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第53巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 毘丘取颪
01 春菜草
〔1364〕
02 蜉蝣
〔1365〕
03 軟文学
〔1366〕
04 蜜語
〔1367〕
05 愛縁
〔1368〕
06 気縁
〔1369〕
07 比翼
〔1370〕
08 連理
〔1371〕
09 蛙の腸
〔1372〕
第2篇 貞烈亀鑑
10 女丈夫
〔1373〕
11 艶兵
〔1374〕
12 鬼の恋
〔1375〕
13 醜嵐
〔1376〕
14 女の力
〔1377〕
15 白熱化
〔1378〕
第3篇 兵権執着
16 暗示
〔1379〕
17 奉還状
〔1380〕
18 八当狸
〔1381〕
19 刺客
〔1382〕
第4篇 神愛遍満
20 背進
〔1383〕
21 軍議
〔1384〕
22 天祐
〔1385〕
23 純潔
〔1386〕
余白歌
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第五章
愛縁
(
あいえん
)
〔一三六八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻
篇:
第1篇 毘丘取颪
よみ(新仮名遣い):
びくとりおろし
章:
第5章 愛縁
よみ(新仮名遣い):
あいえん
通し章番号:
1368
口述日:
1923(大正12)年02月12日(旧12月27日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月8日
概要:
舞台:
ビクトリヤ城
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ヒルナ姫から急使を受けた左守キュービットは、いそいで衣服を整え伺候した。ヒルナ姫は、左守の息子ハルナと、右守の妹カルナ姫の縁談をもちかけ、国内を統一するためにこの縁談を受けてほしいとキュービットに伝えた。
キュービットは元より望んでいた縁談であり、承諾すると準備を整えるために館に戻っていいった。一方ヒルナ姫は、ビクトリヤ王にこの件を報告に行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2017-12-03 23:16:02
OBC :
rm5305
愛善世界社版:
56頁
八幡書店版:
第9輯 524頁
修補版:
校定版:
60頁
普及版:
30頁
初版:
ページ備考:
001
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
の
急使
(
きふし
)
によつて
左守司
(
さもりのかみ
)
キユービツトは
倉皇
(
さうくわう
)
として
衣紋
(
えもん
)
を
整
(
ととの
)
へ
恭
(
うやうや
)
しく
伺候
(
しこう
)
した。
002
左守
(
さもり
)
『キユービツトがお
招
(
まね
)
きによつて
急
(
いそ
)
ぎ
参上
(
さんじやう
)
仕
(
つかまつ
)
りました。
003
御用
(
ごよう
)
の
趣
(
おもむき
)
仰
(
おほ
)
せ
聞
(
き
)
け
下
(
くだ
)
されますれば
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます』
004
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『キユービツト、
005
其方
(
そなた
)
に
折入
(
をりい
)
つて
急
(
きふ
)
に
相談
(
さうだん
)
致
(
いた
)
したい
事
(
こと
)
があるのだ。
006
そこは
端近
(
はしぢか
)
、
007
近
(
ちか
)
う
寄
(
よ
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
008
左守
(
さもり
)
『はい、
009
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
う
厶
(
ござ
)
いますが、
010
御
(
おん
)
仰
(
おほ
)
せ
否
(
いな
)
み
難
(
がた
)
く
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
します』
011
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
姫
(
ひめ
)
の
三尺
(
さんじやく
)
許
(
ばか
)
り
前
(
まへ
)
まで
進
(
すす
)
み
出
(
い
)
でた。
012
