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第二四章 春秋(しゆんじう)〔九三九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻 篇:第4篇 理智と愛情 よみ(新仮名遣い):りちとあいじょう
章:第24章 春秋 よみ(新仮名遣い):しゅんじゅう 通し章番号:939
口述日:1922(大正11)年09月19日(旧07月28日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年11月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
東助は英子姫と紫姫に呼ばれて教主館に向かった。英子姫は、玉照彦と玉照姫を通じて神素盞嗚大神の御用の命が下り、すぐに秋彦を連れてフサの斎苑の館に急行するようにと用向きを伝えた。
一同は玉照彦と玉照姫に面会した。二神は手づから東助に旅の無事を祈って声をかけた。一同は互いに歌を取り交わした。東助は早速旅装を整えて共を連れ、出立した。
これは英子姫のはからいによってフサの都に東助を遣わしたのであった。神素盞嗚大神は喜んで東助を片腕となし給うた。また斎苑の館に詣でてくる建国別に面会せしむるためでもあった。
東助が聖地を去った後は、竜国別が総務となって聖地を守ることになった。一方高姫は、生田の森の館を国玉別(若彦)・玉能姫夫婦に代わって治めるよう、佐田彦とともに出立することを命じられた。同時に東助が聖地を去って斎苑の館に旅だったことも聞かされた。
高姫は東助がフサの国へ去ったと聞いて、未練の念からせめて一目会い言葉をかわしたいと、あわてて旅装を整えて生田の森へ出立した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-08 14:14:24 OBC :rm3324
愛善世界社版:266頁 八幡書店版:第6輯 347頁 修補版: 校定版:279頁 普及版:105頁 初版: ページ備考:
001 (にしき)(みや)(かた)(ほと)総務館(そうむやかた)(おく)()に、002東助(とうすけ)佐田彦(さだひこ)(ちや)()ませ(なが)脇息(けふそく)()たれ、003(ふか)思案(しあん)(しづ)むものの(ごと)くであつた。004(この)(とき)表戸(おもてど)をガラリと()()()()たのは秋彦(あきひこ)である。
005秋彦(あきひこ)『モシモシ総務(そうむ)(さま)006英子姫(ひでこひめ)(さま)一寸(ちよつと)()にかかり()いと(あふ)せになりますから何卒(どうぞ)()(くだ)さいませ。007紫姫(むらさきひめ)(さま)とお二人(ふたり)()つて()られます』
008東助(とうすけ)『ヤアお(まへ)秋彦(あきひこ)009それは()苦労(くらう)だつたナア。010それなら(すぐ)(まゐ)りませう……佐田彦(さだひこ)(あと)(たの)むぞ』
011()()秋彦(あきひこ)(とも)教主館(けうしゆやかた)礼服(れいふく)(ととの)(すす)()る。012英子姫(ひでこひめ)013紫姫(むらさきひめ)東助(とうすけ)(きた)るを(いま)(おそ)しと()ちつつあつた。
014東助(とうすけ)英子姫(ひでこひめ)(さま)015使(つかひ)(くだ)さいまして有難(ありがた)御座(ござ)います。016東助(とうすけ)只今(ただいま)(まゐ)りまして御座(ござ)います』
017 紫姫(むらさきひめ)欣々(いそいそ)として()(むか)へ、
018紫姫(むらさきひめ)()苦労(くらう)(さま)御座(ござ)いました。019何卒(どうぞ)(おく)へお(とほ)(くだ)さいませ』
020慇懃(いんぎん)挨拶(あいさつ)(なが)(おく)()れて()く。
