)
でニコニコとお
笑
(
わら
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばし……
捨子姫
(
すてこひめ
)
、
281
何事
(
なにごと
)
もそなたに
御
(
お
)
任
(
まか
)
せするから、
282
宜
(
よろ
)
しう
頼
(
たの
)
むよ……と
恥
(
はづ
)
かし
相
(
さう
)
に
仰有
(
おつしや
)
いました。
283
それで
妾
(
わたし
)
が
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かし、
284
相手
(
あひて
)
方
(
がた
)
の
国依別
(
くによりわけ
)
様
(
さま
)
へも
極力
(
きよくりよく
)
運動
(
うんどう
)
いたし、
285
ヤツとの
事
(
こと
)
で
纏
(
まと
)
まつた
此
(
この
)
縁談
(
えんだん
)
、
286
何程
(
なにほど
)
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
が
水
(
みづ
)
をお
注
(
さ
)
し
遊
(
あそ
)
ばしても
最早
(
もはや
)
ビクとも
動
(
うご
)
かす
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
なくなつて
居
(
を
)
ります。
287
御
(
ご
)
注意
(
ちゆうい
)
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
は
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
いますが、
288
今度
(
こんど
)
はモウ
仕方
(
しかた
)
がないと
御
(
お
)
諦
(
あきら
)
め
下
(
くだ
)
さいませ。
289
肝腎
(
かんじん
)
の
御
(
ご
)
本人
(
ほんにん
)
様
(
さま
)
同志
(
どうし
)
が、
290
ニコニコで
居
(
を
)
られるなり、
291
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
は
特
(
とく
)
に
御
(
お
)
喜
(
よろこ
)
びなり、
292
どうして
今日
(
こんにち
)
になつて
之
(
これ
)
を
顛覆
(
てんぷく
)
さす
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませうか』
293
高姫
(
たかひめ
)
『エヽそこ
迄
(
まで
)
モウ
固
(
かた
)
い
決心
(
けつしん
)
が
出来
(
でき
)
て、
294
若
(
わか
)
い
方
(
かた
)
同志
(
どうし
)
が
思
(
おも
)
ひ
合
(
あ
)
うて
御座
(
ござ
)
るのを
動
(
うご
)
かさうと
云
(
い
)
つたつて
動
(
うご
)
きますまい。
295
残念
(
ざんねん
)
乍
(
なが
)
ら、
296
モウ
高姫
(
たかひめ
)
も
賛成
(
さんせい
)
いたしま……せうかい、
297
就
(
つ
)
いては、
298
貴女
(
あなた
)
も
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
299
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
には
一汁
(
いちじふ
)
一菜
(
いつさい
)
との
定
(
さだ
)
めで
御座
(
ござ
)
いますから、
300
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
はしてはなりませぬぞや。
301
上
(
うへ
)
から
贅沢
(
ぜいたく
)
な
鑑
(
かがみ
)
を
出
(
だ
)
すと、
302
人民
(
じんみん
)
が
皆
(
みな
)
それに
傚
(
なら
)
ひ、
303
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
不経済
(
ふけいざい
)
になつて
来
(
き
)
ましては、
304
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
又
(
また
)
もや
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
をかけなくてはなりませぬからなア』
305
松若彦
(
まつわかひこ
)
『
何程
(
なにほど
)
軍備
(
ぐんび
)
縮小
(
しゆくせう
)
、
306
経費
(
けいひ
)
節約
(
せつやく
)
の
流行
(
りうかう
)
する
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だとて、
307
一生
(
いつしやう
)
一代
(
いちだい
)
の
結婚
(
けつこん
)
に
其
(
その
)
様
(
やう
)
なケチな
事
(
こと
)
が
如何
(
どう
)
して
出来
(
でき
)
ませうか、
308
そんな
時代
(
じだい
)
遅
(
おく
)
れのイントレランス
[
※
イントレランスとは英語のintoleranceで、不寛容、偏狭という意味。
]