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
は
声
(
こゑ
)
を
低
(
ひく
)
うして
四辺
(
あたり
)
に
心
(
こころ
)
を
配
(
くば
)
り
乍
(
なが
)
ら、
013
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『ヤ、
014
左守殿
(
さもりどの
)
、
015
外
(
ほか
)
でもないが
其方
(
そなた
)
の
息子
(
むすこ
)
ハルナ
殿
(
どの
)
に
嫁
(
よめ
)
を
与
(
あた
)
へ
度
(
た
)
いと
思
(
おも
)
ふのだがお
受
(
う
)
けをなさるかな』
016
左守
(
さもり
)
『これはこれは
思
(
おも
)
ひもよらぬ
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
、
017
左守
(
さもり
)
身
(
み
)
にとつて
有難
(
ありがた
)
き
幸福
(
しあわせ
)
に
存
(
ぞん
)
じます。
018
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
ばかりは
本人
(
ほんにん
)
と
本人
(
ほんにん
)
との
意志
(
いし
)
が
疎通
(
そつう
)
せなくては、
019
本人
(
ほんにん
)
以外
(
いぐわい
)
の
私
(
わたくし
)
が
何程
(
なにほど
)
親
(
おや
)
だと
云
(
い
)
つても
直様
(
すぐさま
)
お
答
(
こたへ
)
する
訳
(
わけ
)
には
参
(
まゐ
)
りませぬ。
020
今日
(
こんにち
)
は
凡
(
すべ
)
て
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
昔
(
むかし
)
と
変
(
かは
)
り
夫婦
(
ふうふ
)
関係
(
くわんけい
)
に
就
(
つ
)
いても
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
に
就
(
つ
)
いても、
021
恋愛
(
れんあい
)
其
(
その
)
ものを
基礎
(
きそ
)
とせなくては
可
(
い
)
かない
事
(
こと
)
になつて
居
(
を
)
りまする。
022
夫婦
(
ふうふ
)
仲良
(
なかよ
)
く
暮
(
くら
)
して
呉
(
く
)
れるのが
所謂
(
いはゆる
)
親孝行
(
おやかうかう
)
でもあり、
023
凡
(
すべ
)
ての
事業
(
じげふ
)
のためでもあります。
024
人間
(
にんげん
)
生活
(
せいくわつ
)
の
本来
(
ほんらい
)
としては、
025
如何
(
どう
)
しても
相思
(
さうし
)
の
男女
(
だんぢよ
)
が
結婚
(
けつこん
)
を
致
(
いた
)
さねば
親
(
おや
)
の
力
(
ちから
)
や
権力
(
けんりよく
)
で
圧迫
(
あつぱく
)
しても
到底
(
たうてい
)
末
(
すゑ
)
が
遂
(
と
)
げられないでせう。
026
親子
(
おやこ
)
が
衝突
(
しようとつ
)
したり、
027
夫婦
(
ふうふ
)
の
間
(
あひだ
)
に
悲劇
(
ひげき
)
の
起
(
おこ
)
るのも、
028
所謂
(
いはゆる
)
思想
(
しさう
)
上
(
じやう
)
の
誤謬
(
ごびう
)
と、
029
其
(
その
)
誤謬
(
ごびう
)
ある
思想
(
しさう
)
から
出来
(
でき
)
た
現代
(
げんだい
)
の
法則
(
はふそく
)
や
道徳
(
だうとく
)
や、
030
いろいろのものの
欠陥
(
けつかん
)
や、
031
不完全
(
ふくわんぜん
)
から
生
(
しやう
)
ずるものであります。
032
親
(
おや
)
の
言
(
い
)
ひ
条
(
でう
)
につき
親孝行
(
おやかうかう
)
せむがために
恋人
(
こひびと
)
と
添
(
そ
)
ひ
遂
(
と
)
げられなかつたり、
033
又
(
また
)
は
或
(
ある
)
事情
(
じじやう
)
のために
生木
(
なまき
)
を
裂
(
さ
)
かれて
女
(
をんな
)
を
離別
(
りべつ
)
したりする
事
(
こと
)
は、
034
人間
(
にんげん
)
としては
断
(
だん
)
じて
真直
(
まつすぐ
)
な
生活
(
せいくわつ
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
035
此
(
この
)
問題
(
もんだい
)
は
篤
(
とく
)
と
考
(
かんが
)
へさして
頂
(
いただ
)
かねばなりませぬ』
036