021英子姫(ひでこひめ)総務(そうむ)さま、022よく()(くだ)さいました。023只今(ただいま)玉照彦(たまてるひこ)(さま)024玉照姫(たまてるひめ)(さま)()命令(めいれい)(くだ)りましたので、025貴方(あなた)にお(つた)(いた)さねばならぬ(こと)出来(でき)ました。026早速(さつそく)()(くだ)さいまして満足(まんぞく)(おも)ひます』
027 東助(とうすけ)はスボツコスボッコ…京都地方の方言で「無愛想」の意。口調(くてう)で、
028東助教主(けうしゆ)(さま)029(なに)急用(きふよう)でも(おこ)りましたか』
030英子姫(ひでこひめ)『はい、031(べつ)(たい)した急用(きふよう)でも御座(ござ)いませぬが二柱(ふたはしら)神司(かむつかさ)のお言葉(ことば)には、032貴方(あなた)はこれより秋彦(あきひこ)(したが)へ、033フサの(くに)斎苑(いそ)(やかた)急行(きふかう)して(いただ)かねばなりませぬ。034御用(ごよう)(おもむき)今日(けふ)(ところ)では(わか)りませぬが、035(なん)でも素盞嗚(すさのをの)(みこと)(さま)貴方(あなた)(たい)()つての御用(ごよう)があるさうで御座(ござ)いますから、036何卒(どうぞ)(いち)(にち)(はや)()出立(しゆつたつ)(ねが)ひます。037()いては東助(とうすけ)(さま)038貴方(あなた)()()(さま)所在(ありか)(わか)つたさうで御座(ござ)いますナ、039そして(たか)……』
040()ひかけて(にはか)(くち)(つぐ)み、
041英子姫高砂島(たかさごじま)とやら筑紫島(つくしじま)にお()でで御座(ござ)いますとの(こと)(うけたま)はりましたが、042(じつ)にお目出度(めでた)御座(ござ)います。043(しか)るに貴方(あなた)総務(そうむ)役目(やくめ)(おも)んじ(あそ)ばし三十五(さんじふご)年前(ねんぜん)(わが)()にも()はないとか(あふ)せられたとかで、044玉照彦(たまてるひこ)045玉照姫(たまてるひめ)(さま)大変(たいへん)感心(かんしん)をして()られました。046(ひと)()ふも(さら)なり、047禽獣(きんじう)(はし)(いた)るまで(わが)()(こひ)しく(おも)はないものは御座(ござ)いますまい。048見上(みあ)(まを)したお(こころ)()つて、049二柱(ふたはしら)(さま)非常(ひじやう)()めて()られましたぞえ』
050東助(とうすけ)『いやもうお(はづ)かしい(こと)御座(ござ)います。051()はす(かほ)御座(ござ)いませぬ。052(いま)(まで)雪隠(せんち)饅頭(まんぢう)()(やう)(かほ)して()りましたが、053()んな(こと)がパツとしました以上(いじやう)054最早(もはや)総務(そうむ)(せき)(とど)まつて()(わけ)には(まゐ)りませぬ。055(なん)とかして総務(そうむ)()辞退(じたい)(まを)()いと今日(けふ)今日(けふ)とて思案(しあん)()れて()りました(ところ)へ、056秋彦(あきひこ)さまのお使(つかひ)057()るものも取敢(とりあへ)ずお(うかが)(いた)しました次第(しだい)御座(ござ)います。058(つい)ては(あふ)せに(したが)(いち)()(はや)聖地(せいち)をさり、059大神(おほかみ)(さま)のお指図(さしづ)(したが)ひ、060フサの(くに)斎苑(いそ)(やかた)(いそ)ぎませう』
061英子姫(ひでこひめ)早速(さつそく)()承知(しようち)有難(ありがた)御座(ござ)います。062二柱(ふたはしら)神司(かむつかさ)(さま)(さぞ)()満足(まんぞく)思召(おぼしめ)すで御座(ござ)いませう。063(しか)らば道中(だうちう)仕合(しあは)せよく……遠方(ゑんぱう)ですから何卒(どうぞ)()をつけてお()(くだ)さいませ……これ秋彦(あきひこ)064(まへ)()()(どく)ですが総務(そうむ)さまのお(とも)をしてフサの(くに)()()(くだ)さいや』