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふと、
309
人
(
ひと
)
が
馬鹿
(
ばか
)
にしますよ。
310
それ
相当
(
さうたう
)
の
身分
(
みぶん
)
に
応
(
おう
)
じて
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
もせねばなりますまい。
311
お
酒
(
さけ
)
もドツサリ
皆
(
みな
)
さまに
飲
(
あが
)
つて
頂
(
いただ
)
き、
312
底抜
(
そこぬけ
)
騒
(
さわ
)
ぎをやつて
面白
(
おもしろ
)
可笑
(
をか
)
しく
御
(
お
)
祝
(
いはひ
)
をする
方
(
はう
)
がどれ
丈
(
だけ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
が
御
(
お
)
喜
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばすかも
知
(
し
)
れませぬ。
313
又
(
また
)
吾々
(
われわれ
)
も
大変
(
たいへん
)
に
御
(
お
)
喜
(
よろこ
)
びですからな。
314
アハヽヽヽ』
315
高姫
(
たかひめ
)
『
私
(
わたし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
頑迷
(
ぐわんめい
)
だと
仰有
(
おつしや
)
るのですか、
316
何程
(
なにほど
)
新
(
あたら
)
しいのが
流行
(
はや
)
る
時節
(
じせつ
)
だと
云
(
い
)
つて、
317
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
まで
背
(
そむ
)
いてすると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
318
一
(
ひと
)
つ
考
(
かんが
)
へものでせう』
319
言依別
(
ことよりわけ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さまの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
も
御尤
(
ごもつと
)
もです。
320
松若彦
(
まつわかひこ
)
さまの
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
も
強
(
あなが
)
ち
棄
(
す
)
てる
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
きますまい。
321
そこは
身分
(
みぶん
)
相応
(
さうおう
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しまして、
322
正中
(
まんなか
)
を
取
(
と
)
り、
323
余
(
あま
)
りケチつかず、
324
余
(
あま
)
り
奢
(
おご
)
らずといふ
程度
(
ていど
)
に、
325
今晩
(
こんばん
)
の
結婚
(
けつこん
)
を
無事
(
ぶじ
)
に、
326
幾久
(
いくひさ
)
しく
祝
(
いは
)
ひ
納
(
をさ
)
めるやうにしたら
如何
(
どう
)
でせう』
327
高姫
(
たかひめ
)
『そんなら
私
(
わたし
)
も
我
(
が
)
を
折
(
を
)
つて
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
にお
任
(
まか
)
せ
致
(
いた
)
します。
328
又
(
また
)
空中
(
くうちう
)
滑走
(
くわつそう
)
さされたり、
329
言霊
(
ことたま
)
を
停止
(
ていし
)
さされたり、
330
灰猫婆
(
はひねこばば
)
アにせられると
困
(
こま
)
りますから、
331
憎
(
にく
)
まれないやうにおとなしう
改心
(
かいしん
)
しておきませう』
332
言依別
(
ことよりわけ
)
『
有難
(
ありがた
)
う』
333
松若彦
(
まつわかひこ
)
『
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
しました』
334
捨子姫
(
すてこひめ
)
『お
目出
(
めで
)
たう
御座
(
ござ
)
います』
335
カール『
面白
(
おもしろ
)
うなつて
来
(
き
)
ました』
336
春彦
(
はるひこ
)
『
今晩
(
こんばん
)
は
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
で、
337
ドツサリと
酔
(
よ
)
はして
貰
(
もら
)
ひませう。
338
何
(
なに
)
より
彼
(
か
)
より
上戸
(
じやうご
)
の
春彦
(
はるひこ
)
、
339
一番
(
いちばん
)
にお
目出
(
めで
)
たいワ、
340
有難
(
ありがた
)
いワ、
341
アハヽヽヽ』
342
(
大正一一・八・二六
旧七・四
松村真澄
録)
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