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『そらさうですとも。
037
人間
(
にんげん
)
が
拵
(
こしら
)
へた
金銭
(
きんせん
)
財宝
(
ざいはう
)
等
(
など
)
云
(
い
)
ふものが
邪魔
(
じやま
)
したり、
038
家族
(
かぞく
)
制度
(
せいど
)
に
欠点
(
けつてん
)
があつたり、
039
法律
(
はふりつ
)
が
不備
(
ふび
)
であつたり
又
(
また
)
は
周囲
(
しうゐ
)
の
人々
(
ひとびと
)
の
物
(
もの
)
の
考
(
かんが
)
へ
方
(
かた
)
に
時代
(
じだい
)
錯誤
(
さくご
)
があつたり、
040
或
(
あるひ
)
は
其処
(
そこ
)
に
野卑
(
やひ
)
下劣
(
げれつ
)
な
私欲
(
しよく
)
が
働
(
はたら
)
いたり、
041
種々
(
しゆじゆ
)
雑多
(
ざつた
)
の
理由
(
りいう
)
によつて、
042
人間
(
にんげん
)
的
(
てき
)
生活
(
せいくわつ
)
が
破壊
(
はくわい
)
されて、
043
純正
(
じゆんせい
)
の
恋愛
(
れんあい
)
其
(
その
)
ものは
忠孝
(
ちうかう
)
友誼
(
いうぎ
)
などの
為
(
ため
)
にも、
044
断
(
だん
)
じて
犠牲
(
ぎせい
)
とせらるべき
性質
(
せいしつ
)
のものではありませぬ。
045
忠信
(
ちうしん
)
孝貞
(
かうてい
)
、
046
何
(
いづ
)
れの
美
(
び
)
徳
(
とく
)
をとつて
見
(
み
)
ても
其
(
その
)
根底
(
こんてい
)
には
必
(
かなら
)
ず
大
(
だい
)
なる
ラブ
の
力
(
ちから
)
が
動
(
うご
)
いてゐるものです。
047
世間
(
せけん
)
に
沢山
(
たくさん
)
起
(
おこ
)
る
恋愛
(
れんあい
)
的
(
てき
)
悲劇
(
ひげき
)
について
深
(
ふか
)
く
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
ますと、
048
必
(
かなら
)
ず
舅
(
しうと
)
姑
(
しうとめ
)
の
不当
(
ふたう
)
の
跋扈
(
ばつこ
)
とか、
049
或
(
あるひ
)
は
金銭
(
きんせん
)
の
災
(
わざはひ
)
とか、
050
結婚
(
けつこん
)
当事者
(
たうじしや
)
の
無思慮
(
むしりよ
)
とか、
051
階級
(
かいきふ
)
制度
(
せいど
)
の
誤謬
(
ごびう
)
とか、
052
法律
(
はふりつ
)
制度
(
せいど
)
の
不完全
(
ふくわんぜん
)
とか、
053
何
(
なん
)
とかかんとか
云
(
い
)
つて、
054
真
(
しん
)
に
人間
(
にんげん
)
としては
其
(
その
)
本質
(
ほんしつ
)
的
(
てき
)
でない
事柄
(
ことがら
)
が
多
(
おほ
)
く
禍根
(
くわこん
)
をなしてゐる
事
(
こと
)
を
発見
(
はつけん
)
するものであります。
055
それ
故
(
ゆゑ
)
互
(
たがひ
)
に
諒解
(
りやうかい
)
のない
結婚
(
けつこん
)
を
強圧
(
きやうあつ
)
的
(
てき
)
に
強
(
しひ
)
るのは、
056
実
(
じつ
)
に
危険
(
きけん
)
千万
(
せんばん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
057
此
(
この
)
ヒルナもよく
承知
(
しようち
)
してゐます。
058
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
059
妾
(
わらは
)
がハルナ
殿
(
どの
)
に
嫁
(
よめ
)
を
貰
(
もら
)
へとお
勧
(
すす
)
めするのは
決
(
けつ
)
して
政略
(
せいりやく
)
的
(
てき
)
でもなければ
強圧
(
きやうあつ
)
的
(
てき
)
でもなく、
060
又
(
また
)
御
(
ご
)
都合主義
(
つがふしゆぎ
)
でもありませぬ。
061
ハルナ
殿
(
どの
)
は
恋人
(
こひびと
)
の
右守司
(
うもりのかみ
)
の
妹
(
いもうと
)
カルナ
姫
(
ひめ
)
と
互
(
たがひ
)
に
ラブ
しあひ、
062
殆
(
ほと
)
んど
白熱化
(
はくねつくわ
)
せむとする
勢
(
いきほひ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
063
かくの
如
(
ごと
)
き
神聖
(
しんせい
)
な
恋愛
(
れんあい
)
を
等閑
(
とうかん
)
に
附
(