065秋彦(あきひこ)(ねが)うてもなき()命令(めいれい)066こんな(うれ)しい(こと)御座(ござ)いませぬ。067(また)もや大神(おほかみ)(さま)(した)しく()面会(めんくわい)(かな)ふかと(おも)へば、068(なん)とも()へぬ心持(こころもち)御座(ござ)います。069()うマア沢山(たくさん)幹部(かんぶ)御座(ござ)いますのに、070(わたくし)(ごと)きを(えら)んで(くだ)さいました。071これと()ふも貴女(あなた)(さま)のお引立(ひきたて)072(あつ)(おん)(れい)申上(まをしあ)げます』
073英子姫(ひでこひめ)左様(さやう)なれば機嫌(きげん)よう()()(くだ)さいませ』
074東助(とうすけ)(しか)らば玉照彦(たまてるひこ)(さま)075玉照姫(たまてるひめ)(さま)にお(いとま)申上(まをしあ)げて(まゐ)りませう』
076英子姫(ひでこひめ)(いま)(にしき)(みや)八尋殿(やひろどの)へお()(くだ)されば、077二柱(ふたはしら)(さき)神前(しんぜん)にてお待受(まちう)けで御座(ござ)いますから(わたくし)(すぐ)八尋殿(やひろどの)(まゐ)りませう』
078東助(とうすけ)左様(さやう)なればお(とも)をさして(いただ)きませう』
079()(なが)ら、080紫姫(むらさきひめ)081秋彦(あきひこ)諸共(もろとも)英子姫(ひでこひめ)(あと)(したが)八尋殿(やひろどの)(のぼ)()く。
082 八尋殿(やひろどの)正面(しやうめん)高座(かうざ)には玉照彦(たまてるひこ)083玉照姫(たまてるひめ)二柱(ふたはしら)莞爾(くわんじ)として()(にん)(きた)るを()たせ(たま)ひつつあつた。084これより玉照彦(たまてるひこ)085玉照姫(たまてるひめ)神司(かむつかさ)(はじ)英子姫(ひでこひめ)086紫姫(むらさきひめ)087東助(とうすけ)088秋彦(あきひこ)神前(しんぜん)(ちか)(すす)()り、089大神(おほかみ)祈願(きぐわん)()らし長途(ちやうと)無事(ぶじ)(いの)りたる(うへ)090二柱(ふたはしら)神司(かむつかさ)()づから東助(とうすけ)091秋彦(あきひこ)神酒(みき)(たま)(なが)ら、
092玉照彦(たまてるひこ)東助殿(とうすけどの)093何卒(どうぞ)()無事(ぶじ)で……』
094玉照姫(たまてるひめ)()神業(しんげふ)()奉仕(ほうし)なさるやう……』
095英子姫(ひでこひめ)(かみ)かけて(いの)ります』
096紫姫(むらさきひめ)何卒(どうぞ)(はや)御用(ごよう)()ませ、097()無事(ぶじ)にお(かへ)(あそ)ばす()をお()(まを)して()ります』
098 東助(とうすけ)神前(しんぜん)にて(うた)ふ。
099東助二柱(ふたはしら)(かみ)(つかさ)御言(みこと)もて
100斎苑(いそ)(やかた)()くぞ(うれ)しき
101素盞嗚(すさのをの)(かみの)(みこと)神館(かむやかた)
102()して()()(たの)しかりけり
103いざさらば(にしき)(みや)()()でて
104大海原(おほうなばら)()えて(すす)まむ
105諸々(もろもろ)教司(をしへつかさ)信徒(まめひと)
106(わか)れて(われ)(とほ)()くなり』
107英子姫(ひでこひめ)(とり)()東野別(あづまのわけ)神司(かむつかさ)
108(さち)あれかしと(われ)(いの)らむ』
109東助(とうすけ)(いにしへ)(わが)()如何(いか)()らすらむ
110()(はづ)かしき(つみ)()(うへ)
111英子姫(ひでこひめ)(この)(ごろ)のしるべ()しとも大神(おほかみ)
112由緒(ゆかり)ある(ひと)雄々(をを)しかりけり』
113紫姫(むらさきひめ)東別神(あづまわけかみの)(みこと)草枕(くさまくら)
114(たび)(おも)ひて(われ)(うれ)しき
