刹帝利、タルマン、左守キュービット、新任右守エクス、左守の息子ハルナは、王の居間に集まってバラモン軍の急な退却について憶測談にふけっていた。
一同は、ヒルナ姫とカルナ姫が、両将軍を操って、ビク国に永遠に害が及ばないようにバラモン軍を別の場所に移動させたのだろうと考えた。そしてビク国からバラモン軍を退却させた以上、二女はもう国に戻ってくることはないだろうと推察した。
一同は二女の忠義に感じ入り、刹帝利もハルナも、もう二度と彼女たち以外に妻を持つことはないだろうと決意を新たにした。
そこへ牢番が、逆臣シエールが脱獄したと報告しに来た。一同は、シエールがベルツと合流したら、またしても反逆を企てるに違いないと心配し、右守エクスはベルツ・シエールの動向を探るために密偵を放った。
ベルツは山奥に譜代の家来を集めて立て籠もり、機をうかがっていた。そこへバラモン軍が退却したとの報を聞き、道々農民を徴発して三千人ものにわか軍隊を集め、ビク国の王城に迫ってきた。
ビクの王城には、先のバラモン軍侵攻の敗戦から、代々右守に仕えた武士たちがわずか八百名残っているだけであった。刹帝利をはじめ、この状況に苦慮していた。
ハルナは厳然として立ち上がり、自分は夜な夜な乞食や平民に身をやつして兵営を見回っていたが、今王城を守っている武士たちはみな忠義一途の者たちばかりで、ベルツの悪業を憎んでおり、裏切るものは一人もないだろうと報告した。
そのため兵力を考慮して籠城を選択することを進言し、自ら指揮官に任じてほしいと刹帝利に申し出た。
父の左守はハルナの申し出を退け、未来ある若者は王を守って将来に備え、自分と右守が軍を率いて敵に当たるべきだと進言した。刹帝利も一度は左守の策を取ったが、ハルナは自分の策を取らなければ国が危ういとして、刹帝利に人払いを願い出た。
刹帝利が願いを容れて人払いすると、ハルナは、実は自分は昨夜神王の森に参拝して国家安泰を祈っていたところ、盤古神王ではなく神素盞嗚尊が現れ給い、籠城して敵に当たれば不思議の援軍が現れ、またヒルナ姫・カルナ姫も戻って背後から助けるだろう、と策を授けたことを明かした。
刹帝利はハルナの言に偽り無きことを見てとり、また神素盞嗚尊が授けたもうた籠城策に感じ、ハルナに臨時兵馬権の全権を委任した。