ふ
)
して
置
(
お
)
かうものなら
何時
(
いつ
)
心中
(
しんぢう
)
沙汰
(
ざた
)
が
突発
(
とつぱつ
)
するか
分
(
わか
)
りますまい。
064
さすれば
左守
(
さもり
)
、
065
右守
(
うもり
)
両家
(
りやうけ
)
の
恥辱
(
ちじよく
)
のみならず
妾
(
わらは
)
等
(
たち
)
の
恥
(
はぢ
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
066
災
(
わざはひ
)
を
未然
(
みぜん
)
に
防
(
ふせ
)
ぎ
完全
(
くわんぜん
)
なるラブを
遂行
(
すゐかう
)
せしめ、
067
両家
(
りやうけ
)
の
和合
(
わがふ
)
を
図
(
はか
)
り、
068
国家
(
こくか
)
を
泰山
(
たいざん
)
の
安
(
やす
)
きに
置
(
お
)
かむとする
一挙
(
いつきよ
)
両得
(
りやうとく
)
の
美挙
(
びきよ
)
だと
考
(
かんが
)
へます。
069
左守殿
(
さもりどの
)
妾
(
わらは
)
の
言葉
(
ことば
)
に
無理
(
むり
)
が
厶
(
ござ
)
いますか』
070
左守
(
さもり
)
『はい、
071
実
(
じつ
)
に
新
(
あたら
)
しき
新空気
(
しんくうき
)
を
注入
(
ちうにふ
)
して
頂
(
いただ
)
きまして、
072
この
古
(
ふる
)
い
頭
(
あたま
)
も
何
(
なん
)
だか
甦
(
よみがへ
)
つた
様
(
やう
)
な
心持
(
こころもち
)
が
致
(
いた
)
します。
073
成程
(
なるほど
)
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
のお
説
(
せつ
)
の
通
(
とほ
)
り、
074
私
(
わたくし
)
もウロウロ
其
(
その
)
消息
(
せうそく
)
を
聞
(
き
)
かぬでも
厶
(
ござ
)
いませぬが、
075
余
(
あま
)
りの
事
(
こと
)
で、
076
貴女
(
あなた
)
に
申上
(
まをしあ
)
ぐるも
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
いと、
077
今日
(
けふ
)
迄
(
まで
)
秘密
(
ひみつ
)
にして
居
(
を
)
りましたが、
078
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
にそれ
迄
(
まで
)
お
分
(
わか
)
りになつて
居
(
を
)
れば、
079
何
(
なに
)
をか
隠
(
かく
)
しませう。
080
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
伜
(
せがれ
)
のハルナはリーベ・ライにのみ
頭
(
あたま
)
を
痛
(
いた
)
め、
081
殆
(
ほと
)
んど
神経
(
しんけい
)
衰弱
(
すゐじやく
)
に
陥
(
おちい
)
つてる
様
(
やう
)
な
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
082
親
(
おや
)
として
一人
(
ひとり
)
の
伜
(
せがれ
)
、
083
その
恋
(
こひ
)
を
遂
(
と
)
げさしてやり
度
(
た
)
いとは
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
りましたが、
084
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても、
085
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
や
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
のお
許
(
ゆる
)
しがなくては
取行
(
とりおこな
)
ふ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませず、
086
況
(
ま
)
して
右守司
(
うもりのかみ
)
の
妹
(
いもうと
)
とある
以上
(
いじやう
)
は
口
(
くち
)
に
頬張
(
ほほば
)
つてお
願
(
ねがひ
)
する
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
なかつたので
厶
(
ござ
)
います。
087
何卒
(
なにとぞ
)
何分
(
なにぶん
)
にも
宜
(
よろ
)
しく
御
(
お
)
執成
(
とりな
)