115秋彦(あきひこ)(かみ)(つかさ)何処(どこ)までも
116(こころ)(そそ)ぎて御供(みとも)(つか)へよ』
117秋彦(あきひこ)『いざさらば(われ)聖地(せいち)()()でて
118東野別(あづまのわけ)(とも)(つか)へむ』
119玉照彦(たまてるひこ)千早振(ちはやぶ)(かみ)(めぐみ)(ふか)ければ
120大海原(おほうなばら)もつつむ(こと)なし』
121玉照姫(たまてるひめ)(たま)()はふ(かみ)(めぐみ)にやすやすと
122大海原(おほうなばら)(わた)()(きみ)
123東助(とうすけ)有難(ありがた)(かみ)御言(みこと)(かかぶ)りて
124(すす)()かなむ(かみ)御許(みもと)へ』
125(たがひ)(うた)()(かは)(なが)ら、126(よろこ)(いさ)んで旅装(りよさう)(ととの)へ、127(この)(たび)(みち)(みなみ)にとり、128明石(あかし)(みなと)より淡路島(あはぢしま)(わが)(やかた)()ちより、129百合(ゆり)(かた)(しば)(いとま)()げ、130秋彦(あきひこ)(ほか)(わが)()(いへ)()二三(にさん)(ともな)(なみ)(うへ)(すべ)つて月日(つきひ)(かさ)ね、131フサの(くに)のタルの(みなと)上陸(じやうりく)し、132ウブスナ(やま)斎苑(いそ)(やかた)()して(すす)()(こと)となつた。
133 これは英子姫(ひでこひめ)慈悲心(じひしん)によつて東助(とうすけ)立場(たちば)(おもんばか)り、134フサの(みやこ)急用(きふよう)ありとて()(つか)はしなば、135(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)(よろこ)(たま)ひて片腕(かたうで)となし(たま)ひ、136()斎苑(いそ)(やかた)参詣(まゐまう)()建日館(たけひやかた)建国別(たけくにわけ)137建能姫(たけのひめ)()せずして面会(めんくわい)せしめむとの(はか)らひであつた。138さうして東助(とうすけ)聖地(せいち)をさりし(あと)竜国別(たつくにわけ)総務(そうむ)となりて聖地(せいち)(まも)(こと)となりにける。
139
140 東助(とうすけ)聖地(せいち)()りし(こと)(ゆめ)にも()らぬ高姫(たかひめ)は、141夏彦(なつひこ)使(つかひ)によつて教主(けうしゆ)英子姫(ひでこひめ)(やかた)出頭(しゆつとう)した。
142高姫(たかひめ)『お(はや)御座(ござ)います。143今朝(けさ)夏彦(なつひこ)さまを(もつ)てお(まね)(くだ)さいまして有難(ありがた)御座(ござ)います。144(なに)(かは)つた御用(ごよう)でも出来(でき)たので御座(ござ)いますかな』
145英子姫(ひでこひめ)『それは()くこそ()入出(いで)(くだ)さいました。146玉照彦(たまてるひこ)147玉照姫(たまてるひめ)(さま)()命令(めいれい)御座(ござ)いますが、148貴女(あなた)(さま)()苦労(くらう)(なが)ら、149これから(しばら)生田(いくた)(もり)()つて()守護(しゆご)(ねが)はねばなりませぬ。150さうして東助(とうすけ)(さま)(いま)はフサの(くに)へお使(つか)ひにお()でになりましたから、151淡路島(あはぢしま)方面(はうめん)(まも)つて(いただ)かねばなりませぬ』
152高姫(たかひめ)『ハイ、153(かしこ)まりまして御座(ござ)います。154()命令(めいれい)とあれば何処(どこ)へなりとも(まゐ)ります。155さうして総務(そうむ)(さま)はフサの(くに)何時(いつ)(いで)になりましたか』
156英子姫(ひでこひめ)『ハイ、157昨日(きのふ)夕方(ゆふがた)此処(ここ)()たれました』
158 高姫(たかひめ)はサツと(かほ)(いろ)()へた。159されど素知(そし)らぬ(かほ)をよそほひ、