しをお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
088
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『
流石
(
さすが
)
は
左守殿
(
さもりどの
)
、
089
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
、
090
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
満足
(
まんぞく
)
に
思
(
おも
)
ふぞや』
091
左守
(
さもり
)
『はい、
092
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
093
貴女
(
あなた
)
が
満足
(
まんぞく
)
して
下
(
くだ
)
されば
定
(
さだ
)
めて
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
も
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
下
(
くだ
)
さるでせう。
094
次
(
つぎ
)
に
此
(
この
)
左守
(
さもり
)
も
満足
(
まんぞく
)
、
095
伜
(
せがれ
)
も
嘸
(
さぞ
)
満足
(
まんぞく
)
を
致
(
いた
)
すで
厶
(
ござ
)
いませう』
096
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『
左守殿
(
さもりどの
)
、
097
其方
(
そなた
)
も
妾
(
わらは
)
が
何時
(
いつ
)
も
心配
(
しんぱい
)
して
居
(
を
)
つたが、
098
新旧
(
しんきう
)
思想
(
しさう
)
の
衝突
(
しようとつ
)
で、
099
右守殿
(
うもりどの
)
と
暗闘
(
あんとう
)
が
絶
(
た
)
えなかつた
様
(
やう
)
だが、
100
之
(
これ
)
にて
両家
(
りやうけ
)
和合
(
わがふ
)
の
曙光
(
しよくわう
)
を
認
(
みと
)
め、
101
従
(
したが
)
つて
城内
(
じやうない
)
の
政治
(
せいぢ
)
も
完全
(
くわんぜん
)
に
行
(
おこな
)
はれるでせう。
102
政略
(
せいりやく
)
上
(
じやう
)
から
云
(
い
)
つても、
103
恋愛
(
れんあい
)
至上
(
しじやう
)
主義
(
しゆぎ
)
から
云
(
い
)
つても、
104
間然
(
かんぜん
)
する
所
(
ところ
)
なき、
105
願
(
ねが
)
うてもなき
縁談
(
えんだん
)
ぢや。
106
之
(
これ
)
でビクトリヤの
国家
(
こくか
)
もビクとも
致
(
いた
)
しますまい。
107
ああ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
、
108
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんのう
)
塩長彦
(
しほながひこの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
!』
109
左守
(
さもり
)
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
110
重々
(
ぢゆうぢゆう
)
の
御
(
お
)
心尽
(
こころづく
)
し、
111
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます。
112
何卒
(
なにとぞ
)
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
に
早
(
はや
)
く
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
よりお
話
(
はな
)
し
下
(
くだ
)
さいまして、
113
此
(
この
)
縁談
(
えんだん
)
整
(
ととの
)
ひます
様
(
やう
)
お
執成
(
とりなし
)
願
(
ねが
)
ひまする』
114
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『
心配
(
しんぱい
)
なさるな。
115
屹度
(
きつと
)
整
(
ととの
)
へて
見
(
み
)
せませう。
116
其方
(
そなた
)
の
覚悟
(
かくご
)
がきまつた
上
(
うへ
)
は
直様
(
すぐさま
)
此
(
この
)
縁談
(
えんだん
)
に
取掛
(
とりかか
)
ります。
117