160高姫『アヽ左様(さやう)御座(ござ)いましたか。161遠方(ゑんぱう)()苦労(くらう)御座(ござ)いますな』
162英子姫(ひでこひめ)(この)()(なか)何事(なにごと)(かみ)(さま)にお(まか)せするより仕方(しかた)はありませぬ。163何程(なにほど)人間(にんげん)があせつても()(やう)にほか()りませぬからな』
164高姫(たかひめ)生田(いくた)(もり)には玉能姫(たまのひめ)165国玉別(くにたまわけ)166駒彦(こまひこ)()られるぢやございませぬか』
167英子姫(ひでこひめ)『ハイ、168彼処(あこ)には(りう)(きう)との宝玉(ほうぎよく)(をさ)まり、169国玉別(くにたまわけ)夫婦(ふうふ)(まも)つて()りますが、170神界(しんかい)都合(つがふ)()つて(きう)(たま)()(くに)(はな)(じま)(をさ)めに()かねばなりませぬ。171(つい)ては生田(いくた)(もり)(りう)宝玉(ほうぎよく)(まつ)り、172()守護(しゆご)(いた)さねばならないので御座(ござ)います。173(この)()守護(しゆご)高姫(たかひめ)(さま)にお(ねが)(いた)さねばならないのですから、174()苦労(くらう)(なが)佐田彦(さだひこ)(とも)()出張(しゆつちやう)(ねが)ひます。175貴女(あなた)がお(いで)になれば国玉別(くにたまわけ)176玉能姫(たまのひめ)()()けて()(こと)になつて()ますから……』
177高姫(たかひめ)(ねが)うてもなき有難(ありがた)()命令(めいれい)178(つつし)んでお()けを(いた)します』
179(にはか)欣々(いそいそ)とし(そで)()ばたきし(なが)立上(たちあが)り、
180高姫(たかひめ)『サア、181佐田彦(さだひこ)182(まへ)結構(けつこう)だよ、183(はや)準備(こしらへ)なさいませ。184愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して()ると東助(とうすけ)さまが……否々(いやいや)国玉別(くにたまわけ)さまがお()()ねですから……』
185(あわ)てて()()でむとする。
186英子姫(ひでこひめ)一寸(ちよつと)()(くだ)さいませ。187()神前(しんぜん)にて道中(だうちう)()無事(ぶじ)(いの)りし(うへ)()神酒(みき)(いただ)いて()(いで)(くだ)さいませ。188東助(とうすけ)(さま)()神酒(みき)(いただ)秋彦(あきひこ)()れて生田(いくた)(もり)をさして()かれました』
189高姫(たかひめ)『ハイ、190有難(ありがた)う。191(なに)()うても内地(ないち)(こと)御座(ござ)いますから、192神界(しんかい)御用(ごよう)一刻(いつこく)猶予(いうよ)出来(でき)ませぬ。193何卒(どうぞ)貴女(あなた)(かは)つて()祈願(きぐわん)して(くだ)さい……コレ佐田彦(さだひこ)194(はや)()(あが)りなさらぬか』
195英子姫(ひでこひめ)言葉(ことば)碌々(ろくろく)(みみ)にも()れず(あわ)てふためき内心(ないしん)は……生田(いくた)(もり)東助(とうすけ)(とま)つて()るだらうから愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してはフサの(くに)()かれた(あと)(まつ)り、196(いま)一言(ひとこと)()つても()たい、197()うても見度(みた)い……と()(こころ)がムラムラと(おこ)りし(ため)198()()でなく(あわ)()して、199(とき)(うつ)さず旅装(りよさう)(ととの)へ、200須知山(しゆちやま)(たうげ)()()え、201(あし)(はや)めて生田(いくた)(もり)へと(いそ)()く。
202大正一一・九・一九 旧七・二八 北村隆光録)
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