一時
(
いちとき
)
も
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つて
御
(
ご
)
準備
(
じゆんび
)
を
願
(
ねが
)
ひます。
118
善
(
ぜん
)
は
急
(
いそ
)
げと
申
(
まを
)
しますからな』
119
左守
(
さもり
)
『はい、
120
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
121
左様
(
さやう
)
ならば』
122
と
叮嚀
(
ていねい
)
に
礼
(
れい
)
を
施
(
ほどこ
)
し
欣々
(
いそいそ
)
として
己
(
おの
)
が
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
123
後
(
あと
)
にヒルナ
姫
(
ひめ
)
は
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
ニコニコ
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
124
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『あ、
125
之
(
これ
)
にて
両家
(
りやうけ
)
の
縺
(
もつ
)
れもスツパリと
和解
(
わかい
)
するだらう。
126
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
は
七十路
(
ななそぢ
)
を
越
(
こ
)
えた
御
(
ご
)
老体
(
らうたい
)
なり、
127
何時
(
なんどき
)
お
国替
(
くにがへ
)
遊
(
あそ
)
ばすか
人命
(
じんめい
)
の
程
(
ほど
)
は
図
(
はか
)
り
知
(
し
)
れない。
128
後
(
あと
)
を
継
(
つ
)
ぐべき
御
(
お
)
子
(
こ
)
様
(
さま
)
がないのだから、
129
俄
(
にはか
)
に
御
(
ご
)
帰幽
(
きいう
)
にでもなれば、
130
忽
(
たちま
)
ち
左守
(
さもり
)
、
131
右守
(
うもり
)
両家
(
りやうけ
)
の
争
(
あらそ
)
ひが
勃発
(
ぼつぱつ
)
し、
132
之
(
これ
)
を
治
(
をさ
)
むべき
重鎮
(
ぢうちん
)
なる
人物
(
じんぶつ
)
がなくなつて
了
(
しま
)
ふ。
133
さうすれば
国家
(
こくか
)
の
滅亡
(
めつぼう
)
も
眼前
(
がんぜん
)
にありと
心
(
こころ
)
も
心
(
こころ
)
ならず
今日
(
けふ
)
迄
(
まで
)
暮
(
く
)
れて
来
(
き
)
たが、
134
此
(
この
)
結婚
(
けつこん
)
がうまく
行
(
い
)
つて
両家
(
りやうけ
)
和合
(
わがふ
)
せば
仮令
(
たとへ
)
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
他界
(
たかい
)
になつても
最早
(
もはや
)
大磐石
(
だいばんじやく
)
だ。
135
右守
(
うもり
)
、
136
左守司
(
さもりのかみ
)
を
率
(
ひき
)
ゐて、
137
女
(
をんな
)
乍
(
なが
)
らも
女王
(
ぢよわう
)
となり、
138
此
(
この
)
国家
(
こくか
)
を
治
(
をさ
)
める
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るだらう。
139
それに
就
(
つ
)
いても
困
(
こま
)
つたのは
右守司
(
うもりのかみ
)
だ。
140
アアア、
141
残念
(
ざんねん
)
な
事
(
こと
)
を
妾
(
わらは
)
もしたものだな。
142
一
(
ひと
)
つ
逃
(
のが
)
れて
又
(
また
)
一
(
ひと
)
つ、
143
右守司
(
うもりのかみ
)
と
手
(
て
)
をきる
事
(
こと
)
は
実
(
じつ
)
に
難事中
(
なんじちう
)
の
難事
(
なんじ
)
だ。
144
ホンにままならぬ
浮世
(
うきよ
)
だなア』
145
と
吐息
(
といき
)
を
洩
(
も
)
らし
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れてゐる。
146
(
大正一二・二・一二
旧一一・一二・二七
於竜宮館
北村隆光
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
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